呪いとクズと私な俺   作:ロリコンじゃないけどロリお姉さんいいよね

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性癖に素直になりたかった息抜きです……


人を信じると痛い目を見る

 ――どうしてこうなった?

 

「よお、嬢ちゃん……かわいい顔してるじゃねぇか……」

「おいおい、手ぇ出したら値が下がるだろ」

 いかにもチンピラという風体の男たちに取り囲まれる少女――は俺だ。

 男として生まれ、男として普通にいい感じに嫁さんもらって幸せに暮らせると思っていただけに、この状況は気が狂いそうなほど恐怖と嫌悪しかない。

 もっと魔法の勉強をしておけばよかった……と非力な女の体を嘆きながらこれから自分がどんな目に合うのか想像して身震いする。嫌だ、それだけは嫌だ。比喩とかではなく死んでしまう。

 そんな絶望的な状況に光が差したような声が響く。

 

「そこの下っ端ども。遊び相手がほしいなら私が相手をしてやろう」

 

 いつだって鮮明に思い出せる。見上げた先には風で揺れる外套。フードで隠れているものの表情は気高さと幼さが同居したような凛としたものが伺えた。声は少年のようだというのにその背丈からまだ子供であることがわかるのも目を引く要素だ。中性的なその出で立ちも、何もかもが整っており、一言で表すなら世界が変わったと思えるほどの衝撃。こんなにも、心が揺さぶられるような人は見たことがなかった。

「げっ!? 自警団がきやがった!」

「しかもありゃボスだ! 相手にならねぇ!」

 慌てふためくチンピラたちは二種類に別れた。一つは突然現れた謎の幼い人物……自警団のボス、ということで合っているだろうか。その人を見るなりすぐさま逃げ出した。

 そして残ったチンピラたちはあれくらいどうにかできるという自信の元、俺を人質にして自警団のボスを煽る。

「ちょっとばかし有名人みてぇだがお前みたいなチビ――」

 

「そうか、無謀だな」

 

 言い終える前に、ボスとやらはチンピラの背後にいつの間にか降り立っており、ため息とともにチンピラたちが泡を吹いてその場に倒れてしまった。

「あまり実力行使は好きじゃないんだが……」

 腰を抜かしてしまった俺に気づいたその人は振り返って俺を見下ろす。その際にフードが落ちて曖昧だった顔や髪が露わになった。

 その人……彼女はとんでもなく愛らしい中性的な美少女だった。

「立てるか?」

 少しだけ微笑んで安心させるように手を伸ばしてきた少女に、俺はすっかり心を奪われていた。しかしそこに大きな問題が立ちはだかる。

 まるで俺の心が女になったかのように、俺の心は浮ついていた。

 

 

――――――――

 

 

 そもそもどうしてこんなことになったか。遡ること一週間前の出来事である。

 

 

 俺が住む小さな村は正式な名前もないほどの小さな集落で地名から取ってコーヤ村と呼ばれていた。

 基本的には穏やかで静かな、小さい村である。村人の八割がある問題を抱えているのだがそこは割愛しよう。

 そして俺ことケリーはその村でも数少ない若者の一人。両親は既に他界しており、妹と慎ましく二人で暮らしている。

「シニカが倒れたって!?」

 

 村で畑仕事をしていたら隣の家のおばちゃんが慌てて医者と俺を呼びにきた。

 妹のシニカは歳が3つ離れたかわいい妹で少し兄離れができていないことが欠点だ。

 そんなシニカが倒れたというんだから慌てるのも当然だろう。医者の診断を待つ間、生きた心地がしなかったが医者は少し渋い顔で俺に言った。

「これは間違いなく呪毒病だな」

 呪毒病とはこの国ではよくある病気で、呪いなどの瘴気にあてられて体に毒が溜まっていくものらしい。元々呪術師が多いのだから仕方がない。特にこの小さな村は呪いの瘴気が他より強いのだろう。基本的に目に見えて害もなく、被害もなかったのでずっと無視されていたのがこういう形で現れてしまった。

「治るんだよな……?」

「体を浄化する特効薬があればすぐにでも治る。それか腕利きの呪術師か解呪師を連れてくるか……」

「薬はここにはないのか?」

 医師は力なく首を横に振った。この小さな村ではとても用意できる代物ではないらしく、大きな街になら売っているだろうと。

「なら俺が薬を買ってくるよ。しばらくは大丈夫だよな?」

「高熱や頭痛などに苦しむことにはなるがすぐに死ぬようなものではないよ」

 ならば善は急げ。すぐさまここから一番近くて薬が入手できそうな町を確認した。

「よし、ドロップの町なら……」

「ドロップの町だと? あんな危険なところ、下手したら人売りに目をつけられるぞ」

 医師の忠告も最もだ。ドロップの町は大きい町だがギャングたち悪党が支配するこの国の掃き溜めとも言われる地域。

 特に、俺……いや、この村の人間の大半が悪党どものカモになりかねない。

「それでも一番確実なのはここしかない。他を探すってなったらそこにつくまでにもっと時間がかかっちまう」

 移動時間を考慮するなら多少危険でも賭けるしかないのだ。

「大丈夫。俺もう18だよ。チンピラくらいなら逃げ切れるさ」

 医師は仕方ないとため息を付きながら不在中は村の女手と一緒に様子を見ていてくれると約束してくれたので急いで近くの街まで向かう。そこに薬は置いていないだろうが念のための確認と、ドロップの町までの辻馬車探しだ。

 あるだけの金をかき集め、念の為換金できそうな親の遺品も荷物に詰めて熱で朦朧とするシニカに行ってくると一言声をかける。

「おにい、ちゃ……」

「大丈夫。兄ちゃん絶対薬見つけてくるから」

 そう軽く頭を撫ですぐに町まで出向き、ドロップの町につくまで一週間の時間を要した。

 最初は見るからにヤバそうな町なのかと不安ではあったが一見すると普通というか、特別おかしなところは見受けられない。

 噂が独り歩きしてるだけで実はそんなに治安が悪いわけではないのかもしれない。

 とりあえず一応注意しながら町の薬屋を探していると声をかけられた。

「君、よそから来た人? なにか探してるなら案内するよ」

 人の良さそうな女性だった。困っている俺の力になりたい、というオーラが溢れて見えるくらいに。そのオーラに油断していたのかあっさりと俺は返事をしてしまった。

「あの、薬屋を探しているんですけど……できれば町で一番大きな店を」

「薬屋かぁ。それならこの裏通りを真っ直ぐ行ってくる3つ目の角で左に行ったらしばらく真っ直ぐ行くと看板が見えるはずだよ」

 ついていこうか?と上目遣いで聞かれてドキッとしてしまう。よく見ると結構な美人だ。耳に髪をかける仕草も相まって魅力的な女性だと再確認する。

 

 そう、これが最初のやらかし。

 

 気づいたときにはもう遅く、体の違和感を察知するや否や「一人で大丈夫です!」とさっきより高めの声で断ると示された裏通りに駆け込んだ。

 物陰に隠れて落ち着こうと息を整えるために胸に手をやる。そう、そこには男ならないはずの膨らみ。

 男のときより一回りも二回りも小さくなった背。当然ながら顔も基本的には同じだが同一人物と信じてもらうのは困難だろう。

 ついさっきまで男であった俺はすっかり少女の体に変わっていた。服のサイズが合わなくなったこともあり少し動きづらい。

 これは呪いだ。自分では制御することのできない呪い。解く方法もわからず、まともに恋愛なんてすることすら難しいこの呪いは村の外に出ると改めて恐ろしいものだと思わされた。

 とりあえず落ち着いたし変化も止まったので薬屋へ向かおう。女になってから男に戻るのにはその時によって時間がまちまちなので男に戻るまで待っていられない。

 裏通りを進み、そろそろ言われた看板が見えるはず……と思ったら一向に見えてこない。曲がる場所を間違えたか?と振り返ると誰かに見られている気配がしてぞっとした。

 まさか、まさかと思うがこの町の噂を考えれば不思議ではない。

 最初からカモとして誘導されていたとしたら――

 人通りの多い場所に急がねばと駆け足になるが追ってくる気配は4、5……いや7。

 追いつかれたら間違いなく終わりだとわかっていても女の体は男のときより貧弱でか弱い。おまけに服がダボダボで走るのも遅いときた。入り組んだ裏通りを駆け回っていたらあっという間に息が切れ、曲がり角の先が行き止まりなことに気づいてこれも誘導されていたことを悟った。

 

 そして、下卑た笑みの男たちに抑えつけられた後に、自警団ボスに救われたのである。

 

 

 

 

「こんなところに迷い込むなんて旅行者か? うちの町は危ないって聞いてなかったか?」

 伸びてるチンピラを踏まないようにぴょんと跳んで俺に近づいてきて説教するボスとやらは怒っているわけではないが心配して注意を続ける。

「若い娘が一人で歩き回るのも自衛がなってない。俺がたまたま来なかったらどうするつもりだったんだ?」

「あ、ありがとうございます……その、道を聞いたらこうなって……」

「ああ、どうせ人のいい感じしたやつだろ? 仕込みだな」

 ですよねー。わかってはいたけどこの町危険が目に見えない分恐ろしい。

「それで、どこに向かうつもりだったんだ? ついでだ、案内しよう」

 い、一応助けてくれた人だし信用したいのだがさっきの今でさすがに不安になるのは仕方ないと思う。少し躊躇っているとニッと笑ったボスとやらが振り返る。

「おお、ちゃんと学習してるな。偉い偉い」

 背に手をやってポンポンと褒めるような言い方に見た目の幼さとは合わず大人っぽさを感じてまだドキドキしてしまう。

 とりあえず、表通りに出てから目的地を話すとそのまま表を通って進んだ先に薬屋があったので安堵して店に入ろうとして体の違和感が生じてぴたりと止まった。

「ん?」

 用が終わったとばかりに立ち去ろうとしていたボスが不思議に思ったのか俺に声をかけてくれる。俺はゆっくり体を起こすとようやく男の体に戻ることができて深く息を吐いた。

「ん? んんんん? 男、か?」

「あ、えっと、はい……」

「どっちが、その……本来の姿だ?」

 聞きづらいというか踏み込むべきか悩んでいる様子だがこのまで世話になった人だし変なことにはならないだろう。

「呪いでたまに女になってしまうだけで元は男です」

 呪い持ちというだけであまりいい印象ではないが俺の場合自分に非がないのに誤魔化しても仕方ない。

 それに俺だけではない。村の8割が俺と同じ呪いに侵されている。

「ふむ、呪いか……解呪のために薬でも買いに来たか?恐らくそれは治せないと思うが」

「いえ、薬は妹のためです」

 呪毒病のための特効薬を求めて一週間かけて町に来たことまで話してしまったが不思議とこの人はさっきの人と違って親切心というより興味という目を向けている。何か知っているかのようなそんな顔だ。

「ふむ、なら確かにこの店にはあるな。だが手持ちは足りるのか? あれ結構な値がするぞ」

 店の中に連れられてボスが店主に声をかけるとすぐに呪毒病の薬を出してくれる。しかし……

「じゅ、10万デニー!?」

 手持ちの貴金属を換金したらギリギリ届くかどうかの額だ。できれば親の遺品だから売りたくはなかったが換金できそうな場所に行くかと薬を取り置きしてもらおうとする。するとボスは財布からポンと金貨を並べてなんともない顔で言った。

「足りるだろ?」

 店主は釣りを用意しに一度バックヤードに下がっていき、俺はその間に慌ててボスに声をかけた。

「ちょ、ちょっとそんなことしなくてもいいですよ! 換金してくるので待っててくださ……」

「気にするな。それに、早いほうがいいからな」

 バックヤードから釣りを持ってきた店主から薬と釣りを受け取ってボスはそのまま俺を引き連れて別の場所へと向かう。そう遠くない場所にあるポストのマークがついた店は中に入ると眠たそうな女性が「いらっしゃーい」とのんびりした声を出した。

「えー、君の村、なんて名前だったかな」

「こ、コーヤ村ですけど……あの、ここは?」

「というわけでコーヤ村の医者にこれを届けてくれ。えーっと、名前は……」

 俺の質問に答えず、名前は?と促してくるので渋々「ケリーです」とだけ言うと伝票らしいものにさらさらとなにか書き込んで受付の眠たそうなお姉さんに薬と一緒に押し付けた。

「はーい。コースは?」

「スペシャルで頼む」

「はーい。相変わらず気前のいいことで〜」

 よいしょ、とお姉さんが立ち上がると軽く準備運動をして「じゃ」と言い残すとその場から消えてしまい、困惑してボスにここはなんなのか尋ねると意外そうな顔をされた。

「ん? 知らんのか? 田舎だとあまり世話になることもなさそうだしそれもそうか……」

「確かに田舎ですけど……それより薬――」

「ただいま戻りましたー」

 さっき消えたはずのお姉さんが一瞬で現れ、伝票のサインを俺とボスに見せてくる。

 間違いなく医者の見慣れた筆跡だ。仕組みはわからないがしっかりと受け渡しができたらしい。

「妹ももう大丈夫だろ。よかったな」

「あ、ありがとうございます……!」

 こんなによくしてもらえるなんて思ってもみなかったので思わず気持ちが昂ぶってしまう。が、当然ながらそうなると……

「ほう、女になるのはなにか条件があると思ったが結構緩いのか?」

 ボスの言葉にハッとして自分の体を見下ろすといつの間にか女になっていた。これだからこの呪いは嫌なのだ。感情を丸裸にするような可視化。恥ずかしくなって更に心が乱れる。

「さて、速達スペシャルコースの代金ですがー」

 のんびりとした受付のお姉さんが俺の姿の変化も気にする気配なく代金を徴収しようとトレーを置く。

「ドドドドド田舎の村っていうか集落レベルの辺境なんでー、追加料金含めて二十万デニーでーす」

 

 俺はこの町に来て一つ学んだ。

 

 どんなにいい人そうでも絶対に裏がある。そう、料金を聞いたときのボスのしてやったりというあの顔を見て悟った。

「そうかぁ、そんな高くつくとはなぁ。まあ俺は払えるが……」

「あ、あの……俺そもそも頼んでな……」

「そういえば、今人手が足りなくてなぁ……どこかに誠意ある若者はいないかなぁ……?」

 暗に脅迫されているような気がして嫌ですとも言えず、妹の件はもう心配ないのが更に姑息というか押しに弱いのを理解した上での行為に目眩がした。

 

 俺に選択肢はないようです。

 

 

 

 

 

 


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