呪いとクズと私な俺   作:ロリコンじゃないけどロリお姉さんいいよね

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話してるだけ


愉快な自警団にようこそ

 

「ここが我が自警団の拠点だ!」

 良心につけ込んで速達代金の借金を背負わされた俺は半ば強引に自警団の本拠地へと連れてこられた。

 まあ、ギャングとかじゃない正式な組織だから大丈夫だろう……。

 外観としてはこざっぱりした館という感じで、看板は急造のものをずっと使い続けているようなものが雑に取り付けられている。

 住居でもあるからかそこそこ広さはありそうだ。

「ボスのお帰りだー!」

 意気揚々と扉を開いたボスが仰け反るまでに時間はいらなかった。

 なぜ仰け反ったか。答えは簡単、開いた扉の向こうからとても良いフォームでリンゴを顔面狙って投げつけてきた男がいたからだ。

 

「やかましい! 普通に出入りすらできねぇのかこの騒音野郎!」

 

 イライラした様子で近づいて来る赤毛の男はとても目つきが悪く、言ってしまえば服装も着崩していてかなりガラが悪い。

 唾でも吐き捨てそうな勢いで男は後ろに倒れたボスを見下す。

「この……顔と実力以外取り柄のない社会不適合者の分際で一人前に声だけはでけぇから……」

 顔と実力が取り柄ならそれで十分なのでは……?

 とは思うものの、部外者なので口出しはできず横で行く末を見守っていると男はこちらに気づいてぎょっとした。

「てめぇ今度は何言って一般人を引き込んだ! 本当に見境のない――」

「失礼なやつだなー。俺はちゃんと選んで引き込んでるというのに。あと食べ物を粗末にするなよ。天罰食らっても知らんからな」

「神とかそれこそ知るか!」

 ヒートアップしていく喧嘩に関わる勇気もなく、そっと逃げようかなぁ後退していると誰かとぶつかって慌てて振り返った。

「す、すいませんちゃんと見てなくて……」

「……」

 そこにいたのは陰気な黒髪だった。自分より少し背が低いくらいで、片目が隠れるほどの前髪が邪魔ではないのかと気になっているとボスと喧嘩していた男がこちらに気づいて落ち着いた声をかけてくる。

「なんだクロム、帰ってきたなら声かけろよ」

「帰ってきたら痴話喧嘩してるから……」

 正論というかそりゃ帰ってきてこんな状況ならどうしようって思うよな。

 クロムと呼ばれた男に軽く頭を下げると彼はじっと見てきたかと思えばすぐに顔を逸らして館の中に入っていった。

「とりあえず立ち話もなんだから中に入ろうか」

「え、あ、はい……」

「ジョンー、お茶頼むぞー」

 喧嘩していた男はジョンというのかお茶汲みを命じられて露骨に舌打ちする。

「俺は雑用じゃねぇぞ」

「彼が雑用係予定だから丁重にもてなさないと逃げられるが?」

「すぐ淹れてきまーす」

 一瞬で態度を翻してそのまま館の奥へと消えていったジョンを見送り、俺はボスに応接室へと誘導された。柔らかいソファに腰掛けると改まった様子でボスが言う。

「さて、まあ雑用というのも外れてはいないが……君、その呪いについて詳しく教えてくれるかな?」

「呪い、ですか?」

 確かに珍しい呪いではある。だが詳しく聞かれるようなことだろうかと思っているとボスが呼び鈴らしいものを鳴らして笑った。

「その呪い、解きたいだろ? なら本職も混じえて聞いたほうが参考になる。それに……」

 ボスは笑顔から一転して真剣な顔で低くつぶやく。

「俺が探しているやつと同じ犯人かもしれんからな」

 ほどなくしてお茶と一緒にジョンが来て、その後ろにクロムがやってくる。呼び鈴で呼ばれたのはクロムのようだ。

「……何?」

「彼にかかってる呪いについて話を聞く。お前も気になるだろ?」

 クロムは片方しか見えない瞳を見開き「……わかった」と小さく返事して俺が喋るのを待つ。

「ま、できれば経緯含めて話してくれ。その方が手がかりが増えるからな」

 

 俺の、いや俺たちの村にかかった呪い。

 とても悪辣で貧しい俺達にはどうすることもできない重い呪い。

 少しだけ当時のことを思い出すと憂鬱になったが、解けるなら是非と願っているので記憶を手繰りながら昔話を始めた。

 

――――――――

 

 今から三年ほど前のことである。

 あれは特に何かあったわけでもなく、本当にただの穏やかな一日に起こった悲劇だった。

 村のものの大半がそれぞれの仕事をしているときに、事件は起こった。

「おおーい、ちょっと誰か手伝ってくれ」

 とある農夫のおじさんが自分の畑に奇妙なものが落ちていると言い、それを除去するために男手を呼びつけた。

「なんだこれ?」

「さあ……気づいたらあったんだ」

 それは子供くらいの大きさはある木彫りの人形だった。薄気味悪く、どこか寒気がするそれは手にしてみると意外なほど重く、年老いたおじさん一人で持ち上げるのはきつそうだった。

 若い衆が数人集まってそれを持ち上げ、立たせてみるとより一層不気味で、興味本位で村人たちがなんだろうと寄ってきた。

 元々少ない人口と、代わり映えのない日常に刺激が欲しかったのだろう。気づけば子供含めて八割がなんだなんだと集まっていた。

「これ、なんだろうなホント……」

「魔術師様とかならわかると思うが……」

 こんな辺境の村にそんな大層なものがいるはずもなく、みんなが気になっているとその人形は突然カタカタと揺れだした。

 みんな驚いて一歩引くが既に遅く、人形が一瞬紫色に輝いたかと思うと村中に重苦しい風が舞い、軽いパニックになっていると、ぱたりと風が止んでしんとした空気が場を包む。

 その時だった。

 

「フハハハハッ! 実験は成功だ! また私が天才であることが証明されたな!」

 皆が困惑している中、高らかな笑い声とともに姿を表した男が屋根の上で得意げに手を広げていた。

 その男は黒いローブを身に纏い、赤い目がこちらを嫌味な顔で見下ろしている。存在そのものが濁っているような異質さに思わず釘付けになる。

「人は本能に抗えず! この集落もいずれ果てるだろうよ! そうなればまた私の名は歴史に……いや、こんな集落では刻まれることなく終わるな」

 男は「まあいい、次はもっと別の実験をするか」と呟いて屋根から降りると、着地を狙ったかのように男の降り立って場所に光の矢が降り注いだ。

「チッ、もう追いついたのか」

 手のひらサイズの人形が身代わりになったのか男は別の場所に移動して顔をしかめる。

 すると今度は白い服に身を包んだ清廉な美女が男を見て叫んだ。

「断絶の呪術師! 今日という今日は許しません!」

「おお怖い怖い。お前なんぞに捕まりたくはないんでね」

 黒い煙とともに呪術師はその場から姿を消し、白い服の女性は使い魔らしい動物を放って後を追わせるが表情からして厳しそうなことが伺えた。

「皆様ご無事でしょうか? 私はクレリックのリコと申します」

 丁寧にお辞儀をする美女に村長も困惑しながら応対する。普段ならテンションが上がっていただろう男たちも現状に不安しかないのかおとなしい。

「あの男はいったい……」

「あれは王都では有名な呪術師でして、私はアレを追うために旅をしております。皆様体に異変などはありませんか?」

 集まっていた村人が各々顔を見合わせるが特に変わった様子はない。それを確認してリコさんは安心したように微笑んだ。

「それは何よりです。しばらく様子を見たいのですがアレを追わねばならない身でして……付き添えない不徳をお許しください」

 リコさんは再び頭を下げながら瓶を3つほど取り出して村長に渡した。

「万が一何かありましたらこれを。大抵の呪いには効果があるはずです」

「おお……これはご親切にどうも……」

 人騒がせな事件だったなぁと皆が呑気にしていると、リコさんは早くも村から出て急ぎ足で呪術師の後を追った。

 村人たちに異変は見受けられず、しばらくは普通にそれぞれの仕事に戻っていると夕暮れ頃に異変は姿を表した。

「いやあああああああっ!!」

 男の声がまるで女のような悲鳴をあげており、皆が慌てて駆け寄ると腰を抜かした村人の若い男と、見覚えのない引き締まった肉体のイケメンがいた。

「ど、どういう状況なんだ……?」

 困惑した若者たちが当事者である腰を抜かした青年に声をかけるとすすり泣いている見覚えのないイケメンを指さして声を震わせながら言った。

「その、そこにいるのはキャサリンなんだ……」

 キャサリンとは村で一番の美人とも言われる男たちの憧れ的な存在だ。スタイル抜群の美人で気立てもいい理想的な彼女はよくモテていた。それがなんということだろう。肉体が変化したいからか服は引き千切れ、男の自分から見ても憧れるレベルのガチガチの肉体美は女からしたらたまったものじゃないだろう。

「いやああああ……こんな姿になったらもう、もう生きていけない……」

 声が男なのに喋り方が女のためすごく違和感がある。キャサリン本人であることは間違いないようで、これが呪いの効果であるならば村長が受け取った瓶の中身でどうにかできないかと思っていると、村中のあちこちから悲鳴があがる。

 まさか、と思ったらそのまさか。あの場に居合わせた者が異性へと姿が変わるようになっていた。

 条件こそわからないが姿が変わっていないものもこうなってしまうという可能性を秘めており、急いで村人全員が集まって、あの場にいなかった者も含め話し合いが始まった。

「キャサリンやほかの者にもクレリック様から頂いた薬を与えたが効果はなかった」

 村長の絶望的な発言に村中がざわめき、村医者が場を鎮めながら言った。

「話を聞いた結果、姿が変わった者は直前になにかドキドキしたり、興奮したとのことで、感情の高ぶりが原因と思われる」

 そんなの、防ぎようがないじゃないかと皆が嘆く中、医者は更に続けた。

「既に何人かは元の姿に戻っており、あくまで一時的な変化だと思われる。とりあえず解呪できそうな呪術師を呼ぶからみなそれまで耐えてくれ」

 

 そうして、数日後に呪術師が来たが「自分じゃこんな高等呪術は無理だ」と言われ、更に上の呪術師を探すも法外な代金を請求されてしまい、村は諦めモードのまま呪いと付き合っていくことを考えるのであった。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 そして解呪の手段もなく、今日に至るというわけだ。

「一応、村ではたまにしかならなかったんですよ、この体の変化……」

 原因はそれとなくわかっていたのでみな気をつけるが意識してしまうと逆に異性にときめいたりしてしまい、目の前で異性化するのだからもう好意も性欲も丸わかりであり、半ば「あーはいはい」という関係が成されていた。皆同じ条件なのも大きい。

「ふむ、君の妹もか?」

「いや、妹はその時その場にいなかったので呪いはないです」

 村の二割は室内で仕事や手伝いをしていたので妹は無事だった。だからかもしれないが村中に漂う呪いの毒に冒されたのかもしれないのだが。

「その後、村は呪われていない者からしかまともに子供も生まれないせいで元々少なかった人口は更に激減して……あんな体じゃほかの町に行けないし金もないので呪われていない若者が村がなくなっても生きていけるよう必死にみなでコツコツ金を貯めているって現状です……」

 村はもう駄目だ。将来がない。だがまだ妹を含めて呪われていない子らのためにも資金を貯めて大人になったらそれを持たせて町に行かせようと計画している。

「子供……話を聞く限り皆見目のいい異性になっているようだし、下世話だが男が女になったら妊娠できるだろう?」

 ボスの発言に「嗚呼……」と嫌な思い出が蘇る。

「いたんですよ……妊娠したやつが……」

「ほう」

「男に戻った途端死んだんですけど……」

 

 実は女になったとある村の若者が呪われていない青年と肉体関係を持ったらしく、妊娠して周囲をざわつかせた。どうやら常にときめいていれば女の姿を維持できたらしく、それを利用してのことだったのだが悲劇は起きてしまった。

 妊娠したやつが男に戻る瞬間、腹がどろりとした黒いなにかを撒き散らしながらのたうち回って死んだ。それを目の前で見ていたいずれ父親になると笑顔で話していた青年は亡骸を抱えながら絶叫し、村では一つのタブーとなっている。

 というかそもそも行為を働こうとした時点で感情が乱れるのだから及ぼうとするともう変化してしまって駄目なのだ。

 つまり、断絶の呪術師の通り、村は断絶が避けられない。

「なるほど……断絶の呪術師。どう思う、クロム」

「多分、確定」

「なら話は早い。ケリーだったな? 君の事情はわかった。大変だったな」

 同情するような態度でボスは言う。

「自己紹介がまだだったな。俺はマリオン」

 ボスことマリオンさんはまっすぐ俺を見つめ、両隣のジョンとクロムを見てから言った。

「こちらの事情も話そう。俺も、恐らくその呪術師に呪われた身でな」

 呪われた身、という言葉に目が丸くなる。俺のように姿が変わるのかと思ったがそうではないようだ。

 

「呪いで成長が止まり、子孫を残せない。加えて、俺にはだいたい30歳まで呪いが解けないと死ぬオマケ付きだ」

 

 淡々と事実だけを述べるマリオンさんは見た目が子供のままだというのにどこか色気を感じさせる声で俺に言う。

「ま、同じ呪われた者同士、協力しようじゃないか」

 マリオンさんの言葉に無意識のうちに頷いていた。何もしないままでは俺も村のやつらも呪いが解けず、マリオンさんに至っては死ぬのだ。協力して損することなどない。

「で、だ。ここから重要な話なんだが――」

 

 

「一応ここは借りてる館でな。タダ飯は住まわせるわけにはいかないルールがある。加えて君は俺に配達代金を返したいんだろう?」

「はい……」

 不本意だがそのとおり。それに協力とはいえなにもしないで過ごすのも俺にとっては居心地が悪い。雑用候補とか言ってたし、まあ力仕事くらいなら……

 

「体で支払ってもらうか、労働で支払うかどっちがいい?」

 

 なんかよくわかんないこと言ってきた。

 

「体って……その、どういう意味で?」

「性的な意味で、かな」

「労働でお願いします」

 

 やっぱりちょっと早まったかもしれない。

 

 

 

 

 

 


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