呪いとクズと私な俺 作:ロリコンじゃないけどロリお姉さんいいよね
あのあと、ジョンに館を案内されることになり、目つきが悪いが丁寧にいろんな部屋について教えてもらっていた。
「厨房はここな。お前読み書きは」
「軽くなら……」
「なら自分で買ったものには名前書いておけ。他のやつの名前があるのも手を出すな。揉めるぞ」
完全に共同生活って感じである。棚や保存庫に名前が書かれたものがいくつかあるが、ここに来て会った三人以外の名前もちらほらある。
「所属してるやつはもっといるんだが今は不在が重なっていて、顔を合わせるのはしばらく先だ。まあ一人は買い物行ってるだけだからすぐ戻ってくるだろ」
その後、俺の個室へと案内され、この状況でも少しは前向きにならねばと考えていると扉を開けたジョンが「は?」と素っ頓狂な声をあげた。
気になって覗き込んで見るとそこは空き部屋とは程遠く、だいぶ散らかった汚部屋である。服が脱ぎ捨ててあったり本が床に山積みになっていたりととにかくひどい。
「なんだぁ、これ……」
困惑しつつもジョンが中に入って落ちているものをつまみあげると苦々しい表情を浮かべた。
「あの野郎……何空き部屋占領してんだ」
ブツブツ文句を垂れながらジョンは半ば諦めたように言う。
「悪いが見ての通りひどい惨状だ。片付けなんとか頑張ってくれ」
「え……俺が片付けるんですか」
「不満は犯人に言ってくれ。そのうち帰ってくるだろうしな」
「おーい、ジョンー」
すると、マリオンさんの声が聞こえてきたのでジョンが廊下に出ると「うるせー」と返事をする。
「酒場で揉め事があったみたいだ。人数多いしお前も行くの付き合えー」
「わーったよ。すぐ行く」
渋々といった感じだが俺の方を向いて「そういうわけだ」と悪びれることなく部屋から出ていった。
残されてどうしたものかと部屋を見渡し、とりあえずゴミになりそうなものとそれ以外で分けようとのろのろとだが作業を始めた。
洗ってない服とかを見ると恐らく女物なのだがマリオンさんは女物着てないし別のメンバーだろう。
ゴミは思ったより少ないが脱ぎ捨てたと思われる服や読みかけの本を床に置くなどどれだけだらしないやつなんだ、と思ったところで布の山からあるものを発見した。
そう、女性の下着である。
女性の衣服がある時点で察するべきだったのだろうが実際に手にしたことはなくとも遠目でちらちら見たことのあるそれが手元にあるせいで心臓が早くなった。なぜか悪いことをしているみたいで手が震えてしまう。それ、を仕分けしたという事実がもはや背徳的でほかの衣服にくるんで見なかったことにするべしだと本能が訴えてきた。
「はー、まったく。結局私が夕飯担当じゃないです……か……?」
下着に気を取られていたからか、全く人が近づく気配に気づかず、いつの間に部屋に人が来たことを扉が開いてから認識したのである。
そこにいたのは髪を編んでまとめた女性。雰囲気からして成人してそうなくらいの歳だろう。向こうも俺に気づくなり怪訝そうな顔をした。
というか今下着を手にした変質者の姿であるので完全に絵面がアウトです。
「あなた……」
「いや、あの、これは……」
無表情で近づく女性になんと言い訳すればいいか慌てていると、女性がきょとんと首を傾げて俺に聞いてくる。
「もしかして新入りですか?」
どうやら俺を不審者とは思っていないのか、確認する言い方に思わず便乗するような形でそれを認める。
「そうですそうです! ついさっき来たばかりです!」
「ああ、書き置きがあったので知ってますよ」
よかった、さすがに伝えておいてくれたのか。
「でも女の子だったのは意外ですね。ここはまともな女は少ないですから」
言われて「え?」と自分の体を見下ろすといつの間にか女になっていた。ああ、下着でドキドキしてしまったからか……と理解したがここで男ですと説明しても信じてもらえないだろう。すぐ戻るだろうしあとで説明すればいいかな……。
「ちょうどよかったです。あなた料理はできますか?」
「あ、あんまり……」
「でしたら私が教えますので……いやその前に」
俺の体、というより服を見て彼女は眉をしかめ、深いため息をついた。
「その格好、サイズが合ってなくてだらしない上に男物じゃありませんか。しかも……」
問答無用で服を捲りあげ、思わず悲鳴が出る。この人遠慮がないのか。
「ブラジャーをつけないとは何事ですか!慎みを持ちなさい慎みを! せめてサラシだけでもつけているならともかく……」
「ちょ、ちょっとやめ……」
「どこの未開の田舎から出てきたかは存じませんがそんな格好で外に出てみなさい! この町の悪党どもに目をつけられるだけですよ!」
なんで俺、こんなに怒られてるんだろ……。
「ああ、もう。ほらこれ使いなさい」
適当な引き出しから布のようななにかを投げつけ、俺に渡す。広げて見ると体に巻くようなそれは恐らく女性が身につける下着だろうことはわかった。いやさすがにつけないよ。俺そのうち男に戻るし。
「あのー……その……俺男なので……」
「はぁ!? ふざけたこと言って逃げようなんてそうはいきませんからね!」
ガシッ、と胸を掴んでギリギリと音が聞こえてきそうなほど絞られて「痛い痛い痛い痛い痛い」と声が出る。本当に痛い。怨念すらこもっている。
「私より大きい癖してその怠惰は許しません! ほら、これなら今のボロよりはマシです」
そう言ってまた別のところから服を取り出して投げつけてくる。いやこれたしかに今の女の体ならちょうどいいかもしれないが男に戻った瞬間、最悪どこか破けてしまう。
「あの、俺本当に男……」
「いいから黙って着なさい!」
気迫に負けてしまった。
つけ方がわからない下着をぐるぐる手の中で回しているとしびれを切らしたのか手早く装着させ、じっと見られながら服を着替えると今までは服のおかげでまだ違和感ある姿だったのが完全に女になっている。
「よし、これならいいでしょう。この町はろくでもない悪党ばかり。しっかりとした装いでないとカモだと思われますからね」
この町に来てすぐにカモだと思われたので説得力が違う。
そのまま、先程案内されたばかりの厨房に連れられいよいよ男に戻ったら不審者でしかない恐怖を抱きながらか細い声で話しかけた。
「あの、俺……」
「そういえばその俺ってあのちんちくりんのセクハラ馬鹿の影響ですか? 女の子がはしたない。私って言いなさい」
セクハラ馬鹿ってマリオンさんのことだろうか……俺の知る限りだとそれくらいしか思い至らないのでそう仮定するが結構な暴言である。まあもちろんそれとは関係ないため一応わかってもらえるかはさておき説明を試みる。
「いや、関係な……」
「私」
圧が強い。有無を言わせぬとはこういうことを言うのだろう。
「……私……」
「いいでしょう。言葉遣いが低俗だと品がないですからね。気をつけるように」
たかだか一人称なのにこんなに叱られると思っていなかったし、そもそも生まれてこの方ここまで女扱いをされてないので頭が破裂しそうだ。彼女は俺のことを完全に女と思っているしマリオンさんみたいにその変化を見たら扱いが変わるかもしれないが……
「で、なんでしたっけ?」
「お……私、ケリーっていうんですがあなたの名前は……」
「ああ、失礼しました。私はミネットと申します」
名前に「ん?」という声が思わず漏れてしまう。自分の知るその名前は……
「子猫ちゃんってね、変でしょう? そのうち慣れますよ」
本人もわかっているのか苦笑して話を打ち切ろうとする。ミネット、子猫。そして猫につける名前でもある。あまり人の名前としてつけられるようなものではない。
「さて、今日は人数が少ないですし……あなた合わせて5人分……ですね」
まあこんなもんですね、とぼやきながら買ってきた肉やらを並べて何を作ろうか考えている。
「うちはあまりお金に余裕がないのでできるだけ節制です。今後お使いを頼むかもしれないので覚えておいてください」
「……? 自警団なら公共施設じゃ……?」
仮にも町の自警団なら多少なりとも活動資金なりが一定額ありそうなものだがそうなると収入源はなんなのだろう。
「あなた、知らないでここに来たんですか? ここは非公式の組織なので町の治安を勝手に維持してるだけです。収入は微々たるもの。たまに町の人から差し入れ貰えばごちそうです。というか、分類的にはギャングたちとなんら変わらないのですよ」
「えっ……」
衝撃の事実にぽかんとしてそのまま固まる。いいことをしているんだろうがその実は非公式の組織……そんな場所に知らないで入った……いや入れさせられたことに今からでもなかったことにしたいと言いかけたところで体に異変が生じた。
――徐々に元の体に戻ろうとしている。
女物の服だから大きくなる体に布がブチブチと嫌な音を立てあっこれまずいと後ずさるも既に遅く自分の惨状を見たくないあまり目をつぶってしまった。
「あれ、どうしまし……」
ミネットさんの声が途切れる。恐らく今の俺を見て絶句しているんだろう。
「へ……へ……」
震える声とともにミネットさんが後ずさる気配がし、風を切るように麺棒が投げつけられ俺に命中した。
「変質者――ッ!」
「誤解です――!!」
その後、帰ってきたマリオンさんたちによって助けられたのだがその後事情を理解してもらえるまでかなりの時間を要した。
「説明しておいてくださいよ!」
夕飯になってまでミネットさんはジョンに苛立ちをぶつけていた。
「仕方ねぇだろ急いでたんだからよ」
「そうやってあなたはいつもいつもいつも……いつも! いつも私にちゃんと説明しないじゃないですか!」
「あとで説明するって言ってるだろうにネチネチネチネチお前は――」
「その辺で痴話喧嘩はやめておけ。せっかく新入りが来た祝いしてるっていうのに……」
マリオンさんの一言で二人は舌打ちしつつも引き下がり、クロムがやれやれといった顔でスープを飲み干す。
どうやら祝いとやらは酒をついでに買って帰ったとのことだがそれも含めて勝手に無駄遣いするなとミネットさんに叱られたらしく、マリオンさんが一人ちまちま飲んでいるだけだ。
ふと、クロムがこちらをじっと見ていることに気づいて軽く会釈するとすぐに目をそらされた。
「ところで俺も女の格好したケリーが見たかったんだが」
マリオンさんが思い出したように言うかと思えば俺を微笑ましいものを見る目で見てくる。
「いやぁ、さぞかわいらしいだろうな。俺が見たのはパツパツのあちこち破れたボロ布を着ていた男のケリーだからな」
「かわいいとかいわないでください……」
本気でショックなのでやめてほしい。俺は男なのに。
「照れてるのか? ん〜? ウブだな〜」
いつの間にかすぐ近くまで近寄ってきたマリオンさんがまだ酒の残ったグラス片手に肩に手を置いた。
「なあ、俺にも見せてくれ、な?」
見た目に反してやけに色っぽい囁きにまた心が乱れるのがわかる。まずい、また姿が、と焦るとマリオンさんが「ぎえっ」と短い声をあげて倒れた。どうやら飛んできた木の実の殻を指で弾いて飛ばしたらしく、犯人はミネットさんだ。
「お行儀が悪いですよ。自分の席に戻りなさい。あとそうやって隙あらばセクハラするような真似も控えるように。あなたもですよケリー。そのセクハラチビは男女問わすセクハラしてくるのではっきりと態度で示すのが正しいです」
「は、はい……」
ミネットさんとは最初のトラブルこそあったがこうやってマリオンさんを諌めてくれる人だし少し安心できそうだ。
「つーかお前、空き部屋占領してたのアレなんだよ。お前の部屋あるだろ」
「うるさいですね。あなたには関係ないことです」
「空きが必要になったときにあんなクロムの部屋みたいな状態だと困るんだよ」
「失礼な! クロム君の部屋よりはマシですよ」
「……あの……俺いるんだけど……」
クロムの声は喧嘩する二人に届かず、ボソボソとなにか言っているのを無視され、酔ったマリオンさんはそれを止めることなくぐだぐだの食事が終わった。
片付けを手伝うことになったので皿を下げているとクロムが手伝ってくれるのか厨房へ皿をいくつか運んでくれた。
「ありがとう、えっと……クロム?」
冷静に考えるとちゃんと自己紹介していなかったので不安だったので首を傾げつつ確認の意をこめて言うとすぐにそっぽを向かれてしまう。そのまま自室へと戻ったクロムに嫌われてしまっただろうかと不安に思っているとミネットさんが「ああ」と俺に声をかける。
「クロム君はいつもあんな感じですから気にしなくていいです。ちょっと偏屈ですがいい人ではありますから」
一応フォローされてはいるがこの自警団、大丈夫なんだろうか……と不安が募るばかりである。
マリオン、24歳
ケリー、18歳
ジョン、21歳
クロム、17歳
ミネット、22歳
残りメンバー不明