Fate/GrandOrder_藤丸と立香   作:部屋ノ 隅

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番外編は本編と全く関係のない、別の時空のお話です。
藤丸と立香がいつも以上にイチャイチャしています。
ご了承される方のみお進み下さい。


番外編 その2

「こく……こく…………ぷはぁ……」

 

 大きめの紙コップに注がれた二種類の牛乳を半分程飲み干し、立香は浅く息を吐いた。

 

 彼女は残りの牛乳が入った紙コップを一旦休憩所にある机の上に置くと、ダ・ヴィンチちゃんとトーマス・エジソン共同開発の『ギリギリ人をダメにしないソファー』という、ネーミング的にギリギリアウトな感じがするソファーに座って、そのまま身体を委ねる。

 

 ――ああ、安らぐ。私は今安らいでいる。お風呂にゆっくりと浸かり、火照った身体を冷たい飲み物で冷まして、その後はゆったりとしたソファーに座って身体の調子が整うまでノンビリと過ごす。マイルームに備え付けられているシャワーを軽く浴びただけでは、到底この満足感は得られない。

 

 

「……いいなぁ立香。スゲー安らいだ表情してる」

 

 それに、今日は一人じゃない。――藤丸が一緒なのだ。

 

 彼は立香同様に飲みかけの牛乳を机の上に置くと、まるで当然のことであるかのように彼女の隣に腰掛けた。その顔には、何か微笑ましいものでも見たかのようなほっこりとした笑顔が浮かんでいる。

 

 

「そ、そんなにダラシない顔してた?」

 

「んー、ダラシないって言うか、遊び疲れて車の後部座席で無意識のまま寝ちゃう小学生……みたいな? うん、とても微笑ましいって思った」

 

「……ッツ!」

 

「立香があまり俺と一緒に風呂へ行きたがらない理由がよく分かったよ。気にする事なんて無いのに」

 

 藤丸の指摘を受けて一気に気恥ずかしくなり、姿勢と表情を正そうとする立香。今更遅いかもしれないが、彼の前ではなるべくそういう気の抜けた表情を見せたくかった。一方藤丸は「えー? 俺は俺の知らない立香の顔や表情はもっと見てたいんだけどなぁ」と残念そうな表情をしている。その言葉自体は思わずニヤニヤと笑ってしまいそうになるほど嬉しいのだが――。

 

 

「も、もう! 子供っぽい例えをしないでってば!! なんで君はこう、私をからかうのが好きなの? さっきの……その……あ、あれだって多分わざとだよね!?」

 

「あれって?」

 

「だ、だから、その……!」

 

「――――したかった?」

 

「……え? きゃっ!」

 

 グイッ、と。藤丸はその瞬間、立香の方へ寄りかかるように一気に距離を詰めてきた。ただでさえ近かった体――肩と腕の部分がピットリとくっつき合い、顔と顔の距離もかなり狭まる。実際にはそんなことないんだろうが、立香には十㎝も無いように感じられた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()?」

 

 ――ドクン と、心臓がとびっきり大きく跳ねた気がした。

 

 

「な、ななな……! 何を根拠にそんなこと……!!」

 

「え? だってあの時凄く複雑で、ちょっと残念そうな顔してたから」

 

「~~~~~~ッツ!!」

 

 いつも以上に優しい声色と、悪戯好きな子供っぽい微笑みで問いかけてきた藤丸に思わず一拍間が空いて、それから一気に顔全体、身体全体が紅く、熱くなるのを感じる。まるで全身の血液が沸騰したかのような錯覚に陥り、脳みそはまともに物を考える事すら出来ない。

 

 ……仮に立香にまともに物事を考えるだけの冷静さが残っていたなら、藤丸が自分と同じか、それ以上に顔全体を真っ赤っかにさせて全力で虚勢を張っているという事実に気付くことが出来ただろう。

 

 

「や、やっぱりわざとだったじゃん! あの藤丸が私と牛乳を飲むのにわざわざ紙コップなんてもの用意する筈ないもん!! 『間接キスになるね』的な事言って私を恥ずかしがらせにくるに決まってる!! 私の反応を見て面白がってたんだ!!」

 

「八十点。より正確に言うと、それを俺に指摘された結果、まさに今立香がしてるような反応を見たかったから――だな」

 

「んな――――!!」

 

 悪魔だ。やはりこの男は正真正銘の悪魔だ。女の子を恥ずかしがらせる事が大好きな変態ド鬼畜野郎である。今すぐにその満足げな顔をグーで殴り飛ばしてやりたいが、すんでの所で思いとどまり、代りとばかりに罵倒の言葉が洪水のようにあふれ出てきた。

 

 

「ばかバカ馬鹿! 藤丸の悪魔! 鬼畜!! いじわる! いじわる!! いじわるぅううううう!!!」

 

 立香は知らない。自覚していない。その悔しそうな、恥ずかしそうな、でもどこかほんのちょっぴりだけ嬉しそうな半泣きの表情が、藤丸の心の片隅にひっそりと佇んでいる小さな嗜虐心を、これ以上無く刺激しているのだということを。

 

 

 

 

「ごめんごめん。悪かった、本当に悪かったって。……前にも言ったけどさ、立香って凄く可愛い反応してくれるから、ついついそういう事がしたくなっちゃうんだよ。」

 

「……ふんだ。その程度の謝罪じゃ今の私の機嫌は治りませんよーだ」

 

 まだ若干濡れている髪を藤丸に解かして貰いながら、立香は「ぷい!」とすねるようにそっぽを向いた。彼女との距離が縮まってから改めて気付いたのだが、やはり立香は感情の揺れ幅が大きくなれば大きくなるほど子供っぽくなる。普段の活発で天真爛漫。でも締めるところはキッチリと締めて、個性豊かな英霊達を纏め上げる『カルデアのマスター』をしている時とのギャップもまた、藤丸の悪戯心を煽っていた。

 

 ――そんな一面を躊躇無く見せてくれる間柄になれたことに。そんな一面を自分にだけ見せてくれるという事実に。藤丸の心は震え、昂ぶるのである。

 

 

 

 ……だから、今日は勇気を出していつもよりもちょっとだけ、自分達の関係に踏み込んでみようと、そう思ったのだ。

 

 

 

「……やっぱりまだ機嫌悪い?」

 

「うん」

 

「暫くは許せそうにない?」

 

「……うん」

 

「意地悪な俺は嫌い?」

 

「…………うう(首をブンブンと横に振って)……うん」

 

「今もまだ怒ってる?」

 

「! うん!!」

 

「じゃあ本当にキスしたら許してくれる?」

 

「うん! ……ん?」

 

 立香から了承が取れた(誘導尋問)ので、藤丸は早速彼女の後頭部と背中を両手で掴んでグルリと回すと、そのまま彼女を下にして優しくソファーに倒れ込んだ。途端に「きゃあっ!」という可愛らしい悲鳴が上がる。

 

 

「ふ、ふふふふ藤丸さん!? あの、ここは休憩室でございますとのことですよ!!?」

 

()()()()()?」

 

 テンパりすぎて口調が完全におかしくなっている立香を半ば無視して再び頭を撫でるように彼女の髪を一回だけ解かすと、手を使った抵抗が出来ないように、腋の辺りにスルリと左手を突っ込んだ。

 

 

「だ、だからって……!」

 

「立香は間接キスで満足だったみたいだけどさ――俺は、それだけじゃ嫌だな。するんだったらちゃんとしたキスが良い。……立香とキスがしたいよ」

 

「――――ッツ!」

 

 優しく囁くように言われた思いの丈の吐露に顔をゆでだこみたいに真っ赤にさせ、言葉を発することさえ出来なくなったのか空気を求める金魚のように口をパクパクと開閉させる立香。

 

 藤丸がホンの少しだけ彼女の顔に自分の顔を近づけた途端、ビクゥ! っと怯えるように全身を痙攣させて、そのままギューッ! と両目を固く閉じた。心なしか、ホンの少しだけ唇が尖っているような気もする。

 

 ……彼女が両目を閉じてくれて、本当によかったと思う。もし目を開けたままだったら、自らが吐いた気障ったらしいさ満点の台詞と、このような大胆極まりない行動。そしてなにより、本当にキスが出来そうな距離に立香の顔があると言う事実に打ち震え、歓喜し、紅くなっている自分の顔を見られてしまっていただろう。

 

 立香は「またこんな余裕ぶった気障ったらしい台詞を――」なんて毎回思っているかもしれないが、否だ。余裕なんてあるものか。内心では毎度毎度全力でテンパっているのだ。それを悟られないように、なるべく自分を大人びた男だと魅てもらえるようにあえて、心の隅から湧き上がるほんの僅か(?)な嗜虐心に身を任せているだけなのである。

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……や、やっぱり「はい、やっぱりダメー」んんん!?」

 

 彼女が固く閉ざしていた眼を開けた瞬間、藤丸は立香の唇にピトッ、と人差し指を当てた。一瞬だけ言葉が発せなくなり、くぐもった声を漏らしてしまう立香に微笑みながら藤丸は言う。

 

 

「ダメだよ立香。恋人同士じゃない。それどころか()()()()()()()()()()()()()にキスなんて許しちゃ。それに、立香は俺との「約束」を破っちゃうような悪い子じゃないだろ?」

 

 全力で虚勢を張り(ニッコリと微笑み)ながら小さな子供を諭すように言う藤丸に、立香はポカンとした表情で呆けている。いつもより更にグイグイ来る藤丸に色々と吃驚しすぎて、今の自分が怒っているのかそれとも安堵しているのかすら分からないのだ。

 

 それでいて、暫く経った後に心内から沸き上がってきた感想が

 

「いや自分から約束破ろうとしてきた(初めから破るつもりが無かったとはいえ)奴が何言ってんの!?」とか「こ、このセクハラ男! 一歩間違えば普通に事案だよ!!?」とかいった罵倒ではなく

 

「こんなに近くで、それも真正面で藤丸の顔見るの初めてだ……やっぱり格好いいなぁ」という惚気だったんだから、もう自分はどうしようもないなと立香は自分自身に呆れてしまった。

 

 そんな心情を知ってか知らずか、藤丸は彼女の唇に当てていた手をどかして、再び頭を撫でるように一度だけ髪を梳いた後、王の勅命にも聞こえる絶対的な、有無を言わさぬ声色で告げる。

 

 

「――でも、俺が貰うから」

 

 立香に覆い被さったまま、その宝石よりも綺麗な金色の瞳を食い入るように見つめ続けて。彼女の心をその声で、言葉で、まるでチョコを湯煎するかのようにゆっくりと溶かしてゆく。

 

 その真剣極まりない表情と声色から、いつものからかいもどきの冗談や意地悪で言っているんじゃないというのは、今の立香でもすぐに理解する事が出来た。

 

 

「約束をちゃんと守って、やるべき事を全部やって、キチンと恋人同士になれたらその時は躊躇しない。立香の全部……唇だけじゃない。胸も、耳も、鼻も……。おヘソにお尻に足に……それから、立香の一番大事な場所も。全部、全部俺が貰う。立香が嫌だって言っても止まらない。……俺だけの物にするから」

 

「あ、え、ひゃ、ひゃのっ」

 

 心臓が今日一番のスピードで早鐘を打ち続ける。「ドキドキ」なんてありきたりな表現じゃあ到底足りない。「ドッカーン! ボッカーン!!」と心臓に設置された極小かつ大量の爆弾が、連鎖反応で一気に爆発を起こし続けているような感じがする。眼も耳も鼻も、もう藤丸から与えられる情報以外を認識していない。

 

 

「立香」

 

「ひゃ、ひゃいっ!」

 

 ピトリと彼の手が割れ物を触るかのように優しく頬に触れる。

 

 

 

 

「――立香は、俺のだから。……良いよね?」

 

 

 

 

 藤丸から宣言されるようにそう言われた時、自分がどういう感想を抱いたのかを立香は言うことが出来ない。「言えない」のでは無く「言うことが出来ない」

 

 安心・不安・感謝・興奮・好奇心・焦燥・困惑・幸福・リラックス・緊張・欲望・恐怖・快感・満足・不満・恥・期待・そして愛おしさ。人が持ちうる感情の約半分をごちゃ混ぜにして、そのまま花火のごとく空へと打ち上げて大爆発させたような、そんな訳の分らない心境なんて言葉に出来る訳がない。

 

 結局何も言えず、立香はただ顔を真っ赤にしながら小さくコクリと頷いたのだった。

 

 

 

 

 

「……ん、そろそろ時間かな」

 

 立香が藤丸の宣言に頷いてから時間にして数十秒後。ようやっとといった具合に、藤丸は立香の上から身を退いた。身体に掛っていた若干の負担が無くなってしまったのが、何故かもの悲しく感じる。

 

 藤丸は未だ惚けるようにボーッとしている立香をよそに一人立ち上がると、テーブルに置いてあった牛乳入りの紙コップを二つ手に取って一気に飲み干した。

 

 

「俺、もう行くよ。いい加減寝ないと、ロマンやダ・ヴィンチちゃんに怒られそうだしな。立香は明日午後からレイシフトの調整実験と宝物庫の周回だっけ? 俺は朝からマシュとネロと一緒にセプテムで再臨素材集めを兼ねた現地調査だから、タイミングは合いそうにないかぁ」

 

 若干残念そうに藤丸は言う。明日だけではない。明後日も、その次ぎも、二人が一緒に行動したり、鉢合わせたりする可能性のある任務は無かった。同じ人類最後のマスターではあれど、得意分野や契約を結んでいるサーヴァントなどが違う彼らが共に行動する機会というのは、実は少なかったりする。今日とて久しぶりの合同任務&訓練だったのだ。夕飯は一緒に摂る事が多いが、基本的にサーヴァントのみんなやマシュ。それからロマンを筆頭としたカルデアの職員達と一緒にワイワイ話しながら食べるから、二人っきりで食事をした経験は皆無に等しい。

 

 ……次にこうして彼と他愛の無いやり取りが出来るのは、共に長い時間を過ごすことが出来るのは、一体何時になるのだろうか。

 

 

「そんな寂しそうな顔しないで。また時間が取れたら、一緒に過ごそう。…………じゃあ、おやすみ。立香」

 

「……お、おやすみ。藤丸」

 

 明るく笑顔でそう言って、最後にもう一度だけ立香の頭を優しく撫でた藤丸は、一人ゆっくりと休憩室を出て行った。

 

 

 

 

 ――――そして――――

 

 

 

(うわぁあああああああ! むがぁあああああああああああ!! うにゃあああああああああああああああああ!!!)

 

 それから暫く経った後、ようやく落ち着きを取り戻した立香だったが、それもつかの間。彼女は再び身悶えるような羞恥に打ち震えていた。

 

 

 

――そんなに俺とキスしたかった?――

 

 どれだけ全力で頭をブンブンと横に振っても。

 

――八十点。より正確に言うと、それを俺に指摘された結果、まさに今立香がしてるような反応を見たかったから――だな――

 

 髪の事なんか気にせずに頭を掻き毟ってみても。

 

――俺は、それだけじゃ嫌だな。するんだったらちゃんとしたキスが良い。……立香とキスがしたいよ――

 

 ドガン! バゴン!! という割とシャレにならない勢いと力で衝動のままにソファーを殴り続けても。

 

――でも、俺が貰うから――

 

――立香の全部……唇だけじゃない。胸も、耳も、鼻も……。おヘソにお尻に足に……それから、立香の一番大事な場所も。全部、全部俺が貰う。立香が嫌だって言っても止まらない。……俺だけの物にするから――

 

 消えない。消えてくれない。それどころか頭の中から追い出そう、消し去ろうとする程に彼の言葉と顔を鮮明に思い出してしまう。

 

 

 

――立香は、俺のだから。……良いよね?――

 

 

 

(ああ、ああぁあ、ア亜ぁぁァァああああAHaあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!)

 

 小さく、しかし確実に頷いて彼の宣言を了承してしまった事まで思い出して、立香は内心で超特大の大絶叫をかます。(ちなみに同時刻、藤丸も自分の部屋で同じように自らの行いに悶絶し、絶叫していた) 今なら声で津波を起こして、大きな街一つぐらいなら滅ぼせてしまいそうだ。……何故だろう。割とシャレにならない表現な気がする。

 

 

「はぁ……ふぅ……はぁ……ふぅ……」

 

 落ち着いては思い出して打ち震え、また落ち着いては思いだし――以後その繰り返し。それが何回か続き、ようやく安定して落ち着いた心持ちになってきた時だった。

 

 

「ふぅー。いいお湯だったー! やっぱり一人でゆっくりと入るお風呂は良い物よねー♪ ……ってあれ? マーちゃん?」

 

「お、おおおおっきー!?」

 

 自分達と入れ違いで浴場へ来た筈の刑部姫が、女湯の暖簾を潜って休憩所へと戻ってくる。

 

 

「ず、ずいぶんと早いね! どうかしたの? 何か忘れ物!?」

 

「へ? ……いやいやマーちゃん何言ってるの。長々と入ってた姫が言うのもなんだけど、もう一時間近く経ってるよ?」

 

 刑部姫に言われて大慌てで休憩所にある壁掛け時計を見ると、確かに彼女が女湯へと消えてから約一時間が経過しようとしていた。藤丸が休憩所を出て行くまでに、もしくは出て行ってからどれだけの時間が経っていたかは分からないが、全体的に見て一時間の時を、この場所で過ごしていたらしい。……一時間も、時間は経過していたらしい。ほんの数分前に藤丸と別れたばかりな気がしていたというのに。

 

 

「そ、そんなに経ってたっけ……。いやぁ、気持ちいいからってちょっとボーッとしすぎちゃったかなぁ?」

 

 あはははは、と笑って誤魔化そうとする立香。流石にこれで納得するとは思えないが、刑部姫はあれでいて(本気を出せば)人への配慮や気配りが出来る淑女だ。同じ女の子として空気を読んでくれる可能性は高い。――事実、その読みは当たった。

 

 

「……ふーん。まぁマーちゃんが何してたか知らないけどさ、流石にもう寝た方が良いんじゃない? 明日は午後からレイシフトの実験があるんでしょ? 寝坊しても知らな――あれ? そう言えばマーくんは? 一緒じゃないの?」

 

「ふ、藤丸なら帰ったけど……」

 

「えぇー……? 一人で帰っちゃったっての? マーちゃんを置いて? いや別に良いけどさぁ……。あともう一歩、こう、勇気を出して踏み込んでさ。「部屋の前まで送るよ」的な事を言っておいて実はマーちゃんを……みたいな送り狼になっても良いんじゃないのかなぁ? ……? なんで顔真っ赤にしながらなんとも言えないような複雑な表情してるのマーちゃん……? もう冗談だってばじょーだん! マーくんってば狼ってキャラじゃないもんね。むしろ羊やヤギみたいな心優しい草食系キャラだから、そういう攻め攻めなイベントは起こさないでしょ」

 

「そこはマーちゃんも色々頑張んないとねー。目指せ、恥ずかしがり屋克服!」と言ってケラケラと愉快そうに笑う刑部姫とは対照的に、立香は相変わらず乾いた笑いを口から放つ事しか出来ない。

 

「草食系? ついさっき、まさにここで彼に押し倒されて食べられそうになった(実際にどうだったかはさておき)んだけど???」

 

 とか

 

「心優しいのは否定しないけど、基本意地悪(攻め攻め)だよ? すっごい意地悪(攻め攻め)だよ???」

 

 とかを口に出してツッコめたらどれだけ開放的な気分になれるのだろう。三十分……一時間……数時間で構わない。他の皆が知らないような藤丸と私の話しをする事が出来たなら、どれだけ楽になれるのだろう。……間違っても言わないけど。その後が色々と怖すぎるし。

 

 

「そ、それじゃあ私もそろそろ行くね」

 

 これ以上変な追求や発言をされて自分の唇が余計なことを口走る前にここを去ろうと、立香はもう完全に温くなっているであろう牛乳入りの紙コップを二つ手にとって――――ここで、ようやく気づいた。

 

 

「あ……あれ?」

 

「ん? どったのマーちゃん」

 

「いや、大した事じゃないんだけどさ――

 

 

 

 

――――私の分の牛乳、こんなに残ってたかなぁって」

 

 

 

 

 

 

「ーーとまぁ、これが刑部姫様から聞いた話を元に私が妄想してみた、一文にもならないような想像なのですが……如何でしょう」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 バーソロミューの語りが区切りの良いところで終り、そして、静寂が場を支配する。何事かと様子を伺っているバーソロミューからしてみて、誰一人として言葉を発しようとはしなかった。

 

 ……こうなると、流石に不安になってしまう。彼女達と縁を結ぶ為に半ば軽い気持ちで会話に加わり、一意見として他愛のない妄想を語ってみたのだが……。もしや、自分はなにかとんでもない地雷を踏み抜いてしまったのではないだろうか。恐る恐る彼女達に話しかけてみる。

 

 

「あの……?」

 

「し……」

 

「し?」

 

 なんだ? し……シ……死? もしや「死」か? 「死ねやこの伊達男がぁああああああ!!」とでも言って襲いかかってくるのか? よもや、それほどまでの地雷だったというのか? ……まずい。仮に元の霊器の状態だったとしても四対一では圧敗、逃げ仰せる事もままならないだろうというのに、今は一対一でも片手間で捻り潰されてしまう自信がある。ただでさえ、自分は女性と子供に対して手を上げられない質をしているというのに――!!

 

 

 

 

「師匠――いえ、先生と呼ばせて下さい!!!」

 

「……はい?」

 

 バーソロミューが(勝手に)焦りだした直後。グワシィ!! と、彼は刑部姫に両手を強く握られていた。

 

 

「あ、あの「私達の会話の中から的確に事実を拾い集め、つなぎ合わせ、そして可能性の高そうな物を選び抜いて妄想し、物語を作りあげる……。素晴らしいです! これはもう一種の才能ですよ!!」 いえ、ですから「まさかマーくんが羊の皮を被った隠れSで、私達の眼を欺きながらマーちゃんをあんな風に辱めていたなんて……!!」いやこれは妄そ「今年のサバフェスはこれで決まり!! 最優秀賞は難しくても、何らかしらの賞はいただきだわ!!!」……話を聞いて下さいレディ……」

 

 完全にノッてしまったテンションの刑部姫に圧倒されるバーソロミュー。……カルデアに召喚されて間もない彼は知らなかった。刑部姫(同人オタク)には迂闊にエサ(ネタ)をやってはいけないのだという暗黙の了解を。

 

 キラキラとまるで星のように目を輝かせている刑部姫を見て、他の女子三人は悟る。あれは、自分と同じ仲間(オタク)(だと勝手に思っている奴)を見つけた獣の目だ――と。

 

 

「……」

 

「ま、まぁまぁ、落ち着いて下され刑部姫殿。ばーそろみゅー殿が困っているでござる。……一介の作家たり得る貴殿の事。想像もしていなかったしゅちゅえーしょんに興奮しておられるのはよく分かりますが、どうかご自重ください」

 

「…………」

 

「あ……ごめんなさい、姫ったらまた……」

 

「……………………」

 

「そうそう、折角ロバートが面白そうな――「おお! 助け船、感謝いたします千代女様。刑部姫様を傷つけることなく私を助けて頂いたこのご恩はきっと――」はいそこ! 話しを明後日の方向にぶっ飛ばさない! つーかそもそもあんたが話しだした事でしょうが!! そしてしっきー! 他の子が見逃しても私は見逃さないよ? ロバートの話しが終る前から超必死こいてなんか小さな巻物にサラサラ書きまくってたけど、もしかしなくてもネタ帳だよねそれ? 気持ちは分かるけど、せめて話してるロバートに許可ぐらい取りなって! ある意味おっきー以上に失礼ぶっこいてるからね!? ……ってえ? まさか話終ったの気付いてないっぽい? ガチで? おーい!!」

 

 鈴鹿御前が一人、また一人とツッコミを入れて話しを軌道修正する度に、再び他の誰かが脱線させてゆく。最終的に、なんの話しをしていたか分からなくなりそうになった直前でついに鈴鹿御前がブチ切れ、刑部姫、紫式部、バーソロミューをカルデアの廊下に用意された簡易戦闘スペースへと引きずっていった。……カフェエリアに一人残された千代女は語る。――『鈴鹿御前殿と恋バナをする時は、ふざけすぎないようにする事』という忠告を、彼女の知人全員にして回ると決めたでござる、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみませんでした……。いやホントすみませんでした……」

 

「申し訳ございません……。ついつい筆が乗ってしまい、中々キリの良いところが見当たらず……。本当に申し訳ございませんでした……」

 

「申し訳無い……。どうも私は、好みの女性というのが絡むと色々とおかしくなってしまう質でね……。本来であれば話を切り出した私こそが場を纏めて然るべきだというのに。これでは黒髭(あの馬鹿)の事を笑えないな……」

 

 鈴鹿御前に連行されてから十数分後。再びカフェテリアスペースに戻って来た三人は、一斉に鈴鹿御前と千代女に対して頭を下げる。多少の差はあれど全員霊器と衣服がボロボロだったから、一目見るだけで鈴鹿御前の宝具――天鬼雨――に容赦無くぶっ飛ばされたのだという事が分かった。

 

 

「あー……。いや、あたしもちょっち頭に血が上っちゃってた。ただの……とは言いたくないけど恋バナ。それも主人(マスター)をネタにした奴で、話しがぶっ飛びそうだからってマジギレして宝具ブッパはマジで無いわ……」

 

 鈴鹿御前含め、四者四様の落ち込み具合である。あまりの話しかけづらさに、一人蚊帳の外にいた筈の千代女の方が気が縮む思いだった。――が。

 

 

(なにか……なにか話さねば……皆様に話題を振らなくては……!!)

 

 ここでこの淀み始めている空気をなんとか出来るのは、落ち込んでいる四人の気を紛らわせることが出来るのは、蚊帳の外にいた自分だけだ。――自分だけなのだ。

 

 

(なにか……何か無い物か……! 私から言っても不自然ではなく、尚且つお四方の気を紛らわせ、それでいて元の、親方様達の話しに戻る切っ掛けになるような問いは……!!)

 

 生前を含め今まで行ってきたどんな諜報任務よりも真剣に頭を回転させ、この場における正解を出そうとする千代女が導き出した答え。それが――――!!

 

 

 

「……あ、そういえば「まぁいつまでも落ち込んででもしゃーなしだし、いい加減話戻そっか。はいはい今から超空気変えよ! よくよく考えたら些細な諍いからの乱闘なんて、カルデア(ここ)じゃあ日常茶飯事だったからさ!! 勝手に戦闘した(バトった)事については、後でマスター達に謝っとくってことで!! ……って、ん? ちーちゃん、どうかしたの?」……いえ、何でもないです……」

 

 ……それが、たった一人の陽キャのコミュ力によって無残にも踏みにじられた。現実は非情である。自らを陰キャだと評する刑部姫の気持ちが、少しばかり分かった気がした千代女であった。

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、まずはっと……。みんなロバートの推測聞いてみてどう思った? 私は近からず遠からず……むしろ近い寄り? 流石にそのまんまだとは思わないけどさ。マジで結構良い線付いてるんじゃないかって思うんだよねー」

 

「姫も姫も! 姫自身の体験談だからっていうのもあるんだけど、話しに辻褄がちゃーんと合ってるの!! なにより前からちょいちょい気になってたマーくんのチグハグな言動に説明がつくもんね!! ……まぁ、疑問に思った場所はあるけど……でも是非、是非! 先生の語った通りの展開があの日あの時あの場所で起っていて欲しいって思った!!」

 

 閉話休題。バーソロミューの語った推測に基づいた女子会(withバーソロミュー)が再開され、やはりというかまず真っ先に鈴鹿御前が話を切り出し、次いで、それに同調するかのように刑部姫が続く。彼女の場合、最早恋バナがしたいと言うより「面白くてネタになりそうな話し」が現実として起っていて欲しいという気持ちが先走ってしまっているような感じだ。

 

 

「そうですね……。私も事実がどうあれ、中々に面白い推察だったと思います。バーソロミューさんの口説……失礼。お上手な語り口がこの場をもり立てていた、というのもありますね。……色々と修正、改変する必要はありますが、恋物語の一場面として乗っていても不自然ではないのではないでしょうか」

 

「せ、拙者はその……。……すみません、なんとも言えませぬ。親方様方の仲の良さからして、それらしい事は起っていてもおかしくないとは思いまするが……。なに分、拙者はこの中では新人さーゔぁんとである為、親方様方の質を完全には把握し切れていないのです。……いえ、そんな事は理由になりませんね。召喚されて間もないばーそろみゅー殿が、ここまで慮られる事が出来るのですから。……主を持つ忍びとして、お恥ずかしい限りでござる」

 

 同じく、恋バナというよりはもはや「物語としてどう思うか」に焦点を当て始めてしまっている紫式部。先ほどまでメモ帳に書いていた大量の何かは、無論、バーソロミューの話を聞いていて思い付いた物語のアイデアだろう。

 

 千代女は千代女でマスター二人の関係をそこまでよく知らない、把握し切れていないとして、あまり意見が言えないという申し訳なさと、甲賀上忍として不甲斐ないという二種類の感情に苛まれていた。

 

 

「いやいや、ちーちゃん考えすぎ考えすぎ。マジ切羽詰まってて、それこそいつ火スペってもおかしくないようなドロドロな恋愛模様とかだったらともかく、極々平和でほのぼのとした恋してるCPの状況や近況なんて余程勘が良くて恋に詳しいSPJK(スーパーJK)か、そいつら直々に恋模様について相談されてるマブダチ位しか知らないし、知る必要無いっしょ。つーか現にSPJKの私が知らなかったんだから卑屈になる必要なーし!」

 

「そもそもの話。最初から何度も言っていますが、私が語ったのは推察を通り越してただの妄想にも近いものです。あなた方四人がしていたお喋りの助力になれれば――そんな気持ちで喋らせて頂いた、他愛のない物ですよ」

 

「……かたじけない。そう言っていただけると、気が楽になりまする」

 

「だから気にする必要無いって。ただの恋バナなんだし。……あ、そう言えばさ。おっきーの言ってた「疑問点」って何? ちょっちそこんとこ詳しく聞いてみたいなーって思うんだけど」

 

 それがキチンとした考えに基づいた恋としての話しなのか、もしくは重度の廃人(オタク)としての話しなのかが気になって、鈴鹿御前は質問を投げかける。

 

 

「あー……。疑問点、って言うか、変な所?」

 

「変な所……ですか?」

 

「うん。先生が言ってた話しの中で、マーくんとマーちゃんはそんじょそこらの恋人なんて顔負けのあまーい時間を過ごしてたじゃん? いやそれは良いんだけどっていうかもっとそういうのが欲しいんだけど、って違う違うそうじゃなくて!! なんでマーくんとマーちゃん、話しの中でもつきあってなかったんだろうなって。実際にマーくんとマーちゃんがつきあってるってなんて話し、聞いたこと無いけどさ。……あれだけの事をするような仲なのに何で恋人じゃないの? それだったら、実は私達に隠れてつきあってましたー、の方が説得力なくない?」

 

「あー」と、鈴鹿御前から納得したような溜息が漏れる。確かに話しの中での彼らは、妙な「約束」とやらをしている所為で、本当はつき合いたいのにそうする事が出来ていないみたいだった。

 

 なぜ「実はつき合っていた」という分かりやすい物ではなく、態々そんな奇妙な設定を盛り付けたのかは少しばかり疑問に思う。

 

 

「ああ。それでしたら割とちゃんとした考えがありますよ」

 

「え? マジですか先生」

 

 

 ……どうやら、すぐにでも解消されそうだが。

 

 

「……あの、刑部姫様? 私の事を先生と仰るのは「まぁまぁ良いじゃないですか! それよりも続き続き!!」……コホン。では解説する前に一つ確認を――この中で、誰かお一人でもマスター達がつき合っているというようなお話を、ご本人達から聞いたことはありますか?」

 

「……?」

 

 誰も手を上げない。意図が分からない訳でもないが、バーソロミューはなぜそのような質問を投げかけるのだろうか。

 

 

「では次です。現在、このカルデアにおける最高責任者……ロマニ・アーキマンとダ・ヴィンチ女史はどうですか?」

 

「? いえ、多分聞いたことなど無いと思いまするが……」

 

「そうですか、では最後。マスターであるお二方の仲が非常に良いという事は先日召喚されたばかりの私でも分かりましたが、それはあなた方から見て一体どういったレベルですか?」

 

「どういったってレベルって。……私達の話を最初っから聞いてたなら分かると思うけど、そりゃあもう恋人だって誤解するぐらいだよ。(・・・・・・・・・・・・・・)なんであれでつき合って無いのか分からな「あ、あ、あああああ!」ちょっ、おっきーうっさい! いきなり大声出すのマジ止めてって!!」

 

「ご、ごめんね。でも……」

 

 バーソロミューが何を言いたいのか分かったのだろう。刑部姫は一度深く息を吸い込むと、ゆっくりと吐き出すように彼に確認を取る。

 

 

つまり、これも意図的(・・・・・・・・)…………?」

 

「あくまでも私独自の考えになりますが、正解です。明確な理由は分かりませんが、あの二人は自分達の関係を「恋人一歩手前」の状態で止めている可能性が高いと思われます」

 

 ザワッ――と。若干のざわめきとほんの微かな動揺が、バーソロミュー以外の全員に走った。彼はそのざわめきを利用するかのように更なる言葉を解き放つ。

 

 

「契約を結んでいるサーヴァントは勿論のこと。カルデアの最高責任者であるDr.ロマニやダ・ヴィンチ女史でさえマスター達がつき合っているという話し……噂話の類いではなく、確信としてそれを聞いたことが無いのであれば、それはもう「二人は恋人ではない」という考えの根拠になり得ます。あの二人は人理継続保証機関であるカルデアの……敷いては人類最後のマスターです。そういうご関係になったというのであれば少なくとも、上官であり現在における保護者のような立場にある方々にご報告するのが当然の義務ではありませんか?」

 

 ……根拠が。バーソロミューの話の中で幾重にも組み合わさり、明確な形として話しの中に現われてゆく。その真実を照らし出すような言葉と話し方は、大海賊である彼を一端の探偵のようにも魅せていた。

 

 

「ですが、そういったご報告はなく、されとてお二人は恋人と見間違う程に仲が良い……。で、あればそれはもう『わざとそこで関係を止めている』としか考えられません」

 

「…………逆に言えば、二人の関係を止めているだけの理由がある。……そういう事ですね」

 

 踏み込もうとすれば何時でも恋人になれるのに、なろうとしない。触れようと思えばもう何時でも触れられるのに、触れようとしない。

 

 ――それはきっと、今の関係性を壊すことへの恐れや、まだ未成年だからという自重から来る物ではなくて――同時に、サーヴァントである自分達にはすぐに解決してやる事の出来る問題ではないのだろう――

 

 

「あたしらの……変な所で関係が止まっちゃってるって大前提が、そもそも間違ってたって事?」

 

「いやぁ、そこは合ってるっちゃ合ってるんじゃない? 意図的かそうじゃないかでかなり意味が変わるとはいえ、実際止まってた訳だしさ。……でも、そっかぁ……。そうかぁ……」

 

 大きく落ち込む鈴鹿御前と刑部姫。バーソロミューの推測が合っているのであれば、自分達がしようとしてたのはまごう事なき恋路への横槍だ。それも、ほぼほぼ何の役にも立たない、正真正銘大きなお世話だったということになる。そもそも、あの二人の仲であれば何れそういう関係になったであろう事など、分りきっていたというのに。

 

 

「……いいえ。決して、決してそんな事はありません。主人の事を慮り、行く末を真剣にご心配なさっておられるお二人の想いを藤丸様と立香様が知れば、さぞお喜びになるでしょう」

 

 想いを綴る英霊である紫式部は言う。その主人を想う心意気こそを、彼等は何よりも喜ぶのだと。

 

 

「その通りでござる。それにそれを言うのであれば、私など「これは今を生きるお二人の恋路なのだから、さーゔぁんとである我らはあまり触れぬ方が……」などと言って、それとなく遠ざけてしまっておりました。……情け無い。お節介だと心のどこかで分かりつつも、それでもお二人のお力になろうと奮闘していたお二人の方が、従者として何倍も優れていましょうに」

 

 忍びはくノ一の筆頭にして、巫女の棟梁である望月千代女は言う。その行動こそ、優れた従者の証であると。

 

 

「ええ、私もそう思います。それに、これは私の勝手な妄想……。皆さまのお茶会とお話を盛り立てる事が出来ればと考えた、この場限りの即興劇に過ぎません。事の真相がどうあれ、ね。なので――――」

 

 心内から来る素直な感想をバーソロミューが告げていた――――丁度その時だった。

 

 

 

 

 

「つ、疲れたぁ……」

 

 

 

 フラフラとした覚束ない足取りで、食堂のカフェテリアスペースに彼等の主人の片割れが入ってくる。

 

 

 

 

「あらあら、どうしたの立香。今日はまた一段と疲れきった顔しちゃって。Dr.から追加の課題でも出されちゃった?」

 

「あ、聞いてよブーディカさーん!! そうそう、もう酷いんだよロマンったら! 私すごーく頑張ってちゃーんと出された課題全部やってきたのに

 

『うん、流石は立香ちゃん。どんなに忙しくても、やるべき事はキチンとやってくる。君はやっぱり真面目で良い子だね』なーんて人の事褒めておきながら『じゃあ今日はいつもより余裕が出来た事だし、課題もいつもより多めに出しておくね』

 

 直後に鬼みたいな事言うんだもん! 結局いつもよりも課題の量多くなっちゃってるし!! 藤丸が協力してくれなかったら絶対夜中までかかってたよ!!」

 

「ふふ、そっかぁ。大変だったねぇ……。うん、えらいえらい。えらいから今日は特別。おやつのアップルパイに、バニラとキャラメルのアイスを乗っけちゃおう!」

 

「え!? 本当! ……あー、ごめん。やっぱり良いや。アップルパイとミルクティーだけ頂戴。いつもジャックやナーサリー達に『晩ご飯前の間食は控えなさい』って言ってるもん。私がそれを破ったら示しがつかないよ」

 

「……そっか。君は本当に、まっすぐで良い子だね。……よし分かった! ちょっと待ってて、すぐに持ってくるから!」

 

「はーい! ……ってあれ? 和鯖四人(いつものみんな)にバーソロミュー? 珍しい組み合わせだね。バーソロミューはウェイターの仕事はお休み中? …………え、女子会? 私も参加して良いの? うーん、じゃあおやつの時間が終わるまでで良いなら……うん! よろしく!!」

 

 立香が席に座った直後、誰に言っているとも知れない小さな声で彼はぼそりと呟いた。

 

 

 

 

 

「ですのでやはり、ここは直接本人(マスター)に聞いてみるのが一番かと。主役になる人物がいてこその恋バナですから。……でしょう? 」

 




正直な話、全くイチャイチャさせたりない。

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