或る日の夜。
比企谷八幡は小説投稿サイトでweb小説を読んでいた、
そして、気がついたら……え、俺が三○○人!?


この短編は、投稿サイト「小説家になろう」でうっかり面白い作品を見つけて、俺ガイルとクロスしてみたくなって書きましたw

「異世界転移したら三〇〇人になりました。~スライム移植から始まる自己増殖ライフ~」

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サキサキ誕生日おめでとぉおおおお!

※サキサキの誕生日は個人的に祝いたいだけで、本編とは関係ないのですゴメンなさい☆



やはり俺が三○○人いるのはまちがっている。

 やはり俺が300人いるのはまちがっている。

 

 

 俺──比企谷八幡はベッドに寝転んで、目覚まし機能付き携帯電話、すなわちスマホの画面を見ながら、おやすみ前のひと時を過ごしていた。

 

「──なんだこれ、超おもしれぇ」

 

 今読んでいるのは、web小説サイトで見つけた、とある作品だ。

 昨日から投稿を始めた作品らしいのだが、これが本当に馬鹿らしくて面白い。

 

 内容は、異世界に転移する時にスライムと融合させられて、主人公が三○○人に増殖してしまうという、荒唐無稽な話だ。

 

「くくっ、よりによってワラビモチ。共食いかよ」

 

 今は食事シーン。三○○人の主人公と、主人公を召喚してスライムを混ぜた張本人が、みんなでワラビモチを食べている。

 うっかりその光景を想像してしまい、ツボに入ってしまった。これは材木座にも教えてやらなきゃだな。

 お、もうこの話は終わりか。次のページを──

 

 

 ──突然の出来事だった。

 気がついたら、俺……いや“俺たち”は奉仕部の部室にいた。

 しかし、おかしい。吸い慣れない空気と、見覚えの無いデザインの机と椅子。

 そして何より、俺を囲む俺、すなわち比企谷八幡の群れ。その群れは、未だ増え続けているのだ。

 

 なんだこりゃぁああああ!?

 

 混乱して叫んだ瞬間、部室のドアが開いた。

 

「やっはろー……って、ええっ!?」

 

 未だ増殖中の俺の群れが、一斉に視線を向ける。

「「「なんだ、由比ヶ浜か」」」

「な、な、なんで、なんでヒッキーがいっぱいいるの!?」

 

 あ、またひとり増えた。

 

「「「いや知らねえって。気がついたら増えてたんだよ」」」

「みんなでいっぺんに喋った!?」

 

 ったく、うるさい奴だ。これから状況を把握しなきゃいけないって時に。

 

「「「あー由比ヶ浜、ちょっと静かにしてくれ」」」

「ヒッキーたちの方が声大きいからねっ!?」

 

 そりゃそうだわな。いくら俺がコミュ障だからって、こんだけ大勢で一斉に喋ったら、うるさいに決まってる。

 由比ヶ浜の的確過ぎるツッコミで声がピタリと止んだ。

 あ、またひとり増えた。

 

「ヒッキーが……ヒッキーを産んでる……」

 

 口をぱくぱくさせて驚いている由比ヶ浜の背後、再びからりと部室の扉が開く音がした。

 

「ごめんなさい、遅くなってしま……っ、た」

「ゆ、ゆきのん!?」

 

 俺の群れに遮られて見えないが、声の主は、奉仕部の部長である雪ノ下雪乃だろう。

 

「ヒッキーたち! ゆきのん白目むいて倒れちゃった!」

 

 * * *

 

「──で、説明してくれるかしら。比企谷くんども」

「「「俺に解る訳がねえだろ」」」

 

 雪ノ下が気づくまでの間で、俺は三○○人に増殖していた。さすがに部室には入りきらないので、二○○人ほど廊下で待機させてある。

 

「大勢で同じ顔で、一斉に喋らないでくれる? 気持ちが悪いわ。それでなくても常日頃から目が気持ち悪いのだから」

 

 まあ、俺が三○○人いたらキモいよな。しかし最後の罵倒はいらんだろ。

 しかし、どうしたものかね。

 これじゃ部活どころの騒ぎじゃない。いや、依頼人が来るアテは無いんだけどさ。

 

「ぎゃあああああ!」

 

 お、廊下から響いてきたのは、顧問のアラサー独身女教師、平塚先生の声か。

 

 勢いよく扉が開いたと思ったら、廊下の俺の群れをかき分けて、血相を変えた平塚先生が飛び込んできた。

 

「説明しろ比企谷ぁああああ」

 

 腰だめに拳を引く平塚先生に、教室内の俺が一斉に身構える。

 

 が、ファーストブリットもラストブリットもやって来ない。

 

「うううっ、数が多過ぎて、どの比企谷に鉄拳を浴びせたらいいのか……」

 

 お。そういえばそうか。本体である俺が“俺の群れ”の中心にいれば、安全だ。

 しかし、増えても俺は俺。思考は全員一緒らしく、俺を押し退けて俺が俺の方へ次々とやってくる。俺の大バーゲンだな、まるで。

 

「「「お、おい、やめ……あ」」」

「こうなったら、手当たり次第だ。歯を食いしばれ比企谷ども。抹殺のォオオオ……」

 

 どんどん前に押し出されて……あ。先頭に押し出された。

 

「ラストブリットォオオオ」

 

 あはれ、俺本人を含む数人の俺が吹き飛んだ。

 

「──で、この乱痴気騒ぎは一体なんなのかね」

「そうだよヒッキー、たち?」

「はあ、私は三○○人も更生させなければならないのかしら……」

 

 ちょっと雪ノ下さん。一人だけ質問じゃなくて愚痴になってますよ。

 とかなんとか愚考するも。

 

「わからねえよ。大体、さっきまで自分の部屋でなろう読んでた筈なん……あ」

 

 これ、あの小説と一緒だ。

 つまり俺は、スライムと融合して──いやあってたまるか、そんな奇跡。

 

「あ、でもさ。考えようによっては、ラッキーじゃないかな」

「この男が増えたことが、なぜ幸運なのかしら。このままでは日本は破滅よ」

 

 何故かテンションの上がる由比ヶ浜に、雪ノ下はこめかみを押さえながら首を振る。

 

「だってさ、こんだけいるんだもん。ゆきのんとあたしで、シェアしちゃえば……いいんだよ」

 

 おい待て由比ヶ浜。何故最後吐息まじりになった由比ヶ浜。

 ええい、こっちを見るな頬を染めるな向こうの俺を見るな俺を見ろ……じゃなくて。

 

「……ね、ヒッキー。いいでしょ」

 

 由比ヶ浜が上目遣いで見つめるのは、俺本体の三人向こうの俺だ。ニアピン賞だ。惜しかったな。

 しっかしこいつ、たくましいな。どんだけ非常識な現象なのか、解っているのかね。

 

 ふと、顔を上げた雪ノ下と視線がぶつかった。困ったような、判断を委ねるような、そんな表情。

 それは、あの時の、顔。

 

「──わかった。さすがにこの人数だと、いくら俺でも鬱陶しい。一人と言わず百人くらい持ってけ」

 

 うっかり吐いてしまう。途端、周囲の俺どもがザワザワと話し合いを始め、ジャンケンを始めてしまった。

 

 あいこでショッ。

 あいこでショッ。

 あいこで──って、気づけよ俺共。

 思考が同じなんだから勝負がつく筈ないだろうが。

 

「──なあ、比企谷」

 

 背後を俺に囲まれた平塚先生が、普段とは違う、弱々しい顔を向けてくる。

 

「私にも……貸してもらえるか?」

「いや理由が分からないんですけど」

 

 特にその、頬を染めてしなやかな黒髪の毛先を指でクルクルと遊ぶ理由が、まったく分からん。

 

「わ、私だって、独り寝は……寂しいんだよ」

 

 うわー、乙女だ。乙女がいる。だいぶクセが強いけれども。

 

「──分かりました。好きなだけ持ってってください」

「い、いや。一人でいいんだ。初めてで複数は、その……ハードルがだな」

 

 何の話でしょうか平塚先生。ここは部室で、あんた高校教諭だろ。

 ほら見ろ、またジャンケン始まっちまった。

 

「──とにかく」

 

 おもむろに雪ノ下が立ち上がる。

 

「これでは正常な部活動は不可能ね」

 

 正常な部活動。たまに来る依頼人が現れるまで、読者したり紅茶飲んだり。

 あらためてだけど、それ正常なのん?

 

「ねえ、比企谷くん」

 

 俺の群れの中を、雪ノ下が近づいてくる。他の俺には目もくれず、俺の本体に向かって。

 思わず息を呑む。どうして雪ノ下は、俺が本体だと分かるのか。

 雑考の間に、眼前まで雪ノ下は近づいていた。

 

「おまえ……なんで」

 

 本体が俺だと分かったのか。

 途切れた疑問は、雪ノ下の微笑によって解を得る。

 

「以前にも言ったはずよ。私は、貴方を、知っている」

 

 心臓が、ひとつ脈を打つ。そのたった一度の拍動は熱く、強く。あっという間に血液を体内に循環させ、同時に熱を運ぶ。

 

「あなた、この状況をどうしたいと思っているのかしら」

 

 その言葉には、いつもの険はない。柔らかな声音は鼓膜を、脳を、心を揺さぶる。

 

「お、俺……は」

 

 願いは分かっている。

 こんな馬鹿げた状況から脱却することだ。しかし、それを口にしてどうなる。

 いくら目の前の少女が成績優秀の万能超人でも、この事態の収拾など不可能なことだ。

 

 分かっている。

 解って、いる。

 

 なのに。

 何故、俺は言葉を発しようとするのか。いや、正確には、俺ではない。俺の中の、もっと奥底の、なにか。

 それが、言葉を、想いを伝えたがっているのだ。

 

「俺は──」

「ヒッキー、大丈夫。大丈夫だから」

 

 気がつくと、由比ヶ浜も目の前に立っていた。潤んだ瞳で俺を、俺だけを見つめるその少女は、誰よりも真実を願う。

 分身なんて要らない。

 まやかしや欺瞞なんて、いらない。

 俺は。俺は──

 

「──俺は、本物が……ほしい」

 

 その瞬間、俺の意識は光に落ちた。

 

 * * *

 

 眩しい。

 まだうまく開かない目を擦って、重い身体を起こす。

 胸の上から、ポトリと何かが落ちた。スマホか。

 ──そうだ、どうなった。

 周囲を見回すも、何処にも他の俺の影はない。

 

「──ふう、夢か」

 

 俺が三○○人になったのは、夢。その現実に安堵する。

 

「お兄ちゃん、まだ寝てるの?」

 

 部屋のドアの向こう、妹の小町が制服姿で睨んでいた。

 ああ、夢でよかった。本当によかった。

 

 つつがなく放課後を迎えた、奉仕部の部室。

 由比ヶ浜は携帯をぽちぽちといじり、その向こうで雪ノ下は文庫本に目を落としている。

 俺は、スマホで昨晩のweb小説の続きを読んでいた。

 三人の前には、まだ湯気の立つ紅茶。

 ああ、まったくの日常。

 会話もなく、何もない。

 差し込む夕日の暖かさと、紅茶の香り。

 平和だ。

 

「せんぱーい、助けてくださいよぉ〜」

 

 ノックもせずに部室に飛び込んできたのは、一年後輩の生徒会長、一色いろは。

 これも、日常の一部だ。

 

 スマホを置くと、由比ヶ浜は携帯を閉じ、雪ノ下は文庫本を伏せて紅茶の用意を始める。

 

「せんぱーい、やばいんですぅ」

「そうか、なら断る」

 

 やばいなら関わりたくない。なんなら働きたくない。

 働いたら負け。家訓である。嘘である。

 ぶーぶー騒ぐ一色を横目に雪ノ下を見やると、溜息混じりの微笑が零れた。

 しゃーねぇなぁ。

 

「とりあえず、用件を伺えるかしら」

 

 紅茶の注がれた紙コップを一色の前に置いた雪ノ下が問う。まあ、大方生徒会のなんちゃらでアレがそうなのだろう。

 そんなもん、ロジカルシンキングで論理的に考えれば解決するだろうに。なあ玉縄パイセン。

 

「えっとぉ、明日なんですけど、先輩をお借りしたいんです」

 

 おい、ちょっと待て。奉仕部は部員の貸出しサービスはやってないぞ。それに。

 

「明日は……用事がある」

「えー、そうなんですかぁ?」

 

 先輩に用事なんてあるんですか、みたいな言い方はやめてね。

 

「そ、そーそー、明日はヒッキーは用事があるんだよ」

 

 おい待て由比ヶ浜。

 お前がそういうことを言うとだな、立つはずのない波風がだな。あ、ほらもう。

 

「先輩……明日は結衣先輩とお出かけですかぁ。そうですか。そうなんですか」

 

 こっわ。いろはすこっわ。

 なんでそんなに冷たい目が出来るのん?

 ふと別の方向からも冷気を感じて、振り向く。

 あ、あれ?

 雪ノ下……さん?

 

 

「あら比企谷くん、明日は私と部の備品を買いに行く筈ではなかったかしら?」

「は? ──あ」

 

 やっべ、忘れてた。

 

「備品の買い出しなら、雪ノ下先輩だけでも大丈夫ですよね、せんぱい」

「あら、比企谷くんは奉仕部の大事な備品よ。備品が備品の買い出しに行くのは当然じゃない」

「ダメだよっ、明日はヒッキーとパセラでハニトー食べる約束してるんだからっ」

 

 三人の美少女の視線が火花を散らす。やがてその視線は俺に……え、俺!?

 

「せんぱい、明日は誰とお出かけするか決めてください!」

「ヒッキー、信じてるからね」

「比企谷くん、部長命令よ」

「「「さあ、誰を選ぶの」」」

 

 あー、俺がもっとたくさんいたら良かったのに。

 ──三○○人とかはいらんけど。




ご無沙汰しています、エコーです。
最近ツイッターやら別サイトやらに入り浸っておりました。
あと、書き出し祭りという書籍化作家さま主催のイベントで、120作品中で第4位になりました♪

……と、無駄話はこのくらいにして。

実は今回、俺ガイルとクロスした作品、
「異世界転移したら三〇〇人になりました。~スライム移植から始まる自己増殖ライフ~」は、
知り合いが「小説家になろう」で書いている作品です。
ひいき目ナシに面白いので、よかったらぜひご一読を♪

https://ncode.syosetu.com/n6091fb/


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