その日を私は思い出してしまったのだ。
我々の無残に滅びゆく『未来』を
『過去』を覆す事の出来ない無力さを
物語では悲劇が繰り返され、途方もない結末を迎えてゆく。取りこぼしてきた多くの命を生涯かけて恨み続けるのだ。そして自分自身を生涯かけて呪い続けるのだろう。『もっといい方法はあったのではないか』『きっと何かできたのではないか』と必ず口からこぼれてしまうのだ。それでも我々にはその幾多ものの後悔と悲しみを背負いながら生きて行くしかないのだ。
何故なら、王はそれを望んだのだから。
その気高き理想を掲げて、無意味な存続を諦めたのだ。
これ以上の大罪を犯す我々を王はご覧になりたくないからだろう。
世界の為に我々は罪人にならなければならないのだ。
だが、私はそんな結末など望んでいないのだ。
我が主の最期の言葉を裏切ってでも、『あの民達』を救い出して見せたい。
でも、恐らくこれを成し遂げる事は私には不可能なのだろう。
私が手を加えれば、きっと彼らは同じ過ちを犯してしまう虞があるからだ。
私には残念ながら人を変える事も、周囲を変える事も、何かを与える事も出来ない。
所詮、私は今となっては偽りの存在なのであり、彼らにとって『本物』になってあげる事は叶わない。
だから私の全てを捧げてきた彼らに託すとしよう。
きっと彼らなら私の望んだ『本物』になってくれるに違いない。
それはとても独善的で、彼らに対して押し付けている欺瞞に過ぎないのかもしれん。
それでも…それでもだ。
下らない負の連鎖がないような世界を私は心から願っているのだ。
お互いにわだかまりなく理解し合えるような関係を『彼ら』ならやってくれるに違いない。歴史に翻弄されてしまう彼らそして彼女らを救ってくれる存在に、いつかはなってくれると信じる事にしたのだ。
ごめんな、お前ら。
こんな不甲斐ない私を許してくれ。
――今迄、ありがとう。」
「おい出ろ、もう時間だ」
看守の一声でハッと現実に引き戻された老人は急いで立ち上がり、膝についていた埃を丁寧に払うと看守に言われた通りに独房から出た。その際、彼は格子にそっと手を触れさせると一度目を瞑る。
その表情はとても硬かったと監視していた看守たちは口を揃えて言ったが、何を考えているのかは全く分からないのだ。用意された飯を一度も口に含まず、ただただ正座して何か思い返していたらしい。
それは人生の最期を振り返っているように見えたと述べる者もいた。恐らく彼が感謝の念を呟いた所を看守達が目にしたからかもしれない。
しかし、それが彼の人生の中で大きな決断になるとは誰も予想しなかった。
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