ソード・ワールド2.5(sw2.5)リプレイ風オリ主小説 蛮族退治はもう古い!? アルフレイムに響けあたしの平和な歌声! 作:すー2018
「あっ、そうだ!」
おいしいワインを飲みながら、あたしはみんなに聞かなきゃいけないことを思い出した。
「みんな、支給された1200Gは、まだそのまま持ってるよね?」
「ああ。いろいろ買わなくてはいけないな」とロッドが答えた。
「なけなしの金だからなあ、大切に使わないとな」とリオン。
「冒険者セットに、日用品に防具……冒険するのって物入りねえ」と、ナナがため息をついた。
「まあまあ、何とかなるじゃろうて。ふぉっふぉっふぉっ」
ザム爺が呑気に笑った。
酒場で、そんなふうにワイワイやっていると、一人の人間の女性が近づいてきた。
「あら、あなたたち。パーティを結成したのね?」
酒場のおかみさん、マチルダさんだった。旦那さんのガッデンさんと一緒にこの「月明かりの夜亭」を切り盛りしている、柔らかな姿勢が優しい、みんなのお母さん的存在だ。
肩のあたりで切り揃えた亜麻色の髪、透き通った青色の瞳。緩やかなローブを基調とした服はセンスのいい、職人特注の高級品のようだ。
すこし年はいっているかもしれないけれど、なかなかの美人マダムだ。
「はーい。これからみんなで買い物に行こうかと思ってたんです」とあたし。
「ちょうど良かった。その前に、やってほしい仕事があるのだけれど、いいかしら」
マチルダさんが微笑んだ。
「えっ……オレたち、丸腰だし、何の装備も持っていませんよ」とリオンがいぶかしげに聞く。
「そんなに構えること、ないと思うわ。依頼したいのは、うちの部屋の片づけだもの」
マチルダさんがあたしたちの顔をひとりひとり、見た。
「部屋の片づけですかぁ」
「うちは、新しく始めたばかりでしょう? 初心者の冒険者登録が多くて、今のあなたたちみたいに、装備にも困っている子たちがいるのよね。
だから、あちこちの冒険者ギルドにお願いして、ベテラン冒険者がいらなくなった装備品を寄付してもらったのはいいのだけど、たくさん届きすぎちゃって、うちで一番広い部屋にとにかく詰め込んだのよ。
中には、使い物にならないものもけっこうありそうなんだけれど、そのふるい分けをお願いしたいの。
今回の報酬は、あなたたちに合う装備品があったらプレゼントということでどうかしら」
「それは……オレたちにとっちゃありがたい話だけど、なんで急に……?」とリオンが尋ねる。
「実は……うちの道楽息子が、帰ってくることになってね。
倉庫にしちゃったうちの一番広い部屋は、息子の部屋だったの。だから、不要な装備品は片づけて、人が過ごせるスペースを確保してほしいのよ」
「なるほど。こんなにありがたい依頼、引き受けねばのう!」とザム爺が言う。
「息子の道具も、たぶん、不用品に埋もれていると思うのね。あの子、大切なものは宝箱に入れていたから、スカウトの技術があれば開けてもらって構わないわ。
宝箱に入っていたものは、一度わたしに見せてもらえるかしら」
「わっかりましたあ! みんな、引き受けるってことでいいよね?」とあたしはみんなに聞いた。
断りたいと申し出る人はいなかった。
最初の冒険としては地味かもしれないけど、宝箱って聞いてテンション上がるし、マチルダさんの息子さんのために、お掃除を頑張れば、マチルダさんにも息子さんにも、よろこんでもらえるだろうしね!
「じゃあ、さっそく始めまーす!」
あたしたちは掃除道具を受け取ると、マチルダさんに案内されて「月明かりの夜亭」の奥の部屋に向かった。
◇ ◇ ◇
乱雑に積み上がったアイテムの数々の山が、部屋中ぎゅうぎゅう詰めになって、そこにあった。ぱっと見て、武器や防具、生活用品、趣味用品、ほんっとにたくさんある。
「うえー、意外と大変そうかも」
あたしは、見るだけで早くもすこしゲンナリした。
「重いものはわたしとロッドが持てばいいわね。ピコとリオン君とザム爺さんは、軽そうなものとかこまごましたものを片づけて」
ナナがてきぱきと指示をする。うう、いいお嫁さんになりそうだね、ナナ!
「了解だぜ!」
「ふわーい」
「承知しましたぞ。ふぉっふぉっふぉっ」
筋力無いチームのあたしたちは、ナナの指示に従って掃除を始めた。
擦り切れて着ることもできないクロースアーマーや、壊れた装飾品をあたしたちが片づけ、接続部が錆びて壊れそうな金属鎧なんかを、ナナとロッドに任せる。
しばらくして……。
「おっ」
リオンがうれしそうな声をあげた。
「どしたの、リオン?」
「見てくれよ。スカウト用ツールだぜ」
「スカウト用ツール?」
「鍵開けとか、解除とかに必須の工具セットさ。
市販品だと100Gするから、地味に財布の負担になるんだよな。
だけど、こいつがないとせっかく見つけた宝箱があったって、開けるにはとんでもなく苦労するんだ。
見ろよ、使い込まれてはいるけど、必要な針金だとかはみんな揃ってる。大切に使わせてもらうことにするよ」
「良かったね」
きっと、倉庫に埋もれているよりも、新しい使い手に渡って活躍した方が、道具もうれしいよね!
このあと、半日かけてお掃除をしたんだ。
見つかった装備品は……。
ロッドにはチェインメイル。本人は「ちょっと軽すぎるかもな」って言ってたけど、それはリルドラケンの基準が筋力高いからだよ! あたしたちグラスランナーに、装備出来る人いないよ!
ナナは、お洒落な刺繍が付いたポイントガード。古着なのに、すごく可愛い!
使ってた人が丁寧に手入れをしていたみたいで、使用済みの独特な味わいが出てる。
腰用の装飾品であるベルトもちょっといいのが見つかったので、ポイントガードと合わせて着るとほんとにいい感じ。
どちらもお金に変えるとそんなに高いものじゃないけど、ナナはお気に入りになったみたいで、ホクホク顔だ。
リオンは、さっきのスカウト用ツールと、防具のソフトレザー、そしてソーサラーの真語魔法を発動させるときに必要なメイジスタッフ。
三つも自分に必要なものが見つかるなんて、なんて運がいい子なんだろう!
ザム爺は、妖精魔法に必要な<妖精使いの宝石>が4個。
妖精魔法はこの<妖精使いの宝石>を装備していないと使えないんだって。
ザム爺が言うには、六系統ある妖精魔法の属性「土」「水、氷」「炎」「風」「光」「闇」をすべて使いこなすためには、6個、この<妖精使いの宝石>が必要なんだけど。
一度に使える妖精魔法は4つの属性までなので、属性変更をしなければ4個の<妖精使いの宝石>で何とかなるんだって。
あとは、ザム爺が着られそうなクロースアーマーも見つかったんだけど……。
「新しく冒険をするなら、新しい服がいいわい!」って、自分で新品を買うんだって。
まあ、ナナは古着を気に入っているし、人それぞれだよね。
あたし? あたしはクロースアーマーをもらうことにしたよ!
ナナと比べたらぜんぜん普通のクロースアーマーなんだけど、普段着を着て、今後冒険に出かけるわけにもいかないし、ないよりはマシだよね!
そうして、あとは、調理道具をひとつ。野外でも食べ物をおいしく料理したいじゃない?
でも食器セットとか下着とかはさすがにお古とはいかないので、あとで新品を買わなくちゃね。
だいぶ片付いて、部屋がどうにか見渡せるようになってくると……ありました、宝箱!
見渡せるようになった広いお部屋の隅っこに、あたしたちが選別した使える装備品の中に混じって、三個も! なんだけど……。
「あれは……?」
あたしとザム爺は、セージの知識を駆使して宝箱の隣にひっそりと佇んでいる「魔動機」を見た。
丸い頭の、1mくらいのずんぐりとした姿で、体全体が硬質の輝きを放っている。
片腕に当たる部分がハンマー状になっていて、当たったらすごく痛そう。
足の部分は、車輪になっていた。
「ドルンじゃな」
「え……ドルン?」
あたしはど忘れしちゃったみたいで、ザム爺の次の言葉を待った。
「魔動機文明のころに作られた、警護用の魔動機じゃ。何かを守っているのじゃろうのう」
「何かって……あの宝箱に決まってるよ!」
うええ、困った! どうしよう。
「そのドルンとやらが、どう動くのかちょっと見てみる必要があるな」
チェインメイルをさっそく装備したロッドが、ゆっくりと宝箱に近づいた。宝箱から半径1mくらいに近づいたとき、ぐいーん、とドルンの腕が上がった。
「おっと」
下がると、ドルンの腕も下がる。
「まいったな。近づく者から宝箱を守るように言われてるんだろうな……こちらは素手。あちらさんは、ものすごく固そうだ」とロッド。
「この部屋にあるし、壊したらマチルダさんが悲しむよね……どうしよう」
あたしも考えてみたけど、いいアイディアが思いつかない。
「そうだ! こういうのはどうだ?」
そんなとき、リオンがポンと手を打った。何かを思いついたみたいだ。
「ちょっと待ってろ」
リオンはあちこちに並ぶ装備品を物色して、一本のロープを持ってきた。
「こいつを張って、罠を作ろう。見たとこ、ドルンのやつは足の車輪で動くんだろ。足にロープを絡めちまえば動けなくなるんじゃねえか?
それならひどく壊れることもねーだろうし」
おお、グッドアイディア!
「じゃあ、リオン君は罠を設置して。わたしとロッドが盾になって罠におびき寄せる役をやるわね」
「オッケー。罠を張るのに10分かかるな。ちょっと待っててくれ」
さっそくスカウト用ツールを使って、リオンが罠を作り始めた。ちょうどドルンの足のあたりの高さで、ピンとロープを張る。簡単なドルン捕獲の罠の完成だ。
「行くわよ……!」
ナナが素早く宝箱に近づいた。ぐいーん、とハンマーが上がる。
ナナ目がけて落とされようとしたそれを、ロッドがかばってガツンと引き受けた。
そうして、じりじりと戦いながら罠に近づき……ピン、とドルンの足にロープが絡みついた!
どしーん、とドルンが倒れる。ういーんういーん、と必死に車輪を回しているみたいだけど、リオンの狙い通り、車輪にロープが絡みついて動けない。
「やったあー!」
「良かったのう」
「お宝ゲットだぜ」
「案外、簡単だったわね」
「そうか? 結構、ハンマーは痛かったけどな。しかしこれで宝箱が開けられるな」
あたしたちは喜び合った。
三つの宝箱の鍵は、そんなに複雑なものでもなく、スカウト用ツールを使ったリオンの手によって次々に開いた。
ひとつめの宝箱には、<剣のかけら>が三つ。<剣のかけら>っていうのは、町を、魂の穢れた存在から遠ざけている<守りの剣>の力の維持のために必要なアイテム。
ふつうは魔物を倒すと、ときどきその体から見つかることがあるらしい。
お金に換金することもできるけど、それは不名誉なこととされていて、名誉を重んじる冒険者ならば、無償でギルドに譲渡するそう。
マチルダさんの息子さん、たぶん冒険の思い出のつもりでこの<剣のかけら>を持っていたのかもしれないね。
となると、マチルダさんの息子さんも冒険者なのかなあ?
ふたつめの宝箱は……人間の大人が扱うにはちょっと小さめな、子ども用と思われるリュート。
「見てナナ! あたしにぴったり」
リュートを手にして、あたしは弦を弾いてみせた。
「欲しいなー、このリュート」とあたし。
「はいはい。マチルダさんと交渉が必要よ」とナナがたしなめた。
そしてみっつめの宝箱には……。
「何だこれ……?」
リオンが中身を取りだした。
宝箱に大事そうに入っていたのは、一冊のスケッチブック。パラパラとめくってみると、どのページにも子どもが描いたっぽい落書きがいっぱい。
「……破って捨てちまおうか」とリオンが言った。
「だめだよー! ドルンに守らせてまで大切にしてた宝箱から出てきたんだよ! もしかしたらとっても大事なものかもしれないよ」と、今度はあたしがたしなめた。
「……息子さんやマチルダさんにとっては、宝物なんじゃろうのう」と、ザム爺が思慮深い顔をして言った。
「さあ、部屋もだいぶ片付いたし、宝箱の中身も手にできたし、撤収、撤収~!」
あたしはみんなにそう告げた。
◇ ◇ ◇
「終わったのね? お疲れさま」
あたしたちはギルド内にある、マチルダさんの私室に通されていた。酒場や宿屋のエリアとはだいぶ遠いので、静かで落ち着いたところだった。
「宝箱に入っていたのが、こちらです」
あたしは、<剣のかけら>と、小さなリュートとスケッチブックをテーブルに並べた。
「まあ……あの子ったら」
マチルダさんの瞳が、みるみるうちに潤んだ。
「このリュートは、あの子が子どものときに、どうしてもやりたいって言うから持たせたものなの。
結局バードは目指さなくなって、使うことは無くなってしまったけれど、わたしにとってはあの子が小さなときを思い出す、大切な宝物よ。
……それに、このスケッチブック! そう……これはあの子の原点ね」
「原点……?」
あたしたちが続きを聞こうと静かにしていると、部屋のドアがコンコンとノックされた。
扉が開いて入って来たのは、マチルダさんの旦那さん、ガッデンさん。つるっと剃り上げたスキンヘッド、隆々の筋肉。
この「月明かりの夜亭」のギルドを統括している、とっても偉い人だ。
「おい、マチルダ!」
「なあに?」
「あいつが……あいつが帰ってきたぞ!」
「まあ……本当に!?」
マチルダさんは、急いで「月明かりの夜亭」の入り口に向かった。あたしたちも後を追いかける。
そして到着すると、そこには、マチルダさんと同じ亜麻色の長い髪をひとつに束ねた、背負い袋にスケッチブックを載せた青年が立っていた。
「ただいま……母さん」
彼の、マチルダさん譲りっぽい優しげな青い瞳がすっと細くなった。
「ああ……お帰りなさい」
マチルダさんが静かに彼を抱きしめた。
「ちょ…ちょっと母さん。みんなが見ているよ」
青年は恥ずかしそうだ。
「あなたが無事だったから……うれしくて」
マチルダさんは泣いていた。
「ごはんはちゃんと食べていた?」
「食べてたってば。いつまでも子ども扱いするんだから」
青年が恥ずかしそうに笑う。
「あ、あのー」
感動の再会に遭遇したあたしたちは、なんとも間抜けな声をあげざるを得なかった。
マチルダさんの部屋に、あたしたちと青年は通されていた。
「うわあ……このリュート、なつかしいな! それにこのスケッチブックも」
青年がうれしそうな声をあげる。
「あ、あのー」
「あっ。申し遅れてすみません。僕は、画家のハイルアートと言います」
青年、ハイルアートがぺこりと頭を下げた。
ハイルアート……?
「どこかで、そのお名前、聞きましたかのう」
「あたしも知らないなあ」
あたしとザム爺は首をかしげた。
「はは。僕は最近、ようやく絵画で食べられるようになった人間ですから、知らなくても無理はないですね」
ハイルアートが頭をかく。
「僕の部屋を片付け、思い出の品も見つけて下さり、また、ドルンを壊さないで下さってありがとうございました」
「やっぱり! あのドルンは壊さなくて良かったんですねー」
「そうだ。お礼に、このリュート、持って行ってください」
「えっ……いいんですか?」
言葉こそ尋ねる口調になってるけど、あたし、このリュートものすごーく欲しい!
「そちらのグラスランナーさんだったら、まだ弾けるでしょう? 僕が持っていても宝の持ち腐れですから」
「ハイル! いいの?」
「いいんだ、母さん。母さんの思い出には、このスケッチブックがあれば十分さ」
「わあ……ありがとうございます! とってもとっても、大切にします!」
ハイルアートからリュートを手渡され、あたしは、もう最大限の力で何度も何度も頭を下げた。
「そうそう、<剣のかけら>もあなた方から受け取ったことにするわね。一所懸命、掃除をしてくれたお礼」
「ありがとうございます、マチルダさん!」
……こうして、初めての冒険は大成功に終わったんだ。
オリジナル設定
マチルダ……マカジャハットに新しくできた冒険者ギルド「月明かりの夜亭」のマダム。芸術に理解がある。
ガッデン……マチルダの旦那さん。元冒険者で、スキンヘッドにいかつい筋肉がトレードマーク。マチルダとともに、冒険者に対してとても親切にしてくれる。
ハイルアート……ガッデンとマチルダの息子。マカジャハットで認められつつある画家。
追憶の子ども用リュート……今回のセッションでピコがもらうことになった楽器。子ども用といっても作りは精巧にできていて、美しい音色を奏でる。
ドルンに対する罠の効果……ロープの罠でドルンが動けなくなる、という設定はオリジナルのものです。