時間がないとこうなってしまうのです()

最近あまり小説を書けていないのでそろそろリハビリをしていかないといけないな、と思いました。
この夏、あるサークル様の小説合同誌に参加したことが自分の今一番のモチベーションになっています。

次は自分の作品を頒布する番ですね。

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新たな道を歩む者へ

 この国の海には、深海棲艦と呼ばれる生命体が古くから存在した。それらは日本の貿易関係や漁業等に深刻なダメージを与え、一時は復旧不可能に近い状態にまで追い詰めた。

 

 その恐怖から人々を救ったのが艦娘だ。

 

 かつてこの国の為に戦った艦艇と同じ名をした艦娘達は、海軍と協力し深海棲艦に立ち向かった。

 

 そして、長い戦いは終わりを迎えた。

 

 再び平和な世の中が訪れ、人々は以前と変わらない生活を送るようになった。だがその一方で、艦娘達にはとある問題が出てきたのである──。

 

 

 

 

「はぁー……こんなことになるんだったら最初から部屋片付けておけばよかったー!!」

 

「白露、それは皆が思っていると思いますから、諦めて早く片付けましょう」

 

 昼下がりの鎮守府は妙に騒がしかった。至る所でドタバタと物音が聞こえ、目を向ければ艦娘達が荷物を持って寮中を走り回っている。

 

「えっと……これはここで、この服はそこで……」

 

「海風ぇーこれどうしよー……」

 

「知りませんよもう……」

 

 何故艦娘達がこんなに荷物整理に忙しくなっているのか、それにはつい先日の出来事が関係している。

 

 この数日前、深海棲艦との戦いは、艦娘を率いる海軍の勝利で終わりを迎えた。

 

 長きに渡る熾烈な戦い、その最後を飾った決闘はお互いに全戦力を投入する総力戦となった。

 

 海から脅威が消え去り、平和を取り戻したのは良かった。だが、平和になったという事は、艦娘達が存在する理由が失われてしまう。

 

 そして先日、この鎮守府の提督は彼女達艦娘を退役させ、一般人と同様の生活を送れるように支援することを表明したのだった。

 

 それにより、艦娘達は鎮守府を離れることになる。なので皆荷物をまとめているのだ。

 

「でもさ海風」

 

「はい?なんですか白露」

 

 段ボールの前に座っている白露が、反対で正座をして整理をする海風を呼ぶ。海風は作業の手を止めて白露の方を向いた。

 

「本当に終わったんだよね、戦い。だから私達は普通の生活ができるようになるんだよね」

 

「何を言ってるんですか。そうですよ。深海棲艦との戦いは終わったんです」

 

 海風がさも当然のように返す。その言葉に嘘偽りはない。だが白露には、それが現実であると信じることが難しかった。

 

 彼女達が艦娘としていることができたのは深海棲艦という脅威が海に存在したからだ。その脅威がなくなった今、白露や海風、その他の艦娘が戦う理由など皆無なのだ。

 

 白露は足元を見つめ、黙ったまま動こうとしない。そんな白露を見た海風は溜息をつきながら言葉を紡いだ。

 

「いいですか?私達は確かに戦うことが一番の存在理由です。だからと言って、戦いだけではなかったですが、それでも今は海風達にここにいる理由はないんですよ」

 

「……そっ、か。そうだよね、あはは……」

 

 元気の無い笑みを浮かべ、白露は止まっていた手を動かす。

 

「そう言えば白露、提督が結婚するのは知っていますか?」

 

 作業に戻った白露に、海風は突然提督の話題をふる。

 

「えっ!?う、嘘っ、それホントに!?」

 

 海風の思い通りなのか、白露はまた作業の手を止めて海風の方を向いた。

 

「本当ですよ。お相手の人は工廠の整備士の方だとか……」

 

「へぇ……、提督も結婚とかするんだ……」

 

「それは提督に失礼ですよ」

 

 すかさず海風が突っ込む。あはは、と笑いながら白露はその場に寝転がった。

 

「そっかー……提督も、新しい道を歩んで行くんだね……」

 

「そう、ですね……」

 

 足を上げ、そのまま勢いをつけてよっ、と白露は立ち上がる。そして、海風と一緒に窓の外に広がる海を見つめた。

 

 深海棲艦との戦いであったような騒々しさはもうあの海にはない。艦娘達の戦いの日々は決して無駄ではなかったと思わせるような海を二人は静かに眺めていた。

 

「ねぇ海風、海風はここを出た後どうするの?」

 

「海風は……学校に通って、大学に行こうと思っています」

 

「海風は頭いいもんね。私はバカだから……仕事を探すよ」

 

 二人は海を眺めたまま今後を語り合う。

 

 二人の道は別れる。同じ道を歩んだのは人生の中のほんの数年でしかない。

 

 だが、二人はこれからも共に生き続けるのだろう。

 

「……頑張ってください」

 

「……そっちこそ」

 

 こんっ、と拳をぶつける。その後に言葉はいらない。二人は分かりあっているのだから。

 

 二人しかいない部屋に、大きな笑い声が響き渡る。幸せそうな二人を妨げる者などいるはずがなかった。

 

 

 

 

「それじゃあ海風、元気でね」

 

「白露もですよ。あ、一段落したら連絡しますから」

 

 鎮守府の門の前には、私服姿の白露と海風の姿があった。今日で鎮守府は閉鎖され、提督は大本営に戻り、元艦娘達はそれぞれ自分で選んだ道を進むことになる。

 

 縦ストライプの青いセーターを着た海風は、大きなバックを背負う白露を何も言わずに見つめた。気温と合わない格好をしていたが、そんな白露の姿に違和感を感じることはなかった。

 

「うん。……海風、今までありがとね」

 

「こちらこそありがとうございました。お仕事早く見つかるといいですね」

 

「そっちも勉強頑張ってね!いい大学行くんだよー」

 

 他愛もないやり取り。これも最後だと思うと二人とも話が尽きないものだ。結局、三十分近くも門の前で立ち話をしていた。

 

「ちょっと二人ともー?早く行かないとここから出られなくなるよー?」

 

 鎮守府から出てきたのは提督だ。いつも通り白い軍服を着ているが、執務用に使っている眼鏡を外していたのでどこか雰囲気が違って見えるな、と二人は思った。

 

「あ、はーい!」

 

「分かりました。提督、ありがとうございました」

 

「ありがとー!」

 

「うん、ありがとう……若き少女達」

 

 そう言うと、白露と海風は歩き始めた。

 

 彼女達が進む先にあるのは、まだ誰も見たことのない未来。艦娘として戦った日々の末に掴み取った、輝かしき平和な世界。

 

 そんな世界を生きていく彼女達は、幸せ者だろう。そして、その幸せを次、また次の世代へと繋げていくはずだ。艦娘の誇りと共に──                          



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