課金戦士ももたろう   作:リストラリ

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人生初の短編がこんなに狂気じみてていいのかという葛藤はある。





課金戦士ももたろう

 昔々、あるところにお爺さんとお婆さんが住んでいました。

 

 お爺さんはソシャゲイベの山場でレイドボスを狩りに、お婆さんはガチャという遥かなる運河へゲーム開始時一体確定のSSRを選択しに行きました。二人は重度のソシャゲ廃人でした。これが現代日本の行き着く果てなのかもしれません。

 お婆さんがリセマラに興じていると、ドンブラコ、ドンブラコと画面に長いローディングが流れて来ました。他と比べて端末が受け取るデータ量が多いということは、つまり高レアの可能性が高いのです。

 

 攻略サイトで評価10(最大)のキャラを引き当てたお婆さんはその喜びのままに川へと向かい、水中で勝利の舞いを踊り始めました。すると今度は川の上流から物理的にドンブラコ、ドンブラコと大きな桃が流れて来ます。

 

「おや、ずいぶん大きな桃だこと。もしかしたらスタミナ全回復系のアイテムかもしれないわ」

 

 お婆さんは大きな桃を拾い上げて家に持ち帰りました。

 そして、スタミナ回復アイテムも有償石も使い果たした二人が桃を食べようと桃を切ってみると、虹色の光と共に【超激レア!!】という文字が宙に浮かび上がり、中から元気のいい男の赤ちゃんが飛び出して来ました。

 

「これはきっと、神様(うんえい)がくださった売却用SSRに違いない!」

 

 ソシャゲのやり過ぎでありとあらゆる知人や家族に絶縁されたお爺さんとお婆さんは大喜びです。この子を売り払えば課金するお金が手に入るのですから。二人はぐぅの音も出ないほどの畜生でした。

 桃から生まれた男の子を、二人は『桃太郎』と名付けました。売却されることだけが存在意義のキャラクターに大層な名前など必要無いのです。二人の心は既に人のそれではありませんでした。

 自分以外の者を道具としてしか認識せず、一切罪悪感を抱かずに利用するサマはまさに鬼そのもの。鬼とは鬼ヶ島に巣食うものでなく、邪悪なる人の心にこそ巣食うものなのです。

 

 奴隷商人に売り飛ばされた桃太郎は子供のいなかった老夫婦に買われ、すくすく育って屈曲な青年に成長しました。

 老夫婦は極めて善良な人間性を保有していました。だからこそ桃太郎は何故老夫婦が奴隷商人と繋がりがあったのかが不思議でなりませんでしたが、救われた身で老夫婦を疑うのはあまりに恩知らずだと思い、疑念を心の中だけに留めておきました。

 

 ある日、桃太郎は老夫婦に言いました。

 

「僕、鬼ヶ島へ行って悪い鬼を退治してきます」

「どうしても行くのかい?」

「はい。これは、僕のやるべきことだと思うから」

 

 何故そう感じるのか、桃太郎にはわかりませんでした。しかし鬼ヶ島の話を聞いた瞬間から、これは自分のすべきことだと直感したのです。

 食糧として老夫婦にきびだんごを作ってもらい、桃太郎は鬼ヶ島へと向かう旅路に出ました。けれど一人旅とはどうにも寂しいもので、せめて共に鬼ヶ島に行ってくれる友が一人でもいたらなぁと思わずにはいられません。

 その願いが天に届いたのでしょうか。

 旅の途中で、犬に出会いました。

 

「ス○ージュエルの購入はこちらです!」

 

 運営の犬でした。

 蛍光グリーンの事務服を纏い、天使のような笑みで数々の絶望を生み出してきた死の商人が、いつものように微笑んで桃太郎の前に立ち塞がります。

 

「あの、きびだんご……」

「…………」

「きび……」

「…………」

「……どうぞ」

 

 多々買わなければ生き残れない。この世界では常識です。

 iTu○esカード5万円分をその場で購入した桃太郎は、トボトボと肩を落として鬼ヶ島への道を歩み始めました。その後ろを運営の犬がピッタリと着いていきます。カモを簡単に逃すつもりは無いのでしょう。鬼ヶ島について来てくれるようですが、お世辞にも友人とは言えない関係です。

 こうして、運営の犬が仲間に加わりました。

 

 しかし桃太郎の心は晴れません。当たり前です。何せ、ことあるごとに課金を勧めてくるのですから。

 せめてまともな仲間が欲しい。強欲な桃太郎は美しく可憐な天上の女神たる千川ち○ろ様を連れ回しておきながらそんなことを宣いました。到底許されるべき行為ではありませんが、どうやら神はそんな願いさえも叶えて差し上げたようです。

 桃太郎の前に、猿が現れました。

 

「ワイは猿や!プロチーター猿や!!」

 

 オンラインをチートで荒らす猿以下のゴミクズチート野郎でした。

 桃太郎は頭を抱えます。先程から部分的にしか願いが叶っていない。スタージュ○ルではなくジュエル○ードを買ってしまったりしていないだろうかと、課金で拡張したきびだんご袋を覗きますが、あいにくそこには担当でないアイドルの恒常SSR(修正前コンセントレーション)が転がっているだけです。

 

「きびだんごはもう無いけど、SSRのアイドルならありますよ」

「見せろや」

「どうぞ」

「シッコ。ええで仲間になったろ」

 

 どうやらこのチート野郎は女の子の画像ならなんでもいいようです。所詮は盛り付いた猿か。人間様とはかけ離れた畜生でしかない。

 ですが弾除け程度にはなるでしょう。桃太郎は自分とチッヒの間にオナ猿を迎え入れました。この下等生物なら喜んで課金するでしょうし、win-winの関係です。

 

 しばしの間、彼ら3人は鬼ヶ島へと足を進めます。桃太郎は浮かない表情のままでした。多分あと一人くらいはこの一行に加わるんだろうなと感覚的に理解していたからです。

 もうこの際まともじゃなくてもいいから、僕に精神的ダメージを与えないような大人しいヤツでお願いします。

 桃太郎は神に祈りました。それはもう切実に、手持ちの石で回せる最後の10連を引く時のように、心の底から神に祈りを捧げました。

 そして、神は今度こそ、今度こそ桃太郎の願いを正しい形で叶える──わけがありません。

 

「詫び石」

 

 現れたのはキジではありませんでした。無課金という鳥籠に自ら身を置いておきながら、口を開けば詫び石詫び石と運営のアカウントにタメ口で絡む乞食だったのです。

 しかもこの乞食、無課金者の分際で課金者を妬み罵倒する害悪プレイヤーでした。当然、運営の犬に脅され重課金兵となった桃太郎に力を貸すわけがありません。

 しかし桃太郎も馬鹿ではありません。この手の輩の扱い方くらいは把握しています。

 

「乞食さん」

「何だよ廃課金。何でお前らばっか優遇されてんだよ」

「僕について来てくれたなら、運営の犬たるチッヒがあなたに詫び石を配るそうです」

「運営様ありがとうございます!!あっ、フレ申請いいっすか」

 

 見事な掌返しでした。もし彼がキジなら、燕返しならぬ雉返しと激ウマギャグを言えたのですが、残念なことに彼は、詫び石一つで不満を忘れる鳥頭でしかないのです。

 

 

 かくして、桃太郎は強力な仲間を手に入れました。

 犬、猿、乞食、そして桃太郎の4人なら鬼になんて負けるはずありません。だって半数が人生の敗北者なのですから。

 既にドン底に落ちた、人間未満の虫ケラがこれ以上負けることは無いのです。

 

 

 

 

 

 ようやく、と言ったところでしょうか。

 桃太郎一行は鬼ヶ島に到着しました。桃太郎はこれまでの長い旅路を思い返します。なんかずっと課金してガチャ回してた気がしました。

 気を取り直して、桃太郎は音が聞こえる方向へ近づき、息を潜めて鬼達の様子を伺いました。

 鬼の数は2匹。近くの村から奪った宝物やごちそうを並べて宴会中のようです。

 

「みんな、ぬかるなよ。それ、かかれっ!!」

 

 桃太郎の合図とともに、4人は鬼へと襲いかかりました。

 近い方の鬼を後ろから袈裟斬りでバサリ。仰け反った鬼に犬、猿、乞食が体当たりして、そのまま地面に組み伏せます。

 もう一匹の鬼は、何が起こったのか理解が追いついていないようでした。好都合です。桃太郎はその隙に勝負を決めてしまおうと踏み込んで──ピタリとその場に停止しました。

 仲間達が何事かと訝しげな表情を浮かべる中、桃太郎は驚愕に満ちた顔で、絞り出すように問いかけます。

 

「……お爺さん?」

 

 なんということでしょう。近隣の村を襲撃し、暴虐の限りを尽くしていた鬼とは、かつて桃太郎を拾った(そして売り払った)お爺さんとお婆さんだったのです。

 よく見れば、ごちそうだと思っていたものはスタミナドリンクと金リンゴとエリクシールであり、宝物の何割かは金色に光るダブりまくったSRでした。桃太郎は理解します。ああ、きっとこれが原因だ、と。

 

 桃太郎を売り飛ばした後、お爺さんとお婆さんは特に後悔したりはせず平然と課金を続けていました。しかし、いくら年金やら株やらで収入があるとはいえ、二人の度を越した課金欲は着実にその身を蝕んでいたのです。

 貯蓄も底をつき、次は臓器を売ろうかと考えていた二人は、不意に全く同じ結論に達しました。

 

 ──他人の財産を奪えばいいじゃん。

 

 犬達に取り押さえられたお婆さんが桃太郎を睨みつけます。

 

「桃太郎……育ててやった恩を忘れたか!」

「僕売られたんですけど」

 

 お婆さんに冷たく吐き捨てながら、桃太郎は納得しました。

 ああそうか、鬼を退治しなければならないと感じていたのは、この哀れな畜生どもに引導を渡してやるためだったのか。

 刹那の内にお爺さんに肉薄し、一撃で首を跳ね飛ばします。それはせめてもの慈悲でした。金を溶かす快感に病みつきになり、身も心も人を辞め課金の鬼となってしまった彼らには、最早痛みも感じない内に殺してあげるのが唯一の救いなのです。

 

 お婆さんもその手で殺し、仲間達と別れた後、桃太郎は一人慟哭しました。

 何故だ、何故こうも二人は醜く成り果てねばならなかったのだ。確かにどうしようもないクズであった、しかし元々はそうではなかったはずだ。何かが、何かが彼らを変えてしまったのだ。

 怒りが、悲しみが、一つの概念へと収束します。

 

「そうだ、ソシャゲなんてものがあるから」

 

 桃太郎の瞳にドス黒い炎が芽生えます。桃太郎は生まれて初めて何かに憎悪を抱いていました。

 そして、桃太郎は決意します。世に蔓延るソシャゲ全てに引導を渡そうと。

 

 幸いにも、その手段を桃太郎は理解していました。それも、この旅のおかげで。

 

 乞食からは、無課金プレイヤーの課金兵への理不尽な憎悪を。

 チート猿野郎からは、たった一人がゲームを無双した時の萎えっぷりを。

 そして運営の犬からは、拝金主義が生み出した『課金』という業を。

 

 桃太郎は決めました。全てのソシャゲを終わらせると。

 その方法は至ってシンプルでした。単純な話です。要は人々からソシャゲのやる気を無くしてしまえばいいのです。

 

 廃課金装備でPvPを荒らし回り。

 複数アカでギルドを内部崩壊させ。

 ガチャ爆死した人にしつこく「俺は単発で来ましたよ^ ^」とリプを送りつける。

 

 幸いにも、ここには近隣の村々から奪われた宝物が散乱していました。課金に必要な分は十二分にあります。

 桃太郎は静かに刀を地面に置きました。これは鬼を討つために使われるべきもので、鬼が使うべきものではない。

 桃太郎は自身が鬼畜生に身を堕としてでも、ソシャゲをこの世から根絶すると誓いました。

 

 故に、ここに在るは桃太郎に非ず。

 彼こそは、あらゆるソシャゲに終焉を告げるもの。

 

 

 

 ──課金戦士・桃太郎なり。

 

 






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