何とか続きを書くことが出来ました。
すみません。
この後も後一話あります。
俺は双眼鏡で、忠実高校の連中を注視する。
あいつら、軟葉高校と紅羽高校のウォーターサーバーに下剤か何かを仕込んだのはいいが、一向に効果が表れないことにそろそろ、疑問に感じだす頃だろう。
俺は奴らがウォーターサーバーに下剤か何かを仕込む事をを予想し、伊藤と谷川には、下剤が仕込まれた総武高校が交換用意したウォーターサーバーを使用せずに、自前の物を使うように予め言い含めていた。
ついでに、犯行現場写メを取らせてもらったぞ。
もう、証拠は上げさせてもらったぞ。忠実高校。いや忠実高校生徒会長高見沢。
忠実高校生徒会、いや忠実高校生徒会長高見沢の狙いは、軟高と紅高を嵌め、総武高校といさかいを起こすことだ。ウオーターサーバーに下剤を混ぜたのが総武高校だと、軟高や紅高に思わせ、奴らを煽り、徹底的に総武高校を叩くように仕向ける。
軟高と紅高、そして忠高からターゲットにされた総武高校の生徒達は、不良共の耐性などあるわけもなく、学校に行くこともままならなくなるということだ。
それだけではない。警察沙汰にもなるだろうし、PTAやらの介入やら、下手をするとマスメディアの介入もあるかもしれない。そうなった総武高校は半年とかからずに立ち行かなくなる。
そう、高見沢の真の目的は総武高校を徹底的に潰すことだ。
高校受験で総武高校に落ちた腹いせ、いや本人は復讐のつもりだろうが、ただの八つ当たりだ。
そんなくだらない理由で、ようやく得た俺の平穏な日常を潰そうとする奴を、黙って見過ごすわけにはいかないんでな。
どうせ、ウオーターサーバーに下剤を紛れ込ませる以外の方法も考えているのだろうが、それもお見通しだ。
お前らの考えそうな事は、俺には手に取るようにわかる。
伊達に一年間、ケンカも全くできないやヘタレな俺が、不良共やお前のような小悪党共から、生き残るために、お前らの行動パターンから何から何まで研究し、逃れてきたわけじゃないぞ。
ん……動きがあるな。
俺は双眼鏡越しに、忠高の応援団に紛れ込ませた不良共が何人か動き出したのを確認した。
やはりか……
その忠高応援団の恰好下不良共4人が、運動場に併設してある平屋の体育会系部室棟へ辺りを気にしながら向かって行く。
はん。どうぜ次は総武高校サッカー部の部室を荒らすつもりだろう?紅高か軟高がやった風な証拠を残してな。
既に手を打ってある。お前らが総武高校サッカー部の部室の扉をこじ開けようとすると電流が流れる仕組みになってるんだよ。
これも、去年に俺が良く使った手だが、未だ破られたことが無い。
『電気トラップ』
車のバッテリーを使った単純な仕掛けだが、それだけ効果が高い。
ふん。案の定引っかかったか。
電気トラップを仕掛けた総武高校サッカー部部室のドアノブに手を掛けた忠高の不良の一人が、痙攣し感電し出すのが見える。
残りの不良共がドアノブを持ったまま痙攣してる奴を、ドアから引きはがそうと掴むが……全員同じように痙攣しだす。
アホだなお前ら。感電してる奴に触れると、そうなるに決まってるだろうに。
まあ、死なない程度の電流しか流していないから、安心しろ。
だが、しばらくは凄まじい倦怠感で立ち上がる事もできないだろうがな。
しかも、失禁は免れないだろう。
後は伊藤達にそいつらの処分をまかせてと……
二度と総武高に近づかせないように、白目向いて失禁してぶっ倒れてる奴らの姿を写真に収めてもらうとするか……
次はどんな手を打ってくる高見沢?
それ以外の手も想定し、対応済みだがな。
証拠もたんまり掴ませてもらったぞ。
忠実高校と高見沢を総武高校手を出せないよう、二度と立ち上がれないぐらいに徹底的に叩いてやる。
なあ高見沢。
俺はな、これほど怒りを感じたことが無かった。
総武高校を潰す目論見も大概だが、最も許せなかったのが、お前のもう一つの復讐という名の目的だ。
その為に、赤坂と早川を呼んでおいたのだが……
「や、やめて!!」
「あなた達、何を!!」
なんだ!?
俺は受付テントの裏側から双眼鏡でグラウンドの様子を伺っていたが、突如として由比ヶ浜と雪ノ下の叫び声が!さらに複数の人間の気配がする。
まさか!?
「がっ!?」
俺は振り向こうとしたが後頭部に強い衝撃が走り、一瞬目の前が真っ暗になり意識が飛ぶ。
次に体全身に衝撃が走り、痛みで無理矢理意識が戻る。
目に写ってる物は……土…地面?俺は倒れたのか?
「やめて!!ヒッキーに何をするの!!」
「やめなさい!こんな事をして許されると思っているの!!」
「ぐあぁ!」
尚も俺に背中やら頭に衝撃が……そして、横っ腹に強めの一撃で俺は仰向けになる。
「ぶははははっ、だらしねーな野郎だ」
「言ってやるなよ!不意打ちで、しかもこの人数じゃあしょうがねーよな!がはははははっ!!」
「まあ、運が悪かったと思っておねんねしな!」
俺は尚も蹴りを入れられる。
目の前には、ヤンキーの恰好をした男どもが俺を見下ろしていた。
6……12人いる。
見たことが有る顔もある!忠高の連中だ。
くっ、油断した!
この正門は人通りもそこそこあって、この場所で襲撃は無いだろうと高を括っていた!
くそっ!!忠高の連中。見境無しってわけか!!
悉く彼奴らの作戦を妨害したのがアダになったか、作戦失敗と見た高見沢の奴、なりふり構わず強硬手段にでたってことか!!
「髪の長いねーちゃんよ~、抵抗するなよな」
「このへっぽこ野郎と、ピンクの髪の子が如何にかなっちゃうぜ?」
どうやら雪ノ下は不良連中に抵抗していたようだが、その言葉で大人しく捕まった。
「や……やめろ……そいつらを離せ……」
「なんだ?総武高のもやし野郎の癖に、根性だけはあんな!?根性だけだけどな、がはっはーーー!!」
俺はその間も蹴りを入れられていた。
「やめてよ!ヒッキー、ヒッキーが!!」
「なんだねーちゃん?こんな奴をかばうのか?もしかして、こんないかにも眼鏡掛けたガリ勉野郎がいいのか?」
「そんな奴より、俺の方が何100倍良いぜ!!いい目見させてやるよ!」
「それにしても、このねーちゃん二人とも、超マビーな」
「俺らで頂くか?」
「くっ……や…めろ……」
「バカ言ってんな。ピンク髪の女は高見沢さん、黒髪の方は福田さんが用が有るんだ。手を出すと殺されっぞ。しかもよーこいつも連れて来いってよ」
「早くズラがるぞ。三橋、伊藤にバレると厄介だ」
俺は重い一撃を腹に受けその場で意識が飛ぶ。
高見沢のもう一つの目的とは由比ヶ浜だった。
俺の情報網だと、奴と由比ヶ浜は同じ中学で同じクラスメイトだったらしい。
当時の由比ヶ浜は地味であまり目立たなかったようだが、今と同じく誰にでも優しく人当たりはよかったらしい。
そんな、由比ヶ浜に優しくされた高見沢は告白したのだが、見事に振られたようだ。
それを、逆恨みしていた。
忠高に入学し、生徒会長までのし上がって力を得た今の高見沢は、虎視眈々と由比ヶ浜に復讐の機会を……いや、強引に自分のものにしようと狙っていた。
……ここまで強引に事を運んでくるとは想定外だった。
胡乱な意識の中、そんな思考を巡らせていたが……
聞きなれた声が耳に入って来る。普段は落ち着いた声色のその声は、俺も聞いたことが無いような怒りを含んだ叫び声だった。
「この卑怯者!」
「なんだと!俺のどこが卑怯者だ!?」
「言わないとわからないのかしら?こんなごろつきを集め、私の友人を人質に取っておいて、何を言ってるのかしら!」
「別に人質をとったわけじゃない。あのピンク髪の女は、俺は関係ない」
「何をぬけぬけと!私に用があるのなら、私だけを連れてくればいいじゃない……関係ない彼をこんな目に遭わせて……こんな事をやらかしてただじゃすまないわ!」
「……強引だったかもしれねーが、お前が俺を認めないから悪いんだ。素直に俺の許嫁になれば、こんなマネはしなくて済んだんだ!」
「誰が貴方のような、世間もろくに知らない成り上がりの子せがれの許嫁なんて、キッパリ断ったはずよ!」
「雪ノ下雪乃!!俺を見ろ!こいつ等を従えて、何でも思い通りに出来るんだぞ!!そこの転がって寝てる男とは格が違うんだ!!」
「誰があなたなんかと!!虫唾が走るわ!!」
……俺は薄目を開けてこの状況を確認する。
俺は後ろ手を縄で縛られ地面に転がされてる。致命傷はなさそうだが体中の彼方此方が痛い。
どうやらここは建物の中の様だが、殺風景だな。どこかの古い倉庫か廃工場のようだ。
そして、目の前では雪ノ下の後姿が見える。雪ノ下も同じように後ろ手を縄で縛られているが、立って目の前の男と口論を繰り広げている。
雪ノ下と口論をしてる男は……忠高の福田か。
福田の後ろと俺や雪ノ下を遠巻きに囲むように、不良共が…8…10人はいるな。
俺と雪ノ下はどうやら、総武高校の正門に襲撃してきた連中にここに連れてこられたようだ。
福田の奴の目的は雪ノ下か………
この状況で雪ノ下は物怖じ一つしていない。
流石だな。
俺だったら、足がガタガタ震えて、まともに立てないまである。
この福田の実家は成金の金持ちだ。不動産で一山も二山も当て、今では千葉でも有数の資産家だ。
こいつは親の金を湯水のように使い、不良やチンピラを雇って、地元で傍若無人にふるまってるような奴だ。
去年、三橋を金で雇って、伊藤を潰そうとしたが、目論見が外れて、二人にボコボコにされた口だ。
千葉で手広く建設業を営んでいる雪ノ下の実家とは、繋がりが有る事は知っていたが、こんな話があったことは知らなかった。許嫁とかなんとか言ってる所をみると、福田家から雪ノ下家へ、雪ノ下を嫁にとアプローチをかけたみたいだが、見事袖にされたようだ。
しかし、福田自身がまだ、雪ノ下を諦めきれずに……こんな方法で強引に迫っているという事か……、全くの逆効果だと思うがな。
まあ、高見沢の口車にまんまと乗せられたのだろう。
……問題は由比ヶ浜だ。由比ヶ浜がこの場に居ないという事は、高見沢が居る別の場所に連れていかれた可能性が高い。早く手を打たないと手遅れになる。
福田と不良共10人……不良共は見知った顔が半分か……これなら何とかなる。
開久100人の前に放り込まれた時に比べれば幾分かましだ。
ただ……雪ノ下には俺が恐目の八幡だとバレてしまうリスクはあるが、そうは言ってられない。
俺は気絶したふりをしながら、制服の袖に仕込んでいるヤスリで、周りにバレないように手首の縄を切って行く。
何で、そんなものを持っているかって?
昨年の不良との抗争に巻き込まれた経験上、こういうツールは普段から持ち歩いている。
何かと便利だ。俺の制服には、こういうものを複数結構仕込んである。
しかし、なぜ俺もここに連れていかれたのか?
最初は、俺が元軟葉高校の恐眼の八幡だとバレて、高見沢の所に連れていかれたのではと思っていたのだが違ったようだ。
バレても居ないようだ。という事は、唯の総武高校の一般男子生徒の俺に用事があるという事か?
「……その男だな。俺は知ってるんだぞ!!お前が!!この男とデートをしてるのを!!」
何言ってるんだ?福田は……俺がいつ雪ノ下とデートなんてしたんだ?
「な!?な、何を言ってるのかしら!私が比企谷君とデートなんてするわけないでしょ!!」
「その男ヒキガヤって言うのかくそっ!千葉の駅前モールで!!そこの男と仲良く買い物をしていたのを俺は見たんだ!!そんな男のどこが良いんだ!!いかにもガリ勉野郎の!!俺の方が金も権力もある!!俺の女になれ雪乃!!」
……あれだな。由比ヶ浜の誕生日プレゼントを買いに行った時の事だな。
まあ、他人からすれば、デートに見えない事もないか……実質は全く違うのだがな。
「と、取り消しなさい!わ、わ私は比企谷君とデートなんてしてないわ!勘違いも甚だしいわ!!」
おい、取り消すのはそこかよ。俺とのデートと思われるのはよっぽど嫌なのかよ。
どうやら、俺は雪ノ下の彼氏か何かに勘違いされて、連れてこられたようだ。
多分福田は、俺を雪ノ下の前で辱めるつもりなのだろう。俺よりも福田の方が優れているという事を見せつけるために。
そんな事をしても、雪ノ下はお前になびくはずもないのにな。
ふう、まあいい。
福田が雪ノ下をどうこう出来るとは思えない……強引にモノにするような勇気もないだろうし。
それよりもとっとと由比ヶ浜を助けにいかないと……高見沢の奴はガチだ。
その為にも早くこの場を切り抜けなければならない。
覚悟を決めたハズなのに相変わらず俺はチキンだ。
早鐘のように脈打つ鼓動、いい加減に静まりやがれ。
心臓の音もうるさい。
体の震え、止まりやがれ。体中の痛みなんて気にするな!
俺は今から、こいつらを助けないといけないんだ。
落ち着け……俺はチキンでヘタレな比企谷八幡じゃない
俺は今から、軟葉高校元ナンバー3。恐眼の八幡だ!
俺はこのタイミングでゆらりと立ち上がり、福田に声を掛ける。
「よう福田。不意打ちとは随分じゃねーか」
「ようやく目が覚めたかチキン野郎……ん?なんだ?お前?お前と、どこかで会った事あったか?」
福田は疑問顔で俺を見る。
「比企谷君……あなたはじっとしてて…血が出てるわ。病院に行かないとまずいレベルよ」
雪ノ下も俺の声で振り向き、心配そうな顔を向ける。
お前、そんな顔も出来るんだな。
「気にするな雪ノ下」
俺はゆらゆら前へと歩き出す。
正直体中が滅茶苦茶痛い。頭から流れ出た血が片目をふさいでる。足取りも重い。
だが、頭の中は妙にスッキリしていた。
俺はここで、切った縄を見せつけるように放り投げ、眼鏡をはずし福田を思いっきり睨みつける。
「忘れたか、この目を」
「縄をどうやって……な……なななな!?その目!!その面!!恐眼の八幡……だと!?」
福田は一歩二歩下がり、恐れおののいていた。
それに気が付いた福田の取り巻きの不良共も、驚きの表情を隠せていない。
……いつも思うのだが、眼鏡の脱着程度で別人レベルで変わるものなのか?俺の人相。
まあいい。つかみはOKだ。
こうなれば俺のペースだ。
俺のこの腐ったとか言われてるこの目と口八丁でこの場を切り抜ける!
「福田……8カ月ぶりか?軟高と忠高との終戦交渉以来だな。あの時散々三橋と伊藤にボコられて、俺らにちょっかい出さないって、泣いて詫び入れたんじゃなかったのか?」
「くっ!くそ!な、なんでお前がここに!!関西に引っ越したんじゃねーーーのか!?しかもその制服!総武高校だろ!!ど、どういう事だ!!」
福田の奴、いい狼狽ぶりだ。相当困惑してるな。
俺はゆっくりとした足取りで、雪ノ下の前に割って入り、福田と対峙する。
「あなた……」
雪ノ下は俺とのすれ違い様に不思議そうな顔をしてたな。
俺は小声で「あとはまかせろ」とだけ伝える。
さあ、行くぞ。俺の本領発揮だ。
「ふん。そんな事はどうでもいい。お前、雪ノ下に手を出してタダで済むと思ったのか?こいつの実家とお前んところの家じゃ、格が違うぞ。古くから建設業を営み、地盤を固め、千葉の財政界に大きな力を持ち、さらに千葉の議員のこいつの親父さんと…千葉南端の宅地開発ブームに乗ってヤクザまがいの土地ころがしで、金を得ただけの成金のお前ん家じゃ。振るえる力が格段に違うぜ。
雪ノ下の家が本気だしたら、お前の家なんて一瞬でゴミ塵だ。
そんなんもわからんのか?このボンボン」
「……い、家なんて関係ねーー!!」
福田の奴……意外と根性あるじゃねーか。本気で雪ノ下に惚れたか?
「お前……姉の雪ノ下陽乃に会った事が有るか?」
「………」
俺の言葉に福田の表情は真っ青になる。
やっぱりな。あの妹大好きヤンデレの雪ノ下陽乃が、自分の妹(雪ノ下)を嫁にくれと言ってくる奴を放っておくわけがない。何か相当な脅しを掛けられたはずだ。
「まあいい。どうせお前、高見沢にそそのかされて、こんな事をしでかしたんだろ?今だったらまだ間に合うぞ。俺達を解放しろ……って。まあ、勝手にここを出て行くがな」
「そ、そうはいかない!お前をボコって、雪乃は俺が貰う!!おいお前ら、ビビってんじゃねーー。こいつはもうボロボロだ!立ってるだけでやっとのはずだ。こいつを倒した奴は10万やる!!」
福田の取り巻きの不良10人が、その声でビビり顔からいやらしい笑みへと変わり、俺と雪ノ下を囲みだす。
……まあ、こいつらの残念な頭程度だと、こうなるだろうな。
福田を含めると11対1か……
まともにケンカすれば俺は一瞬でやられて、下手をすると雪ノ下に手をだすかもしれない。
……まともにケンカすればだがな。
殴り合うだけが、戦いじゃない。特に集団戦はな。
心理的に優位に立ち、相手の恐怖を植え付け、戦力を削るだけで集団は瓦解する。
幸いにも福田以外の不良10人のうち、6人は俺のマル秘データで調べが付いてる奴だ。
やる事はひとつ……
「おいお前ら、確かに俺は不意打ちを食らって、ボロボロだ。今だったらお前ら程度でも俺を倒せるかもな。……だがな。俺をこの場で確実に殺せよ。じゃねーと…………後で何をしでかすかわからねーだろ?」
俺はここで目を大きく見開きニヤついてみせる。
そう、これは俺の最大の威嚇だ。この目を見てビビらなかった雑魚不良は居ない。
「ななな、は、はったりだ」
「ああ、あの恐眼の八幡を倒して名を上げるチャンスだ」
「た、倒したら10万なんだ」
不良共は恐怖で顔を引きつらせながらも、精いっぱい虚勢をはる。
効果は抜群だったな……
「なんだお前ら、1対10だぞ?ビビったのか?……まあ、自分の身は大切だよな。それだけじゃない。誰にでも大切なものはある……そこのスキンヘッドのお前!!足立竜男!忠実高校2年4組17歳!まだ30代の母親がいるよな。お前一人をここまで育ててくれた大切な母親が……勤務先は確か、○○スーパーの夜間時間帯責任者だったか、いつも帰りは遅いらしいな……お前の家までの夜道は街灯も少ないな。暴漢に襲われなければいいがな」
俺はスキンヘッドの男をビシッと指さし、こう脅した。
「はわわわ、な、なぜそれをーーーー!!や、やめてくれーーー!!」
「ん?何を慌てている。俺はまだ何もしてないぞ。まだな」
眼を細めニヤリと口を歪ませる。相手はさらに恐怖に落ちいる。
「右のロン毛のお前!!お前は服部奏太!!フリーターの18歳。家を勘当同然に追い出されたお前を、4つ上の姉が毎日アパートに来て、飯を作ってくれてるそうだな!ん?そう言えば、小学校の卒業文集に、将来は姉ちゃんと結婚とか書いてあったそうだな。そうかお前はシスコンか……悪い男には気をつけるのだな」
「や、やめーーー!!姉ちゃんだけは!!」
ロン毛の不良は狂乱し叫びだす。
「そこの毬栗頭のは!前田健司!!忠高3年5組……最近年下の彼女ができたとか……ふう、何度も告白してようやくOKしてもらったそうだな……初デートはまだか?そうかそうか……まだの様だな。まあ、何が起きるかわからんのが世の中だ」
「ぎゃーーーー!!それはーーー!!」
「何をそんなに慌ててる。俺はお前らの、身内の話をしてるだけだ」
俺は思いっきり、取り巻きの連中を睨みつける。
その場に居る全員が恐怖で顔を引きつらせていた。
恐怖は伝染するものだ。
「お前は、井上幸三!!アルバイトをしまくって最近買ったバイクがある!!そこの多田健司!!二つ下の可愛がってる妹がいる!!」
俺は次々と、不良共のプライベートを暴き、さらに恐怖に追い打ちをかける。
そして、遂には取り巻きの不良の一人が叫びながらこの場から逃げ出し、それが発端となり次々とこの建物から我先へと逃げだしていく。
集団戦において、心理戦はすさまじい効果を表す。
恐慌状態に陥った兵は、普段の10分の1も力を発揮しない。
さらにだ。2割の戦力を削ると心理的劣勢の元、敵は負けを悟り逃げ出す。
まあ、こいつら程度だったらこれで十分だ。
「残りはお前だけだ福田」
後はポツンと取り残された福田だけだ。
こいつは一人だったら何もできない。
「く、くそーーー、雪乃は俺の女だ!!」
福田は近くにあった鉄パイプを手に取り、俺に襲い掛かって来た。
誤算だったな。結構根性あるじゃねーか福田。それともよっぽど雪ノ下が好きなのか?
「比企谷君!」
雪ノ下の叫び声が聞こえるが、俺はこうやって立ってるだけでやっとだ。
これは避けられない。確実に病院送りだな。痛いのは嫌なんだが……
……後ろ手を縄で縛られてるとはいえ、雪ノ下だったら福田一人から逃げ出すことは容易だろう。
由比ヶ浜の事は気がかりだが……あいつらがきっと何とかしてくれる。
しかし、福田が振るった鉄パイプは俺には届かなかった。
「やっぱりお前は男だな。そのボロボロの状態で女をかばって仁王立ちか」
いや、ただ単に動けなかっただけだ。雪ノ下を庇ったわけじゃない。
ツンツン頭の大きな男が福田の後ろに立っていた。福田が振るおうとした鉄パイプを後ろから掴んでだ。
「……遅いぞ。伊藤……」
相変わらずカッコいいじゃねーか伊藤。出てくるタイミングもばっちりだ。
安堵したのか、足が震えだし、俺はその場で崩れるように座り込む。
「しょうがねえだろ?お前を探すのに結構苦労したんだ」
「GPSで俺の位置が分かるようにしてただろ?」
「……いや、使い方がわからなくてな」
そう言えばこいつはITオンチだったな。早川にでも聞けよ。
「……で、三橋は一緒じゃないのか?」
「三橋はこの倉庫から逃げ出した奴らをボコってる。逃げて来た奴ら、相当怖がっていたぞ。どんな脅しを掛けたんだ?」
「いや、ただの話し合いだ」
「お前って奴は相変わらずだな……」
伊藤は呆れたように言う。
「弱虫くーーーん、何連れ去られてるんだ。ひ弱くんかお前は?それとも女に間違えられたか?腐った目なのにか?ぷくくくっ」
そこに学ラン姿の金髪パーマの三橋がポケットに両手を突っ込みながら、軽快なステップを踏みながら現れる。
「……言ってろ」
「ぷっ……ぷくくくくくっ!ぎゃーーーーはっはっはーーーーー!!腹痛てーーーーー!!ははっ、八ーーー!!俺を笑い死にさせるつもりかーーーーーー!!お前の顔!ボコボコに、ぷはははははっ!!伊藤!!見ろよこいつ!!リアルゾンビだぞーーーーーーー!!」
殴られて傷や痣だらけの俺の顔を見た三橋は、転げまわって笑いだす。
こいつは、こういう奴だった。
「ぷっ、そういう事を言うなよ三橋。ぷくくっ、この傷は、お、男の勲章だぞ。ぷくっ」
伊藤、お前も笑ってるからな。我慢してるようだが、漏れてるからな。
「三ちゃん!はっちゃんに失礼だよ!う……うふふふ」
三橋の後を付いてきて現れた赤坂が、笑い転げまわる三橋に注意しながら、雪ノ下の後ろ手で縛られてる縄を解いてくれていた。
……赤坂、お前も顔がニヤついて、笑いが漏れてるぞ。最近三橋に影響されすぎじゃねーか?
何?俺が殴られてボコボコになった顔ってそんなにゾンビな感じなのか?
おい、雪ノ下!お前もか!口を必死に押えてるが、それ笑ってるだろ!
ふう、こんな目にあった直ぐだというのに雪ノ下は度胸があるというかなんて言うか……まあ、悲壮感を漂わすよりもましか……
はぁ……、相変わらず緊張感のない奴らだ。
しかし、こいつら程、こんな状況で頼れる奴は他に居ない。
今回のネタは某軍曹殿をオマージュですね。