今日から俺は……   作:ローファイト

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感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

ようやく完結です。
読んでくださった方々ありがとうございます。



第七話

殴られて傷や痣だらけの俺の顔を見て、笑い転げる三橋を余所に、重い腰を上げ立ち上がる。

福田には聞かないといけない事がある。

 

「はっちゃんダメだよ。結構怪我酷いよ」

「比企谷君!動かないで、じっとしてなさい」

立ち上がったはいいが、二人にあっさりと捕まり強制的にその場に座らされる。

……赤坂は合気道の道場の娘で、確か雪ノ下も合気道の有段者だっだな。

殴り合いのケンカだったら俺よりもこの二人の方が間違いなく強いだろう。

というか、俺は赤坂が不良共相手に、1対5で制したのを見たことが有る。

俺が軟葉高校ナンバー3なんて呼ばれていたが、ケンカをすれば間違いなく、三橋や伊藤に次ぐ実力を持ってる。しかもあの三橋を多少なりともコントロールできるのだから、校内では裏番と実しやかに囁かれてる存在なのだ。

不良共は全員、赤坂の事を理子さんとさん付けで呼んでるしな。

三橋のいう事を聞かなくても、赤坂のいう事は素直に聞くしな。

 

「はっちゃんが怪我するのはいつ以来かな」

赤坂は持ってきた薬箱から包帯やら消毒液を取り出し、慣れた手つきで俺の頭の傷に消毒をし包帯を巻いて行く。

 

「ごめんなさい。私のせいで」

雪ノ下も俺の顔の傷に消毒を開始。

この状況、冷静に考えれば美少女2人に触れられてる図なのだが……

 

「いや雪ノ下のせいじゃない。っつぅ、いっ痛っ!消毒液濃くないか?」

全然うれしくない状況だ。なにその消毒液、滅茶苦茶痛いんだけど、殴られるよりも絶対こっちの方が痛いぞ!

俺はあまりの痛みにジタバタする。

 

「はっちゃんじっとしてて!包帯巻けないよ」

「何を情けないことを。あなた、さっきの啖呵はどうしたの?」

赤坂に頭と肩を、雪ノ下に顔を掴まれ、身動きが全くできなくなった。

これって、合気道の術かなにか?まったく動けないんだが……

雪ノ下を助ける必要があったのだろうか?

 

「うぐっ、痛っ!……ふ、福田!由比ヶ浜を……ピンク色の髪の女子をどこに連れて行ったか教えろ!」

俺は情けなく治療されながら、頭をたれる福田に聞く。

福田は伊藤に後ろでを掴まれ、地面に膝をつき身動き一つできず、顔色も真っ青だ。

 

「女を攫うとはな…ふざけた野郎だ。てめぇ」

伊藤が福田に物凄い形相で凄む。

いや、伊藤。やり過ぎると福田がしゃべれないぞ。

ああ、ほらビビりまくって、震えてるぞ。

 

「……し、知らね」

この状況でしゃべらないか。意外と根性あるじゃねーか。

俺だったら伊藤に睨まられたら、ポロっとしゃべっちゃうかもしれん。

 

しかし……

雪ノ下は俺から離れ、福田の前に立ち、侮蔑を含んだ氷柱で突き刺すような視線で見下ろしていた。

「由比ヶ浜さんの居場所を吐きなさい。もし、由比ヶ浜さんに何かあったとしたら……あなたを許さないわ!私と雪ノ下の全力を持って、あなたと一族郎党を社会的に抹殺し、二度と世間に顔を出せないようにしてあげるわ」

 

「……お、おい。ちょっとまて」

雪ノ下さんマジで怖いんですが。

何その脅し、俺がこいつらにやった脅しよりも怖いんだけど、いや、こいつの場合本当にやりかねない。

しかも、そんな虫けらを見るような目で見られたら、自殺しちゃうまである。

 

「比企谷君わかっているわ。まだ、生ぬるいと言いたいのね」

ええっ?今ので生ぬるいのかよ。

 

「いや、そうじゃなくてだな」

 

伊藤が青くなって引いてるぞ。

さっきまで笑い転げてた三橋も赤坂の後ろに隠れて震えてるんだが!

 

「そうね。ありとあらゆる手段を用いて、二度と塀の外に出られないようにしてあげるわ。幸い優秀な弁護士団が雪ノ下にはついているもの。日本に二度と踏み入れないようにするのもいいわね。それに一生空気の薄い土地でコーヒー栽培でもしてもらおうかしら?」

おいーーー!!怖い、怖いよ。雪ノ下さん。

 

ほら福田の奴、涙目じゃねーか。もう泣いちゃうぞ!

「その……その」

 

「そのじゃないわ!はっきり言いなさい!」

 

「す、すみませんでした!あなたのお友達は、○○町の福田不動産が経営する改装中のラブホテルに高見沢と居るはずです。だから殺さないで……」

もう半泣きだよ福田。

福田よ。こんな恐ろしい女を嫁にしようとしてたんだぞ!

 

「だそうよ。比企谷君」

雪ノ下は良い笑顔で振り向く。

 

「おい――八!あのねーちゃん滅茶苦茶怖いぞ。京子(早川)と同じで、長い黒髪美人はみんなあんなのか?」

三橋は焦り顔で俺にこんな事を耳元で囁いてくる。

全く持って同意だ。

 

「はっちゃんの彼女さん。しっかりしてるね」

赤坂はこんな事を言ってしまう。

 

「か、勘違いしないで、私は比企谷君とはそんな関係じゃないわ」

 

「え?そうなのはっちゃん?お似合いだと思うんだけどな」

 

「た、ただの部活仲間よ!」

「赤坂、勘違いだ」

雪ノ下と俺は同時に赤坂に言う。

 

「えーーでも、はっちゃんがあんなに一生懸命、助けようとしてたのに?」

 

「そう、違うわ!」

雪ノ下は何故か顔を赤くして、プイっと横を向く。

 

「残念。そう言えば自己紹介はまだだったね。私ははっちゃんの前の学校の友達で赤坂理子」

 

「雪ノ下雪乃です。比企谷君と同じ部活で部長をしているわ。改めて助けに来てくれてありがとうございます」

雪ノ下は自己紹介をし、赤坂に綺麗なお辞儀で礼を述べる。

 

「うん。はっちゃんから聞いたことがあるわ」

 

「比企谷君に友達が居たのは意外だわ。しかも女の子の」

 

「そう?はっちゃん。前の学校では結構人気だったよ。で、あそこにいる金髪のがさんちゃん。トゲトゲが伊藤ちゃん。みんなはっちゃんの友達」

赤坂。それは語弊があるぞ。別に人気とかじゃない。

何故か恐れられていたんだ。噂が噂を呼び。怖眼の八幡の名だけが知れ渡っただけで。

 

 

 

 

 

「さーて、八……俺をダシにして罠に嵌めれると思った勘違い野郎の顔を拝みに行くか」

三橋は福田を柱に括りつけ、マジックで顔に『女に脅されチビリました』と書いてから、ポケットに手を突っ込み俺の方に向かってくる。

三橋はこんな言い方だが、由比ヶ浜を助けるのを手伝ってくれる気満々だ。

 

「ああ」

 

「女を攫う腐れ外道を放っておくわけには行かないしな」

伊藤が座ってる俺に手を差し伸べ、立ち上がらせてくれる。

 

「そうだな」

俺は伊藤の肩を借り、この倉庫の出入口に向かって歩き出す。

 

 

「比企谷君無茶よ。応急処置はしたけど、酷い怪我よ!……それにあなた」

雪ノ下はそう言って引き留めようとしてくれたが、赤坂に肩を抑えられ止められていた。

 

 

「雪ノ下は赤坂と学校で待っててくれ。由比ヶ浜を迎えに行ってくる」

俺は顔だけ振り返る。

俺は高見沢と決着をつけないといけない。

 

「大丈夫だよ雪ノ下さん。必ずお友達を連れて帰ってくれる。だから待ってよ?さんちゃんと伊藤ちゃんはすごく強いんだから、それにはっちゃんも」

 

「でも、比企谷君は……」

 

「ねーちゃん。彼奴をあんまり侮るなよ。八の奴は普通に殴り合いすれば軟高でも最弱だ。しかし奴はケンカに負けたことがねえ。勿論俺が日本一強い。……だがな、スイッチの入った八は強ーぜ。この俺でも相手をしたくないぐらいにな」

三橋も雪ノ下に何やら話してから、俺と伊藤の下に軽快に走って来て、「痛そう」とか言いながら悪戯っぽい顔で俺の傷口を突っつきだす。

マジで痛いんでやめてくれ。

奴が雪ノ下に何を言っていたか聞こえなかった。

悪口じゃなきゃいいが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

福田が言ってたラブホテルはここか。

外装か何かの工事で、建物全体足場でおおわれていた。

 

道の角からラブホテルの様子を窺う。

 

結構手下を置いてやがるな。外だけでも10人ぐらい居やがる。

総武高校での作戦失敗で、警戒してるようだな。

 

「三橋、八幡正面から行くか?」

 

「伊藤と八は正面突破。俺は裏口から行くべ」

 

「……またそれか。お前ばっか楽しようとしてるんじゃないだろうな三橋?」

伊藤は三橋に食って掛かる。

 

「まあ待て、まずは俺一人で正面から行く。それが高見沢の面を拝む最短な方法だ」

 

「どういう事だ?お前一人って」

 

「けっ、そういう事かよ八。せいぜい頑張んな」

三橋は俺の意図を察したようだ。

 

高見沢は警戒している。

無理にここを正面突破を図ろうとすれば、高見沢はその騒ぎを察知し、逃走を図る可能性がある。

俺達は3人しかいない。いくら三橋と伊藤が強かろうと、この大きな建物すべてをカバーすることはできない。

高見沢は由比ヶ浜を連れて容易に逃げる事が出来るだろう。

ならば、騒ぎを起こさず、警戒されずに高見沢に会う方法は……

 

 

俺は赤坂と雪ノ下に治療してもらった包帯や絆創膏などをすべて剥がし、再び眼鏡を着用し、ふらふらとラブホテルの入口へ向かう。

 

 

案の定、ホテルの表で屯してる高見沢の手下連中が俺に近づいてくる。

 

「ぐっ……軟高の三橋と伊藤にやられた。……総武高校の生徒のふりをして、彼奴らを騙す作戦がバレたんだ。高見沢さんに早く詳しい報告しないと……」

俺は情けない面をしながら、迫真の演技で奴らに訴える。

 

「何!?そりゃ大変だ。高見沢さんは3階の304号室だ。早く行け」

ごつい男がいとも簡単に高見沢の居場所を教えてくれた。

チョロい。

 

「すまねー」

俺はそう言ってホテルに正面玄関から、入ろうとする。

 

「ちょっとまて……お前、なんで携帯で知らせない。何かあればすぐに連絡する段取りだっただろ?」

メガネの男が俺の肩を掴み、訝し気に聞いてきた。

忠高の不良共の中に警戒心の高い奴が紛れていたようだな。

 

「……携帯は壊された。仲間も俺もボコられた。奴らが他に行ってる隙に、逃げて来たんだ」

 

「お前……どこのチームの奴だ?見ない顔だ」

メガネの奴、俺を疑ってるな。

まあ、そうだろう。

だが、この程度の事を切り抜けられないようでは、あの軟高での1年間、不良共から逃げ切れていない。

 

「おい、こいつは本当に殴られてるぞ。結構酷い怪我だ。それなのにここまで来たんだぞ」

ごつい男がメガネの奴を説得してくれる。

 

「……3年の南さんに誘われて、軟高と忠高を潰すって聞いて参加したんだ。でもあの悪魔三橋に南さんもボコられて、動けなくて……俺に言伝を……」

俺は震えながら答える。

必殺、素の八幡を出す術。……ちょっと気を抜くと、目の前の現実にビビッて震えずにはいられない俺の性質を利用したものだ。気を抜き過ぎると、あまりの事にその場で吐いてしまうまである。

 

「ちっ、南の奴。作戦失敗しやがったのか!もう、行け」

メガネの奴は納得したのか、そう言い放って俺を解放する。

ちなみに南とは、俺の電気トラップに引っかかった間抜けだ。

俺の不良マル秘リスト忠高編にも載ってる奴で、忠高でも結構上の方のランクの不良だ。

 

 

俺は304号室の前に立つ。

扉の外に2人待機していたが、三橋と伊藤が襲撃してきたとこそっと伝え、応援に行かせた。

さらに、ここに来る前に管理室から、スペアキーを拝借している。

抜かりはない。

 

扉に耳を当て、部屋の中の様子を窺う。

部屋の中にも手下が居たら厄介だ。

なかなか重厚な扉だ。防音対策も意外とばっちりだな。

金属ノブ付近はまだましの様だ。かすかに中の声が聞こえてくる。

 

『いや!!やめてよ!何でこんな事をするの!?』

 

『僕の事なんかすっかり忘れたくせに!!このビッチめ!!……まあいいや。今から忘れられないようにしてあげるよ』

 

『いやーーー!!来ないで!!ヒッキーーー!!』

 

『ヒッキー!?僕の前で他の男の名前を出すな!!……残念だったね。あの部活のあの男は、潰したよ。……もう、二度と僕らの前には出てこないさ』

 

(バシッ)

 

『いっ、いやーーーー!!』

 

(バシッ)

 

…………

………

 

俺は気が付いたら、持っていたスペアキーで扉を静かに開け、部屋の中に入り後ろ手で鍵を閉めていた。

 

「くそったれ……汚ねえ手を離せ」

目の前では、丸い大きなベッドの上には足と手首を縛られ、上着を脱がされ半裸となった由比ヶ浜が、色白の男に組み敷かれていた。

由比ヶ浜の目には涙が……そして頬は赤い手跡が見て取れた。

 

「この部屋に勝手に入るなと言っておいたんだけど……ん?鍵は閉めてあったよね……それに君ボロボロだね。ん?その制服は……」

色白の男はベッドの上で由比ヶ浜を抑えつけたまま、上半身を上げ、不思議そうにこっちを見ていた。

 

「……ヒ…ヒッキー?」

 

「聞こえないのか?俺は離せと言った。由比ヶ浜から離れろ……」

俺は全身が震えるのを感じる。

恐怖心からじゃない。

今迄感じたことが無いぐらい体が熱い。

これは……怒りだ。

 

「ん?……ヒッキー?……由比ヶ浜さんの部活仲間の男かな?福田君、逃げられたのかな?ふーん。使えない奴だね福田君は、今からいい所だったのに」

色白の男はおどけた顔で、こんな事を言っていた。

その右手はまだ由比ヶ浜の頭を抑えつけていた。

 

「どけと言った!!高見沢ーーーっ!!!!」

由比ヶ浜を組み敷く高見沢に向かって、右手を振り上げて突っ込む。殴るとかじゃない体当たりだ。

俺は既に元々考えていた作戦なんてものはすべて頭からすっ飛んでいた。

目の前で起きてる現象は……由比ヶ浜に行いつつあった行為は許せるべきものではなかった。

こうなっている可能性は十分あった。既に手遅れの可能性だってあった。それでも冷静に事を運ぼうとさっきまでは考えていた。

しかし目の前で、由比ヶ浜は高見沢に手を上げられ、純潔や尊厳も何もかもを奪われようとしていたのだ。

とても冷静ではいられなかった。

 

 

高見沢は俺の体当たりをかわし、ベッドから飛びのく。

「何をするんだい。それに何で僕の名前を知ってるのかな?君風情が?」

 

高見沢は不思議そうな顔をしたままだ。

慌てるでもなく、怒りをさらすでも無くだ。

 

しかし、由比ヶ浜から奴を離すことはできた。

 

「ぐすっ……ひっく…ひっ、ヒッキー……ヒッキー」

手足を縛られたまま啜り泣く由比ヶ浜。

俺は由比ヶ浜の様子をサッと確認する。

……どうやら寸でで間に合ったようだ。だがそれは体の話だ。精神は別だろう。

俺は頭に登り切った血と熱はそのままだったが冷静さを取り戻す。

 

「高見沢……お前は終わりだ。お前のくだらない復讐も終わりだ」

俺はベッドの上で由比ヶ浜を庇うような体勢で、高見沢を見下ろす。

 

「ん?邪魔者が居たようだけど、君かい?……まあ、まだまだ作戦は続いてるんだけどね。でもね。僕の可憐な作戦を崩し、一番低いレートのパターンってのは気に入らないね。君はとことん潰すよ。もう二度と学校に行けないぐらいにね」

高見沢の雰囲気が変わった。

俺を嘲るような視線を送ってきた。

 

「いや、全て終わりだ。お前の敗因は俺の存在を見落としていた事だ」

俺は掛けていた眼鏡を外し放り投げ、目の前の高見沢を最大限に睨みつける。

 

「ん?んんん?……き、君は!?八幡!!軟高の知将八幡か!?何故総武高校に!?」

高見沢は驚きの表情をしていたが、俺に睨まれてビビった様子はない。流石だな。

 

「驚いてくれたか高見沢。そして終わりだと」

 

 

高見沢は頭を垂れ、肩を震わせだす。

 

しかし……

「くくくくくくっ!!はははははははっ!!今日は何ていい日なんだ!!」

高見沢は天井を見上げ目を大きく見開き高らかと宣言するかのように叫ぶ。

 

「……何が可笑しい?」

 

「だって君!誰も倒せなかった千葉一の知将八幡を今日この場で僕の手で倒せるんだから!!そして、由比ヶ浜さんも僕の物になる!!三橋と伊藤が総武高校を出て、僕らを探してる事は最終報告で聞いてるよ。しかもだ。作戦を妨害していたやっかいな君がここに居るという事は、総武高校での最終作戦を阻止できる奴がもう居ないという事だよ!!これで総武高校も潰れる!!これは笑わずにいられないよね!!」

 

「総武高校を潰す最終作戦とはなんだ?」

 

「くふふふふふ!いいよ。気分が良いから教えてあげるよ。君が作戦を阻止してくれたおかげで一番苛烈な方法を取るのさ。忠高の不良と雇ったチンピラを使って、総武高校に総攻撃を行うのさ!男は殴り倒し、校舎は破壊!女は攫い、売りでもさせるさ!くはははははははっ!!忠高も大ダメージは受けるけど、僕には被害が及ばない!!それだけじゃない。これをコントロールすれば僕はもっと力を得ることが出来る!!」

 

「はぁ、お前は本当に終わりだな。俺がそんな事をさせると思ってるのか?」

 

「何がだい?君はここにいて、僕に今からボコられるのに何が出来るって言うんだい?」

 

「……まあ、いいや。お前どうせ終わりだし、ちょっと教えてやるよ。……紅高の番長の今井さ、今日サッカーの試合に出てるんだよな。それ以外にも細工はしておいた」

今井はこういう時のために変装をさせ、じっとさせておいた。

さらに俺は応援に来る方々にもちょっと細工をしていた。

荒くれものが多い地元の青年団、消防団や自警団の方々にも、この日の試合の招待状送ってる。

俺はこう言いながらも一抹の不安を覚えている。今井の奴がちゃんと総武高校にとどまってくれてるかだ。谷川には試合が終わるまで学校の外には出すなとは念を押してるが……あいつはケンカが有る方向に誘引灯に群がる虫の如く突っ走るからな。

 

「い、今井?そんな報告は受けてない!!どういう事だよ!?……まあいいよ。バカな今井一人で何ができる?」

今井、お前どこに行ってもバカ扱いだな。良い奴なんだけど、まじもんのバカだからな。

 

「今井をなめるなよ。あいつはバカだが強いぞ。開久にたった6人で突っ込んだ男の一人だからな。それに紅高や軟高の応援団には手練れをそろえてる」

 

「くっ……、まあ、万が一失敗しても、僕には影響ないし次が有る。総武高校潰しは何時でも再開できる。とりあえず今日は君を潰して、由比ヶ浜さんを手に入れるだけでも良しとしよう」

高見沢の色白で神経質そうな顔が、ようやく歪んできやがった。

 

「ずっと、安全なところでぬくぬくしていやがったお前が、俺をどうこう出来ると思ってるのか?」

俺はさらに目を細め、奴を威圧する。

……実は、高見沢とまともにケンカして、とてもじゃないが勝てる気がしない。

奴はああ見えて空手三段だ。対して俺はケンカなんてやった事ない。多分最弱だ。

どうする俺……地味にピンチだぞ?

落ち着け、俺の目的は由比ヶ浜を助けることが一番だ。それさえ達すれば後は何とでもなる。

俺の意識さえ保っていればいい、時間を稼げ、そうすればあいつ等が必ず来る。

 

「ん、僕に不良特有のメンチだっけ?そんなものは効かないよ」

こいつ、俺の一番の必殺技が効かないだと……俺はこれだけで、生き延びてきたのに。

 

高見沢はベッドの上に乗り空手の構えをする。

 

「ふん。俺とやろってのか?」

正直俺は体をまともに動かすのも厳しい。こうやって威嚇するのがやっとだ。

 

「君、ボロボロじゃない?もう勝ったも同然、イージー過ぎだね。これで知将八幡を倒して、千葉一の知将高見沢って名乗れるね」

高見沢は目を細め口元をニヤリと歪め、攻撃を仕掛けてくる。

目の前に高見沢の拳がスローモーションのように近づいてくる。

 

 

だが、凄まじい轟音と共に、何かが吹っ飛んできた。

 

 

扉だ!!

あの防音処理を施された重たそうなこの部屋の扉が、吹っ飛んで目の前の高見沢を押しつぶす!

「ぐぼべ」

 

その扉がなくなった入り口から、三橋が入って来る。

「なんだ八か、高見沢って野郎どこに行った!?探してもいねーんだけどよ」

 

………

……

 

三橋の奴が扉に鍵がかかっていたから蹴り飛ばしたのだろうが、こいつの脚力はどうなってるんだ?普通扉が吹っ飛ぶか?

 

三橋はそのままつかつかと歩いてきて、高見沢を押しつぶした扉の上に立つ。

「ボコった奴にそれらしい奴は居なかったしな。逃げられたか?八、お前が奴を引き留めるんじゃなかったのか?」

どうやら三橋と伊藤は、このラブホテルに居た高見沢の手下を全員倒したらしい。

ざっと30人以上居たと思うんだが……こいつ等の強さはデタラメだな。

 

「三橋……お前の下だ」

 

「下ってなんだ?うわっ!?いつの間に?」

三橋は慌てて扉から飛びのき、踏んでいた扉を蹴り飛ばす。

その下から、車に轢かれたカエルのような姿で気絶している高見沢を見て少々驚いていた。

 

「……お前が倒した」

 

「ふ…ふは、計算通りだ。ふははははははっ!この天才三橋様に掛かれば忠高程度の頭なんて、こんなもんよ」

……お前、さっき『うわっ!?いつの間に?』って言ってたよな。

 

ふう、まあ高見沢を倒せたのならばなんでもいい。

 

 

「由比ヶ浜、大丈夫か」

上半身下着姿の由比ヶ浜に俺のブレザーを掛け、手足を縛ってる縄を切っていく。

 

「ヒッキー、ヒッキーーーー!!」

由比ヶ浜は泣きながら俺に飛びつくように縋りついた。

 

 

 

 

 

 

 

この後……

三橋と伊藤、俺とで散々高見沢に脅しをかける。

いろんな証拠をこちらが握ってるため、高見沢はもう何もできないだろう。

しかし、闇金やらヤクザとの繋がりや、強請や売春行為の斡旋など数々の犯罪行為に関わっていたこと等が、出るわ出るわで、結局警察に捕まって、少年院送りに……

 

福田の奴は少年院送りにはならなかったが、雪ノ下家からきつい仕置きがあったようだ。

陽乃さんが主導したそうだ。

 

俺達が高見沢と対峙してる際、総武高校のサッカー大会では、高見沢の指示により忠高の連中が暴れ出したのだが、今井や紅高、軟高の応援団、地元の方々の協力により、事なきを得た。

今井は溜まっていたうっ憤を晴らすが如く、少々やり過ぎたようで、補導され、2、3日警察のご厄介に……今井、お前の犠牲のお陰で総武高校は助かった……まあ、奴には今度何か送っておこう。

 

 

 

 

 

俺はというと……案の定入院中だ。

全身彼方此方に打撲、骨折やヒビが6か所で、入院2週間の全治1カ月らしい。

夏休みの半分がこれで奪われた。

 

「比企谷君。リンゴを剥いたわよ」

「ヒッキー、体拭いてあげるね」

何故か雪ノ下と由比ヶ浜は毎日見舞いに来てくれていた。

ただ、今の所2人は俺が元軟高のナンバー3で恐眼の八幡だという事を聞いてくる素振りは無い。

まあ、完全にバレてるだろうが……

 

 

平塚先生も何度か見舞いに来てくれ、お礼を言われた。

「君が何とかしてくれたから、これだけの被害ですんだのだろう」

学校では教職員の会議が毎日開かれ、さらに教育委員会やPTAなどの説明会合などもあったそうだ。

これに懲りて、学校側も危機意識を持ってほしいものだが………

 

 

赤坂や良くんも見舞いに来てくれた。

勉強を教える約束をしていたが、今の俺はこの状態だ。

だが居合わせた雪ノ下が、二人の勉強を見てくれると……まあ、勉強を見てくれるのはありがたいが、いろいろ知られてしまうのが恥ずかしい。ほぼ黒歴史と同じだからな。

 

伊藤と早川、三橋も来てくれるのは良いんだが……

伊藤と早川は病院の中でもデート気分だ。

入院中の男子に見せつけるのはやめてほしい。余所でやってくれ!

 

三橋は……お見舞い品のフルーツやらをたらふく食ってかえるだけ。

しかも、俺のギブスにいたずら書きをいっぱい残してな!

赤坂に注意されても、目にもとまらぬ速さでやってのける。

お前、その能力を他に活かせないのか?例えば……世界平和とか?

 

 

 

 

 

夏休み中旬。

 

「三橋、お前ラーメン何杯食うつもりだ!」

 

「八、俺は傷ついたんだ。俺にだけお前の転校先を教えてくれなかったよな。俺もお前のダチなのに……」

 

「わ、悪かった。すまん……俺が悪かった。食べてくれ」

 

「おっしゃーー!!おやじーーー、から揚げと天津飯に餃子追加ーーー!!二人前づつな!!」

 

「おいーーーー!!」

 

「八幡。諦めろ。三橋の奴、この日のために昨日から飯抜きらしいぞ」

 

「い、伊藤金持ってる?財布の中身がヤバそうなんだ」

 

「大丈夫だ」

 

「はぁ」

俺は退院早々、三橋にラーメンを奢るという約束を果たすために地元の中華屋に来ていた。

こいつ等とはどうやら、今後も付き合っていく運命のようだ。

軟葉高校を転校したからと言って、こいつ等との縁は切れる事は無い。

 

 

……トラブルは避けたいんだがな。

 

美味そうに飯にありつく三橋を見ながら、ため息を吐く。




なんか面白そうなネタが有れば、書いちゃうかもですが、完結です。
ありがとうございました。

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