ようこそ天才作家のいる教室へ   作:枝豆%

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 すっかり遅くなってしまい、かなり夜が更けた頃に勉強会は終わった。勉強会が終わったと言っても、椎名の口ぶりからすると明日もやるのは間違いなく開催されるだろう。

 正直椎名が、いや多分僕もだな。二人の本命は本に関しての雑談だろう。勉強会はそれの前座、つまりはおまけだ。

 だからこそ次回も開催されるだろう。

 

 

 

 寮のエレベーターの所まで椎名を送り、自室へ帰る。しかし、テスト前だからか分からないが意外にも帰路で綾小路くんと遭遇した。

 

 「高槻か」

 「うん。綾小路くんは勉強会?」

 

 「まぁそんな所だ」

 

 彼は本当に声にバラツキがない。怒ったり悲しんだり、常に普通だ。それが悪いとは言わない。

でも、それは余りにも無色だ。

 

 「高槻も勉強会に参加してみないか?」

 

 今日の昼のことを綾小路くんは気にしているんだろう。でも、正直に言うと僕は何とも思っていない。堀北さんにどれだけ罵られようが、それに関して綾小路くんがどれだけ弁護しようが。僕が最初に出した意思は1ミリとて曲がらないだろう。

 

 「ごめんね、他の人と勉強会してて断る訳にはいかないんだ」

 「…そうか」

 

 ダメ元で聞いたからか、それとも特有のポーカーフェイスかは分からないが、綾小路くんの声音は普段と変わらない。

 そしてもう僕は彼がそういう人間なのだと理解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「唐突に悪いが高槻、この世界は平等だと思うか?」

 

 本当に唐突で突拍子のない質問だった。だけど僕は真剣に考えた。なんでかは分かってる。初めて彼の声音の変わったところが見れたからだ。怒っていた訳では無い。かと言って悲しがってもいない。なら何処が変わったのかと聞かれても答えられないだろう。だけど、何かが違った。その質問をした綾小路清隆という人間は初めて人間性を出した。

 

 

 「本当に唐突だね」

 「悪いな、タイミングが無くて」

 

 

 「そうだね、僕個人としての意見では…全くの不平等であり、だからこそ平等だよ」

 「どういう意味だ?」

 

 「さぁね。でも、この世の不利益は全て当人の能力不足だよ」

 「………そうか、邪魔したな」

 「綾小路くんも勉強頑張ってね」

 

 「ああ」

 

 何とも自虐めいた言葉を使ってしまった。

 

 ──この世の不利益は全て当人の能力不足。

 

 その言葉を発した僕は、とても重たいものを持ったように足取りが重くなった。思い出したくもない過去を自分で掘り起こしてしまったからだろう。

 でももう大丈夫。あれを僕はもう乗り越えた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 「高槻くん、ここは昨日教えた筈ですが」

 「すみません…」

 

 やはりと言うべきか、椎名さんと僕は翌日もこうして僕の部屋で集まり勉強会をしていた。

 しかし椎名さんが僕の理系のダメさを思い知り頭を抱えているのだ。昨日20分近く使って教えて貰った問題の解き方を、翌日になり忘れていればそれは来るものがあるだろう。

 でも仕方ないじゃないか、覚えられないんだから。

 

 「ほら、XとかYとかでたら難しそうでしょ」

 「それは見かけだけです。と、それは昨日も言いましたね」

 

 「…はい」

 

 「昨日は一度とはいえ理解出来たんです、だから出来なくはないですよ高槻くん」

 

 気を使ってくれる椎名さん。本当にいい子だ。

 話もできるし面倒も見てくれる。こんな子も現実に存在するんだな。

 

 「お手数おかけします」

 「はい。任せてください」

 

 頼もしい。そして愛くるしい。

 任せてください、と張り切る彼女はとても頼りがいのあるものだった。

 そうやって時間は過ぎていく。今まででこの時間は異様なくらい早くすぎてしまう。勉強に集中すればこれ程までに時間は早く過ぎるのかと思ってしまう。だがそれが違うことは既に分かっている。

 でも、その解を僕は解かないことにした。

 それを解いて開いてしまえば、何か零れ落ちてしまうような気さえしたから。

 

 

 

 

 そして勉強会は終わり、僕達の本命である本の雑談が始まった。

 

 「実は最近、高槻くんが前に褒めていた『時計じかけのオレンジ』を読み直したんです」

 「あー、あれか。主人公、仕方ないかもしれないけど何処が悲しいよね」

 

 「私はそういう道もアリだと思いましたけど、やはりそこは別れるんですね」

 

 簡単に説明すれば、『時計じかけのオレンジ』は極悪人が身体を弄られて聖人に無理やり変えられるという話だ。

 極悪人からすればたまったもんじゃないが、その周りに居る人は危険なやつがまともになったと考えるだろう。

 だからこれで意見が別れるのは、自分を極悪人と捉えるかその他Aと捉えるかだと僕は思っている。

 

 それから少し話して椎名さんの目線が動き、止まった。

 

 「どうしたの?」

 「いえ、高槻作品があったので。そういえば同じ苗字ですね」

 

 「…そうだね、同じ苗字だと少し親近感があったから。多分それで読み始めたんだ」

 

 すると椎名さんは立ち上がり、僕の部屋の本棚へと足を運んだ。

 それにつられるように僕も本棚へと向かう。

 

 「『拝啓カフカ』に『黒山羊の卵』『小夜時雨』『虹のモノクロ』それに今月発売された『なつにっき』もあるじゃないですか」

 

 綾小路くんとは違い声音が上がる。

 彼女もどちらかと言えばポーカーフェイスの部類に入るのかもしれはい。でも本の話をするときの表情はとても表に出ている。

 

 「貸そうか?何回も読んだし」

 「いいんですか!?」

 

 上品に見せようとしているのか分からないが、餌を待つ犬に見えなくもない。

 

 「うん。本の貸し借りってやってみたかったし」

 

 「そうですねなら私も今度好きな本を持ってきます」

 「本当に?なら早速明日にでも」

 

 

 「──高槻くん。今はテスト期間ですよ」

 

 室内温度が2度くらい下がった気がする。

 それもそうか、教えたものが右から左へと流れているのに娯楽に時間を費やそうとしていれば温厚な人も怒るというものだろう。

 

 「……はい」

 

 僕は椎名さんに威圧され、弱々しく首を縦に振る以外の選択肢はなかった。

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