対魔忍RPG 苦労人爆裂記   作:HK416

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リーアル「お前、マジ優秀。ちょっと不知火の調教手伝ってんか?」

若様「よかよか(計画通り」

不知火「…………(唖然」

若様「それで不知火さん、状況なんだけどね」

不知火「改造は軽く受けてるけど、殆ど問題ないわ。それから黒幕に繋がり証拠がこれね」

若様「“幻影の対魔忍”は伊達じゃない! たかがリーアルの調教一つ、忍術で押し出してやるって事ですかー!(歓喜」

若様「それはそれとして、色々めんごめんご(テヘペロ」

不知火「もう、遅いわよ、全く。それにしても軽いわね!(ガビーン」


という前回までのあらすじ!

さて、神村ちゃんはスキルマになった。エロはパターン化されてんな。
後はボチボチ交換していきましょうねー。
そして、作者が思っていた以上に神村ちゃんの性格が、古き良きヤンキーというか、思ったほどハチャメチャでもなかった。これは若様的にも部隊登用はありえそう。

それはそれとして、本編をどぞー!




爆弾はいいね。人類が生み出した文化の極みだよ。苦労人はそれをよくよく理解している

 

 

 

 

 

「ほらよ、これでどうかな?」

 

「ふ、は、ははははっ! デカしたぞ!」

 

 

 不知火との接触を終えて元の奴隷商人風の衣装に着替えた小太郎は、再び書斎にてリーアルと顔を突き合わせていた。

 小太郎がリーアルに突き出したのは、スマートフォン型の多機能ツールであったが、通常のスマートフォンと同様の使い方も可能だ。

 画面に映し出されているのは、蕩けきった表情を浮かべる不知火の画像であり、多くの女を堕落させてきたリーアルであっても疑う余地がない程の()()()()をしていた。

 

 その様に、不知火への侮蔑と嘲笑を浮かべながらも、リーアルは小太郎を褒め称える。

 リーアルにしてみれば思惑通りの展開であり、同時に小太郎の思惑通りの反応であった。

 

 

「それで、報酬の話だが」

 

「奴隷一人分で構わないよ。実際、こっちが払った労力はそれと同じぐらいだから」

 

「ほう。何だ、存外に欲がないな」

 

「強欲さ。此処でゴネて印象を下げるよりも、今後とも贔屓にして貰った方が最終的には金になる。人生は長いしねぇ」

 

 

 この手の仕事に相場などないが、もっと高額を要求してくると思っていたリーアルは目を丸くしたが、受けた印象は良かったようだ。

 無論、小太郎がそのように印象を操作するための発言であったが、傍目から見れば、信頼は金になると理解している商売上手であり、違和感を覚えさせない。

 

 更に気を良くしたリーアルは書斎の壁際にあった或る本棚の前に立つと、中にあった本の一つを傾ける。

 すると本棚の一部がスライドし、中から金庫が現れた。明らかに店の売上を保管しておく場所ではない。となれば、リーアル個人の資産と見るべきだろう。

 そちらから金を出したのは、信頼の証である。単純に金を払うだけでは信頼の証とは言い難い。故に、自らの血肉とも言える金の中からわざわざ支払いを行うのだ。そうするのも、惜しくはない取引相手と示すために。

 

 

「過不足なくきっちりだね。じゃあ、今後ともご贔屓に」

 

「ああ。またヨミハラに来たのなら顔を出せ。また仕事を回してやろう」

 

 

 帯で封のされた札束を懐の中へと仕舞うと、背後から掛けられたリーアルの言葉に手を振りながら、書斎を後にし、そのままアンダーエデンからヨミハラへと繰り出した。

 

 

(不知火さんはそのままで来ちまったが、撤退の手順は伝えてある。問題ないだろう。では、次の段階に移るとしようかねぇ)

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

「………………」

 

 

 アンダーエデンを出た小太郎の後を追う一つの影があった。

 付かず離れずの距離を保ち、慎重に尾行をしていたのは、リーアルの秘書役であったメイド服を身に纏った女淫魔である。

 淫魔族は魔界では有力貴族の執事や侍女を務めるものが多く、中には爵位を持つ者も存在する。彼女の場合は、前者だ。

 

 リーアルは小太郎を信頼しきっており、既に尾行の命令なぞ出してはいない。この尾行は彼女自身の意思であり、決定でもある。個人の意思で命令されてもいない仕事を熟すのには訳があった。

 

 東京キングダムやアミダハラでは娼婦の身籠った赤子は今こうしている間にも発生しており、大半は生まれてくる前に堕胎させられ、もう半分は生まれたとしても親と同じく娼婦や奴隷となる。

 だが、罷り間違ってそういった境遇から脱す者も少なからず存在する。娼婦の親としての情か、或いは関わりを持った何者かの哀れみによって、生き地獄から開放される。

 最も、地獄から生還したからと言って、待っているのは別の地獄。戸籍もなければ金もない、そんな子供が生きていけるほど人間社会は寛容でも広大でもない。名前もない子供達は、生きるためにまた闇へと身を投げねばならない。

 

 ならば名無しの子供が生まれ持った知恵と運で生き延び、奴隷商人として身を立てる事は奇跡的な確率でこそあるが不可能ではないだろう――――しかし、彼女は納得していなかった。

 

 彼女はリーアルの秘書ではあるが、主人として仕える相手は別に居る。リーアルの秘書などをやっているのは、あくまでも主人の命令によって、リーアルの仕事を円滑に進めるために過ぎない。

 正直な所、リーアルがどうなった所で構わないのだ。不知火を堕落させて引き込む、という主人の意向も、何もわざわざリーアルなどにやらせる必要はなく、身内の淫魔にやらせた方が確実であると信じていた。

 今までの結果を見れば、近い内にリーアルの下から不知火が移送されるのは明らか。そうなれば、主人の意向を実現させるのは、淫魔族(我ら)である、と高を括っていた。

 

 しかし、それもご破産。

 ぽっと出の奴隷商人がリーアルと接触したことにより、全ては取らぬ狸の皮算用となった。

 結局の所、彼女は何か疑いがあった訳ではなく、ましてや直感によるものではなく、単に屈辱を晴らすために小太郎の後を追っているのだ。

 

 やるべき事とやりたい事と出来る事が何一つ一致していない感情にのみよった行動ではあるが、誰よりも小太郎の正体へと迫っている事は皮肉と言う他ない。

 

 そもそも、論理的に小太郎の正体を見破る事は不可能だ。闇の世界で小太郎の存在は認知されておらず、顔を知る者はいない。

 奴隷商人などと言ってはいるが、奴隷商人でも何でもない故に何処を探ろうが情報なぞ出てこない。情報が出てこなかったとしても、此処はヨミハラ、他の魔界都市を拠点としているのならば何ら不思議ではない。彼が対魔忍である、という前提の情報がなければ、どうやっても辿り着けはしない。

 

 何はともあれ、彼女の行動は正しかった。

 正体は分からずとも、後を追う行為は無駄ではない。小太郎が対魔忍であり、不知火の救出を目的としている以上は当然である。

 

 

「――――っ」

 

 

 人混みの中、先を進んでいた小太郎が足を止め、背後を振り返る。

 突然の行動に、彼女は物陰へと身を潜め、注意深く様子を伺った。

 

 始めの内は尾行がバレたのかと焦ったものの、対象は首を傾げるばかりですぐに歩き始めた。

 

 

(あの年で奴隷商人になれるだけの事はある。警戒心は強いようだが……)

 

 

 此処で、彼女に与えられた選択肢は二つ。

 即ち、彼の警戒心の強さを理由に尾行を中断するか、彼の警戒心を掻い潜って尾行を続行するか。

 

 

(いや、これまでにアレだけの金を受け取っているんだ。持ち歩く筈はない。一度は宿泊先のホテルに必ず立ち寄ってから地上に戻るはず。進むルートは分かっている。多少距離を離したとしても見失う事はない……!)

 

 

 彼女の考えは正しく、間違ってはいない。

 ここ数日の尾行で彼の行動パターンは把握しており、前回前々回のようにヨミハラの場末の娼館には行かず、そのままホテルへと戻る筈。

 相手が尾行に気付き始めていたとしても、移動するルートが分かっている以上、一度距離を離してしまえばいい。見失ったとしても、追い付く事も先回りも可能である。

 

 再び尾行を再開した淫魔は、小太郎の後を追う。

 先程よりも距離を離してこそいたが、対象の様子に変化は見られず、気付かれた様子はない。

 

 対象は大通りの人混みを抜けると、するりと路地裏へと身を滑り込ませた。

 彼は毎回同じルートを通って、別の通りへと抜けていく。それ以降の足取りは日によって違ったが、商品を手に入れるために場末の娼館へ向かったので当然だ。

 このまま宿泊先のホテルへ戻るつもりだと確信した淫魔は、同じ路地裏に足を踏み入れる。

 

 既に小太郎の背中は見えなくなっていたが、彼女に焦りはない。対象の歩幅から移動速度を測り、距離を詰めすぎないように足早に路地を進む。

 その道は狭い上に薄暗く、同時に違法建築の煽りを受けて複雑に曲りくねっており、人通りは皆無。

 

 其処を半ばまで進んだ瞬間――――

 

 

「――――が、はっ?!」

 

 

 ――――彼女は、苦悶の声を上げた。

 

 背後から何かで首を締め上げられたのである。

 突然の出来事故に、考える(いとま)すら与えられず、反射的に首へと両手を伸ばす。しかし、首に巻き付けられた何かは完全に埋没しており、とてもではないが外せない。

 

 何とかしようと足掻く内に、酸素の供給を絶たれた脳髄はまともな機能を失う。

 思考さえも奪われた彼女は意識すらも手放して、呆気なく路地裏へと身体を投げ出してしまう。

 

 

「はい、お仕舞い」

 

 

 路地裏に響く声は、言うまでもなく小太郎のものだ。

 この展開を引き寄せるために、わざわざ同じルートを通って印象づけた。背後を振り返ったのは、彼女に警戒心を抱かせながらも、距離を離させて身を隠す時間を稼ぐため。

 

 地面に倒れ伏し、ピクリとも動かなくなった淫魔は生きているのか死んでいるのかさえ判然としない。

 小太郎はそれを見下ろしながらも、冷めた視線を送るのみであった。

 

 ――――彼女の行動は概ね正しく、間違っていたのは一つだけ。

 

 相手が人間だからと舐め腐り、尾行がとうの昔に気付かれていると思い至らない慢心ぶりだけだった。

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

(さて、一仕事済ませたな。このまま戻るとしますかねぇ)

 

 

 路地裏から現れた小太郎は、とても魔族を襲ったとは思えない早くもなければ遅くもない足取りで通りを進んでいく。

 このまま奴隷商人として借りているホテルの部屋へと帰り、凜子に指示を出して空間跳躍の術でクラクルの住処へと戻る予定であった。

 

 ――――だが、何者も予想や想定通りには事が進まないのが、世の常である。

 

 

(……? 紅の気配……だよな? いや、だが……)

 

 

 ふと、背後から感じた気配に小太郎は足を止めそうになった。

 彼自身の感性によるものであるが、紅の気配は独特だ。言葉として表現できず、肌で感じるしかない()()そのものの差異と違和感。

 人でもなく、吸血鬼でもなく、その境に身を置き、本来であれば産まれる事すら許されない異端。幼少時から共に在った彼女の気配を、小太郎が間違える筈もない。

 

 それはそれで妙な話だ。

 言い方は悪いが、紅は小太郎に絶対服従である。仕えるべき主君として忠誠を誓い、女として真実の愛情もって寄り添っている事に疑う余地はない。

 

 元々、紅は高潔で潔癖な自分の意見をなかなか曲げないが、それはそれとして性格は控えめで、考えや信念を口にする事は少ない。

 他者と自分が異なっている。皆から疎まれる異端の仔。そんな境遇で育ったからこそ身についた、当然の処世術であった。

 

 だからこそ小太郎に何も告げず、待機命令すらも無視してヨミハラの街へと繰り出している事実が有り得ない。

 本心で納得していなければ任務の失敗や放棄すらも辞さないであろうが、不知火救出の任務は紅も納得して参加していた。

 小太郎の、潜入や情報収集はお前達にはまだ早い、今回の任務でお前達の役目は純粋な戦闘要員、という言葉にも、嘘偽りなく納得していた。

 

 ならば、なぜ自身の後を紅の気配が追ってきているのか。

 

 

(――――来やがったか。幻庵が娘である楓の救出に失敗した時点で、紅を連れ帰った時点で、紅がもう何人か存在する可能性は常に考えていた)

 

 

 それはずっと考えてきた不安材料の一つ。

 ブラックの手許に楓が残され、なおかつ紅という実例がある以上、考慮してしかるべき現実。

 

 ――――紅の兄弟や姉妹の存在である。

 

 ブラックが楓を手ずから攫った以上、彼女が生きているのなら、幻庵が紅を救出した一件以後も孕み袋として活用されている可能性は非常に高い。

 余りにも残酷な現実を幻庵や紅の前で口にした事はなかったが、小太郎の頭には常にその危険性と可能性はあった。幻庵も言葉にせずとも分かっていたであろうし、紅も察しているはずだ。

 だからこそ、幻庵は紅を小太郎に託した。少なくとも、幻庵の知る幼少期の紅は、その現実に耐えるだけの精神的な強さがなかったから。

 

 

(このタイミングで来たって事は、ブラックの野郎は紅の存在に気付いている)

 

 

 もう一人の紅、という規格外が近寄ってきてもなお、小太郎は冷静さを保っていた。

 逃亡の鉄則は、走るな歩け。人混みの中で走る人間なぞ悪目立ちする。相手に不用意な情報を与えず、群衆に紛れたまま撒くのが基本。

 今すぐにでも振り返って相手の姿を確認したかったが、それこそ墓穴を掘る行為だ。相手が何者であれ、このタイミングで目が合えば、それこそ目を付けられる。

 

 

(しかし、足取りがふらついてる。こっちに一直線って感じでもない。てことは、ブラックにせよ、後を付けている奴にせよ。オレにも紅にも明確に居場所が分かっているわけじゃないみたいだな)

 

(そもそもオレは紅じゃねぇし。てことは、オレに付いてる紅の匂いを嗅ぎ取って追跡している、と考えるべきか。全く、吸血鬼の鼻も厄介なもんだな。犬かよ)

 

 

 相手が自身を追ってこられる理由を分析しながら、小太郎は怒りとも呆れとも取れる溜め息を吐く。

 

 先程の淫魔とは打って変わって、今回は追跡や尾行と呼べる上等なものではなかった。

 明確に対象を追っているわけではなく、右へふらふら左へふらふら。まるで行き先を決めていない子供のような足取りだ。これが紅とよく似た気配さえ発していなければ、気にする必要すらない程だ。

 

 そもそも、小太郎は紅と面識はあっても、紅と似たような存在ともブラックとも面識はない。後を追われる心配などない。

 ならば、小太郎の身体に染み付いた紅の匂いを追っていると考えてしかるべき。吸血鬼の嗅覚ならば十分に追跡可能であり、追ってきている者も確信はなくとも、自身と似た匂いを嗅げば、ある程度の疑問や疑念を抱く、と辻褄は合う。

 

 

(しかしまあ舐められてるぞぉ、紅。ブラックは肝心な所では必ず自分の手を汚すタイプだ。アサギへの執着ぶりを見るにお気に入りには必ずそうする)

 

(それを他人にやらせるなんざ、ブラックにとって紅は、興味は引かれるが期待はしていない玩具ってことだ。いやはや全く、どっかの弾正を思わせる無責任ぶりだ。親としての自覚を持って欲しいもんだね)

 

(――――だが、コイツは許せんよなぁ。未だにお前を自分の玩具だと思っているって事だ。冗談だろ、もうとっくの昔にオレのだ)

 

 

 表情にこそ出してはいなかったが、珍しく小太郎は腸が煮えくり返るような怒りを抱いていた。その怒りは、男の醜い独占欲に起因するものであり、ブラックを今直ぐにでも殺しに行きかねないほどのものだった。

 

 自分の女が自らの意思で己の下を離れていくのは許容できても、自分の女を勝手に横から掻っ攫われるのも、勝手に弄ばれるのも我慢がならない。

 数多の女を侍らせて、女の側には嫉妬や切なさを募らせるというのに、随分と身勝手な理屈である。だが、こと自分の女に関して小太郎に理屈も理論もない。唯一、彼が自分の本能と感情に赴くまま訴える人間だ。

 多くの人間は、そんな彼に侮蔑と嫌悪の視線を向けるのであろうが、彼の手に居る女には、存外に好評だ。自分が愛している間は、小太郎も全力を以て守り、愛する事を知っているからだろう。

 

 

(と、言う訳で! 後を付けてきてる奴もブラックも放って置いて逃げまーす。だって、まだその時じゃないし、殺されちゃうし、ああいう構ってちゃんは無視されるのが一番屈辱だからね。一生ひとり相撲やっててどうぞ)

 

 

 今直ぐにでもブラックを殺しに向かいかねないほどの怒りであったというのに、これである。

 それも当然の事。感情によって目的を見失うような男ではない。ヨミハラくんだりまで足を向けたのは、あくまでも不知火救出が目的であって、ブラックなぞ関係ない。

 奴が邪魔をしてこようが、最低限の対策を立て、最低限の対処はしても、積極的には関わらないのが得策だからだ。

 一瞬で気持ちを切り替えた小太郎はお誂え向きの場を見つけ、気軽な足取りで足を踏み入れる。

 

 彼が入ったのは、酒場だった。

 

 ヨミハラには大別して2種類の酒場がある。

 地上の大金持ちに向けた店。大半が会員制であり、地上では味わえない魔界の酒や料理が提供され、ホステスが接待を行うクラブ。

 ヨミハラの労働者に向けた店。誰もが簡単に足を踏み入れられる代わりに、何が起こっても不思議ではない不穏さの漂うパブ。

 

 今回は後者だ。

 まるで西部劇に登場する酒飲み場――ウエスタン・サルーンに酷似していた。

 如何なる客でも迎え入れられるように扉は開け放たれており、中では樽をテーブル代わりに飲み比べに勤しむ者、カウンターに腰掛けて店の従業員と話している奴隷商人、仕事中なのか仕事を終えたと思しき娼婦達が浴びるように酒を飲んでいた。

 五月蝿すぎるほどの喧噪。下品な笑い声に下世話な話が飛び交い、中では殴り合いの喧嘩に発展している者も居たが、この場に留める者は誰一人としていない。

 既に酔い潰れた者の口に漏斗を差し込み、更に酒を流し込む者。それを眺めながら、酔い潰れた者の懐から金を抜き取っている者まで居る。この喧噪が、この光景こそがヨミハラの酒場における日常であり、ヨミハラという街の倫理や観念を物語っているかのようだ。

 

 

「注文は……?」

 

「ビールをジョッキで。それからウォッカをボトルでくれ」

 

「ビア・バスターでもやんのか? タバスコはあるっちゃあるが……」

 

「どーでもいいだろ。そっちは酒を売る。こっちは酒を買う。オレ等の関係はそれだけだ。黙って寄越せ」

 

「違ぇねえ。だが、この店は先払いでな。ご覧の通り、飲んだくれどもの巣窟なんでね。貰うもんを先に貰っとかねぇと、回収が見込めねぇ」

 

「道理だな。ほらよ」

 

「――毎度」

 

 

 店主と客の話に割り込んだ小太郎は、金を払ってビールとウォッカを注文した。

 値段は地上の五倍であったが、先程リーアルから受け取った金はたんまりとある。何の問題もない。

 ヨミハラに生きる住人達の収入も高い。地上と変わらない仕事に就いたとしても、収入は地上の数倍だ。地上からの客が、それだけの金を落としていくのである。

 だが、ヨミハラの物価は兎に角高い。地上からの搬入している故に輸送費が掛かり、物資の搬入口を管理しているノマドから金をせびられる。必然的に物価も跳ね上がる。

 

 これでは地上で真っ当な職に付き、生活を送るのと変わらない。支出と収入が増えたとしても、生活の苦しさに変化はない。

 安全と保証の下に生活を送るか、自由と危険の中で生活を送るかの違いしかない。どちらがより快適であるかは、個人の判断に委ねられる。

 

 

「トイレは奥だ。誰か入ってるようなら、少し奥に裏口がある。吐くなら其処で吐け」

 

「ご忠告どうも」

 

 

 店主は金を受け取るとすぐさまビールをジョッキで、ウォッカを瓶ごとカウンターの上に置き、忠告を口にした。

 誰かの吐瀉物を片付けるなど日常茶飯事なのだろうが、それでも楽をできるに越したことはないと期待はしていない口ぶりだ。

 

 小太郎は肩を竦めてビールとウォッカを受け取り、店の奥へと向かっていく。

 酒を一口も煽らずに進む姿に店主は怪訝な表情をしたものの、誰かと待ち合わせがあるのだろうと一人納得して、彼から視線を外した。

 

 その瞬間、小太郎は喧噪の中で誰からも見られていない事を確認し、ビールの中身をぶち撒けた。

 但し、床にではなく、カウンターに座って娼婦と談笑していた屈強な身体つきの傭兵らしき男の頭に向けてである。

 

 

「何しやがるんだ、このクソ野郎!」

 

「――――は? 何言ってん、ぐへぁっ?!」

 

「んだ、コラぁっ!! よくもヤリやがったなぁ!!」

 

 

 小太郎がそそくさと店の奥へと向かっていくと、傭兵は何を勘違いしたのか、後ろで飲んでいた全く無関係の別の誰かを殴り倒す。

 誰かの仲間は、突然の出来事と酔いから瞬間湯沸かし器と化し、床に倒れた仲間に変わって傭兵へと殴り掛かる。

 

 小太郎が意図して引き起こした諍いは、瞬く間に店の全体へと伝播して乱闘騒ぎとなった。

 これですらも店では日常なのだろう。飛び交う怒号と笑い声が、全てを物語っている。

 

 この乱闘を引き起こした張本人は、店の喧噪など知ったことではないとばかりに店の奥へと向かっていく。

 ウォッカの口を開け、今度は自らの頭に被りながら、薄暗い通路を通って裏口の扉に手を掛けた。

 

 

「ひっ、ぎゃあああああああああ――――!」

 

(思ったよりも早いな。しかし見境なしとは恐れ入るよ、全くぅ!)

 

 

 店の喧噪が悲鳴へと変化した瞬間、小太郎は裏口から脱出した。

 

 外は細い路地となっており、大人二人が並べて通れる程度の広さしかない。

 敢えて大通りへと向かわずに、逆方向へと向かうがすぐに袋小路となっていたが、小太郎にとっては好都合であった。

 壁に向かって手を付き、俯き加減で蹲って、全てが終わるのを待った。

 

 店からはあらゆる者の悲鳴が響いていたが、暫くするとそれも止み、裏口のドアが開く。

 

 

「あ~ぁ、無駄な時間使っちゃった。それに、あの女とパパの混じったみたいな匂いもなくなっちゃったし。折角、見つけたと思ったのになぁ。ほんと、私とパパの邪魔をするクズばっかり」

 

 

 現れたのは、年端も行かない少女であった。

 薄桜色の長い髪を二つに束ね、真っ白なワンピースを来た、ヨミハラには似つかわしくない純粋無垢な少女。

 けれど、その身から発せられる魔力は尋常ではなく、魂そのものを押し潰すかのように重く濃い。狂気の光を宿した赤い瞳は少女のそれではなく、人の理を一切介さない獰猛な獣のようだ。

 

 

「…………?」

 

「おっ、ぼ、うぇぇげええぇぇ……」

 

「…………きったない、人間ってホント生きてる価値もないんだね、パパ」

 

(お前等も同じぐらいに生きてる価値はねぇけどな)

 

 

 背中に少女の視線を感じた小太郎は、人間ポンプのように胃を蠕動させて、内容物を吐き出す。

 この程度の身体操作、彼にとってはお手の物。その気になれば、自らの意思で心臓すらも一時的に止める事すら可能だ。

 

 すると少女は露骨に嫌悪と侮蔑の表情を浮かべると、すぐさま大通りへと向かっていく。

 小太郎の情けない姿は今し方まで酒場で飲み明かし、限界を迎えた酔っ払いにしか映らなかったのだろう。

 匂いもアルコールで上書きされ、顔も分からない以上は後を少女であっても後を追いようがないものの、それ以上に恐ろしいのは思い込みであった。

 

 少女の気配が消え去るのを確認し、小太郎は何食わぬ表情で立ち上がる。

 名前は分からないが、顔までは確認できた。そして――

 

 

「ありゃ、腐ってんのか。これじゃあ、どんな武器を使ったか分からんが、まあ能力に関しては凡そ分かった。油断はできませんけどね」

 

 

 ――その能力と性格までも、垣間見る事が出来た。

 

 裏口から覗き込んだ酒場は、死の静寂に包まれていた。

 飲んだくれや店主の死体は一つ残らず原型を保たぬほど、肉も骨も腐って果てており、数分前の喧噪が夢のようだ。

 

 わざわざ酒場に入ったのは追跡を撒く為でもあったが、同時に相手の能力や性格を測るためでもあった。

 見えてくるのは、ブラックと同様の性格だ。強大な力を持つが故に我慢を知らず、虫の羽を毟るように残酷な気紛れを見せる強大な力を持っただけの子供。そして、何らかの手段によって、対象を腐らせる能力を有している。

 

 人も魔族も区別のない殺戮を目にしても、自分が意図した結果故に眉一つ動かす事はなく小太郎は扉を締める。冥福の祈りも謝罪や感謝の念すらない。

 ヨミハラに住まう者など、道具とすら思っていないのだろう。質こそ違えども、殺戮を引き起こした少女に勝るとも劣らぬ残忍さである。

 

 

(邪魔だから殺したって感じだな。我慢を知らない癇癪持ちの子供か。良くも悪くも、ブラックのデッドコピーって感じかね。さて、どう利用して動かすべきか。まあ、一番の問題は――――紅にどう説明するかって事だよなぁ)

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

「――――小太兄!」

 

「何だ、待ってたのか」

 

「お母さん、お母さんは――――って、お酒くさぁ?!」

 

「うっ、本当に凄い匂いだな。何があった」

 

「……あー、ちょいとトラブルに巻き込まれたが、まあ問題ないよ。想定範囲内だ」

 

 

 宿泊していたホテルに戻った後、再び凜子の空間跳躍の術によって拠点へと戻った小太郎を迎えたのは、ゆきかぜと凜子だった。

 歪んでいた空間から現れた小太郎の姿に、ゆきかぜは詰め寄るように近寄ったが、強烈なアルコール臭に鼻を摘んで顔を逸らした。

 

 

「ところで、紅は?」

 

「紅か? 今は災禍殿と一緒にクラクルを風呂に入れている最中だが……」

 

「そうか、ならいい。先にお前等には不知火さんの現状を伝えておく」

 

 

 真っ先に紅に伝えるべき事があったが、その様子では言葉を交わせるのは少し先になりそうだ。

 クラクルは風呂嫌い、というか風呂に入るまでは極端に拒否反応を示す。一度でも入ってしまえば極楽気分を味わうと言うのに、入るまでは正に風呂嫌いの猫そのもの。

 強烈な獣臭さを発するクラクルに入浴の習慣を付けさせようとしている。同じ女として見過ごせないのだろうが、些か緊張感が足りないように映る。

 だが、緊張感を常に保ち続けるのは難しい。人間が集中を保てる時間が極端に短いように、いつまでも張り詰めていては心も体も持ちはしない。敵地であったとしても、ある程度の安全さえ保証されているのなら、休息や弛緩を小太郎も推奨している故に、否定はしなかった。

 

 一時的に己の悩みを棚上げ出来ると分かった小太郎は、ゆきかぜと凜子に先んじて不知火の現状を伝えた。

 不知火は完全に無事でこそないものの、正気を保っており、撤退に賛同している旨。

 しかし、撤退の前に、今回の黒幕に関する情報を入手しなければならない必要がある事。

 

 ようやく見え始めた光明にゆきかぜは安堵の吐息を漏らし、一抹の不安を抱えた凜子は神妙な面持ちで何かを考えている様子だ。

 

 

「よ、よかったぁ。お母さん、無事だったんだね」

 

「ああ、流石は幻影の対魔忍。あそこまでとはオレも予想しちゃいなかった」

 

「しかし、どうするつもりだ? 黒幕の情報を入手する当てなどないだろう。アンダーエデンに潜入でもするのか?」

 

「まさか。リーアルは黒幕にしてみりゃ、何時でも蜥蜴の尻尾切りの出来る程度の駒だ。アンダーエデンをいくら探っても、有用な情報なんぞコレ以上出てこねーよ」

 

「それでは手詰まりだ。そのチップの解析用の予備を入手するどころか、製造元も分からないでは、話にならないではないか」

 

「何、今から分かるさ」

 

 

 凜子の指摘も最もであった。

 不知火と共に撤退を開始するのは、黒幕へと繋がる情報を入手した後。その最有力候補が、不知火に埋め込まれようとしたチップとその製造元であるが、予備や情報を入手しようにも繋がっている道がない。

 アンダーエデンには予備は保管されていないのは不知火が確認済み。一体、どのような経路でリーアルが手に入れたか分からない以上は、後を追いようがない。

 

 しかし、小太郎は先刻承知の上であるし、不知火に語ったように目星はつけてある。

 その目星が淫魔族。矢崎とリーアルの下には淫魔族の姿があった。矢崎と淫魔の護衛がどのような関係性にあったかは今となっては分からないが、リーアルと淫魔の秘書の関係性ならば目の当たりにしている。

 

 リーアルにとって、淫魔の秘書は目の上のたんこぶに近い存在であったようだ。

 有能な秘書であったのは認めるが、極力己から遠ざけたいかのような、力を借りるのも癪だと言った雰囲気を醸していた。小太郎に対して不知火の調教を依頼してきた場に、秘書が居なかった事からもそれが伺える。

 確かにリーアルと秘書は味方同士であったようだが、決して同じ派閥ではないし、手と手を取り合って困難に立ち向かうような間柄ではないのだろう。

 其処から察せるのは、あの秘書は黒幕がリーアルの役割を円滑に進ませるための直属の部下に近いこと。だからこそ――――

 

 

「何、今の……?」

 

「遠いが、爆発のようだな。何回か連続して響いたが……何処ぞの組織の抗争か?」

 

「いや、オレが仕掛けてきた爆弾だよ」

 

「は? 小太兄、なんでそんな事したの? そんなことしたら……」

 

「これがオレの作戦よぉ。名付けて“オレの自動追尾弾だぜ……”作戦(キリッ」

 

((…………絶対に碌でもない作戦だ))

 

「ほら、ボーっとするな。さっさとドローンとリモコン持ってこい。敵の拠点が割れて、敵に被害を与える一挙両得の作戦だぞぅ」

 

 

 巫山戯ているとしか思えない作戦名であったが、二人はよく知っている。小太郎が巫山戯ながら実行する作戦の恐ろしさとエゲつなさを。

 微妙な表情を見せて固まったゆきかぜと凜子は、嫌な予感をひしひしと感じながらも、小太郎の命令に従うのであった。

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

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「うっ、ぐっ……げほ、げほっ……一体、何が…………奴、だったのか……?」

 

 

 気を失ってから数時間後、淫魔の秘書は路地裏で目を覚ました。

 地面に倒れていた影響なのか、清潔だったメイド服は泥で汚れ、乱れている。

 

 痛む首を擦りながら咳き込んだ淫魔は、自分の身に何が起きたのかを思い出す。

 一瞬かつ突然の出来事に、相手が誰であったのかは確認できなかったが、首を締め上げられた挙げ句に、意識を奪われた事だけ確かだ。

 

 窒息の影響なのか、思考が巧く回らなかった。

 首絞め強盗などヨミハラでは日常茶飯事であるが、自分が狙われるとは考え難い。何よりも、身包みを剥がされてもいないし、何処かに売られている訳ではない以上、考え難い。

 やはり、真っ先に思い立ったのは尾行していた対象の顔だ。証拠がない以上は暴論もいい所な推測であるが、事実は正しい。

 

 鈍い思考でくらくらと頭が回らず、身体の反応も頗る鈍い。まるで全身に鉛でも流し込まれたかのようだった。

 

 

「……ん? これは……!」

 

 

 路地の壁に寄りかかり、何度も頭を振りながら立ち上がった彼女は、ふと足元を見て驚愕した。

 

 足元に転がっていたのは一つのカプセルであり、彼女自身もよく見知ったもの。

 アンダーエデンにおいて、リーアルと娼婦が契約をした際に飲み込むキメラ微生体が入ったカプセルである。

 

 それをやっとの思いで拾い上げた彼女はまじまじと長め、本物である事を確信する。

 

 こんな所に転がっている事は有り得ないものだ。

 奴隷娼婦を逃さないためにリーアルが独自に開発された技術であり、これを独占するために技術の公開や提供は一切行っていない。

 淫魔の目から見ても管理は厳重の一言。もし、一つでもカプセルが行方不明になれば、アンダーエデンは上から下への大騒ぎになった挙げ句、お抱えの技術者が何人も首が切られ、持ち出した者が見つかるまで犯人探しが始まる筈だ。

 

 その時、彼女の頭に電流が走った。

 

 

(水城 不知火か! 奴の幻術ならば、飲み込んだように見せかけるのは容易い。これまでリーアルの調教に眉一つ動かさなかった事は頷ける……!)

 

(ならば……ならば、奴も対魔忍か! 救出か、潜入の手助けか。兎も角、奴は水城 不知火と繋がっている。これを持ち出している事が何よりの証明だ!)

 

(私を殺さなかったのは、誰かが通りがかったか、何か予想外のトラブルが起きたのか。何にせよ、私にとっては幸運だった)

 

 

 彼女の思考は概ね正しい。

 だが、本来ならば考えるべき一つの疑問が抜け落ちている。

 

 今の今まで慎重かつ巧妙に正体を隠してきた男が、不知火から受け取ったキメラ微生体を落とすような失敗を犯すのか、という疑問を。

 

 

(リーアルに伝えるか……いや、駄目だ。自己保身と上昇志向の強いリーアルの事、伝えたところで男を消してこの一件を闇に葬り、再び不知火に契約と改造を迫るだけ。その過程で、全てを知る私も消そうとする……!)

 

(幸い、あの御方も近日中にいらっしゃると耳にしている。何としても、伝えねば……!)

 

 

 重い身体を引き摺るように動かしながら、淫魔はアンダーエデンとは別の方向へと向かった。

 

 彼女の主の拠点は、ヨミハラには複数存在している。

 主の目的は強大であり、今はノマドを隠れ蓑としているが、いずれはその支配関係も入れ替わる。その目的を達成する為には、リーアル以外にも娼館を経営する必要があった。

 無論、それはヨミハラだけではない。東京、アミダハラ、アマハラ、トミハラ。誰にも悟られぬまま進行して手遅れとなる病のように、各地の魔界都市には主の傘下となる娼館が無数に存在し、更に計画の遂行するために必要な本拠地も。

 彼女が向かうのはそうした拠点の一つであり、彼女が仲間と認めている同じ淫魔族が経営する娼館である。

 

 しかし、其処へ向かう道程は、彼女にとって屈辱の極みであった。

 道行く人間どもには薄汚れた鼠のような有様を好奇の視線で見られ、道で立つ娼婦どもにすら嘲笑される始末。

 それでも彼女が耐えたのは、ひとえに使命感故だ。自らが仕える主の大望を叶えるために、同じ思いで仕える仲間に危機の到来を伝えるために、思い通りにならぬ身体を懸命に動かし続ける。

 

 

「誰か、誰かいないか――!」

 

 

 そして、ようやく辿り着いた娼館の前で、声を張り上げる。

 

 彼女の声と姿を認めたらしき仲間は彼女へと駆け寄り、安堵からか彼女は両膝を追ってその場に蹲る。

 意識は朦朧としていたが、失うほどではない。身を案じる仲間の声すら遠かったものの、最後の力を振り絞って、伝えなければならない言葉を口にしようとした瞬間――――

 

 ――――彼女の身体は、何の比喩もなく爆発四散した。

 

 駆け寄った幾人かの仲間どころか、娼館の玄関すらも巻き込む大きな爆発。

 通行人も爆発の影響をもろに受け、何人かが死亡し、数十人が爆風によって重傷を被る。まるで水面に波紋が広がるように悲鳴と怒号が迸り、混乱は一気に波及していく。

 それに共鳴するかのように、街のアチコチで同じように爆発が連続する。

 

 数日後、この爆発事件はヨミハラ自体を狙った無差別テロ行為として、ノマドから正式に発表されるものの、後に引き起こされる最悪の事件の呼び水の一つに過ぎない事を知る者は、未だ誰もいない。

 

 

『知的生命体の思考能力は優秀です。動物の帰巣本能よりも遥かにね。何せ勝手に道を覚えて勝手に家に帰るんだから。後は身体に爆弾を仕掛けた上で思考を操ってやれば――――はい、自動追尾弾の完成です。いや、この場合は自動追尾ミサイルか? まあ、どっちでもいいか』

 

 

 そう、小太郎が淫魔を殺さずに置いたのは、こういう思惑があったから。

 敵の情報を得るためには拠点を探るのが一番早い。しかし、それが分からないのであれば、それを知る者に案内させればいいだけの話。

 小太郎が尋問や拷問を行っては時間がかかる。ならば、相手を拠点に戻らざるを得ない状況に叩き落として、後を追うなり目印を仕掛けておいた方が余程効率的だ。

 

 彼女の身体の中には、桐生から学んだ簡易手術によって、米連製の小型爆弾と盗聴器が仕掛けてあった。思考が鈍く、身体が重かったのは、麻酔の効果が残っていたから。

 後は、盗聴器から伝えられる状況から頃合いを見計らって、爆弾を作動させれば、目印の出来上がりだ。

 

 全ては釈迦の掌ならぬ小太郎の掌の上。

 相手の性格や心理を一目見ただけ見抜き、先を読む事に長け、あらゆる手段の行使に躊躇がない彼ならではの外道畜生にすら劣る所業である。

 

 巻き込まれた彼女は溜まったものではないが、全ては自業自得。人を喰い物にする魔族になど同情の余地はなく、既に血に染まって殺されて当然の存在。

 唯一、彼女に救いがあるとするならば、全てを達成しようとした安堵と共に、自らの死にも気付かずに死んだ事だけだろう。

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

「ね? 簡単でしょう?」

 

「…………うわぁ…………うわぁ!」

 

「こ、こんなのやっては駄目なヤツではないかぁ!」

 

「は? 何でや。糞みたいな街の糞みたいな敵と糞みたいな住人どもを爆死させただけやぞ。おかげさんでこっちは手も汚れて糞塗れじゃ」

 

「いやぁ、あのぅ、でも……その、こういうの対魔忍的に駄目だと思うよ?」

 

「対魔忍がやったってバレなきゃええんじゃバレなきゃのぅ。やったのオレだしね。お前らは思う存分、正義の味方面しててええんやで? それに最後に勝てば言えない事も全て闇に葬れるから。歴史とはそうやって紡がれてきたんだよ」

 

「そ、そういう問題では…………いや、それに、こんな事をしては拠点の警備が厳しくなるだろう! やっぱり駄目だ駄目だ駄目だぁ!」

 

「大丈夫じゃ。そのためにあちこちに爆弾仕掛けて、目的を分からなくしてんじゃん。相手側は敵を想定しきれてないから、警備が厳しくなっても付け入る隙なんていくらでもあるんだよなぁ」

 

「何もかも計算尽くか、お前は! この街の悪党どもが可愛く見えるぞ、私は!」

 

「悪を滅ぼすのはより強大な悪! オレは悪でも対魔忍は正義だから問題ないっ!(キリッ」

 

「…………私、小太兄だけは敵に回さない。好きだからってのもあるけど、それ以上に怖い(震え声」

 

「何処かで聞いた事があるぞ、確かノマドの朧だったか。こういう戦法を使っていただろう」

 

「はぁん? あの糞女がやってんのは味方で、だろ? オレのは敵を使ってやってる。やったぜ、オレのがまだ幾分かマシじゃん!(確信」

 

「「このドライモンスター!!」」

 

 

 これが、ドローンで敵の拠点を眺めながら行われた小太郎、ゆきかぜ、凜子の会話の一部始終である。

 最早、二人は怒ればいいのか震えればいいのか分からない、といった風情であったが、小太郎は涼しい顔をして罪悪感なぞ一切持っていない様子である。

 

 この後、やってきた紅は小太郎の行いに絶叫し、災禍は、やると思った、どうして止められなかったんだ私はと頭を抱えるハメになる。

 しかし、最終的には小太郎の手法を認められないながらも、受け入れてしまった辺り、どうしようもなく彼に染まり始めている何よりの証明であった。

 

 

 

 

 





ほい、という訳で、若様宣言通りに淫魔の秘書ちゃんを散々弄んで使い捨てる&フェリシアと接触、問題なくスルーして顔と性格と能力を一方的に確認&若様、朧に勝る外道行為を平然と行う、の巻でした。

前々から人間爆弾やりたかったんだよね。ウチの若様ならこれくらいはやって当然だからやらせた。
思いついたのはスパロボで見たザンボット3のアレとNARUTOの卑劣様のアレ。
これ、朧も似たような事やってたんだけど、味方じゃなくて敵でやってる分だけマシだけど、難易度高い上に、敵を倒すためじゃなく敵の本拠を探るために、って言うね。

さて、これからも若様に外道行為働かせて、魔族と米連をどぅんどぅん恐怖と絶望のどん底に突き落としていかなきゃ(使命感

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