若様「ホンマこの街は碌でもない奴ばっかやで」
若様「それはそれとして罠カード発動! 人間爆弾!」
秘書「ぎゃー! サヨナラ!」
若様「はいはい、ショッギョムッジョショッギョムッジョ」
という前回までのあらすじ
あーん! 災禍配布ktkr! それに自斎ちゃんも可愛いよーヤッター!
災禍は配布にしては攻撃力高めの紙走行。スキルは、まー配布にしてはそれなりか。何よりもモーションがええんじゃ!
自斎ちゃんの方は、ゆきかぜほどでないにせよ、かなり強力自然属性単体アタッカーか。奥義みたけど、スタンドだコレー! 出したら裁くのは私の忌神だ! とか言わせちゃる!
どっちもいいぞぉ、これ! エロもいいんじゃ~。
さて、そんな感じでイベントもガチャも満喫してるんで、今回は短めで。
違和感なく話を繋げるための繋ぎの一話なんじゃ。この回に、若様が苦労するための要素が三つも四つも入っているっていうね。では、どぞー!
小太郎による“オレの自動追尾弾だぜ……”作戦の後。
ゆきかぜと凜子からは重苦しい溜め息と罵倒、災禍からは苦言を呈され、紅とクラクルは余りの所業にドン引き状態の中、淫魔達の本拠、或いは拠点の一つと思しき娼館を確認した。
兼ねてより災禍が収集していたヨミハラの情報から、想定していた潜入手段が有効であると判断した小太郎は、面々に自らの考えを明かした。
どれだけ言葉を重ねても聞く耳を持たない彼の姿勢に全員が諦め、不承不承ながらも言葉に耳を傾けた。
潜入に赴くのは、やはり小太郎と災禍である。
身につけた技能的に潜入が可能なのは、この二人しかいないので当然であろう。
凜子は潜入中、万が一に備え、いつでも空間跳躍の術を行使できる状態で待機。ゆきかぜと紅は、此方の拠点が襲撃された際の備えに当たる。
何にせよ、これまで通りの布陣だ。三人は歯痒い限りであろうが、能力にも性格にも適材適所というものがある。経験的にも未熟である以上、当然の采配であった。
小太郎は次の作戦行動を伝えると、解散を宣言し、今へと至る。
気ままなクラクルは屋敷の何処かへ消え、災禍、凜子、ゆきかぜはそれぞれの選んだ部屋へと戻り、紅もまた同様であった。
部屋に戻った紅は、小太郎の力に慣れていない現実に歯痒さと悔しさを感じながらも、ベッドの上に正座し、精神統一を行っていた。
『精神の乱れは剣の乱れ。負の感情は容易く剣先を鈍らせ、自らの身を危険に晒す。もし、心に乱れを感じたのなら、これが一番よい』
もう遠い記憶になりつつある幻庵の教えを紅は愚直に実践する。
瞼を閉じ、呼吸を整え、自らの内に埋没していくかのような感覚。刃の如く研ぎ澄まされていくかのようだ。
徐々に、対魔忍として、小太郎の刃として相応しい精神が構築されていく過程を遮ったのは、ドアを叩くノックの音であった。
「紅、いるか?」
「ああ、どうぞ」
ノックと共に問い掛けてきたのは聞き違える筈のない小太郎の声。
彼の方から訪れるのは珍しく、精神統一の邪魔をされはしたものの紅に不機嫌な様子はなく、寧ろ嬉しげですらあった。
喜びから僅かばかりに上擦った声で、部屋へ入るように促す。男と女としての一線を越えてから少しは慣れたかと思ったが、どうにも気恥ずかしさが先行してしまう。
しかし、喜びを覚えていた彼女の表情に比べ、入ってきた彼の表情は余りに険しい。
珍しく悩んでいるかのような仕草に、決して甘い時間を過ごしに来た訳ではないらしい。
紅にしてみれば残念極まる事態であったが、先程までの精神統一の影響か、切り替えは早かった。正座を解いて、小太郎に向き合うようにベッドの端へと腰掛ける。
「どうかしたのか……?」
「……オレの視点や意見は極力排除して、事実だけ伝える。今日、ヨミハラでお前によく似たガキに遭遇した」
「……? どういう事だ?」
「ただの他人の空似じゃない。遺伝的な特徴が出やすい部分にお前だけじゃなく幻庵や心願寺 楓との共通点も見受けられた――――お前の血縁である可能性が極めて高い」
「……………………え?」
余りにも唐突で予想だにしなかった言葉に、紅は硬直した。
自身の血縁と言えば、祖父である幻庵と会った事のない母・楓、そして認める事すら忌々しい不死の王の三人だけ。
しかし、小太郎はガキと口にした。自らの血縁は皆大人。そもそも、その三人ならば、小太郎は出会った相手を名前で呼ぶ筈である。
そこから導き出されるのは――――
小太郎にとっては口にするまでもない結論であり、紅にとっては口にしたくもない結論である。
彼の語る言葉を咀嚼し始めた紅の表情は蒼褪めていき、身体の内側では心臓が早鐘のように打って、呼吸も儘ならない。
「――それ、は」
「女だったから、お前にとっては妹に当たるんだと思う」
「………………」
「……幻庵がブラックの魔の手からお前を救出した後も、心願寺 楓を使った異種交配実験は続けられていた、という事だ」
今は亡き幻庵にとっても無惨極まる現実を、静かに語られながら紅は努めて冷静であろうとした。
彼女自身、目を逸し続けてはいたものの、常に頭の隅にあった可能性だ。我を忘れて激昂はしない。
それでも、腹の底から湧き上がる怒りを消し去る事は出来なかった。
人を何だと思っているのか。幻庵の背負った無念と悔恨を思えば、楓が見たであろう地獄を思えば、そう考えられずにはいられない。
だが、紅は大きく呼気を吐き出し、強い意志の光を宿した瞳を小太郎に向けた。
もっと取り乱すとでも思っていたのだろうか、普段冷静な彼が珍しく目を丸くしながらもたじろいだ。
「小太郎に、聞きたい事がある。その子供について」
「――――それは、オレは口にしたくない。オレの目から見たものを語ったところで、それはオレの意見であって、オレの意志でしかない。ガキについては自分で見て確かめるべきだ」
「良い、分かっている。私は、それを聞きたいんだ」
小太郎にしてみれば、紅の妹と思しき少女に関して、必要以上に語りたくはなかった。
他者の口を挟んだ時点でそれは事実ではなく情報であり、紅の決定や意志に自身の色が加わるも同然だ。
この一件に関しては、一切合切を紅の意志で決定するべき問題である。如何に幻庵から紅の身を頼まれたとは言え、結局は何処まで行っても他人事でしかないのだ。
幻庵と紅の痛みや苦しみを真の意味で理解してやる事など出来ない。だからこそ、当事者に全てを任せるべき。結果として袂を分かつとしてもだ。
それが彼なりの誠実さだったのだろうが、紅は小太郎の見てきた全てを口から語られるのを待った。全幅の信頼とはそういうものだ、と言わんばかりに。
紅は小太郎に全てを捧げた身。彼の女であり、彼の敵を殺す剣と認めている。任務上の標的に対する容赦の無さと悪辣さには辟易とするものの、味方に対する優しさと誠実さを失う相手ではないと知っているから。
結局、折れたのは小太郎だった。
紅が望んでいる以上は、此処で口を噤んでも意味がないと判断したのだろう。
可能な限り己の意見を廃し、客観的な事実のみを伝える。小太郎が意図していたとは言え、あの酒場で起きた惨状を――――
「…………そうか。なら、その
「良いのか、紅。あのガキはお前にとって、この世で唯一――――」
「分かっている。分かっているよ。でも、今の私は対魔忍で、独立遊撃部隊の隊員だから」
この世において、唯一の同種であり、同じ苦しみを共有できる筈の存在を、紅は敵と断言した。
例え、小太郎が見聞き体験した事柄であったとしても、少女の行動は紅の許容できるラインを大きく越えていた。
きっと少女は、この街だから虐殺を引き起こしたのではなく、全てが嫌いだから鏖殺したのだと確信していた。
人も魔族も他人は弱く醜く、そして恐ろしい。
自分とは違うからという理由だけで、同じ精神性を有し言葉の通じる相手であっても、殴られれば痛いと理解しているのに痛いと分かっているからこそ嬉々として拳を振り上げる。それが、十数年で紅が実感した事実である。
少女が何を感じ、何を思っていたのか痛いほど理解できた。少女は幻庵と小太郎、二人が引き合わせてくれたあやめ、龍、骸佐、ゆきかぜ、凜子に出会わなかった紅そのものだったからだ。
紅は彼等と共に生活する事で学んできた。他者の目から己を見れば、人や魔族と同じく、弱く醜く、そして恐ろしい生き物に映るだろうと思う。
誰もがそうした他者への恐怖や不安と戦いながら、一人では寂しくてとてもではないが生きてはいけないから手を取り合う。
種族を隔てる壁は確かに高い。だが、其処で拒絶して自分の内に籠もってしまうべきではない。紅はそう結論する。
「それに、今はゆきかぜと不知火さんのためにヨミハラに来たから。今は、その娘の事は忘れるよ」
「そうか。悪いな、色々とお前を見縊っていた」
「ふふん。小太郎の見ていない所でだって、成長しているからな」
小太郎は破顔し、紅は悪戯っぽく表情を崩す。まるで互いの不安を和らげるかのようだ。
二人の不安は正しい。
邪悪というものは確実に忍び寄り、感情というものは易々と制御できるものではないのだから。
―――――
――――
―――
――
―
「随分と、派手にやられたものだな」
「申し訳御座いません。返す言葉もなく……」
「まあいい。現状はどうなっている」
小太郎に散々利用された挙げ句、爆殺された淫魔が向かった娼館の一室に、二つの人影が在った。
一人は男の淫魔であり、この娼館を任されていた者。見るからに冷徹を形にしたかのような美丈夫であったが、その額には冷や汗が伝っている。
もう一人は、声からして男であったが、薄暗い部屋の中では表情を伺い知れず、何者であるか分からない。少なくとも娼館の主の態度を見れば、上位の存在である事は間違いない。
「ハッ。娼館の玄関は一部爆発で吹き飛びましたが、明日には修繕が終わります」
「そうか。対応が早いな、よくやった」
「勿体なき御言葉、恐悦の至りです」
急ピッチで娼館の修繕を進めていると知り、顔も名前も分からない男は、素直に称賛し、娼館の主は深々と頭を下げる。
闇の住人は顔に泥を擦られるのを極端に嫌う。
プライドを傷つけられる、という理由もあるが、それ以上に裏社会において他者から侮られるのは致命的。
侮られれば侮られた分だけ付け入れられ、毟り取られる。例えそれが取り繕いであったとしても、示威や誇示とは身を守り、利益を確保するには必要な行為なのだ。
何より、この娼館はリーアルのアンダーエデンとは違い、娼婦を本物の淫魔が務める。
政府の要人、財界の重鎮、大企業の役員などを籠絡し、彼等の側に引き込む役割をになっている。
彼等はブラックのノマドとは異なり、表立って行動していない。寧ろ、そういった行為事態がナンセンスだと鼻で笑っている。
人間を効率よく支配するには、力尽くではなく、頭を抑えてしまえばいい。国の支配階級を都合の良い傀儡としてしまえば、国民は知らず知らずの内に家畜へと成り下がるのだから。
「下手人についてだが……」
「申し訳御座いません。そちらについては何も。ただ、ヨミハラの各地で爆発事件が同時多発的に発生していたようです」
「他の組織が我々を狙ったようには思えんが……そう見せかけるのが狙い、という線もあるか」
「仰る通りで。しかし、それでは我々の存在や計画、目的も露見している可能性が高い。であれば、我々の中に裏切り者がいる可能性も……」
「違いない。だが、今回の件に関しては外部の情報収集を中心に行え。裏切り者探しなど疑心暗鬼を生み出すだけだ。余の同胞にそのような不和は要らぬ。店の警備を増やし、爆発物には十分に注意させろ」
「畏まりました。主の意のままに」
結局の所、彼等もまた相手の目的が何であるか、まだ分かっていない。
それも当然だ。小太郎によって爆殺された淫魔どころか、彼女を助けに向かった仲間すら死体も残らなかった。
娼館にいた仲間の証言により、彼女であった事は間違いないが、彼女が爆発物を持たされたのか、仕掛けられた爆発物に巻き込まれたかすらも判然としない。
彼等に出来る事は、精々が娼館の警備を増やして、見えぬ敵に備える事のみである。
「明日、奴が此処に来る」
「成程。では、これを機に……」
「暫く先の話になるが、な。奴の目的が分かっている以上、籠絡は容易い」
「後は、今まで通りに、ですね」
娼館の主が薄っすらと浮かべた笑みは、悍ましいにも程があるほど淫らに歪んでいた。正に淫魔に相応しい笑みである。
尤も、率直に性的興奮を覚えているのではなく、人間が不様に堕落していく様が好きで好きで堪らないというようだ。
姿が見えない男は笑い声を漏らす事なく、表情も伺い知れないが、溢れる瘴気が胎動しており、明らかに腹の底から笑っていた。
「それから、捕らえた対魔忍はどうなっている?」
「水城 不知火ですか?」
「いや、そちらではない。もう一人の方だ」
「そちらについては地下で恙なく調教が進んでおります。もう暫しお時間を頂ければ、我らの肉壁としてみせましょう。しかし――――」
「口にせずとも分かる。お前達の不安と疑問も当然だ。だが、その件に関しても、奴が情報を持ってくる予定だ。我等にとっても有益になりうる値千金の情報をな」
――――やはり、誰の思い通りにも事は進まない。
向かい合う二人だけではなく、この場にいない小太郎にとっても同様に。
今現在、小太郎達が把握している捕らえられた対魔忍は、水城 不知火ただ一人。それとは別に対魔忍が捕らえられているなど、正に寝耳に水、驚天動地の事実である。
しかし、一つの疑問を抱く。
娼館の主は、その対魔忍を問題なく堕としてみせると豪語した。姿の分からぬ男も、それを否定せずに首肯する素振りすら見せた。
ならば何故、彼等が不安や疑問を抱かねばならぬのか。
自分達にとって都合の良い傀儡とする以前の問題があるのだ、と言わんばかりであった。
はい、というわけで、紅ポンコツながらもただのポンコツではない&黒幕同士の現状&若様が苦労しとうな不穏な空気と単語の数々、の回でした。
ああ、苦労さんの神の杖が若様に迫る。
なお、今回はやり過ごせても、その後に大黒とか神々の黄昏が待っている模様。
泣け! 喚け! 若様は苦労しろ! 悪党どもは絶望して死ね! その後にはイチャコラだ!
この話は、だいたいそんな感じの話です。
では、次回もお楽しみに!