苦労さん「ロッズ・フロォム・・・・ゴォ↑ォォ↓ッド!!!」
前門の弾正軍団「(ゾロゾロ」
後門のナディア「(コソコソ」
若様「はわわ(白目」
という感じの前回までのあらすじ
メインストーリーの新章クリア
ユキカゼ時代と違って、ヨミハラに簡単に侵入できるようになっててワロタ。ま、まあ、この話はユキカゼの頃の設定を使ってるから(震え声
若様の能力が魔性由来のものだと判明。なお、こっちの方ではあんまり関係ない模様。別の世界線だからね、仕方ないね。
そして、日焼け跡がエッチな上月ちゃんと米連所属なのに何故か関西弁で悪役になりきれない感満載のヘスティアさん。どっちも好きぃ!
では、本編どぞー!
(――――さて、取り乱していてもどうにもならない。生き残る道を探すとしよう)
これまで内面では凄まじい取り乱し振りを見せた小太郎であったが、深呼吸とも言えない短い呼吸で冷静さを取り戻していた。
想定外など珍しくもないのだろう。彼にとっては街中でアンケートを取られる程度のハプニングなのかもしれない。
況してや、彼は対魔粒子を有してこそいるが、固有の忍法には覚醒していない。こうして精神も完全に操れなければ、とてもではないが生き残れてこなかっただろう。驚嘆には値しない。
人混みに紛れながら、まだ遠いものの前方からゆっくりと向かってくる弾正率いるサイボーグ集団を観察する。
集団は手足などの一部分のみを機械化した者と全身を機械化した者に二分されていた。
(前者は弾正に付いていった連中と分かるが、後者は見覚えのない連中もチラホラと――――ひでぇもんだ)
全身機械化されている者の中には、小太郎と交友のあった異母兄弟の顔もあった。だが、彼らの表情にも歩き方にも感情らしき色は見受けられない。
恐らく、米連に逃げ延びた後、弾正に反発を見せたのだろう。その結果見限られ、肉体を機械化の実験材料に、意志は奪われて文字通りの人形と化したのだ。
しかし、小太郎にも感情の発露は見られなかった。
いくら母が違うとは言え、同じ血を引き、同じ過去を持つ兄弟に、この無関心さ。余りにも無情であった。
弾正は支配欲も強く、傲慢な性格だ。政府主導で近代化していく対魔忍の流れに逆らい、ふうまという栄光にしがみついた挙げ句が十数年前の反乱である。自身が生き残るためならば、平気で我が子すら売るであろうし、抵抗を見せれば自身に都合の良い人形に変える事も厭わない。
小太郎の記憶にある彼等彼女等は、至極まっとうな性格をしていた。それではいずれ弾正と反りが合わなくなるのは目に見えていた。当然の結果に過ぎないのだ。
もし、彼等彼女等が現在の境遇を回避する機会があったとするのなら、それは反乱時、幼いながらも弾正に抵抗を見せ、離脱を選択する他なかった。
幼かったから。他に頼れる者が居なかったから。母や兄弟がついていったから。
そんなものは悉く言い訳に過ぎないと小太郎は断言する。一足早い親からの独立、ただ一人でも生きていくだけの覚悟がなかった者の落ち度と斬って捨てる。
(確か、弾正が亡命に利用したのは米連の特務機関“G”だったか。そんなところに転がり込んで自分がやりたいようにやるには、言うことを聞かないガキは良い土産だったろうよ)
小太郎は弾正に対してさしたる興味もなかったが、風の噂で弾正達の亡命に手を貸した米連内部の組織を耳にしていた。
それが特務機関“G”。主に戦闘・暗殺能力に特化した
使用されている技術も米連内部においても最新鋭。また魔界技術も流用されているとされ、詳しい活動内容については判然としないのだが――――何にせよ、弾正にとっては良き交渉相手だ。
常人よりも優れた肉体を持つ対魔忍は、機械化実験には何とも相性がいい。
拒絶反応も少なく、薬効耐性も強いため、常人では死亡してしまうような無茶無謀も罷り通り、人体実験によって得られるデータの総量、希少価値は計り知れない。
それを自身に反発した可愛くもない子供や使えない部下で賄えるのだ。弾正でなくとも、同じ道を選択する者は少なくあるまい。
(しかし、組織を完全に掌握しているわけでもなさそうだな)
チラホラと見知った顔に混じって、明らかに弾正に付いていった者とは異なる人種も存在している。
不敵な表情を浮かべ、白い上着を肩に羽織り、金属バットにしか見えない棍棒を担ぐ女性。
真っ赤な装甲で覆われ、両腕の先には手に変わって三門の機関砲が取り付けられた、辛うじて女性型と判断出来る
どちらも歩調や周囲への警戒の仕方が忍のそれではなく、どちらかと言えば軍人のそれであった。
推測に過ぎないが、今回の弾正の来日は独断でこそないものの“G”内部では意見が割れているのだろう。
弾正の目的は、己を頂点とした対魔忍の再構築と復権と見て間違いないが、“G”にしても米連にしても相当ハイリスクハイリターンである。
確かに、自らと繋がりのある弾正が対魔忍として返り咲けば、現状、日本にしか存在しない魔界の穴から齎される技術は好きなだけ得られるであろうが、どのような手段を用いても弾正が復権するのは難しい。
現状、対魔忍の上役にして、政府との繋がりのある調査第三部のトップ山本 信繁は、弾正を決して認めない。
彼はこの世界における歴史上のターニングポイント、台湾危機――台湾に侵攻した中華連合と米連の軍事衝突事件である――の頃より、己を滅し、国に仕える真の愛国者。そんな山本長官が、欲望に塗れた弾正が対魔忍の頭領になると囀っても、首を縦に振るに筈もない。
であれば、考えられるのは力業だが、山本長官の脇に控えるのは最強と名高く、弾正も一度は敗北を喫した井河 アサギである。もし、弾正がもう一度敗北するような事態になれば、米連側がどれほどの痛手を受ける事か分かったものではない。
それ故のお目付け役が、彼女達なのだろう。
(凡そ、弾正の置かれている現状はそんな所か――――しかし、あの三人は誰だ……?)
弾正の隣を寄り添うように進む銀零の後ろに続く、自分と同じ程度の年頃と思しき三人の少年少女に小太郎は眉を顰めた。
三人が三人とも、対魔忍特有の身体のラインが顕になる装束を身に纏い、頭部をすっぽりと覆うヘルメットを被っている。
但し、ヘルメットは合金にカメラアイ付きの特別性であった。よくよく見ると、それぞれに合わせているのか装束もヘルメットの意匠は細部で異なっている。
一人は身長も体格も小太郎より大きく、身の丈ほどもある斬馬刀を背負った少年。
一人は体格的には小太郎と同等、腰にはそれぞれ長さが異なる小太刀を携えている少年。
一人は小太郎よりもゆきかぜに近い体格で、他の二人とは異なり徒手空拳の少女。
少なくとも小太郎の記憶には、三人のような体格と武器を携えた対魔忍や兄弟達が弾正に付いていった記憶はない。
弾正の亡命以後に成長、頭角を現した可能性もあるが、その三人だけは歩き方からも機械化されている様子は一切ない。
(あっちで作ったガキにしちゃ大きすぎるし、体格からして日本人である事は間違いない。オレが知らない兄弟という可能性はあるが…………参ったね。あの三人、こっちの紅達よりも強い)
多分に直感を含む評価であったが、小太郎が脅威を覚えるほどだ。
自然体でいるようで決して途切れない警戒心。不測の事態に対応すべく全身に現れる筋肉の起り。体幹のブレない歩法。
距離が遠い故にその程度の情報しか得られないが、その程度の情報でも三人の実力が達人に匹敵する強さだと嫌でも理解させられる。
彼我の実力差、戦力差を瞬時に見抜き、理解するのは指揮官として当然の技能であり、部隊を預かる小太郎も身に着けているが――――三人の強さは、理性とは別のもっと深い部分、本能が警鐘を鳴らすレベルだった。
(いま分かるのはこの程度か、後ろからは素人さんが尾けてきているし、そろそろ動くか)
次第に縮まっていく距離の中で、一度も脚を止めずに進んでいた小太郎は状況判断と情報収集を止め、行動に移った。
小太郎は素早く手首のカフスを外し、親指に折り曲げた人差し指を掛けると徐々に力を込め、遂には炸裂させる。
所謂、指弾と呼ばれる技術。指で弾ける大きさの物体であれば、何であれ投擲武器と化す上、モーションが少ないため暗殺にも使用される。
この技術を極めた者は弾丸と遜色のない指弾を放てるが、小太郎はその域には到達していなかったが、小太郎の目的を果たすには十分である。
「――――いっだぁ?!」
カフスが放たれた先に居たのは、小太郎の立つ位置から通りの反対側に立つ男であった。
側頭部に走った痛みに男は目を血走らせ、見た目に現れた血気盛んさをそのままに、たまたま隣に立っていた通行人を犯人と決めつけ殴りかかる。
水面に波紋が広がる如く、露天商通りは瞬く間にこれまでとは別種の喧騒に包まれていく。男を中心に怒号と悲鳴が飛び交い、喧騒を察知した周囲の人間や弾正を筆頭とした集団全ての視線が集まっていく。
「何だ……え、ぐっ!?」
その間、騒ぎの起爆剤となった小太郎は、音もなく一番近くの露天商人の顔面に蹴りを食らわせると同時に昏倒させる。
そればかりか、商人の全身を覆い隠していた外套を奪い取り、自身の頭から被ると、商品の持ち運びに利用したであろうカートとダンボールの影にピクリとも動かない彼を隠し、自らは露天商に成り済ます。
弾正と率いられている者達を観察しつつも、自身の正体を隠すべく、そういう対象を探していたのだ。
周囲の者達は喧騒にばかり目が行って、誰も商人と小太郎が入れ替わったなど気付いていない。
見ている者の目線を巧みに誘導し、本当に見られたくない部分から目を逸らさせる手品師がよく使うテクニックである。
「おいおい、どぉすんだ? 弾正さんよぉ?」
「こんなん一々相手にしてられんわ。ちゅうか、ウチ等、こないに堂々歩き回ってええんかいな?」
「メイジャー、放っておけ。ヘスティアの言い分も尤もだが、この街の連中に我々の存在を喧伝できればそれでいい」
小太郎の成り代わった露天の前に差し掛かった“G”の面々であったが、彼等は露天になど興味はないのだろう。視線すら向けていない。
弾正のお目付け役と思しき二人は、生身の人間に見える方がメイジャー、真赤な全身義体の方をヘスティアと呼ぶようだ。
言動から察するに、今回の弾正を主体とした日本への侵攻には懐疑的であるのか、はたまた弾正自体を嫌っているのか、推測されるお目付け役という役割が気に入らないのか、乗り気は見られない。
弾正は懐かしい空気を楽しんでいるらしく、小太郎の存在に気付いてもいない。
いい空気を吸っているおっさんに、これから自身に降りかかるであろう苦労と七面倒臭い展開を予測して早くもビキビキし始めた小太郎であったが、すぐさま戦慄する羽目になる。
「――――?」
(おい……おいおいおい、どういうことだ……!)
小太郎が最も危険だと判断した三人の内の一人――――無手の少女が脚を止め、外套で全身を覆って座り込んでいる小太郎に視線を向けたのである。
他の者達が脚を止めずに進んでいる以上、小太郎の変装に問題はなかった。少女の側も小太郎と直接対面した事がなく、気配や雰囲気で察するのは不可能。
無名の小太郎の情報は米連にまで流れてはいない。探知探索に特化した何らかの忍法を保有していたとしても、ありえない事態だ。
不審と疑問の視線を向けられ、小太郎の全身に冷や汗が浮かび、心臓が跳ね上がる。言い訳のしようもなく、彼は追い詰められていた。
今から凜子に連絡を取り、視覚跳躍と空間跳躍の術を駆使すれば、逃げるだけならば何とかなるだろう。だが、そうなった時点で弾正側に自身がヨミハラに潜伏している事実がバレてしまう。
ブラックやその娘にバレているだけの状態ならば、他人を信用していない二人の事、ノマドという組織を動かさず、必ず自分の手で見つけ出そうとする分、まだマシであるが、弾正はそれを選択しない。今ある部隊をヨミハラの全域に展開し、傭兵すらも雇って小太郎を追うだろう。
そうなれば、最悪の事態だ。
不知火の救出まであと一歩だと言うのに、これまで静かに進行する病のように進めてきた全てが台無しになる。
小太郎は余計な事しかしない弾正と正体不明の娘に怒りを向けつつも、最悪を想定する。
この場で戦闘を開始するのは論外。とてもではないが、これだけの集団に囲まれては勝つどころか逃げることも不可能だ。
最善は凜子の忍法による離脱だ。これで弾正側に対魔忍の存在――ひいては己の存在も発覚してしまうが、ヨミハラに部隊を展開するよりも早く、アンダーエデンに突入して不知火の身柄を確保するしかない。
現状、弾正との戦闘は避けざるを得ない。
彼の持つ邪眼は“
ともあれ、彼と対峙すれば災禍と紅は強制的に戦闘不能の状態へと陥る。残る小太郎、ゆきかぜ、凜子、救出した不知火の四人だけで、災禍、紅、別次元の紫を抱えていては戦闘も撤退も不可能に近い。
――――しかし、小太郎の考えは杞憂に終わる。
「ごめんなさい。これ、いくらかしら……?」
(………………そう来るか。仕方ない、今は乗るしかねぇか)
その時、少女の視線を遮るように、一つの人影が二人の間に割って入ってくる。
小太郎と同じく自身の正体を隠すように外套を纏った美貌の女性――――言うまでもない、魔界の踊り子ナディアであった。
元より小太郎の後をつけていた彼女は視線誘導には引っかからなかったのか、或いは能力によって看破したのか。いずれにせよ、ナディアにとって彼の置かれた状況は都合が悪く、同時に良くもあったのだろう。
ナディアの目的が何であれ、尾行までしていた以上は彼の生存は必須事項である事は疑いようがなく、小太郎と弾正の関係性が如何なるものであるか知る由もない彼女であるが、彼が身を隠す選択を取った以上は決して良好な関係でないと察するのは難しくなかった。
もし仮に、戦闘に発展した場合、戦力差は明らか。小太郎の側に味方したとしても、これだけの数を相手に自分の身を守りながら、彼を守りきれると断言するほど、彼女は自信過剰ではなかった。
もし仮に、逃走を選択した場合、一度は撒かれている身。此処で逃してしまえば、次に発見できるのとは断言できない。
戦闘に発展させず、逃走も選択させず、なおかつ恩を売りつつも小太郎を庇うという行為は、彼女にとって千載一遇の機会なのである。
小太郎と視線を交わし、ナディアは緊張した面持ちながらも演技を続けるように訴えてきていた。
上位存在特有の純粋でありながら傲慢な善意でも、他者を思い通りに動かそうとする悪意でもなく、打算が入り混じりながらも事を穏便に済ませる思慮深さを感じさせる選択。
小太郎は他の上級魔族では決してありえない選択に、捕まるのならば弾正よりも遥かにマシな相手だと認めた上で、彼女の訴えを受け入れた。
「何をしているの? 早く来なさい」
「………………」
仮面の少女が脚を止めていた事に気がついた銀零もまた脚を止め、声を掛ける。一瞬、少女が見ていた小太郎とナディアに視線を向けたが、よくある露天の光景と気にも留めなかった。
銀零に促され、少女は首を傾げながら再び歩み出した。どうやら、元々違和感や気になる点があったという程度で、明確に小太郎の存在に気付いてはいなかったようだ。
――弾正と小太郎の邂逅は、小太郎のみが相手の存在に気付き、ナディアに助けられるという形で回避された。
弾正達が去っていき、ヨミハラの人混みへと消えると小太郎とナディアは同時に大きく息を吐いた。
「それで? そっちの目的は何だ、魔界の踊り子」
「……そう、気付いていたのね。折り入って、貴方に頼みがあるの」
―――――
――――
―――
――
―
「よし、全員揃ってるな。簡単な状況整理を始める」
クラクルの巣――ヨミハラの拠点へと戻ってきた小太郎は、独立遊撃部隊の面々を娼館で最も広い待合室に集めていた。
紅を筆頭とした三人娘はヨミハラに潜入した当初に比べ、複雑化していく状況に目を回している。此処らで状況を纏めて置かなければ、彼女達も動き辛くなるだろう。
「まず、不知火さんが囚われているアンダーエデンと主人であるリーアルだが、今回の潜入で淫魔族との繋がりは確定した」
「その繋がりを示すのが生体チップの“イブ”ってわけね。でも、これってどういうものなの?」
「分からん。詳細な効果や製造元は、桐生ちゃんに渡して結果待ちになるだろうよ」
ゆきかぜは一人掛けのソファに腰掛け、小太郎が持ち出したイブの入った小瓶を睨みつけながら口にした。
彼女としては面白くもない憎しみさえ抱く物だろう。何せ、実の母親に植え付けようとされたもの、それがどのような効果があるにせよ、決して碌なものではないのだから。
「そして、ノマドも薄々ではあるが、オレ達の存在に気付いている。但し、極一部だがな」
「ブラックと……その、」
「凜子、私に気を使わなくてもいい。大丈夫だ」
小太郎の遠回しな言い方に、凜子は気を使うように慎重に言葉を選んでいたが、気遣いの対象である紅は落ち着いた様子を崩さない。
既に小太郎から紅に、そして紅から他の皆に伝えられた事実。
ブラックは紅の存在に気付いており、その目的は分からないが、自身とは親子、紅とは姉妹関係に当たる娘を動かしている。
その反面、ノマドという組織事態は動かしていない辺り、娘――――フェリシアと紅をぶつける事自体が目的のようにしか考えられない。それでブラックが如何なる利益を得られるのかまでは、三人には分からなかった。
「それから、今回救出した別次元から来たと思しき紫は先程説明した通り、
「ある意味、コイツが一番厄介だな。目的も分からず、動向も掴めない上に、後を追う事も出来ないとは……」
「奴等の能力を考えれば当然だな。オレも遭遇して戦ったのは本気で偶然だった。これは紫から得られる情報に期待だが――――何にせよ、今回はコイツまでは追っている余裕はない。捨て置くぞ」
小太郎は経年劣化で剥がれていない待合室の壁に、それぞれの勢力を書き込んでいく。
彼としても、この混沌極まるヨミハラの情勢を整理したいのだろう。こうした時には、何かに書き出してしまうのが一番いい。
次元侵略者に関しては、情報はほぼないに等しい。
唯一期待できるのは紫の記憶であるが、それも何処まで価値があるか。
この世界に紫を連れてくるまでは一緒であったのだろうが、淫魔の手中に堕ちていたところを見れば、紫が一矢報いたのか、それとも手に負えないと捨てたかのいずれかであるのは間違いない。まともな情報など期待できなかった。故に今回は紫の救出のみに留め、改めて別口で地道に調査していくしかないだろう。
「――――そして、現状一番厄介なのは弾正軍団だ、コンチクショウがぁ!!」
「……んニャ? ニャニャッ!」
「…………チッ!」
(災禍さんが見たことない顔してる)
(気持ちは分かるが、その顔は止めた方が良いと思う)
(災禍殿ェ……まあ、当然の反応なのだろうがなぁ……)
小太郎はブチ切れながら壁に弾正&“G”と書き殴って丸で囲むと、役目を終えたマジックを地面に叩きつけた。
これまで我関せずの態度であり、と実際に関係のなかったクラクルはコロコロと転がるマジックを追い掛け始め、災禍は弾正の名を聞いた瞬間に虫酸が走ると言わんばかりの表情で舌打ちをする。
クラクルは兎も角として、災禍の般若の如き表情には、三人もドン引きであった。
と言うのも、災禍は任務の最中は非情に怜悧で口調も固くなるが、日常生活の中では嘘のように表情も口調も柔和で皆の優しいお姉さんと言った感じ。
実際、三人も災禍を助けられた事は一度や二度ではなく、あの天音でさえも災禍の言葉には耳を傾けるほどに頼りにしている。
そんな彼女にこんな表情をさせるなど、災禍と弾正の間に何があったのか。
尤も彼女だけでなく天音も同じような表情をするであろうし、他の日本に残ったふうま一門も同様の表情を見せるに違いない。
如何せん、ふうま一門の衰退と現状は、弾正が引き起こした反乱が原因である。自分の都合で勝てない戦いを挑んだ挙句、自分と自分に従順な者だけを連れて米連に逃げ延びた元凶が戻ってきたとしたら、そらそうなる。
“ふうま正義派”などと称して対魔忍側から離反した骸佐一派でさえ、同じような表情をするであろう。所詮、建前に謳っただけで、弾正の行為を容認している訳ではない。
「いやぁ、スゲェ自信だなぁ! 普段、冷静な災禍ですらこんな顔するくらい嫌ってるのに、どうやって元ふうま一門を取り込むつもりかね! アサギを倒せたとしても納得する奴なんて一人もいねーぞ、おい。どんなウルトラCを隠し持っているんだ!(すっとぼけ」
「何時もの考えなしでしょう。そんなウルトラCを持ってから行動する男ではありません。そうでなければ戦力差を考慮せずに反乱など起こしませんから(断定」
「そうだね(便乗」
「ですので、此処で殺しておくのが一番かと(強要」
「い、いや、まだその時じゃないから(動揺」
「――殺しましょう(殺意」
「やめろぉ、災禍ぁ! 天音はともかくお前にまで暴走されたらオレどうにもなんねー! 対弾正の対策は考えてるから! いま動いたら、オレ弾正と一緒になっちゃうから!(必死」
「…………チッ!!(激憤」
災禍としても憤懣やる方ない。この場にいない天音も同じ反応に違いない。
ようやく独立遊撃部隊がまともに機能し始め、小太郎を頂点とした新たなふうま一門が一歩を踏み出そうとした時に、やらかした挙句にふうまを衰退させた
小太郎の事を目抜けと嘲笑い、当主と認めていない連中であっても、弾正が戻ってきたからと言って、はいそうですかと認めるわけもない。
災禍の心情は兎も角、方針としては仕方がない。
まず間違いなく対魔忍側は弾正の排除に動く。米連に亡命されて手出し出来ずにおり、事実上の隠居状態だったから見逃していたが、最強の面の皮で日本に戻ってきた。異分子かつ反乱者を殺さない理由がない。
となればアサギは兎も角、老人共は対弾正に小太郎を担ぎ出す。やらかした先代の尻を拭うのは当代の当主の努め、などと抜かして、小太郎の力を削りつつ、あわよくば共倒れして貰う姑息な考えを抱くのは目に見えている。
小太郎としても、老人共の提案と意見に乗らざるを得ない。弾正に出しゃばられては、何時まで経っても代替わりが終わらず、血の繋がりのある小太郎に対しても悪印象が結びつきかねない。どの道、弾正には死んで貰わねばならないのである。
しかし、正しいのは其処までで、現状弾正との戦闘、暗殺は悪手だ。
先にも言った通り、弾正の“傲眼”によって、天音を呼び寄せたとしても戦闘可能なのは小太郎を含めても三人しかいないのだ。これだけの戦力であの戦力に挑むのは、それこそ弾正と同じになってしまう。
今回は怒りや罵倒や呆れを押し殺し、不知火救出の任務に集中するのが最適解。
これまでアサギに並ぶ腕前の不知火を救出したという事実、判然としなかったヨミハラへの潜入ルートと内情を持ち帰ったとあれば、独立遊撃部隊の評価は跳ね上がる。
そうなれば、我こそは独立遊撃部隊に相応しいと腕を上げる対魔忍も出てくるだろう。油断と慢心がセットで付いてくる対魔忍故に、そのままでは使い物にならないのは目に見えているが、邪眼を持たない戦力はそのまま対弾正への戦力となりうる。
また紅、ゆきかぜ、凜子への教育は成功しており、小太郎の課した訓練は三名から油断慢心を消し去った上で、急成長を促している。
つまり、気合と根性と正義と“アサギ”という無茶苦茶な前例を基にした教育ばかりを各人がしていたから悲惨な事になるのであって、対魔忍だってまともに教育してやれば戦力と呼べるんだよ! 国営デリヘルとは誰にも呼ばせねぇ! が出来ると証明している。
なお、小太郎に降りかかる苦労は度外視である。
弾正が出てきた事で、自身の潔白を証明しつつ各家とのやり取りを行い、独立遊撃部隊に入れても問題のないメンバーを選定し、それぞれにあった訓練メニューを考えて急速な成長を促し、アサギや山本長官からの無茶振りを片付け、魔族や米連の動向を探り、対弾正への対策を練って、学校にまで通う。うん、これ過労死待ったなしだね。
小太郎よりも先に生まれてきたというのに、小太郎を苦しめるために神が送り込んできたとしか思えない男。それがふうま 弾正である!
「実際、奴の邪眼は強力だよ。目を合わせるって前提は必要だが、逆に言えばたったそれだけで災禍も天音も紅も無力化されちまう。奴の足元だけ見て戦うって努力と青春まっしぐらな戦い方できない?」
「どの辺りが努力と青春まっしぐらなのか理解しかねますが、やってできないことはありません。正直自信はありませんが、やれというのならやってみせましょう。私も、奴の顔面に蹴りを叩き込めるのなら本望です」
「いやいやいや、対弾正において災禍殿は後方支援に徹して貰うのが無難です。最先方は私とゆきかぜが当たるべきでしょう」
「ていうか、そういう忍法だったんだ……………………あれ?」
小太郎の無茶振りも快く引き受けたように見えて、まだ弾正にビキビキしている災禍を凜子は必死になって諌めた。
実際、邪眼持ちの三人には弾正の目の届かない位置でサイボーグ軍団の相手をして貰った方がいい。戦線で戦闘不能になった仲間を救助するのは余計な人手を割り裂かねばならず、どれだけ優秀でもそのリスクを孕んでいる以上は悪手以外の何物でもないのだ。
弾正の邪眼の効果を耳にしたゆきかぜは、ある疑問が浮かんで首を傾げる。いや、彼女でなくとも抱く当然の疑問であった。
「え? あれぇ? ねぇ、小太兄、私は反乱の時の事よく知らないんだけど、当時のふうまってどれくらいの戦力が揃ってたの?」
「実質、対魔忍の半分くらいはふうまだった。但し、井河・甲河の方は家の数が圧倒的に上。ふうまの方は八将を中心にした分家だけ」
「はい? それって下忍とか中忍の人を率いる指揮官が少ないってことだよね? てことは、動員できる人にも限界があるわけだから、実質的に戦力比で負けてるんじゃ……」
「そうだよ(無表情」
「……だ、だよね。じゃあ、アサギ先生とかお母さんとか、甲河の強い人に対抗できた人も当然居たんだよね!」
「オレの母上が生きていればワンチャンあった。母上が不知火さんと甲河の朧を蹴散らして総大将であるアサギを討つのが速いか、対魔忍側が弾正を討つのが早いかってチキンレースになってただろうな(絵に描いたような無表情」
「わ、私が聞いてるのは、そういうもしもの話じゃなくて、実際の話で……」
「…………ゆ、ゆきかぜ、その辺りで(震え声」
「実際ー? ブラックとの戦闘で怪我して実質引退状態の幻庵、まだまだ現役とか抜かして弾正に色目使ってたのか使われたのか知らねーけど最終的に息子にブッコロされる羽目になった紫藤家の頭湧いたババアである頼母、ふうまの悲しみ全てを背負って矢面に立った当時の二車家の当主と息子達である骸佐の父ちゃん兄ちゃんズ、その他弾正に乗せられた或いは乗らざるを得なかった凡将軍団。アサギと不知火さんと朧に勝てる奴なんて一人もいねーよ(能面のような無表情」
「………………な、何で反乱なんかしたの?」
「オレに聞くんじゃねぇ、弾正に聞け(人とは思えない無表情」
「アッハイ」
ジャンジャジャ~~ン!! 今明かされる衝撃の真実ゥ!
弾正の余りのやらかし振りに、そういった戦力比とかまだよく分からないゆきかぜですら疑問符だらけの顔となり、既に知っている紅は震え声で頭を抱える。
最早、小太郎は完全を通り越した無表情であり、地獄に堕ちたであろう小太郎の母親は、後を追って地獄に堕ちた幻庵と骸佐の父ちゃん兄ちゃんズを、あんなの馬鹿に付き合うとか同じぐらい馬鹿よー、と腹を抱えて爆笑しつつも労っている事だろう。
なお、頼母とその他凡将軍団に関しては、小太郎が目抜けと判明した瞬間に弾正と一緒になって彼女を罵倒したのでボコボコにされている。地獄に堕ちてもボコボコにされている事だろう。
当時から目抜けと侮られていた小太郎の裏切りを促す書状にすら、一も二もなく呼応するふうま一門が後を絶たなかったのである。
「――――お待たせしてしてしまったかしら」
「「「「………………」」」」
「いや、別に。アレの容態はどうなった?」
「今は落ち着いているわ。色々な薬で弱っているけれど、明日には意識を取り戻せるんじゃないかしら? 凄い生命力。あんな娘、魔族でも珍しいもの」
微妙な雰囲気になった待合室へと入ってきたのは、小太郎と共に拠点へと帰ってきたナディアであった。
今は正体を隠す必要はないと外套を取り払い、魔界の踊り子に相応しい露出度の高い衣装に包まれた豊かな肉体を惜しげもなく晒し、そしてどんな敵意でも消失してしまいそうな柔和な笑みを浮かべていた。
彼女が現れた瞬間、ピリッと部屋の空気が一変した。
小太郎と未だにマジックを転がして遊んでいるクラクルを除き、全員が武器に手を掛けるほどの警戒を露わにしたからだ。
正に一触即発であったが、小太郎は片手でそれを制し、ナディアは当然の警戒と理解しながらも困ったような笑みを浮かべた。
今の今まで彼女が何をしていたのか、と言えば、過酷な調教でボロボロとなった紫の身体を癒やしていた。
彼女は踊り、或いは相手の肉体に接触する事で魔力を対象へと送り込み、生命力や魂というものを活性化させる。謂わば、命そのものを操る能力と言っても過言ではない。
肉体的にも精神的にも追い詰められていた紫には不死覚醒による回復しか期待できなかったが、彼女を連れ帰った事でそれも杞憂に終わった。
「もしかして、私の目的を彼女達に伝えていないのかしら……?」
「まさか。報連相は部下から上司に向けてだけじゃなく、その逆も然りだ。やれやれ言ってるオレがやらねー訳ねぇよ」
「ホウレンソウ? が、何かは分からないけど、他者にやらせるならまずは自分が、ね。うん、そういうのは素敵よね。私の目的はそういうものを知るためだもの」
「……小太兄が言った事、本当なんだ」
「勿論、嘘は吐かないわ。信頼を得るには、まずは此方が信頼と誠実を示すべき、よね?」
とても上位魔族とは思えない傲慢さとは掛け離れた物静かな態度に、ゆきかぜ達は信じられないものを見るような目で呆気に取られていた。
唯一、災禍だけはいざとなれば小太郎の盾となるべく警戒を解いていなかったが、毒気を抜かれてしまったのは事実。
それほどまでに、ナディアの言葉は誠実さで満ちている。
まるで世間を知らないまま育った田舎の箱入り娘のようだ。これで魔界においてはブラック以上に危険視されているというのだから、他人というものは分からない。
「でも念の為、もう一度私の目的を言っておくわね――――私の目的は、人間を知る事。その為に、人界と魔界の間に交わされた古の約定を破ってでも、この地の土を踏ませて貰ったわ」
ほい、というわけで、弾正軍団の謎の三人組&反乱時の弾正のやらかしの一端、これで一端&ナディアさんの目的判明。
あ゛^~、若様の苦労が満載すぎて書いてて楽しいんじゃ~。
そして弾正の無能ぶりよ。まあ、災禍さんと天音がいないと生き残れないからね。しょうがないね。これぐらいじゃなきゃ、幼い上に目抜け呼ばわりされてた若様の裏切り催促状に呼応なんて誰もしねーよ。
そして、ナディアさんのもっと具体的な目的とその理由は次回! では、お楽しみにー!