対魔忍RPG 苦労人爆裂記   作:HK416

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ッシャッ! イベントの不知火ママンの信頼度MAXにしたでぇ!
内容に関しては語れませんが、エロさは良いが、そろそろ別の味わいも感じたいところ。不沈艦の方のママンのエロはどんなのかしら。引けてないんじゃぁ~。
ユニットとしては優秀かな。少なくとも自分のところでは魔族のアタッカーがいないから重宝しそうな予感。

では、若様の爆裂記の続きです。どぞー!


此処の苦労人は敵の話なんて聞かない

 

 

 

 

 

 訓練施設とアサギの座す校長室のある校舎までは、それなりに距離があった。

 

 木漏れ日で照らされる林道を小太郎と紅が足早に進む。

 一刻も早くアサギの下へと辿り着かなければならないにも拘わらず駆けなかったのは、遮蔽物の多い林で突然の襲撃を警戒してのこと。

 紅の実力であれば有象無象の雑兵などものの数ではなく、其処に小太郎の銃撃が加われば恐れなど抱かずとも不足はない。

 しかし、既にこの反乱騒ぎにキナ臭さを感じ取っていた小太郎は、必要以上の警戒を払う必要があると判断したのだ。

 

 襲い掛かるには絶好の箇所であるにも拘わらず、人が気配を殺している気配すらない。

 これでは何処か間の抜けた、成功の見込みのない反乱だ。お笑い草も甚だしい。決死の覚悟というものが抜け落ちている。

 

 

「――――…………」

 

「小太郎、どうした?」

 

「死臭がする。それに…………この音と振動、誰かが戦っているな。いや、いま片方が死んだ」

 

 

 空気に漂う血臭に、何者かの死を感じ取った小太郎は、足を止めて地面に片耳を押し当てる。

 耳と頭蓋を通して伝わってくる音と振動は明らかに戦闘時の足運びであり二人分あったが、直ぐに止むと一人のものだけが残る。以降、音と振動は消えてなくなった。

 

 生き残った側はその場から一歩も動く気配を感じない。

 もし仮に生き残ったのが五車学園側であるのならばおかしすぎる。

 一歩も動けぬほどの負傷ならば、その場に倒れ込む音が聞こえなければならない。

 それがなかったのならば()()()()のではなく、()()()()と考えるべき。

 

 とどの詰まり、この先の何者かは既に小太郎と紅の存在を察し、待ち構えている。

 

 

(歩幅からして身長180オーバー、体重は80キロ超。踏み込みの特徴からして槍の使い手。忍法も使わずに、形式上とは言え仲間だった奴を躊躇なく殺す。そんな奴、一人しかいないわなぁ)

 

 

 小太郎もまた僅かな情報と状況から待ち構えた相手を察していた。

 

 校長室のある校舎まで行くのであれば山道を迂回する手もない事はないが、悪手と判断する。

 林の木々は遮蔽物として働き、射撃武器を主とする小太郎と長物である槍の使い手にとっては戦い難く、小太刀二刀を扱う紅にとっては有利に働くが、相手が相手だ。

 槍の腕という一点にのみ絞れば、待ち構えている相手は神槍と呼ぶに相応しい使い手。林の中という前提が、悪条件として全く機能しないのは目に見えている。

 

 ならば少しでも周囲が開けた山道の周辺で戦った方が、自身の戦力も生きて合理的。

 僅かな時間で結論を出した小太郎は紅に目配せをして先に進み、紅もまた頷いて周囲を警戒しながら後に続く。

 

 

「これはこれは、宗家のお坊ちゃん。それに心願寺のお嬢ちゃんも同伴で。揃っていらっしゃるとはタイミングが良いのか、悪いのか」

 

 

 専用の対魔忍装束に身を包んだ男は笑みを浮かべ、逃げずに向かってきた二人を歓迎した。

 

 しかし、歓迎された場所はどうだ。

 男の周囲には地面から無数の槍が生えており、逆に突き立てられてもいる。その全てに、かつて人だったものがおまけのようにくっついている。

 首に胸部、頭に腹。貫かれている場所はそれぞれであったが、皆全てが急所。いずれの死体も、必殺の意思の下に作り上げられたと嫌でも分かる。

 

 加えて言えば男の笑みは人間味に溢れたものではなく、狂犬染みた獰猛さが形になったかのようで、会話が成立している事自体、不思議に思う者もいるだろう。

 

 

「――――土橋(どばし) 権左(ごんざ)

 

「分かっちゃいたが、お前がいる以上、首謀者は決まったも同然だな。ちったぁ隠せよ、馬鹿か」

 

「いやぁ、耳が痛い。しかし、隠す理由もない。勝てば官軍負ければ賊軍。そういうもんだろう、反乱なんてもんは」

 

「否定はしないが、こっちの迷惑も考えて欲しいもんだ」

 

 

 紅が険しい表情のまま、男の名を呼んだ。

 

 彼の名は土橋 権左。

 二車家の執事にして、骸佐の槍にして右腕。

 執事の職は、ふうま一門においては特別な役職だ。家中や家来衆を纏め上げ、主の方針に従って最善の手段を用意する。

 当主が人体の頭であるのならば、執事は心臓。当主とはまた違った意味で家の要であり、実質的な運営者とも言える。

 

 その宿命として執事に求められるのは戦闘能力以上に、多岐に渡る職務を処理できるだけの知能を求められる――――のだが、権左だけは別だ。

 

 彼は鋼の忠誠心と絶大な戦闘能力のみを理由に執事となった。

 主に命ぜられれば例え親兄弟であろうとも躊躇なく殺す。その様は狂戦士と言うよりかは、正に槍。

 

 紅の表情が険しかったのは彼の強さを知っているからであり、幻庵の存命時には短い期間だが同じ屋根の下で過ごした事があったから。

 若かりし頃は狂犬そのものであった権左を見兼ね、武の何たるかを学べと彼の父が幻庵の下へと送り出したのがそもそもの発端。

 接触自体はそれほど多かった訳ではないが、彼もまた狂犬らしい見境の無さ故に、いずれは刺し貫いてみたい相手と蔑みも嘲りもなく紅に接していた。

 

 

「それで、どうする? オレは誰にも此処を通すなと命ぜられている。それでも通るってのかい?」

 

「無論、そのつもりだ。だからこうして来たんだろうが」

 

「…………いやはや、全く。奥方様も恐ろしい。どういう教育をすれば、こんなに肝の据わった育ち方をするんだか」

 

「何だったら、オレがお前に教育してやろうか。真人間になれるぞ、多分な」

 

「遠慮させて貰おう。オレは、ただ一振りの槍であれば十分だ」

 

 

 表情から笑みを消しながらも煌々と殺意の灯る瞳は、不退転の決意を示している。

 隠すつもりのない闘気に、木々の中で羽を休めていた鳥達が飛び立ち、虫の羽音すらも無くなっていく。

 ただ構えただけで、ただ()()()になっただけで、他者に実力を分からせる様は、正に達人だ。

 

 ふうま一門において、執事という役職が特別視される上にあらゆる意味で別格なのは先にも語った通り。単純な戦闘能力においても当主を上回る者も少なくはない。

 況してや権左は戦闘特化の異端児だ。名と実力によってともにふうまを支えてきた八将に並ぶ――――いや、今では八将すらも超えているだろう。

 

 小太郎がそうであったように、骸佐もまたその性格と内に秘めた憎悪を見抜かれて、何度となく命を狙われていた。

 老醜から送り込まれる刺客を、骸佐の身を害する策略を打ち砕いてきたのは何も骸佐自身だけではない。彼の槍として権左もまた同じように、いや、それ以上に槍で刺し貫いてきたのだ。

 実戦経験だけで言えば、最強たるアサギ、次ぐ実力を有する紫、アサギの実妹であるさくら、対魔忍のTOP3に勝るとも劣らない。戦い方次第では、十分に彼の槍は届き得る。

 

 

「――――小太郎、先に行って」

 

「そのつもりだが、お前、多分死ぬぞ。つーか、()()()()()()()()になりかねないが」

 

「権左にはよくして貰った。それに心願寺家の当主として、ふうま宗家に槍を向けた奴を見過ごす事は出来ない。始末なら私が付ける」

 

「あー、はいはい。任せますよ。尻拭いは全部オレがやればいい訳ね」

 

「…………ごめん」

 

「いいよ、別に。そういうのも含めて、幻庵の爺から頼まれた事だからな」

 

 

 これは梃子でも動かないな、と呆れとも関心ともつかない吐息を吐きながら、小太郎はずんずんと山道を進む。

 あくまでも宗家当主として幻庵の遺志を尊重する姿に、紅は女として一抹の寂しさを抱きながらも、宗家に仕える八将の生き残りとして全幅の信頼から闘気を漲らせる。

 実戦経験少なくとも、闘気の過多だけで言えば権左に並ぶ。権左が骸佐の槍であるならば、己は小太郎の刃であると示すが如く。

 

 権左は、武器も持たずに無防備極まる姿で近づいてくる小太郎を一瞥しただけで動かなかった。

 肩が触れ合いそうな距離で擦れ違ったにも拘わらず、視線を紅に固定している。

 紅もまたそれほどの相手という事だ。ヴァンパイアハーフとしての凄まじい身体能力に加え、ふうま一門特有の邪眼も決して馬鹿に出来たものではない。

 しかし、権左が最も警戒しているのは人外の血からなる能力ではない。彼の槍は人と人外の区別なく、主の敵を穿通するのみ。

 

 警戒の最大の理由は、己を狂った犬から主の槍へと引き上げた幻庵から引き継いだもの。

 もし仮に、権左が尊敬する人物を上げるならば、間違いなく幻庵を実親よりも早く上げる。それほどまでの感謝と敬意を抱いているのだ。

 

 

(しかし、あっさり通したな。らしくもない――――ということは、骸佐の命令や思惑以前に、権左には権左の思惑があると見るべきか)

 

(バレたか……? 何をどう教育したら、あんな風になるのやら。立派に育っておいでですよ、奥方様。我々にとって、都合が悪くなるほどにね)

 

 

 遠ざかっていく小太郎に冷静な思考と作為の匂いを感じ取り、表に出さぬまでも内心では溜息を吐く。

 そもそも骸佐が反乱などを企てた理由は、小太郎にこそある。それは決して、彼を腰抜けの当主だからと侮ったからではない。寧ろ、逆に――――

 

 

(いかんな。オレは槍。主の身を守り、敵を貫くのみ)

 

 

 戦いから離れていく思考に、権左は苦笑いを漏らした。

 小太郎にしてもそうだが、紅も紅で己の心を掻き乱す。

 

 心願寺家に代々伝わる二振りの小太刀を構えた姿は、年も性別も違えども幻庵の姿が重なってしまう。

 ただ戦いのみを求める性分として生まれ落ちた己に決定的な敗北を味わわせながらも、武の何たるかを説き、決して見捨てなかった老翁。

 そんな彼が苦しみ抜いた末に憎き相手の血を引く赤子を孫娘と認めたのならば、他の誰が嘲笑しようと愚弄しようと己もまた認めるのみ。

 

 何よりもあの幻庵が紅の才気を認め、技を受け継がせた。指導する時間が少なかろうと、彼女の中で彼の技は確かに息をしている。当主として申し分ない。

 

 

「二車家執事、土橋 権左。故あっての事だが、我が主に捧げるため、その首、貰い受ける」

 

「ふうま八将が一人、心願寺 紅。ふうま宗家に刃を向けた反逆者を処断する」

 

 

 かつて共に過ごした日々は遠く、この戦いには何ら影響を与えない。

 

 今や反逆者となった主とは言え、忠義を尽くす事に躊躇いはないと槍の穂先は鋭くも軽やかで。

 今や名ばかりとなりて誰もが認めぬとは言え、幻庵から引き継いだ役割と技を以て、宗家そのものたる小太郎を守るために二刀の小太刀に重さはない。

 

 戦いの火蓋は突然に。されど、示し合わせたかのように両者は踏み出す。

 槍と小太刀が交差し、互いの信念を示し、互いの首を落とす戦いが始まった。

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

「三階の制圧はまだか!」

 

「教師連中が生徒を率いて教室に立て籠もって機会を伺っている。そのまま教室から出さずにおけば時間を稼げる。こちらの思う壺だ」

 

 

 アサギの座す校長室のある校舎は、既に骸佐に賛同したふうま一門の忍が占拠していた。

 校庭や校舎の内部では、多くの対魔忍が抵抗を繰り広げているものの、やはり学園だけあって教師と生徒が大半だ。

 生徒は優秀な者がいるものの実戦経験に乏しく、戦いにおける機微というものに疎い。教師は実戦経験は豊富であるが、生徒を守るために後手に回らざるを得ない。

 

 数で劣る“ふうま正義派”或いは“新生ふうま忍軍”が有利に立ち回れていたのは、そういった理由だ。

 

 彼の目的は時間稼ぎであった。時間を掛ければ掛けるほどに、己達が不利になっていく事は百も承知。

 時間を掛けるほど対魔忍は十全に人員の集結と隊の編成を済ませて向かってくる。しかし、それはそれで構わなかった。

 

 彼等の――――いや、骸佐の思惑はアサギを討つ事なのだ。

 現体制の象徴とも言うべきアサギの首を落とし、晒す事で対魔忍の心を圧し折って、ふうま忍軍こそが頭領として相応しいと示す。

 

 無論、反発は生まれるだろう。だが、それ以上に混乱が生まれる。

 現状の体制を甘んじて受け入れている対魔忍は多く、不満を抱いている一族、一門は少なくない。中には、極秘裏に動いてアサギを追い落とそうと虎視眈々、などという輩も居る。

 

 これは偏に、アサギという最強がほぼ単身で組織の旗を振っているからに他ならない。

 最強の力を振り翳し、時に強引に、時に優しく諭す。これを繰り返し、アサギと政府の仲介役たる山本長官の智慧と権力もあって、何とか組織の体を保てているのだ。

 

 もし仮に、アサギが討たれるような事態が発生すれば、対魔忍は間違いなく割れる。

 我こそは対魔忍を率いるに相応しいと今までの結束も協調も忘れた恥知らずな行動に出る輩は間違いなく現れる。所詮忍など裏切りと見切りを繰り返してきた存在。真実の忠義など持ち得ていない恥知らずの方が多い。

 対魔忍の世界における群雄割拠の到来。それこそが骸佐の狙いであった。

 

 彼等はその意思に賛同し、骸佐こそが対魔忍を率いるに相応しいと認めたからこそ、例え己が死んだとしても構わなかった。そのために、これが死に値する反逆であったとしても、躊躇いはない。

 

 まずは校舎の内部に存在する対魔忍の位置を把握し、アサギの右腕である紫かさくらが率いてくるであろう本隊に備える。

 一階の端に存在する教室の中で、一隊を率いる上忍が下忍に指示を出しつつも、次なる手はどうすべきかを思考したその瞬間――――

 

 

「なん――――」

 

「…………っ!! 退がって下さいっっ!」

 

 

 思考の間隙を突くように、窓ガラスを突き破って何かが教室の中へと投げ込まれた。

 

 くすんだ黒鉄の物体はコロコロと転がって教室の中心へと至る。

 思考に沈んでいた上忍が、それを何か理解するよりも早く、ただ命令を遂行する事にのみ終止していたからこそ思考に余裕のあった下忍の一人に突き飛ばされる。

 

 瞬間、教室の中を凄まじい爆発が襲った。

 

 ガラスと電灯は一瞬で砕け散り、熱波と衝撃が教室の中にいた六人の身体を叩く。

 ただ一人を除いて全員が壁や床、或いは教室の椅子や机に叩きつけられながらも生きていた。

 

 

「な、何が……起こった……」

 

 

 壁に叩きつけられた上忍は、爆発の影響で喪失した視覚と聴覚を押して顔を上げる。

 見れば、教室は一瞬で様変わりしていた。

 整然と並んでいた机と椅子は今や乱雑に倒れており、爆発の影響で天井の板が電灯の一部と共に落ちており、黒板も傾いている。まるで戦火に曝されたかのようだ。

 

 そして、教室の中央には己を突き飛ばした下忍が息絶えていた。

 見るも無惨なその姿。対魔忍装束を纏っていたにも拘わらず、全身が火傷に覆われ、内臓が外へと零れ出ている。しかし、悍ましさとは無縁の勇敢な死に姿だった。

 

 誰よりも早く教室の中に飛び込んできた物体の正体を察した彼は、それに覆い被さった。

 上忍は未だに現状を把握できていなかったが、彼の我が身さえ顧みぬ行為が己達の命を救ったのだと察する。

 

 しかし、その全てを台無しにする――いや、彼がそんな行為をせざるを得ない状況を作り出した元凶が、壊れた窓から悠々と教室へと足を踏み入れる。

 

 

「貴様、九郎隊の――――」

 

 

 何とか立ち上がった上忍に言葉を最後まで発せさせず、九郎隊と呼ばれた男は手にした銃の引き金を引いた。 

 

 手にしていたのはフルオート、セミオートの切替可能な散弾銃・AA(オート・アサルト)-12。ドラム型弾倉の装填数は32発。使用弾薬は特殊弾薬FRAG-12。

 AA-12の最大の特徴はコントロールが容易な連射速度と低反動にある。銃内部に長大な反動抑制機構を備えており、散弾銃でありながら片手でも射撃が可能なほどだ。

 無論、それらは銃の扱いに慣れた者が前提の話ではあるものの、不慣れな者であっても低反動と散弾という特性のお陰で、撃って当てることも不可能ではない。

 

 男は上忍の頭部が爆ぜ割れて倒れるのを確認すると、まだ生きていながらも爆発の影響で立ち上がれない反逆者に等しく散弾を叩き込む。 

 

 明らかに銃器と近代兵器を扱い慣れ、対魔忍装束と米連の兵士が纏うボディアーマーを一体にしたかのような衣装を身に着ける者、彼らは九郎隊と呼ばれる。

 

 その名の元となったのは八津 九郎。

 アサギから全幅の信頼を寄せられ、かつては日本を守る自衛軍のレンジャー隊に所属していた異色の経歴を持つ対魔忍である。

 彼はレンジャー隊の所属時に両眼を負傷して除隊となったものの、対魔忍としての力に目覚めた。

 

 九郎隊はそんな彼が自らの経歴を活かし、自衛軍から彼直々に引き抜いた者達で構成された部隊である。

 無論、みな自覚こそなかったものの、対魔忍としての素養――対魔の力とも、対魔粒子とも呼ばれる力だ――を秘めていた。

 九郎とアサギ、及び山本長官の思惑は近代戦の知識を存分に取り入れ、対魔忍全体へと伝えるためであったのだが、敢え無く失敗に終わっている。

 

 九郎隊が優秀過ぎて現場を離れられなくなったのだ。

 

 九郎もそうなのだが、近代戦の知識に加え、隠密行動や密偵としての役割も熟せた彼等は、今や現場に無くてはならない存在である。

 裏方としては情報収集、スパイ活動。戦闘になれば集団行動と銃撃による魔族や米連の封殺と味方の援護、彼等の活躍と武勇伝は枚挙暇がなく、重要な暗闘の影には必ず彼等の姿があった。

 つまり、忙しすぎて本来の目的を果たせないのだ。笑ってしまう話なのだが、優秀すぎるとこういう事態がまま発生するのが人間社会である。今日も今日とて九郎と彼等は世界中を飛び回っている。

 

 但し、彼等の現状から分かるように、この男は九郎隊の一員などではなく、九郎隊の装束を纏っただけの小太郎であった。

 

 

「――――ったく、手間掛けさせやがる」

 

 

 さて、此処で一つの疑問に答えよう。

 

 ふうま 小太郎は何ゆえ回転式拳銃などに拘るのか。

 

 当人は単純に趣味嗜好、好悪の問題だと言い切り、他者に踏み込ませずにいるものの、彼に親しい人物ならば殊更に疑問を覚えるだろう。

 彼は本来、合理を優先し、論理を良しとする人間である。他者の感情を理解して言葉巧みに操るが、当人は感情などに引き摺られない。

 

 そんな人物が銃の進化から取り残され、非効率的にすらなった回転式拳銃を扱う理由。

 少なくとも好悪ではない。今もこうしてAA-12というショットガンを平気な面をして、使っているではないか。

 

 

「てぇやっ! 皆、無事っ!? ……って、九郎隊の人!?」

 

「これは、火遁……いや、爆弾か。と言う事は、貴方が……?」

 

「ああ、そうだ。お前等は新人の水城と秋山か。他に仲間は?」

 

「いません。可能な限り助けてきましたけど、混乱してて」

 

「――――成程、たまの休暇に帰ってみればこの始末。ついてないな」

 

 

 扉を蹴り抜いて教室へと入ってきたゆきかぜと凜子。顔が隠れている、声もボイスチェンジャーで変えてもいるが、親しい筈の小太郎であると全く気付いていない。

 

 そう、最大の理由はこれだ。

 

 近年では対魔忍の中にも近代火器を扱う者は増え始めている。

 九郎を筆頭とした九郎隊は言わずもがな。紅の従者である女性も使い、若い世代でも近接武器に比べて才能に左右されず訓練の時間も短くて済む利点に目を付け始めている。

 

 その中でも小太郎は異端。

 回転式拳銃などを使っていては、訓練時間の短縮と常に一定の成果を出す安定性が失われてしまう。

 

 誰もが彼を嘲笑っている。誰もが彼を侮っている。

 逆に言えば、それはある種の注目だ。誰もが、彼は回転式拳銃に拘る物好きだ、という認識に繋がっている。銃をよく知らなくとも回転式拳銃の外観は特徴的で印象に残る。

 だからこうして素性を隠し、回転式拳銃以外のものを使ってしまうと、彼とは全く結びつかなくなる。全ては己の正体を隠し、その上で全く別の誰かを演じるための前準備であり、彼は何度となく実戦経験を積みながらも、未だに実践を経験していない未熟者で通っているのだ。

 

 彼の本音は『銃などどれでも構わない。兎にも角にも使えれば、それだけでいい』だ。

 

 安定性だの信頼性だの下らない。弾詰まりも暴発も不発弾も、現代の銃の性能を鑑みればほぼ発生はありえず、使う側の腕と見極め、日頃の整備に全てが掛かっていると断ずる。

 微差でしかない性能差を吟味する必要性など感じない。銃――――いや、武器など使い捨てで構わない。

 そもそも武器とは消耗品。ただ一つの武器に拘るなど愚劣極まる。もしそれを失くしたのならば、何も出来ない役立たずにでもなるつもりか。

 もし必要性があるとするなら、安価かつ大量に手に入るかの一点のみ。後は智慧と工夫でどうとでもなる。不測の事態などという言い訳がそもそも愚かしく、己の想定の甘さを露呈させただけ。それが彼の銃や武器に対する持論であり結論だ。

 

 

「――――それで、お前達二人は今まで何処に居た」

 

「校舎裏の森の中でゆきかぜと二人で自主訓練を。その際に、ふうま一門の者が突然、ですが……」

 

「どういうつもりですか……?」

 

「そもそも、こうした緊急事態に際してはまずは敵味方を識別するための合い言葉があった筈だ。無論、生徒用のそれもな。一度だけチャンスをやる、“(かのえ)”」

 

「待って下さい、私達が偽物だって――――」

 

「“(かのと)”。これでよろしいですか」

 

「ああ、構わない。この手の代物は徹底しろ。そして自分で利用できる事も忘れるなよ、新人(ルーキー)

 

(ちょっと凜子先輩っ! あの人、私達のことを疑ってたんですよ。それにその合い言葉、今の敵も当然知ってます。意味なんてないじゃないですかっ!)

 

(お前の言い分も分かるが、合い言葉はまず一番最初に行うように言われていただろう。悪かったのは此方の方だよ)

 

 

 己に纏わりついてくるよく知っている二人に対しても、気を緩めない。

 敵味方識別を目的とした合い言葉をいの一番に口にしなかった。ただそれだけの理由で引き金に指を掛けたまま銃口を二人へと向けた。

 

 自分達を疑う行為自体が気に食わないのか、ゆきかぜはムっと表情を曇らせて反発を見せた。

 しかし、相棒にしてお守り役でもある凜子が割って入り、事なきを得る。

 言い分は理解できるが、やっぱり疑われるのは腹立たしいし、いい気分ではないとゆきかぜはそっぽを向いたが、小太郎は気にした様子もなかった。

 

 

「魔族にしろ、対魔忍にしろ、姿形を変えられる奴はいる。目で見たものだけを信じるのは油断だ。気をつけろ」

 

「うぐっ…………す、すみません。考えが至りませんでした」

 

「分かればいいんだ。次は実践だな」

 

 

 無論、小太郎は二人が本物であるとは見抜いてはいた。

 ほんの僅かな仕草や息遣いの違いなど、見た目以外に本人を示す記号は数多に存在し、これまでにドッペルゲンガーやシェイプシフターといった姿を自由に変える魔族相手にすら、初手から正体を見抜く事に成功している。

 それでもなお断固とした姿勢を貫くのは、己の能力であったとしても彼にとっては疑いの対象であるからだ。彼にとって信ずるに値するものはこの世に存在しない。例え、己自身であってすらも。

 

 そもそも合い言葉も簡易過ぎるのだ。

 十干の内の五行陽干(ようかん)を問いかけた側が口にし、答える側は対応する五行陰干(いんかん)を口にする決まり事。十干に疎い者は口に出来ないが、それなりの知識があれば簡単に答えられてしまう。

 だから小太郎は、この合い言葉の前にも彼なりの本人確認を行っていた。この時間帯、ゆきかぜと凜子が誰にも明かさずに自主訓練に励んでいる事を知っていたのだ。

 

 呆れた疑り深さであるが、だからこそ対魔粒子と呼ばれるものは持ち合わせていても異能を行使できない彼が今まで生き残れてきた理由でもあった。

 

 そして、ゆきかぜに対するフォローも忘れない。

 これから共闘しなければならない相手に悪印象を持たれては最悪の場面で噴き出しかねない。

 ゆきかぜが直情的で頑固であるのは先刻承知。だが、理論的に諭してやれば思いの外素直になるのは長年の付き合いで知っていたし、人を率いる者として当然の配慮であった。

 

 

「奴等の目的はアサギ隊長だ。このまま校長室に向かう。二人共手を貸せ」

 

「嘘っ!? アイツ等、アサギ校長が目的だったの……?」

 

「と言うか、これはマズいぞ。これでは小太郎が疑われかねない……!」

 

(コイツ等すげーな。あいつらの目的に気付いてなかったのに、今まで生き残ってたのかよ。実力だけで敵を潰して回してたってアサギかよ)

 

 

 反旗を翻したふうま一門の目的を知らぬまま、襲い掛かってくる敵をひたすらに倒し続けてきた二人に、小太郎は戦慄と呆れの入り混じった表情を仮面の下で創り出す。

 二人の実力は嫌という程に知っている。並の魔族ならば直ぐにでも黒焦げかナマス切りの憂き目に合うだろうし、二人が手を組めば紫やさくらも手を焼くほど。

 実戦経験の少なさ故に、敵の目的を察する事の出来ないのはまだ分からないでもないが、生徒の中でも図抜けた才能と実力には舌を巻く他なく、またどうせなら実力と一緒に頭の回転も身に着けて欲しかったと嘆息する。

 

 しかし、嘆かずともいいだろう。対魔忍としての強さは十二分。頭の役割は己が熟して、二人には手足として働いて貰えばいいだけだ。

 幸い、九郎隊の実力と成果は知れ渡っている。初対面と思い込んでいる二人であっても素直に言う事は聞くだろう。

 

 

「オレが先行するから、二人は後を付いてこい。敵味方の判別もオレがする。オレが撃ったら二人も前に出て、攻撃しろ」

 

「「――――了解!」」

 

 

 二人の言葉を確認すると、小太郎は姿勢を低くしながら廊下へと出た。

 決して焦らずに周囲の気配を探り、物陰を目視で確実に確信しながら慎重に進む。

 

 一階の廊下を進んでも、敵とは出会わない。

 恐らくは二階以降の抵抗が新生ふうま忍軍の想像以上に激しいのか、それとも対魔忍側が寡兵で粘っているのか。

 ともあれ、小太郎にとっては好都合。時間が過ぎれば過ぎるほどに対魔忍にとっては有利になる。

 唯一の懸念点はアサギの生死であるが、骸佐がどれだけ身を削ろうとも実力差は覆らない。両者の間に横たわる実力差はそれほどまでに隔絶している。

 

 彼の経験した実戦の中には、アサギの補佐や援護もあった。

 目にした彼女の強さは正に怪物。単身で魔族の組織を潰してのける常識外れ。失敗はすれども、必ず敵を殺して帰ってくる強運も持ち合わせている。

 過去、アサギが政府の内通者や魔族に嵌められ、凄惨な陵辱と恥辱を味わったのは知っているが、逆に言えばそうまでしても、未だに彼女を倒せていない。

 その点に関しては認めるところ。圧倒的な実力故に安易な罠に嵌ってしまう欠点であるが、彼女の恐ろしさは、誰がどう考えてもどうにもならない境遇と罠に嵌ってなお、強運と実力と精神力だけで全てを粉砕して生還するところ。少なくとも、小太郎は絶対に敵に回したくない手合いである。

 

 

(気配が一つ。敵意はないが、この気配は……)

 

「おや、あなた方は……?」 

 

(………………誰?)

 

「室井先生、無事だったんですね!」

 

(…………誰?)

 

「……ん? あぁ、学園に殆どいない貴方はご存知ではないかもしれないが、此方は校医の室井氏だ。最近、陸上自衛軍から派遣されていらしてな」

 

(オレ、聞いてないんですけどねぇ……まあ、オレの治療は桐生のクソに任せてるから当然と言えば当然だが)

 

 

 奇妙な気配を感じて、そちらに銃口を向ければ、現れたのは白衣姿に狐を連想させる細めが印象的な中年の男だった。

 名は室井 光彦。最近、政府の肝煎りで対魔忍の医療チームに派遣された軍医である。

 対魔忍は任務と訓練の性質上、怪我をする者が絶えず医療担当は常に火の車。前線近くにも引っ張り出され、学園内部の保健医はこれまで存在していなかった。

 これは流石のアサギも困り果て、ついには山本長官に相談し、派遣されたのが彼である。すったもんだの経緯があったものの、紳士的ということで学生からの評判もすこぶる良い。

 

 小太郎がこれまで出会わなかったのは、自主的な訓練はしてはいても、学園の訓練など殆どサボっていたからだ。

 万が一怪我をしても、学園の地下で怪しげな研究に耽るマッドサイエンティストを使っており、医療担当とは殆ど顔を合わせない。

 

 

「――――(みずのえ)

 

(みずのと)、これで構わないかね?」

 

「これは失礼を。自分も陸上自衛軍出身でして。元の師団は何処です……?」

 

「……第一師団だよ」

 

「成程。ならば、何処かでお会いしているかもしれませんね」

 

「ほう、君もあそこに所属していたのかね」

 

「ええ、まあ。自分の居たところは横内連隊長殿の指導が厳しかったですが、人柄も良く……」

 

「ああ、彼か。私も随分と気にかけて貰ったよ」

 

「それは重畳――――死に腐れ、クソ野郎」

 

 

 合い言葉を済ませ、何処かにこやかで今が非常時である事を忘れ去ったような会話だったが、小太郎は突然の悪態と共に銃の引き金を引いた。

 至近距離で世界最小のグレネード弾であるFRAG-12をフルオートで放たれ、室井の身体は人体から挽肉へと変化を遂げた。返り血を浴びながらも、吹き飛んだ室井の身体に追撃の弾がなおも撃ち込まれる。

 

 

「や、止めろっ! 何を考えている!?」

 

「あ? 敵を殺す事だが? 横内なんて連隊長、今オレがこの場で思いついただけで存在しねぇよ」

 

「――――っ!?」

 

 

 余りに唐突で突然の出来事に、ゆきかぜと凜子は対応すらも出来ずに呆然としていた。

 驚愕の縄から抜け出した凜子は、弾丸を吐き出す銃口を素手で跳ね上げたが、帰ってきたのは更に驚愕を呼び起こす一言だった。

 

 先程の会話は凜子とゆきかぜにやった事と同様に、二重の確認であった。

 但し、今回は嘘で塗り固められたでっち上げだ。合い言葉の確認と自ら偽りの素性を語る事で警戒のハードルを下げたように見せかける事で、相手の警戒心をも解きほぐす。

 嘘自体は稚拙だったが、彼が作り上げた雰囲気は見事だった。あの雰囲気は、確かに同じ部隊に所属していた戦友へと向けるそれだった。これでは、稚拙ではあっても欺かれても無理はない。

 

 

「やってくれますねぇ、下賤な人間如きが……」

 

「コイツ、確か……!」

 

「ノマドの大幹部、フュルストだ……!」

 

(これはまた、ノマドの大幹部とはね。トップの王様もそうなんだが、コイツら揃いも揃ってフットワーク軽過ぎぃ!)

 

 

 倒れ伏し、肉塊と化した室井の身体はボコボコと盛り上がり、全く別の形となる。 

 細身だった身体は立派な肥満体に、清潔だった白衣までもが何処か道化師を連想させる服装へと変化する。

 

 現れたのは頭頂の禿げ上がった見た目だけは中年の男だ。

 古くから紅の仇でもある不死の王に仕えてきた古参の大幹部であり、魔界の医療技術を極めた参謀でもある。

 ノマドの戦力において語られるのは魔界騎士たるイングリッド、対魔忍を裏切った朧であるが、彼も直接的な戦闘力は低くとも、魔界技術から作り出される怪物や改造の施された彼の身体は侮れるものではない。

 

 

「しかし、褒めて上げましょう。まさか、私の変化を見破るとは」

 

「そういうの良いから。気配で分かるし、匂いも臭い。ホモ野郎特有の匂いだ。ブラックに御執心なのに相手にされてないのはイングリッドと一緒だな」

 

「…………っ!!」

 

「まあ、おおよそお前の狙いは分かった。欲しい情報もないし、兎に角死んでくれ。あらよっと」

 

「ふん、人間如きが私を害せると――――――はい?」

 

「………………こ、これは」

 

「ちょっと待って、九郎隊の人ってこんなの学園に仕込んでるの!?」

 

 

 魔族特有の上から目線を全く相手にせず、逆に小馬鹿にし返すとフュルストの顔は真っ赤に染まる。

 彼の主に対する感情は尊敬を超えて愛情へと至る。その点はイングリッドと同じだ。但し、フュルストは決して認めようとはしない。下らない感情で我が忠節を汚すなと言わんばかりに。

 だが、誰の目から見てもフュルストの抱く感情は男同士の忠誠を超えていた。完全に性欲の対象としてブラックを見ている。だからこそイングリッドとは相容れずに衝突を繰り返し、朧からは侮られていた。

 

 それをただの一目で見抜かれた上に、開示されてしまった。

 彼としては憤懣やる方ないが、小太郎は胸の内を明かしてやった爽快感すらない。あるのはただ黒々とした怒りのみである。

 

 互いに怒りを抱きながらも、取った行動は全くの別方向であった。

 自分は優位だ、自分は優れていると示したいばかりにマウントを取ろうと余裕の態度を崩さないフュルストに対して、小太郎の行動は容赦がなかった。

 ゆきかぜと凜子が何が起ころうとも対応できるように構えを取る中で、学園の廊下を握り拳で叩くと、床がぐるんと回転した。

 

 忍者の屋敷には様々な絡繰り仕掛けが施されている場合がある。

 代表的なものは見られたくない秘奥を隠す部屋や万が一に備えた脱出路に通じる回転扉であるが、小太郎が作動させたのも仕掛け自体は変わらず目的も隠蔽という点では合致するが、最終的に至る結果は異なる。

 

 現れたものにフュルストは目を丸くし、凜子は口元を引き攣らせ、ゆきかぜは絶叫した。

 

 デーーーーーーーーン!! という効果音が聞こえてきそうな現れ方をしたのは三脚で固定されて弾薬盒から給弾されるようにベルトで繋がれたM134。

 7.62mm×51mm NATO弾を使用するガトリングガンであり、M61A1 バルカンを小銃弾サイズにスケールダウンさせた開発経緯からMini gun(ミニガン)とも通称させる。

 最大の特徴はその連射速度だ。最高で100発/秒ほどの連射速度を誇り、開発時には余りにも速すぎて動作不良が多発したために速度が落とされた経緯すらある。

 

 主な用途は軍用ヘリコプターからの制圧射撃であったが、米連で開発された新たな兵器の登場によって携行装備の一つとなった。

 それが着る戦車とも称される強化外骨格。年々勢いを増していく魔族の暴虐と、高い身体能力を持つ対魔忍への対抗手段及び市街地制圧を目的として開発された最新鋭兵器である。

 強固な外骨格と戦車並のパワーを行使できるアシスト機能を搭載した故に火器の類は内蔵できなかったものの、元より米連の使用する武器は質は高く、何の問題もない。

 

 このミニガンは、小太郎が強化外骨格との戦闘で鹵獲した兵器の一つであった。

 流石に生身のままで持ち運びできる重さではなかったため、学園内にまで侵攻された際の対抗手段の一つとしてアサギにも黙って仕込んでおいた。

 余談であるが、学園内には小太郎が仕込んだ火器はまだまだある。学園と言えども安全圏と信じていないが故の行動であったが、真夜中に学園に忍び込み、一人でせっせと壁や床を壊して仕込んでいたのかと思うと笑える話だろう。

 

 ――尤も、その威力に晒されるフュルストには笑えない事態になるのだが。

 

 

「いや、待てっ! 貴様、忍法はどうした! こういう展開は自信満々で放った忍法を、私が余裕綽々で防いで高笑いするものだろうが……!」

 

「あー、はいはい。お前にとって都合の良い展開とかどうでもいいよ。兎に角、お前に死んで欲しいんだオレは」

 

(分かった。オレは分かっちゃったよ。コイツが此処にいるという事は十中八九、コイツが骸佐を唆したって事だろう。そうでもなきゃアイツが反乱なんて真似する訳ないしね。つまり、つまりだ――――)

 

「ぎえぇええええええええええっっっ!!!!」

 

(いまオレが苦労してんのは全部コイツのせいじゃねぇか、クソがぁあああああああああああああああああっっっっ!!!!!! …………いやまあ、関係なくても殺すんですけどね)

 

 

 最早、その姿はオレを苦労させる奴絶対殺すマン。或いは取り敢えず敵は絶対殺すマン。

 フュルスト自体を見ておらず、オレを苦労させたから殺す、敵だから取り敢えず殺すという酷さでありながら、殺意自体は積年の恨みを晴らさんばかりであった。 

 

 フュルストは叫び声を上げられただけ凄かった。

 M134にはもう一つ、別の通称がある。曰くPainless gun(無痛ガン)。生身の人間が被弾すれば痛みを感じる前に死んでいるという意味だ。

 肉体的に優れたオーガなどの魔族であっても、叫び声を上げる前に死んでしまう。フュルストの肉体は、見た目に反して強固であり、再生力に富んでもいたが悲しいかな焼け石に水。

 

 空薬莢が冗談のような勢いで排出されて、廊下の床を瞬く間に埋めていった。

 電動で回転する砲身はマズルフラッシュを絶え間なく発し、これでもかと(たま)を敵へと食い込ませ、引き千切る。

 僅か十秒の間にフュルストの肉体は、誰かも判別出来ない肉の塊と化して床へと投げ出されたが、その肉塊に向けてなおも銃弾は叩き込まれていく。

 

 だが、この程度で殺意と矛を収める男ではない。

 

 

「水城、お前の最大火力で放て! 雷遁のそれなら殺しきれる!」

 

「い、いやいやいや! 私の最大火力じゃ、仲間も何も巻き込んで射線上のものを全部吹き飛ばしちゃいますから!」

 

「知るかー! 正義と平和のための尊い犠牲だ! コラテラルダメージだ! 安寧と暮らしている無辜の人々を殺すわけじゃないんだ! 対魔忍は死ぬのも仕事! 他は殺していい敵! ほら、何の問題もない!!」

 

「そういう問題じゃないです!」

 

「オーケー、分かった! お前の罪悪感の問題だな!? なら命令したのはオレ! 責任は命令した者に全て帰属する! オレが何もかんも悪い! お前は何も悪くない!! これでいいか!? やれぇいっ!!」

 

「ははは。何だか、小太郎みたいな方だなぁ。ははは」

 

「凜子先輩、私を正気のまま置いて現実逃避しないで!?」

 

「うおおぉぉぉぉっ!! 早くしろっ! こいつは弾の消費が激しくてすぐ弾切れ起こすんだ! どうなっても知らんぞおぉおぉぉおお――――っ!!!」

 

「絶対やだっ!! 嫌ですぅううぅぅぅ――――!!」

 

 

 敵を殺すために味方が死のうが知ったことではない、いまオレが苦労している元凶を殺すためならば、そんなものはどうでもいいと言わんばかりの態度。

 

 もう正体がバレないからってやりたい放題である。

 このままゆきかぜが言われるがままに最大火力を放ったとしても、存在しない筈の九郎隊の人員が問題となって、ゆきかぜへの追求は免れるだろう。小太郎本人は知らぬ存ぜぬを通すつもりだ。

 万が一、正体がバレたとしても、突如として本拠地に現れたノマドの大幹部を討つために、己とゆきかぜは苦渋の決断を下したと言い切って責任逃れをする方向を検討している。酷いにも程がある。

 

 現実逃避をし始めた凜子の肩を掴んで涙目になりながら自分を一人にしないでと揺さぶるゆきかぜは、精一杯の抵抗で絶叫する。 

 だが、なおも無言かつ迫真の勢いで見つめる。仮面の下から見える瞳はもうひたすらに虚無だ。誰であれ、底のない暗黒を見ているかのような気分になってしまう。

 ゆきかぜも強い。強いは強いが涙目である。親に怒られる子供のように震え、唇を噛み締めて涙を堪えながら、蒼い表情でふるふると首を振るばかり。

 

 其処でようやく、M134の弾が切れた。

 およそ一分間、弾数にしておよそ4000発に及ぶ制圧射撃。

 学園の廊下は酷いものだ。壁にも床にも天井にも区別なく無数の弾痕が穿たれており、酷い所など大穴が空いている。天井の電灯は拉げて原型を留めておらず、辛うじて繋がったコードが千切れて音を立てて落ち、床の穴へと消えていく。

 

 

「チッ、肉片になって逃げたな。仕留めきれなかったか。ダメじゃないか、水城。ちゃんと最大火力を撃たないと」

 

「いや、あの、それは……その、えっと…………ご、ごめんなさい」

 

「まあ、実戦経験が少ないから仕方ないな。こういう場合に応じて、別の火力を用意してなかったオレも悪いし。今度からはお互いに気をつけるということで、どうだ?」

 

「は、はい、それで……!(絶対やだ)」

 

「ハッ!? 今まで私は何を……!?」

 

「良し、秋山も戻ってきたな。アサギ隊長の元へ向かうぞっ!! ふんっ!!」

 

「「…………えぇ」」

 

 

 ようやく正気を取り戻した凜子を尻目に、近場の壁へと拳を叩き込んで穴を開けると現れたるは様々なアタッチメントの取り付けられたM4カービンだった。

 M4はM16A2アサルトライフルの銃身長を14.5インチに短縮して銃床を伸縮式に変更したM16A2の直系の派生型であり、室内での戦闘でも扱い易い。

 銃身の下部にはM203グレネードランチャーが、側面にはフラッシュライトが取り付けられている。照準器の類が一切取り付けられていないのは、そのままで十分という事なのだろう。

 

 銃器に詳しくない二人であったが、最早ドン引きである。

 有事に備えると言えば聞こえはいいが、自分達の学び舎が知らず知らずの内に武器庫と化していると知ればむべなるかな。当然の反応だ。

 

 

(ったく、骸佐の阿呆め。下らん相手に唆されやがって。まあいい、事情くらいは聞いてやるか)

 

 

 二人の様子を分かっていながらも全力で無視を決め込み、内心で悪態を吐く。

 しかし、フュルストが登場した事で骸佐の行動が奴の後ろ盾あってこそと悟る。思惑や真意は何であれ、それを知らねばならぬ理由が出来てしまった。

 嘆息は尽きず、面倒事は増すばかりだが、やらねばならぬ事をやらぬ無責任な男ではない。新たな銃の感触を確かめながら水の如く冷静に、そして毒蜘蛛の如く悪辣に。彼は次なる行動を模索し始めていた。

 

 

 

 

 





ほい、というわけで、権左登場&こっちの若様も味方に正体を隠してる&フュルスト暗躍! 若様怒りのトリガーハッピー! でした。

こんな感じで骸佐、権左関連はシリアス一辺倒ですが、それ以外はコミカルもコミカル。
若様の性格がアレなんで、まともに戦ってなんてやらない方針。それが相手の癪に触るっていう煽リストの鏡。なお、本人はそれに値する相手ならまともに戦ってやる模様。でも、そんな相手は現れないのであった。

次回はようやく骸佐が登場です。では、次回もお楽しみに。
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