対魔忍RPG 苦労人爆裂記   作:HK416

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淫魔王「うーん、むにゃむにゃ」

若様「ほんま簡単に引っかかる連中やで。自分が罠にかかる可能性とか微塵も考えてないの?」

災禍「どうなんでしょうね……(邪眼発動中」

銀嶺「どーん☆」

災禍「あぶなっ!?(邪眼強制終了」

淫魔王「……はっ!? ワシは一体!?」

弾正「来ちゃった♡」

若様「おい――――おい、マジか。こっちくんな。可及的速やかに死ねや、クズ(ビキビキビキ」


こんな感じの前回のあらすじ。

そろそろヨミハラ編を終わらせたいのだが、なかなか筆が進まない。まあ、ボチボチ投稿していきます。
RPGは月曜日っから新たなイベとガチャか。さて、誰が来るのか! ドキがムネムネしますなぁ!

では、どぞー!


大人数に包囲されてる状況に比べりゃ、どんなに強くても相手が少ない方がまだマシ。

 

 

 

 

 

「アレから脱出できるなんて、別次元の存在とは言えど、流石は八津 紫、か」

 

 

 標的から距離にして凡そ500mに位置する建物の屋根で、少女の口から呟きが漏れる。

 屋根に座り込み、立てた片膝の上に左肘を置き、右手では大型のスナイパーライフルを握っている。第二次世界大戦頃からスナイパーに使われ始めた座射姿勢であった。

 普段は眼帯に覆われている右目は今や開放されており、冷酷な性格を現すように淡く蒼銀に輝いていた。

 

 彼女の名はふうま 銀零。弾正と共に米連に渡った実の娘であり、同時に小太郎とは腹違いの兄妹だ。

 特務機関“G”による過酷な能力開発と人体実験を生き延び、今や執事・秘書のような立場にあり、弾正の側近の一人でもある。

 

 彼女の構える狙撃銃は冷眼という視界に収めた対象を氷漬けにする邪眼と連動、強化を行う“G”によるワンオフ品。

 氷結能力の向上は勿論の事、実弾の狙撃銃と同程度まで射程向上、更には本来であれば難しい威力の調整まで行える優れものだ。

 

 

(メイジャーとヘスティアを使って部隊の大部分で包囲している。相手を警戒して大回りさせて正解でしたね。しかし、この街に対魔忍が潜入しているとは……)

 

 

 狙撃銃のスコープを右目の邪眼で覗き込みながら、自ら提案した作戦の成功を確信する。

 何も語らずに一人行動する淫魔王を追うように命じたのは弾正であるが、“G”から連れ立った部隊を動かしているのは銀零だった。

 ともすれば、部隊の主導権すらも奪える立場にあったが、彼女は殊更に“自分”というものが希薄だ。そのように教育を施されたというのもあるが、元より彼女は自分ひとりで生きるのではなく、誰かに従って生きる事に向いた人間だったのだろう。

 その点は弾正にとって都合が良かったに違いない。だからこそ、こうして今まで生き延び、更には今の立場に収まった。更には、かつての仲間に躊躇なく引き金を引ける。

 

 

(聞いていた別次元の八津 紫と水城 不知火が一緒にいる以上、前者は成り行き、本命は後者、ですね)

 

 

 今回、淫魔王と弾正は、ある程度利害が一致した故に手を組んだ。

 弾正は“G”からの支援が満足に得られぬ現状を打破するため、淫魔王を新たなパトロンに選んだ。

 淫魔王は米連支配への足掛かり、米連しか掴んでいない情報を弾正から得るために支援を決定したのである。

 

 淫魔王の最も得たかった情報は、本来は存在しない筈の紫が何故ヨミハラに突如として現れたか、だったが、その元凶が何であるのかは既に伝えてある。

 小太郎がそうであるように、米連もまた次元侵略者と接触、戦闘行動にまで発展しており、その存在を危険視している。

 魔族ならばまだ手を組む余地はある者もいるが、次元侵略者に関しては須らく敵と見做すべきだ。まだ相手側の内情は分かっていないが、次元を渡る技術力と強力な洗脳は驚異でしかなく、いつ何時、組織内部に侵入されるか分かったものではないのだから。

 

 そして、別件で水城不知火を捕らえており、別次元の紫が何者かに奪取された事も既に共有していた。其処からの推察は難しくなく、彼女の考えは概ね的を射ている。ただ――――

 

 

(その二人に加えて、魔界の踊り子、裏切り者の災禍と紅、新世代のルーキーに、見覚えはないけれど真っ先に此方を察知した獣人――――でも、あのヘルメットの男は、誰?)

 

 

 ――――スコープの向こう側で素顔を隠した小太郎の正体には、辿り着けていなかった。

 

 

(誰でもいい。誰であろうと問題もない。魔界の踊り子には踊りも魔力も私が使わせない。災禍と紅は御館様が抑えられる。他の連中も、あの三人には敵わない。私は私の役割を熟すだけ)

 

 

 余りにも小さな落とし穴――――だが、その見逃しがどれほど深いものなのかを、彼女はまだ気付いていない。

 

 既に彼女は一つの失敗を犯していた。

 それは、厄介な邪眼を持つ災禍を無力化しようと真っ先に狙った事。

 弾正の生まれ持った“傲眼”は、常時発動型ではなく任意発動型。つまり、先手さえ取ってしまえば“傲眼”を発動させずに弾正を無力化できてしまう。

 当然と言えば当然の判断であったが、今回に限っては狙うべき相手は他に居た。表情を覆い隠すフルフェイスヘルメットの下で悪辣な笑みを浮かべている男こそ、真っ先に始末するべきだった。そうであれば、少なくとも()()は彼の存在に頭を悩ませる必要だけはなくなっていたのだから。

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

「久しいな、災禍、紅」

 

 

 弾正は淫魔王の隣に立ち、馬鹿にしたような、脅迫するような、獲物を前にして舌舐めずりをするような下卑た笑みを浮かべて二人に声を掛けてきた。

 小太郎に受け止められた災禍は自らの義足で立つと、嫌悪の一切を隠さぬままに睨みつけ、二刀の小太刀を構えた紅は周囲を警戒しながらも冷酷な視線を向けている。

 他の皆も包囲された事を悟ったのだろう。小太郎とナディアを中心に背中合わせに円陣を組んでいた。

 

 通りの両側に存在する家屋の屋上には、カメラアイを光らせるサイボーグの軍勢が命令を待ち詫びるように独立遊撃部隊を見下ろしている。

 災禍は今すぐにでも弾正の首目掛けて蹴りを放ち、首の骨を粉砕するどころか切断してやりたかったものの、この状況では無謀も無謀。自制せざるを得ない。

 

 

「かつての誼だ。どうだ? 今一度、私に仕えてみないか? 待遇は淫魔どもに比べればいくらかマシだと思うが」

 

「うっわ、すっげ。自分と気に入った連中だけ連れて米連に逃げたのにこの態度。オレでも出来ね~」

 

「――――相も変わらず、手前勝手な事ばかり。呆れてものも言えないとはこの事だ」

 

「うんうん、そうだね。その通りだね。災禍、良い事言った」

 

「何を言う。私はふうまの当主だ。手前勝手も何もない。私のものをどう使おうが、何の問題もない」

 

「まだ自分の部下と思ってるぅー↑ 昔はどうか知らないが、今はもう誰もお前のこと当主と認めてないんだよなぁ。ふうまはもう空中分解してるっつーの」

 

「かつてのふうまは既にない。貴様の馬鹿さ加減に付き合わされて滅びた。誰も貴様になど従わない」

 

「残念でもなく当然だね。当事者じゃないけどあの反乱はねーわ。無理、無謀、無駄。余裕の自滅だ、無能っぷりが違いますよ」

 

「さっきから何なのだ、貴様はぁ!!」

 

「隊長、今は我々が話し合っているのです。少し黙っていましょうね?」

 

「へ~~~い」

 

 

 かつての当主とかつての秘書が真面目な会話を繰り広げる中、弾正にも聞こえるよう余計なチャチャを入れまくる謎の隊長、もとい小太郎。

 

 冷静さを取り戻した彼は、完全にやる気を失っていた。

 淫魔族と手を組んだ挙句、この十数年全く音沙汰がなかったと言うのに未だにふうまの当主気取りでいる男を前にすれば、こうもなる。

 よりにもよって弾正が来るとは考えていなかったが、弾正の襲来によって自身と災禍が身動きが取れなくなり、隠密に向かないナディアとクラクルを使わざるを得ない状況に叩き落とされた時点で援軍や他の勢力の殴り込みがあるかもしれない、と予測もしていた。

 挙句の果てに、初手から謝罪ではなく勧誘と来た。更に、秘書として辣腕を奮っていた災禍のみならず、紅というブラックの血を引く爆弾にまでも。

 

 これまでの状況を鑑みれば、弾正がどんな立場に立たされているのか分かろうというもの。間違いなく、相当に苦しい立場であると疑いようはない。

 戦力的に対魔忍と事を構えるにも心許なく、米連からの支援は期待できない――と言った所か。それで何で戻ってきてんだよ、とツッコみの一つも入れたくなるが、それはそれで七面倒な自体に発展しそうであった。

 弾正は尊大な態度は崩さないであろうが、形振り構わない行動に出かねない。元より他者に付け入る事に長けたこの男であれば、闇の勢力に取り入り、売り込み、蝙蝠のように立ち回る可能性がある。

 そうなれば、ふうまの元当主がやらかしているという情報が日本中に駆け巡り、小太郎どころか空中分解したふうまの者達にすら批難や悪評が向かいかねない。

 

 

(ま、それはそれでいいんだけどね。ぜーんぶ弾正が悪い事にして、オレ達は新しい世代として有能さをアッピルしていけばいいし)

 

 

 だが、そんな現状すらも利用するつもりのようだ。大した強かさだった。

 冷静さを取り戻せばこんなものである。弾正に足を引っ張られるなぞ何するものぞ。伊達に苦労を背負っていないのであった。

 

 

「お、おほん――――それが返答という事で構わんのだな」

 

「無論。最早、私はかつてのような都合のいい人形ではない。況してや、貴様が反乱を起こす以前から若様の秘書になっていた。貴様の世迷い言に付き合う道理なぞ私にはない」

 

「チッ…………紅、貴様は」

 

「いや、元々私はお前の部下ではないから。私が主と認めたのはふうま 小太郎ただ一人……そもそも、大恩ある御祖父様を米連へ逃げ延びるための捨て駒にされて、付き合うとでも本気で思っているのか……?」

 

「……誰も彼も、あの無能な目抜けの何処がいい! あんなモノ、生まれて来なければ良かったと言うのに!」

 

(Fooooo↑↑ どう考えても自分が悪いのにオレにヘイト向けた挙句に、自分は悪くないって反省しないクズっぷりぃ! 普通に考えて、オレのが幾分マシなんだよなぁ。後、憎んでるオレは目の前にいるんですけどね?)

 

((これ、絶対に仮面の下でどうでもいいって顔してるんだろうなぁ……))

 

 

 青筋が立ててビキビキしている災禍と呆れ顔で返す紅に、弾正は忌々しげに顔を歪めて歯噛みする。

 まるで小太郎が悪い、と言わんばかりの態度であるが、小太郎が生まれていようがいまいが、二人は同じ選択をしただろう。

 仮面の下で血縁上の父を小馬鹿にし腐っている気配を感じ取ったのか。何のかんので二人も冷静さを取り戻している。

 

 弾正に対する軽蔑と小太郎に対する忠義は全く別の話。

 片や、部下を好き放題に扱った挙句に使い潰すクズ。片や、味方に対して正当な評価と報酬を用意するが敵はもう阿鼻叫喚の渦に叩き落とす外道。

 どっちがマシかと問われれば、味方である限り庇護を得られる後者の方が圧倒的にマシだろう。尤も、外道行為に巻き込まれたり、手を汚さねばならない場合もままあるが。

 

 

「いいだろう、その選択を後悔させてやる。私自らの手で直々にな」

 

「――――おい」

 

「案ずるな、淫魔王。不知火とあの別次元の紫は元より貴様の獲物だ。他の連中はくれてやる」

 

「……そうか。ならば構わん。貴様の手並み、見せてもらおうか」

 

 

 窮地を救われた手前だったからか、今まで黙りこくっていた淫魔王が口を開く。

 しかし、弾正は怒りと愉悦が綯い交ぜになった表情で、それが当然と返してのけた。

 

 淫魔王としては突如として舞い込んできた紫はどうなっても構わないが、最低限の目標――不知火だけは手中に収めたい。

 元々、彼女を手に入れるために回りくどい方法を選んだ。計画を進行する上で幻惑の忍法は必要なのか、或いは大幅なショートカットが可能になるのだろう。

 であるのならば、弾正側の戦力を測る良い機会でもあり、本来の姿を晒さずに労せずして目的を達成できるのならば止める筈もない。

 

 弾正としては小太郎に仕える気しかない災禍と紅を堕とす事で、自らの戦力とした上で苛立ちを抑えられる。

 かつての秘書と心願寺当主が弾正を支持したとあれば、復権に対する正当性が生まれると考えているかも知れない。

 尤も、対魔忍も元ふうまの者達も、そんな事で弾正を認めるわけもなく、何トチ狂った事やってんの? とただひたすらに災禍と紅の頭を心配するだけだ。

 加えて言えば、それは『弾正が淫魔族と手を組んでいる』という前提が周知されなければの話である。これが周知されれば、元ふうまは大草原不可避の後に弾正ぶち殺そうぜと奮起してアサギの胃が死に、政府はぬかしおる(どっ、からのお前は何を言ってるんだ、というミルコ・クロコップ状態に突入する。流石は自分の置かれた立場と現状認識が甘い事に定評のある弾正だけの事はある。

 

 

「あっ、そっちの話終わった?」

 

「はい、もう(何を言っても無駄だし、こっちの頭も悪くなりそうなので)結構です」

 

「貴様、何処までも人を虚仮にすれば気が済むのだ! 名を名乗れ!」

 

「オレ? オレは史上最強の戦術家、カルタゴの雷光、ローマ史上最大の敵にしてローマ絶対殺すマン、お前何で真冬のアルプス越えとか思いついた上に実行しちゃうの??? でお馴染みのハンニバルだ」

 

「紀元前の人間だろうが!」

 

「じゃあ、俺のような天才策略家でなければ、百戦錬磨の兵どものリーダーは務まらんの特攻野郎でいいや」

 

「どちらだろうが! 偽名であることに! 変わらんだろうがぁぁああ!!!」

 

「当たりめーだろ。何で忍が名乗ると思ってんだ。何なの? このおっさんボケてんの? 頭弾正なの?」

 

「まあ、頭は弾正だけど。こう、手心と言うか、まともに相手をしてやるべきと言うか……」

 

(((実の父親なんだから、もう少しこう因縁めいたものを出すべきでは……)))

 

 

 災禍と弾正の話し合いは終わったが、小太郎はじぇーんじぇん会話なんてするつもりはないのである。

 実の父親との会話であるというのに、時間の無駄でしかねぇ、と断じている。断じた故に態度に出ていた。あと、これくらい煽っていないとやってられないのだ。これから彼の背負う苦労を考えれば当然である。

 もう彼のメンタルはボロボロだ。なお、形状記憶伸縮自在ゆるふわ合金という精神力なので砕け散る事だけはない。生き地獄であろうが生き抜いてやるという強い意志を感じざるを得ない。生き地獄が長引くだけともいう。

 

 

「これだけの戦力を前にして随分な余裕だな」

 

「ふっ――――だから話し合おう?」

 

「お前は何を言ってるんだ」

 

「まあ聞けよ。お得な情報をくれてやるから」

 

 

 訝しむ淫魔王の視線を受け、アレだけ煽っていたと言うのにこの情けない言動である。弾正でなくとも、同じ事を口にするだろう。

 交渉に挑むならば、必要なのは相手を脅迫できるほどの戦力か、或いは相手が欲しがる有益な何かを用意するしかない。

 そもそも淫魔王に苦汁を舐めさせ、弾正は怒り狂わせている。交渉を開始するにしても、相手が冷静でなければ話にならない。これまでの行為や言葉は全て悪手以外の何物でもなかった。

 

 しかし、小太郎は相手の話を聞きたくないとばかりに、勝手に語り始める。強引に交渉を開始してしまうのも、手段の一つである。尤も、それで効果があるかは別問題である。

 

 

「今、弾正が引き抜こうとした紅だが――――これ、ブラックの娘な。噂くらい聞いた事があるだろう?」

 

「――――おい、弾正」

 

「ま、待て。確かに説明していなかったが、私も奴が此処に居るなど知らなかった!」

 

 

 淫魔王は初めて耳にした情報に、ギロリと弾正を睨み付ける。

 それもそうだろう。彼にしてみれば、いまブラックと事を構えるつもりは一切ない。

 纏まりがなく、快楽と目の前の金を優先するだけの組織など無理に敵対する理由もなく、戦力と人員だけは多いので放置が尤も望ましい。

 

 殺意すら混じった視線を受け、弾正は慌てて弁明をした。

 言い分は正しい。ヨミハラに対魔忍が潜入しているなど、災禍達の姿を見るまで想像すらしていなかった。紅の勧誘に関しても、元ふうまだからと言うだけで成り行きに過ぎない。

 

 しかし、それの何処がお得な情報であるのか。

 確かにブラックの娘などという超弩級の爆弾、事を静かに進行させたい淫魔王にとっては邪魔なだけ。弾正にしてみれば、ブラックはこれまで何の音沙汰もなく放置していたのだからこれからもそうだろうという甘い現状認識があったのは事実だ。

 だが、この場を切り抜けるにしては弱すぎる。ブラックが紅を求めているというのなら、彼女を捨て置けばいいだけで、小太郎達まで捨て置く理由には決してならない。

 

 

「それでな、こいつは猫が好きでなぁ。こっちの猫型の獣人ととても仲がいい」

 

「フシャーーーーーーーーーー!!!!」

 

「…………はぁ?」

 

「貴様、何を言っている。意味が分からん」

 

 

 クラクルは周囲を囲むサイボーグに向けて、獣性を剥き出しにして威嚇している。

 瞳孔が細まり、牙を剥き出しにしたその姿は普段の愛らしさなど何処へ言ったのか。猫科の肉食獣の恐ろしさは誰が語るまでもない。話題に上がった紅ですらちょっと引いていた。

 

 小太郎が何を言いたいのか、その意図が全く分からない弾正は目を丸くするばかり、淫魔王も眉根を寄せて苛立ちを募らせる。

 有益な情報など一つもない。出てくるのは紅の嗜好の話だけ。彼女が何を好もうが、二人には何の関係もない話だ。

 

 この時点で嫌な予感をひしひしと覚えていたのは、小太郎と長年の付き合いである災禍と知略に通じる不知火だけであった。

 

 

「で、オレはコイツとナディアに爆弾を仕掛けさせたわけだ。まあ、弾正を見つけたから裏方が出来る災禍が動けなくなったんで当然だな」

 

「やはり意図が分からんな。その小娘どもが何だと言うのだ。さっさと言え」

 

「――――――ほんとおめでたい連中だな、ただの時間稼ぎだよ」

 

 

 淫魔王の恫喝に小太郎が肩を竦めた瞬間、その場に居た全員に突如として重力が何倍にも増したかのような重圧が襲い掛かる。

 それが何であるかを明確に理解できたのは、元より予定通りであった小太郎と“彼”と同位の存在である淫魔王とナディアだけだ。

 

 

「…………なっ!?」

 

「これは…………」

 

「来ましたねぇ。比喩でも何でもないモンスターペアレントが。そっちまで来ちゃうかー、まあどっちでもええわ」

 

「…………あー、隊長、これってもしかして?」

 

「もしかしなくてもそうだね、ゆきかぜ」

 

「私達は何も聞いてないぞぉ!?」

 

「そうだね凜子。何も言ってないからね」

 

「手段としては分かるけれど、無茶が過ぎるのではなくて?」

 

「そうでもないよ、不知火さん。本当だったらもっとスマートになる予定だったんだ。何事も思い通りにはいかないねぇ。思ったよりも淫魔王が聡くて、奴が後手に回った上に、弾正が横槍入れてきたから上手くいかなかったが、概ね予定通り。あと何度か死線を潜り抜ければいいだけだ」

 

 

 部隊と救出対象から上がる緊張と不安、更に若干の批難の声であったが、小太郎は何処吹く風であった。

 身内からすらもこれだ。淫魔王と弾正の内心にしてみれば、何をしてくれたんだという怒りと驚愕しかないだろう。

 

 ――――だが、これまでの小太郎の指示には確かにおかしいと言えばおかしい点はあった。 

 

 陽動の下準備にナディアとクラクルを使った点だ。

 弾正がヨミハラに現れたから仕方がないと言えば仕方がない。自身や災禍が直接動くリスクヘッジを考えれば当然の選択であったかもしれない。

 だが、ナディアは兎も角として、わざわざクラクルを使う必要性があったかは疑問だ。

 

 ナディアは人界を知ろうとしてやってきた来訪者。人間の機械技術に関しても積極的に学ぼうという気概がある。

 対してクラクルは偶発的にヨミハラにやってきただけの獣。人界の技術に興味などなく、今日一日をよりよく過ごせればいいだけで、学ぶつもりは一切ない。

 ヨミハラの各所に爆弾を設置する際に、全てを行ったのはナディアでクラクルは付いていって横で眺めているだけで全く役に立っていない。

 この他者の理解が早いこの男が、その程度を想定していない筈がなく、クラクルを使うのは全くの無駄と言えよう。ナディアに関しても、いくら強大な魔力を隠そうとも、相応の手練であれば興味を引かれて後を追ってくる可能性はあった。

 

 ならばいっその事、両者を陽動の一部、敵を引きつける餌として利用する事を目論んだ。

 

 ナディアは誰が追ってくるかは予測出来ないが、クラクルは誰が追ってくるのかは予測できる。

 紅の匂いがたっぷりと付いた彼女。そして、その紅を探している人物がヨミハラには存在しており、一度は彼自身も遭遇している上に、背後に誰がいるのかも分かっている。

 

 

「で、どうする? オレとしてはアンタ等が事を構えている間にさっさとトンズラする予定だが」

 

「――――チッ、引くぞ弾正」

 

「おい、奴等を見逃すと言うのか!?」

 

「余は奴と事を構えるつもりはない。どうしてもやりたいというのなら、お前の手持ちだけでやるがいい」

 

 

 淫魔王の決断は早かった。

 流石に、このあたりの判断は王と呼ばれるに相応しいものである。

 戦う以上は何らかの報酬が得られねば、割に合わない。ましてや、相手は“あの男”。相対すれば確実に戦闘へと発展し、その間は辛酸を舐めさせた対魔忍に気を止めている暇はない。

 勝つにせよ、負けるにせよ、本来の獲物である不知火には逃げられる時点で何の旨味もない。こんな所で、対魔忍に自身の実力を見せてやる意味もない。“あの男”との戦闘行為自体がデメリットでしかなかった。

 

 弾正の言葉に短く拒絶の意を示し、淫魔王は踵を返す。

 その間に、この状況を創り出した男に本物の殺意を向けたが、柳のように受けながされ、今度こそ闇の中へと消えていく。

 平静を装う態度が逆に恐ろしい。腹の底ではドス黒い怒りの炎が燃え盛っているはず。それでも敢えて言葉にしなかったのは、何をするにしても無言のまま実行した方が効果的であった事を知っていたからだろう。

 

 

「…………貴様、覚えていろよ」

 

「へ~い、アンタと違ってトリ頭じゃないんで覚えてまーす」

 

「チッ! 総員撤退! ヨミハラから脱出するぞ!」

 

(最後まで、あの三人を出してこなかった。戦力として多少の不安を残しているってところか? 何にせよ、大人数を相手にするよりゃ幾分マシだな)

 

 

 号令に従い、遠くで燃え盛る炎に照らされていた機械の兵士や闇の中に潜んでいたカメラアイの光が消えてなくなる。

 弾正の顔には自身の行動を不意にさせた男に対する憎悪も大きかったが、“あの男”に対する恐怖が色濃く蒼褪めていた。

 

 その小心さに、最後に出会った時から何一つ学ばず、何一つ成長していない父に呆れすら通り越して最早、何も浮かんでこない。

 元より期待もしていなければ、血縁上の父というだけで親への情など弾正には一切抱いていない。そういった無償の愛情を教えてくれたのは母親だけ故に当然だろう。

 あったのは、最後まで出してこなかった正体不明の三人の少年少女の事だけ。この状況でも切ってこないとなれば、まだ弾正にとっても未知数や不安の残るの部分があるのだ。

 

 ともあれ、その思考も今は邪魔でしかない、と斬り捨てる。全ては、目の前の死線を潜り抜けてからだ。

 無論、“あの男”が来る以上は、小太郎も独立遊撃部隊の全滅も在りうるが、百人以上からなる部隊に囲まれた状態からの逃走よりも、生き残れる可能性は十分にある。

 “あの男”は根本的に他人を信用していない。紅の件にせよ、アサギの件にせよ、最終的に動いたのは自分だけ。今回も動くのは精々がもう一人だけ――――

 

 

「――――あはっぁ、見ぃつけたぁ♪」

 

 

 カツン、と石畳の地面を靴で打ち鳴らし、見知った少女が炎を背に現れる。その背後には、影のように寄り添う男が立っていた。

 吐き気を催すほど濃密で邪悪な魔力。魂を押し潰しかねないほどの圧倒的な存在感。ひと目見ただけで分かる人界にとっての最大の驚異。

 

 少女――――フェリシアと紅の父親にして、アサギにとっての宿敵。

 多くの人間を絶望へと叩き落とし、罪悪感も抱かずに我が物顔で振る舞う不死の王――――エドウィン・ブラックが其処に立っていた。

 

 

 

 

 





はい、というわけで、弾正良い空気を吸いまくる&若様、そんな空気をぶち壊す&更にはブラック来襲、ではなく若様自ら呼び寄せてたの回でした。


骸佐「お前、お前……自分からラスボス(候補)呼んじゃうとか頭おかしいんじゃねーの?(ドン引き」

若様「何時来られるか分からねーってビクついてるより、自分から呼んだ方がマシかな? って思って」

権左「まあ、弾正連中に囲まれてる状況より、二人を相手にした方が逃げるにはマシですが……」

若様「だろ?(満面の笑み」

側近ズ『そしてこの顔だよ! おちょくって逃げる気満々じゃねーか!』

若様「当たり前だろ、真面目に相手するだけ馬鹿を見るんだから。この手に限る!」

骸佐「これからお前の相手するの考えただけで胃が……(キリキリキリ」

若様「馬鹿野郎、こっちはそれ以上にヤバいんだよ(キリキリキリキリキリ」
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