対魔忍RPG 苦労人爆裂記   作:HK416

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若様「呼んじゃった♡」

ブラック「来ちゃった♪」

淫魔王「」

弾正「」

若様「さて、逃げるべ」

フェリシア「逃げられると思ってるの?(満面の笑み」

若様「思ってなけりゃ、お前らみたいな傍迷惑でしかない存在呼ぶ訳ねーだろ、寝ぼけてんのか?(ペッ」


という感じの前回までのあらすじ。

あ゛^~、きららも、クロアサも、セラステスもええんじゃ~。
特に、チョロインきららは出します。次章か次々章辺りに、自斎ちゃんも一緒にな! きららガチャ追加はよ!
それはそれとしてピックアップガチャ仕事しなさすぎじゃない? 自然と魔性引いたけど、HR、SRともにカスリもしないダブリだったんですが……。




案の定、やらかしてくれるモンスターペアレント。だが苦労人は狼狽えない!

 

 

 

 

 

「――――エドウィン、ブラック……」

 

 

 恐れと緊張、嫌悪と怒りが入り混じった誰かの呟きが漏れる。

 アサギにとっての宿敵であり、対魔忍にとっての大敵が目の前に居る。我知らず、言葉になってしまっても不思議ではない。

 

 名を呼ばれたブラックに反応は見られない。

 虚の如く光のない瞳に生気はなく、反面、その総身には尋常ならざる魔力で満ちている。

 死線を潜り抜けた対魔忍であってすら吐き気と目眩を覚え、本能的な恐怖で汗が吹き出し、全身に震えが奔る。

 だと言うのに、当のブラックは虚ろな表情、虚ろな視線のままで小太郎達を認識しているかすら判然としない。

 

 

「はじめましてだね、おねぇさん♪」

 

「………………」

 

「なぁに、だんまり? ふぇりは随分、おねぇさんを探したんだけど……」

 

「……それは、御苦労な事だな」

 

 

 紅は混乱の渦中に叩き落とされたものの、比較的冷静であった。

 小太郎が敢えてブラックを釣るような真似をするなどと考えてはいなかったが、その娘――――フェリシアが自身を探している事は聞いていた。

 しかし、あくまでも比較的にである。怨敵を前にして激情に駆られないだけマシではあるが、平時の精神状態には程遠い。不満げなフェリシアの表情に、何とか皮肉交じりの言葉を返すのがやっとだった。

 

 

(紅も辛うじて冷静だな。さて、紅に気を取られている間に……)

 

(空間跳躍の術だな。任せておけ)

 

(そいつは重畳……問題は不知火さんだが、こっちも大丈夫そうだな)

 

 

 ブラックとフェリシアの興味が紅にしか向けられていない事を確認し、小太郎は凜子とアイコンタクトを取っていた。

 

 二人には精々が羽虫程度の邪魔者としか認識されていなかったが、彼に怒りはない。

 戦力という点だけで見れば、固有の忍法も使えない小太郎は間違いなくその程度の驚異にしかなりえない。

 無論、彼自身は切り札を隠し持っているが、ブラックとフェリシアには知り得ようはずもなく、吸血鬼の真祖とその直系に効果があるかも甚だ疑問である以上、戦力として数える方が間違っている。

 

 此処までは彼の想定通り。

 淫魔王と弾正だけでなく、ヨミハラの如何なる勢力であれ、ブラックが現れれば蜘蛛の子を散らすように逃げるのは分かっていた。

 

 気になっていたのは、夫の敵を目の前で取り逃がした不知火の精神状態であったが、チラリと盗み見た表情は冷静であった。

 内面は様々な感情が渦巻いているであろうが、目の前の驚異に対する警戒を疎かにするようでは、幻影の対魔忍の二つ名は与えられはしないだろう。

 

 

「ふーん……そうやって、こっちの相手をしないつもり? でも、だ~め♡ ふぇりも、パパも、この時を待っていたんだもの」

 

「…………何?」

 

(…………拙い、か?)

 

 

 だが、それも此処まで――――これより先は、彼の想定から外れていく。

 いや、より正確に言えば、想定こそしていたが、敢えてその可能性を思考から除外していた、が正しい。

 

 理由は二つ。

 

 まず第一に、ブラックにとって紅は気紛れで生み出した玩具であって本命ではなかった事。

 心願寺 楓を拐った当初ならばいざ知らず、今やブラックの興味はアサギに移っている。これまでアサギの身に降り注いだ悲劇と陵辱、そして裏で糸を引いていたブラックの行動から疑う余地はない。小太郎はそれらの情報を統合し、不死の王の狙いと願いをほぼ正答に近い形で見抜いていた。

 どちらかと言えばブラックは紅に執着しておらず、フェリシアが一方的に紅を敵視している可能性が高いと考えており、その想定が事実である事はブラックの極端に薄い反応からも明らか。紅を認識しているかすら疑わしい。

 故に、挑発してくるのはフェリシアだけであり、一度見た彼女の無邪気な狂気から他人の心理状態を見越した行動をしてくる可能性は低いと判断した。

 

 第二に、紅の言動に対して信頼の姿勢を見せねばならなかった事。

 小太郎は決して他人を信用、信頼しない度し難い自身の性質を自覚している。無論、彼に親しい人物も――――だが、それは独立遊撃部隊の隊長、引いてはふうま当主としても決してあってはならない性質だ。

 上下関係や人間関係は結局の所、信頼でしか成り立たない。ビジネスライクな関係性であっても、その人物しか生み出せない利益があるという信頼の上で成立するように。

 殊更、小太郎と紅達の関係性は特殊だ。上司と部下、主と従者、男と女、と様々な関係で構成されている。単純な利益や規律だけでは何時か必ず破綻を来たす関係と言えよう。

 だからこそ、他人を信頼できない小太郎はそんな自分に信頼を寄せてくる者に、せめて形だけでも応えねばと考えていた。

 紅はブラックやフェリシアの話を聞いてもなお冷静であった。その姿勢に信頼の姿勢を見せるべく、考えていた可能性を()()()()()()()()()()()

 

 

「――――ほら、イイモノを見せてあげる♪」

 

「――――――ぁ…………はっ…………はぁっ……」

 

「な、によ、それ……」

 

「悪趣味な……!」

 

「あれは……!」

 

「見るな、紅!」

 

 

 フェリシアは満面の笑みを浮かべ、後ろ手に持っていた何かを小太郎達に――――いや、紅に差し出す。曖昧な筈のブラックの表情が邪悪に歪んだように見えたのは気の所為であっただろうか。

 

 それを見た瞬間、紅は驚愕の余りに目を見開き、呼吸すらまともに出来なくなってしまう。

 ゆきかぜと紫は、それが何であるのかは理解できたが、紅にとってどのような意味を持つかを理解できず、ただただ嫌悪に顕にする。

 凜子は空間跳躍の始動に意識を向け、不知火はブラックに全ての警戒心を向けていた故に、それが何であるかを見てすらいなかった。

 唯一、それが何であるのかを正しく理解できていたのは小太郎と災禍だけだ。

 

 

「――――母、様?」

 

『……ッ!?』

 

 

 何か――――液体の注がれた瓶に詰められた生首に魅入られながら、やっとの事で紅の口から絞り出された言葉に、彼女の顔を知っていた小太郎と災禍以外が息を呑む。

 

 一切の光を宿していない虚ろな目。

 美しかったであろうに絶望で塗りつぶされた顔。

 怨嗟か、憎悪か、赫怒か。未だに何らかの言葉を漏らそうとぱくぱくと蠢いている口元。

 使()()()()()()()()()()()()()()()()()()。首から下は、もう既に存在しまい。

 

 それが現在の心願寺 楓の姿だった。

 

 

「ずーーーーっと会いたかったんだよね? 感動のごたいめーん。凄いでしょーコレ、こんなになっても生きてるんだよ?」

 

「い、生き……?」

 

「うん、そうだよ。フュルストのおじさんにお願いしてね。無理矢理、生かしておいて貰ったの。だって、この女にはピッタリだもの」

 

「……ぴ、ったり?」

 

「聞くな、紅! これはもう終わった話だ、間に合わなかったんだ! 幻庵も、お前も、オレも! 誰のせいでもない! 落ち着いてくれ!」

 

「……ブラック、貴方はっ」

 

「く、紅、どうしたニャ。こ、怖いニャ……」

 

 

 満面の笑みで嬉々として語られる言葉に、紅は震える声で中途半端なオウム返ししか出来なかった。眼の前の少女が何を言っているのか、全く理解出来なかったからだ。

 

 こんな無残な現実の何処が感動の対面なのか。

 こんな残酷な末路の何処が相応しいと言うのか。

 

 まだ名前の決まっていないドス黒い感情が心の中に広がっていくのを感じた。

 隣に居る筈の小太郎やクラクルの声ですら、千里も離れた位置から発せられているかのようで余りにも遠い。

 

 

「でも、これでようやく――――殺せるんだぁ♪」

 

 

 笑みを浮かべたまま、楓の首が収められた瓶を両手で挟み込むように砕いてみせる。

 魔界医療によって生み出された液体が零れ落ち、地面へと吸い込まれていく。

 

 瞬間、絶望に覆われていた生首の表情が、苦悶に満ちたものへと変わる。

 喋る事は出来ずとも、痛みを感じる事は出来るようだ。どうやら、フェリシアの()()()()()という言葉は事実であったらしい。尤も、人間らしい生とは掛け離れているが。 

 楓の表情の変化に、くらりと紅の見ていた世界が傾いて、全てが崩れて消えていく。残っているのは、フェリシアと抱えられた生首、そして嗤うブラックだけ。

 

 

「ほんと、汚らわしい女。パパに色目なんか使ってぇッ!」

 

「や、やめ……!」

 

「死ねッ! 死んじゃえッ! あははははッ! アンタなんかいらないッ! 他の“妹”なんていらない! パパに! 見てもらえるのは! ふぇりだけでいいんだから!」

 

 

 フェリシアの無邪気な笑みから一転して、女の情念そのものを形にしたかのような狂気に染まる。

 明らかな苦悶を浮かべた楓の首を地面に叩きつけ、止める間もなく何の遠慮もなく、積もりに積もった積年の思いを開放するが如く踏み付けた。

 

 熟れた果実が潰れるように、頭蓋が砕けて脳漿が飛び散る。

 それが幻庵が無事を願った娘の最後であり、紅が助けたいと願った母の終わり。

 何一つ救いのない死。ブラックに拐かされた時点で分かりきっていた当然の帰結であった。

 

 

「うふ、ひひ、ふひひひひひっ♪」

 

 

 やり遂げたいことをやり遂げた恍惚の表情まま、フェリシアは何度も何度も何度も、既に砕けた頭部を笑いながら踏み続ける。砕けた頭蓋を更に千々に、崩れた脳が髪に絡み、もう元が人の頭だったとは思えない汚物とかしている。

 彼女の持つ狂気と異常さに、誰もが言葉を忘れた。唯一の例外は紅と小太郎だけだ。

 

 小太郎は諌めの言葉を与えるべく、紅の肩へと手を掛けたが――――全ては手遅れだった。

 

 

「――――――殺してやる」

 

 

 フェリシアの存在を知ったあの日。小太郎に語った言葉が全て嘘だったのではないかと思えるくらい、腹の底から出た本音。

 

 別段、楓に愛して欲しかった訳ではない。

 仮に楓を生きて救えたとしても、彼女にしてみれば紅は憎い凌辱者の種から生まれた悍ましい怪物に過ぎない。幻庵が実の孫と認めた上で育ててくれた事の方が真っ当な人間の心理状態から外れているだろう。

 

 別段、紅は楓を愛していた訳ではない。

 顔も写真でしか知らず、声は聞いた事もない。そんな存在を母と慕う事も出来ないだろうと確信似た思いはあった。

 仮に救い出せたとしても、深く関わるつもりはなかった。憎い相手との間に生まれた子の顔など見たくもないだろうと考えていたから。

 

 ただ、紅の心にあったのは、幻庵と楓への感謝であった。

 決して望んでいた訳ではなかったせよ、愛してはくれないだろうけれど、生んでくれてありがとう。

 憎い敵の子であっただろうに、憎しみを心の奥底のに封じ込め、確かな愛情で育ててくれてありがとう。

 

 だからこそ、楓を苦しみしかないであろう現実から救い出し、幻庵の願いを叶えてやりたかった。それこそが、彼女の選んだ道の一つであり、変わることのない願いだった。

 

 己の道が絶たれたのはまだいい。それだけのために生きてきた訳ではないし、他にも選んだ道はあるのだから。

 己の願いが叶わなかった事もこの際、受け入れる。元々、望みは薄かった。願いが叶わない事も決して珍しい事ではない。

 

 ――――だが、楓の人生を弄び、幻庵の願いまでも嘲笑った事だけは決して許せない。

 

 ただ、己を狙ってくるだけならばまだ冷静でいられたが、自分を嘲笑うためだけに、感謝する二人を踏み躙ったブラックもフェリシアも許してなるものか。

 

 自覚した瞬間、紅の胸中を締めていたドス黒い感情の名は決定した――――人はそれを憎悪と言う。

 

 

「――――――――――ッ!!!!」

 

「ぐっ、がぁっ……!?」

 

「っ、くれ、きゃあああああああっ!?」

 

「…………ふっ」

 

「あはぁっ♡ やーっと起きたねっ♪ じゃあ、ふぇりがパパの代わりに試してあげる――――!」

 

 

 声にならない叫びが響く。

 紅の憎悪に呼応するように、彼女の内で必死に抑え込まれていた“魔”が目を覚ます。

 

 刹那、膨大な魔力を帯びた風が紅を中心に吹き荒れた。

 突然の出来事に小太郎達は対応できず、ただ一人の例外なく後方へと投げ飛ばされてしまう。

 

 或る者は迫り来る地面に片手をついて大勢を立て直し、或る者は空中で姿勢を制御して着地し、或る者は地面を二度三度と転がりながらも即座に立ち上がる。

 そうして目にしたのは、変わり果てた紅の姿だった。

 

 見よ、色白だった肌は褐色に染まり、背には瘴気を具現化したかのような巨大な翼を生み出された姿を。

 魔力によって再構成されたのか、蒼穹の如き色の装束は今や血に染まったように紅く変化していた。

 

 吸血鬼と言うよりは、まるで魔神の如き有り様に、誰もが掛ける言葉すら見つからない。

 

 そんな一向をまるで認識していないかのように扱い、フェリシアは虚空に指先をなぞるような仕草を見せる。

 すると、先程まで何もなかった空間に奇妙な魔法陣が浮かび上がり、その中央から彼女の身の丈ほどある大鎌が顕現した。

 

 

「おおおおおおおおおおおおおっっ!!!」

 

 

 憎悪の余りに理性の蒸発した紅であったが、最後に敵と認識したフェリシアとブラックだけは覚えているのか、咆哮と共に猛然と襲い掛かる。

 対し、フェリシアは軽やかに地を蹴った。まるで遊びに出かけるような気軽さで、にも拘らず、その速度は紅に勝るとも劣らない。

 

 二刀の小太刀と大鎌が激突し、激しく火花が散る。

 斬り結ばれる無数の斬撃に技は存在していない。あるのは圧倒的な魔力の迸りと吸血鬼の身体能力から繰り出される力と速度だけ。

 まるで人型の獣が武器を握って打ち合っているかのようで、一切の技が存在しない――――それでもなお、両者の攻防は神話のようだった。

 

 刃が交わる度に魔力が爆ぜ、受け止めた筈の斬撃は余波で周囲の建物を斬り裂いていく。

 

 

(どうする。今は拮抗しちゃいるが、分が悪いのは紅の方。ましてやブラックも控えてやがる)

 

 

 皆が唖然としたまま不死の王の娘達の戦いを見守るしか出来ない中、小太郎は冷静に状況判断すべく思考を巡らせていた。

 既に想定から外れた現状を、この状況を招いたのは他ならぬ自分自身の不手際と受け入れる。全く考えなかった訳ではない。紅を立てて敢えて考えなかったとは言え、このような状態に陥らないよう努力するのが隊長たるものの努め、己はそれを怠った、と。

 

 紅とフェリシアの戦いは、小太郎の目から見て拮抗していた。他の皆も同じ意見である。

 

 しかし、経験の問題がある。

 これまで己を律し、吸血鬼としての力を全く使ってこなかった紅。

 自らの狂気の赴くままに、吸血鬼としての力を思う存分行使してきたフェリシア。

 例え、素養は同等であったとしても、覚醒した力を使い熟せるか否かはこれまでの経験に依存する。であれば、いずれジリジリと遠火で炙られるように戦いの天秤はフェリシアの側へと傾いていくのは目に見えていた。

 

 

「折角の面白い見世物だ。貴様達も見ていくがいい」

 

「何だ……?」

 

「結界よ! ……でも、こんな力、ブラックにあったの?!」

 

 

 戦いの趨勢を見守っていたブラックは横目で小太郎達を眺めると、パチンと指を鳴らす。

 すると、彼らの居る居住区の一角が、地面から現れた闇そのものにゆっくりと、だが確実に上へ上へと伸びていく。

 半径、高さは共に数百メートル。ナディアが結界と称したそれは、最終的に半円状のドームを形作り、内と外を隔てる壁となった。

 幸い、結界で覆われているものの、地面の中にまでは至っていないのか電気の供給をラインは絶たれておらず、外灯の照らす明かりで周囲は闇に包まれてはいない。

 

 それでも、状況は芳しくない。

 

 

「……ッ! 拙い、五車からのカメラ映像が途絶えた。これでは、跳べないぞ」

 

「天音に連絡を入れましたが、此方も繋がりません。五車側に何かあったのではなく――」

 

「この結界が原因か。米連の最新鋭なんだがな……」

 

 

 最早、当初の想定から大きく外れた事態へと発展してしまっている。

 

 ブラックの張った結界によりあらゆる通信が途絶してしまった。

 五車から此方の状況を知る術はなく、また此方も状況を伝える方法もない。

 最悪だったのは、凜子の空間跳躍を安定させる()()()()()()が得られない事だ。これでは安定した跳躍は行えず、五車どころかヨミハラからの全員での離脱という大前提が崩れ去ったも同然。紅以外に興味のないブラックが凜子の能力を知っていたとは思えないが、容赦なく部隊の嫌がる手を打ってきている。

 

 

(つーか、どんな結界だよ。外の様子が伺えないってなると光まで完全に遮断されてる。通信機だって、最近できたばかりのニュートリノ通信だぞ。腕利きの魔術師でも、此処まで内と外を断絶と遮断は実現できない筈だが…………ブラックの生まれ持った能力も加わってんのか?)

 

 

 ニュートリノ通信は、電波、音波、光に変わる新たな通信方法であり、事実上、地球上の何処でも通信が可能となる。

 ニュートリノは極めて透過性の高い素粒子であり、今こうしている間にも空間の中を何兆もの数が飛び交い、地球そのものすらを透過している。

 この素粒子は発見された当初からこれを利用しようとする試みは行われてきたが、他の物質と反応し難いために検出が難しく、検出率を上げるために科学者は様々な智慧を絞ってきたが、検出する設備が大型化してしまうのが現実であった。

 その現実を打ち破ったのが、魔界技術である。これにより、検出装置は一気に小型化。のみならず、ニュートリノ通信を実現させる飛躍的な技術革新を生み出した。

 

 そのニュートリノ通信ですら遮断してしまう結界の異常さだ。如何に吸血鬼の膨大な魔力でも構築できるかどうか。

 結界術に限らず魔術全般は、本質的に科学技術と相性が悪い。根本が異なる技術だからだろう。

 人の認識を曖昧にさせ意識を逸らさせる人払いの結界、人の目に全く別の光景や物体を見せる物隠しの結界などは、人の目を介さないカメラなどで撮影して画像にしてしまえばあっけないほど簡単に見破れてしまう。

 無論、科学も万能な訳ではない。“迷い辻”のような結界の内側にある種の異界を形成するタイプには効果を発揮しなくなる。

 

 そして、結界にいくつか共通する点がある。それは内からの耐性を上げる程、外からの力に弱くなる。或いはその逆も然り。

 例えば、人払い、物隠しのようなタイプは外から内へと入るのは難しいが、内から外へと出るのは簡単だ。

 逆に“迷い辻”や何らかの封印術のようなタイプは内から外へと出るのは難しいが、外から内へと入るのは容易い。

 何故なら、前者は外からの侵入を阻むためのものであり、後者は内からの脱出を阻むためのもの。逆への耐性を上げる意味は薄く、無駄な消耗をする必要はない。

 ブラックが下ろした闇の帳を、便宜上ナディアは結界と称したものの、根本的に異なる技術であり、異能と見た方が正しい。

 

 

(オレ達の取るべき最善手は、依然として撤退である事に疑う余地はない。問題は、紅だ)

 

 

 ブラックの張った結界に関しては、何とかする術はある。

 凜子の空遁、或いは己か災禍であれば、これを打ち破る事は不可能ではない。

 

 問題は紅だ。

 彼等の目的はあくまでも不知火の救出であり、この目標を達している以上は即時撤退すべき。

 その最中、相手の策略であったとは言え、暴走して敵に襲い掛かる者を待ってやる必要性などない。見捨てるべきである。

 

 だが、小太郎にその選択肢は取れない。

 心願寺家は幻庵から紅へと代替わりする前も後も、弾正による内乱の前も後も、一貫してふうま宗家に仕えている。況してや、小太郎と紅は幼馴染の関係であるのは周知の事実。

 そんな忠臣と言うべき存在を簡単に切り捨てたとあっては、ただでさえ地に落ちているふうまの評判は更に地へとめり込み、小太郎自身の評判も底知らずに下がる。

 紅という爆弾がなくなったと喜ぶ者も居るだろうが、それを内に隠して、独立遊撃部隊の解体やふうまという家の完全な消滅に動こうとするのは目に見えていた。

 

 

(まあ、そりゃあ建前で、本音はただの我儘だがな。オレが、紅を切り捨てられる筈もない)

 

 

 結局の所、オレも弾正も大差はないと自嘲する。

 小太郎が紅を切り捨てたくないのは、幻庵から頼みやら、ふうまの進退がどうだのという複雑な理由からではない。単純に、自分の女だから切り捨てない、或いは自分の女が他の連中に弄ばれているのが我慢ならないという欲望に塗れた理由であった。

 

 自分の女である以上、その肢体も心も全てオレのもの。他人にくれてやるものは一つもない。

 何とも愚かで、何とも分かりやすい理屈である。成程、これでは自分の欲望のためにふうまを衰退させた弾正と確かに大差はないだろう。

 

 

(問題は、オレ一人残って何が出来るかって話。あの戦いに割って入って紅を正気に戻した上、あの二人から逃げる。無理無謀も此処まで来ると笑えるな)

 

 

 明確な違いがあるとするのなら、小太郎は自らの命を賭ける事に躊躇はない点か。

 

 これが弾正であれば、自分ではなく他人にやらせるだろう。当主の命令に従うのが部下の役割と言わんばかりに。

 だが、当主とはあくまでも家の象徴であり、効率よく家を運用するための機構である。役割が違うだけで、当主もまた家を回すための歯車の一つに過ぎない。

 その辺りを小太郎は母からの教育でよくよく理解していた。当主としての立場と権利を、己の欲望を満たすために使うのは論外であると。

 

 だから、今回もまた己一人で何とかしようと考えている。しかし――――

 

 

「「「――――隊長?」」」

 

「アッハイ」

 

 

 ――――それを見逃すような、彼の女である筈もなく。

 

 ニッコリと微笑みながらも、目が一切笑っていないゆきかぜ、凜子、災禍の三人に気圧され、小太郎はもう何も言えなくなった。

 

 女に対しては欲望塗れの癖に、おかしな所で律儀な彼だからこそ、一生支え続けると決めたのだ。

 そして、彼女達は知っている。自分の欲望に正直ではあるが、他者の利益を考えない男ではない事を。

 自分の幸せや欲望を真っ先に考え、己で行動するからこそ、周囲の者達の幸せと欲望を満たす事が出来る。人とはそういう生き物なのだ。

 

 であれば、彼の欲望に付き合うのも吝かではない。

 

 

「って言うか、紅先輩を見捨てて逃げるとか、対魔忍的にもアウトでしょ」

 

「そうねぇ。私も救助された身としては、忍びないわ」

 

「私はお前の個人的な護衛だからな、口を出す権利はないが――――見捨てるつもりならばこれまでの関係にさせて貰う」

 

「紅を助けるのね、頑張るわ!」

 

「…………クラクル、お前は?」

 

「………………」

 

「分かった、もういい」

 

「な、何ニャその怖い顔!! 分かったニャ! 手伝えばいいんニャ!!」

 

 

 そして三人の意見は、全員の総意でもあった。

 人がいいというべきか。崇高な正義と普遍的な善良さを持っていたというべきか。

 

 クラクルだけはブラックを前にして涙目でぷるぷると首を振ったが、小太郎の顔が凄まじい勢いで歪んでいく様に、思わず頷いてしまった。

 

 

「災禍、お前はこの結界を何とかしてくれ。例のアレを使え」

 

「御意」

 

「不知火さんと紫、クラクルはブラックを抑えてくれ。倒す必要はない。出来るだけ目を引いて、時間を稼いでくれればいい。それから不知火さんにはこれを渡しておく」

 

「これは……?」

 

「ま、奴をおちょくる秘策ってところかねぇ」

 

 

 皆の意思が確認できたのであれば、後は事を成すだけ。

 

 異様な効果と強度を誇るであろう結界を破るべく、小太郎は災禍へと命を下す。

 一も二もなく頷いた災禍の姿は自信に満ちている。ある種の切り札が、彼女にはあるのだ。

 

 そして、ブラックの邪魔を防ぐべく、不知火、紫、クラクルに相手を任せる。

 オールラウンダーの不知火、近接戦闘に優れた紫とクラクルにしか熟せない役割だ。

 

 そして、不知火には元より使うつもりだった何かを渡す。

 不知火はそれが何かは分からなかったが、小太郎のすっとぼけた言動から碌でもないものだという事だけは確信した。

 

 

「ナディアは後方で三人の強化。できるな?」

 

「ええ、任せてちょうだい! 三人には傷つけさせないわ」

 

「で、私はナディア殿の護衛と、空遁で三人のサポートをしつつ、離脱の機会を伺うのだな。任せろ。それから災禍殿、手を」

 

「何だ、凜子?」

 

「以前から考えていた使い方ですが、まだ成功はしていません。信じて頂けますか?」

 

「言うまでもない。今は、どんな手を使ってでも生き延びねば」

 

 

 災禍は差し出された手を取った。それが如何なる意味を持っていたのか、理解できていなかったが迷いもなければ疑問も口にしない。

 敢えて聞くまでもない信頼が其処にはあった。それほどまでに凜子は努力を重ね、成果を上げてきたのだ。

 

 

「ゆきかぜ、お前はオレと来い。吸血鬼娘の横っ面を引っ叩きに行くぞ」

 

「了解。勝手した紅先輩にはお仕置きしなくちゃだからね!」

 

(お仕置き(意味深)な気がするが、黙っておこうね、うん!)

 

 

 ゆきかぜは二丁のライトニングシューターをくるりと手の中で回転させる。

 口調の軽さに対して、表情は硬い。当然だ、今から飛び込んでいくのは正に大嵐。踏み込む場所を、踏み込む瞬間を誤れば、即座に死へと繋がる文字通りの死線。如何にルーキーと言えども荷が重い。

 

 対して、小太郎に必要以上の緊張は見られない自然体。

 この程度は慣れている。飛び抜けた才能もなく、ただひたすらに鍛錬でのみ強さしかない彼には、一つの修羅場をやり過ごすにも常に命を掛けねばならない。

 何よりも身を以て体験し、知っていた。死から逃れるには、死を前にしても冷静さを保ちながらも、相反する自ら死神の懐に飛び込んでいくような大胆さが不可欠であると。

 

 そうして、独立遊撃部隊の戦いが始まる。

 敵は不死の王とその娘達。如何なる結末を迎えるのかは、まだ誰にも分からない。

 

 

 

 

 




はい、というわけで、楓無惨&フェリシアとブラック楽しみまくる&紅暴走、の回でした。

楓さんが原作よりも悲惨な事になってるのは、作中の都合っつーか、ブラックとフェリシアの残虐さをより際だたせるため。コイツラに関わるとこういう目に合うんやでという分かりやすい見本みたいなもん。ビジュアルもないキャラはこんな扱いですわ。
で、そのブラックとフェリシアを若様がおちょくり倒す爽快感を増やすためなんじゃ。

次回、若様ブラック親子をおちょくって鼻ホジる。
GWにもう一回更新できればいいなぁ~。
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