ブラック「…………ぷふ」
紅「お前らもう許さないからな(暴走」
若様「あーもうめちゃくちゃだよ」
そんな感じの前回
マップイベ、お金がモリモリ貯まるなぁ。これで覚醒素材も貯まればもんくないんだけどなぁ。他のイベに比べてすごくやりやすくなった印象がある。
今回のマップイベは、SRアスカ三連星が大活躍。アスカで回復&強化して、アスカでSP補給して、アスカで殴ってデバフする。もうこれアスカだけでいいんじゃないのかな?
では、GW最後の投稿を受け取ってくれー!
「………………」
何処も見ていない闇そのものの虚ろな瞳で、自身の前に立ちはだかった存在を見やる。
相変わらず、エドウィン・ブラックは曖昧な状態の中に居た。
その長過ぎる生故に、既に何が現実で何が夢なのか、当の本人もよく分かっていない。あるのは胸に残った妄執と悪意だけ。
発露する言葉や行動も、理性とは掛け離れた妄執の欠片であり、彼の人格とは全く別のところから発せられる反射である。
最早、外界からの刺激に対して反射するだけの存在。それは到底、生きているとは言い難い。
時折、夢から覚めるように正気に戻り、生らしい生を謳歌すべく邪悪な策謀を巡らせるが、今はまだ曖昧な状態のままだ。
故に、彼が曖昧な状態で敵に目を向けるとは、それそのものが異常な事態と言える。
それは即ち、彼の人格や精神とは異なる本能が、自身を脅かせる存在が現れた、と認めたようなものだからだ。
「――――ふッ!」
ブラックの足止めを任された不知火、紫、クラクルが一斉に踏み込んだ。
彼は確かにそれを眼にしながらも、それが誰であるのかなどと一切認識しないまま、反射のみで迎撃を開始する。
足元の影が爆発的な勢いで膨らみ、爆ぜ、伸びていく。
彼が住宅街の一角に張った闇の帳と似て非なる闇そのもの。上位魔族にとっては
槍の穂先、肉厚の斧、鋭利な刃。あらゆる形を取る闇は、人体を用意に切断する程の硬度を保ちながら柔軟で伸縮自在という矛盾した性質を許容して、三者へと向かっていく。
本能とは残酷で無慈悲だ。殊更、戦闘に根差したものであるのなら尚の事。
ブラックの放った攻撃は、紫とクラクルを一撃の元に戦闘不能にし、アサギと並び称される不知火ですら手傷を追わせるほどのものであった。
にも拘らず、不知火は真っ直ぐに伸びる槍の如き一撃を得物の薙刀で容易に捌き、紫は頭頂に振り下ろされた斧を拳で殴り返し、クラクルは剣士のそれに劣らない一閃を掻い潜る。
明らかに実力以上の実力を発揮する敵に対し、ブラックの戦闘本能に困惑は皆無であった。
彼女達が纏う魔力は、明らかに彼女達のものではないと感じ取っていたからだ。その源は自身に匹敵――――いや、超える程の存在から供給されている。
「身体に負担は掛かるでしょうけれど、こうでもしないと」
ブラックの視線が向けたのは三人の遙か後方、如何なる攻撃であっても迎え撃つべく、刀を正眼に構えて微動だにしない凜子の背後で舞うナディアであった。
人界のそれとは全く異なるリズム、全く異なる踊り。冷静と情熱、妖艶と爛漫、相反する要素を多く兼ねた舞は驚くほど美しい。
美しさとは兵器だ。もし、街中で彼女が踊り出せば、自ら仕事や目的を忘れて見惚れてしまう事だろう。そして、美しいと思ったものを攻撃する事は、真っ当な精神を持つ者には難しい。
尤も、今や本能と妄執しかなく、元の人格からして美醜の感覚など常人とは掛け離れたブラックには、単なる排除の対象でしかなかった。
彼女の強大な魔力を伴った踊りは、他者を命を活性化させ、従来では考えられない回復力を齎し、身体能力を強化する。
それを知識も記憶もなく感じ取ったブラックが、排除の優先順位を恐れずに向かってくる三者からナディアへと切り替えるのは至極当然の流れであった。
「やらせると思っているのかしら……?」
「――――――――」
であれば、知略に通ずる不知火に読めぬ筈もなく、また邪魔をする手段も用意できぬ訳もない。
己の生み出した
無理もない。先程までは存在しなかった筈の
軍勢はざっと三十。無論、小太郎が用意した伏兵などではない。ヨミハラに彼が利用しようとする戦力など存在しない。
それぞれが、不知火の形をしているものもあれば、紫の形をしているものもあれば、クラクルの形をしているものもいる。
「こういう使い方は、得手ではないのだけどね――!」
ブラックの猛攻が途切れた瞬間、不知火は二本の指を立てて印を結んでいた。
種を明かせば何の事はない。軍勢の正体は、不知火の水遁によって生み出された精巧な水分身だ。
彼女の言通り、得意とする使い方ではない。
幻影の対魔忍の名が示す通り、水蒸気や水滴を使った視覚を騙す幻惑こそが本領であり、こうして物理的に存在する偽物を作り出した上で持続させるのは不得手ですらあった。
通常であれば、生み出せて精々が二体から三体。此処まで精巧な外観を作り出すとなれば一体が限度。それも細かい操作な不可能であり、自身から5mも離れると途端に形を成さぬ水へと還ってしまう。
本来の不知火ですら成し得ぬ芸当を可能としているのは言わずもがな、ナディアの踊りであった。
彼女の踊りによって齎される強化は、身体能力ばかりでなく、忍法にまで及んでいるのだ。
その実体を持つ分身が、操り手の意思に従うまま一斉に敵へと飛び掛かる。
いわゆる強者であっても、数に責められては分が悪い。対魔忍でも、この波状攻撃を切り抜けられるのは片手で数える程度しかあるまい。
されど、其処は吸血鬼の始祖。圧倒的な生物的格差で一蹴してしまう。
「う、ぉぉぉおお――ッ!!」
「猫パーーーーーンチッ!!」
水分身は彼の足元から伸びる闇によって切断され、潰され、弾けては次々に単なる水へと戻され、その度に再び形を成して向かっていく。
そんな無限に続く千日手の如き光景の中を、本物の紫とクラクルは分身の迎撃で生じた隙へと踏み込んだ。
「――――ぐっ!?」
「うニャぁ――!?」
ブラックに届こうとした拳と爪は、されども盾のように広がった闇で弾かれた。
二人は其処で無理に攻めようとは考えず、即座に後方へと飛び去り、或いはブラックと擦れ違うように駆け抜ける。
紅を連れ戻しに向かった小太郎からの助言がよく効いていた。
『いいか、そっちの役割は時間稼ぎだ。無理に攻める必要はない。常に一撃離脱で構わない。奴は身体を霧に変えて人の体を乗っ取ると言う報告もある。どっち道、ブラックに対して近接は愚策だが、手持ちが近接しか出来ない奴が中心で時間を稼ぐだけならそれでいい。なるべく死ぬなよ』
幸いな事に、ナディアの踊りの加護によって身体を乗っ取られる心配はないが、それでもなお厄介な事に変わりはない。
ブラックの攻撃性能は段違いだ。生み出される殺傷能力も、範囲も文字通りの桁違い。紫もクラクルも怪我こそしていないが、状況的には首の皮一枚で繋がっているようなもの。
まるで細い糸の上を全力疾走するような芸当だ。そんなものが長く続く筈もなく――――
「うニ゛ャーーーーーーーーーーーーー!?!?」
「――――拙い!」
――――攻撃のために飛び掛かったクラクルの片足を、触手に変形した闇が絡め取る。
空中で逆さ吊りにされたクラクルを一瞥したブラックの足元からボコリと肉が盛り上がるように何かが生み出される。
それは闇と繋がったまま、獣の頭部のような形状を取った。目こそ存在していなかったが、伸びた鼻は明らかにイヌ科の肉食獣に似ていた。但し、クラクルを一噛みで胴体から真っ二つにできるほどの巨大さである。
存在しない筈の魔獣を眼にしたクラクルは涙目になって悲鳴を上げ、必死に抵抗するものの意味を成さない。
不知火も分身はあくまで撹乱を目的としたものであり、助けようにも助け出すだけの力はなく、自身も僅かに離れた位置に居るため間に合わない。
「ぬぅ、ぁああぁあぁぁっ! 避けろよ、クラクル――――!!」
「ちょ、まっ――――ニ゛ャあ゛ああああああああああっっ!!!」
クラクルの窮地を救ったのは、紫であった。
生真面目な彼女が魔族を自らの意思で救うなどあり得ない話であるが、相手がブラックである以上はそうも言ってはいられない。
その上、その方法は圧倒的な力業であった。
紫は目の前にあった街灯の一本に両腕を巻き付けると、ただの膂力だけで地面から引っこ抜く。
重量が明らかに数百キロに至ろうかという、長さが5mに至ろうかという巨大な物体を、金属バットをフルスイングするような勢いで振り抜いた。
先程とは別の死を察知したクラクルは今度は大粒の涙を流しながらも、身体を限界以上に反り返らせる猫らしい柔軟さで、鼻先を掠めていく街灯を回避した。
振り抜かれた街灯は魔獣もブラックをも巻き込んで、道の片側にある家屋に激突し、壁面の一部を大きく崩壊させた。
「何するニャ!! し、し、し、死ぬかと思ったニャー!!」
「喚くな! 此方としても手段がなかったんだ! 生きて仕切り直しできるだけでも十分だろう」
「………………」
「クソッ! 少しは痛がれ、化け物め!」
逆さ吊り状態から開放されたクラクルは紫と共に距離を取って抗議を向けるが、当の紫は必死も必死、あれ以外に手段はなかったのである。
それでも、ブラックは無傷であった。
街灯が身体に接触する直前、身体を霧に変えて紫渾身の一撃を回避したようだ。
敵を殺すという点においても図抜けているが、身を護るという点においてもインチキ染みた能力を有している。その上、周囲を封鎖した不可思議な能力まである。このままでは性能差に磨り潰されるのは時間の問題だ。
(――――好機!)
台風が通り過ぎる中でも綺麗な空模様が覗ける瞬間があるように、戦いにおいても不意に静寂が支配する瞬間は訪れる。
刹那の停滞、両者が呼吸を整える一瞬、無意識の同調――――策謀を巡らせるものに、これほどの狙い目はない。
それを見逃さなかった不知火は、戦いが始まる前に小太郎に渡されていたものを使う機会が訪れたと判断した。
何なのかを聞く時間はなかった。ただ、指定されたのは使用するタイミングと使い方。
戦いが始まってから5分後、オレの姿を模倣した分身で使ってくれ、というものだった。
数多く創り出した分身にそれを持たせ、分身の手から手へと渡しながらブラックには気づかれないまま徐々に近づけていった。
時間的にも問題はなく、分身を創るにも操るにも問題ない一瞬に、何の問題もなく小太郎の用意した秘策を起動させる。
『――――――――』
それは果たして、如何なる威力を秘めているのか。まだ彼女達には知る由もない事である。
―――――
――――
―――
――
―
不知火が好機を得るより数分前。
小太郎とゆきかぜは、戦いながら住宅地を移動する紅とフェリシアの後を追っていた。
「さて、勇んで来たはいいが――――ゆきかぜ、何とかしてくれ」
「むり、しんじゃう」
「おれもしんじゃう」
戦いの影響によって倒壊した家屋の影から戦いを見守っていた二人は、揃って弱音を吐く。
無理もない。吸血鬼の真祖、その娘の移動した後は戦場と言っても差し支えのない惨状であった。
武器と身体に魔力を纏い、ただ振り回して移動する。たったそれだけの行為で、既に十数もの家屋が倒壊して瓦礫と化した。正に人型の竜巻と言えよう。
「が、あああああぁあああぁぁあぁぁ――――っ!」
「――――うふ、ふひひ、ひひひひひひひひひっ!」
((こっわ))
片や、獣の如く憎悪の咆哮を叫びながら。
片や、純粋な狂気で沸き起こる笑みを浮かべながら。
全身を叩く荒れ狂う魔力の波を浴びた感想は、何処か気の抜けたものだった。
油断はない。隙もない。緊張もしているし恐怖もあるが、余裕だけは失ってはいない証拠。小太郎は母からの教育、ゆきかぜはその小太郎からの指導によって得たものだ。
余裕があるのは当然の事。二人には己に何が出来るのか、何が出来ないのか自覚がある。
自身の限界という境界線が見えている故に、後は成すべき事を成せばいいだけなのだ。非常に優秀な精神状態だ。緊張しすぎても、或いは緩み過ぎていても成否の天秤は否の側へと傾くものだ。
「どうするの?」
「コレを使います」
「うーん、最早小太兄のお家芸。これからボンバーマンって呼んでもいい?」
「好きにしろよ。ふうまのボンバーマンかー。入力ミスったら自爆するのも間違っちゃねーし。一番良いだろ、実際。あの中に同時に突っ込んでいっても揃ってお互い細切れだぞ。二人の距離を離れさせるにはコレですよ」
「で、離れさせている間に小太兄が紅先輩をどうにかして、私があのキチ○イ娘を足留めと。うふふ」
「なぁに、笑ってんですかねぇ。割と洒落にならない事態だぜ?」
瓦礫の影へと顔を引っ込め、そのまま背中を預けて手筈を確認する。
自分とゆきかぜの間に、どんと置いたのは言わずもがな遠隔操作で起動し、即座に爆発する爆弾であった。
それを見たゆきかぜは呆れとも冗談ともつかない言葉を口にし、これからの行動に薄っすらと笑みを浮かべる。
「だって、好きな人と危ない橋を渡るって、ちょっと嬉しいかも」
「頼もしい事で。良かったよ、お前が適度にイカれてて」
「そうかなぁ? でもあの娘も気に入らないし、結構モチベーションも高いかも?」
「そうかい。どうせ全力でやっても殺せねーだろうし、吹っ飛ばしていいぞ」
「りょーかぁい。じゃ、やっちゃおうか」
「へいへい――――そらよ、っとぉ!」
ゆきかぜの発言に呆れた顔で答えた小太郎であったが、同時に頼もしさを感じていた。
対魔忍は常に死と隣り合わせ。それ以上に酷い結末などいくらでも存在する。心願寺 楓などその最たるものだ。
自分だけではない。闇の住人に食い荒らされた犠牲者を横目に、闇の住人を殺さねばならない事もある。仲間にその覚悟を強いねばならない場面もある。
誰かがやらねばならないとは言え、不快な仕事だ。ある程度のイカれ具合と続けていくためのモチベーションは必要不可欠。その点、ゆきかぜは満点をやってもいいほどだ。
同時に、ゆきかぜは確かな喜びを静かに噛み締めていた。
発言の是非は兎も角、小太郎の力になれている事実は、彼女にとっては何よりも嬉しい。
これまで小太郎の何も知らず、これからは違うと誓った身。本懐を遂げているようなもの、これまでのどの任務よりも強い動機で満ちている。
――――何よりも、ゆきかぜは一目見た瞬間からフェリシアの事が気に入らなかった。
ゆきかぜが思うに、フェリシアと己は似た者同士。
愛する者のためならば何をも犠牲に出来るだけの狂気を有している。表に出ているか出ていないか、冷静であるか否か、愛する者以外も思っているかそうでないかの違いでしかない、と彼女は断言する。
其処に決定的な違いがあるとするのなら一つだけ。そのたった一つの違いが、同族嫌悪の伴った怒りが心の中に隆起する。
フェリシアはゆきかぜよりも強い。
それが性能差、種族差から導き出される一つの結論だが、強いからと言って勝負に勝てる訳ではない。殊更、あらゆる行為が黙認される殺し合いでは、その傾向は顕著だ。
以前までのゆきかぜならばいざ知らず、現在のゆきかぜであれば、十二分に任せられると判断した小太郎は、用意していた爆弾を放り投げる。
「「――――っ!?」」
タイミングは完璧だった。
大鎌の一閃を武器で受けた紅が大きく身体を弾かれ、追撃すべくフェリシアが地を蹴ったその瞬間、二人の間に小太郎の投げた爆弾が落下する。
二頭の凶獣が何かを理解するよりも早く、凄まじい炎と風が生み出される。
無論、この程度は魔力で保護された二人にダメージなど与えられる筈もない。それほどまでに、
だが、決して無敵ではない。まともなダメージは入らないが、質量が変わる訳でもなければ、身体を霧化させねば爆風までも無効化できはしない。
「――――っ!!」
「ぎゃぁんっ!?」
女性らしい軽い体重は物理法則に従うまま、それぞれが逆方向に身体を吹き飛ばされ、背中から地面へと叩き付けられた。
「あー、もう何なのぉ!」
「悪いけど、暫く私に付き合って貰うから」
「チッ…………ふーん、ふぇりの邪魔するんだ。薄汚い、ただの人間の分際で」
「そうだけど? 女としての格の違い、教えてあげる」
「はぁ? あぁ、もう、うざいっ! うざいうざいうざい! うっざいっっ!!」
子供そのもの癇癪を見せるファリシアに対して、ゆきかぜはライトニングシューターの銃口を向けたまま宣戦布告する。
その意味合いを理解できないフェリシアは癇癪のままに襲い掛かる。こうして、女の戦いの火蓋が切って落とされた。
「うらぁ――――!」
「ぐがぁ、あぁっ!」
一方、小太郎は倒れ伏した紅に馬乗りに覆い被さっていた。
二人の間に横たわる戦闘力は凄まじい開きがある。何もさせずに封殺するしか、生き残る術はない。
首と胴が斬り分けられる事を避けるため、小太刀の握られた両手首を地面に押さえ付ける。
「ぐっ、このっ、馬鹿力しやがってぇ……!」
「――――――っ!!」
だが、圧倒的に優位な位置を取ったというのに、憎悪に染まった表情のまま紅はただの力で押し返していく。
押さえられた手首と上体は徐々に徐々にと持ち上がり、小太郎がどれだけ力を込めようとも、反対に押しやられる。
逆転はあっという間であった。
紅が身体を返すと小太郎との位置が逆転する。紅は上に、小太郎は下にと。
それでも、小太郎は手首だけは離さない。小太刀が振るわれる事態を避けさえすれば、後は思惑通りになる確信があったからだ。
「――――はぁぁっ」
(来やがったか……っ!)
彼が如何なる理屈で、いずれは磨り潰されるしかない近接を選んだのか。それは吸血鬼という種族自体の話をせねばなるまい。
多くの者は吸血鬼に対して恐ろしいイメージを持つに違いない。
重機の如き膂力。姿形を自在に変える変身能力。頭を吹き飛ばされようが心臓を抉られようが再生する治癒力。無尽蔵に配下を増やしていく吸血行為。どれを取っても人とは段違いの驚異であるのは疑いようがない。
だが、明確な弱点も存在している。それは、燃費が悪い点だ。
無から有は生まれない。彼等が吸血という行為を必要とするのは、生命力を直接取り込む方式でなければ、自身の代謝に生命力の供給が追い付かない。
理不尽なまでの能力の数々は、
そして、吸血鬼にはそれぞれ蓄えておける生命力に限度がある。
他種族から吸血鬼となったものは精々が十人から二十人分。生まれながらの吸血鬼は三十人から五十人分。貴族階級ともなれば有に百を超えるだろう。
無論、例外も存在する。それが、吸血鬼共の始祖ブラック。
ブラックは元より吸血という面倒なプロセスを踏まずとも、触れないままに生命力を吸い取る真似が出来る。そもそも、不滅を謳う怪物だ。生命力を吸い取る必要性もあるか甚だ疑問である。
その娘であるフェリシアも紅も、同様に吸血という行為は不要かもしれないが、半分は人間である以上、その力が何もしないままに無尽蔵という事だけはない。
少なくとも戦闘を行えば、力を消耗する。況してやそれが同格との戦いであればどうか。その消耗は人体とは比較にならないものであるのは間違いない。
そんな存在が、両腕を塞がれればどうするか。
最早、憎しみに目を曇らせた紅は、目の前に居る人物が己にとってどれだけ大事な存在であるかなど分からない。
憎悪に支配された紅にとって重要なのは、フェリシアとブラックを殺す事。だと言うのに、現実は未だに殺せておらず、なおかつ自身は消耗している。
本能が導き出す答えは一つだ。考えるまでもない。哀れな獲物に、その牙を突き立てるに決まっている。
「―――――っ」
「……んぐっ、ごぐっ……んんっ、れる……」
ぞぶり、と音を立てて首筋に犬歯が突き刺さる。
甘く熱く濃厚な生き血の味に憎悪で染まっていた両目すら恍惚に蕩けさせ、一心不乱に啜り始める。初めての吸血行為に、歓喜で全身がぶるぶると震えていた。
じわじわと自身の命が失われていく感覚を味わいながらも、ヘルメットの下で会心の笑みを浮かべる。
食事とは本能に根差した行為。感情よりも遥かに命と深く繋がっている。どれだけ怒りと憎しみに捕らわれたとしても、腹は減るし眠くなる。
そして、そうして食欲睡眠欲性欲のどれか一つでも満たされれば、満足感を覚える。満足感とは即ち幸福感と同時であり、満ち足りた気分、幸福な気分は心に余裕を生むものだ。
だからだろうか、紅は聞こえる筈のない声を聞いた気がした。
『よいのか、紅。お前は、それでよいのか?』
悲しみに沈む嗄がれた声を。
聞き慣れた、老いた声色。何時だって、大きな悲しみを飲み込んで、己を一番に考えてくれたの老人の声を。
『そのままでは、また大事な者を失ってしまう。お前は、それでよいのだな』
気がつけば、虜になっていた血の味すら忘れ、顔を上げていた。
その先には、もう居るはずのない人が立っていて、悲しげに眉を寄せながらも信頼の笑みを浮かべる。
『さあ、戻るのだ。儂は何時でもお前を信じ、見守っておる。だから儂が信じ、お前が愛した若者の元へ――――』
「……ぅ……ぁ……」
『――――戻れ、紅』
「紅! 紅っ! 戻ってこい、この馬鹿っ!!」
絞り出そうとしても声が出ない。血よりも熱いものが頬を伝っている。
目にしたそれが何であるのか、紅には判然としなかった。都合の良い妄想であったのか、或いは彼女の窮地に死人が迷い出たのか。
老人の最後の一言は、自分の愛した者の声で掻き消されてしまった。胸に残っているのは悲しみと不甲斐なさと罪悪感。
それでも紅は帰還を選んだ。祖父がそれを望むのなら。愛した者が自分を望むなら、と。
ほい、というわけで、対ブラック組の奮戦&ゆきかぜVSフェリシア勃発&若様ブラック親子の思惑を早くも粉砕! の回でした。
だらだら闇落ち展開やって紅にヘイト溜めてもしょうがないからね、スピード解決が一番ですわ。若様分かってる。
そして、紅の前に現れたのが幻影でなかった場合の地獄での一幕
骸佐パパ「お疲れ様です、幻庵殿」
幻庵「ふー、何とかなったわい。ん? ところで奥方様は」
骸佐パパ「いえ、その……幻庵殿を現世に送るために、閻魔大王と獄卒をボコると息子たちと……」
母上「しゃーーーーーーおらーーーーーー!! 今日もストレート一本勝ちじゃーーーーーーーー!!!」
骸佐兄ズ「「しゃーーーーーーーーー!!!!」」
幻庵「ちょっと、何してくれてんのぉぉぉぉぉぉぉ!?!?」
骸佐パパ「地獄での刑期がまた増える……」
間違いなく、若様の母親は地獄エンジョイ勢というね。何だコイツ。