対魔忍RPG 苦労人爆裂記   作:HK416

28 / 81
ゆきかぜ「パパが一番って一番可愛いのは自分でしょ(半笑い」

フェリシア「ムキィィィィィィ!!!」

若様「お前マジで何がしたいの? そんなんでアサギが手に入ると本気で思ってんの? 頭の病院行ったほうが良いんじゃない?(マジレス」

紅「モテないからって力尽くとかないわー」

ブラック「」


という感じの前回までのあらすじ

新章追加&対魔忍SAGAを買った作者の顔→(´༎ຶ۝༎ຶ)
SAGAの方はある程度覚悟してたからいいとして、ゆきかぜの実家がアレはねぇよぉ……
ユキカゼ1の時、豆ごはん食べたいっていう過去回想では普通の一軒家の絵面だったじゃないですかー、やだー!

という訳で、矛盾とか設定違いがあったらドシドシ突っ込んで下さい。作者が意図してない場合もあるので。
その場で即興で設定考えて、答えますのでよろしくおねがいします!

では、どぞー!



幕間
平和が次の戦争の準備期間であるように、苦労人の休暇は次の苦労への布石


 

 

 

「はぁ~、部隊一つ動かすと、後処理こんなに面倒なんだ」

 

「金の処理、危険手当の申請、アサギ校長と政府への報告と後始末の要請、頭が痛くなってくるな」

 

「ぴーぴー言うな。オレはどういう訳だか、全く関係ない部隊の後処理までやらされてたんだぞ」

 

((…………いくら何でも酷いなぁ、それ))

 

 

 水城 不知火救出任務、そしてヨミハラからの撤退から一週間。

 小太郎、ゆきかぜ、凜子の三人は、空き部屋に設けられた独立遊撃部隊の仮本部で、諸々の後処理に勤しんでいた。

 本来であれば、こうした仕事など小太郎、災禍、天音の手にかかれば三日と掛からずに終わるものであるが、今回に関しては今後を考えてゆきかぜと凜子を任せる形をとったのである。

 

 まず語るべきは、隊員の被害と功績、その後からだろう。

 

 ゆきかぜ、雷槌の術の反動による軽度の火傷。フェリシアの撃退という功績から一気に注目の的となった。今後の課題として、更なる制御性向上が残る。

 

 凜子、無傷。空遁の術の応用範囲の拡張により、戦闘要員としてだけではなく後方支援要員として他の部隊の任務に駆り出され始める。なおまだ拡張の余地があるようだ。

 

 災禍、無傷。帰還後、即座にアサギ、山本長官への報告に奔走。現在は文句も言わずに様々な案件であちこちを駆けずり回っている。肉体的精神的な負担が増しているため、過労と鬱病の再発が心配される。

 

 天音、後方支援だったので当然無傷。帰還時に小太郎の容態と弾正の行動を知り、怒髪天を衝く。が、紅に襲い掛かるような真似はせずに事情を鑑みて超許した。何のかんの、この狂犬も身内には優しい模様。なお、弾正は既に身内ではないので弾正抹殺計画の急先鋒となっている。小太郎と災禍の精神的負担が増した。

 

 紅、魔の覚醒による反動で三日ほど寝込む。その後、部隊を危険に晒したという名目で現在、自宅にて謹慎中。クラクルは彼女の家で生活する運びとなったので、精神的な癒やしはある模様。なお、同居している心願寺 龍の心労は増した。あやめ? 忙しすぎて帰ってこれてねーよ!

 

 不知火、ナディアの踊りで強化されまくった為、帰還から二日後に筋肉痛になって歳を実感してショックを受ける。アサギという年下、ゆきかぜという娘から独断専行を説教されるという傍目から見ると酷く辛い絵面が展開された。現在は独立遊撃部隊に名前だけ所属して、アサギの副官としてデスマーチ中。

 

 別次元の紫、こちらは不死覚醒のお陰で筋肉痛にはならなかった。現在は、小太郎の自宅にて同居中。アサギと直接対面していないが、写真を見て歳を重ねても美しいとうっとりしていたり、暇過ぎて筋トレ三昧だったり平常運転。

 

 

「それで小太兄、身体の方はもう大丈夫なの?」

 

「あんな事になるとはなぁ……」

 

「正直もっと休んでたかったけど、桐生ちゃんのお墨付き出ちゃったし…………紅には絶対言うんじゃねーぞ」

 

「だよねぇ、私でも流石にへこむもん」

 

「紅だったら立ち直れなさそうだ。その前にも暴走しているしな」

 

 

 そして小太郎、最も重傷。どうして隊長なのに一番重傷を追っているのか。内容は屍食鬼(ゾンビ)化。もう一度言う、屍食鬼(ゾンビ)化。

 帰還後、倒れた紅を天音に任せ、不知火、ナディア、クラクルを連れ立ってアサギに報告へ向かうように災禍に命じ、紫を自身の自宅で匿うように凜子に頼み、それぞれが動き出すのを見届けてから堂々の昏倒。

 その後、ゆきかぜは意識を失った小太郎を連れて桐生のところで向かう途中、かゆい、うま状態へと移行。雷遁でビリビリされて、自称天才魔科医の治療を受ける運びとなった。

 

 

『ふははははははっ!! ざまぁないなぁ、ふうまのオス豚ぁ! 貴様はこのままオレの実験材料にしてやろう!! お似合いの末路だ!!』

 

『――――は?』

 

『うん、仲間を実験材料にするのは行けないね。任せるがいい、メス豚ぁ!』

 

『――――あ?』

 

『誠心誠意、治療させて頂こう! だからビリビリするのは止めろぉ! 機材が壊れるぅ!!』

 

 

 ゆきかぜに威圧されて桐生が涙目になる一幕があったらしい。あの高慢な桐生がこれだ。やはり愛を知った乙女は無敵らしい。

 

 小太郎の屍食鬼化は伏せられており、知っているのはアサギと紅を除いた独立遊撃部隊の面々のみ。表に出す必要のない情報で、なおかつ紅が自分を責めぬようにという配慮であった。

 屍食鬼化の治療は難しくなかったようだ。通常の吸血行為による屍食鬼化と代わりはなく、桐生曰く、ふうまのオス豚に吸血鬼になる程の才気がなかった、との事。

 吸血鬼による同族の増殖は不明な点が多い。そもそも吸血鬼自身も屍食鬼になるか同族になるかは分からず、賭けの部分が多いらしい。ブラックの直系と言えども変わらないのか、或いは目覚めたばかり故に自らの力を十全に扱えていなかったからなのか。

 いずれにせよ、桐生にとっては不死の王の貴重なサンプルを入手できない不運であり、小太郎にとっては早期に回復できる幸運であったのは間違い。

 

 そんなこんなで小太郎は本日から復帰。手始めに、ゆきかぜと凜子の様子を見に来たのであった。

 

 

「えーっと、今までの話をまとめると、紅先輩の件は必要な部分だけ報告して、こっちに都合の悪い部分は全部ダンマリってことで、ブラックと遭遇して命令違反だけしましたよ、でいいんだよね?」

 

「そうだな。不知火殿に関しては、過去の事件から淫魔王の存在に気付いたための独自調査を行った、という事で、取り敢えずは独断専行も不問となった。イブはドクター桐生が解析中か」

 

「矢崎暗殺はアサギ先生以外には知らぬ存ぜぬ。政界がひっくり返る大騒ぎで、暫く政府の人達は修羅場だろうね」

 

「ああ、どうやら矢崎の悪行に関する情報を民新党以外の何処かがメディアに流して国民感情を操った上に、今は政権交代とポストの奪い合いだ。全く、政治家という奴はよく飽きんものだ」

 

「そこら辺は折り込み済みだからなぁ。オレ寝たきりだったから知らないんだが、部隊の評判はどうだ?」

 

「上々、と言えるのではないか? 相変わらず、お前の評価は低いままだが、私達や部隊それ自体の評価は天井知らずで上がっているぞ」

 

「矢崎暗殺、お母さんの救出、ヨミハラへの大打撃、淫魔王の存在の確認、ブラックの遭遇と撤退…………改めて考えるととんでもない戦果だよね。これで評価が上がらない方がどうかしてるって。だから小太兄の評価が低いままなのが納得いかないんだけど……」

 

「そうは言ってもなぁ。目抜けのオレが主導でそれだけの戦果を上げるなんて、上も下も、忍法使える奴も使えねぇ奴も認めたくねぇんだろうさ」

 

 

 対魔忍は固有の忍法が使えるか使えないか、強力か無力か、によって将来がほぼ決まる。

 固有の忍法が強力であればあるほど上へと上り詰めやすく、忍法が使えなければ一生下忍のまま。

 

 小太郎を認める、という事はそれまでの昇格制度や評価内容がガラリと一変しかねない。

 上で胡坐をかく者は危機感を煽られるであろうし、今の地位を失いかねない。彼等にとっては目障りこの上ないだろう。

 逆に下で燻っている者にとっても希望にはなりえない。これまで忍法が使えないという理由で甘えていた現実も、忍法さえ使えたのならもっと上に行けたという都合の良い妄想すら否定されるからだ。

 

 何にせよ、対魔忍内部において小太郎の活躍はあってはならないものなのだ。

 其処へ更に各家の思惑やら小太郎を敵視する老人達の妨害も絡む。公に認められるのは当分先の話だろう。

 

 

「後は――――ナディア殿については?」

 

「ま、案の定、頭目会議で吊し上げを喰らったよ。一度限りの協力関係なら兎も角、同盟関係を結ぶなんざ新設部隊の隊長には越権行為……つーか本来は政府の仕事だし」

 

「ですよねー。でも、此処で私達が事後処理に勤しんでいるって事は何とかしたんでしょ? これくらい、小太兄だったら想定の範囲内だろうし」

 

「おーおー、信頼が厚くて嬉しいねぇ」

 

「絶対に碌でもない事をする、という信頼でもあるがな」

 

「それも間違っちゃいない――――だって、山本長官に間に入って貰ったし」

 

「「……うわぁ」」

 

 

 小太郎は頭目会議の一幕を思い出しているのか、鼻で笑いながら二人の書いた書類の束を捲って目を通していく。こうした確認作業も隊長の仕事である。

 そして、彼の言葉と行動にゆきかぜと凜子はドン引きしていた。容赦のなく恥も外聞もなくコネと権力を使ったからだろう。

 

 山本長官は政府と対魔忍を繋ぐパイプであり、事務方のトップであると同時に上役でもある。

 対魔忍内部でしか通用しない権力しか持たない各当主や老人達とは違い、政府内部でも強権を振るえる彼では文字通りに役者が違う。彼に加えて、頂点であるアサギまで賛同すれば、頭目衆が認めようが認めまいがどうにもならない。

 

 とは言え、状況が状況であったというのは認めた所であるが、山本長官にとっても頭が痛い問題ではあった。

 古来より魔界と繋がる門が発生しやすかった日本では、人界魔界の権力者が会合を持ち、人魔不干渉という不文律を守ってきた。しかし、この会合をノマドが襲撃した事により、以後、繋がりは途絶えてしまっていた。

 それを一組織の一部隊長が勝手に再開させたも同然なのだ。本来であれば、政府内部で喧々諤々の会議に次ぐ会議の果てに決定されるべき事案。小太郎がごめんなさいして首が飛んで許される筈もなく、対魔忍という組織がなくなりかねない。

 

 が、それが分かってない脳みそお花畑な男ではない。どころか山本長官も納得せざるを得ない内容を用意してあった。

 

 

『ナディアの領地ね。凄い豊かなんですわ。ホビットやノームやらで土地を豊かにする術を知っていて、食料も有り余ってる。ドワーフも鉱山なんか切り拓いて色々な鉱石もザックザック掘れるらしくてねー。そうだよね、ナディアさん?』

 

『え、ええ、そうよ。まだ具体的に数字では分からないけど、日本より広いし、資源も多い、と思う、わ』

 

『ふうま、君は……』

 

『これが日本にとってどれだけ有利で利益を生むのか分かっていますよね?』

 

『つまりは何か? 我々の持つ歴史、国を運営、発展させるノウハウの見返りだけで、膨大な資源を得られる、と?』

 

『勿論、魔界の門をある程度安定化させる方法を見つけてからの話ですがね。まあ、それもコネがある。アミダハラの魔術師連合に知り合いも居るし貸しがありますから。ルートも場所も借りられる』

 

『日本が自国で賄い切れない資源不足が解消する、か』

 

『それだけじゃありませんよー。魔界の鉱石が供給されれば、レアメタルの代用にもなるし日本の企業やら研究も飛躍的に発展するでしょう。他国の連中が手を切りたくとも切れなくなるほどに、ね。ついでに自衛軍の兵器や武装も他国を凌駕するものとなります。物量チートの米連を相手にするには足りませんが、抑止力にはなるでしょう』

 

『――――それを餌にして、私に政府を納得させろ、という事か』

 

『本命は日本が戦争で負けそうになったり、崩壊しそうになった時には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ですがね。そうだよね、ナディアさん?』

 

『………………(コクコク』

 

『其処まで考えていると笑ってしまうな。今の政治家共は我が身が可愛いクズばかり。こんな時代だ、国家崩壊の不安は常にある。一もニもなく頷くだろう』

 

『尤も、ルートがいつ開通するかは分かりませんがねぇ。結局は取らぬ狸の皮算用。ま、日本を回すのに必死な先生方に、其処まで説明する必要などないですが』

 

『仮に開通したとしても極秘裏かつ管理は我々が、だな。その歳で大した悪党ぶりだよ、君は』

 

『護国に身命を捧げた身でしょ? いまさら悪党と手を組むのが何だって言うんです? 必要とあらば、悪魔に魂だって売り渡すでしょ?』

 

『違いない。私としては悪魔も騙して手玉に取るつもりだがね』

 

(凄い、凄いわ! これが交渉と弁舌なのね!)

 

 

 キラキラと尊敬の眼差しを向けてくるナディアを横目に、小太郎と山本長官とのクッソ汚い裏取引が成立した。

 

 勝手な同盟関係を政府に黙認させるために用意した内容の殆どが空手形。単なる口約束の領域を出ない。

 それでも資源に乏しい日本にとっては、殆どロハで資源が供給されるのは魅力的であるのは事実。

 また、万が一に備えて退去先を得られるのは魅力的。それもナディアの領地を発展させた立役者という名目付きでだ。日本を捨てて逃げた先でもちやほやされると夢を見させてやる。

 

 無論、小太郎にしても山本長官にしてもそんな空手形を履行するつもりなどさらさらない。先に政治家共を納得させてしまい、後はのらりくらりと躱すか、すっとぼけるつもり満々である。

 まともな政治家ならば、こんな話を相手になどしないし、そもそもこれで日本が失うものは一つもない以上、魔界側の勢力の一つと友好関係が築けるだけで充分と考える。ナディアの目的が日本への侵略でさえなければ、今こうしている間にも人界へと流れてきている魔界の者を黙認するのと大差はないのだから。

 つまり、小太郎と同じ判断を下していた。問題なのは、それを行ったのが政府ではなく小太郎であったという点だけ。それを槍玉に上げて対魔忍を解体させようだとか、身に余る私益を貪ろうとする保身馬鹿、権力馬鹿、ただの馬鹿さえ黙らせれば問題はなくなるのである。

 

 実際にルートの開通は行う。そうしなければ、ナディアと手を組んだ旨味がない。

 だが、それはあくまでも極秘裏に、である。対魔忍という組織をより強固にするため、或いは他の護国の輩に力を貸すに留める。それを知るのは対魔忍と山本長官、そして信頼に足る政治家のみとするつもりであった。

 差し当たっては、ドワーフ謹製の武器や防具を中心に送らせ、装備課には新装備開発に有用な鉱石を供給する手筈である。

 

 

「この口先三寸で乗り切ろう感。完全に詐欺師だぁ……」

 

「そんな美味しい話、本気であると思うのか、政治家どもは……」

 

「飛びつくさ。矢崎が死んで政界はしっちゃかめっちゃかだからな。少しでも自分の利益と立場を確保して、いいポストに付きたいと躍起になってるからなぁ。これからあるであろう選挙の前に、耳障りの良い文句を吹いて回りたいだろうしなぁ」

 

「一人でも認めれば、あとは雪崩込むように、だな」

 

「一人頷きゃ三人頷く、三人頷きゃ十二人が頷く、さてお次は一体何人頷く? 日本人の気質を理解していれば、利益で目を曇らせるだけで思考なんざ簡単に操れる」

 

 

 私益を貪る事しか頭にない政治家にはそれで充分、と小太郎は嗤う。

 実際の所、それをやるのは山本長官であるが、可能なだけの能力と人脈を持っているのは知っていた。アサギ曰く“もう少し愛想が良ければ総理大臣になれた”と言われた男だ。何の心配もない。

 

 ナディアとの同盟は完全に予定外であったが、矢崎暗殺で政界は荒れに荒れるのは分かっていた。

 ヨミハラでてんやわんやの救出劇と逃亡劇を繰り広げている中で、現在の構想は頭にあったらしい。

 矢崎暗殺にせよ、ナディアとの同盟にせよ、越権行為の言い訳を考え、お目溢しを貰えるように立ち回っている辺り、彼にはこの言葉がよく似合う。”憎まれっ子世に憚る”。彼は決して大人物ではないが、抜け目の無さと小狡さに関しては間違いなく一流である。

 

 

「それで、ナディアさんは小太兄が面倒を見るために引き取るの?」

 

「いや、領地経営やら何やらは面倒見るけど、家には入れない。オレも表向きの立場はそんなに強くない状態だ。魔族ってだけで敵視してる連中が暴走して襲撃されかねないからな」

 

「では、何処に? 他の家に任せては功績も実績も丸ごと横取りされかねんぞ?」

 

「ああ、だから家ではなく個人に任せる。名目上、人はナディアを、ナディアは人をって事でな。それでいて各家に貸しを持っていて、何処の馬鹿でも襲撃や暗殺し辛い個人が望ましい。さて、誰でしょう?」

 

「となると、年齢層は高そうだな。若年ではそんな借りなど持っていないだろうからなぁ……」

 

「でも、そんな人居たぁ? 対魔忍のお爺ちゃんお婆ちゃんで、家のしがらみと関係ない人なんて……」

 

 

 余りにも個人として突き抜けた力を持つ故に、思考停止してしまうのは対魔忍全体の悪癖だ。

 そうした現実は小太郎にとって頭の痛い問題である。それさえなければ敵の仕掛けた罠だろうが、任務自体が罠、といった状況であろうが力尽くで切り抜けられるであろう辺り、質が悪い。

 

 だからこうして、独立遊撃部隊の人員には思考を回させる。

 答えを提示するのではなく、答えに至る要素を与えて自ら道筋を立てさせる。

 全ての事柄に共通する事実であるが、何事も試行回数が全てだ。どんな才能の持ち主も、才を磨かねば宝の持ち腐れ。あらゆる分野の天才と持て囃される人物も、人よりも多くの試行錯誤を繰り返している。

 得手不得手はどうしようもなく存在しているが、数さえ熟せばそれなりにはなる。そして、それなりにさえなってしまえば対魔忍の場合、後は力業でどうとでもなってしまう。

 

 長所をそのままに短所を減らす。勝てる要素を用意するのではなく、負ける理由を失くす。

 勝敗の基本は戦う前の準備が全てと言い切り、絶対に勝てる手順を用意し、手持ちの戦力でどうにかこうにか手順を外れる事なく遂行する彼らしいやり方だ。

 

 書類仕事の手を休めず、あーでもないこーでもないと議論するゆきかぜと凜子の姿に小太郎はほくそ笑んだ。

 いい傾向である。何が良いと言って、自分の仕事を投げ出していない辺りが素晴らしく良い。仕事と思考、二つの作業を並列して進めている。これならば、戦闘と思考であっても問題なく行えるからだ。

 

 

「うーむ……?」

 

「うーん、うーん……?」

 

「「…………あっ! 稲毛屋っ!」」

 

「ぴんぽーん、大正解。あの婆さんは各家に顔は効くが、明確な後ろ盾のない個人。人の目もある。おいそれと手は出せないわけだ」

 

 

 稲毛屋、とは五車町に存在する唯一の駄菓子屋であり、学生対魔忍の数少ない憩いの場だ。

 店主は通称・稲毛婆と呼ばれるしわくちゃの老婆である。今でこそ駄菓子屋などを営んでいるものの、かつては凄腕の房術使いであり、人魔問わない男達を虜にして破滅させた稀代の毒婦として恐れられた対魔忍だ。

 自らの素性を明かした上で一般人と結婚した後は後進の育成努め、各家の女対魔忍は彼女が磨き抜いた技術を大なり小なり身につける。言わば、房術の中興の祖とも言える存在だ。

 夫は早くに亡くなり、子宝にも恵まれなかったためにか、子供達を相手にする駄菓子屋を開いてすっぱりと引退を表明した。五車町が作られるおりに移住し、店の名を稲毛屋に改めて、現在も子供達と対魔忍の成長を見守っている。

 そうした理由で各家も彼女に対して大きな借りがあり、誰もが幼い時分には世話になっている存在だ。

 

 何が何でも魔族を排斥したい者達でも、これでは手が出し辛い。

 無理にやろうと思えば出来るが、各方面からどれほどの批難を受けるかを思えばやらない方が無難だろう。

 クラクルがもう紅に任せとけばいいや、とばかりに扱いが悪いのは、単純に重要度が低いからだ。

 所詮、領地も持たない強いだけ一個人。死んだ所で大局を左右するわけでもなく、襲撃されたとしてもクラクル、紅、龍のトリオが早々に敗れる筈もない。寧ろ、これ幸いとばかりに襲撃者をボコボコにして捕らえた挙げ句、襲撃を命じた者を吐かせて諸共に吊るし上げるつもりだ。単なる撒き餌扱いである。酷いにも程がある。

 

 

「さて、と。こっちはお前等に任せる。オレは行く所があるんでな」

 

「え? まだ聞きたいこともあるし……」

 

「災禍殿も天音殿もいないのでは書類が……」

 

「甘えんな。この程度、出来るようになって貰わにゃ困るんだよ。分からない所があったら何時でも電話しろ、すぐに教えてやるから」

 

「しょーがない。小太兄のために頑張りますかぁ!」

 

「病み上がりに無理をさせる訳にもいくまい、任されよう」

 

「悪いな、これでも頼りにしてんだよ」

 

 

 書類に目を通し終わった小太郎は、手早く承認印を押して椅子から立ち上がる。

 慣れない作業だろうに、小太郎のためであれば両者共に苦ではないようで、寧ろ更なるやる気を見せていた。

 彼女達の頼もしさを目に、珍しく笑みを溢す。かつての自分と重ねているのか、はたまた純粋に己のために身を粉にして働いてくれる彼女達への感謝であったのか。いずれにせよ、その胸中を知る者は彼のみであった事は間違いない。

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

「じゃーねー!」

 

「また来てちょうだいねー!」

 

 

 小太郎が向かったのは、言わずもがな稲毛屋である。

 ナディアが稲毛屋への下宿を開始するのは今日から。何かあれば、責任を取る立場である以上、視察をしておかねばならない。

 

 一軒家とそう変わらない大きさの稲毛屋は、正に昭和の駄菓子屋と言った趣だ。

 瓦屋屋根の建物に入り口が大きく開放されており、中は様々な駄菓子が並べられているのが見える。入り口の横にはベンチが一つ。反対側にはガシャポンがいくつか並び、かき氷とアイスの販売を示す暖簾が揺れていた。

 

 店の様子が見え始めると、笑顔を浮かべた子供達が駆けていき擦れ違う。

 それを横目で眺めた小太郎は、続いて去っていく子供達に手を振り続けている女性に目を向けた。

 

 

「あら、小太郎。どうしたの?」

 

「そっちの様子を見に来ただけさ。言い付け通り、着替えてるな」

 

 

 女性は言わずもがなナディアである。

 但し、踊り子の衣装ではない。あの格好は青少年の健全な育成には悪影響を及ぼしかねず、ナディア自身の身を守るためという考慮であった。

 今は桜色の着物に藍色の袴。首からかけるフリル付きのエプロン、長いピンクブロンドの髪を簪で纏め、ちょこんとカチューシャを乗せていた。大正時代の女給のようだ。

 

 魔界の衣類はどういう理由なのか定かではないが、何かと薄く面積も少ない。こうした格好はした事がないのだろう。

 多少の動き難さは感じているのだろうが、にこにこと笑っている。初めて着る服というのは何かと乙女心を刺激するのだろうし、何よりも店番という経験も慣れぬが故に楽しいようだ。

 元々、魔界の領主らしからぬ性格の持ち主だ。もしかしなくとも、こうした生活の方がよほど向いている。

 

 

「どう? 似合っているかしら?」

 

「良いんじゃないか? ただ、全体のラインが少し崩れてるな。胸がデカいと着物は着熟すのが難しいよ」

 

「うーん、これでも苦しいくらいに潰しているのだけれど……」

 

 

 くるりとその場で一回転して自分を見せ付ける。無邪気で善良な性格だろうに、何処か男を誘うような妖艶さを持つのは踊り子の性なのだろうか。少年達が予想だにしない性癖を拗らせないか危ぶまれる。

 

 だが、小太郎はそれら全てを無視して、率直な意見を述べた。

 着物は細身の方が似合う。グラマラスな体型であればあるほどシワは多くなり、胸の重さで帯もどんどん下がってしまい、だらしない印象を受けるものだ。

 無論、対策も存在しているが、稲毛婆が着付けたのならその程度の対策はやっているだろう。根本的に、ナディアと相性が悪い服装と言える。

 

 

「始めたばかりみたいだが、少しは慣れたか?」

 

「ええ。こういう事は初めてだから、とても楽しいわ! あ、そうだっ!」

 

「……あ、おい?」

 

 

 世間話の延長線の話から周囲の反応を探ろうとしたのだが、ナディアは思いついたとばかりに店の中へと駆けていく。

 小太郎には何が何やら分からずに困惑するばかりであったが、当初の目的は果たせているから構わないか、と店のベンチに腰掛けた。

 

 

「おや、坊やも来たのかい?」

 

「来たくて来た訳じゃないけどな」

 

「はぁ~~~、可愛げのない坊やだよ。昔から買いに来たこともないし、変わらないねぇ」

 

「さして美味くもなけりゃ、毒にも薬にもならない駄菓子になんぞ興味ねーよ」

 

 

 その時、ナディアと入れ替わるように店主である稲毛婆が現れる。

 会話からも分かる通り、二人は顔見知りだ。小太郎は立場がないながらも様々な事情や家の内情に通じている稲毛婆を情報源として使っており、稲毛婆は親のいない小太郎の身を案じているのであった。

 

 

「ナディアは……?」

 

「良い娘さ。一目で分かるよ」

 

「オレが聞きたいのはそういうのじゃないんだけどぉ?」

 

「言うまでもないだろうに。アンタの感じている通りだよ」

 

 

 期待していた答えとは見当違いの内容に、厭味ったらしくジト目を向ける小太郎であったが、向けられた老婆はわざわざ言葉にするまでもないと呆れながら視線を返す。

 

 確かに言うまでもなかった。

 今こうしている間にも、小太郎は勿論の事、稲毛婆も視線を感じている。

 魔族に対して過剰な敵意を向ける一派、或いは小太郎の弱味を握ろうとしている者が差し向けた監視者の視線だ。それ以外にもナディアの親しみやすい雰囲気と朗らかな笑みに一目惚れしたらしき男達の嫉妬の視線もある。

 

 

「ほらほら、見て小太郎! こんなにソフトクリームを上手に作れるのよ! 私、才能あるかもしれないわ!」

 

「いや、そういうの勝手に作るのやめよう???」

 

 

 想定内とはいえ面倒な事態に、小太郎が何事か口を開こうとした瞬間に、店の中へ入っていったナディアが戻ってくる。

 目を輝かせながら戻ってきた彼女の手には、稲毛屋のソフトクリームが握られていた。

 素材から拘り抜いた無添加ソフトは、濃厚な牛乳の味と自然な甘さで五車町の大人から子供まで、人を選ばない一番人気商品である。

 

 これまでの如何なる表情とも異なるドヤ顔を見せるナディアに、当然の如くツッコんだ。

 確かに、彼女の作ったソフトクリームは見事なものだ。綺麗な螺旋を描いていて不格好さがまるでない。才能があるかもしれない、というのもあながち間違いではないだろう。だが、誰がそれを処理するというのか。

 

 

「え? 食べないの?」

 

「すんげー押し売り。こんなん初めてだわ。いらねーし」

 

「そんな……おいしいのに…………あむぅ」

 

「喰ってんじゃねーよ」

 

「坊や、金払いな」

 

「アイエエ! オレ!? オレナンデッ?!」

 

「嬢ちゃんの全ての行動に責任を持つのがアンタだからさ。それにイイ女に貢ぐのは男の甲斐性ってもんだろう?」

 

「ざけんなっ! コイツの給料から天引きすりゃいいだろうが!」

 

「お生憎様。こっちは嬢ちゃんの食事や住まいやその他諸々を提供する見返りに働かせてるのさ。当然、無給だよ」

 

「クソババアがッ! これやらせようとしたのテメェだろ!!」

 

「いひへぇっへぇっへぇっ! さぁて、何の事やら」

 

 

 自分の作ったソフトクリームを悲しげな表情でペロペロしているナディアを尻目に、小太郎は悪態を吐きながらも金を払う。計画通り……! と言った表情で金を受け取る稲毛婆。

 お嬢ちゃんは才能があるから坊やが来た時には見せてやりな、とでも言っていたのだろう。何事も売上に繋げるとは、なかなかのやり手婆である。

 

 小太郎は金を腐るほど持っている。ふうま宗家の財産を元手に災禍と天音の名を借りて株やら投資やらで荒稼ぎしているからだ。

 だが、それはそれとして、生活それ自体は質素なものだ。己が自由にできる金を稼ぐのは、あくまでも自己防衛や対魔忍では入手できないものを買うためであって、贅沢三昧を送るためではない。

 金の管理も自分でやっているし、災禍と天音にも対魔忍としては給料とは別の、秘書・執事としての給料も与えている。自分の小遣いも月単位性、一般的な高校生がアルバイトで稼げる程度と決めていた。

 手痛い出費ではないものの、喜べるものでもない。何より自分が食べてもいないのに奢らねばならない現実は腹立たしいにも程がある。

 

 

「さてさて、稼いでくれたナディアの嬢ちゃんに次の仕事だ。店の品出しをして貰おうかねぇ」

 

「任せてちょうだい! 古い物は前に、新しい物を後ろにね!」

 

「いやはや、いい店員が出来たねぇ」

 

「ったくよぉ、アイツ、自分の目的忘れてんじゃねぇだろうなぁ」

 

 

 ソフトクリームをペロリと平らげたナディアは稲毛婆の指示に従って店内へと消えていく。消える前に見せたぐっと拳を握った気合のポーズが可愛らしい。これは初な青年達には人気が出るだろう。

 様々な意味で役得だ、とカラカラ笑う老婆を尻目に、小太郎は首を振って呆れ返った。

 

 現状、ナディアに何から教えるべきなのかを検討中。

 彼女の領地に関してもノータッチ。連絡手段はあるにはあるのだが、ナディアが魔力を使って作る魔術道具(マジックアイテム)であるため、必要な道具が揃って完成するまでには時間がかかる。領民達も連絡が取れるまでナディアの身を案じて胃を痛め続けねばならない。

 天真爛漫、天然なのは結構な事だが、為政者、支配者にはとんと向かない性格である事だけは確かであった。

 

 

「それで、坊やの方はどうなんだい? 派手にやらかしちゃいるようだが、大変みたいじゃないかい? 特に、弾正のクソガキも戻ってきてるみたいだしねぇ」

 

「耳が早いことで。色々と動いちゃいるが、当面は直接対決を避ける。尤も、他の連中はそれで納得しちゃいないが」

 

「坊やの独立遊撃部隊に削らせるだけ削らせて、美味しい所だけ持ってこうってかい? 馬鹿馬鹿しいねぇ。アサギの嬢ちゃんがトップに立つまで散々内ゲバやらかして、まだ権力欲に塗れてるとはねぇ。呆れてものを言えないとはこの事だよ」

 

「何にせよ、オレのやるこたぁ変わらない。部隊と隊員を育て、仕掛けが成るのを待つだけさ」

 

「となると――――骸佐の坊やを使う気かい? 弾正はどっちにとっても敵。どちらかがやらかした先代を討って、後継としての正当性と身綺麗さを証明できる。競争相手じゃあるが、協力相手にもなり得るからねぇ」

 

「…………ま、そんなとこさ」

 

 

 店先のベンチに座ったまま、小太郎は足を組んで空を眺める。稲毛婆もそれに続く。

 空は雲一つない綺麗な青空だった。だが、それに反して二人の表情は浮かない。目に見えている敵を、自身の権力を向上させる獲物程度にしか認識していない馬鹿が身内に居るのだ、分からなくもない。

 楽観主義、認識の甘さ、過剰な希望的観測。小太郎が感じている対魔忍の甘さは、そのまま稲毛婆が昔から抱えてきた悩みでもあった。それにも拘らず、此処まで来れてしまった対魔忍の強さが質の悪さを加速されている。

 

 空の彼方で鳶が鳴き、二人は同時に溜息を吐くのであった。

 

 

 

 

 




と言う訳で、若様案の定ゾンビになって無事復活&稲毛婆の設定も盛り盛り&ナディアさんエンジョイ勢と化す。それが彼女の見せた最後の笑顔だった……の回でした。


ナディア「不穏! 不穏な一言が!」

若様「黙って現実を受け入れろ。オメーの目的、エンジョイしてて達成できるレベルじゃねーんだよ、ヴァァアアカッ!!」


次回は骸佐くんのパートから。さて、彼も苦労人だからねぇ、キャラ崩壊させちゃおうねぇ。
そして、紅へのお仕置きもそろそろなんじゃ~!

では、次回もお楽しみに!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。