対魔忍RPG 苦労人爆裂記   作:HK416

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爆弾レイプ! 起爆剤と化した先達!

 

 

 

 

 

 境界線に脚を踏み入れると、五感に飛び込んでくる情報が切り替わる。

 寸毫の違和感すらない。まるで映画やドラマの場面転換が現実に起こるような唐突さ。それはそのままエウリュアレーの技量の高さを示している。

 

 地下鉄のトンネルから切り替わった先は、人の手によらない自然に生み出されたと思しき洞窟だった。

 相変わらず外からの光はないが、ヒカリゴケの一種が群生しているらしく、人間の視界でも移動に問題はなく、遥かに優れた五感を誇る対魔忍であれば遠くまで見通せた。

 

 じっとりとした肌に張り付くような湿度の高い空気。それに混じって甘い血の香りが鼻腔を擽り、戦いの音色が耳朶を打つ。

 

 小太郎は一度だけ目を配らせると、その意図を察したのか三人は無言で頷き、そのまま進み始める。

 一歩踏み出す度に怒号と咆哮、響く金属の音が強くなる。さながら誘蛾灯のように、独立遊撃部隊を誘っているようだ。

 

 

「ソォラァッ――!」

「――――――――」

 

 

 銀の二閃が奔る。

 屈強な大男が突き出した槍は、炎に巻かれた獣を口腔から肛門までを一切の滞りなく貫く。

 一見細身に見える男の繰り出した居合いは、石の如き肌を持つ魔獣を頭頂から股下までを問題なく両断する。

 

 鬼火とガーゴイル。

 前者は魔界の瘴気によってアンデット化した動物の魂と言われており、後者は石像に化ける人工生命体と言われている。

 知能も知性も低いが食欲は旺盛。一体一体の力は弱くとも、群れとなれば驚異と化す。魔術師共にしてみれば、使い魔として扱うのにこれほど適した存在は他にはおらず、エウリュアレーにとっても例外はないようだ。

 

 しかし、そんな思惑も何するものぞ。二人の男は呼吸を乱すことなく、魔女の仕掛けた削りを退けていた。

 

 

「おやおや、これは宗家のお坊ちゃん。久方ぶりだと言うのに、実に奇遇ですなぁ。こんな所で出会うなぞ」

「全くな。運がいいのか悪いのか、よく分からん」

「それは同感」

 

 

 部隊の接近に気付いていたのか、視線よりも先に再開の挨拶を寄越す屈強な男――――土橋 権左。

 狂気的な笑みを浮かべながら鬼火を刺し貫いた槍を片手で振り、まだ残っている死体を地面へと叩き付ける。元々、魔界の瘴気によって変化した鬼火は、その後死体も残さずに消え去った。

 

 立場上、骸佐にとっては邪魔者となる小太郎を前にしても、即座に襲い掛かってくる真似はしない。

 どれだけ本性が戦闘に喜びを見出す狂人であろうが、今の彼は骸佐の槍。振り返って見せた狂笑に反して、その瞳には冷徹かつ強靭な理性の光が宿っている。まるで小太郎達を値踏みしているかのようだ。

 

 対する小太郎は、心からの本音を口にする。

 二車の男性幹部の中では権左は、まだ話が分かる方だ。紛うことなき戦闘狂であるが、自らの役割と立場を誰よりも重んじている。本性を発露させるのは発露させてもいい瞬間だけで、それ以外の場合は意外なほど簡単に矛を収める。

 本音に返ってきたのは、同じく本音と苦笑。自らの運命か、それとも若き当主の歩む道に対してなのかは、本人にすら分かっていまい。

 

 

「ご無沙汰しております、小太郎様。こうして言葉を交わすのは何年振りか……」

「まだオレを様付けで呼ぶか。そっちは反逆者、オレの首は欲しくて堪らないんじゃないか?」

「否定は致しません……ですが、此方は未だただの反逆者。()()の宗家当主に対して、礼を欠く訳にはいきませんので」

「律儀なもんだな」

 

 

 後ろの三人には目もくれず、小太郎のみに恭しい一礼を向けた細身の男――――楽 尚之助。

 まるで敵意のない穏やかな笑みを浮かべたその表情は、久し振りに目にした弟の目を瞠るような成長を喜んでいるようにも見えた。

 

 尚之助は二車幹部の中でも、殊更に小太郎と深い関係にある。

 離れで母親と共に暮らしていた小太郎の下に骸佐を送り届ける役割を担っていた。そう年の離れていない年長であった彼は、四人の幼馴染にとっては兄のような存在でもあったのだ。

 それだけではない。弾正の引き起こした反乱時、逸早く小太郎の不在に気付いた二車の先代――二車 又佐は、幼い次期当主の思惑全てを看破した上で、尚之助を()()として差し向けた。恐らくは、その時点で又佐はふうまの敗北を悟っていたのであろう。

 五車に向う小太郎に追い付き、アサギと出会うまでの間、尚之助は見事に小太郎を守り抜いた。当主が戦死した上に最後まで抵抗を見せていた二車の家が残ったのは、彼の働きによるものが大きい。

 尤も、卓越した能力と揺るぎ無い忠誠心を井河・甲河の長老衆に警戒され、小太郎とは面会禁止。反乱以後は会話すらしていない。

 

 されど、成長の喜びに勝るものもある。

 “現在の”と口にしたのは、あくまで己は骸佐の下に付いた、と強調しているも同然。必要とあらば貴方であろうとも……、そんな強い意思を隠していない。

 

 小太郎は彼の複雑な胸中を慮って苦笑を漏らす。

 敢えて強調したのは自身に言い聞かせるため。本意と忠誠の間で揺れる苦悩は如何ばかりか。

 

 

「前置きはいいか。そっちも困ってるよな? 手を組まないか?」

「…………権左殿」

「ん? ああ、尚之助、お前に任せる。こういうのは得意じゃないからな。いちいち確認を取らなくてもいいんだぜ?」

「貴方は二車を取り仕切る執事なのですから、自覚を持って下さい」

「持っているとも。その上で、他の連中に任せた方がいいと判断してるんだよ。適材適所って奴だな」

「全く……」

 

 

 とても反逆された者と反逆した者とは思えぬ穏やかな会話の中、何の前置きもなく小太郎は共闘の意思を示してみせる。

 出会う前から彼等二人が待ち構えているのは分かっていたからだ。

 

 権左と尚之助は骸佐にとって最強の手札。

 経験では比丘尼に、策謀ではカヲルに劣るものの、純粋な戦闘能力では間違いなく最強。

 倒せるのならばそれでよし。倒せないまでも、この二人であれば確実に生還して情報を持ち帰る。能力が未知数のエウリュアレーに当てるのであれば、この二人以上の適任はいない。小太郎であっても同じ判断を下しただろう。

 

 小太郎は権左に目を向けて語っていたのだが、当の本人は何処吹く風。どうべきなのか判断する気は全く無いようだ。

 見かねた尚之助が促すように名を呼んだが、権左はそのまま丸投げしてくる。

 戦闘特化の異端の執事は自らの適正を十分に理解しているのであろうが、余りにも他人任せの態度には、付き合いの長い尚之助でも呆れを隠しきれていなかった。

 

 

「手を組む、とおっしゃいましたが――――」

「面倒な前置きはなしと言った筈だ。下らない腹の探り合いもな。こっちはエウリュアレーの目的を探ることと囚われていると思われる調査部隊の身柄の確保だ。目的の内容によるが、エウリュアレーはそっちにくれてやってもいい」

「成程、此方の目的と小太郎様の任務内容で衝突することはないですね。ですが、貴方が嘘をついていないとも限らない。易々と首を縦に振る訳にはいきませんよ?」

 

 

 露骨な不信と疑いの眼差しを向けてくる尚之助に、小太郎は辟易としながら首を振った。

 小太郎の性格についてもよくよく理解している。相手を騙し、誑かし、欺き、殺す手腕に長け、持ち得る戦闘能力以上に油断のならない人物である、と。

 

 ならば警戒は当然。

 穏やかな雰囲気を崩さずに威圧感が増し、同時に尚之助に全ての判断を任せた権左も同様。

 まるで巨大な巌を前にしたかのようだ。呼吸すら苦しくなる全身へ襲い掛かる重圧に、小太郎は兎も角として後ろの三人の警戒はピークに達しようとしていた。自斎は背の刀を、凜花ときららを拳を握り、臨戦態勢を通り越して今にも襲いかからんばかりだ。

 

 

「おい、勘弁してくれ尚之助。腹の探り合いは無駄だ。オレが対等の取引を持ちかけていることも分からんくらいに耄碌してるのか? それともオレが対等の取引で嘘を付くほど耄碌しているように見えるのか?」

 

 

 背後の爆弾がいつ爆ぜてもおかしくない状態を察した小太郎は、声のトーンを一段落として尚之助へと語り掛ける。

 一聴すれば怒りを露わにしているようにも思えるが、事実上の懇願に等しい。自身が信ずるに値しない存在ではあると理解しているが、それ以上に状況を鑑えてくれ、と言外に伝えようとしているのだ。

 

 暫くの間、口元に手を当てて小太郎を見定めていた尚之助であったが、チラリと背後の三人に視線を飛ばし、続いて権左を見る。

 

 

(どうやら部下の扱いに難儀されているようですね。権左殿、信じてもいいかと。此処で敵対するメリットも特にありませんし、小太郎様の知識と経験は我々に有益に働きますので)

(さっきも言ったが、お前の判断なら異義は挟まんぜ。つーか、天音や災禍と一緒に任せられるなら兎も角、よう分からん小娘と一緒にクソみたいな難易度の任務を任されるとか、オレ、可哀想になってきたわ)

(コイツ等、言葉にしてないけど何考えてるのか顔に出てるんだよなぁ……)

 

 

 若き当主にして、いずれ戦わねばならない敵の置かれた現実の背景は分からずとも、決して望んだ状況ではない事は察したのか、尚之助も権左も憐れみの視線を向けていた。

 敵に向けるには破格の人情に溢れた視線であったのだが、それで現実が変わるわけではなし、小太郎のビキビキと青筋を立てていた。

 

 

「いいでしょう。その提案、乗らせて頂きます。我々も、魔女の手管には辟易していた所。渡りに船ではありますので」

「……随分、都合良く乗ってくるのね」

「信じちゃいないってか? まあ、当然の警戒だな。何なら、オレ達が先導しようか。オレ達がおかしな素振りを見せれば後ろから刺せばいい」

「確か、“霜の鬼神”のご息女ですか。互いに置かれた状況を鑑みれば、共闘はそれこそ当然なのでは? 魔女の手管は力尽くでどうこう出来るものではありませんよ。これを打ち破るには力や単純な強さよりも寧ろ知識と経験でしょう」

「……こいつに、そんなの」

「ありますよ。でなければ共闘など持ち掛ける筈がありません。既に状況を打破する方法を考え、最適の方法を選んでいるまでのこと。そういう方ですよ、彼は。私は貴女の個人的な判断よりも、小太郎様を信ずるまでです。貴女により良い方法があるのであれば、お聞かせ願いたく」

「……っ」

 

 とんとん拍子で進んでいく共闘の関係に口を挟んだのは、やはり男に対する不信感で満ちたきららであった。

 権左と尚之助は露骨な疑いを向けられてなお、不快感すら見せずに当然と言わんばかりに受け入れる。

 

 権左はきららについて知っている情報は殆どない。精々、最近伸びてきた新人と言った程度の認識である。

 だが、持ち前の勘の良さで相手を挑発しない言葉を選択しつつ、相手にとって有利な条件を突き付ける。自らが先導するということは、背中を見せるということ。非常に危険な行為だ。況してや、それが敵にも味方にも成り得る相手であれば尚のこと。

 その全てを理解した上での提案は、自身と尚之助の実力に対する絶大な自信の現れであり、此処までやるのだから不意打ちも裏切りも勘弁ですぜ、ときららに語りかけながら、小太郎に牽制しているのだ。

 

 尚之助は反乱に際して対魔忍内部の目ぼしい実力者には調べていたらしい。

 きららの過去や男嫌いについては知っているようで、慎重に言葉を選んでいるが、それでいて反論の余地を潰している辺り抜け目がない。

 これには不信感を抱いているきららのみならず、自斎や凜花も口を閉じざるを得ない。

 実際、彼女達の思い付く方策は手早くエウリュアレーを叩き潰す程度のもので、その下に辿り着くだけの道筋も見えておらず、油断のならない相手であれども戦力として数えられるのなら小太郎の方針を否定すら出来ないのだ。

 

 こうして、恙無く小太郎の思惑通りに進み、三つの爆弾も爆発することなく最良の結果を手繰り寄せ――――

 

 

「では、――――――」

『――――()()()()()

 

 

 ――――全く別の所で、全く別の爆弾が起爆した。

 

 何処か状況を楽しんでいるような、或いは喜んでいるような、喜悦を孕んだ男の声が洞窟内部に響き渡る。

 反響しているが故に、声の主の居所は判然とせず、何者であるのか理解できていない自斎は刀を抜き放ち、凜花ときららは闘気を滾らせた。

 

 しかし、それ以上に困惑していたのは小太郎だ。彼は声の主が何者であるのか既に理解しており、何処かに潜んでいることも察してはいたが、これは予想外であった。

 

 

(お前等、アイツの手綱、なんで握ってないの???)

(いやぁ、ははは、年功序列という奴ですなぁ……!)

(申し開きもありませんが、これは流石に……!)

 

 

 信じられないものを見る表情と目で、古馴染みにして後ろの三人よりも頼りにしている二人を見やる小太郎。

 だが、返ってくるのは声の主の勝手な行動に青筋を立ててビキビキしながら引き攣った笑みを浮かべている権左と片手で顔を覆い隠した尚之助の憔悴しきった内心のみ。

 

 

『御館様のためを思えば、此処で宗家の若造を打ち取るが最善! 共闘なぞ片腹痛い……!』

「おい、()()! これは執事であるオレと幹部である尚之助の決定だぞ! いくら同じ幹部とは言え、勝手が過ぎる――!」

『黙れ権左! 戦うしか能のない貴様と若い尚之助の決定なぞ何の意味を持たぬわ……!』

「矢車殿、貴方という方は……!」

(い、いいいいいい、いや落ち着け! 落ち着けオレェ……!)

 

 

 例え、骸佐が最も信を置く権左と尚之助であろうとも、納得も出来なければ従うつもりもないと声は高らかに宣言する。

 焦ったのは他でもない小太郎、権左、尚之助の三人である。油断はならぬとは言え、手強い敵と感じているエウリュアレーへ共同して当たれる関係を取り付けたというのに、その矢先にこれだ。

 権左など少なくとも己と尚之助に敵意はないと示すために、隠れ潜んでいる声の主の名前まで告げている。どれだけ必死さか伺えよう。

 

 矢車という姓を持つ男は幹部において一人しかいない。

 矢車 弥右衛門。八百比丘尼には遠く及ばないものの、先代から仕えている古参である。

 本来、二車の幹部間に序列はなく対等である。だが、長く仕えている分だけ発言権も強くなり、新参は相手を立てて引かざるを得なくなる。

 

 権左と尚之助にとってはやり難いことこの上ない相手。権限としては執事である権左が上なのだが、年功序列を盾に独自の行動が目立つ。

 先代が存命の時代には忠実であったのだが、突然の代変わりによって若い骸佐が当主となるや、徐々に品性に欠いた性格が馬脚を現し始めた。

 骸佐の立場が苦しいことを知りながら、二車からの離反を匂わせて先代の頃から変わらぬ報酬を受け取り、骸佐の決定や意思にも口を挟む。その度に、比丘尼に諌められながらも反省の色を見せない。

 有り体に言って、骸佐を舐め腐っている。先代ならば兎も角、若造である骸佐ならば儂の考えを尊重して当然とすら考えていることだろう。

 骸佐も骸佐でこんな男はさっさと切ってしまえばいいものを、彼自身の情の厚さ、先代の時代から仕え続けてくれている事実に対する甘さによって、なあなあで済ませてしまっていた。その爆弾が、今でこの場で爆発したのである。

 

 

「ふぅんっ――!」

「――――上よ!」

 

 

 権左や尚之助の必死の努力全てを無に帰す一撃が放たれる。

 

 少女達の中で最も早く矢車の強襲を察知した凜花が他の仲間に対して警戒を促したが、一手遅かった。

 自斎ときららが迎撃の準備を整えるよりも早く、天井から落下してきた矢車が組んだ両手をハンマーさながらに振り下ろす。狙いは四人の中央。

 

 最早、回避しか取れる選択肢のない四人は、それぞれの後方へと飛び退さると同時に、爆撃にも似た一撃が炸裂した。

 舞い上がる粉塵と飛び散る砕けた地面の欠片が、一撃の強力無比さを物語っており、四人が四人とも別々の方向へと回避したために、分断される形となっていた。

 

 これが矢車の思惑だろう。

 戦いの火蓋が斬って落とされれば、相手も味方も対応せざるを得ない。

 例え、権左と尚之助の思惑から外れた行為であろうとも、邪魔者である小太郎の首を持ち帰れば許されるとでも考えているのか。

 既に最初にあったエウリュアレーの討伐ないし勧誘という骸佐の命令は忘れ去られており、頭にあるのは目障りな宗家のガキを殺して受け取れるであろう報奨のみ。取らぬ狸の皮算用極まれりであった。

 

 

「まずは、貴様からじゃ! 手足をもいで儂の愛妾にしてやろう――!」

「ぐっ、このゲス! 上等よっ! 男なんて、やっぱり――!!」

(あーーーーーーーーっ!! あ゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!)

 

 

 ふうま 小太郎。第一の爆弾、起爆――!

 

 土煙の中から現れた矢車は弾正反乱の頃から歳を重ねていたが、岩と表現できる巨躯と筋肉を変わらずに保っており、変化しているのは腐った性根を隠そうともしない下卑た笑みのみ。

 外見が好みであったのか、矢車真っ先にきららへと迫り、見た目通りの豪腕を振るう。小太郎を真っ先に狙わなかったのは、何時でも殺せるという自信があったからだろう。

 

 豪腕をバックステップと共に紙一重で躱しながら、きららの男嫌いメーターが完全に振り切れた。

 先程までは失敗の余韻によって殊勝な態度は保っていたが、男の欲望そのものを形にしたような視線と笑みを見ては彼女が黙っているわけもない。

 母親から引き継いだ、彼女の誇りそのものと言っても過言ではない冷気を操る能力を発動させ、真っ向から迎え打つ。

 

 その様を目にした小太郎は、心の中で絶叫する。

 ようやく見えて希望が、粉々に砕かれようとしているのだ。無理もない。

 

 

(い、いや! まだ、まだワンチャンある! 此処は矢車の暴走を糾弾して、権左と尚之助と一緒に制圧! やったぜ共闘関係狂い咲きぃ! それでいいな、おい!)

(他に選択肢はなさそうですなぁ!)

(御館様の本来の目的とも一致しますし、小太郎様の案に乗らせて頂きます!)

 

 

 事を構える気など更々ない野郎ども三人は、視線だけで会話をする。

 まだ希望が完全に潰えたわけではない。矢車が単身で暴走しただけにし、権左と尚之助と共に鎮圧に当たれば、彼等の顔も立つ。

 襲われたきららは信じられるかと怒鳴り散らすのは目に見えているが、矢車から庇うように二人が立ち回れば、矛を収めないまでも戦いにまで発展しまい。後は小太郎が上手く言いくるめればいいだけの話だ。

 

 ところで、パンドラの箱という神話をご存知だろうか。

 パンドラという女が開けるなと言われた箱を好奇心から開け放ち、箱に収められていたあらゆる災厄が解き放たれてしまい、箱の中に最後に残っていたのは希望だったという。

 この箱に希望が納められていた理由は諸説あるが、その中で現状に最も合うであろう解釈は、希望こそがより大きい絶望を引き寄せるための足掻きを誘発し、より大きい破滅を呼び込むから、ではないだろうか。

 

 

(きららちゃんなら、矢車にも簡単には負けない。なら、私は―――)

「小太郎、下がっていて! 権左と尚之助の相手は私と自斎ちゃんが……!」

「!??!!!?!?!!!」

(え? いや、なんで凜花が指示出してんの?? オレは隊長……隊長だったよね???)

 

 

 ふうま 小太郎。第二の爆弾、起動――!

 

 凜花にしてみれば当然の行動であった。

 彼女には過去の負い目から小太郎を守るという並々ならぬ決意があり、権左と尚之助の内心が分かっていない。

 今は傍観に徹している二人が、状況の変化によってこれ幸いとばかりに小太郎の首を狙うとも限らない。

 彼女の中で二車家の誰であれ、今すぐにでも小太郎には死んで貰いたいと思い込んでいる。仮想敵などではなく敵そのもの。その驚異を排除せずにはいられない。

 

 小太郎が止めるまもなく、地面を蹴って駆け出していた。

 

 

(乱戦になったら私の忍法は危険過ぎる……でも、一対一なら……!)

「ふうまは隠れていて! あの剣士は私が……!」

(えっ? えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!?!!?!)

 

 

 ふうま 小太郎、第三の爆弾、発破――!

 

 自斎もまた小太郎の命を聞く前に行動を開始していた。

 彼の命令が遅かったのではなく、始めから信頼関係を全く構築できていなかったが故の悲劇であり、強さという指針こそを絶対視する対魔忍の風潮に毒されたが故の結果だ。

 ただ流されるままに任務へと付いて、不満こそ漏らさなかったものの納得もしていなかった。それでは、さしたる強さを持たない小太郎の命を待つよりも、実力も実績もある凜花の指示に従うのは当然だ。

 

 また、自身の忍法に対するトラウマと恐怖もある。かつて大事な人を傷つけ、孤独にならざるを得なかった忌々しい望んでもいない力。

 乱戦に発展してから力が暴走しようものならば、目も当てられない。彼女自身が更なる傷を負う。自らだけではなく、他者をも守るために、乱戦への発展を阻止し、せめて敵との一対一での戦いを望むのは自然な流れである。

 

 

(どうして自分の部下の手綱を握ってないんですかねぇ!?)

(小太郎様、相変わらず苦労なさっているようで……!)

(いやぁぁぁぁぁっ! い゛や゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっ!!!)

 

 

 先程のお返しとばかりにビキビキ青筋を立てながら視線だけで皮肉を返してくる権左。

 刻一刻と悪化する状況に焦りながらも、小太郎の置かれた境遇に涙を禁じえない優しい尚之助。

 最早、心の中で汚い高音で絶叫するしかない小太郎。

 

 差しもの二人も、向かってくる以上は迎え撃たざるを得ず、安穏とした思惑は見る影もなく粉砕された。全面戦争の勃発である。

 しかし、味方以上に敵である二人と通じ合っているのは、形は違えども苦労を背負い込んだが故だろうか。

 

 

(ぜ、絶望してる場合じゃねぇ! 権左と尚之助なら凜花と獅子神でも殺さずに制圧できる! なら、先に鬼崎と矢車の方を何とかしねぇと! 矢車は何しでかすか分からん! そ、その後は、その後は……権左と尚之助いない状態でエウリュアレーなんとか済んの? このメンバーで? 無理ゲーが過ぎない???)

 

 

 

 

 

新型機のペットネームはどれがいいですか? 感想の中から作者が独断と偏見で選びました。地獄へお届け(デリバリーヘル、略してデリヘル)は色々な意味で面白すぎるので出禁で

  • 白兎(いつも忙しそうなので)
  • 夜梟(機体の静粛性能から)
  • 影狼&蜃気楼(苦労と九郎で)
  • 飛梅(完全和製)
  • 蜂鳥(ホバリングとそれなりの速度から)

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