対魔忍RPG 苦労人爆裂記   作:HK416

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信頼度UPイベ以外の時に信頼度上げ狙うのは、やっぱりレイドを狙いつつ本編回すのが効率良さそうだなぁ。早く回想を確認したいんじゃ!

それはそれとして不知火ママンイベントは回り終わってしまった。
イベガチャは最後まで回すべきと分かってはいたが、ママンのスキル上げと覚醒の欲望に負けました。

という訳で、今回のお話。独立遊撃部隊と言う名のアサギの無茶振り案件丸投げ事案すぐやる課の設立なんじゃぁ~!




独立遊撃部隊爆誕! その名も『苦労人をお助けし隊』!

 

 

 

 

「入れっ! 早くしろっ!」

 

「あー、はいはい。痛ってぇなぁっ! 蹴るなよっ!」

 

「黙ってろっ! 貴様の立場を忘れるなっ!」

 

「はんっ。捕虜の扱いの悪さは、そのまま法も規律も守れない質の悪さの現れだって分かってんのかねぇ?」

 

 

 五車学園の地下には様々な設備が存在する。

 小太郎と紅が利用していたあらゆる状況を想定した訓練施設。

 対魔忍個々の身体と能力に合わせた武器、武装、装束の研究開発を繰り返す装備課。

 頼まれてもいないのに意図不明、意味不明な実験を繰り返し、紫に一方的な愛の言葉を叫んでは壁の染みになるマッドサイエンティストの研究施設。

 

 そして、喧嘩、窃盗、組織の物品破壊、その他目に余る犯罪や命令違反を犯した学生、対魔忍に反省を促す懲罰房。

 とは言っても、此処に入れられるのはあくまでも政府機関に引き渡す必要がない対魔忍内での軽犯罪者だけ。民間人に対する殺人等の重犯罪を犯した場合は、如何なる身分であっても即刻身柄を引き渡される。

 身内に対して甘いアサギであっても組織の長として、内外に示しを付けるために厳しく線引きを行っている。

 

 自分の背中を蹴り飛ばして階上へと消えていく下忍に鉄扉越しに悪態を吐き、小太郎は懲罰房の中を振り返る。

 狭苦しく圧迫感のあるコンクリートの壁と床、電灯は一つだけで薄暗い。居るだけで気が滅入る造りだが、元より反省を促す懲罰房など何処もこんなものだろう。

 他との唯一の違いは、本来であれば一人で入れられる筈の懲罰房に先客がいたことだろう。

 

 

「酷ぇ格好だ。まるで囚人だぞ。いや、こんなに雑な割に厳重な封印処理のされた囚人なんてそういないが」

 

「――――――」

 

「そんなに睨むな、いま外してやるよ」

 

「…………ぷぁっ! も、もっと優しく外せっ!」

 

 

 先客の正体は他ならぬ紅だった。

 革の拘束具を着せられて椅子に座らされた状態で、なおも安心できぬと言わんばかりに無数の縄で全身を締め付けられ、更には魔を封ずる札が何十枚と貼り付けられている。

 如何に紅の血に強大な魔が宿っていたとしても、仲間に対する仕打ちでもなければ、対魔忍にも人にもするべきものではない。

 異様なまでの拘束は、翻って拘束した者の恐怖の現れでもあった。それほどまでに、この拘束を命じた者は紅を恐れている。

 

 二人がこうして懲罰房に入れられているのは、言わずもがな骸佐の反乱へ加担を疑われてだ。

 明確な証拠はないが、反乱者に対する戦闘行動も打ち合わせでもしておけば単なる演技に成り下がる。

 無論、組織として当然の行為だ。二度も三度も同じ事が起こっては堪ったものではない。身の潔白が証明できるまで、疑うべきもの全てを疑い続ける必要があるだろう。

 だが、これは行き過ぎている。仮にも二人は当主。関与が確定するまでは、監視も束縛も必要であるが丁重な対応が求められるはずだ。

 

 全ては小太郎と紅の存在を疎ましく思う老人達の意向だ。

 今すぐにでも二人に消えて欲しい者にとって今回の反乱はまたとない機会。何かと理由を付けて放逐、投獄、処刑を目論んでいる事だろう。

 

 その割には扱いが雑だったのは、老人達の気質だ。

 彼等はこれまで生まれる前に決められた道を歩んできた。一族、一門の当主となるべく生を受け、後継者争いに勝利し、自ら次の当主を選定した。

 長くても後十年前後で終わる人生を、望まれた通りに駆け抜けた。それは、それだけで素晴らしい。他者の期待に応えるのは並大抵の努力ではない。

 しかし、そんな人生が捻じ曲がったのは何時だったか。死に物狂いで当主の座に付いた時の情熱を、報酬とは努力の果てに成果として得られるもの、だという事をすっかりと忘れている。

 

 これまで常人には理解できない情熱で血反吐を吐くような努力をしてきたというのに、数多の成功が危機感を奪い去っていた。

 自らの行いに失敗などあり得ないという愚にもつかない思考回路。これでは耄碌の謗りは免れまい。

 

 もし、彼等に少しでも危機感が残っているのなら、小太郎と紅を別の場所に移して監禁した筈だ。

 二人が口裏を合わせる機会をわざわざ与える必要もなく、また二人になれば逃亡の可能性も成功率も跳ね上がる。そんな誰でも思い至る可能性に見向きもせず、己の目的にのみ終始し、失敗を考慮に入れていない。

 最低限放逐に近い形ではある故に、逃走されても構わないのかもしれないが。

 

 

「頭目会議は……?」

 

「案の定、老人共が噛み付いてきた。まあ、自滅してたがな」

 

 

 紅の問いかけに会議の様子を思い出したのか、最早失笑すら見せずに拘束の縄を解いていく。

 

 頭目会議は各一族の当主もしくは代行が出席し、対魔忍の方針、重要案件を決定する場だ。

 最終的な決定を下すのは政府から対魔忍全体の頭目を任されたアサギだが、各当主の意見を一切無視するという訳にも行かない。

 当主である以上は周囲に対する影響力を持つ。彼等の意見を取り入れた上で、或いは意見を却下した理由を明確にせねば、当主とその下に居る対魔忍が納得しない。

 また各一族の意見を出す事により、己の意見が多数派であるか少数派であるか見定める場でもある。こうする事で不満を可能な限り少なく留め、裏切りや離反の可能性を極限まで縮減する。

 

 会議の焦点は骸佐反乱の責任追及と関係者の関与であった。

 的外れも甚だしい小太郎への集中砲火に始まり、紅に対する恐怖という名の不信感、果てや十年もの時間を掛けて信頼を勝ち取った元ふうま一門である紫藤家への邪推。

 老人達にとって都合のいい処断を求めた、見ている者、聞いている者の気分が悪くなるような光景であったが、会議の時間は長引かなかった。

 

 彼等の言いたいことを言わせたいだけ言わせてやった各当主は、一転攻勢に出た。

 

 そもそもこの場は当主の意見交換の場であって、既に現役を退いている先代はあくまでも代行であり、情報を持ち帰るのみに留めるのが道理。

 会議に出席するのは構わないが、任務で家を離れているわけでもない当主が出席せずに、あなた方が出席するのは如何なものか。

 ふうま 小太郎、心願寺 紅、紫藤家に反乱関与の疑いを持っているのであれば、明確な証拠を提示しなければ誰も納得はしない、等々。

 

 理論もない証拠もない、大きい声と勇み足しか用意していなかった老人達は、何故誰も賛同しないのかと押し黙るばかり。

 当然である。アサギにしろ、小太郎にしろ、紫藤家当主紫藤 甚内にせよ、この展開は予測済み。会議の前に各当主に対して根回しは済ませていた。会議とは意思決定の場ではなく、既に決まった意思を表明する場なのだから。

 

 老人共の行動や行為は普段から目に余っていた。

 素直に隠居を決め込めばいいものを、当主を押し退けて己の意見を押し通そうとする。他家の内情であったとしても、決して歓迎される事態ではない。

 

 現役当主の年は比較的若く、米連、魔族との戦いが激化し始めた世代の生き残りに対し、老人達は第二次世界大戦後の焼け野原となった日本を立て直し、まだ対魔忍が一つの組織ではなく一つの一族が各々の意思の下に戦ってきた世代である。

 世代の差はそのまま米連、魔族に対する意識の差でもある。老人は一族の頂点として意思決定を行ってきたが故に、己の意見は通って当然と思い込んでいる。

 だが、現役当主は対魔忍という組織が出来上がった後に座を受け継いだ者が多く、あくまでアサギを頂点とした日本を守る組織の一員という意識が強い。また、魔族から齎された魔界技術の横行、魔界技術を手に入れようと躍起になる各国の暗躍に強い危機感を覚えている。

 

 この意識の差は激しく、いい加減に老人達には表舞台から消えて貰いたいというのが現役当主の共通意見だ。

 無論、己が家の先代も口五月蠅く抑え込むのに手一杯という者も居るには居る。忍らしくアサギを追い落とそうとする輩も居るには居る。しかし、日本が無くなれば自分達の存在意義も消失するのは理解しているし、何よりも日本が無くなる以前に自分達の家と命の方が早く消える。

 最低限、対魔忍内部での意思統一は行っておかなければならない時は眼の前に迫っている。足の引っ張り合いは、何時でも出来るのだ。

 

 

「処遇の決定権はアサギに委ねられた。今は沙汰待ち。反乱の実行に加担した事実がある奴以外に累は及ぶまいよ」

 

「そうか、良かった」

 

「……しかし、傷だらけだな、お前。治療してやれってんだ、全く」

 

「いい。放っておいても治る…………ごめん。あれだけ啖呵を切っておいて、権左には手も足も出なかった」

 

「まあ、いいんじゃない。勝てはしなかったが、負けもしなかった。生きてるだけで丸儲け丸儲け」

 

「…………私の負けだ。何も言い返せずに言われたい放題で、おまけに最後は怯えて動けなかった。あんなの負けだよ」

 

 

 拘束から開放されると、紅は壁際に移動して膝を抱えて蹲る。

 死んでいないし、権左を殺してもいない。決着は次に持ち越されている。しかし、紅の基準では敗北だった。

 小太郎の命令も果たせず、殺せてもいない。何よりも権左の言葉が胸に突き刺さっていた。

 

 

(私は小太郎の刃や臣であるよりも、小太郎に裏切られるかどうかの方が重要で、一人になるのが怖いんだ)

 

 

 本物の忠臣、本物の刃であるのなら、主に裏切られる事なぞ恐れない。

 少なくとも骸佐を主と仰ぎ、骸佐の槍と豪語する権左であれば、裏切られたとしても全ての責任は己にあり、疑問もなしに笑うに違いない。

 骸佐様、申し訳ございません。オレは貴方に裏切りなどさせてしまった。主に至らぬ槍は己の不甲斐なさを笑いながら、この場にて果てましょう、と。

 

 実際、権左がどのような行動に出るかなど彼にしか分からないし、彼自身もその時が訪れねば断言など出来まい。

 だが、紅はその高潔さと潔癖さ故に、権左を骸佐の忠臣と信じているからこそ、そう思わずにはいられず、自身を孤独を嫌で嫌で堪らない子供だからこそ小太郎だけに縋っているだけと結論付ける。

 

 

「何でもいい。兎に角、治療だ。消毒だけでもするぞ。お前の頑丈さと治癒能力は知ってるが、傷口が化膿すれば当然治りも遅くなるからな」

 

「いいって、言っている…………あだぁっ!?」

 

「いいから早く出せっつってんだろ、ぐだぐだ抜かすな」

 

「…………い、いたひっ」

 

 

 意固地になった姿は、拗ねた子供のようだ。

 伸ばした手を払い除けられ、苛立ちが頂点に達した小太郎は紅の額に頭突きを喰らわせた。

 

 紅の視界で一瞬白い火花が散り、衝撃が過ぎ去った後に残る痛みに涙目で額を両手で抑える。

 小太郎は、何時だって土足で彼女の心に踏み込んでいく。腕や強さには自信がある癖に、自分の事となると途端に卑屈で後向きになる彼女にはこれくらい強引な方がいいのは知っており、彼女も嫌いではなかった。

 

 権左と交戦すれば、紅が無事に済まぬのは分かっていたのか、隠し持っていた小箱――簡易医療キットを床の上へと広げる。

 紅の傷の状態を見て、縫合の必要はなく懸念は化膿だけと判断すると、ピンセットで綿糸を掴み、消毒液を浸透させて、傷へと優しく塗り拡げていく。

 

 

「うぅ……くぅぅ~~~~っ」

 

「なんだぁ? 痛そうな声しやがって、ガキかよ」

 

「う、五月蝿いな。戦闘中じゃなきゃ、誰だってこんなものだっ」

 

「ソウダネー、コンナモンダネー」

 

 

 命が失われる覚悟を決め、高揚から脳内麻薬が分泌されている戦闘中ならまだしも、平時では痛みの感じ方が変わってくるのは当然だ。

 紅は引き続き涙目のままされるがまま。痛がりすぎだ、と呆れ顔の小太郎であったが、痛みに耐えられる限度は人によって違うと分かっている故に口には出さない。

 治療を行っている本人も服の下は真新しい傷に塗れているが、これまでの過酷な人生故に痛苦が行動や思考の邪魔にならないように切り離されてしまっており、紅ですら全く気付いていなかった。

 

 

「一つの失敗に落ち込んで、一つの成功に酔い痴れて、己の悪さや良さを省みないのは只の愚か者だ。生きてさえいれば次がある。改善の機会があるって事だろ」

 

「……………………」

 

「権左に何を言われたかは知らんが、良い事じゃないか。お前が其処まで気にするって事は、真を突いてたってことだろ? 悪いところが分かったら、後は矯正するだけだ」

 

「簡単に言ってくれるな……」

 

「簡単だろ。何が悪いのか分からんまま右往左往するよりもマシだ。時間を無駄にせずに済むからな。完璧さよりもまずは進歩。オレ達は一歩ずつ前に進むしかない」

 

「……一歩ずつ、か」

 

 

 紅よりも遥かに多い失敗を繰り返し、少しずつ進歩してきた彼らしい言葉であり、そして良い機会でもあった。

 彼女がこうまで落ち込むのであれば、自らの身体に流れる血に端を発する何かがあったとしか考えられない。無論、紅が己が魔を引き出すを恐れるのは理解できる。何せ、現時点で対魔忍全体にとって最大の宿敵にして怨敵から分かたれたものなのだから。

 だが、何時までも恐れて向かい合わずにいれば、最後に待っているのは自滅でしかない。それは彼女のみならず、小太郎を含めた周囲を巻き込んでのものとなるだろう。

 彼女の身を預かる小太郎自身の身を守るために、紅には成長を促さねばならない。彼女が彼女のまま魔の力を御す人魔合一の境地。幻庵が夢想した理想は、超えねばならない最低限のラインなのである。でなければ紅は対魔忍として存在できず、対魔忍もまた紅の存在を許すまい。

 

 彼の言葉を紅はゆっくりと咀嚼していく。

 幻庵が認めた上で全てを託し、長い付き合いの中でも決して責任を放棄しなかった小太郎の言葉だからこそ、暗澹たる気持ちを超えて紅の心に届いた。

 

 再起は容易く、元より悩む必要など何処にもなかった。今回の敗北は己の未熟と受け止め、また歩き出せばいいだけの話。結果は自ずと付いてくる。

 

 其処まで考えて小太郎を見れば、何時もの無表情に戻っている。

 全て彼の思惑通りなのだろう。紅は我ながら自分の単純さに呆れてしまうが、無理に反発しようとも思わず怒る気にもならない。

 他者を掌の上で転がすには、相手を理解していなければ不可能な芸当だ。其処まで理解してくれていると思えば、悪い気もしなかった。

 

 

 ――――それから、どれだけの時間が経っただろう。

 

 

「やっほー。ふうま君、紅ちゃん、大人しく待ってたー?」

 

「さくら先生」

 

「遅ぇよ、何やってんだか」

 

「ごめんごめん、ちょーっち立て込んじゃってね」

 

「…………?」

 

 

 紅は床の上で正座のまま精神統一を、小太郎は気怠げに横になって時間を潰していると、鉄扉の監視穴からくりくりとした大きな瞳が中を覗き込んでいた。

 

 陽気な声と共に鉄扉の鍵を外して中に入ってきたのは、人の明るさをそのまま形にしたかのような笑みを浮かべた井河 さくらだ。

 アサギの実妹であり、自身も凄腕の対魔忍である。潜り抜けた死線は数知れず、アサギ同様に凄惨な陵辱も受けてなおも対魔忍を続けている辺り、陽気でお気楽な性格にも拘わらず精神力は人並み以上のようだ。

 彼女もまた対魔忍の任務と五車学園の教師として後進の育成と二足の草鞋で、国の明日に貢献していた。

 

 

「じゃあお姉ちゃんの所に行こうか。二人には正式な通達があるから」

 

「……通達、ですか」

 

「………………」

 

 

 にこにこと笑うさくらの姿に、紅はきょとんとした顔で聞き返したが、小太郎だけは猛烈に嫌な予感をひしひしと感じるのであった。

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

 さくらに先導されて向かったのは校長室。

 反乱から明けて一日。戦いの中心であった校長室の有様は酷いものだ。

 小太郎の使用した爆発物によって壁や天井、床には穴が空き、壁紙は爆炎によって生じた黒の斑模様で煤けている。

 調度品は交換できるものは交換されていたが、開きっぱなしの穴はブルーシートで覆われただけで、完全な形に戻るのは大分先だろう。

 

 

「二人共、悪かったわね。碌な治療も受けさせず、懲罰房入りなんて」

 

「いえ、そのようなことは……」

 

「……それよか、オレとしては何でこの二人が此処に居るのか聞きたいところだがな」

 

 

 紅は困惑しながらもアサギからの謝罪を素直に受け取ったが、小太郎は謝罪などどうでもいいとアサギを睨み付ける。そもそも二人を懲罰房になど入れたのは老人共のゴリ押しがあったからであり、アサギの謝罪自体が見当違いも甚だしく、己の不甲斐なさを和らげたいのなら他の方法にしてくれと言わんばかりだ。

 

 校長室には四人以外にも人が居た。他でもない制服姿のゆきかぜと凜子であり、小太郎の苛立ちの原因であった。

 この二人の姿もあって小太郎の嫌な予感は確信に変わり、今後の展開が読め始めているからこそ苛立っているのだ。

 

 対し、ゆきかぜと凜子の表情は穏やかでさえあったが、その瞳には何らかの光が煌めいている。

 

 

「小太兄、アサギ先生に全部聞いたよ」 

 

「見事な擬態だった。情けない話だが、我々でさえ欺き、気付けないとは。お前の偏執ぶりには呆れてものも言えん」

 

「…………ア~サ~ギ~ィィイイィィィイイイ」

 

「そんな蟲の鳴き声みたいなおかしな声を出さないでくれないかしら……これが一番なのよ。紅、貴方にも話しておくわ」

 

「ど、どういうことだ……?」

 

 

 ゆきかぜと凜子の瞳に宿っていたのは他ならぬ覚悟の光であった。 

 

 アサギが二人に、そして紅に語ったのは、小太郎のこれまでだ。

 己の身を守るために幼馴染にさえ事実を明かさず、老人共に己の有用性を証明する事で己の命とふうま一門を守る日々を。

 

 全てが嫌々ではあったが、何一つ手抜かりはなかった。

 誰もが嫌がる汚れ仕事であろうと情報の真贋を見抜き、己を嵌めようとする罠を掻い潜って誰一人文句の上げられない成果を叩き出す。

 九郎隊ですらが二の足を踏む無謀としか思えない任務を投げ渡されようと、持ち前の猜疑心と慎重さから、確実に遂行する。

 

 これまでアサギ達しか知らなかった事実を明かされ、紅は愕然と小太郎を見るが、視線に晒されても悪びれるどころか誇りもしない。彼にしてみれば当然だったのだろう。

 

 自身の正体や実力を隠したのは、ひょんなところで自身の情報を流したくはなかったからだ。

 もし仮に対魔忍が敵に捕まって情報を漏らしたとしても、誰も自身の正体を知らなければ、精々が役立たずと呼ばれる目抜け当主の存在が知られる程度。

 舐められるのは構わない。その分だけ相対した時に仕事が楽になるだけの事。寧ろ、忍法のない小太郎にとっては歓迎すべきだろう。

 また、対魔忍とて彼にとっては背中を預けられる味方ではない。老人共の意向に従った何者かが刺客として放たれる可能性もある。そうした刺客は正しい情報を得ているだろうが、これまで見てきた己の姿に間違いなく油断する。情報は情報でしかなく、体験と実感こそを優先するのが人間である。

 

 何にせよ、己は有能ですと喧伝するよりも、己は無能だと思われていた方が何かと都合がいいのは事実。

 元々、他者からの悪意も嘲りも気になる(たち)ではない。ならば存分に、正体を知られぬメリットを徹底して優先したまで。

 

 紅も、ゆきかぜも、凜子も、何かを言いたげであった。

 理由があったのは分かるが、何故一言も言ってくれなかったのか。しかし、その一言が言葉にならない。 

 言ったところでどうにかなったとは思えない上に、知った所で小太郎が体験してきた過酷な日常で力になれたかどうか。自分の不甲斐なさが酷く苦しく、腹立たしかった。

 

 

「でも、どうして今になって……」

 

「良い意味でも、悪い意味でも、今回の反乱があったから、よ」

 

「…………?」

 

「あー、あーあーあー! 聞きたくない聞きたくない!」

 

「まずは、頭領たる井河 アサギとして、ふうま 小太郎に命じる。二車 骸佐を捕縛し、必ず連れ戻せ」

 

「それは……」

 

「そーくるか、そうくるよなぁー!」

 

 

 反乱の首謀者に対しては余りにも軽い沙汰に、紅は目を丸くする。

 どう考えたところで甘過ぎる。下手をすれば今現在の対魔忍が瓦解しかねない出来事であった。

 確かに、反乱の影にフュルストが存在した事を考えれば、責任の所在は骸佐ではなくフュルストにある可能性も否定はできないが、骸佐が甘言に乗ったのは事実。どのような理由があれ、殺害するのが道理だろう。

 

 無論、紅としては嬉しくはあった。

 何せ、骸佐もまた幼馴染であり、化物の血が流れている理由で自身を嫌わなかった者の一人。だが、嬉しいからこそ困惑せずにはいられない。

 

 アサギとしては、未だに骸佐を学園の生徒と見ている節がある。

 この甘さが数々の危機と陵辱を彼女に招いたのだが、一向に改める気はないらしい。尤も、だからこそ多くの対魔忍に最強と恐れられながらも慕われてもいる理由である。

 

 そして、頭領としての判断もまた同様だ。

 骸佐と共に離反した人数は未だ全てを把握しきれてはいないが、二車家全体及び他のふうま一門の一部、更にはふうまに関係がないながらも現体制に不満を抱く者も含まれている。数にして凡そ二百前後だ。

 これだけの数が離反されても対魔忍の組織自体はまだギリギリのところで踏み止まれるが、厄介なのは骸佐を討ってしまった場合。二百もの上忍下忍を問わない対魔忍が、骸佐という頭目、道標を失っては暴走は目に見えている。

 ただ暴れ回るだけでも政府から危険視されている対魔忍の立場が一気に悪化しかねず、もっと悪ければ魔族や米連に加担しかねない。微妙なパワーバランスで成り立っている均衡が急速に崩れる恐れもある。

 骸佐を生きたまま捕縛できれば暴走する者は少なく、憎しみも被害も対魔忍にのみ向けられる。民間人に手を出されるよりかは遥かにマシである上に、巧くすれば投降する者もいるだろう。

 

 また、五車に残ったふうま一門も居る。

 紫藤家は元ふうま八将として仕えながらも、かつて弾正を裏切り、戦いの趨勢を決した功績を認められ、名家として権力も独立性も保たれているが、仕えていた家を解体された下忍、上忍は他家へ奉公している者も居る。

 今後、彼等への冷遇は加速していく事となるのは明白。このまま看過すれば、ふうま一門の更なる離脱を生みかねない。それだけは何とか避けたい。

 

 

「そのために独立遊撃部隊を率いて、ふうま一門を再興なさい。勿論、私達も協力は惜しまないわ」

 

「はーーーーーーーーっっ!!↑↑ ナルホドね! 嫌→でぇ↑す↓っ!!!」

 

 

 アサギの考えはこうだ。

 

 これ以上のふうま一門の冷遇と離脱を防ぐため、骸佐の“新生ふうま忍軍”に対抗し、小太郎を頂点とする正当なふうま一門を再興させる。

 宗家である小太郎であれば正当性は十二分であり、再興させてしまえば現時点で他家に仕えている者達も彼の指揮下と保護下へと入れられる。

 

 しかし、此処で問題となるのは老人達や当主達の存在だ。

 如何に必要性は理解しても、他者の成功を妬み、権力への執着が強い者も少なくはない。必ず何かにつけて小太郎の力を削ごうと躍起になる。

 そのために小太郎には独立遊撃部隊を率いさせる。誰の目から見ても明らかな、誰も口が挟めぬほどの功績を積ませる事で、彼の有用性を示す。

 今は日和見を決め込み、口を噤んで耐えている者も、彼を目抜けと侮っている者も、分かりやすい成果の前には従わざるを得ないだろう。

 

 

「嬉しいわ。一も二もなく頷いてくれるなんて」

 

「嫌だっつってんだろ!? 耳にクソが詰まり過ぎなんじゃないですかねぇっ!!」

 

 

 これから自身に降り注ぐであろう苦労を予想し、蒼い顔で喚く小太郎であるが、アサギは一切聞く耳を持たない。

 彼女も十年の付き合いで学んだのだ。人の話には耳を傾ける必要はあるが、時には一切話を聞かない事もまた必要だ、と。全ては小太郎が好き放題にやりたい放題やった結果から学んだ事である。つまり、彼の自業自得だ。ざまぁない。

 

 

「ふふ。あら、来たようね。どうぞ」

 

「人の話聞けよ!!」

 

 

 アサギは何だか優しい笑みを浮かべながらも、内心では自分一人だけ楽をしようなんて許さないわ、と腹黒い事を考えている。

 まあ、アサギはアサギで生き地獄の真っ只中に居る。政府と対魔忍の間に立ち、自分を追い落とそうとする連中を時に諌め、時に凄み、時に宥める。更には現場での任務に加えて、報告書類の作成や金の決算、政府高官との会議と言う名の吊し上げ。彼女の過労死も日に日に現実味を帯びてきている。

 

 そして何よりも、己の現状を鑑みて心配なのは世代の交代だ。

 身体能力のピークに達し、後は衰えていくだけ。最強の座にも後何年座っていられる事か。来るべき日までに自身の後継を育てておかねば、待っているのは対魔忍の崩壊でしかない。

 実力に関しては期待を持てる者が複数人居るが、問題は現状の対魔忍の組織構造と老人達のような保身と権力欲しか頭にない連中。それらを全てリセットしたい。

 

 苦々しく思いながらも力を借りざるを得ないそうした者達を皆殺しにするのは容易いが、それでは首がすげ替わるだけで変革は起きない。

 そもそも、そんなやり方では誰もついて来ないだろう。だから彼女は教育という道を選んだ。強く聡い仲間を育て、家や権力に執着せず、手と手を合わせて強大な敵へと立ち向かう。それこそが彼女の理想である。 

 

 

「失礼します。アサギ様、ふうま 災禍、ふうま 天音の両名を連れて参りました」

 

「若、ついに……ついにその気になられたのですね。この天音、全力でご助力致します。執事として。執事として」

 

「ああああああああっ!! 面倒臭ぇ奴がまた増えたぁっ!!!」

 

 

 アサギの声に校長室へと足を踏み入れたのは、アサギの右腕にして九郎の妹でもある八津 紫。

 元々井河家に仕える下忍の出であるが、さくらを差し置いてポストアサギ、次代の対魔忍隊長として将来を嘱望されている。

 

 そして、小太郎が悲鳴を上げたのは、執事服を身に纏い、鋼鉄の左手が印象に残る少女だ。

 年の頃は二十前半。薄蒼の瞳を輝かせながら長いポニーテールを揺らして小太郎に近づき、彼の右手を両手で包み込みながら感慨深げに呟く。

 彼女の名はふうま 天音。元は弾正に見出され、幼い頃から戦場に立たされながらも生き残った猛者である。

 

 

「天音、落ち着け。若様が困っておいでだ」

 

 

 詰め寄る天音を止めたのは、最後に部屋に入ってきた妙齢の女性。

 アサギと同年代であり、冷たい雰囲気を纏い、鋼鉄の両脚が更に冷徹さを加速させる彼女はふうま 災禍。

 彼女は元々弾正の秘書であったが、弾正のやり方にはついていけず、今では小太郎個人の秘書となっている。

 

 切欠は別々であるが、小太郎同様に弾正を裏切ったふうまの身内。

 両者ともにその能力から、小太郎との接触は月に数度とされてはいるものの、忠誠心は紅に勝るとも劣らない。

 またふうまの血を引いているだけあって、両名ともに強力な邪眼持ちであった。

 

 

「何を言う。身の程知らずな二車の若造を討ち、ふうま再興を果たす時が来た。その暁にはアサギを失脚させ、若こそが対魔忍の頂点へと――――」

 

「はあぁあああああっ!! コイツ、ほんとコイツこの(アマ)ぁ!! 災禍ぁ、このポンコツ黙らせてぇっ!!」

 

「御意」

 

「――――あっ♡ わ、若、いけません。こんな、このような場所で、皆見ておりまする。いえ、嫌などと恐れ多い。私は寧ろバッチコイな心持ちでああああああああああんんんっ♪」

 

「ほんと、ほんと何なのっ! 何なのコイツゥッ!」

 

 

 アサギの前で堂々と彼女を追い落とす策謀を語る天音に、小太郎は絶叫しながら災禍に助けを求める。

 災禍は溜息と共に頷くと、彼女の左目が輝き、邪眼を発動させた。その瞬間、天音は訳の分からない独り言を呟きながら、その場に崩れ落ちて嬌声を上げた。

 

 これぞ災禍の邪眼の能力だ。

 彼女の邪眼は目が合った相手の意識と視界を乗っ取り、相手は自分の意思で動いているかのように錯覚する。

 これを脱するには強靭な精神力と、災禍の見せる幻惑から違和感を感じ取り、現実ではないと看破するしかない。

 

 天音は床の上でくねくねと身体を捩り、頬を紅潮させて悦びを表現している。

 その様に何を見せられているのかと未通娘達は顔を赤くし、アサギ達三女傑は呆れ返り、災禍と小太郎は身内の恥に頭を抱える。

 

 

「そして、紅。貴女もゆきかぜ、凜子、災禍、天音同様に小太郎の独立遊撃部隊に配属とするわ。異論はあるかしら?」

 

「い、いえ、ありませんが……よろしいのですか?」

 

「いいのよ。ゆきかぜ達はこの話を聞いて頷いたし、元々貴女はふうま一門ですもの。それに対魔忍の中には貴女を快く思わない者も居る。小太郎と共に有用性を示すには良い機会でしょう」

 

「んあー! んああああぁあああぁあああぁあああああああああああああああああああああああああああああっっっっっ!!!!!」

 

 

 自分が止める間もなく積み重なっていく苦労のフラグに、いよいよ小太郎は発狂した。

 耳を劈く怪鳥音を口から迸らせると同時に消えた。正確には消えたようにしか見えなかった。

 

 全員が逃げたのか、と目を丸くして肩を震わせたが、唯一アサギだけが小太郎の動きを目で追っていた。

 アサギが視線を天井に向け、気を失ってピクピクとしている天音以外の視線が続く。其処に居たのは妖怪だった。

 蒼い顔で白目を剥いて涎を垂らしながら唸り、天井に四肢を突いている。その名も苦労妖怪・天井逆さ張り付き。避けようのない苦労の匂いを察知し、発狂した者が変化する妖怪である。

 正確には天井に張り付いているのではなく、指を天井にめり込ませてしがみついているだけなのだが、鬼気迫る表情にばかり目が行って、誰もが唖然として気付かない。

 

 

「いやだあああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!」

 

「嫌じゃないわよ。いい加減諦めなさい。ほら、降りてきて」

 

「いやだあああああああああ、やだぁああああああああああああああああああああっっっ!!!」

 

 

 天井にしがみついたまま、泣きながら駄々を捏ねる姿は紛うことなき妖怪であったが、アサギに動揺は見られない。見慣れているのだ。

 無言のままさくらと紫に目配せをして、二人を動かす。さくらは苦笑を、紫は頭痛でも覚えているのか溜息を吐き、アサギの命のまま動き出した。

 

 

「ほら、ふうまくん。まずは降りよう、ね?」

 

「ああ、あぁ、んうああああああぁっっ!!」

 

「悍ましい奇声を上げるなっ! 全く、アサギ様直々の命令だぞ、光栄に思えっ! やれ、さくらっ!」

 

「あーもうめちゃくちゃ。しょうがないなぁ」

 

 

 説得に耳を貸さない小太郎に、さくらと紫は実力行使に出た。

 さくらは自らの忍法・影遁の術を発動させ、自らの足元にあった影を伸ばす。

 

 影遁の術は文字通りに影を操る忍法。

 影の中へと自ら潜行して移動するも、得物を隠すも可能。二次元でしか存在していない影を三次元の世界へと引きずりだし、刃として実体化させたりと応用力が極めて高い。

 今は伸ばした影を縄のように小太郎の身体へと巻き付けたが、必死にしがみついている彼を引き剥がすには至らない。

 

 

「この、貴様と来たら毎度毎度、手間を掛けさせるなっ! はぁああああああっ!!」

 

「ぐへひゃあっ……!」

 

(小太兄、毎回こうやって抵抗してるんだ……)

 

(面倒事が嫌いなのは知っていたが、此処までとはなぁ……)

 

(小太郎ェ……)

 

(若様、流石にこれは擁護できません)

 

 

 影の縄を掴んだ紫は、自慢の怪力で小太郎を引きずり落としたが、小太郎の握力も大したもので天井の一部と一緒に床へと叩き付けられた。

 

 紫の忍法は不死覚醒。文字通りに不死身の肉体を得る常時発動型の忍法であるが、それに付随して身体能力も引き上げられる。

 彼女の力は対魔忍一。力自慢の魔族――トロールやオーガ、果ては鬼族でも単純な腕力勝負で勝るほど。力だけでトラックの走行を真正面から受け止め、乗用車を蹴り飛ばす。

 

 これには小太郎も諦めざるを得ないかに思われたが、抵抗はまだ続く。

 

 

「お前、おかしいだろうが! いや、まあふうま再興だの、独立遊撃部隊だのはまだいいよ! 何時かはやんなきゃだったし、間違ってはいないからね! お前の無茶振り案件丸投げ事案すぐやる課くさいけど千歩、いや万歩譲ってまだいいよ!!」

 

「あら、頼もしい。私も貴方の事を誇りに思うわ」

 

「寝ぼけてんのかよ! 分かった! 分かった分かった! 今から何がおかしいか、部隊のメンバー紹介で説明してやるから、よく聞けよ!」

 

 

 何がどうなれば、そうなるのか。

 小太郎の物言いに、全員の頭にハテナマークが浮かんだが、本人はお構いなしに続けていく。

 

 

「イカれたメンバーを紹介するぜ! まずは水城 ゆきかぜ! 対魔忍期待の新人だ! 忍法は雷遁の術! 空気抵抗の関係で普段の射程は10メートルくらい! 実質前衛だ!」

 

「……お、おう」

 

「次に秋山 凜子! こっちはゆきかぜの相棒で腕もピカ一! 忍法は空遁の術は応用力抜群、頼りになるぅ~! 得物を見て分かる通りにバリッバリの前衛だ!」

 

「……う、うむ」

 

「次は心願寺 紅! 凜子のライバルの一人であり、二刀の小太刀は敵を斬り裂くぜ! 風遁の術と剣術を組み合わせた旋風陣は敵をバラバラにして返り血でビッチャビチャの前衛だ!」

 

「……そ、そこまでじゃ」

 

「次はふうま 天音! ふうまの執事だけあって半端じゃねぇ! 邪眼・動転輪は相手の攻撃を無効化して、相手にそのまま返しちゃう! 敵の攻撃を受けなきゃならんから前衛だ!」

 

「うーん、若ぁ……♡」

 

「最後はふうま 災禍。こいつぁ、有能だ! 裏方は勿論の事、邪眼で敵を思うがままさ! でも、昔に過労死しかけた事もあるんだぜ! 得意なのはサイボーグレッグでの蹴り! つまり前衛! 以上だ!」

 

「若様、その事は内密にして下さい!」

 

「おかしいだろうがぁあああああ! 全員前衛ってどういうことだよ! もっとバランス考えてぇ!! オレしか後衛いないやんけ! その上、戦闘以上に重要な情報収集とか潜入できんの実質オレと災禍だけじゃねぇかあああああああああああ!!!」

 

「…………小太郎、考え方を変えるのよ。対魔忍全体が私を含めてそんなもの。情報収集も、潜入任務も出来るのは一部だけ。しかも、確実に成功させるのは九郎と貴方と九郎隊だけよ。逆に考えなさい。これが対魔忍のデフォと考えるのよ!」

 

「声震えてるじゃねぇかお前ェ! 途中で悲しくなってんじゃねぇよ! 非情な現実に諦めんなよぉ! どうして其処で諦めるんだよぉ!!」

 

 

 小太郎、魂の絶叫である。

 余りにもバランスを考えていない部隊に、泣きながら勘弁してくれと咽び泣く。

 

 しかし、アサギにしては頑張った方だ。

 元々面識もあり、小太郎を信頼している彼女達を部隊に入れた判断は間違っていない。如何に戦闘特化とは言え、野心も邪心もなく、ただ献身から小太郎の命令に従う彼女達は、十分に小太郎の力となるだろう。

 

 問題は、情報収集や部隊運用といった裏方の仕事である。

 情報収集は災禍、部隊運用は天音が行えるものの、スペシャリストには程遠い。二人もどちらかと言えば戦闘畑の忍であり、可能ではあるが得意ではない。

 つまり、そういった仕事はスペシャリストである小太郎に回されるということだ。また部隊指揮のために彼も前線に出なければならない。

 

 この戦闘特化の風潮は、対魔忍全体の気質である。

 一昔前までは忍らしい仕事ぶりもあったのだが、アサギ世代の登場によって対魔忍全体の風潮が一変した。これもまたアサギが強すぎた事に端を発する問題だ。

 

 アサギの余りの強さ故に恐れられ、その名前と存在だけで闇の者の横行に対して抑止力になった。

 またアサギが対魔忍の頭領として選ばれた事により、アサギ以上の強者を生み出す事に各一族が躍起になってしまったのである。

 故に、対魔忍はまずは強さ、その他の能力は二の次という、魔族から恐れられる象徴と示威行為を優先する気質が生み出されたのだ。

 

 潜入・諜報を得意とする忍は軽視される。故に、この道を志す者が少なくなる悪循環。

 アサギとしても予想外の現実に何度頭を抱えた事か。その日々を思い出し、彼女もまた涙目で声を震わせて必死に自分を奮い立たせていた。

 

 

「はぁぁー、分かった分かった。天音返品するから九郎隊の誰か寄越せ。そうすれば何とかなっから!」

 

「若ぁ……っ!?」

 

「ダメよ。誰も貴方と組みたくないそうよ。普段よりも仕事はスムーズに進むけど、どういうわけか普段の三倍は苦労するから拒否されたわ。それに彼等が抜けた穴を埋められる人材がいないわ」

 

「ああああああ、九郎、オレを助けてくれぇ――――!!」

 

 

 小太郎のいらない子宣言に、今の今まで夢心地であった天音は涙目で跳び上がったが、小太郎は案の定の無視。

 アサギの無慈悲な一言に、海外を飛び回っている九郎に思わず助けを求めたが、窓の外の蒼い空にはリポビタン○の空き瓶の山を背景に立つ九郎と彼の補佐をしているあやめが疲れ切った死にそうな笑みで浮かべ、無理☆ と首を振るばかりであった。

 

 

 

 

 




はい、というわけで、老人共を黙らせるために独立遊撃部隊設立&アサギ、対魔忍の現状は分かっているけどどうにかできる手腕がないので若様にぶん投げして若い世代に託す&
若様ご乱心のでした。

いやぁ、若様を乱心させるのが楽しくてしゃーない。
じゃけん、もっともっと苦労させちゃおうねぇ……!

次回は紅、ゆきかぜ、凜子の決意と覚悟から。では、次回もお楽しみにぃ!

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