はー、やっと投稿できた。遅くなって申し訳ありませぬ。
リアルの忙しさは峠を越えたが、パソコンがぶっ壊れるという不運に見舞われるっていうネ(白目
それはそれとして、はー! バニーきららパイセンktkr
しかし、恒常、性能もそんな必要でもない! が、欲しい! が、お金がない!
さて、どうしたものか。此処から先は地獄だぞ(真顔
命の息吹が感じ取れない荒涼とした原野。
その中で、戦いに勝利しながらも満身創痍の面々は一所に集まっていた。
「何とか、なるものね……」
「こ、これくらいどうってこと……あるわね、やっぱり」
最後まで最前衛で戦い抜いた自斎ときららは泥と埃で汚れることも厭わず、その場にへたり込んでいた。
声にも溌溂さが欠けており、見た目も酷いものだ。
頭部からは出血が、全身には比較的軽いものの擦過傷と裂傷のみならず痛々しい青痣が無数に浮き上がっている。
あれだけの規模の竜巻に巻き込まれたのだ。これでも奇跡的な軽傷と言える。五体満足でいられるだけでも幸運であり、同時に二人の肉体が如何に強靭かを物語っている。
「すぅ……ふぅ……小太郎は、もう大丈夫?」
「大丈夫じゃないが、死にもしない。五車に戻るまで何とか持つだろうよ……全員、よくやったな。予想以上の戦果だ」
その横では、凜花は地面に体を投げ出し、小太郎が胡坐をかいて座り込んでいる。
凜花は敵からのダメージという点では最も軽かったものの、忍法の酷使による損壊は最も重い。
何せ、右の手足がそれぞれ肘と膝の先からなくなっているのだ。今は手術でも行われたかのように、切断面は丸くなって塞がっている。これでは日常生活もまともに送れまい。
ただ、凜花に恐怖はない。煙遁の使い手を多く輩出した紫藤家では、自身の限界を超えた忍法の酷使はこうした事態と対処法も相伝されている。大半は全身を煙と化して元の肉体に戻れなくなり死亡している事を考えれば御の字ですらあった。
四肢の欠損への対処は、全身を僅かに煙化して失った部分へと継ぎ足していくこと。
ただ、言葉にするほど簡単ではなく、出来ないものは一生かかってもできない才気と繊細さを要求される。
継ぎ足しに使った部分は当然のように目減りするし、下手な部位を使っては生命維持に支障を来す。そのギリギリのラインを見極めながら、食事で体重と体積を増やして再び継ぎ足すの繰り返し。
まるで粘土細工の人形に行うような所業を自身の身体で行うのだ。中には、その異質さに耐えきれず発狂する者もいる。
だが、何の不安もない。今、凜花の中にあるのは愛する者と生き延びた喜びと愛する者に認められた歓びだけを噛み締めている。
対魔忍の使命と誇りよりも、女としての情念を優先してしまう浅ましさを恥じ入りながらも、そうせずにはいられない様子だった。
疲労と未だ軋む魂から湧き上がる痛みに項垂れながらも、小太郎が送ったのは臨時隊員達への称賛だ。
結末は見えていたが、勝ち筋に乗れたのは他ならぬ彼女達の奮戦努力によるもの。正規隊員であればもう少し楽ができたのは否定できない事実であるが、初期の目も当てられない状態からこの戦果であれば十分すぎた。
「いくら何でも気を抜きすぎだぜ、お嬢ちゃんがた」
「――――はあ? 何言ってんのよ。それとも何? こんな襤褸雑巾相手にやるつもり?」
「お前等の中でオレがどういう評価になってんのか知らねぇが、その気はねぇよ。オレが言ってんのはそっちじゃねぇ。脳みそお花畑過ぎて呆れるぜ、なあ宗家のお坊ちゃん?」
呆れかえった表情で頭を掻く権左に、うんざりした表情できららは嫌味を返す。他の二人にも似たような反応だ。
既に彼女達の中で権左は生粋の戦闘狂になっている。弱り切った相手を嬲り殺しするよりも、此処で見逃しての再戦を選んだ方が彼の嗜好と一致するはず。
そもそも、エウリュアレーと戦いに来たのは主である骸佐の意向ではあるまい。意向であったのならば、矢車を倒した際に面子も何もかなぐり捨てて尚之助と共に共闘を選択していた、と彼女達は考えていた。
凡そ彼女達の権左の人柄や行動に対する判断と推察は正しい。
ただ、決定的に違っていたのは、戦闘経験の差と変わらずに存在し続ける結界への考察だ。
これほど高度な結界を特定の人物を試すために張ったのであるならば、維持はどの程度まで必要になるのか。
単純に考えて、試し終わるまでが普通だ。それ以上は無駄であり、結果がどのようなものになるかはさておき、試すだけならばそれで十分。
招いた人物を殺すつもりならば、一生閉じ込めておくために己の死後も維持し続ける、という考えも分からなくなかったが、もっと狡猾で効率の良いやり方は腐るほどあり、余りにも非効率的で自信の欠片も感じられない手法だ。
ならば、こうして結界が維持され続けているのは何故なのか。
答えなど一つだろう。
明確な理屈などなく、単にこれまでの経験と直感から導き出した結論と十分に鍛錬を積んでいるであろうに強敵を討った緩みからすっかり“残心”を忘れ果ててしまった経験不足の後進に、権左は助けを求めるように小太郎へと視線を向けた。
だが、視線を向けられた本人は肩を竦めるばかりで何も言わない。まるで、何の心配もないと言わんばかりだ。
「否定はしないがな。越えなきゃならんラインは越えた。どうとでもなるさ」
「……どういう――――ッ!?」
両者の反応を見て、流石に不審を抱いた自斎が口を開くが、全てを言い終わる前に変化が訪れる。
何の前触れも予兆もなく、突如として目の前の光景が切り替わる。
今し方まで死闘を演じていた筈の原野から、アンティーク調の調度品で揃えられた客間へ。
文字通りの急激な場面転換に、三人は付いていけずに唖然とするばかりで立ち上がる気力すらない。
ある程度予見していた権左は即座に槍を中段に構え、小太郎だけはゆったりと立ち上がる。
その視線の先には、客間の中央に置かれた丸テーブルを前に椅子へと腰掛けた女が一人。
黒い頭巾に目隠しをした女は、微笑みながら自ら招いた者へと拍手を送っていた。
「お見事。とても、とてもとても、素晴らしかった。心よりの称賛を送らせて頂くわ」
「ちょ、ちょっと冗談でしょ……!?」
「嘘、確かに手応えはあったのに……!」
その姿に、きららと自斎は弾かれたかのようにその場に立ち上がった。
だが、誰の目から見ても無理をしているのは明らかだった。立つ事さえやっとなのだろう、見ていて哀れになるほど膝が笑っている。
同時に顔は悲痛一色で歪んでいた。無理もない。つい先ほど打倒したとばかり思っていた強敵が無傷のまま再び目の前に現れるなど悪夢以外の何ものでもないのだから。
歴然とした実力差と戦闘行動に移れないほど傷ついた身体という現実は如何ともしがたい。それでも闘志は衰えず、心が折れていないのは、流石に対魔忍を名乗るだけはある。
それは既に戦えないはずの凜花ですら変わらない。残る左腕で無理矢理に上体を起こし、既に拳を握っているではないか。
だが、最も慌てていたのは女――エウリュアレーであった。
もう戦意はない事を示すように、両手を前に突き出して手首を振って見せた。
「ちょっとちょっと、こっちにはもう戦う気はないわよ?」
「今まで好き放題やっておいて、そんな言葉を信じられると思うのかしら?」
「はぁ、どうしてこう対魔忍って血気盛んなのかしらね。そちらの坊や達も何か言ってやってちょうだいよ」
「寝言は寝て言えや、年増」
「あら酷い。事実とは言え、女としてちょっとショックね。言葉は選んで欲しいものだわ、槍使いの益荒男さん」
戦意、敵意、殺意、害意。
未だ叩き付けられる敵対の意志を前にしても、エウリュアレーは涼やかな態度を崩さず、応対の気配すらない。
正に暖簾に腕押し、糠に釘といった風情で、経験の薄い三人は毒気が抜けてしまうほどだった。
唯一、権左だけが殺意を漲らせていた。
この辺りは経験の差。そして態度がどうあれ、目の当たりにした実力が、そのまま生殺与奪の権を握っているのは間違いなく相手であると理解しているが故。
権左も戦いを求めてこの場を訪れたわけではない。あくまでも、優先したのは骸佐の利益であり、尚之助の頼みであったから。
この場でむざむざ殺されるつもりもなければ、小太郎を殺させるつもりもない。立場上、最も気が抜けないからこそ、槍の穂先に
その態度に、エウリュアレーは続いて小太郎を見る。まるで助けを求めているかのようだ。
「こっちは何でも構わないけどな」
「ならいいわ。対話の可能な人だけ相手をしましょ」
「――――は?」
やれやれと言わんばかりに伝説の魔女は首を振り、続いてごめんなさいね、と権左に視線を向けた。
困惑したのは権左だ。何か敵意があるのなら条件反射で攻撃に移っていただろうが、単なる謝罪を向けられては困惑もしよう。彼にしてみれば、何に対して謝っているのかまるで分らない。
余りの訳の分からなさに小太郎を見れば、胸の前で十字を切って祈っている。
嫌な予感は一瞬で頂点にまで達した。常に先を読んで動く男が、他ならぬ己に対して何やら祈っている。これほど悪寒を覚えるものは他にあるまい。
何事かを口にしようとした権左であったが、時既に遅し。全てが手遅れだった。
パチン、とエウリュアレーが指を鳴らした瞬間、権左の視界は冗談でなしに反転した。
「これはいくら何でも酷くないですかねええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ――――――!!!!」
彼が自身の身に何が起きたのかを理解すると、三人娘が全てを理解するよりも早く悲痛な叫びを上げていた。
あろうことか、権左の身体はその場で反転し、天井に向かって落下していく。
間髪入れず天井に真っ黒な穴が開いた。物理的なそれとは異なる、空間そのものに穿たれた虚。
咄嗟に穴の淵に槍を引っ掛けようとした権左だったが、槍の長さよりも直径が広がってしまい抵抗虚しく叫び声と共に飲み込まれていった。
その様を少女達はポカンと眺め、小太郎は物珍しそうに覗き込むばかり。驚いて硬直している前者は兎も角、精神的に余裕がありながら一切手助けをしてやらない後者は何なのか。
「さて、彼への埋め合わせはまたの機会という事にして、私達はお茶会にでもしましょうか――――と、その前に、煙の子の治療が先ね」
(ちょ、ちょっとふうま! どうすんのよ! あの男もいなくなっちゃったし、このままじゃ!)
(いいんだよ、これで。さっきも言ったろ。越えるべきラインは越えたって。どうしても戦いたきゃ、一人でやってくれ。オレは権左と同じ末路辿るのヤダよ)
(ちょ…………っと待って。その口振り、それって、貴方もしかして、初めからアレが偽物だって気付いてたの?!)
(そうだが?)
(小太郎、どういうことなの?!)
ただでさえ戦力に開きがあると言うのに権左までいなくなってしまい三人は慌てふためていていたが、小太郎だけは驚きが皆無であった。
それもその筈、彼はあの丘で相対した瞬間から、これが試練という名の茶番に過ぎないのは分かっていた。
相対した存在が当人自身も説明できない感覚から単なる虚像に過ぎない事は、その瞬間に悟っていた。
その上で茶番に付き合ったのは、とある書物の情景を垣間見たから。
持ち前の猜疑心から、いずれ必要になるかもしれないという理由だけで
休日においても、自らの才気の無さを知っているが故に、自らの女と過ごす以外はただひたすらに死んだとしても許しを与えぬ鍛錬に時間を費やしているものの、本音を言えば本の虫になっている方が性に合っている。
故に、その知識量は専門家には及ばない深さのものの、専門用語が飛び交う会話に人界魔界の分野を問わずに飛び込んでいける広さを誇る。
その知識には、エウリュアレー自身が著したとされる『死の丘の魔女』についても含まれる。
恐らくは虚実入り乱れ物語風に書き上げた自伝なのだろうが、戦いの前に彼女が発した科白は、作中での彼女の科白と一字一句違わぬところがあった。
そも魔女とは理不尽なもの。一方的に試練を課し、笑いながらそれを眺めるなど日常茶飯事だろう。故に、まずは課せられた試練を越えねば何も始まらないという判断だった。
そして、目の前のエウリュアレーが虚像に過ぎないと三人に伝えなかったのは、僅かな気の緩みさえも与えたくはなかったからだ。
偽物であると分かれば、無意識的にであれ、ほんの僅かに気は緩む。どのような人物であれ、真贋を見極める目を持たぬにも関わらず、本物には偽物が劣っているという固定観念があるからだ。
そんな状態で戦いを挑もうものならば、一瞬で戦線は崩壊していた。自他共に緩みの許されぬ命の取り合いという前提を崩す訳にはいかなかったのである。
「えーっと、アレは何処だったかしら……あ、ちょ、あらららららららぁ」
(てゆうか、これがあの人の素なのね……)
(毒気を抜かれるって言うか、なんて言うか……私、苦手かも)
エウリュアレーは小太郎達の密談を聞こえているであろうに、敢えて聞こえぬ振りをしているのか、何やら探し物に専念していた。
しかし、当の本人も探し物を何処に閉まったのか覚えていないらしく、戸棚を開けては中の物を床へとぶちまけ、その度に足で部屋の隅へと蹴り飛ばしている。
その姿は魔女というよりも近所のズボラなお姉さんといった風情で、殺し合いをしていた身としては、きららの言葉通り、何と言っていいのか分からなくなるだろう。
なお、魔術師にしてみれば彼女の行為は余りにも酷い。
彼女が雑に扱っている薬瓶やら魔術本やら魔術触媒と思しき数々の物品は、並みの魔術師であれば生涯をかけても作り出せないものであったり、天才と呼ばれる者でも手に入れられない逸品である事か。
目の前の現実を看過できる魔術師は、それこそノイ・イーズレーンくらいのものだろう。
「あー、あったあった。そーれっ☆」
ようやく目的のものを発見らしいエウリュアレーであったが、見つけるや否や無造作に暖炉へと投げ入れてしまう。
真っ赤な炎の中へと入った薄汚れた布に包まれた掌サイズの物体は虹色になって燃え上がると同時に、軽い破裂音と共に大量の煙が生み出される。
「きゃっ、な、何っ……?」
「さ、削れた手足から煙を伸ばして、ごほっ、この煙に繋げなさい。ゴホごほっ、恐らく、簡単に再構築できるわ。ごほぉっ、オぇっヘェっ!!」
「………………」
明らかに何らかの薬品とは異なる反応に、自斎は小さく悲鳴を上げた。
魔術に対する予備知識もなければ、先程から魔女に圧倒され続けている。無理もない。良くも悪くも素の彼女が顔を出している。
何かは燃えれば燃えるほどに大量の煙を生み出していくが、空気の流れの影響なのか、エウリュアレーに向かって流れており本人は咳き込んでいた。
見様によっては大変面白い上に貴重な光景なのだろうが、手助けされようとしている凜花にしてみれば困惑の極み。
今し方まで命の殺り取りという極限状態だったというのに、今度はこんな面白映像を目の前で見せられば、彼女でなくともどうしていいのか分からない。
まともな思考の出来なくなった凜花は助けを求めるように小太郎に視線を向けるが、軽く肩を竦め、口にした言葉も気軽なものだった。
「どーぞお好きに。オレから見て奴に害意も悪意もない。最悪、おかしなことになったら斬り落としちまえばいいだろ。幸い、
「自分の事じゃないからって簡単に言うわよね……もうちょっと、凜花ちゃんや自斎ちゃんの気持ちを考えたら?」
「は? 戦いに身を投じてるんだから、手足斬り落とされる覚悟くらい済ましてるに決まってんだろ。オレからすればそれ済ませないで戦線に出てきてるお前等の方が異常だわ」
「…………」
凜花の欠損が今この場で治ろうが治るまいが興味はないのか。
小太郎の結論は気軽なものだ。少なくとも悪意も敵意もなければ、おかしな魔術の種を仕込まれる心配はない。
己の見込みが間違いだったとしても、斬り落としてしまえば凜花自身は多少の出血と痛みを伴うだけで、命の危険までには至らないからいいだろうという事らしい。
肉体など目的達成の手段、死ななきゃ安いがモットーの彼らしい結論だ。
付き合わされる方は溜まったものではない、ときららはジト目で睨んだものの、返ってきた正論でもある極論に押し黙る。他ならぬ彼自身が、間違いなく最前線に立って実践しているのを目撃したからこそだ。
その様子を眺めていた凜花は、これ以上の議論は無駄と悟り、素直にエウリュアレーの助けを受け入れる事にした。
手足があれば、これ以上の足手纏いにならないのは事実。そして、伝説の魔女は交渉か対話の席に着こうという意思がある。此処で助力を蹴り、機嫌を損ねるのは避けたいところだ。
「……! 嘘、こんな簡単に……」
意を決した凜花に待っていたのは更なる驚きだった。
本来、煙遁による煙への変化は己の肉体以外に指を伸ばすとなると難易度が跳ねあがる。無論、元々の己の一部出なかった煙を自らの肉体とするのもまた同様。
紫藤家歴代当主、並びに分家の煙遁使い全てを見渡しても、有機無機・自他問わず自在に煙化を可能としたのは僅か数名。天才と呼ばれる者の中でも更に一握りの天才しかいない。
高等技術と呼ばれるようなものではなく、選ばれた者が持ち得る
だが、現実はどうだ。
半信半疑のままゆるゆると伸ばした煙が、暖炉から吐き出される煙と結合し、混じり合う。
刹那、背骨に走った電流を何と表現すればいいのか。凜花には言葉に出来なかったものの、彼女の感覚に従うならば『いける』という単純かつ確信めいたものだった。
煙は見る間に欠損した右の手足に集まり、灰色の煙のまま形を成す。
骨を、筋肉を、神経を、皮膚を、爪を。灰色の腕はやがて肌色へと変わり、本来の形へと寸分違わず元通り。
二度三度と拳を握っては開きを繰り返し、続いて膝と足首の関節を確かめながら立ち上がる。形だけでなく、機能性も変わりはない。
流石に凜花も眠っていた己の才能が目を覚ました、と思うほどに愚かではない。
しかし、そうでないとするのなら、起きた現実はエウリュアレーが自身の忍法を――――いや、下手をすれば対魔忍がそれぞれ持つ固有の忍法を解き明かしつつある、と示している。
ただでさえ高まっている警戒心は、青天井に上がっていた。類を見ない魔術の才を生まれ持ち、人外の寿命で研鑽を積んできた魔女。近い将来、忍法という魔族への対抗手段そのものが意味を成さなくなりかねないのだ。
「随分簡単に出来たな……何にでもなる煙か、ドッペルゲンガーの身体の一部か何かか?」
『…………え』
「んー、惜しいわね。それで代用が効かない訳じゃないでしょうけど、正解はシェイプシフターの胎児の干し死体よんッ♪」
『――――え゛ッ』
「ドッペルゲンガーの上位種、つーか始祖じゃねぇか。その上、胎児か。成程、素材としても魔術的にもそれなら不思議じゃないか。驚いたのはそんなもんを保有してる上に気軽に使っちまうアンタの神経だが」
「あら、貴重品だからって使うべきタイミングはあるでしょう? 私、貯め込みはするけど使うべき場面を見誤るほど愚かでもないもの。その点、坊やと似通っていると思うのだけれど? 最終ダンジョンまでエリクサー使わないタイプだった?」
「アンタがその例えをするのを他の魔術師が聞けば卒倒ものだろうが、概ね同意する」
既に魔界で絶滅したとされる種である
その点は、子孫であるドッペルゲンガーと変わらない。だが、両者を隔てる壁は広く高い。特に“成り済まし”に関しては。
ドッペルゲンガーは触れた者の記憶と姿を完全にコピーし、女しか生まれてこない少数勢力にして種族。
あくまで彼女達の“成り済まし”は知的生命体の男から子種を貰うための種族的な特性であるために、限界が存在する。
それに比べて、シェイプシフターの“成り済まし”に限界はなく、際限もない。
成り替わろうとしたものが生物であろうが鉱物であろうが関係がない。無機有機問わず、質量保存の法則すらも崩壊させて変身する。
魔界では、ある都市の建物に成り代わり、徐々に周囲の建物を侵食してゆき、やがては都市そのものに成り代わり、一晩で十万人規模の住人を喰らい尽くした、などという伝説もある。
シェイプシフターが絶滅した理由は定かではない。
過ぎたる力を持つが故に他種族に滅ぼされたのか。最早、
ともあれ、そんな存在の死体を燻して生まれた煙、況してやそれが胎児のものであれば魔術的にも大きな意味を持つ。
胎児は無限の可能性を秘めている。生まれた後にどのような存在になるのかは分からず、生まれ落ちていない以上は運命すらも定められていない。形は確かにありながら、無形そのものという矛盾を許されている。
此処にシェイプシフターという要素とエウリュアレーの腕前が噛み合えば、それこそ何にでも成れる。何であれ成し遂げられる。
かつて都市を喰らった者のように都市そのものを作り出すことも。
或いは、未だ神々ですら不可能であった完全にして完璧な死者蘇生も。
果ては、人界魔界にすら存在していない筈の都合のいい物質すらも。
自斎も、きららも、凜花も、事の重大さに気付いておらず、死体を使っているという嫌悪感にばかり意識が向いていた。
事実は、途方もない宝を出会って間もない少女の治療に使い潰したようなもの。多くの賢者が嘆き悲しみ、それ以上の愚者が身勝手な憤慨と罵倒をエウリュアレーに浴びせる事だろう。
ただ、エウリュアレーにしてみれば、当然の事をしたまで。
大事に閉まってはあったが、価値自体はないに等しい物体。
彼女は生粋の享楽主義者。過程も結果も、自らが楽しむためのものに過ぎない。そんな、過程を飛ばして結果だけを得るという、折角の楽しみを半減させてしまう物にも魔術にも興味はない。
それを、殺し合いに興じた者から多少でも信頼を買えるのであれば万々歳であった。
小太郎は、そんな内心を見透かしたのだろう。最早、呆れすらない。
寧ろ、一貫して享楽主義者としての姿勢を一切崩さない彼女に好意すら抱いているほどだ。
「では、改めて。試練を越えた少年少女を招待しましょう――――ようこそ、魔女エウリュアレーのお茶会に。楽しくお話しましょうねっ♪」
何処までが、彼女の思惑であり、掌の上だったのか。
兎も角、伝説の魔女の顔に刻まれていた笑みは、邪悪さとは掛け離れた無邪気である嬉々としたものだった。
新型機のペットネームはどれがいいですか? 感想の中から作者が独断と偏見で選びました。地獄へお届け(デリバリーヘル、略してデリヘル)は色々な意味で面白すぎるので出禁で
-
白兎(いつも忙しそうなので)
-
夜梟(機体の静粛性能から)
-
影狼&蜃気楼(苦労と九郎で)
-
飛梅(完全和製)
-
蜂鳥(ホバリングとそれなりの速度から)