対魔忍RPG 苦労人爆裂記   作:HK416

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ぐへぇ! お金がないのにカヲルが来ちゃった! だが、二周年も近いしぐぎぎぎぎ!
そして、イベントでは卍鉄の爺さんがTSを謳歌してて草。
ただ、クールキャラな割に感情剥き出しのカヲルに驚く。なお、この作品におけるカヲルはあんなに怒りません。

カヲル「ふふ、若様に救って頂いたからね♡」
若様「またタイミングいいことしちゃったか、オレ」

なお、作者は特に展開は考えていない模様。ま、カヲル回を書く時の自分が何とかするでしょ!



若様と愉快な仲間達
苦労しないよう努力する。だからこうして苦労を燃料にする!


 

 

 

 

「ほら、自斎。甘ーいミルクティ。勉強がんばろ」

「……ありがとう、ゆきかぜ」

 

 

 エウリュアレーの東京キングダム襲来騒動からおよそ二週間。

 

 獅子神 自斎の人生は一変していた。

 自らを顧みて本当の願いを見出した彼女は孤独に耽るばかりの人生を恥じ、任務後すぐアサギに独立遊撃部隊への配属を願い出た。

 人生をやり直すには神遁の術を使い熟す事が必須条件。他力本願は百も承知であったが、未知の部分が多い神遁の術を解明するには、忍法や異能、魔術に対する造詣の深い小太郎を頼る事が最短距離になると判断した。

 

 結果、アサギはこれを快諾し、総隊長権限を以て独立遊撃部隊の一員とした。

 但し、いくつかの条件を出した。これまでのように自ら人を遠ざけるような真似をやめる事、任務において単独行動は止むを得ない場合以外は取らない事――――そして、普通の女の子として生活する事。

 

 絶大な力故に生きる道が一つしか与えられない苦しみは、周囲の期待と決定によって望まぬ椅子に座り続けるアサギが誰よりも深く理解している。

 言わば、最強の対魔忍の感傷によるところが大きい。これで自斎が救われるとは限らない。寧ろ、余計な苦しみを背負わせる結果に終わる可能性もあった。

 だが、自斎はこれを受け入れた。誰を傷つけたとしても、地面に頭を擦りつけて決して許されぬ罪を謝り続ける羽目になったとしても、二度と孤独は選ばない。それが彼女の選んだ人生だった。

 

 無論、アサギも自斎を必要以上に苦しめたいわけではない。

 万が一、自斎に憑りついた神が暴走した際、被害を最小限に抑えられる人材と普通の女の子としての生活とはとんと無縁だった彼女の世話係としてゆきかぜを付けた。

 性格が対照的な二人の相性は悪いようにも思えたが、ぐいぐいと引っ張って話しかけてくれるゆきかぜは、それほど口数の多くない自斎にしてみれば会話の主導権を渡す代わりに話題を提供してくれてありがたい。

 そんな訳で、二人の仲は極めて良好。自斎にとっては初めての、ゆきかぜにとっては同い年では仲の良い友達となっていた。小太郎ハーレム王国推進委員会会長の腹黒い思惑が見え隠れしているような気がするが、気にしてはいけない。

 

 

「困ったわ。全っ然、分からない……!」

「そりゃ、仕方ないでしょ。今まで学校通ってなかったんだもん。勉強って、一人だけじゃどうやったって限界があるしねえ」

 

 

 ただ順風満帆になってきた自斎の前に、大きな壁が立ちはだかっていた。最終学歴中学中退同然というとてつもなく大きな壁だ。

 彼女の忍法に制御が効かなくなり始めたのは中学も半ば頃。両親が匙を投げたのもその辺りだ。以降、学校には通わず、独学で学び続けた。

 どうせ対魔忍以外になる道なんてないんだし、と義務教育の範囲を学び終えて以降、勉強など碌にしていない。とてもではないが普通科高校レベルの授業にはついていけないのである!

 古文現文は基本を押さえていれば何とかなる。英語も義務教育のレベルがあれば何とかついていける。地理日本史世界史公民も単純な記憶力の勝負になるのでギリ何とかいける。だが数学は意味の分からない呪文と化しているし、物理化学は苦手なので悲惨なものだ。

 

 というわけで、学年でも成績トップタイの学校の勉強だけは出来るゆきかぜちゃんが見るに見かねて勉強会を開いてくれたのであった。

 

 五車学園の広い食堂の一角を陣取り、思い思いの教科書を開いて勉強中。

 なお参加者は、数学の教科書を前にして涙目になりながら食堂のおばちゃん特性勉強のお供濃くて甘~いミルクティーを啜る自斎と呆れ顔でコーラをストローでちゅーちゅー吸っているゆきかぜだけではない。

 

 

「ふふ、仲良き事は美しき哉。向上心も見上げたものだ。これまで勉強を碌にしてこなかったから教えて欲しいなど、早々言えるものではないぞ」

「なあ、凜子。対魔忍をやっていく上で数学なんて必要ないんじゃ……」

「ねえ、凜子ちゃん。対魔忍をやっていく上で歴史なんて必要ないんじゃ……」

「……はぁ、お前達と来たら。少しは獅子神を見習ったらどうだ。後輩の質問に一つも答えられないでは先達として恥ずかしいぞ」

「「うぐぐぅ……!」」

 

 

 ゆきかぜと自斎の対面には、二年組の凜子、紅、きららの三人が座っていた。

 

 凜子は自斎の前向きになった態度に心から喜んで微笑みを浮かべている。

 逸刀流の元締めである秋山家の嫡子として元々自斎とは面識はあった。ある日を境に道場に顔を出さなくなって、事の顛末を聞いて胸を痛めていたのだが、事態が良い方向に転がって安堵していた。

 しかし、その表情もすぐに雲散霧消して情けなさと呆れの色で満たされる。

 自斎の先輩である紅ときららが、苦手科目を前にして机に突っ伏しながら情けなさ過ぎる言葉を紡いでいるのだから彼女の気持ちも分からなくはない。

 

 この三人はゆきかぜからの要請で連れてこられた。

 自斎ばかりが教えられては引け目を感じかねない。あくまでも個人のためのレッスンではなく、全員のための勉強会だとアピールするためだ。そういった気遣いを忘れる少女ではなく、忘れるようでは世話役に選ばれまい。

 実際、役に立っているのは凜子だけだ。当人もゆきかぜと同じく学校の勉強だけは出来る優等生。更には本人の知らぬ内に設立された凜子様ファンクラブに所属する後輩からは、少しでもお近づきになりたい一心で、授業に関する質問に応じているので手慣れた様子だった。

 反面、紅ときららは足を引っ張り通し。二人の成績は中の中という可もなく不可もなく。苦手科目と得意科目がハッキリしているものの、人に教えるのはとことん苦手。それどころか、苦手科目が足を引っ張りすぎて赤点の危機すらある。人にものを教えている余裕すらない在り様だった。

 

 それでも自斎に呆れもなければ苛立ちもない。

 非情な現実を前にして他者への気遣いが出来ないのは事実であるが、同じ部隊の仲間と共に過ごすなど初めての経験。喜びと感動の方が遥かに強い。

 

 鬼崎 きららも自斎と時を同じくして独立遊撃部隊の一員となっていた。当人曰く――

 

 

『折角知り合った後輩の自斎ちゃんとか、友達の凜子ちゃんがあんな危険な任務を任される部隊にいるなんて放っておけない!』

 

 

 とのことだったが、実態は全く違う。こんな科白は体の良い建前である。

 実際、アサギに語ったのは、部隊長である小太郎の下で父親から受け継いだ忍法の使い道を学びたいという旨が殆ど。

 更なる本心を言ってしまえば、自分の男に対する意識を変えた小太郎の役に立ちたいというもの。気になる相手に嫌われたままでは何とも切ないという乙女心の発露であった。

 

 極めて分かりやすいきららにアサギはもう心の底からにっこりだった。

 それもその筈、彼女にしてみれば正に計画通りっ! という流れなのだ。

 きららの男嫌いは度を越していた。それこそ一人の大人として若者の将来に不安を覚えるばかりでなく、対魔忍の頂点として頭の痛い問題だったのだ。

 何せ、同年代は勿論の事、最前線で戦う現役対魔忍と比較しても群を抜いた実力者だ。放っておけば増長して更に男と連携を取れなくなり、やがてはかつての自分のように罠に嵌められて敵の手に堕ちる。

 只でさえ組織の何処も彼処も火の車だと言うのに、戦闘面だけでも有能な若手が敵側に寝返るなど涙を流すを通り越してチベスナ顔で虚無る他ない。

 

 其処に降って湧いたようなエウリュアレー襲来事変と調査部隊の行方不明。

 彼女一人では伝説の魔女を打ち倒すのも追い返すのも、ましてや調査部隊を救出する事すら不可能だろう。

 正に好機であった。この任務に際してきららの意識や価値観を根こそぎ破壊できてしまう男を宛がえば、目に見えている未来を変えられる。そこで白羽の矢が立てられたのが小太郎である。なお、彼への負担は一切考慮していない。

 如何せん、アサギは身内に対して極端に甘く、同時に甘える性質だ。姉妹のさくら、長い付き合いになる九郎や紫にも、無茶な任務を振ったり、自身に出来ない事を素直に頼んだりと枚挙暇がない。

 男女の仲にある相手であるのなら、それはもう仕事でもプライベートでもメチャクチャに甘えるだろう。どれほどの負担があろうとも、小太郎ならやってくれるわ、という信頼で全てを片付けていた。

 画して、全ては思惑通り。この一件において勝ったのは小太郎でも二車家でもエウリュアレーでもなく、実質アサギの一人勝ち。流石は最強の対魔忍、戦わずして勝つとか兵法極め過ぎであった。

 

 こうしてきららもまた独立遊撃部隊に編入された。

 余りのスピード採決に不審に思ったものの、アサギの思惑など知る由もない彼女は今度こそ力になってみせると張り切っていた。

 

 

「で、此処が食堂。基本食券先払い。おっさんおばちゃん連中に気に入られたり、憐れまれたら特性メニュー作って貰える」

「気に入られるは分かるが、憐れまれるだと? なんだそれは?」

「気の毒に思って優しくしてくれるんだよ。オレ、吸収効率の良いおじやのメニュー作って貰っちゃった、ふふ」

「………………」

「あっ! 小太兄だ! こっちこっちぃ~!」

「「……!」」

 

 

 食堂の入り口に現れた小太郎ともう一人の姿を逸早く見つけたゆきかぜは、片手を振りながら声を掛けた。

 自斎ときららに俄かに緊張が奔る。任務以来、一度も顔を合わせていなかった。補肉剤を使った影響で今日まで面会謝絶、絶対安静で治療に専念しなければならなかったからだ。

 部隊への配属を聞いているだろうが、小太郎の性格を考えれば嫌味の一つも言ってくるのは間違いない。その上、あの容赦のない言動だ。覚悟してしまえば泣いてしまいかねない。

 

 そして、二人は全く別の驚きを抱く。

 

 ゆきかぜ達と共にいる自斎ときららを見た小太郎は死ぬほど嫌そうな顔――――をすることなく、片眉を俄かに上げるだけであった。

 珍しい集まりだな、程度の感情しか覚えていない様子で、五人の座るテーブルへと向かっていく。

 

 

「元気なようで何よりだ」

「心配したんだぞ……」

「そいつはどうも。お陰様で全快だ。だから問題ない」

 

 

 散々迷惑をかけられた二人を目にしても、特に嫌悪や怒りを見せる事もなく、また隠してもいないように見えた。

 それがまた自身に対する興味関心の無さを物語っているようで自斎ときららを落ち込ませるのだが、今はそれどころではなかった。

 

 小太郎の後ろについてくる一人の少女に対する驚きの余り、自分自身の事柄に思いを馳せる余裕すらないのだ。

 

 

「……えっ? え? 紫先生?」

「何故学生服を、というか随分お若いような……」

「ああ、そっちは見るの初めてか。此方、紫先生の遠い親戚で、最近同じ忍法を発動させて今日から五車学園に通う事になったんだとさ」

「八津 紫璃(ゆかり)だ。よろしく頼む」

 

 

 そう、其処に立っていたのは八津紫と瓜二つの少女。

 他人の空似などでは到底済ませられないレベルの相似を前にしては、事情を何も知らない二人の驚きも当然だった。

 無論、八津 紫璃などという少女は元より存在しない。ヨミハラで助けざるを得ず、已む無く護衛として雇った別次元の八津紫その人である。

 

 今の今まで一部にのみ明かした秘密を、偽の身分の名前を与えたとは言え、人目に晒すなど、彼を知る人物ならば、彼にしては聊か軽率な行いと映るだろう。

 だが、小太郎としては元よりそのつもりだった。紫は隠密行動に長けた人物ではなく、分かり易い戦闘要員。自身の下でギブアンドテイクの関係でいれば、嫌でもいずれかにバレてしまう。

 

 ならば、先に自ら明かしてしまえばいいと割り切った。

 

 真実になど次元侵略者という前提がなければ絶対に辿り着けない。そもそも次元侵略者は認知度が極端に低い。

 次元間を容易に移動する上に、別次元の生き物を洗脳する事に長けた種族。政府にせよ、闇の組織にせよ、その存在は軽々には明かせない。明かした果てに待っているのは対抗する術のない相手に対する疑心暗鬼と不安に秩序の崩壊でしかないからだ。

 その上、何とも出来過ぎた偽りの身分を用意してやれば、人はまずそこから手を付ける。延々と存在しない筈の誰かを気が済むまで追い続け、次元侵略者になど辿り着ける訳もない。

 

 精々思いつくのは違法な魔界技術によって生み出されたクローンか、志賀あさつきのような存在か。

 各組織としても無理に捕らえる必要はなく、対魔忍内部はアサギの傘下にあり、次期隊長候補の紫の親戚ともなれば軽々に手は出せない。

 唯一頭が痛いのは紫関連で確実に頭がパーになる桐生の存在であるが、放置安定、鬱陶しくなったら殺そうと扱いも命も気も軽いもんである。

 

 ある程度、不測の事態は想定されうるが、それよりも紫との信頼関係を優先した。

 元々インドア派でもなければ、怠惰や堕落を嫌う生真面目さには、人の家で誰の目にも晒されずに生活を行うなど苦痛でしかない。

 与えた金でトレーニング用品を通販で買い漁り、ひたすら筋トレと家事を繰り返してストレスを発散する姿に予定を繰り上げた。

 

 何時もは不機嫌そうに眉を寄せている紫も、今回ばかりは檻から解放されて晴れ晴れとした表情だった。

 

 

「まあ、獅子神も鬼崎パイセンも仲良くしてやってくださいよ」

「え、ええ。困ったことがあったら言ってね、紫璃ちゃん」

「よ、よろしく」

「ああ、恥ずかしながら頼りにさせて貰おう。勿論、恩を仇で返すつもりもないぞ」

 

 

 事情を知っている者は素知らぬ顔で。

 残る二人は困惑しながらも、偽りの身分をすんなりと受け入れる。と言うよりも、事実を知る術がない故に疑わしくとも受け入れざるを得ない。

 元より他者を疑う行為自体が頭から抜け落ちている上に、説明したのが隊長の小太郎ということも相俟って効果は絶大だった。

 

 二人以外であったとしても、似たような反応しかできない。

 仮に小太郎の説明に納得しなかったとしても、事情と顛末、事の納め方を既に知っているアサギから説明されれば偽りの事実であっても信じざるを得ないだろう。

 

 

「そ、それからふうま……いえ、隊長。これからも、頼りにさせて貰うから……よろしくお願いします」

「は? 嫌ですけど?」

「――――えっ」

「ちょ、ちょっとアンタ、いくら何でもそれは酷いでしょ」

「何スか、鬼崎パイセン。勘弁してくださいよ」

 

 

 自斎なりに引け目と負い目を感じながらも、精一杯の誠意と頭を下げるのだが、小太郎は死ぬほど嫌だと露骨に伝わる顔で拒絶する。

 これにはどんな罵倒にも耐える覚悟だった自斎も固まった。熱と共に罵倒されるならば、自らも生まれ変わろうとする熱意で応じる事も出来たが、素っ気無さと興味の無さが極まった態度では肩透かしを喰らおうというもの。

 

 これには同じく引け目も負い目もあるきららも、流石に噛みついてくる。

 態度の理由は分かっている。全ては身から出た錆の自業自得。それでも、既に自斎の境遇を知っている身としては勿論のこと、先輩として看過できない。

 

 俄かに怒りを帯び始めるきららに対して、小太郎は露骨に尊敬など欠片も覚えていない形だけの敬語で返してしまい、事態は悪い方向へと転がるばかりだ。

 

 

「お前の事情とオレは根本的に関係ない。知ったことかよ。オレはオレで忙しいんだ。今まで通り一人で頑張ってくれ。学校に顔出せる時点で成長してんじゃんか。頼るならオレ以外にしろ、心の底からお願い申し上げる」

「…………で、でも」

「な、なに言ってんのよ! 関係ならあるでしょうが!」

「いや、ないも同然じゃないッスか。一度同じ任務に出向いただけの仲で、そんな仲間面されても困るンですけど。碌に会話もしたことないんだし。これからもそういう関係でいよう! なっ!」

「えっ? とぉ――――」

「そんな関係で居られるわけないでしょ! これからはアンタが面倒見る事に――――」

「いや、言ってる意味分かんないんで――――」

「「「――――?????」」」

 

 

 あくまでもオレは関係ないと一切踏み込んでいく気のない小太郎と隊員として隊長に助けを求める自斎、更に仲間をフォローするばかりでなく、こんな態度では彼の評判が悪くなると必死なきらら。

 やがて絶妙に噛み合わない会話に、三人が三人とも目を丸くして互いの顔を見合わせる始末。一体、何が起こっていると言うのか。

 

 そんな中、凜子と紅は気の毒そうな顔を小太郎に向け、紫は状況を全く理解していないハテナ顔。

 ただ、ゆきかぜがニッコニコの笑顔で、小太郎を見ていた。

 

 

「小太兄ぃ?」

「ちょ、っとぉ……待って下さいよゆきかぜさん。オレ、猛烈に嫌な予感がしてきたなぁ~~~~。心の準備をする時間を――――」

「自斎ときらら先輩、もうとっくの昔に独立遊撃部隊に配属されてるから」

「は?」

「もう小太兄の部下の二人です」

「――――は?」

 

 

 顎の下で両手を組んだゆきかぜに告げられた事実に、小太郎の表情はすんと消えた。

 黒い左目は更に黒く染まって暗黒と化し、虚無った挙句に究極のチベスナ顔を見せる。どうやら混乱の只中に放り込まれているらしい。

 

 

「えっ? え? えっとぉ……もしかしてアンタ、何も知らないの?」

「知らないんですけど? つーか、何を知ってなきゃおかしいのオレは?」

「だって……アサギ校長が……」

「病室にお見舞いに来たけど、無事で良かったとかの労いとオレからの報告ばっかで重要な事なにも言ってなかったんですけど? え? 君ら独立遊撃部隊所属なの? (手のかかる)仲間が増えるの?」

「やったね小太兄! さっすが最強の対魔忍! やることも最強の力押しだぁ!」

 

 

 新たなハーレム要員候補が見つかり、小太郎の周囲を女で固めて逃げるに逃げられない状況を作ろうと必死なゆきかぜはもうウッキウキの笑顔である。

 反して、小太郎の表情は更なる下降を見せる。最早、輪郭すら曖昧な線と化しており、見開かれた左目は眼窩から零れ落ちてしまいそうであった。

 

 

「は?」

「い、いや、お前を頼ってきたのだから、助けてやるのが漢気と言うか、だな……」

 

 

 そんな表情を向けられて凜子は、彼にかかるであろう苦労を思って、意図せず俯いてしまう。

 口から出た言葉はアサギの肩を持ち、自斎を助けるようなものであったが、小太郎を考慮してか余りにも苦し気な音色を秘めていた。彼女自身もあんまりにもあんまりだと思っているに違いない。

 

 

「――は?」

「…………わ、私じゃどうにもできなかったから」

 

 

 そんな表情を向けられた紅は、唇を噛み締めながら視線を逸らす。

 余りにも無力な自分への不甲斐なさと小太郎と会えなかった故に先んじて告げてやる事も出来なかった負い目で満たされているらしい。

 

 

「――――は?」

「「…………」」

 

 

 そんな表情を向けられて、唖然としたまま押し黙る自斎ときらら。

 二人にしてみれば、何が何やら。アサギから部隊所属を快諾された以上、当の昔に小太郎を説得したのか、或いは納得していたものと思い込んでいた。

 

 だのに、この様である。

 バレなきゃ何をやってもいい、使える手段を感情論で廃するのは馬鹿のすること、と公言して憚らない小太郎であるが、何のかんので組織人としての自覚はある。引くべき所、押すべき所の見極めはきちんと行い、守らねばならないルールは守る。

 そんな彼の気質を理解した上で、強権発動を押し通すアサギは間違いなく最強の対魔忍である。余りにも無体な、そして強引過ぎる力業に言葉もなくなるに決まっている。

 

 

「――――――は?」

「アサギ様の決定だ。黙って従え」

 

 

 そんな表情を向けられても、紫は当然と言わんばかりの表情で小太郎の嘆きなど意に介さない。

 先の任務で彼がどんな目にあったかなど聞いていないが、聞いていたところで同じ言葉を口にしただろう。彼女にとって、アサギの言葉は全てに優先する。例え、自らの次元のアサギでなかったとしても同じ事。

 

 全ての逃げ場を塞がれ、助けの手も拒まれて、小太郎はただただ立ち尽くすばかり。

 頭の中はアサギに言いたいことがあり過ぎてぐちゃぐちゃになっていた、取り敢えずやるべきこととしてポケットから普段使いのスマホを取り出した。

 

 

「ふぅーーーーーーーーーっ…………ちょっと待て。校長に電話するから」 

 

 

 呼気と共にあらゆる感情を吐き出し、慣れた手つきで慣れた連絡先へと発信する。

 

 まだだ、まだ慌てるような時間じゃない。これからきちんと抗議して、自身の手腕では二人を扱うなど不可能であり、己が如何に限界が近いかを懇切丁寧かつ論理的に説明しよう。

 そんな事を考えながら、冷静さと余裕の表情を保ってスマホを耳元に持ってきた。

 

 五分後――――

 

 

「ふっざけんなぁぁぁぁぁ!!! 電話も出やしねえじゃねぇかあんのクソババアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」 

 

 

 上辺だけの冷静さと余裕を、スマホと共に窓へとぶん投げていた。

 

 よく持った方だ。

 何せ、一切余裕のない精神状態でコール音を五分も延々と聞き続けたのだ。どんな人間でもパニック状態でそれだけの時間を待ってなどいられない。

 

 アサギも酷いものだ。

 着信を拒否するでもなく、また留守電設定にもしていない。

 長い付き合いになる小太郎が何をするのか予測はついていたに違いない。

 今現在は政府のお偉方との会合に出向いている辺り、対魔忍の力を削ごうと必死な政治家達から受ける謂れのない疑いや無駄な議論を早々に切り上げるため、小太郎の着信を急な任務と偽るために利用したのだろう。

 闇の住人に対しては“最強”の称号と力量を背景としたゴリゴリの力押りのメスゴリラにも拘らず、対小太郎にはこうも知恵が回るのは何故なのか。

 

 

「ふうま! クソババアとは何だ! アサギ様はお年を召しても御美しいぞ!」

「今そういうこと言ってんじゃねぇーんだよぉ! このアサギ馬鹿!」

「何だそれは! それではアサギ様が馬鹿のようだろうが!」

「お前しか罵ってねぇんだよぉっ!」

「ならば構わん。全く紛らわしい言い方をしおって」

「どーいう思考回路してんですかねぇ、この女は!!」

 

 

 全く理解できない方向に怒りを露わにし、自分が罵られた事にすら気が付いていない紫に、小太郎は悲鳴を上げる。

 アサギこそが第一であり、いつかはアサギの一番になりたいと夢見る乙女である紫にとって、アサギ馬鹿などという罵声は誉め言葉にしかならないのである。

 

 

「そ、そんなに嫌なの、ね……」

「当たり前だろうが!」

「あ、アンタの頭脳と私達の力があれば敵なんていないじゃないのよぉ……?」

「自分がやったこと思い返して、もう一度オレに同じ事言ってみろ」

「「うっ……」」

「おい。なあおい。どうした? 言えよ、おい。簡単だぞ? 全く同じ事を同じに言えばいいんだからよ? 思ってなくてもいいから言ってみ? なあ、おい。目ぇ見ろや! おい! おい!!」

 

 

 矢鱈と血走った目を向けられた挙句、間近に詰め寄られた上で詰問され、自斎ときららは思わず目を逸らす。

 己のやった事など己が一番良く分かっているつもりだった――――が、つもりでしかなかったようだ。

 小太郎の拒絶など想定はしていた。していたのだが、口にした願いである独立遊撃部隊への配属をアサギが認めたことで、隊長である彼が認めたものだと勘違いしてしまった。

 

 自らの瑕疵など思い当たる節があり過ぎる。と言うよりも、節しかないと言っても過言ではない。

 だが、人は自らの汚点や欠点と向き合うのが殊更苦手。堕落を正当化できるのなら安易な嘘にも飛び付くように、自分にとって都合の良い方向にばかり考えてしまった。

 これだけ怒鳴り散らされれば、きららなど自身の瑕疵など関係なく反発しそうなものだが、今回ばかりはその限りではない。寧ろ、自らへの恥で酷く凹んでいる。自斎など泣き出してしまいそうである。

 

 

「う、嘘だ。これは、これは夢なんだ。目が覚めれば、家の暖かいベッドで寝てて、災禍が起こしに来て、天音がおいしいごはんを作ってくれている筈……!」

「ところがどっこい……夢じゃありません……! 現実です……! これが現実……!」

「ゆきかぜ、これ以上小太郎を追い詰めるな……」

「流石に可哀想だ……」

「いやぁぁあああああああああああああぁぁぁあああぁぁぁああぁっっっ!!!」

 

 

 へなへなと崩れ落ち、小太郎もまた都合の良い夢へと逃れようとするが、嬉々としたゆきかぜに邪魔をされる。

 別にゆきかぜも鬼ではない。小太郎の苦しむ姿を見て楽しんでいるのではない。単に小太郎が雁字搦めの境遇に陥って、逃げたくとも逃げられない状況が確実に傍に居続けられるからこそ喜んでいるだけなのだ。訂正する、やはり鬼だ。きららも鬼だが、それ以上の鬼である。

 

 流石の凜子と紅も憐れみを向けていたが、小太郎の見えないところでぐっっと拳を握り込んでいる。

 如何せん、この男と来たら何時如何なる時でも消え去ってしまいそうな儚さがある。図太さと恥知らずさで誰も気づかないが、今こうしている間も蝋燭は消える瞬間こそ最もよく燃えるを地で行く人生を送っている。恐ろしいのはその瞬間を保ち続けている事であるが、見ている側としては気が気ではない。

 だからこうして、彼の女は最も燃え盛る瞬間を維持し続けようと苦労という名の風を送り込む。苦労を排すべく全力で燃え盛っているのに、燃料自体が苦労という摩訶不思議な構図。最早、無間地獄とどう変わるというのか。

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっ!!!!」

「えぇい、喧しいぞふうま、お前は――――何だ、この耳鳴りは?」

「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――」

「小太兄の声が聞こえなくなった……?」

「これはまさか、一部の動物にしか聞こえないというあの……」

「高周波……!」

「うわっ! 電灯が! 窓ガラスもか?!」

 

 

 人間の声帯と可聴域の限界を超えた、愛と怒りと悲しみの悲鳴の前に、食堂の電灯と窓ガラスが次々と割れていく。

 すわ忍法の暴走か、魔族の襲撃か、米連の新兵器か、と食堂に居た教師も学生も慌てふためく始末。誰も苦労の余りに高周波を発する妖怪に変化した小太郎の仕業などと誰も思わない。

 

 高周波を発し続ける小太郎であったが、やがて喉も涸れ果てるとその場に仰向けになって地面に突っ伏すと、声もなく泣き始める。

 まさに滂沱の涙。比喩でなく彼の周囲は涙の海が出来ている。また一つ彼は人間の限界を超えた。どうしてこんなことで限界を超えてしまうのか。母の教育の賜物か、はたまた苦労の果てに新人類となったのか。いずれにせよ、真相は藪の中である。

 

 

 

 

 

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