対魔忍RPG 苦労人爆裂記   作:HK416

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ぐわぁぁ! ついに来たな! 五車の新キャラ!
でも監獄戦艦2のアリシアとマヤ嬢とは予想外でしたな。本編でも食い込んできてるし、どうなることか!
引けたかって? まだだよ(血涙

さて、今回も自斎ときららの事後処理回。そのまま章の題名通り、若様の仲間達の話について展開されていきます。オリキャラが多いから注意な!

では、本編どぞー!



苦労人曰く『学校の勉強? 応用のさせ方なんて腐るほどあるわ』とのこと。なお、当人の方向性は決まっている模様

 

 

 

「あー、よく取り乱した」

「切り替えが早いぞ。早過ぎるだろう……」

「いやー、それが小太兄の良い所だからね」

 

 

 食堂で超高周波を発生させてから五分後。

 勉強会も中断して、何も知らぬ振りで割れた電灯や窓ガラス他の者に任せ、大慌てで食堂を後にした。

 

 移動先は五車の地下にある訓練施設。二車の反乱時、紅と小太郎が使用していた場所だ。

 但し、居るのはホログラムや可変式の床であらゆる状況を訓練可能な訓練室ではなく、次の使用者が待つためのラウンジであった。

 

 訓練室の使用許可と予約する受付。

 壁際に並んだテーブルとチェア、中央には四人掛けのソファが向かい合って何列にも渡って置かれており、高級ホテルを連想させる。

 そんな中で、小太郎とゆきかぜを除いた全員が疲れ果てた表情でソファにぐったりと腰を下ろしていた。

 

 

「そう、よね……嫌、よね……」

「嫌に決まってんだろ」

「な、何よぉ。分身とは言え、エウリュアレーを倒したじゃないのよぉ……」

「その前に何してくれましたっけ???」

「ぐぬぬ」

 

 

 小太郎の隣にはいち早く自身の場所を確保したゆきかぜが、逆の位置には学園を案内されていた紫が位置取っていた。

 向かいには忌憚ない上に当然の意見を聞かされた自斎ときららがどんよりとした表情で、凜子と紅は悔し気な表情で二人を挟むように座っている。

 

 小太郎の目尻と口角の垂れ下がった顔は、嫌気で満ち満ちている。

 明確であからさまな嫌気を見せられば自斎でなくとも落ち込みもしよう。何とかきららだけは件の事変で得られた唯一の成果を精一杯の思いで絞り出したが、即座に潰されてしまう。

 小太郎の払った代償と労力と得られた成果の釣り合いが取れていないことなど誰よりも彼女達が分かっている。だからこそ、どんな思いを抱こうとも黙らざるを得ず、全ての決定権を小太郎に委ねる他ない。

 

 

「まあいいよ。やるよ、やればいいんだろ。もう決定してるなら覆りようがないだろうし」

「えっ? い、いいのぉ?! な、何よぉ、もぅ。あ~ぁ、しおらしくして損しちゃった♪」

 

 

 表情こそ浮かないものだったが、小太郎は存外すんなりとアサギの決定を受け入れていた。

 さしものきららも驚きを隠せていなかったが、受け入れるのは早かった。こうした切り替えの早さ――というよりも単純さは彼女の良い所でもあるだろう。

 本人は喜びを隠してツンケンしているつもりなのだろうが、表情も感情も駄々洩れである。これにはゆきかぜはニッコリ、きららの変わりように驚きと納得半々だった凜子と紅はがっくり、小太郎はどんよりである。

 

 彼はあくまでもアサギの決定を受け入れただけであって、きららと自斎を受け入れたわけではない。

 ただ、知っていた。此処で正当な権利を主張しようが、真っ当な理論武装で身を固めようが、どう駄々をこねようが、アサギには届かない。そもそも帰ってこない。

 アサギは面と向かってマウントを取り合う口プロレスが始まってしまえば敗北は必至と理解している。故に、小太郎が諦めるまで事務仕事を放り出して、前線任務に従事する腹積もり。

 そうなれば対魔忍は組織として崩壊待ったなしなのだが、彼女には関係がない。小太郎が任されたと言ってくれなければどの道崩壊待ったなしだからである。

 その後、積みあがった書類の山を前にして絶望を噛み締めようとも関係がない。若手の育成は絶対に小太郎にやらせるという強い意志しか感じない。

 君子危うきに近寄らず。悪しき因習に引っ張られ、真っ当な教育も教養も身に付けられなかったというのにこの判断力。今日も今日とて、対小太郎の知略は冴え渡るアサギさんなのであった。

 

 小太郎としては嫌々だ。心底、嫌々だが何とか受け入れている。

 どう足掻いたところで過程に絶望しか待っていないのなら、せめて結果だけは良くするために努力を惜しむつもりは毛頭ない。

 なお、本人も自身の疲労と苦労は度外視。そうでもなければやっていられないからだ。

 

 彼に戦力を無駄に浪費するつもりは毛頭ないが、可能であれば自分の意志で離れていってもらいたいところ。

 というわけで、自斎ときららの地獄行きは決定した。出来なければ良くても死、或いは出来るようになるまで死んだとしても許しを与えられずに延々と終わらない訓練が続くか。

 最終的に彼女達へと与えられる選択肢は三つ。訓練で死ぬか、小太郎の望む人材になるか、小太郎から離れる、だ。どうしたところで小太郎には得しかない。他人に足を掴まれて転んでも、ただでは起きぬ男らしい判断だった。

 

 

「でも、意外ね。凜花先輩も来ると思ったのだけど……」

「父親――――甚内の当主判断で謹慎してるんだろうよ。お前等は個人として強いんだろうが、アイツは家柄も良い。その上、紫藤家は微妙な立場だ。例え、総隊長権限での任務だとしても、かつてやらかした主家と一緒にいるなんて、周りがどう思うか分かるだろ?」

「それはまあ、何となくは……」

 

 

 紫藤家は弾正の反乱時、逸早く寝返った事で対魔忍内部である程度の地位を築いた。

 だが、その基盤は大きい家に比べてまだまだ確たるものには程遠い。現状、他家が圧力を掛けてくれば苦しい立場に逆戻り。

 アサギ閥に属しているのだが、常に中立の立場を保ち続けているのもそのため。甚内の絶妙な政治感覚のバランスによって強力な味方を作れない変わりに、厄介な敵も作らずに立ち回っている。

 

 其処に、今回の一件。

 甚内も勝手をやられて、さぞや頭を抱えたことだろう――――と思いきや、そんなはずもない。

 閥が同じである以上、アサギから間違いなく先んじて声を掛かけらている。全てを承知した上で凜花に謹慎を言い渡したのは、あくまでもポーズ。

 アサギと娘が勝手にやったこと、当家は何の関係もなく此方も困っている、という態度を他家に対して取っておきたいのだ。そうすることで、余所からの疑いややっかみを誰も逆らえないアサギに集約し、紫藤家に利益も不利益も生じない。

 

 実際は、両者にとって利益の方が大きい。

 アサギ側は、凜花という期待値の高い若手を成長させられる。不満や批判は集まるが、対魔忍の未来を考えれば安いもの。その末に味方に裏切られたとしても、構いはしない。何せ、彼女には小太郎という最悪の切り札もあれば、無辜の民の生活と安全に身を捧げる覚悟など当に出来ているのだ。

 甚内側は表向きにはどうであれ、アサギと小太郎の双方により強い繋がりをデメリットなく確保できる。

 

 ならば、予測している筈だ。現在、謹慎している凜花がどのような行動を取るのか。そして、それこそが二人の狙いそのものでもある。

 

 

「何よそれ、バッカみたい」

「そうッスね。それに比べて鬼崎パイセンは賢いッスよ」

「そ、そんな変な敬語、使わなくていいわよ。ほら、もう隊長なんだし?」

「え~~~~~、でもぉ、変な所でも先輩後輩の関係を引っ張り出されても面倒だしぃ~~~~~?」

「わ、私がいいって言ってるの! それに凜子ちゃんや紅ちゃんにはタメ口でしょう?!」

 

 

 家のしがらみとは関係ない所に立ち、本人もとんと興味のない権力の奪い合いをきららは一笑に付す。

 呆れ返るほどの短絡さではあるものの、権力に縛られない様は健全な精神を宿している証左でもある。同時に、権力の恐ろしさや必要性を理解していない危うさもある。

 

 否が応にもふうまの当主として権力争いの巻き添いが確定している小太郎は彼女を羨んでいるのか、相変わらず敬いの一切存在しない敬語を続けていた。

 

 だが、彼女にあったのは怒りよりも寂しさの方が強い。

 敬語とは、尊敬を抱いているかは別として、目上の人間や親しくない間柄の相手に使うのが礼儀であり、通例。つまり、ある種の壁とも言える。

 権力という柵に晒されず、社会経験も薄いきららにはその観念がひときわ強く、歳も近いというのに距離を置かれているように感じてしまう。

 その上、凜子や紅には敬語など用いずにいるではないか。気になっている相手との気安い親し気な関係性は、きららは決して認めないだろうが、羨ましくて仕方がなかった。

 

 

「まあ其処まで言うなら甘えさせて貰いましょうか」

「そうしなさい! 私の――わ、私達の隊長なんだからね!」

(あぁ^~小太兄ったらもうきらら先輩の扱い方を覚えてるんじゃ^~)

 

 

 小太郎は意外なほど素直にきららの提案を飲んだ。

 元よりその予定だった。敬意を覚えていない相手への敬語など、彼にしてみれば面倒この上ない。

 自身を陥れようとする老害や他家の当主に対してすら、立場だけは対等で同列だから、と最低限の礼節は払うものの、発言の多くは普段通りの口調で歯に布着せぬものばかり。

 実際、家の大きさや握る権力によって序列は決まるが、建前上はアサギの下に当主の立場は同列。言わば、会社における各部署と同じ。一つの部署がどれだけ業績を伸ばして発言権を得ようが、組織内の集団である以上、トップも該当部署も周囲も表面上は同列に扱わねば立ち行かなくなるものだ。

 その辺りをよくよく分かっているので、敢えて小憎らしい態度を見せて自身にヘイトを集めさせ、感情に流される者、目先の事ばかりに囚われて現状の見えていない者を炙り出しているのである。

 もし万が一、謀略や力に訴えようとするのならば儲けもの。期せずして内部不安を取り除いた上で、己を律して現実を直視する優秀な当主のみを残す事が出来る。

 

 そんな人を操る事に長けた彼が、きららの扱い方が分からないわけもない。

 彼女は無理に押したり抑えつけようとすれば、必要以上の反発を招くタイプ。其処には道理はなく、単に意地と感情だけが存在している。

 ならば、相手から此方の望む言葉を吐くように誘導してやればいい。味噌は敢えて一度引くこと。他の者ならばこうも簡単には行かないが、意地っ張りなだけで根が単純で純粋で優しい彼女ならば、それだけで周囲や他者の利になる言葉を引き出せる。後は理詰めと正論で押せば決まり。簡単なものだ。

 

 きららにしても操られてはいるのだが、決して悪い結果を生む訳ではない。

 寧ろ、意地ばかりを優先してしまう自身の悪癖は自覚している節がある以上、気持ち良く自身を操縦しつつも、自身の望む方向へと舵を切ってくれるのならば不満はあれども拒絶はしまい。

 

 但し、気付かぬ内に感情は駄々洩れだ。

 小太郎との一対多という歪な男女関係にあるゆきかぜ、凜子、紅ばかりでなく、新参に過ぎない自斎ですらきららの好意は気付いている。

 余りの分かりやすいチョロインぶりにゆきかぜは心をぴょんぴょんさせ、残りの三人は呆れ気味。気付いていないのは当人と紫だけという有り様である。

 

 

「で、獅子神を中心に勉強会ねぇ。ゆきかぜや凜子は兎も角、紅と鬼崎は人に教えてる余裕あるんですかねぇ?」

「うぐぅ……そんな余裕、ありません……」

「ふ、ふん、何よぉ! 張り出される総合成績でアンタの名前なんて見た事ないんだけどぉ?」

「あー……きらら、それについてはだな。小太郎は高卒認定試験も大学入学資格試験も受かっている」

「えっ?」

 

 

 決してゆきかぜの発案を否定したわけではないが、小太郎の呆れた表情と声は如実に他人の事よりもまずは自分の事どうにかしたら、という色を帯びていた。

 至極真っ当な言葉に、紅ときららは劣等感を刺激され、前者は思わず敬語に。後者は予見された反発を見せる。

 

 だが、きららに待ったをかけたのは当人ではなく事情を知る凜子だった。

 

 小太郎は当の昔に高校を卒業できる程度の学力を有している、と国から認められている。

 はっきり言えば、五車学園の授業内容など彼にはレベルが低すぎる。通常の学校で習うような授業は勿論の事、対魔忍としての訓練とて母に課せられたものに比べれば休憩かなと思うレベル。

 専門的な知識を得られるわけではなく、その道の専門家も少ない学校になど通う意義がない、とアサギや他の者に示すためにわざわざ高等学校卒業程度認定試験を取ってきた。

 

 しかし、全ては無駄な努力であった。

 学園生活という青春を全く歩んでこれなかったアサギは少しでも年相応の生活を送ってもらおうと強硬に小太郎を通わせた。

 悪意なく、全き善意で。正に地獄への道行きは善意で舗装されている、を地で行く行為だ。なお、学園生活を送らせても、任務の難易度や数を緩めるつもりは全くない。信頼とは時に悪意よりも悲惨な結果を招く。

 

 そんなこんなで小太郎は五車学園に通う事になったのだがやる気なんてこれっぽっちもない。

 出る授業や訓練、テストは卒業できる単位を取るのに必要最低限。そうでもなければやる事が多すぎて死んでしまう。

 授業に出席しても寝ているか全く関係のない本を読んでいるかで態度は最悪、内申点など最低。かと言って、学力自体がが低いわけではない。結果――――

 

 

「ついたあだ名が――――0点か100点しか取らない男」

「極端過ぎよ!?」

 

 

 ゆきかぜの何とも言えない表情で告げたあだ名に、きららは驚きの余り悲鳴を上げる。

 驚異的だ。0点か100点しか取らないのならば、言ってしまえば出席さえすれば必ず満点を取るということでもある。

 少なくとも、五車で習う程度の知識範囲であれば、完全に身についている証左。いや、些細なミスやド忘れすらない以上、機械染みている。

 

 それもその筈、小太郎としても出席する以上は時間の浪費は極力避けたい。

 よって学生が勘違いしがちな、テストで良い点を取って成績に反映させるなどという意気込みでは挑まない。

 これまで学んだ範囲において誤った覚え方はないか、忘れている点はないか、理解できていない部分はないかの再確認というテストの本質と意義を見据えた上で挑んでいる。

 その姿勢は、大半の教師生徒からは馬鹿にされているか嫌われているのだが、極一部の例外――学校は成績の良し悪しを判定する場ではなく、あらゆる事柄の学び方を学ぶ場こそが学校、と捉えている者からは余りの率直さに呆れられているものの受け入れられている。

 

 小太郎も五車学園に通う必要はないと感じているものの、無意味とも無価値とも考えていない。

 実際、自身にはない知識や発想を持つ者には生徒教師を問わずに質問に行くし、より深い見識を得るためならば授業も真面目に受ける。

 単にその機会が少なく、また生徒教師の多くが成績至上主義、授業態度のみによる性格判断、行き過ぎた学歴信仰ばかりに目を向けて、学校の本質を理解していないために齟齬があるだけなのであった。

 

 

「高校での学習範囲に問題ないと証明できてる。オレは単位さえ取って卒業出来りゃいい」

「なら、我々も一緒だな!」

「そうね、紅ちゃんの言う通り! 赤点さえ回避できればいいのよ!」

「そうじゃないぞ、二人とも」

「小太兄は知識だけ見れば履修する必要ないだけですから。私達は必要なんです」

「「うぐぅ……」」

 

 

 紅ときららは同じ魔族の親を持つが故にか、元々仲が良いようだ。

 二人揃ってソファから勢いよく立ち上がり、小太郎の言葉を都合よく解釈して自らの苦手分野から逃れようとしていた。

 

 無論、それを許す凜子とゆきかぜではない。

 真面目な優等生がそんな逃避を見逃さずにキッチリと釘を刺した。

 小太郎を見逃しているのは、その気になれば優等生になれる素養と能力があるからだ。性格は兎も角、能力的には自分達以上であるために口が出せないだけであって、許しているわけではない。

 

 

「そもそも、お前等成績のための勉強なんかするなよ。勉強の本質は知識の吸収と応用であって、成績を良くするためじゃない。そんなだからゆきかぜも凜子も紫璃も勉強しか出来なくて他に生かせないんだ」

「「「むっ……」」」

「でも、学校の勉強を対魔忍の任務で応用なんて出来るの……?」

「出来るさ」

 

 されど、当の本人は優等生達の瑕疵を容赦なく指摘する。

 ゆきかぜも凜子も紫も思わず口を噤んだ。彼女等も自身の頭の良さは、あくまでも良い成績を確保できるだけと自覚はある。

 人類の積み重ねにおいては、研究が進められていたものが、全く別の分野や発明で生かされる場面が多々ある。蒸気の熱エネルギーを回転エネルギーに転換する蒸気機関の発明、人類初の抗生物質ペニシリンの応用と実用化などがいい例だ。

 

 学んだ知識を如何に利用し、応用するか。それこそが勉強の価値であり意義。

 言うが易し、行うは難し。この世の人間でそれが出来る者は圧倒的に少数派だ。

 大半の人間は、学んだものを学んだままに使う他ない。自斎もまたそうした者の一人という自覚はあるらしく、率直な疑問を口にする。

 

 

「例えば国語なんかは、作中の人物の心理描写なんかが現実の人間の心理と重なる部分があるし、発展されれば心理学にも行き着く。単純に文学を読んでるだけでも潜入任務の時には教養を身に付けていると思わせられる」

「な、成程……」

「それに語彙力が高ければ、言葉巧みに誘導もできる。つまり、爆弾やら素材を手に入れるのに役に立つ」

「うぅん……?」

 

 

 一瞬は感心したものの、一気に雲行きが怪しくなる会話に自斎は思わず首を捻る。

 

 

「英語も似たようなもんだな。取り敢えず、世界の公用語みたいなもんだし、大半の国で使えるから他の国で任務に当たる時には身に付けておく必要性がある」

「だよねぇ」

「米連の基地に侵入した時には、これで爆弾の置き場やら素材になりそうなものが何処にあるのか分かるから、喋れなくても聞き取りだけでも覚えておいて損はない」

「う、うーん?」

 

 

 英語も問題ないゆきかぜはうんうんと頷いていたが、方向性が見えてくる発言に眉根を寄せる。

 

 

「歴史も重要だ。人や国の経験は値千金だからな。愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶと言う。これまでの積み重ねを知る事は重要だ」

「うぅ、分かったわよぉ。真面目にやればいいんでしょ?」

「ああ、特に爆発物を作ったり発見した歴史とか知ってれば、手元に何もなくても爆弾造れる」

「ちょっと???」

 

 

 記憶力に問題があるのか、或いは覚え方が悪いのか、歴史に苦手意識のあるきららもこの有り様。

 

 

「数学と理科もいいぞぉ! 攻撃の威力計算とかも出来るようになるし、化学薬品の知識があれば薬も毒も扱えるということだ」

「ま、まあそうかもしれない」

「爆弾の効果範囲を計算して最大の効果を発揮するために必須だし、薬品の知識はそのまま爆弾の知識だ」

「そ、そこは重要か……?」

 

 

 数学も理科も苦手な紅は、そうかもしれない? そうなのか? そうか? 疑問の三段活用に至る始末。

 

 

「爆弾の事ばかりではないか、お前は!」

「そうだよぉ? 学校の勉強は全て爆弾に繋がっている。爆弾はいいねぇ。人類が生み出した文化の極みだよ。何せ、手に入れてさえしまえば素人でも扱える上に、あらゆる問題を文字通りに吹き飛ばしてくれる」

「違う! 小太郎、それは違うぞ!」

「いいや、違わないね。ノーベル先生の生み出したダイナマイトの稼ぎで作ったノーベル賞が天才共をどれほど熱くさせ、盛り上げたか。やだこれ、爆弾人類の発展に貢献しすぎじゃね???」

「このふうまのボンバーマン!!」

「誉め言葉だね」

 

 

 爆発物に対する厚く熱すぎる信頼感に、ほぼ全員が悲鳴を上げる。

 オレが一番爆弾を巧く使えるんだ! と言わんばかりの小太郎。とんだ危険人物である。

 

 単純に敵を殺すだけでなく、使い方次第で暗殺、潜入、陽動、偽装工作と使用方法は多岐に渡る。扱いに関しても、忍法の習得や発展に掛ける時間を考えれば比較的容易。

 異能や忍法もそれぞれ利点はあるが、単一の機能しか持たない事や逆に応用範囲が広すぎて扱い難くなってしまう事を考えれば、遥かに優れた武器とも言える。

 何よりも、手に入れさえすれば誰でも扱える有用性がある。強者と弱者の境を吹き飛ばし、人種性別年齢の垣根を越えて扱える。同時に其処が危険性にもなるが。

 

 

「冗談はさておき――――いや、冗談じゃないな。本気だが」

「其処は冗談にしておかんか。いや、本気でだぞ」

「心に留めておくくらいはする。それよか獅子神、ほらよ」

「あっ、と……何なの、これは?」

「やるよ」

 

 

 何処まで本気なのか。いや、彼の性格を考えれば全てが本気で本心か。

 兎も角、紫に刺された釘すら全く無視して、小太郎は自斎に一つの贈り物を投げ渡した。

 

 突然の投擲に、彼女は驚きつつも封じられつつも神と重なった視界で問題なく受け取った。流石に逸刀流を修めているだけはある。

 投げて寄越されたのは手のひらサイズのケース。飾り気のない黒に質素なもので、誰でも一度は目にしたことがあるだろう。

 

 

「眼鏡……?」

「ウチの一門は邪眼持ちが多い。ただ、やっぱりお前と同じで自分の力を扱いきれない奴もいてな。んで、歴代の当主やら傘下の奴が苦心して作った封印用の道具だ。同じ視線を媒体にする能力なら効くはずだ」

「で、でも、貴重なものなんでしょう?」

「別にいい。今はオレの下に能力を扱いきれない奴はお前だけだ。それに、そんなバイザー付けて学校通う気かよ。目立ちたがりか?」

 

 

 ケースの中に入っていたのは、フルリムの黒縁眼鏡だった。

 仮面の下は目付きの悪さを印象付けてしまう三白眼は自斎にとって密かな劣等感(コンプレックス)であるが、丸みの強い形状は随分と印象を優しくするに違いない。

 

 無論、眼鏡型というだけで実際は能力を封印するためのもの。邪眼殺し――いや視線殺しとも言うべき、ふうま一門が研鑽の末に辿り着いた特殊な道具だ。

 ふうま一門の多くが発現させる邪眼は視線そのものに魔が宿り、数多くの効果を発揮する忍法。中には、能力を扱いきれずに自他を問わずに傷つける者もいれば、能力を十全に扱える故に悪用する者も居た。

 そうした者達を救うため、或いは粛清するために、自然と邪眼に対抗する術の多くが生み出された。この眼鏡もその一つ。

 

 レンズ部分には、とある霊峰でのみ採掘される霊力が宿った水晶が使われており、複数の忍法を用いねば霊力の全てが失われてしまう。

 効果は単純。内から外へと向けられる視線のみを完全に遮断するもの。その際に、光は失われず、かけた者の視界は一切損なわれない。

 この効果により、全ての邪眼は効果を失う。眼鏡という形状を考えれば粛清ではなく、潜入などに向いた邪眼ながらも暴発の恐れがある者のために作られたのは想像に難くない。

 

 自斎の神遁も邪眼と同じくその視界に収めた者に効果を発揮する。

 ならば、視線殺しも効くだろうという理屈――いや、現段階では希望的観測に過ぎない。

 

 

「あれ? でもアンタ、アサギ先生から何にも聞いてなかったんじゃ?」

「聞いてなかったけど、お前が前向きになったら、アサギ校長のことだから学園に通えと言うだろうと予測はしてた。オレんところに配属されるとは考えなかったけどな! 考えたくなかったが!」

「じゃ、じゃあ何故?」

「いや、もう関わるつもりなかったから餞別と暴発予防。学校で暴発されたらオレまで巻き込まれるし、そんな目立つもんつけてくんなよ。制服と絶望的に似合わんぞ、それ」

 

 

 小太郎の内面は複雑怪奇で多くの矛盾に満ちているが、他者に対する評価は一貫している。

 ちゃんとしているか、していないか。真面目に生き、前向きに努力をするものこそに高い評価と褒賞を与え、不真面目に生き、何の努力もしなければ改善すら見せない者には評価すらせずに近寄らない。

 

 少なくとも、任務を終えた時点の自斎は小太郎の目からはちゃんとしていた。

 関わりたくなどなかったが、アサギを通じて手助けする程度の労であるのなら、払うに値する。だからこそ、こうして家の倉庫で眠っていた逸品を引っ張り出してきた。

 

 

「…………ありがとう。大事にするから」

「おぉ、そうかい。神遁を扱えるようになったらちゃんと返せよ」

「どうしようかしら。もう貰ってしまったし、こうしてプレゼントを受け取るのは初めてだから、返さないかも」

「がめつい奴だ」

 

(良い! 実に良い! 小太兄、女たらしとしてちゃんとしてるね!)

 

 

 小太郎の行為が何を意味しているのか。

 少なくとも畏怖や危険視ではなく、忍法そのものでもなく、自身の存在と在り方を認められたと受け取った自斎は薄っすらと笑みを刻む。

 両手で眼鏡ケースをしっかりと握り締める自斎を目にした小太郎は悪くいいながらも、口の端は僅かに持ち上がっていた。

 

 そして、自斎の内心に堪りつつある感情に、小太兄ハーレム推進委員会会長のゆきかぜは満面の笑みを浮かべている。

 

 

「とは言え、効果があるかはまだ疑問だ。明日は学校が休みだから、試してみようと思うんだが――――」

「私は新参だからまだ任務はないな」

「ごめん、私は別の任務入っちゃってる」

「私もだ。空遁は便利だからな。独立遊撃部隊の任務がなければ引っ張りダコだ」

「私もきららと一緒にセンザキに向かう。どうも、不穏な動きがあるらしくてな」

「そんなことだろうと思ったぜ。災禍も天音も別任務だし――――仕方ねぇ、アイツ等に頼るか」

 

 

 視線殺しが効果を発揮するか定かではない中で、いきなり使わせるつもりはない。

 どの程度の効果があるのかを確認しなければならず、万が一神が暴走した際に備えて抑え込めるだけの人物を立ち会わせなければならない。

 

 しかし、独立遊撃部隊の面々は生憎と別任務が入ってしまって暇がない。

 仲間である自斎のために一肌脱いでやりたいのは山々だが、それで対魔忍の任務を疎かにも出来ない。

 

 行き詰った小太郎は、仕方なしにポケットからスマホを取り出して、文字を打ち込んでいく。 

 

 

「でも、誰を……?」

ふうま宗家(ウチ)の部下。数は災禍と天音を含めても10人くらいしかいないが、皆有能だ」

「それって、藤原さん、だったけ? と同じってこと?」

「そういうこと」

 

 

 小太郎の言葉を聞き、自斎ときららが真っ先に思い浮かべたのは、スーパーマルチドライバーの藤原 悟。

 小太郎自身が手元に置いておきたいと認める者達こそが数少ない彼の家臣になる。そうでなければ、弾正反乱の時点で全てを売り払っている。

 尤も、現時点でふうま一門の出は殆どいない。他家からの警戒を鑑みてもあるが、弾正の時代では彼の眼鏡に叶う者は殆どいないか、既に一門の別の家に属していたからだ。

 

 様々な事情、思惑を抱えた者達であるが、共通するのはふうまではなく小太郎個人に忠誠を向け、ある一点において他者とは隔絶した技能・能力を持つ者。

 災禍、天音、悟のことを考えれば、どれほどの人材が控えているのか分かろうというもの。

 

 だが、不思議なことに話題に上がるのは独立遊撃部隊の面々ばかりで、ふうま一門の者が対魔忍の中で話題に上がることは少ない。

 それは即ち、小太郎にとって部下の面々は極力伏せて置きたい“切り札(ジョーカー)”であると示していたのであった。

 

 

 

 

 

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