うーん、毎ターン奥義ぶっぱパもいいけど、スキルパはやっぱりレイドの討伐時間がはえー。これからはなるべくスキルパを組んでいこう。
五車ガチャで石も金もすっからかんの中、次なるガチャがお気にのキャラでない事に震えて待つ日々。ふふ、武者震いがするのぅ!!(ヤケクソ
そして、今回もぜーんぜん話が進んでおりません。
この章はゆっくりねっとり書いていこうねぇ、後の苦労のためにねぇ!
では、どぞー!
「んー、やっぱ慣れてる奴と訓練するのはキッツいなぁ……」
「こんなものだろうな」
顔合わせと互いの実力を確認するための訓練が始まってから二十分後。
決着は意外なほどあっさりとしたものだった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「うっ……ぐ……くそっ……」
涼し気な表情で立っている雅臣と日影と対照的に、自斎と紫はその場にへたり込んでいる。
外傷はないが、大量の汗を流して髪が額に張り付いているのも気づいていない様子。
実戦形式の訓練は、いずれも男子側の圧勝で幕を下ろした。
紫と雅臣の戦いは性能と技術、何よりも戦いに対する思考力と展開力の差による決着。
防御を前提とせず、攻撃を攻撃で潰し合いながら体力を奪い合う様は正に泥仕合。
当初、拮抗していたかに見えた戦いは、徐々にであるが雅臣の側へと天秤が傾いていった。
共に近接戦に特化したタイプであるが、紫が武器持ちの間合いであるのに比べ、雅臣は格闘一本と更に間合いが狭い。
こればかりはどうしようもない欠点かつ弱点であるが、彼は巧く利点に変えた。
紫は一撃に全てを込めるような破壊力を追求した攻撃ばかり。これを見切った雅臣は果敢に間合いの内側へと飛び込み、攻撃の破壊力が頂点に達する以前、完全な形になる前に潰す戦法を取った。
とは言え、実現するのは難しい。強化系の忍法を持っていると思われるほどの身体能力を持っている前提がなければ成立しない。並みの対魔忍がそんな真似をすれば、中途半端に形となった攻撃だけでも肉は潰れ、骨が砕けてしまう。
両者ともに自らの強味を最大限生かす戦い方であったのは間違いない。だが、雅臣の方があらゆる意味で一枚上手だった。
不利な状況、能力を逆に生かす位置取りと立ち回り。
常に相手の全力を出させず、自身の得意を押し付ける戦術の組み立て。
そして、他を圧倒する近接格闘技術。
一般上がりでありながら、肉体的にも精神的にもこれほどまで戦えるなど、類を見ない才気だ。対魔忍であろうともこの域に辿り着けるのはほんの一握りと断言できる。
雅臣が五車に迎え入れられてどれほど時間が立ったのか知らないが、自身よりも鍛える時間も覚悟を決めるまでの時間も圧倒的に少なかったはずにも拘わらずこの結果。
結果は他者の言葉や如何なる過程よりも圧倒的に雄弁。だからこそ紫も素直に認めざるを得ない。
「申し訳なかったな――いえ、申し訳ありませんでした、龍造寺先輩。私は愚かなほどに貴方を侮っていた」
「いやぁ、普通じゃない? 生まれた時から対魔忍になるために努力してきたんだから、そういう人からしてみたらさ、オレみたいなのは馬鹿にされてるって思うでしょ」
「その言い分も一理はありますが、落ち度は落ち度です」
「うへぇ……こっちの八津先生と同じですっごい真面目だぁ」
己の過ちを認め、心からの謝罪を口にする。
それだけではない。これ以上の非礼は晒すまいと立ち上がって深々と頭を下げた。
最大限の謝意と敬意が形になった行為に、雅臣は思わず頭を掻きながら困惑した。
元一般人だからと馬鹿にされるなど慣れたもの。事実、馬鹿にされても仕方ないと思っているし、逆に幼い頃から対魔忍として生きようと決心した者からすれば自分の存在など業腹極まりないと考えている。
彼にしてみれば、紫の行為はする必要のない行い。それでも頑なに押し付けられては受け取らざるを得ない。
何処までも生真面目で、頑固で、自他共に厳しい。その根底にあるものが、優しさ故だとも知っている。
疑っていたわけではないが、雅臣は此処でようやく目の前の紫が、自身の知る紫と何ら大差のない存在だと受け入れるに至り、思わず苦笑いを浮かべるのだった。
「ずるい……ブラフに、忍法……こっちが気軽に忍法を使えないの知っているのに畳みかけてきて……それにあんな手まで……」
「当然だ。不平等な現実だけが平等に与えられている。生まれも育ちも状況も能力も、何もかもな。お前はまだ恵まれてる方だ。だから泣き言なんて口にするな。対魔忍だろ?」
日影は口では厳しい言葉を吐きながらも、へたり込んだ自斎に手を差し伸べる。
小太郎が言葉にしないまま、彼女の教育を承った彼なりの配慮だ。
自斎は先程までの訓練を思い出し、練度の違いを嫌というほど思い返す。
自らの能力でありながら、自分以外の何者かの力を借りるという点において、自斎と日影の忍法は確かによく似ている。
それでも、これほどまでの差が生まれたのは才能ではなく当然の帰結。自らの力と向かい合って鍛え上げたか、目を背けて逃げ続けてきたかの違いに過ぎない。
余りの実力の違いに、元々後ろ向きな性格である自斎はより一層、自身の不甲斐なさを悔やんでしまう。
例え、人でなくとも、言葉が通じなくとも。
自己が何をすればいいのか、相手が何をして欲しいのかを理解しあっている。
日影と操る式神の信頼関係は本物。然したる指示もないままに繰り出される連携の苛烈さが何よりも雄弁に物語っていた。
複数の式神による波状攻撃を前に成す術もなかった。
手数が違う時点で不利、更には数を相手にする以上、対応は相手が動く度に一手、二手と遅れていく。
その遅れに付け込むように、生まれる意識の
影の中に貯蔵している武器の数々ばかりでなく、武器を取り出す行為そのものが自斎に猶予を与えると判断すれば素手で格闘を挑む果敢さ。
一対一、集団戦、忍法の練度、武器の扱いから遠中近全てを想定した戦いの組み立て方、忍法を考えれば後方支援や潜入任務、破壊工作でも問題なく熟せるだろう。
何処を切り取っても高い能力で纏まった
格が違うとは正にこの事。
元々自覚のあった自斎は、追い詰められると危険を承知で神遁の行使へと踏み込もうとした程だ。
相手が教育と考えている以上、自身の全てをぶつけねば非礼に当たる。かつての彼女であれば決してなかった選択肢であったが――――今は一人ではない。
エウリュアレー襲来に際して知った油断も隙もない小太郎であれば、危険に対する術の一つも用意してあると信じていた。
自らの理想に極めて近い対魔忍、井川 日影。今日出会ったばかりであったとしても、その実力に対する衝撃と感動はある種の信頼を抱かせるには十分過ぎる。
苦渋ではなく決意によって選択した方針は――――結局の所、何の意味もなかった。
神遁の行使。もっと具体的に言えば、バイザーを上げて、相手を視界に収める。たったそれだけの行為が、日影の前では成立しない。
次々に喚び出される式神に加えて、式神自らが日影を視界から遮るように動くばかりか、日影自身も視界から外れるように動き続ける。
成す術がない。自斎の置かれた立場はそう表現する他はなく。歴然とした実力差によってじりじりと追い詰めらた挙句、一撃すら入れられずに敗北した。
「勉強になったろ?」
「ああ、嫌というほどな。やはり、私はまだまだ未熟だ」
「本当に、紫さんの言う通り」
被害を被らないよう少し離れた木陰でのんびり観戦していた小太郎は、欠伸を噛み殺しながら二人に告げる。
予期していた結末、分かり切った結果、確定していた最後。それほどつまらないものは他にない。
日影と雅臣を部下とした小太郎にはこうなることは最初から知っていた。何せ、自斎と紫の得意とする分野、特異性そのものの上位互換に等しいのだから。そして、少女達の反応もまた予測の範疇だった。
苦い敗北を喫しながらも目に曇りはない。寧ろ、強固な意志の輝きが瞬いていた。
得意分野における上位互換との遭遇。人の反応は二つに一つ。全てを諦めて目を逸らすか、それとも克己と共に立ち向かい続けるか。少なくとも、二人の選択は後者だった。
元々克己心も向上心も強い紫は勿論の事、明確な目的を持つ自斎にとっても、分かり易い目標であると同時に越えるべき壁。落ち込んでいる時間などありはしない。
その表情に、雅臣も日影もまた表情を引き締める。
先を行く者として恥じぬ背中を。そして、そう易々とは追い抜かれはしないという強い自負心。
妬みも嫉みも、恨みも憎しみもない。あるのは相手への尊重と敬意。
相手を陥れようとも、足を引っ張ろうとも思わない。純粋かつ単純に相手の上をいく強い意志。
其処にあったのは、発展と消費を旨とする現代社会が理想とする健全な競争関係だ。
全て、小太郎の思惑通り。
まるで孫悟空を弄んだような釈迦のような有り様だ。
偏執的なまでの猜疑心から、出会う全ての者の過去を知り、本人すら自覚していない性格や瑕疵、反応を想定した上での行動。これもまた彼らしさだ。
ただ、思惑通りに動かされた人間に不快感はない。相手が何を許すのか、何を許さないのかまで考え抜いているからだろう。
「さて、じゃあ早速実験開始だ」
「いや、待て! 私はお前に護衛として雇われた身だ。やれというのなら従うが……」
「うへぇ……オレは兎も角、井川も獅子神も八津も疲れてると思うけど」
「オレも問題ない。それよりも本気ですか? こんな状態で、危険すぎるでしょ」
「ええ、井川先輩の言う通り。ただでさえ制御が効かないのに、いま忌神を呼び出したら確実に……」
木陰から出た小太郎は、頂点に達した太陽の光に目を細めながらそう告げた。
瞬間、彼以外の全員が顔を顰めた。どう考えても正気の沙汰とは思えない。
忌神の危険性は皆が十分に聞き及んでいる。
自斎が裸眼で捕らえたものを、ただの肉塊に成り果てるまで叩き潰す以外には何も分からない超常存在。
実戦形式の訓練で彼女だけではなく、紫も体力を消耗した状態。前者はただでさえ制御の効かない忌神を僅かでも抑えておく事すら儘ならず、後者はまだまともに戦えまい。
雅臣にしろ日影にしろ似たようなものだ。
消耗の度合いは二人に比べれば圧倒的に少ないものの、ゼロではない。
生誕、経緯、思惑、能力の一切が分からない正体不明の神相手であれば、防衛や逃亡に徹するにせよ、万全の状態であることが望ましいのは疑う余地はない。
だが、小太郎は肩を竦めながら四人の考えを否定する。
「馬鹿言え。今が寧ろチャンスだ。獅子神は消耗している。てことは、神遁を発動させられる時間も少なくなる」
「ああ、成程。文字通り、神としての格が違う。似てはいるがオレのとは消耗も桁違いだろうな」
「神や自然霊として、それだけこの世の法則から外れてるんだろうよ。顕現できる時間が少なくなれば、こっちや周囲への被害も必然少なくなる。トータルで諸々考えても、逃げ回るだけなら今が一番リスクよりもリターンの方がデカい」
「ほんっとぉ、よく考えてるよなぁ」
「リスクマネイジメントもこっちの仕事だしな」
常に先を考えて、自らにとって最も利のある選択を歩む。
それぞれの訓練は能力の向上や目標の提示だけでなく、今日の本命――即ち、自斎の神遁を視線殺しで抑えておけるか否か――を見据えていた。
抑え込みに成功するのならば良し。
これで自斎は今まで以上に周囲と馴染め、協力する術や生き方を学ぶことはできる。
才気もあれば、努力にも前向き。頭の使い方を知らないだけで、決して悪くはない。自身が時折、言葉をかけてやるだけで急速に成長するだろう。
抑え込みに失敗してもまた良し。
顕現時間が短縮しているのなら、雅臣と日影がいれば十分に抑えておける。最悪、暴れる忌神が顕現できなくなるまで逃げ回ればいいだけの話。
そうなった所で、得られる事実は値千金。忌神に関して僅かばかりでも情報を得られれば次に繋がる。正体を探るヒントを得るにしても、能力として扱うにしても必要不可欠となる。
どちらに転んでも彼にとっても自斎にとっても美味しい話にしかならない。
「でも……」
「怖気づいてんのかよ。そういうことなら初めからオレに頼るのやめてぇ?」
「御託も葛藤もいいから。オレは命を賭す覚悟はしてるが、捨てるつもりは一切ない」
「ま、安心しろよ。オレは目の前で仲間を死なせるつもりはないから。でも、やりたくないならやらなくてもいいよ」
「任せておけ、獅子神。何が起きても、貴様を傷つけさせはしない。無理強いするつもりはないがな」
自斎にこれから起きる結果は分からなかったが、これまで起きた結果が脳裏に鮮明に蘇る。
典型的なPTSDによるフラッシュバック。それほどまでに目にしてきた現実と両親ですら見捨てた事実は彼女の精神に深い傷を負わせていた。
バイザーから覗く顔色は蒼白。呼吸は浅く過呼吸気味。手足は震えて、思うように動かない。
そんな彼女を前にして小太郎は何を今更と呆れ気味に、日影は時間の無駄と吐き捨てるように告げる。
小太郎は兎も角として、日影のうんざりとした態度で分かりにくいが、言葉をそのまま受け取るのなら哀れな後輩のために命を賭けると言っていた。
対照的に雅臣と紫は自斎を勇気づける言葉を口にしていた。
背中を押す意図などまるでない。怖いのなら逃げても構わないとも語っている。
自身の能力で苦しむなどとんと経験がない故に、二人には自斎の気持ちは本当の意味で理解など出来ない。だからこそ、逃げ道を用意してやる人間も必要だと考えているのだろう。
自らと向き合う事の重要さを厳しさ共に語られ、投げ出してしまうのも一つの手と諭されて、自斎は揺るぎかけた決意を再び固めるには十分すぎた。
小太郎は本心からの言葉であったが、それぞれの異なる優しさの触れた彼女の歩みは決定した。
これまでのただ生きるだけの歩みではなく、恐怖を抱えながらも暗闇の荒野に挑まんとする特別な歩み。人はそれを勇気と呼ぶ。
「やるわ。お願いします……っ!」
自斎の宣誓と共に、雅臣が一歩前に出る。
紫が消耗している今、単純な力と技で忌神を抑えておけるのは彼だけ。
今の彼は攻撃を受け止めるための盾であり、あらゆる攻撃を無効化する城壁そのもの。
「余り無理するなよ」
「わーってるよ。どうにもならなくなりそうだったら退避一択。手足をもがれても逃げろ、だろ?」
「ならいい。死んだら殺す」
「はは、そんじゃ死ぬワケにはいかねーな」
口調も体勢もあらゆる意味で自然体――――ながらも凄まじい気迫と集中を見せる雅臣のすぐ後ろで日影もまた両手を開いた状態で構えを取っていた。
式神以上の戦闘能力を誇る雅臣がいる以上、自身の能力を最大限発揮するのは
一秒でも長く忌神を抑え、一秒でも長く雅臣の命を紡ぐ。場合によってはこの場に居る全員の撤退を支援する。多芸かつ多彩な影遁を持つ彼にしかできない役割だ。
「貴様は下がっていろ、役に立たん」
「そうさせて貰う。逃げるのもオレが一番最初だからな?」
「全く、貴様と言う男は、臆病なんだか命知らずなんだか……」
「成程、お前の疑問も尤もだ。だが、その二つは不思議な事に何一つ矛盾しない」
二人の更に後ろで、紫は自らの役割を果たすために斧を構えて一歩前に出る。
別段、小太郎を守ってやりたい訳ではない。確かに恩義を感じているし、感謝もしているが、八割方は自斎のためだ。
何もせず、不平不満ばかりを口にするすくたれ者ならば、馬鹿者と一喝と正論で捲し立てて終いだが、それがどれだけ小さな一歩だったとしても、自暴自棄ではなく勇気と共に踏み出した一歩であるのなら彼女は決して笑わずに貶さない。
紫は規律を優先する優等生と思われがちだが、アサギへの態度を見れば分かる通り、それ以上に情が深い。
僅かな時を共に過ごし、どうしようもない部分を見てきた小太郎に対してすら、親しみや信頼を抱いているほど。
そうした自分が、時に非情に徹さねばならない対魔忍として相応しくないと思っているからこそ、他人にも自分にも厳しく接しているに過ぎない。そうした仮面が外れれば、残るのは現実的でありながらも優しいだけの少女が残る。今は、その部分が顔を出しているのだ。
そんな中で小太郎だけが人の後ろに立って半分逃げの姿勢。
何か事が起これば、紫すら盾にして逃げる気満々であった。これはこれで彼らしいし、人間らしいと言えるが、コイツも大概クソ野郎である。
「…………っ」
自斎は瞼を閉じたまま、一人で居る時以外には決して外さなくなったバイザーを取り外す。
緊張から心臓の鼓動だけが嫌に響き、原生林の其処彼処から聞こえる筈の鳥の囀りや虫の鳴き声、木々のざわめきすら遠い。
今こうしている間にも、忌神が齎した被害が瞼の裏で鮮明に蘇っていく。
潰れた肉塊と化した大人達。悲鳴を上げる幼い日の友人達。諦めと絶望の目で己を見る両親。
肉と骨が潰れる音が聞こえる。圧力に耐えられずまろび出た臓物の匂いが鼻腔を刺激する。口の中に入った血の味を思い出す。
その全てを退けて、受け取った眼鏡をかける。
指先に震えはなく、動作に淀みはない。恐怖に打ち勝つのに大層な覚悟は必要ない。
それを既に彼女は学んでいた。自分よりも遥かに弱いはずの小太郎が、弛まぬ努力と覚悟を以てエウリュアレーに立ち向かった。凜花も、きららも、自身よりも遥かに強大な存在へと戦いを挑んだ。
誰の胸にも恐怖はあったはず。ならば、どうして立ち向かえたのか。
言うまでもない。僅かな克己と勇気、そして――――他者の存在があれば、人は恐怖になど決して負けないのだ。
「…………あぁ」
精一杯の勇気と他者への信頼、全てを台無しにする覚悟を胸に、自斎は瞼を開く。
漏れたのは感嘆の吐息。
自斎の視界は忌神の視界と重なっており、当人にも説明できないが確かに見えている。
ただ、やはり生の光とは本来の視界とは微妙に異なるように見える。とても人間の言葉では表現しきれない。
だから、この感動をどう表現すればいいのか。
何年か振りに己が眼で認識する人の顔。優しい表情も、険しい表情も、何一つ感情の浮かんでいない無表情だったとしても、胸が張り裂けそうなほど、叫び出したくなるほどの衝動があふれ出してしまいそうだ。
「こーれーはー……大丈夫な感じ?」
「神気も感じ取れないし、獅子神の後ろにいる奴の気配も増していない。成功だろうな」
「あー、そっか。井川はそういうの分かるんだ。なら心配ないな!」
「ふぅ、全く。とんだ肩透かしもあったものだな」
自斎にも周囲にも、何の変化も現れない。
神が顕現すれば現実は歪み、法則も書き換えられていく。それが神気によるものなのか、神の存在故なのかは分からないが、あらゆるモノに影響は現れる。
それらが一切見受けられない。
生まれ持った忍法上、僅かな神気や気配を頼りに探さねば新たな式神を得られない日影の弁であれば、信用に値するだろう。
誰もがほっと胸を撫で下ろし、思い思いの言葉を口にする中、一番後ろに居た筈の小太郎は我が物顔でいの一番に自斎へと歩み寄っていた。
「よう、これでようやく初めましてだな。獅子神 自斎」
「えぇ、そうね。これからも頼りにさせて貰うから。勿論、それだけじゃない。この恩は必ず返すわ。よろしくね、隊長さん?」
彼女を真っ直ぐと見据える小太郎の表情は、普段からは考えられぬほど優しげで、まるで何かを讃えているかのよう。
自斎は喜びの涙を流しながらも、同じく笑みを浮かべて向かい合う。彼女もようやく、彼の心に触れたような気になった。
目に映るもの全てが疑いの対象、己の意思や能力も例外ではない。
そんな猜疑心だけで出来た心を持つ彼が、唯一信じるものがあるとするのならそれは人の――――
「若もさ、何のかんので、
「何がああいうのか、よく分からないが……どうだか。あの人は大概ろくでなしだろ」
「えー、よく言うー。このこのぉ、そういう若だから付いていってる癖にー」
「フッ……そういうお前もな」
「ハッ、全く男どもは……素直に良かったと言えないのか。格好つけどもめ」
見守っている協力者の顔にも、笑みが刻まれている。
この日は、世間にとって何の変哲もない何気ない一日であったが、自斎にとって劇的な変化を齎した記念の日となった。
出会いからは短くとも、苦楽を共にせずとも、境遇を肩代わりできなかったとしても、祝福は確かに此処に在る。
獅子神 自斎の歩まんとする道は果てしなく険しいが、道程は決して遠くはない。何せ、頼りになる仲間が共にいる。此処にはいなくとも挫けない心だけは、繋がっているのだから…………神との対峙の時は、すぐ目の前にまで迫っている。
尤も、その前に小太郎プロデュースによる特訓特訓&特訓、死んでも許しを与えない生き地獄が待っているのだが、彼女はまだ知らない。
「えっ」
「頑張れ獅子神! 頑張れば死ななくて済むからな!(虚ろな目」
「気をつけろ、其処から先は地獄だぞ(死んだ魚の目」
「全く、何を軟弱な! あの男が課す訓練など――――」
「頑張れ八津! お前死なないからって絶対メチャクチャやらされるからな!(確信」
「「えっ?」」
「気をつけろ、其処から先は地獄だぞ(真顔」
「地獄の特訓を越えてきたオレの部下だ。面構えが違う(邪笑」
「「――――――えっ???」」