ガチャは鹿君か。男の娘は性癖ではないし、性能もそんなでもなさそうだからスルーで!
それにしても、RPGはいい脇役多いよなぁ。今回のツッパリ君然り、ヘスティアさん然り、アンブローズ様然り。
そして、アンブローズ様は登場内定予定。どれくらい先になるか分からないけどなぁ~。RPG本編に負けず劣らずの面白キャラにしてやる……!!
苦労さん「私の出番だな!?」
若様「あぁ゛~、苦労の音~~~(白目」
今回はエロの導入回――と思われるが、次回も普通の回なんじゃ。リハビリが済んでないのでぜーんぜんエロ回が書けないっていうネ!
エロを期待してる人はすまんのぅ! では、本編どぞー!
小太郎宅に戻った後、程なくして夕飯がテーブルの上に並んだ。
メインは金目鯛の煮つけ。切り身やまるまる一尾を使うのでなく、干物を使ったものだが、下処理は丁寧に行われ、砂糖の代わりにハチミツを使った甘さは舌に優しい。
副菜は春菊と人参の白和え、汁物は玉ねぎとしめじの味噌汁。若い小太郎の舌に合わせて、いずれも濃い目の味付けがされていた。
かつて隆盛を誇った一族の主と執事の食事にしては、些か以上に侘しい食事。まるで冷蔵庫の在り合わせで作った一般家庭のようなラインナップであるが、料理についても一流の天音が手掛ければ、味に不足などある筈もない。
「御馳走様でした。何か、また一段と腕上がってない?」
「お粗末様です。ふふ、当然です。一流の料亭で身分を偽って短いながらも修行してきましたから」
(どうして忍の技能をそういうことに使っちゃうの???)
味に五月蠅いわけではなく、食事は栄養摂取と割り切っているが、どうせ摂取するなら美味い方が良いという小太郎。
加えて、災禍や天音に手料理を振舞われており、舌も肥えている。ハチミツによる味付けもしっかりと気づいていた。効率主義でこそがあるが、無駄を無駄という理由だけで切り捨てる男でもなく、違いの分からない男でもない。
率直に天音の腕前が向上した事を指摘すると、返ってきたのは花が咲くような笑みととんでもない事実。
若のためならえんやこら。クソほど忙しかろうが無理やり時間を捻出して腕前を磨くなど、正に執事の鑑である。
ただ、小太郎としてはオレのために其処までと天音の心遣いに感動すべきなのか、オレのために其処までと技術の無駄遣いに呆れるべきなのか分からない。
夕餉は、談笑を交えながらの互いにとって久方ぶりの穏やかな時だった。
美味い方がいいが、食べれればそれでいいという小太郎。自分の腕前は若の舌を唸らせるものであって自分が楽しむものではない天音。
それぞれが食事自体に対してさほど思い入れのある方ではないが、唯一共通するのは誰と食べるか、重要視という点。少なくとも、二人にとって顔を付き合わせて同じ食卓を囲むのは掛け替えのない幸福であった。
「では、片付けますね」
「オレもやるよ」
「いいえ、こればかりは譲れません。ゆっくりとお茶でも飲んでいて下さい」
執事服を脱いでいた天音は急須で小太郎の湯飲みに茶を注ぐと、小太郎が止める間もなく立ち上がって食器をテキパキと片付けていく。
テーブルのすぐ後ろにあった流し台に音もなく食器を並べ、デフォルメされた可愛らしい犬の刺繍が施されたエプロンを身に付けると食器を洗い出す。
執事としての仕事を奪われたくなかったのではなく、激務に次ぐ激務、様々な難題を抱えた小太郎を少しでも休ませたいのだろう。当人とて様々な任務や執事の業務を熟しているであろうに、呆れるほどの献身だ。
しかし、疲れなど微塵も見せない。
事実、天音は疲れなど感じていない。今の一時は肉体的な疲労を吹き飛ばすほど精神に活力を与えてくれたからだ。
鼻歌交じり食器を洗う後ろ姿に、小太郎は呆れたとも喜んでいるとも取れる笑みを浮かべる。
普段は優秀だというのに、小太郎自身の事となれば狂犬に豹変する。かと思えば、二人きりでいる間は何処にでもいる女性と変わらぬ姿を見せる。
辟易させられる事は度々あるが、こうした穏やかな彼女と共に在れるのであれば、必要経費と割り切れる。そして、己のようなロクデナシを好きだと慕う女と過ごす時間は何ものにも代え難い。
「……わ、若っ?!」
「何だよ、驚かなくてもいいじゃないか。それとも嫌か」
「い、嫌ではありませんが……」
その後ろ姿に溜まらない愛おしさを感じた小太郎は、思うままに行動する。
天音の願いを全て無視し、気配を殺して近寄ると脇の下に両手を滑り込ませて抱き締める。
突然の出来事に天音は裏返った声で悲鳴のような声を上げる。動揺は本物で、危うく洗っていた食器を落とすところだった。
何をされているのかすぐに理解できたのだろう。頬が紅を差したように朱に染まり、慌てて後ろを振り返った。
意地悪げな笑みを浮かべて更に腕へと力を込める小太郎と目が合うが、天音は肯定することなく、かと言って拒絶もせずにされるがまま。
「ま、まだ、洗い物の途中ですから……」
「いいじゃないか。別に後でも出来る。でも、こうして触れ合える時間は限られてる。だったら、そっちを優先してもいいだろ」
「そうかも、しれませんが……あっ、んっ♡」
形ばかりの叱責の声には力もなければ、覇気もない。
相手を諫めなければならない立場と理由もあるが、当の本人がそれを望んでいないのは明らか。
それに気を良くした小太郎は、天音の華奢ながらも鍛え上げた身体を弄り始める。
胸や股間のような露骨な部分ではなく、胎や脇腹といった直接的でないにせよ、どうしようもない愛撫の動き。
快楽と呼ぶには余りにももどかしい刺激ながらも、小太郎の欲情と愛情を同時に感じ、天音は甘い声を出しながら全身を震わせる。
女を求められる愉悦に、女としての価値を肯定されているかのようで途方もない優越感が湧き上がる。
一方で、深く深く愛し合った記憶が蘇り、何度も何度も教え込まれた小太郎の男を求めて、女の本能が一瞬でマグマのように煮え滾る。
「あっ、あっ……耳、弱いから……♡」
「天音が欲しいな。身も心も、全部。オレにメチャクチャにされるドMなところも、年甲斐もなく思い切り甘えてくるところも、また欲しくなった」
「わ、若ぁ……ん、んんっ……♡」
耳を甘く噛まれ、耳朶に舌を差し込まれると、天音はそれだけで立っていられないほど膝を震わせる。
普段の背筋をピンと伸ばす凛とした立ち姿など微塵もなく、内股に太腿を擦り合わせる姿は、執事には程遠い。
耳元で囁く声と共に、顎を掴まれて後ろを向かされる。
天音の瞳もまた欲情で濡れており、あらゆる準備が整っている事を告げていた。
そして、今度は己から唇を求めた。執事ではなく、一人の女として、一匹の雌として小太郎が欲しいとせがむように。
唇と唇を触れ合わせるだけの、まるで子供同士のような稚拙なキス。
それだけで、天音は誰が見ても頂きに達したと察するほど腰を大きく震わせた。
徐々に、徐々に。弱火でじっくりと煮込むように、互いの思いと欲情を交換し、理性を蕩かせていくが――――
「誰か来たな」
「そのようですね」
「何だよ、いい所だったのに」
「少し見て参ります」
家の外に現れた一つの気配に、男と女の本能は瞬く間に強固な理性の仮面で隠れてしまう。
互いにすっかりその気だったと言うのに、驚きに値する切り替えだった。尤も、小太郎は不満たらたらの表情であったが。
今の今までこれから与えられる快楽と愛を期待して、濡れていた瞳は何処へ行ったのか。怜悧な光を宿した天音の瞳は乾ききっている。
大切な一時を邪魔された怒りすらなく、ベストとジャケットを着込むと玄関へと向かっていく。今、彼女の頭にあるのはふうま宗家の邸宅を訪れた何者かへの応対だけ。
誰かが訪れるにしては遅い時間とは言い難いが、そこそこの関係では二の足を踏む時間帯。
そして、チャイムを押すでもなく敷地に入るだけ。何かあると思うのが普通だろう。
老害共の手先が小太郎の粗でも探りに来たか、対魔忍以外の勢力が五車に潜り込んだのか。どちらにせよ、小太郎にとっても天音にとっても歓迎すべき事態ではない。
内情を探られようとも別段問題はない。諜報や隠密として家人に気配を悟られる程度の手合いに腹を探られたところで痛い部分にまで手は届かず、それ以上の手合いであったとしても対策は無数に取ってある。
ただ、放っておく事も好ましくはない。
体面上、舐められたところで問題はないが、実力と人員を舐められるのは問題である。
小太郎は大した小僧ではないが、その部下が厄介。そう思われているのが理想的だ。そうであれば小太郎自身が動き易く、優秀な部下が周囲にいると分かっていれば相手方は直接的に手を出し難くなるからだ。
しかし、戦闘が始める気配はない。
本当に客人だったのか、と肩透かしを喰らった気分の小太郎であったが、次に疑念が浮かぶ。
今日、誰かを招く予定などなかった。ならば、予定外の来訪者は何者なのか。思い当たる節はない。
アサギや九郎といったトップの面々であれば、小太郎の邸宅に仕掛けられた罠の存在を知っているが故に、事前に連絡を入れる。
災禍やゆきかぜと言った近しい人間かと言われても、それは違う。彼女達はこの家の合い鍵を持っており、敷地に入って棒立ちになることなどない。
ならば、誰なのか。
訝しみながらも、天音が客人として応対しているのなら、少なくとも悪意ある存在ではないか、と考えつつも懐の拳銃の位置を確認して居間にある四人掛けのソファに腰を下ろす。
いずれにせよ、彼には待つことしか出来ない。ならば、慌てず騒がず、かと言って警戒心も緩めずに待つだけ。
「若、御客人です」
「ああ、分かった」
それから暫くして、天音が戻ってくる。
客人を扉の外へと待たせているのだろう。僅かに視線を廊下へと向けている。その視線は明らかに客人に対する心配を向けていた。
小太郎は返事以外を口にせず、居間から客間へと移動しようとしたが天音に片手で制される。そのままでいい、ということだ。
天音が小太郎の許可なく客を招き入れるのは珍しい。
執事として、客を上げるか否かの判断は主人に委ねるべき。まずは客人の名前を告げ、主人に指示を仰ぐのが普通だ。
その上、来客用の部屋に通さず、主人のプライベートな空間に招くなど、いっそ異常事態ですらある。
いよいよもって客が何者かを読めなくなった小太郎は珍しく困惑を見せるが、疑問はすぐに氷解した。
「――入れ」
「…………」
天音に促されるまま、居間に入ってきたのは紫藤 凜花だった。
専用の対魔忍装束を着の身着のままであるを見るに、甚内からの謹慎命令が明けた後に何らかの任務へと従事してきた帰りと言ったところか。
人並み以上に身嗜みを気にする彼女にしては珍しく、髪は好き放題に跳ねて乱れており、額に浮かんだ汗に前髪が張り付いている。
何よりも目を引くのは、何かを堪えているかのような表情。見ている方が取り乱してしまいそうなほど落ち沈んでいた。
「では、若。今日はこれで失礼させて頂きます」
「あ、あー…………そうか。御苦労さん、ゆっくり休んでくれ」
(凜花、頑張れよ)
「…………ッ」
天音は客人を上げるだけ上げて、もてなしの用意すらせずに自分は上がろうとしていた。
確かに、仕事を終えるには良い時間帯。
老害からの妨害で共に生活できず、任務以外での接触は週に数度しか許されていない以上、切り上げ時としてはちょうどいいかもしれない。
だが、本来の彼女であれば考えられない行動だ。主人の世話もそこそこに、客人の歓迎すらしないなど執事の名折れ。
それはつまり、天音はいま執事としてではなく、個人としてこの場に立っている事を意味していた。
主人よりも先に休みを貰う不敬を、恭しい一礼と共に詫び、天音を踵を返す。
帰る場所はアサギの計らいで小太郎の身に何らかの危険が迫れば即応できる距離に位置し、災禍と共同生活を送っている一軒家。
その場を去る直前、彼女が言葉を送ったのは主人である小太郎ではなく、成長を遠くから見守ってきた凜花だった。
簡潔で何のアドバイスにもなっていない背中を押すだけの一言であったが、俯いていた顔を上げさせるには十分すぎる。その瞳に宿っている光を確認すると、天音は僅かな嫉妬を抱きながらも笑みを浮かべて去っていった。
残された二人に会話はない。
痛いほどの沈黙が下りたが、それぞれの様子は全く異なっていた。
平然とした表情で口火を切るのを待つ小太郎は観察するような視線を向けるだけ。
対する凜花は、何事かを口にしようとはしているのだが、本人の意思の問題なのか、言葉が出てこずに視線を彷徨わせ、俯くを繰り返していた。
臍の前の両手の指が組まれては解かれて所在なさげに揺れている。不安と焦りが滲み出ているかのようだ。
「……まあ、何だ。突っ立ってるのも何だから、座れば?」
「……ええ」
(………………えぇ、オレの隣じゃなくて他の所に座って欲しいんだけど)
このままでは埒が明かないと判断した小太郎は、少しでも凜花をリラックスさせようとソファに座るように促した。
だが、彼女は何を思ったのか、四人掛けのソファ以外にも一人掛けのソファが二つもあるのに、小太郎の隣に腰を下ろした。
小太郎としては、必要ないと分かっていながらも警戒心を嫌でも高めねばならず、辟易とせざるを得ない。
しかし、凜花は隣に座りこそしたものの、口を開こうとしない。相変わらず、己の裡で渦巻いている何かと戦っているかのよう。
重苦しい空気と沈黙が支配する居間に、なけなしの勇気と共に声が上がったのは、それから暫く経ってからだった。
「……今日は、」
「ああ、突然どうかしたのか?」
「その……私を、独立遊撃部隊に入れて欲しくて……」
「そりゃまた。任務の時も言ったが、随分と都合の良い話だ」
凜花の口から発せられたのは、小太郎の予想通りの言葉だった。
新たに独立遊撃部隊に配属となった自斎にせよ、きららにせよ、それぞれの思惑はあれども根底にあるのは小太郎への好意だ。
エウリュアレーの襲来に際して振るった辣腕は信頼に値し、性格そのものは警戒しなければならない闇の住人に近い性質を有しているが、自ら裏切るような真似はしない。
小太郎に対して一際強い思いを抱いている凜花であれば、配属を願い出るのは分かり切った事だった。
それでもなお、彼は凜花に対して辛辣な言葉を投げ付ける。
全ては事実。あの任務でもう二度と会わないのならば兎も角、今後も付き合っていくのならなあなあで終わらせる訳にはいかない。
何に問題があったのか。本来は何をしなければならなかったのか。あの場における最善とはなんだったのか。
目を逸らしたくなるような現実であれ、目を背けてはならないものはある。反省と改善とは常に起こしてしまった現実を直視し、もう二度と同じ未来を発生させないという強い意思の下でのみ成しえる事柄だ。
失敗自体は許容する。彼は成功よりも失敗の数の方が多い。故に、問題視するのは失敗それ自体ではなく、何の反省も改善もせず同じ失敗を繰り返す愚劣さである。
ただ、自斎やきららに比べれば、凜花への態度は多少好意的ではあった。
少なくとも二人よりかは筋を通している。アサギに進言して独立遊撃部隊に配属して貰う方法は、人員の配置を決める権限がアサギにある以上、決して間違いではない。ただ、筋が通っていない。
もし独立遊撃部隊に入りたいのならば、隊長である小太郎にまずは話を通しておくべき。何よりもまず、先だっての失敗を謝罪してから全てが始まる。それが失敗した者の筋の通し方だ。
年若い二人は、年相応の生き急ぎ方で最短距離を突っ切った。責任を取るとは、地味で全うなもの。その言葉の真意を、まだまだ理解できていない。
その点、凜花は精一杯の勇気で筋を通そうとしている。
どれほどの罵倒があっても、どれだけの厭悪があったとしても、彼女は決して折れないだろう。
その覚悟があるのなら、目をかけてやるだけの価値はある。どんな現実も受け入れて、今回の失敗を次の機会に生かすことが出来るから。
――そして、そうした建前の裏に隠された本音にも小太郎は気付いていた。
「都合がいいのは分かってる。小太郎なら、そういうって思ってた。だから、私は私に出来ることをやるだけ」
「口だけなら何とでも言えるさ。お前は――――おい、泣くなよ」
「……ごめん、なさい……ごめんね……」
「…………別に、謝って欲しいわけじゃない」
不意に、凜花の瞳から大粒の涙が零れた。
新雪のような長い髪に隠されて表情は窺い知れなかったが、膝の上に置いた手の甲には何粒もの涙が止まることなく落ちては弾けていた。
小太郎も、凜花が今回の失敗に対して謝罪しているわけでないのは気付いている。
それでもなお気付かない振りをしていたのは、彼女の謝罪に意味などなく、とうの昔に終わった話を引き摺っているに過ぎなかったからに他ならない。
「ごめん……ごめんね……小太郎の、一番辛かった時に、何もしてあげられなかった……一緒に、居てあげることも出来なくて……」
「………………どうしようもなかった。それだけだろ」
彼女が口にしたのは、もうどうしようもなくなった過去への悔恨。
最愛の母を失い、自らの行いによって災禍も天音も二度とまともな日常生活を送れないのではないかというほどの重傷を負って、小太郎は明確に変わった。
開く左目は底の見えない虚のような色を帯び、見えるものも見えないもの何一つ例外なく疑いの対象。その在り方は人のものとは程遠く、怪物と言っても差し支えない。
そんな彼の変化に耐えられず、一度は恐怖から逃げた。時が経つに連れ、恐怖は後悔に代わり、今もこうして彼女の心に暗い影を落としている。
余りにも見当違いで愚かしい謝罪と後悔に、小太郎は呆れも笑いもしなかった。見当違いで愚かしいが、余りにも眩しく穢れのない悔恨だったから。
彼の言う通り、どうしようもなかった。彼に変化がなかったとしても、傍にいることなど不可能だったろう。
二車家の辿った道を見ればそれは明らか。名ばかりになったとは言え、かつての主君筋とそれなりの戦力を保有した傘下が共に在ることなど、対魔忍の権力者が造反と決起を警戒して許すなど在り得ない。
彼女の父である甚内とて同じ判断を下した筈だ。どれだけ凜花が共に在る事を望もうとも、周囲はそれを許してはくれなかっただろう。
「そんなもの、言い訳だわ……方法なんて……」
形振り構わなければ、方法はいくらでもあった。
父の判断すら無視して会いに行けばよかった。家を守るために勘当を言い渡されるだろうが、そうなれば家の縛りから解き放たれる。長老衆も家ではなく個人の付き合いであれば警戒する事はなかったに違いない。
何なら、それこそアサギに頭を地面に擦り付けてでも助けを求めればよかった。彼女の情に脆い性格を考えれば、どれだけ諫めの言葉を口にしようとも、凜花の純粋な願いを決して無下にはしなかったと確信している。
けれど、そんなものはもう遅い。
幼いながらも頭の片隅にあった考えを押し込めて、
小太郎の変化に耐えられない恐怖、小太郎に拒絶される恐怖から蹲り、目を閉じ、耳を塞いで何もしてこなかった。恐怖に立ち向かわず、逃げ出した結果。それが全てであり、後悔の源でもある。
「いいんだよ、別に。どうしようもなかった、それで済ませれば」
「小太郎は良くても、私が良くない……私が、私を許せないの……」
「…………どうして?」
言わせるべきではない。これ以上を聞いてしまえば、自分は引き返せなくなる。何よりも、凜花まで己の事情に巻き込むことになるではないか。
それでも小太郎は問わずにはいられない。
この余りにも愚かしく、余りにも純粋な思いを向ける少女の悔恨を消し去るにはその方法しかなく、その悔恨を認め、愛でてやれるのは己以外には存在しなかったから。
「小太郎のことが、好きだった、から……ずっと、ずっと、大好きだったから……」
「……ああ、くそ」
「ふふ。やっと、言えた。小太郎は、嫌だった? 小太郎から逃げた女に、こんな事、言われて」
幼い頃、小太郎は遊ぶ時には誰よりも笑い、誰よりも先頭に立って皆を引っ張って振り回した。
その癖、誰かが付いていけずに歩き出すと、何時の間にか隣に立って共に歩む、そんな少年だった。
当時から周囲の目を考えて行動する打算に塗れた性格だったのか、元々はそうした当たり前の優しさを持った少年だったのかは分からない。
そんな事はどうでもいい。
それが本来の彼でなかったとしても、幻滅などしない。
彼を好きになった以上、あくまで彼を信じ抜くまで。人が変わってしまったとしても新たな魅力を発見して、ただ共にあるだけ。それが、凜花の望む女の在り方だった。
泣きながらも微笑む凜花の言葉に小太郎の口から漏れたのは、聞くんじゃなかったという悪態だった。
「好きって言われて嫌なのは、極度のイカれか心がねじくれてる奴だけだ。オレは其処までじゃない」
「なら……許して、くれる?」
「元々お前を憎んでもいなけりゃ怒ってなんかいない。でも、お前が言って欲しいなら言うさ――――許すよ。オレは凜花の全部を許す」
本当にこうした事には弱く、ちょろい男である。
ゆきかぜにせよ、凜子にせよ、紅にせよ、きららにせよ。他人の事はちょろいちょろいと言いながら、実際の所、当人が一番ちょろい。
自らを好きだと囀る相手の瞳に、何の嘘偽りもなければ。
心の奥底まで見通して、打算はあったとしても真実の愛情があったなら。
相手の本気に応えずにはいられなくなり、自らもまた本気になってしまう。
其処に打算も計算も計画もない。猜疑心や在り方が後天的に魂へと刻まれた癖ならば、これは先天的な魂の形とも言うべき本能だ。
凜花の涙を拭ってやり、手の甲で頬を摩る。
掌で触れなかったのは、愛しく思った物だからこそ、壊れ物のように扱いたくなる心理だ。
「……いいの?」
「オレはいいよ。お前の方こそいいのか? 甚内は許さないだろうに。もう、家には帰れないぞ」
「……嬉しい。家の事は仕方ないわ。紫藤の嫡子として、あるまじき行いだもの。でも、いいの。好きな人と一緒に居られるなら」
「物好きだな。それに、他の女にも手を出してるの、知ってるだろ?」
「ええ、勿論。お互いに勝手よね。でも今はとても幸せだから。今は、これに浸らせて?」
「ああ、分かったよ」
頬に触れる手の甲の感触だけでは物足りなくなった凜花は、掌を合わせて握り締める。
面倒な家の束縛も。惚れた相手が自分以外の女と愛し愛されていることすらも関係ない。歪であろうとも確かにある幸せ、それが今の彼女の全てだった。
流れる涙も既に悲哀と後悔から幸福と歓喜へと意味合いが変わっていた。
鼻が触れ合いそうな距離で互いの瞳を見つめ合い、嘘偽りのない確かな感情を確かめ合う。
吸い込まれるように僅かにあった距離すらゼロになり、唇が触れ合った。
「ついさっき、天音とこうしたばかりなんだが。我ながら最低だな」
「ええ、本当。でも、最低なのは私も同じ。お似合いよね」
「そうかぁ? そうかなぁ?」
「そうよ」
「なら、遠慮しない。今日、凜花をオレが女にして、オレの女にする。可愛いところも恥ずかしいところも全部見て、頭の天辺から爪先まで全部オレのにする」
「ほ、本当にしちゃうの……?」
「ああ、するよ。凜花が泣いても絶対に止めない、許してって叫んでも止めない。顔も頭の中もぐちゃぐちゃになるまで、男はオレの事しか考えられない女にするからな」
「あ、あぁ……んくっ……あ、シャワー、それに電気も……!」
「もう遅い」
「ひ、酷い……んんっ――♡」
任務帰りで汚れた身体や匂いを落としたいという乙女心による僅かな抵抗すら無碍にして、小太郎は身体の上に覆い被さる。
酷いと口にした凜花であったが、その瞳はどうしようもない期待と欲情で濡れており、何度となく生唾を飲み込む始末。
――――夜闇の中、邸宅から煌々と漏れる光に交じり、女の幸せを叫ぶ歓喜の声と雌の快楽に咽ぶ啜り泣きが響くのに、そう時間はかからなかった。