対魔忍RPG 苦労人爆裂記   作:HK416

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ほあぁぁぁぁ!! 大人ゆきかじぇと若天音が同時にキタァァァァァ!!
何か、だんだん五車ガチャの間隔短くなってきてない? 時間が経つのを早く感じるのは年を喰ったからなのか?!
これは来月の生活をガン無視して回さざるを得ない。性能関係なしに寝室を見たいんじゃい! できればイチャラブでな!

では、本編を開始する前に注意事項。
今回の話に出てくる実在の人物を検索する際には自己責任で。ホラー苦手な人は特に注意でな。ブラクラレベルの画像が出てくるから。フリじゃねーからな! 見るなら自己責任で! では、どぞー!




苦労人が苦労すると必然と部下も部隊も苦労する羽目になる

 

 

 

 

「――――由々しき事態だ」

 

 

 数日前に完成したばかりの独立遊撃部隊の本部にて、小太郎は重苦しい表情と共にずんと腹に重く響く声色を発する。

 天井では照明が煌々と輝いているにも拘わらず、部屋の照度が下がった気さえする。まるで、彼の心境を表しているかのようだ。

 

 その声を聴いた者はごくりと唾を飲み込み、或いは一体何があったのだ、と困惑をしめしている。

 付き合いが長い短いに関わらず、小太郎が此処まで重苦しい雰囲気を放ち、本気で事に当たらねばならないという気になっているのを見た者は誰一人として存在しない。固唾を呑んでしまうのも無理はない。

 

 その上、集った者にも問題があった。

 その場に居たのは独立遊撃部隊とふうま宗家の面々。その上、独立遊撃部隊に名を貸しているだけの不知火の姿すらあった。

 独立遊撃部隊は新設したばかりでメンバーはまだまだ彼の納得する領域に手を掛けていないが自由に采配可能な人員であり、ふうま宗家の臣下は彼にとっては文字通りの切り札であり血を分けた手足。

 それぞれが有能であるが故に別件の任務や仕事によって顔を突き合わせて会話が出来る機会すら稀にも拘わらず、それを一堂に会するように小太郎が無理やり手配したのであった。

 

 もうこれの面子を揃えている時点で、彼の身に降りかかってきた特に理由のない苦労の重さが分かろうというものだ。

 

 

「で、これだけ人を集めて何するつもりよ、アンタ」

 

 

 小太郎の発する雰囲気に気圧されまいと口を開いたのはきららだ。

 ただ、いつもの反射的な反発ではなく、真剣さを汲み取ったが故に、事態の開示を求めているだけであった。

 残る独立遊撃部隊の面子――ゆきかぜ、凜子、紅、凜花、紫、自斎も同じく神妙な面持ちで頷いている。

 これから待ち受けるのが如何なる苦難であったとしても、愛や恩、期待を小太郎に向ける身、逃げるつもりは欠片もないと言葉もなく語っていた。

 

 

「その前に、まずはこれを見てくれ」

 

 

 小太郎は自らの後ろに立ったまま控えていた天音と永久に片手を上げて指示を出す。

 二人は同時に頷くと手にしていた何らかの資料を円卓に座った全員へと配っていく。

 

 手渡された瞬間に資料を開いて目を通す者。

 手渡された資料に視線を落として怪訝そうな表情をする者。 

 資料の内容も確かめず、表情を歪める者。

 全く興味を持たず、部屋の隅で丸くなって欠伸をかいている熊。

 

 反応は各々違っていたが、共通して理解できたのは、資料が様々な対魔忍の個人情報(プロフィール)を記したものであるということだけだ。

 

 

「これが、アサギから送られてきた……」

「どういうことだ……?」

「何でこれをふうまに?」

「…………あー…………」

「……………………成程」

「え? 何? 白野さんと井川は何か分かったの? これで?」

 

 

 重力すら感じられそうな重い声色で告げる小太郎の科白に、地獄の特訓(序の口)ですっかり仲良くなった紫と自斎は同時に疑問の言葉を口にした。

 アサギから送られてきた、ということは何らかの指令であることに間違いはない。

 だが、どんな指令であるのかまでは結論を出せない。察しが悪いのではなく、与えられた情報が少な過ぎて多くの可能性の中から正答を導き出せないのだ。

 対魔忍の個人情報が送られてきたのならば、真っ先に思いつくのは個人か、部隊か、家か、或いは派閥の内部調査だろう。

 しかし、資料の数は多く、家柄や同じ部隊という共通点すら疎らで何らかの調査をするにしては情報に一貫性というものが無さすぎる。

 

 そんな中、啓治は気の毒そうに頬を掻き、日影は静かに呟く。

 間に挟まれていた雅臣は驚きの声と共に首を左右に振って二人の顔を何度となく見比べるばかり。既に何が起こっているのかを知っている災禍、天音、永久以外は似たような反応をしめすばかり。

 

 ふうま宗家の中でも啓治は群を抜いた知性と知識の持ち主。数少ない情報と小太郎の態度からでも凡その予測を立てるのは難しくはあるまい。

 日影は元井河一門でありながら現在はふうま一門に鞍替えした身という難しい立場故に、周囲の目や変化に敏感であり、独自に集めている対魔忍内部の情報と察しの良さから由々しい事態とやらに当たりをつけていた。

 

 

「これはな、独立遊撃部隊に配属を希望している対魔忍の情報だ」

「ふーん、自分から小太兄のところに来たい、なんて物好きだよね――――なんて言えないんじゃない? ヨミハラとお母さんの件も噂になってるし、その上伝説の魔女まで撃退したから当然でしょ」

「ゆきかぜの言う通りでしょうね。これだけの大戦果だもの、小太郎君をどう思っているかは別として、部隊に興味を持たない方がどうかしてるわ」

「確かに。だが、由々しい事態とは言えないのではないか? 他の家が内情を探ろうと差し向けた者や益だけを貪ろうとする輩も混ざっているだろうが、有用な者だけを選んで引き入れればいいだけの話だ。そういうのはお前の得意分野だろう。そもそも独立遊撃部隊はそう言った者を選別するための撒餌としての側面もあった。我々も手伝えないわけではない、何か問題があるとは思えないが……」

 

 

 由々しき事態と小太郎は言ったものの、蓋を開けてみれば何のことはない当然の結果である。

 ゆきかぜと不知火が口にした通り、何らおかしい事は何もない。小太郎が様々な意味で侮られていようが、危険視されていようが、今まで上げてきた功績を考えれば、今まで配属を希望する者が現れなかった方が不思議ですらある。

 

 不思議であったのは小太郎の態度の方だ。

 アサギと小太郎の思惑は、独立遊撃部隊で結果を出しながら仲間を集い、成長させた暁には一門の一員として抱え、或いは他家の協力者として手を取り合うことでふうま一門を再興しつつも対魔忍全体の結束を強固なものとしていく流れ。

 意図して足を引っ張る者、苦汁を舐めずに甘い汁だけを啜ろうとする者はいるだろうが、いずれは通る道ならば最終的な目的地へと辿り着くのが早くなったと割り切ればいいだけの話。凜子が疑問視するのも無理はなかった。

 

 ただ、問題があるとするのなら――――

 

 

「凜子の言う通りではあるわ。でも、ね……」

「問題は、その数だ」

「数……って、待て。凜花! 私とお前の資料、同じものかっ!?」

「きゅ、急にどうしたの紅ちゃん? そんなの同じに……同じに……同じじゃない!?」

 

 

 災禍と天音の溜め息と共に告げられた科白に、紅は一つの懸念に思い至り、隣に座っていた幼馴染の凜花に向かって身体を思い切り寄せて手元の資料を覗き込む。

 幼馴染の急な行動に驚きつつも、言われるがままに二つの資料を見比べてみて、更なる驚愕に襲われる。

 

 二人の手元にあった紙束に記された個人情報は全く一致しておらず、同一人物のものは一つもない。

 その行動は事情を知る災禍、天音、永久、事情を察しつつある啓治と日影以外、全く興味を持っていない球磨を除いた全員波及していく。

 結果、分かったのは紅と凜花の資料がたまたま別物であったのではなく、各人に配られた資料全てが別物であった事実だけ。もう此処までくれば、凡その事情は見えてきたようなものだ。

 

 その事実に対して真っ先に口を開いたのは、口調も軽ければ態度も軽いながらも、忍として生きる覚悟はガンギマリしている悟であった。

 

 

「あー、これで全部じゃないんだ。ぶっちゃけさ、全部でどれぐらいいるわけ?」

「お前は気軽に言うよなぁ……」

「別にいいでしょ。忍の仕事なんて出来る出来ないじゃなくて、やらなくちゃならないか、嫌でもやらなくちゃならないのか、なんだからさぁ。若んところにいると忘れがちになるけど、お役目には逆らえないしね」

「まあ、悟の言う通りではあるのでしょうけど…………まだ正確な数字を出していないけど、凡そ対魔忍の半数近く、と言ったところよ」

「……は、半数?!」

 

 

 悟に何一つ間違いはなかったものの、それを気軽な言葉で表現されては小太郎を第一に考える永久としては渋面を作り出してしまう。

 そして、彼女の語った事実は独立遊撃部隊の面々を蒼褪めさせ、ふうま宗家の面子に大きな溜め息を吐き出させるには十分過ぎた。

 

 特に反応が大きかったのは不知火だ。

 ゆきかぜ達は優秀と言えども年若く、対魔忍内部における役割は単純な戦闘要員に過ぎないが、彼女はアサギが対魔忍の頭領となって以後、性急な近代化を進めていく改革期を共に乗り越えてきた間柄。与えられる役割(ポスト)も当然重く、替えの効かない立ち位置。戦闘は言うに及ばず、諜報や情報収集でも活躍し、更には組織運営にも最も深く関わっている。

 そんな彼女が全体の総数を把握していないわけもない。彼女の知る数から半分ともなれば、その数字は4桁に至る。

 他の面々は正確な数字を把握してこそいなかったが、これまで五車で関わってきた対魔忍達を思い出し、生半可な数字ではないだけは理解できていた。

 

 これだけの人数を全員独立遊撃部隊に所属させるなど不可能な話。

 アサギが認めたとしても他の部隊は絶対に納得しない。例え、部隊を掛け持ちし、人材配置の優先権だけを渡す手段を取ろうとも、小太郎への贔屓が余りにも勝ち過ぎている。そもそも、一部隊にそれだけの人材を回してしまえば、対魔忍全体の任務が滞りかねない。

 それに加えて、選別の話もある。これだけの人数の中から有能な人間だけを選出するのは、それだけで相当な労力が必要となる。小太郎はやることが多過ぎてとてもではないが時間が取れない。無理に敢行すれば過労死待ったなしである。

 

 

「いくら戦果を挙げてるからって多過ぎるでしょ。何がどうなってるんですか」

「ふふっ。それはね、そこの二人とアサギと馬鹿どものせいだ」

「ふぇっ?! わ、私ぃ!?」

「ちょ、ちょっとどういうこと?!」

 

 

 余りにも異常な数字に、事態そのものに当たりをつけていた日影であったが、そうなった過程が分からずに疑問を口にする。

 すると、小太郎が顎で指したのはきららと自斎であった。当然、何の心当たりもない二人は自分を指さして慌て始めた。

 

 それもその筈、二人は独立遊撃部隊に配属された事実を誰かに打ち明けてなどいない。

 きららは友人が多かったが、あくまで配属を願い出たのは自分を変えるためであり、小太郎が気になったから。名を挙げ始めた部隊に属して勝ち馬に乗ろうとする意識は全くなく、ひけらかすような真似などしよう筈もない。寧ろ、理由が理由だけに気恥ずかしさすらあって、自分から他人に明かす気になれていなかった。

 対する自斎はもっと悲惨である。凡そきららと似たような心境であったが、これまで人間関係を断ってきた弊害で根本的に自慢できる相手が周囲にいない。友人にゆきかぜはいるが、今はまだそれだけ。クラスメイトは噂を恐れてまだまだ遠巻きに眺めるだけ。両親も親族も近寄ってすら来ないスーパーボッチである。

 そもそも、二人が配属されたからと言って、こうも希望者が続出する意味が分からない。一体、何があったと言うのか。

 

 そのきっかけはアサギであり、強烈に後押ししたのは自らの地位を危ぶむ老害どもである。

 

 事の始まりは、小太郎復帰の日にまで遡る。

 有能ではあるが明るい未来がまるで見ない自斎ときららを小太郎に任せ――押し付けたとも言う。いや、押し付けたとしか言えない、だが――アサギはなーんの決定通知もしないまま政府のお偉方からの査問に出席。

 その途中で、怒り狂った小太郎からの鬼電を『急な任務が!』と偽って査問をお開きにさせ、任務に向かったと見せかけるために闇の町へと繰り出し、ストレス発散を兼ねて目についた闇の組織をてきとーに皆殺しにして五車へと帰還した。

 小太郎に自分には出来ない事を押し付ける! 政府の面倒な追求を交わす! その上日本の平和を守った挙句に自身のストレスも発散させる! という一石四鳥の作戦であった。流石は最強の対魔忍、恐るべき頭脳プレーだ。力業ともいう。

 

 帰還したアサギを待っていたのは、不在の間に溜まった書類の山、山、山。

 不知火を筆頭に、紫、さくらが可能な限り減らしてくれてはいるのだが、どうしてもアサギの最終承認が必要なものもある。ただ、それらは覚悟の上でやったもの、気は重くなるが頭を抱えるほどではない。

 これから迎える自身に向いていないがやらねばならない仕事に向かう地獄の時間に若干震えながらも、ストレスを発散してリフレッシュした心持ちで立ち向かおうとしたのだが、ふと見慣れぬ山に目を奪われた。

 

 中を確認してみれば、目を覆いたくなるほどの妄言が書き散らした嘆願書であった。

 ざっくりと内容を説明すると、ふうま宗家と独立遊撃部隊の解体と、解体後の人員の配置先を書き連ねたもの。

 明らかに、アサギ不在の間に何の承認もなく小太郎への査問を開き、いいように言いくるめられた老人たちからのもの。

 何があったのかをまるで知らぬアサギであったが、これまでの老人たちの振舞いや言い分から何があったのかを察するには容易く、無言無表情で嘆願書をシュレッダーにかけた。彼等の妄想に付き合っていたら、対魔忍は崩壊する故に当然の対応だった。

 

 が、其処で話は終わらない。身勝手な人間の行動力は恐ろしいを通り越して狂気の沙汰だ。

 嘆願書に全く反応を示さないアサギに対し、一部の老人が怒り狂い、アサギの執務室兼校長室にまで突撃する暴挙に出る。

 アサギはこれに対して華麗にスルー。頭の中では老人をボコボコにした挙句に惨殺する妄想でスッキリしながら冷静さを保ち、彼等の言い分が如何に身勝手で道理が通っていないのかを訥々と説明し、追い返すことに成功する。

 

 

『後悔することになるぞ、アサギぃ!!』

『ぐっ……ぶっふぉっ!』

『え? い、今、笑ったか? な、何故?』

『――――いえ、笑ってなどいないわよ? ただ、困った事になるわね、と思って咳き込んだだけ。最悪の場合、私自身が対処する他ないようね』

『…………ぐっ!』

 

 

 最後に捨て台詞を吐いた老人であるが、アサギは思わず噴き出して笑いそうになる。

 老人達の閥は大きい。アサギの閥は最大であるのは疑う余地はないが、老人達が手を組めば数の有利は引っ繰り返る。にも拘らず、この余裕。

 実際、彼等が反旗を翻そうが、ほぼ一人で皆殺しにして鎮圧など朝飯前。尤も、そんな真似をすれば対魔忍組織はいよいよ崩壊するのであるが。

 

 反乱? したければお好きにどうぞ。やるなら私が手ずから殺すわよ、と強気に出られる背景にあるのは無論、小太郎の存在がある。

 母親から当主としての教育を徹底されてきた彼は、家のみならず組織運営の知識は豊富にあり、当人の努力によって実践可能な域にある。

 その上、政治にも明るく、立てる作戦は必ず成功させ、対魔忍内部のみならず外部にも独自の情報網とコネを持つ、環境改変人権お助けキャラSSR。

 

 こんな存在がガチャを引くまでもなく自分の下に転がり込んできたのだからアサギとしては爆笑ものだろう。

 出会った当初は胡散臭さと危うさの付き纏う少年であったが、何気なにしに横から挟まれる口振りや助言には舌を巻くものがあり、彼の言う通りに計画を変更すれば大戦果を挙げられ、警戒を素直に受け入れれば待ち構えていた罠を回避して、敵の目論見は丸潰れ。

 思いつくのは外の道ばかりなのは玉に瑕だが、信頼を置くには十分であり、彼が自ら裏切るような人物でない事が更に拍車を掛けている。

 

 そして、彼女は学んだ。何も自分が何もかもをしなくとも、何もかもを背負わずとも、頼りになる者には素直に頼れればいい、と。

 両親が早死した事実に政府に不信感を抱き、自らを当主として担ぎ出した長老衆への警戒から対魔忍となった当初は誰かを頼るなどという思考を持ち合わせていなかった。もし、かつてのままであれば、アサギの心も態度ももっと張り詰めたものになっていた筈だ。

 最強が最強のまま、最強とは何ら関係のない仕事や責任までを背負わなければならなかった頃とは違い、今は最強が最強のままであればいい。

 

 

『心が軽い……こんな気持ちで敵を塵殺するなんて初めて……もう何も恐くない――――!』 

 

 

 思わず盛大な死亡フラグを立ててしまうほど、晴れやかで軽やかな気持ちになっていた。なお、肉体の疲労度は考えないものとする。

 

 最強の対魔忍はメンタルも最強――――否、最早無敵である。

 何せ、こんな死亡フラグをぶち立てても、ガンギレしながら死亡フラグに鬱フラグ、裏切りフラグに凌辱フラグに悪堕ちフラグを勝手にブチ折りながらも、何故か自分の苦労フラグだけは折れない最悪のフラグブレイカーが隣に居るのだから。

 ただ、力量さいつよ、メンタル無敵と化し、最強の対魔忍(笑)から最強の対魔忍(ガチ)にジョブチェンジしたアサギにも読み切れないものもあった。

 

 

『ど、どういうことなの……』

 

 

 老人達を追い返した翌日、続々と自分の下へと舞い込んでくる嘆願書の山、山、山。

 今度の内容は老人達からのものではなく、家柄も出身も年齢も関係なく、無差別な対魔忍からの独立遊撃部隊に配属を願い出るものだ。

 

 これには流石のアサギも困惑した。

 いずれはこうなるとは予測していたし、小太郎も概ね同意していた。だが、今はまだその時期ではなかった。

 まずは小太郎の周りを信頼のおける若者と部下で固め、十分な下地と実績を作った上でなければ、多くの内患を抱えた上での部隊運用となり、如何に小太郎と言えども瓦解は見えていた。

 

 そもそも、どうしてこのような事態になったのか。

 多くの対魔忍はまだまだ独立遊撃部隊の価値と評価を決めあぐねており、静観を決め込んでいる筈だったにも拘わらず、こうも一気に事態が動き出したのか。

 

 それは老人達のせいであった。

 悪意を以て対魔忍達を扇動し、アサギと小太郎を追い落とすことで甘い汁を啜ろうとしていた――――訳では全くない。単に癇癪と八つ当たりの末にこうなった。

 

 アサギに追い返された老人の一人が何故己の言い分を認めぬのか、何故あんな小娘と小僧が大きい顔をするのか、と周囲に怒鳴り散らしたのが全ての切欠であった。

 その癇癪の一つには、有用な人材を優先して小太郎へと配置する不満も含まれており、まだ誰にも知られていなかったある事実をポロリと漏らしてしまったのである。

 

 そう、獅子神 自斎と鬼崎 きららの独立遊撃部隊への配属である。

 ただ、それだけならばまだ良かったが、最悪であったのはゆきかぜ達はアサギが直接選んだ上での配属だったのに対し、二人の場合は自ら願い出た上での配属だった事。

 これまでのプロセスは小太郎かアサギが部隊員を選出、その後にアサギが承認という流れであり、個人の事情や嘆願など考慮されていない状態だったが、二人が現れたことで前例が生まれてしまったのだ。

 

 

『おい、大丈夫か? 今日は先代の機嫌が特別悪いな』

『いつもの癇癪だ。それよりも、聞いたぞ……!』

 

 

 不満というものは、どのような状況であっても溜まる。

 良い生活を送っていたとしても、恵まれた人間関係を構築しようとも変化はない。ただ、あるとすれば不満の溜まる速度に違いがあるか、不満に耐えられるか耐えられないかでしかない。

 では、癇癪持ちの先代が大きい顔をする家に生まれた、或いは属している対魔忍の不満はどうか。どう考えたところで、不満の溜まる速度も速ければ、不満に耐えられる時間も短くなるだろう。

 

 切欠は単純。だが、速度は爆発的だった。一人動けば三人動く、人間の悪癖である。

 事実は人伝いに噂となり、噂は伝染病のような速度で広がっていく。

 人の口を渡る度に事実は歪められ、一日も立てば、『独立遊撃部隊が近々大々的に人員を募集する』というレベルに話が膨らんでいた。

 当然の不満を持つ者、根拠のない自信で願い出る者、小太郎という目抜けが隊長であるが故に他よりも好き放題に出来ると勘違いする者、ふうまの内情を探ろうと送り込まれる者。ほんの一握りのまともな者。

 溢れ返る烏合の衆は味方である分だけ質が悪い。こうなっては最強の対魔忍も形無しだった。

 

 

『小太郎、任せるわよ(全幅の信頼という名の思考停止』

『アサギ様の御命令だ! 全力で挑むんだぞ!(アサギ様の命令だから思考停止』

(お姉ちゃんもむっちゃんも何も考えてない……! ふうまくんがどうにかなっちゃいそうだけど、私だってどうにかできないし……)

『そうだね、ふうまくんなら大丈夫! 頑張ってね!(どうにもならないので思考停止』

『ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 で、こうなった。

 対魔忍の三女傑の決定により、どうするかは小太郎に丸投げされることになった。なってしまった。

 それは悲鳴も上げようというもの。何せ、小太郎は何一つ悪くないのである。その上、立場上逃げ道もない。ただでさえパンク寸前なのにこれ。パンクは確定していた。

 

 更には噂には尾ひれが付き捲り、独立遊撃部隊に所属すれば強くなれるだの、賢くなれるだの、何をしても文句は言われないだの、挙句の果てには忍法に目覚めていない者でも目覚めさせてくれると言うものまで出る始末。冷静に考えれば、ありえないと考えそうなものだが、人は自身にとって都合の良い事にばかり目が行きがちになるものだ。

 

 

「…………なあ、小太郎」

「何だよ、紅」

「弾正といい、老人達といい、どうしてあの世代は考えなしの行動でお前を苦しめられるんだ……?」

「オレに聞くんじゃねぇよ……! ふんぎぐぐぐぅ……!!」

「ヒェッ」

 

 

 常々感じていた疑問を思わず口にしてしまった紅は、この日一番の怒気を向けられて小さく息を呑んで涙目になる。

 小太郎の表情たるや我が子を喰らうサトゥルヌスと言った有り様で、自己の破滅に対する恐怖と狂気で今にも齧りついてきそうで恐怖しか感じない。赤子の代わりに資料に齧りついている。これと睨みあうくらいなら単身ブラックに挑んだ方がまだマシだった。

 

 本部の空気は最悪の一言だった。

 不用意に弾正の名前を出してしまったことで、並々ならぬヘイトを弾正へと向けている災禍と天音の表情までもがズジスワフ・ベクシンスキーの絵画のようになっている。とても直視できない。

 そして、永久は弾正と直接の関わりがないために平静かと思われたが、そんなことはない。愛する旦那様を害されて、立島夕子の作品のような顔になってしまっている。夜中に出会えば絶叫失禁失神間違いなしだ。

 

 小太郎とふうま三羽烏がこの有り様であっては正に地獄。

 慣れていないゆきかぜを筆頭とした独立遊撃部隊は冷や汗を流しながら必死で目を逸らし、慣れている筈のふうま宗家の面々ですら顔を引き攣らせていた。

 その中でも自斎など酷いものだ。自身の行動が引き金となって引き起こされた事態に、顔を蒼褪めさせて涙目となった上にカタカタと震えている。自罰的な性格にこれはキツい。

 

 誰かが、誰かが空気を変えなければならない! と必死になって空気を変えるべく思考を回すが、四人の怒りと表情の前では恐怖の余りにそんな言葉を導き出せる筈もない。

 

 だが、それでもなお口を開いたのはきららだ。

 思い浮かんだ考えはあったし、何よりも発端が自分と自斎ならば解決すべきは自分、後輩に無理はさせられないと決死の覚悟で口を開く。彼女ですら決死の覚悟を必要とする空気、地獄そのものの空気が地上に顕現してしまっているらしい。

 

 

「そ、そんなことなら簡単じゃない! 全部突っぱねちゃえばいいのよ! どーせ噂で募集もしてないんだ――――ひぃ……そ、そんな目で見ないで……」

「「「「………………」」」」

「いやぁ、それは出来ねーなぁ、この状況じゃ」

「啓治さんの言う通りだ。少しは考えてから物を言え」

 

 

 ふふん、と大きい胸を主張するように身体を反らせながらきららであったが、四人のコイツ何も分かってねぇ、という恐怖画像そのもの顔と虚無の視線に貫かれ、徐々に縮こまる。

 

 無言の四人に代わって口を開いたのは啓治だった。

 歯に布着せぬ物言いで、後押しするように日影が続く。

 

 現在の状況をよくよく理解した二人にとって、きららの言い分は理解出来たし間違ってもいないが、どうしても出来ない理由がある悪手に過ぎなかった。

 

 

「な、なんですってぇ!? 人がどれだけ考えたと思ってるのよ! それに初対面のアンタになんでそんなこと言われなきゃならないのよ!!」

「き、きらら、落ち着け。ほら、四人の顔が……顔が怖い!!」

「そうだよ。井川ももうちょっと気を遣って言いなって……本当に怖いな! 夢に出てきちゃう!!」

 

 

 日影の物言いに、きららは恐怖を忘れて気色ばんだ。

 男嫌いのきららと優しさの分かり難い日影。どう考えても相性の良くない二人は案の定激突する。

 と言っても、きららが一方的に噛みついているだけで、日影は大きく溜め息を吐いて顔を片手で覆うばかりだ。

 

 声を荒げた彼女に対して、四人の視線が突き刺さる。余りにも暗くなり過ぎた表情では目も口も虚のような穴が開いているようにしか見えない。

 もう見ただけでSAN値直葬されそうな邪神染みた顔になっている当主と秘書と執事と侍女から気を逸らしてやろうとした日影の優しさは全く伝わっていなかった。

 お陰で二人のフォローに回った紅と雅臣が悲鳴を上げる始末であった。

 

 

「実際、それが一番良いんだろうがなぁ。アサギさんと若の目論見的にそれは出来ねーんだよ、鬼崎のお嬢ちゃん」

「ど、どういうことよ?」

「いいか? 二人の小目標は独立遊撃部隊で実績を積む事だが、大目標はふうま一門の再興だ。その最中に対魔忍の意識改革やら組織の見直しやって、冷遇されている元ふうま連中を助けたり、最終的には家柄に縛られない一枚岩の集団にしたい訳だ。それは聞いてるか?」

「き、聞いてるけど、それは関係ないでしょう??」

「関係なくもねーんだよ、これが。今回の希望者全員突っぱねちまうと、自信はないけど有能な奴等が二度と入隊を希望なんざしねぇし、大抵の連中は良い印象を覚えるわけがねぇ。マジに人手が足りなくなった時、人を集めたくなった時にこっちから入隊希望者を募っても集まらなくなるし、突っ撥ねちまった後で下手にでれば、相手も気が大きなって強気に出てくる。野球選手が年俸でゴネるアレと一緒だ」

「成程……えーっと、つまり?」

「嫌でもこの人数の中から何人かは受け入れなきゃならないんだよ。それも最低限、邪魔にもならず、家にも縛られない協力的な奴をな」

「そ、それくらいは分かってるし! おじさんが説明してるのに、アンタが口を挟んでこないでくれる?!」

「まーまー、お二人さんっ! 苛ついたって現実が変わる訳でもないから冷静に行こうぜ? 若も、皆もなっ! くははっ!」

 

 

 最後の締め括りを横から奪い去った日影に、きららは更に悪癖を面に出てきてしまう。

 日影は感情的に叫ぶばかりで論理的な言葉を紡がない女が大嫌いであった。彼女の過去を知っていようとも嫌悪を隠す理由にはならず、ギロリと睨み付ける。

 第一次独立遊撃部隊&ふうま宗家内乱勃発の危機直前であったが、社会の酸いも甘いを経験し、プロジェクトのリーダーとして人の上に立ってきた啓治が割って入る。

 

 隣に座った日影の首に手を回し、まるできかん坊の息子を諫めるように笑いかける。

 これには、日影だけでなくきららも怒りを引っ込めざるを得なかった。この二人、相性は悪いが境遇は似通っている。共に父親に裏切られた経験がある故に、自身が抱く父親像を悉く裏切ってくる啓治には何処か苦手意識と同時に尊敬があり、借りてきた猫のようになってしまう。

 その上、二人だけでなくふうま宗家の面々にまでも気を回し、彼が呵々と笑うとブラクラの画像になれば百人が百人とも絶叫する顔になっていた四人もようやく冷静さを取り戻して本部の空気は一変した。

 

 合理性と人間的な優しさが同居する啓治の他者に対する気遣いは人を宥めるには十分すぎた。

 技術力だけでなく、集団内で必ず発生する衝突、その緩衝材としての役割も含め、小太郎は彼を手元に置いているのだ。

 

 

「話が脇道に逸れちまったが本題に入るぞ――――それでは! 第一回独立遊撃部隊大面接大会を開催しまぁぁぁすっ!!」

「どんどん!」

「ぱふーー!」

「ぶぉぉぉーーーーーー!! ぶぉぉぉーーーーーー!!!」

「コタローも災禍も天音も永久も壊れちまったクマ…………いや、四人は大抵こんな感じかクマ」

 

 

 小太郎の宣言に、災禍は部屋の隅の和太鼓を叩き、天音は何処からか取り出したプレイウッドチェアホーンを鳴らし、永久は法螺貝を吹く。

 珍妙な光景に、ノリのいい――というよりも悪ノリ大好きな啓治はいよーっ! 待ってましたー! などと囃し立てているが、他の面々はもうドン引き状態である。

 小太郎は兎も角。小太郎は兎も角。小太郎は兎も角! 普段、冷静沈着な三人ですらこれ。目も当てられない。

 

 球磨の言うように決して壊れてしまったのではない。こうやって無理にでもテンションを上げていかないと身も心も持たないからだ。

 

 

「面接ね、それはいいけど小太兄にそんな時間あるの?」

「は? オレがやるの? え? オレ死んじゃうよ?」

『な、なんて綺麗な瞳をしてるんだ……!』

「オレ死んじゃうよ?」

「大事なことだから二回言ったぁ……」

「もう限界みたいだクマ。小太郎がこの顔をする時はヤベー時だクマ」

 

 

 人の悪意を煮詰めたかのような昏い瞳は何処へやら、見た事もない澄み渡った瞳で本部の全員を見回す小太郎。

 それが逆に皆の不安を煽る。普段、暗い人間のテンションが異常に上がっていれば誰だって心配するのと同じ理屈だった。

 

 球磨の言うように、本当に限界が近い。

 アサギではどうにならない事柄を丸投げされてどうにかなるように奔走し、老害の追求を躱しつつも自らの手の裡や人材を充実させ、反乱を引き起こした骸佐を連れ戻すべく先を見据えて行動せねばならず、帰ってきた弾正を確実に殺すために情報収集と包囲網を構築しようとし、ブラックや淫魔王という能力も判然としない上位魔族への対抗手段を模索し、ナディアの政務を手伝いながら教育を施し、ナディアの領民にアドバイスを与えつつ領地の文化や歴史を学ぶ。

 その全てを並行して熟しつつ、最終的にはふうま一門をして対魔忍を一枚岩の強固な組織へと変貌させなければならない。もう肉体は悲鳴を上げている。

 

 

『死ぬ……死んでしまうぞ小太郎! 対魔忍を辞めろ! 対魔忍を辞めると言え!』

 

 

 と連日連夜肉体は叫び続けているのに、肉体を凌駕する精神力だけで持たせている状態なのだ。肉体も尤もである。

 だが悲しいかな。例え対魔忍を辞めて闇の組織に所属しようが米連に鞍替えしようが彼はどの道苦労する運命。

 アサギとゆきかぜによってロックオンされているし、不知火や九郎とて過労死回避のために死ぬ気で引き摺り戻すに決まっている。

 そうでなかったとしても、対魔忍内部でこれだけの立ち回れるのならば、余所でも同じように面倒事を投げられた挙句、一度やり出したら手を抜けない性質が思う存分に発揮され、何時の間にやら重要な役割(ポスト)にINしたお! になってしまうだろう。 

 

 

「やれっていうならやるけどさ。白野さんとか不知火さんみたいな大人組は兎も角、オレ達学生組は面接なんてやったことないよ? ないよな?」

「あー、オレは大人組だけどやったことないな。手足になってせこせこ働く方が向いてるから。災禍さんや天音さんみたいにノウハウもないから管理職の仕事とか期待されても困るよ」

「その辺りは織り込み済み。私、天音、永久、不知火、啓治、後は日影もいけると判断しているわ。この六人に一人か二人が付く形を取りましょう」

「全員、忌憚のない意見を言ってくれて構わない。一人の視点では見抜けない本性や思惑も、多角的な視点からであれば見抜けるだろう」

「ふむ……それならば、経験のない私達も力になれるし、補佐にも回れるな。問題は数だが……」

「初めは書類選考、その後に直接面接で構いませんね、旦那様?」

「ああ、悪いがその方向で頼む。で、面接を通った奴の資料に乗っている以外の情報を集めて、最終的な判断はオレがやる」

「うーん、私に上手く出来るといいけれど……大丈夫かしら?」

「安心しろ、凜花。迷ったならこう考えろ。コイツになら背中を任せられるかどうか、ってな。お前等は未熟だが感性や考え方はまともだ。それが連れてきたなら、最低限、使い物にはなるさ」

「成程、それなら何とか」

「私達でも出来そう……ていうか、私は日影(コイツ)が主導するの納得できないんだけど?」

「はーーーーーーー、ウザ……」

「あー、それよか若! オレの方も助手欲しいんだけど、そういうのを選ぶのはアリか?」

「全然アリだ。お前の仕事が回れば回るほど、現場の負担が減る」

「今回、球磨は御休みクマ。ケイジんとこの子供と遊んでるクマー♪」

「あら、何を言ってるの球磨? 私の邪眼を使えば貴女でも面接に参加できるのよ?」

「うえっ、藪蛇だったクマー……」

 

(チャンス! チャンス! 今、ハーレム拡大チャンス! お母さんも自斎もきらら先輩も予備軍だけど、もっともっと拡大して小太兄を雁字搦めにして逃がさないようにしないとね♪)

(娘が見たことない顔で笑っていて怖い!!)

 

 

 

 

 

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