代償は大きかった……しかし後悔はしていない。大かぜは勿論のこと、若音の回想などコチラにドストライクなイチャラブ調教だったからだ(涙
性能面で言えば、どっちもぶっ壊れではない感じかな?
大かぜは奥義が唯一無二。若音は色々使いようのあるスキル構成。やるじゃねぇか!
では、今回から新章に突入。
皆大好き小動物二匹のエントリーだ! 若様に殺されぬように祈れ(無慈悲
では、本編どぞー!
ついに出会ってしまった苦労人と小動物
「うへぇ……しんどー……」
「肉体的にも精神的にも思ったよりもきついですね」
「書類見て面接して書類見て面接して。でも一向に書類も面接する人数も減らないこの現実。堪えるわ」
第一次独立遊撃部隊大面接大会が開催されてから早三日。
今日も今日とて、
放課後から学生組も加わって猛スピードで進められていたのだが、書類選考を行う者も面接官も少な過ぎて思う通りには進まない。
今はとっぷりと日も暮れ、一般家庭なら食卓で夕飯になっている時間帯。
まだ面接を控えている対魔忍が居たものの、とある理由で小休止となり、学生達は食堂に集まってサンドイッチなどの軽食を摘まんでいた。
今日の面子は雅臣、凜子、紅、凜花、自斎、そしてこの場にはいない日影ときらら、更にメインとして啓治と不知火が参加している。他の隊員と部下は、それぞれの任務や仕事を熟しているか、昼の時間帯に面接をして今日は上がっていた。
それぞれの顔には疲労の色が濃い。己が主導でないとは言え、慣れぬ事柄は緊張と不安を生み、必要以上に体力と心を削るものだ。
緊張感から解放された雅臣はだらしなく机に上体を預けたまま一口でサンドイッチを頬張って飲み込んでを繰り返していた。
凜子と紅と凜花は眉間を揉み解すか肩を回すかしていて、食欲もすっかり減退してしまっているらしく、皿に乗せられたサンドイッチには手を付けずアイスミルクティーだけを口に運んでいる。
背筋をピンと伸ばした自斎は両手でしっかりとサンドイッチを持ち、もぐもぐと食していたが一口が小さいので小動物感が増している。何故か、視線は食堂の入り口へと向けていた。
「それより鬼崎先輩と井河先輩、大丈夫でしょうか……?」
「相手が白野さんと不知火さんだから二人とも素直に言う事聞くでしょ。心配いらないいらない。今日の面接、予定通りに終わらすにはまだ二、三時間は掛かるから休憩に専念した方がいいって。特に獅子神は明日、任務だろ?」
「気にしなくてもいい。あの二人が悪いからな」
「こればっかりは、ねぇ……」
自斎の口にしたのは、姿のない日影ときららを心配してのもの。
同じ学生組ながらも何故二人だけがいないのか。そして、大人組の二人の姿も見えないのは何故なのか。
理由は実に単純。日影は啓治から、きららは不知火からお説教されているからである。
事もあろうにこの二人、全く別の部屋で別々に面接を行っていたにも関わらず、全く同じタイミングで同時に噴火した。
理由は面接を受けに来た対魔忍の態度。
横柄、傲慢、不遜。受け答え以前に立ち居振舞いからも雰囲気が滲み出ていた。まるで面接を受けに来てやっていると言わんばかりであり、謙虚さなど欠片も感じられない。
面接を受けに来た者は8割がこれに該当し、1割9分9厘は冷や飯喰らいをしている元ふうま、残りの1厘がまともな者達であった。余りにも酷い割合である。
初めの内は常識の無さに対する信じられなさが勝っていた二人であったが、数を熟せば落ち着きを取り戻し、ふざけた態度に沸々と怒りが湧き上がる。
男嫌いで感情を表に出しやすいきらら、人の好き嫌いがハッキリしていて嫌いな人間には容赦のなくなる日影。合間合間に悲惨な元ふうま一門の現状を目の当たりにし、まともな者に癒されながらであったとは言え、二人にしてはよく持った。
面接の終了を宣言した後も居座り、合格なんだろう、貴方達では話にならない目抜けを出して、と宣う者が二人の前に同時に現れた。
どう考えたところでそんな態度を取れば、実力以前の問題で不合格待ったなしなのだが、力業で押し通せると思い込んでいる辺りが実に対魔忍である。
対魔忍内部でそれほど重要視されていない啓治や雅臣、日影は兎も角として、アサギの右腕である幻影の対魔忍を前にしてすらこの態度。
元々過剰な自信を持っていたのだろう。それに加えて、ヨミハラの一件もある。
任務に失敗したわけではないが、噂というのは恐ろしい。不知火だからこそ何の負傷も後遺症もなく無事に戻ってこれたのだが、救出という言葉にばかり目を引かれ、不当に低く評価され始めていた。
彼女はそれを気にしてはいなかった。人の噂など七十五日。優秀と認める対魔忍が一度の失敗や判断ミスで不遇を被る光景は何度も目にしてきたことであり、実力さえ本物ならば其処からの再起はそう難しくもなかったからだ。
だが、確かな実力に裏打ちされた余裕――評価を改善しようと躍起にならなかったのは、今回に限り裏目に出たのであった。
『更地みたいな想像力と都合の良い思考しかねぇのか、テメェは……』
『いい加減にしなさいよアンタァ!!』
ただでさえイラついていた二人に堪えるなどという選択肢など既にある筈もなく。
日影は啓治と雅臣、自斎がいなければ面接に使っていた空き教室を影の式神で覆い尽くしていただろうし、きららは不知火と凜子、紅、凜花がいなければ相手を氷漬けにしていたに違いない。
幸い、迫力に怖気づいた相手は啓治と不知火が必死に諫めている間に逃げ帰り、事なきを得たのだが、二人に対して流石にお咎めなしとはいかず、今に至る。
自斎の同情と心配も納得である。
確かに感情を抑えきれなかった日影にもきららにも問題はあるが、それ以上に面接を受けに来る側の態度に問題がありすぎた。
頭の痛い問題に、その場に居た全員は今一度、揃って大きな溜め息を吐くのであった。
「ところで、ふうまは? 彼なら面接の状態を隠しカメラでも仕掛けて見てそうですけど……」
「獅子神も、若について理解してきちゃったなぁ……」
「まあ、何となくは……」
雅臣の複雑ながらも感慨深げな表情と言葉に、自斎も複雑な表情で応じる。
小太郎の人となりを理解する。たったそれだけの事なのだが、良い事なのか悪い事なのか判然としない。
理解を深めるとは、近づいていくという事、染められていくという事でもある。付き合いの短い自斎ですら、小太郎が自身の想像を超えた人の道を外れた行為に手を染めているのは薄々察している。そんな彼に近づく、信頼は本物であるが、素直に喜べないのもまた事実。
二人揃って微妙な表情になるのも無理はなかった。
なお小太郎によって尤も染められているのはアサギとゆきかぜである。
アサギは染められた結果、精神的に無敵となって最強の対魔忍(ガチ)にジョブチェンジ、ゆきかぜは狙った獲物を逃がさないハイパーグラビティハーレム拡大エンジョイガールという母親ですら理解不能の生物と化している。
いずれは自分もあんな風になっちゃうのかなぁ、と悲しめばいいのか、恐怖を覚えればいいのか分からない雅臣と自斎を横目に、自分から染められに行った物好き達は口を開く。
「今日はセンザキへ知り合いに会いに行く、とか言っていたな。任務ではないようだったが……」
「ならアイツのところだな。私もきららと任務でセンザキに行った時、帰りに顔を出してきた。相変わらず元気だったぞ」
「ああ、銃兵衛の……あの子、まだギャングスターだのなんだの言ってるの?」
「え? 対魔忍、なんですよね? ギャングなんて、どうして……?」
「骸佐が反乱を起こす前くらいにね、突然ギャングスターになるって言い出した挙句、対魔忍を抜けたのよ」
「抜け忍じゃないですか……!」
「そうだ。性質の悪いことにまた強くてな。一家揃って粛清部隊を躱して、センザキに居を構えて闇の勢力の仲間入り。まあ、悪い奴ではないからな。アサギ校長も抑止力に成り得ると後回しにして貰っているんだ」
「何だか、よく分からない人、ですね……?」
「「私達もよく分からない」」
小太郎の会いに行った銃兵衛という抜け忍は、自斎にとってエキセントリックな性格にしか思えず、思わず宇宙を垣間見た猫のような顔をする。
紅と凜花も同じ様な顔をして、同じ様な感想を抱いたのだろう。遠い目をして、後輩の顔を眺めていた。
金崎 銃兵衛。
彼もまた小太郎の幼馴染の一人であり、元ふうま一門に当たる。
二車の傘下であった金崎家に生まれ、幼くして金崎家伝来の邪眼にも目覚めていたために骸佐や凜花と同じく将来を嘱望されていた。その繋がりもあって、小太郎と引き合わされたのである。
弾正反乱後、骸佐と共にアサギに下り、五車で生活を送っていたが、家や自らの立場の危うさなど何のその。接触禁止令の出ていた小太郎は勿論の事、疎んじられていた紅、対魔忍内部の立ち位置に苦慮していた紫藤家の一人娘である凜花にも気軽に声を掛ける始末。
よくも悪くも自由気儘な風来坊、気風のいい男で頭も回る。周囲をまるで考えない行動の数々も、骸佐が大人しくしていれば、下についている自分が好きにやっても老人達は何もしてこないという確信があったからこそであった。
だが、骸佐が反乱を起こす半年ほど前に、何の前触れもなく突如として五車を金崎家総出で出奔してしまう。
ご丁寧に頭領であるアサギ、宗家の小太郎、主家である骸佐の元に、『金崎 銃兵衛及び金崎家はギャングスターになりたいので対魔忍を辞めます』というふざけた書状と有名漫画の五部を送った上で。
これにアサギは小太郎の幼馴染と目を掛けていた故に頭を抱え、小太郎はアイツならやりかねぇと溜め息を吐き、骸佐は真っ白になった。
特に酷かったのは骸佐だ。
時期的に反乱へ向けて着々と準備を進めていた頃。その最中、信頼していた部下が何だかよく分からない理由で離反したのだ。そりゃ真っ白にもなる。
銃兵衛からの書状をビリビリに破り捨て、半泣きになりながら現実逃避で一緒に送られてきた五部を読みながら面白いじゃねぇかこれ、と呟き、頭の中でアサギと老人に言い訳を必死で考えた。
無論、そんな事をすれば抜け忍を粛清するため、追い忍が差し向けられる。
この粛清部隊は頭領のアサギですら行動を制限できず、独立性が非情に強い。対魔忍内部でも部隊の人員を知る者は極僅かであり、五車で普段何気なく話している相手が粛清部隊の一員などということも十分に在り得る。
これほど強い独立性を有するのは、数多の内部情報を抱えた者が外部へと逃げれば如何なる悲劇を招くのかを予見できるからこそであり、また万が一、対魔忍内部で権力を持つ者が足抜けした場合でも問題なく粛清を行えるように、という処置であった。
しかし、銃兵衛はこれをあっさり撃退し、逃亡。今や、センザキを支配する顔役としてのし上がっていた。
粛清部隊は追撃を行おうとしたものの――――
『これ以上の追撃は無謀よ。あちらも闇の住人を飲み込んで戦力を整えている。粛清部隊もまた対魔忍の戦力。ただ一人の抜け忍に拘って無駄に戦力を消耗する行為は頭領として認められないわ』
『しかし――』
『貴方達の仕事の重要度は理解できているつもりよ、よくやってくれている。でも、今の所、彼はこちらの情報を漏らしている様子はない。此処は様子を見ましょう。センザキの治安が安定するのならそれはそれで此方の利となるわ』
――小太郎に
粛清部隊の必要性と重要性を認めることで自尊心を満たしつつ、銃兵衛の生む利益を説き、不利益を被った際には即応できるように約束する。
これには粛清部隊も不詳不詳ながら頷かざるを得なかった。アサギの言い分に間違いはなく、彼等とて仲間を無駄に消費したい訳ではない。ただ利を説いただけではこうもすんなりと納得はしなかっただろうが、自尊心を擽ることで納得を引き出していた。
最強の対魔忍でも小太郎の助言さえあれば、昨日、小太郎ゼミでやったところだ! と腹芸まで出来ちゃうのであった。
「アイツは闇の世界の事情通だ。対魔忍では手に入れられない情報も入手している事があるし、そこいらの情報屋よりも余程信頼できる」
「ああ、だから心願寺先輩もふうまもわざわざ出向いてるんですね」
「それに、時期が時期だから、理由は弾正についてでしょうね。互いに得ている情報の照らし合わせと包囲網を完成させるための協力の要請、そうでなくても弾正からの要請は全て拒否するように釘を刺しに行った、ってところかしら?」
「何だ、凜花。随分と小太郎の部隊員らしくなったじゃないか」
「当然よ――――と言いたいけれど、お父様と小太郎の影響でしょうね」
漠然ながらも小太郎の向かった先から目的を推察する凜花に、凜子は揶揄うような言葉を口にしたが、返ってきた反応は寧ろ喜ばし気ですらあった。
元々、彼女達とて地頭は決して悪くはない。全体の教育方針や周囲の環境、押し寄せてくる魔族や米連への対応に追われる余りに若手への教育が短期間で生存率を上げるために強さを引き上げるものへと固定化されてしまい、思考までも固定化してしまっているだけ。
相応しい頭の下で手足となれば、徐々にではあるが相応しい手足へと成長していく。その中でも凜花は父が立場上、政治的、家の生存戦略的に苦慮していたが故に、そうした思考や行為への適応は群を抜いて早かった。
これは小太郎にとっても嬉しい誤算であった。
政治的な思考を持ち合わせているのは己と災禍、天音の三名で、補佐には日影がいる程度。家にせよ部隊にせよ大目標の方針決定は思考が固定されてしまっていては、危うい面があるのも確か。
凜花という新しい風が、新らたな思考を運ぶ。それはそのまま新たな混乱を生みかねないものではあるが、同時にこれまで見えてこなかった新たな視点を得られるメリットもあるのだ。
「あー……獅子神、金崎の話は井河の前でしない方がいいぞ」
「え? どうしてですか? 仲が悪い、とか……? 確かに井川先輩が嫌いそうな人ですね」
「いやー、そういうのもあるんだけどさ…………なあ、心願寺?」
「まあ、分からなくもないと言うか、仕方ないと言うか……」
「私も知っているけど、アレはねぇ……どちらも直接悪い訳じゃないのが、ね」
「「……?」」
日影の知り合い、そして銃兵衛の幼馴染にとっては共通認識があるらしく、雅臣と紅と凜花は顔を見合わせて言うべきか言わざるべきか、判断に迷っているようだった。
確かに、自斎が話を聞く限りでは日影の好む人柄ではないように思える。彼が好み、認めるのは善人だ。完全無欠でなくとも、時に弱さから人としての矜持を忘れた行動を取ろうとも、日々を真面目に生き、細やかな良心と精一杯の勇気と共に歩む者こそ、彼は最優先で救い上げるべきと考えている。それを考えれば、どれほど悪人でなくとも自らの責任すら放棄して勝手気儘で奔放に生きる銃兵衛とは相性が悪かろう。
ただ、相性は悪くとも日影の許容範囲には入るとも考える。何せ、小太郎という人の道を自ら外れる者ですら善人への対応と日本と国民の安全を守る有用性の観点から許容しているのだ。精々、露骨な毛嫌いを示す態度程度で済ませるだろう。
ならば、何故なのか。
理由が判然せず、助けを求めるように凜子を見たが、彼女も事情を知らないらしく首を傾げていた。
「金崎がどうしたって?」
『うっわぁっ!?』
「い、井川、お説教終わったのぅっ!?」
「ああ、ついさっきな。悪かったよ、オレもまだまだガキのままだ」
「うぅー……凜子ちゃん、紅ちゃん、凜花ちゃん、ごめんね……どーして私ったら……もー……」
銃兵衛と日影の関係に思いを巡らせていた全員は、戻ってきた日影ときららの存在に気付いておらず、声を掛けられて悲鳴を上げた。
ただ、二人の声に何時もの覇気がない。特定の条件下とは言え、きららと同レベルで感情のコントロールが出来ていなかった事実に日影は酷く落ち込んでおり、きららはきららで不知火から粛々と諭されたらしく、自らの行為を間違いだったと受け入れて恥じていた。
手には盆に乗った軽食と飲み物がある辺り、しっかりと休憩を取るように啓治と不知火から諭されたのだろう。大人の気遣いとフォローを感じ取れた。
落ち込んだ様子であったが、素直に聞き入れている以上、反省としては十分。
皆は特に責めるでもなく、テーブルに付けるようそれぞれが席を詰め、隙間を開けた。
「暫くしたら白野さんも不知火さんも来るとさ。休憩終えたら、面接再開だ」
「うへぇ……面倒だけど、頑張んなきゃなぁ」
「これも仕事だからな。次は巧くやる。それから、オレの前ではクソ姉貴の話はするな……!」
(今は金崎くんの話をしてたわよね、どうして井川先輩のお姉さんの話が……?)
今まで話していたのは銃兵衛の話であったにも拘わらず、どうして日影の姉が関わってくるのか。
思わず疑問を口にしそうになった自斎であったが、日影の見えないところで雅臣はぶんぶんと思い切り首を左右に振り、紅と凜花は彼の行為を肯定するように思い切り首を上下に振る。絶対にこれ以上話すな、ということらしい。
結局、銃兵衛と日影の関係性は、自斎に明かされることなく有耶無耶のまま終わってしまう。
後日、自斎は全てを知る事になるが、日影の怒りも尤もだと納得するには十分すぎる理由であった。
―――――
――――
―――
――
―
「で、お前の目から見て、どうだった?」
「拠点も綺麗に片付けられておりましたし、慌てて逃げた様子もない。小太郎様と同じ結論かと」
一方その頃、小太郎はセンザキ――――ではなく、五車からバスと電車を乗り継いで三時間に位置するまえさきに居た。
政府の地方振興政策によって指定都市となり、税の優遇によって国内外から大企業が進出。
それに伴い様々な店や娯楽施設が建設されるに至り、俄かに賑わいを取り戻しつつある地方都市だ。
ただ、人が集まれば夜も煌々と明かりが灯り、街を覆う闇もまた大きくなる。
マフィア、ギャング、ヤクザ、売人、娼婦、人ならざる魑魅魍魎。ありとあらゆる闇の住人が金と欲望の匂いを嗅ぎつけて、火に吸い寄せられる蛾のように集ってくるものだ。
小太郎が今いるのは、そうした住人によって形成されたまえさきの繁華街。
東京キングダム、地下都市ヨミハラ、廃棄都市アミダハラに比べれば細やかなもので秩序だったものではあるが、平穏な街の一角は確かに闇に侵食されている。
そんな街の人込みを、普段使いのスマートフォンを耳に押し当て、何者かと会話しながら小太郎は進んでいく。
本来の予定では凜花の予想通りにセンザキへと辿り着き、銃兵衛と顔を突き合わせている頃合であったが、乗り継ぎで立ち寄ったまえさきで一つの懸念を解消するため、この時間まで街を調べて回っていた。
それはまえさきを拠点としていた元家臣――葉隠家と当主である真千子の動向であった。
葉隠家は反乱の最中に、前代当主にして真千子の父親が敗死。若くして一人娘であった真千子が当主の座に収まり、反乱が終息するとアサギと和睦を果たして独立した。
その後はまえさきの闇に身を潜め、葉隠家を維持するために闇の勢力として街の一角を支配していた。
独立が認められたのはアサギも弾正の反乱によって疲弊した状態で事を構えたくなかったからであり、正直なところそれほど警戒に値しない人物であったからだ。
真千子は上昇志向の強い人物であるが、集団を成長させる事に尽力するよりも、個人としての実力を伸ばす方向に傾倒しており、政治的な思惑や目的にもとんと興味を示さない。
個人としての実力は兎も角として、家や集団を成長させることは叶わず、能力的にも維持が精一杯。分かり易いアサギタイプ――――つまり、最前線で戦う方が向いている戦闘要員であり、当主に向いていない。よって急激な成長も拡大も心配する必要はなく、対魔忍全体の驚異とは成りない故に独立を認めたのであった。
真千子も頭は固いが、柔軟な対応が出来ない人物でもないことがその判断に拍車を掛けた。敵対しなければならなかったとしても、明確な戦力差を示せば戦わずしての降伏と終結を期待できたからである。
この判断は小太郎も認めるところ。アサギ以上に真千子の人柄を知る彼からしても、一概に悪手とは呼べないものであった。
しかし、今は状況が違う。米連に逃げ延びた弾正が、何を考えているのかわざわざ日本に恥を晒しに戻ってきたからである。
弾正の思惑が何にせよ、いま喉から手が出るほど欲しいのは、ワンチャンあるかもしれないと博打紛いの思惑で米連からの預けられた戦力でも、淫魔と手を結んで得られた借り物の戦力でもなく、自分の命令に何でも従う都合の良い、そして自由に出来る戦力だろう。
弾正に裏切られている真千子と葉隠家がそれに該当する筈などないのだが、自身にとって都合の良い事しか考えていない弾正の事、彼女達を裏切った事実など頭の中にないに違いない。今こそはふうまの忠臣として、と恥知らずな忠誠を求め、首を縦に振らねば借り物の戦力で押し潰すのは目に見えている。
別段、小太郎もかつての家臣を心配になったなどという人情に突如として目覚めた訳ではない。警戒したのは真千子が戦力差から首を縦に振って従臣してしまうこと。弾正の戦力が増えれば増えるほどに潰すのに手間が掛かる。
これが銃兵衛であれば、弾正からの要請ににこやかに首を縦に振ったふりをして、今ある基盤を全て使い物にならなくなるように即時処分した後、一家はそれぞれバラバラに離散して遁走。意気揚々とやってきた相手を肩透かしを喰らわせて唖然とさせた上、全く別の場所で一家揃って集結し、おちょくり倒した上で再起を図るという有能有能&有能クソガキムーブを見せるが故に心配いらないが、根が真面目な真千子はこうはいかない。
真面目に真正面から受け立とうとするか、真面目に面従腹背して耐え忍ぶかの二択だろう。闇の住人として、些か以上に真面目過ぎるのである。
「葉隠は二車についたか。流石は骸佐、ちゃんとしてる。動きが早くて結構な事だ」
「笑い事ではありません。これで二車の勢力はまた拡大します。此方が粒揃いである事は認めますが、戦力差が余りにも大き過ぎる」
「何、組織がデカくなればなるほど動きは緩慢になる。それにオレと全面戦争するなら、投入するのはアイツが信頼する奴等だけだ、じゃなきゃ意味がねぇ。其処まで大規模な戦闘にはならないよ。見た目や数字ほど奴の本当の意味での味方はいないし、暫くは足元を固めるのに必死にならざるを得ない」
「弾正相手には、その張り子の虎で十分、ですか」
「今の所はな。あの考えなしのおっさんでも二の足を踏むレベルの大きさだ。そうこうしている間に着々と信頼できる仲間を集める。いいねぇ、ちゃんとしてる。実にちゃんとしてる。ぜってぇー連れ戻す。それで死ぬほど扱き使ってやる」
(骸佐殿も哀れな……)
弾正を警戒しつつも、己の目的のために先を見据えた行動に出たであろう骸佐に対して、小太郎は素直に称賛の声を送った。
ただ、その顔に刻まれた笑みは凶悪そのものであり、逃がさん! 貴様だけは! という執念で塗れている。骸佐くんを捕らえた暁には生き地獄道中を引き摺り回すつもりであった。
電話越しに会話している人物は、思わず骸佐に同情してしまう。
小太郎の把握していたまえさきにある真千子の拠点は蛻の殻。
家財や書類は綺麗に処分されており、金と金に換えられるものは何もなかった。
その上、追跡可能な証拠や髪の毛などの彼女達が存在していた証さえも綺麗さっぱりなくなっている状態。
此処まで自らの痕跡を丁寧に消せたのは、時間に余裕があったからであり、これまで築いてきた基盤を捨て去る方向で動いていたからに他ならない。
真千子が転がり込む先など骸佐のところ以外には在り得ない。
銃兵衛のところも元ふうまという繋がりで在り得なくはないが、彼女が転がり込む先としては些か家格が軽く、自ら葉隠家の弱体化を宣言しているようなもの。
どうせならば、現在急成長中の骸佐の所に元ふうま八将の繋がりとして向かい、従属ではなく同盟として迎え入れられた方が家としても旨味が大きいからだ。
「このままセンザキへ向かう。引き続き頼むわ、
「御意に」
最後に電話越しの相手の名を呼んだ小太郎は、そのままスマートフォンをポケットにしまう。
奇妙な相手であった。
その声は男であるのか女であるのか判然とせず、年老いた老人のようであり無垢な子供のようでもある。加えて言えば、機械音声のような不気味の谷すら存在している。
本当に人の声帯器官から発せられた声なのか、機械によって形作られた音声なのかすらも分からない。
彼或いは彼女もまた小太郎個人を支える部下の一人。
無形と呼ばれた人物は小太郎にとって唯一人の御庭番。その立ち位置は、ふうま宗家においても対魔忍内部においても殊更に特殊である。もし無形の存在を知れば、周囲の家は戦慄するに違いない。アサギを敵に回すよりも遥かに厄介で危険度が高いからだ。
だが、それを知る者は数少ない。五車のデータベースにも個人情報や忍法を登録されている歴とした実在人物でありながら。それは無形の生まれ持った忍法と性格に由来するものであった。
「さて、センザキに着くのは深夜。五車に戻れるのは明日の朝か」
小太郎は、一仕事終えて次なる仕事に向かうべく、駅へと向かう。
歓楽街だけあってドぎついネオンの輝きに満ち、行き交う人種も決して善良とは言い難い。
それでも小太郎の年を考えれば、街の雰囲気にはそぐわない。彼の同年代など存在するはずもなく、まだ街は法の範疇にある。
疎らな人波に揉まれようとも誰かが彼の存在に気付きそうなものであるが、誰一人として気にも留めずに擦れ違っては消えていく。
余計なトラブルを避け、無駄に目立ちたくはない小太郎が意図してそうしているのだ。
単純に気配を殺すだけでは手練れには突如として浮かび上がった一人分の空白に気取られかねない。故に、気配を殺さずに存在を殺す。
多人数で店に入ったのに、何故か常にサービスの水が入ったコップが配られない人物が居るように、気配を殺さずとも存在を認識されない術はある。
ちょっとした立ち居振る舞いや息遣い、表情や体臭の変化で、人は警戒や認識に値しない路傍の石ころになれる。姿を消せずとも、目に映らない存在にはなれるのだ。
運が良かったのか、はたまた修練の賜物か。
小太郎は何のトラブルにも巻き込まれることはなく、路地裏に身体を滑り込ませ――――
「お、おやび~~~~~ん! 助けてくださいよぉ~~~~~~!!」
「やっちまってくださいよぉ! 親分~~~~~~~~~~~~!!」
「…………………………は?」
――――全てが台無しにされてしまった。
路地裏へと足を踏み入れた瞬間、両腕にしがみついてくる二人の少女。
片や蝙蝠のような翼を背中に生やし、下着姿のような大事な部分しか隠れていない格好の少女。もう一方は鴉のような翼を背中に生やし、着崩した和装のような格好の少女。
無論、小太郎は会った事もなければ、顔すら知らない少女達である。
全く予期していなかった出会い、そして見当外れで心当たりが全くない助けを求める声に小太郎は固まった。
この瞬間から悲劇は始まった。
小太郎にとっては何の益もなければ労力ばかりが掛かる苦労しかない一晩に。
二人の少女にとっては、利用してやろうと助けを求めた相手が最も関わってならない男であり、ひたすら恐怖に慄く一晩に。
そして、未だこの場に現れぬ真面目な少女と聡明な女性にとっては、小太郎の手腕と容赦の無さに戦慄する一晩に。
この時は渦中の人物すら、出会いと同様に予期しないものだった。