対魔忍RPG 苦労人爆裂記   作:HK416

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きららパイセンではなかったが、正月は凜子か。引かねば(使命感
しかし、あの着ぐるみみたいな格好はどうなのか。好感度maxになれば牛ビキニにでもなるのかしら。
そして凜子だと凌辱になりそうだなぁ~。凜子は凌辱続きだからイチャラブをくれ~!

そして、今回の話では苦労人が増える模様。まあ、そりゃ能力的に考えればこの人の負担半端なさそうだもんげ。では、本編どぞー!



苦労人が増えるよ! やったねたえちゃん! 

 

 

 

 

 

 害獣と真面目夢魔と苦労人の邂逅。

 それが一体何を齎したのか。そしてこれから何を齎すのか。

 

 何はともあれ、夢魔側の発した一触即発の空気がある。戦いは避けられない――――

 

 

「すみませんでした」

 

 

 ――――ものと思われたが、そんなことはなかった。

 

 今、四人は繁華街にあった廃ビルの一フロアへと移動している。

 天井からは取り外されなかった電灯や電線が老朽化によって顔を出しており、差し込むのはネオンの光だけ。

 小太郎はミーティアとの無駄な戦闘を避け、事情を説明することを選択した。

 戦って勝てない訳ではなかったが、現在と今後に割りさかれてしまう労力を考慮して、少なくとも今は戦闘に移行するべきではない、という判断。

 

 その判断は間違いではなかった。

 

 ミーティアという夢魔は、決して馬鹿ではない。彼女もまた本心を告げれば戦闘などしたくはない。

 種族として戦闘向きではないのは事実。しかし、そこいらにいる馬鹿な傭兵程度であれば己の領域(夢の中)へと簡単に引きずり込む自信はあったが、リリムを救うためとは言え仕掛けてしまった相手はそれが通用しない。

 一目見ただけで分かる精神の隙のなさ。根本的に知的生命体の精神も脳も隙間だらけで連続性はないに等しい。発達した身体と脳が、一つの事柄に対しての関心をどうしても薄れさせる。

 会話をしていても流れる汗の感触や匂いに不快感を覚えるように。何かに打ち込んでいても耳元を飛び回る蚊の煩わしさを我慢できないように。発達しすぎた肉体から得られる情報を脳が処理しきれずに、精神を弛緩させる。

 

 目の前の男には、それが全くない。

 肉体と脳を完璧な形で手中に収めているのか、そもそも精神の形状(かたち)が異なっているのか。僅かな緩みすらない。

 夢魔とって、彼は正に天敵。得意分野に引きずり込めず、苦手分野を押し付けられる最悪の敵。穏便に済むならばそれに越したことはない。その点、ミーティアは話し合いを持ちかけられた時点で、心底安堵した。

 

 ミーティアに与えられた仕事は、彼女が属する夢魔の一派をまとめ、補佐する立場にある友人からの依頼。人界で遊び惚けている夢魔リリムを魔界の拠点へと連れ帰ること。

 本来、彼女の一派は魔界側人界側を問わず、受けた依頼に従って対象の精気を啜って衰退させたり、衰弱死させることを生業としている。だが、リリムと来たら対象に言い包められて痛い目を見るなど日常茶飯事。時には自分から依頼を放り出て遊びだす始末。正に、夢魔の恥晒しの名に恥じぬ有り様であった。

 一体、何人の仲間が彼女の尻拭いに東奔西走させられたか分かったものではない。なお、最大の被害者はミーティアである模様。

 怒り狂う依頼人を諫めるだけの話術、対象を生かすも殺すも好きに出来る能力と彼女自身の研鑽、生来の素直で真面目な性格、その仮面の下に隠された自らと一派の利潤を追求する計算高さと腹黒さ。これで信頼しない方がどうかしている。尤も、仲間に信頼されているからこそ損な役回りばかり押し付けられているのだが。

 

 だが、安堵も束の間。男の話を聞けば聞くほどに、ミーティアは顔を蒼褪めさせた。

 

 それもその筈、男には何ら非はなく、どう考えたところでリリムが悪い。彼女の口八丁でも言い包められないレベルである。 

 彼女もまた闇の世界の住人だ。名に傷を付けられる、顔に泥を塗られるのは或る意味において命を奪われる以上の不利益を生み、如何なる勢力、職業でも嫌われ、何をおいても報復に出なければ示しが付かない行為であるのを知っている。男が何者かは分からないが、例外ではないだろう。

 リリムの馬鹿さ加減など骨身に沁みて分かっていたが、それを上回る馬鹿な行為の数々をたったの一晩で積み上げていたのであった。

 相手に泥を塗るのはまだいい。それくらいならリリムは日常的にやる。だが、相手を選ばなかったのは馬鹿にもほどがある。これまでは相手を怒らせようが何をしようが逃げ延びてきたのに、よりにもよってこんな夢魔にとって悪夢染みた人物に罪を擦り付けようとしたのか。

 

 其処でミーティアは想定していたプラン全てを捨てる決断を下す。

 誘惑や交渉、逃走も何もかも投げ捨てて、初手から全力の土下座外交に踏み切った。半端な真似をして機嫌を損ねるよりかは、差し出せるものは全て差し出して許しを乞うた方がまだリリムを生きて連れ帰る可能性があると判断したのである。

 

 日本人でも此処まで綺麗な土下座は誰も出来まい。小太郎ですら、思わず感心してしまう綺麗なフォームであった。

 

 

「事情は分かりました。あの子に代わって夢魔の代表として謝罪します。ですけど、どうか、どうかあの子の命だけは……!」

「いや、別にいいよそういうの。謝って欲しいわけじゃないからさ。事情を説明したのはお前に邪魔して欲しくなかっただけだし――――じゃあ殺すね?」

「「ひぃ――――!!」」

「待って下さい! リリムは本当はいい――――子なんかじゃないくて本当にどうしようもない駄目な子ですけど! 私の! 私の大事な友人なんです! それだけは! それだけは勘弁して下さい~~~~!」

 

 

 しかし、小太郎はこれを蹴る。

 謝罪を受け入れても得られるものが何一つない以上、受け入れる意味もない。

 ミーティアには気の毒そうな表情を向けたものの、懐からは殺した傭兵から奪った拳銃――ベレッタF92を取り出した。

 慣れた手付きで僅かにスライドを引いて、薬室内に9mm×19mmパラベラム弾が装填されていることを確認する。それだけの動作で部屋の隅で股間を濡らしたままの害獣は互いに抱き合いながら悲鳴を上げ、ミーティアは土下座を解除して片足にしがみつく。

 

 殺意というものがまるで感じられないことに、ミーティアの戦慄は更に加速する。

 恐らく、この男にとって蚊を叩き潰すのも、自身に不都合な相手を殺すのも同列なのだ。

 多くの魔族が戦いそのものに悦びを見出し、或いは気持ちのいい勝利を得るために敵を蹂躙する。とどのつまり、常に敵へと一定の感情を抱いているのだが、この男にはそれがない。

 殺すと決めれば呼吸と同じように実行し、その癖、生き延びることに特化したリリムを追い詰めるほどの執念を発揮する。相反する要素を矛盾と共に抱えながらも破綻が一切存在していない。余りにも人からも魔族からも逸脱した精神性は、彼女にやべー奴だという印象しか与えない。

 

 ミーティアとしては何か差し出せるものがあればよかったが、稼いであった路銀はリリムを探す過程で使い切っている。

 かと言って、手元にないものや不利益を補填する行為を口約束であっても提示するのは怖すぎる。

 男が何を要求してくる分かったものではないし、最悪のパターンは運よくこの場を収められたとしても、その後に口約束を実現できなかった時。一体何をされるか分かったものではない。だが、他に手はなかった。

 

 

「わ、分かりました! あの子に代わって私が何でも! 何でもしますから! どうか命だけは御勘弁をっ!!」

「ん? いま何でもするって言ったよね?」

(仕方ないとは言え、やっちゃったーーーーーー!!)

 

 

 この場を収めるにはこれしかなかった。

 相手が何を考えているか、何を欲しているか分からない以上、例え無理難題であった従いますという絶対的な恭順の意思を示し、ワンチャンに賭ける他ないのだ。

 最悪の一手に違いない。だが、溺れた者は藁をも掴む。最悪の地獄に叩き落される可能性が見えていたとしても、自らを助けるために、友を救うためには一縷の希望に望みを託してしまうものだ。

 

 内心はどうあれ、ピクリと小太郎は片眉を上げて手と足を止めて、縋りついてくるミーティアを見た。

 その瞳のドス黒さよ。彼女が自らの破滅を予感するには十分すぎるほどだった。

 

 この時点でも、ミーティアの内心にリリムへの罵倒が存在していない辺り、本当に仲間想いというか人が良いと言うか。

 灰色の脳細胞は高速回転しており、理想としては自分を含めた三人の生還、最低でもリリムと自分だけでも生かして連れ帰る方策を探っていた。

 

 

「有難いっちゃ有難いんだが、オレさ、そういうこと簡単に言うのよくないと思うよ。大丈夫?」

(優しい……!)

 

 

 その必死な様子に小太郎は縋りついてくるミーティアの両腕を優しく解くと、肩に手を置いて諫めるように言った。

 因みに、これは掛け値なし裏表なしの本心である。ミーティアがどれだけ苦労してきたか、泣きながら仕事を熟してきたのか、透けて見えているのだ。

 

 この期に及んでリリムの行為に怒りを抱かず、見捨てずに生き残る方法を探る仲間想いと諦めの悪さ。本人にそのつもりがなくても苦労を背負い込む性質なのだ。

 その上、余りにも不利な状況下で尚も自分と一派の利益を探り続ける有能さ。その有能さ故に仲間の大半はあー、ミーティアに任せとけば大丈夫でしょ、勝ったな、ガハハ! と小太郎に対するアサギのような反応を見せているに違いない。

 なお、アサギは身内にダダ甘なので、致命的な失敗さえしなければ、私の小太郎でもそういうこともあるわね、と余裕で許すが、ミーティアの場合は頭魔族な仲間なので、成功して当然、失敗しようものなら何やってるのこの恥晒し! と叱責される立場である模様。

 

 ミーティアはこうして自分を追い詰めている張本人の言葉でこそあったが、普段は一切感じられない自分への配慮と本気の心配に、思わずぶわっと滂沱の涙を流した。

 

 

「わ、分かって、くれるんですかぁ……!」

「分かるよ。凄く分かる。辛いよな、何も知らねぇし考えてもいねぇ癖に、成果や結果だけを求める馬鹿どもに付き合うってさ」

「ぞ、ぞう゛な゛ん゛です゛よ゛~~~~~、じ、自分は゛出来な゛い゛く゛ぜに゛、私に゛ばっ゛か゛り゛~~~~~~~」

「分かる分かる。よく分かる」

 

 

 思わぬ理解者の出現に、ミーティアは涙と鼻水と感情が止めようがなくなってしまう。

 

 突如として彼女の脳内に溢れ出る、存在する苦労の記憶。

 リリムのやらかしの尻拭いに、依頼主と方々へのたった一人の土下座行脚。

 拠点に帰ってみれば、待っていたのは悪びれもせずにお仕置きから逃げ出したリリムと怒り狂った仲間の何故だか自分に向けられる叱責。

 一派の頭領は庇ってくれたものの、リリムの素行の悪さはミーティアが甘やかすからだ、と心ない言葉に言い返す気力もなくなる徒労感。

 

 今まで必死に考えないようにしていた嫌気と不満が爆発していた。

 せめて同じ苦労を背負ってくれる相手がいれば違っていただろうが、そんな相手は一人としていなかった。典型的なブラック企業の社畜である。

 其処に境遇も立場も違えども、理解を示してくれる相手が現れれば、こうもなるだろう。

 

 

「じゃ、じゃあ゛、見逃し゛て゛頂け゛ま゛せ゛ん゛がぁ?」

「あ、それとこれとは話が別だから」

(――――チッ!)

(しっかりしてるなぁ~。いいぞぉ、これぇ!)

 

 

 ちゃっかり相手の心配を利用して話を有耶無耶にしようとするのも忘れていない。

 メンタルがしっちゃかめっちゃかになっていようが、やるべきことはやる、という鋼の意思である。

 

 内心舌打ちをしているであろうミーティアに小太郎は思わずニッコリ。でなければ、話し合いに持ち込んだ意味がない。

 

 

「ストレスってのは発散しないと溜まるもんだからな。だからどうだろう。偶には言葉にしてみるのは?」

「こ、言葉に、ですか……?」

「そうだよ。自分に迷惑ばっかりかける友人なんて友人ではないのでは? 対等でない友人なんていらないんじゃ?」

「な、なんて事を言うんですか……!」

「でも自分の心の声に耳を傾けてごらん? 聞こえてくるだろう? “リリムなんていらない!”って」

「そ、そんな事……」

「ないって? 本当に? 口にするだけでも今までの鬱憤が晴れていくんだよ。ほら、言ってごらん? “リリムなんかいらない!” リピートアフターミー」

「……リ、リリ……な……」

「ダメダメ……! へただなぁ……へたっぴさ……! 鬱憤の晴らし方がへた……! ダメなんだよ……! そういうのが実にダメ……! せっかく罵倒でスカッとしようって時に……そんな妥協は傷ましすぎる……! そんなんで罵倒してもスッキリしないぞ……! 嘘じゃない。かえってストレスがたまる……! 心の毒は残ったままだ、自分の鬱憤の晴らし方としちゃ最低さ……! 罵倒ってやつはさ……小出しはダメなんだ……! やる時はきっちりやった方がいい……! それでこそ次の仕事への励みになるってもんさ……! 違うか……?」

「リ、リ――――リリムなんていらない」

「声が小さい! もっと腹から声を出して! ありったけの怒りと憎悪を込めて!」

「リリムなんていらない!」

「いいぞ! 頑張れ頑張れできるできる絶対できる頑張れもっとやれるってやれる気持ちの問題だ頑張れ頑張れそこだ!!」

「リリムなんていらない!!!!」

「ミ゛ーテ゛ィ゛ア゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

「――はっ?!」

「チッ、邪魔しやがって」

 

 

 今度は小太郎が舌打ちする番だった。

 

 事もあろうにこの男、夢や精神の世界における捕食者にある夢魔を洗脳しようとしていた。

 洗脳は夢魔や淫魔の十八番。甘美な夢や幻想を餌に、非捕食者の価値観を塗り替える。

 だが、洗脳には異能など必要ない。効率のいい方法は既に解明されており、社会の指導者や大企業の上層部は日常的に行っている。

 無数の選択肢を与えながら同じ結論に誘導し、繰り返しによって思考を停止させ、外界から遮断して画一的の情報しか与えず、暴力と恫喝によって上下関係を築き、自己否定を埋めて自己肯定感を与えてやる。小太郎がやっていたのは、正にそれだ。

 

 しかし、自らの命の危険を嗅ぎ取った害獣の叫びによって邪魔をされた。本当に、自らが生き延びるための最善をよく考えもせずに選べる生き物である。

 

 リリムの叫びによって自分は何をやっていたのか、と正気に戻ってしまう。

 小太郎の舌打ちも無理はない。ミーティアの心に溜まった澱の量からすれば、存在自体が邪魔な害獣を自らの手を汚さずに始末するところまで持っていけたのだから。

 

 

(さーて、どうすっかな)

(ど、ど、どどうしよう! どうすれば!? な、な、な、何とか! 何とかリリムだけでも……!)

 

 

 しくしく、と恐怖に打ちひしがれた害獣の不快な鳴き声だけが響く一フロアの中、まだまだ用意した選択肢も豊富な小太郎は余裕で次の一手を模索し、ミーティアは最低限の許容範囲(ライン)を確保しようとしていた。

 互いが互いの利益を手にすべく、何を要求すべきか、妥協点が何処にあるのか。僅かな時間での腹の探り合い。

 

 最中、小太郎は信じられない行動を取った。彼について殆ど知らないミーティアにとっても、これまで受けた印象を完全に裏切るものであった。

 何を考えたのか、相手から視線を切ったのである。如何に無抵抗を示しているとは言え敵は敵。それを前にして、小太郎が敵を視界から外すリスクを侵すなど在り得ない。

 

 されど、致し方ない。

 彼の研ぎ澄まされた五感は、埃臭さの中に混じった花の香りと足早ながらも気配を殺して近寄ってくる何者かを捉えていたからだ。

 

 

「ちょっと待った!!!」

 

 

 小太郎が捉えていた気配。廃ビルのフロアに入ってきたのは、ネオンの光を跳ね返す金髪の美女。

 豊満、などという言葉では表現しきれないほど豊かな肢体を隠すことのできない薔薇色の対魔忍装束で飾っている。

 彼女は通称“花の静流”、本名は高坂 静流という。危険な単独での潜入任務を主とする手練れ。六ヶ国語を操り、二つの博士号のみならず数十に渡る専門知識を有し、あらゆる経歴の人物となって潜入可能と対魔忍きっての才女である。

 

 小太郎にまず浮かんだのは疑問。そして不安。

 彼女ほどの手練れであれば、比較的平和なまえさきで遊んでいる暇などない。アサギにしても任せたい任務は腐るほどある筈だ。ならば――――

 彼女のがこの場に居る時点で、自身の巻き込まれた一件が想像していた以上に厄介である可能性が非常に高い。不安の一つも覚えよう。

 

 ミーティアにまず浮かんだのは驚愕。そして絶望。

 魔族にしてみれば対魔忍は恐怖に値する敵であり、中でも戦闘能力を持たない夢魔にとっては真正面から敵対するには余りにも危険すぎる相手。

 対魔忍が声を掛けてきた、ということは、目の前にいる男もまた対魔忍かその関係者と見て間違いない。ただでさえ厄介事を抱え込んでいたと思ったら、最大級の厄ネタだったなど絶望しようというものだ。

 

 

「貴方、ふ――――」

「ちょっと、人が何のために顔隠してると思ってんですかアンタ」

「そ、そうね。ごめんなさい、悪かったわ。此処の所、休みがなくて」

(コイツもオレや九郎と一緒で過労死勢筆頭だしなぁ~~~~)

 

 

 静流は任務以外では五車にて英語を担当する教師であり、小太郎の風体を見知っている。

 尤も、彼が授業に出席するのは単位を取るための必要最低限であり、静流にしてもなまじテストの成績も良ければ、授業に出てもどんな質問にも淀みなく答えてくる一番性質の悪い生徒。印象は決してよろしくない。

 

 額から汗を流し、連日の任務に今宵重なった疲労から鈍った思考回路は思わず彼の名を呼ぼうとしてしまったが、鋭い視線に寸でのところで何とか言葉を飲み込んだ。

 彼女とて身分を隠す重要さと難しさは重々承知している。立場上は目下の彼であっても目くじらを立てることなく即座に謝意を示した。

 

 小太郎にしてみれば冷や汗ものである。

 ただでさえこのまま処分出来るか分からない害獣に、友好な関係を築けるとは限らない夢魔に自分の名前を知られるなど冗談ではない。

 その上、此処で静流が介入してきた以上、自分の思い描いたプランの大半はお蔵入りになる。内心では舌打ちしまくりであった。

 

 

「悪いけれど、此処からは私が仕切らせてもらうわ。双方とも、それで構わないわね?」

「まあ、しゃあなしっすね。こっちは任務じゃない。優先順位はそっちでしょうよ」

「ぜ、ぜぜぜ、ぜひそれでお願いします!」

(ふ、ふうまくんは兎も角、夢魔の娘の方がもの凄い勢いで同意してくれたわね。どういうこと?)

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

「つまり、こういうことっすか? 最近、この街を騒がせている魔界ワスプの襲撃は、どっかの企業から逃げ出してきた実験体が原因で、それを企業に売りつけたのがコイツ等だと」

「そうよ。そのためにホステスとして潜入して、企業の社員やら傭兵、ヤクザから情報を抜いてたの。で、浮かびあがったのがその娘達」

「成程ねぇ」

「いざその娘達に事情を聴こうとしたら街は乱痴気騒ぎになってて、二人はとんでもない勢いで逃げ回ってるし。もう何が何やら……君の所為だったわけね」

「オレは悪くないでしょうよ。この害獣がオレに絡んできたのが悪い」

「それはそうでしょうけど……ところで何をしたの貴方、この怯えようは一体……?」

「さぁ~、なんで何でしょうね?」

(まともに答える気ないわね、これ)

 

 

「バカーーーーーー! リリムのバカ!! よりにもよってなんでそんなことするの! アレだけ他人(ひと)に迷惑掛けちゃダメって言ったでしょ! バカーーーーーーーー!!」

「ご、ごべん゛な゛ざい゛ーーーーーーーーー!!!」

「ボ、ボク゛達、ち゛ゃ゛ん゛と゛責任と゛ろ゛う゛と゛し゛だも゛ん゛! 頑張ろ゛う゛どし゛だも゛ん゛!! な゛の゛に゛ぞい゛づがーーーーーーー!!」

「は????????????????」

「「びゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」」

「はぁ?????????????????」

「すみませんすみませんすみません、貴方は悪くないですウチの子が全部全面的に悪いので怒らないで下さいぃぃーーーーーー!!」

 

 

 街は傭兵達が駆けずり回るパーリィナイトであったが、この廃ビルのフロアもなかなかのパーリィ状態である。

 

 疲れた溜め息を吐く美人対魔忍とすっとボケて詳細を語るつもりの一切ない最悪の対魔忍。

 身内の余りのやらかしに半泣きになりながらバシバシとリリムの頭に平手打ちを喰らわせる真面目夢魔。刻まれた恐怖からギャン泣きする害獣達。

 

 ただでさえ混沌とした状況下だと言うのに、害獣の不用意な一言で小太郎はビキビキしだし、ミーティアは額を地面に擦り付けて土下座、静流は更に深い溜息を吐くのだった。

 

 

「と・に・か・く! 此方の任務を手伝ってもらうわ。君も、そちらの娘達も構わないわね?」

「も、もももも勿論ですぅ! キチンと尻拭いをします! いえ、させて下さい!」

(ちょっと必死すぎないかしら???)

「いや、ミーティアの方はまだ役に立ちそうだけど、この害獣二匹はいらんでしょ。コイツ等の情報なんて信用できんし、精査もできない。魔界ワスプを欲しがる企業なんて限られてくる。何なら働きバチを捕まえて昔ながらの方法で巣を探してもいいし。そっちの方が確実でしょ、殺処分しましょ殺処分」

(この子が原因ね、どう考えても……)

「駄目よ。此処まで追い詰められてるのだから嘘なんて吐けないでしょう? それに戦力は多いに越したことはないわ。まだ民間にまで被害は出ていないけれど、いつ被害が出てもおかしくない。それに、他の企業に捕獲されて鼬ごっこ、なんて面倒は御免よ」

「まあ、そうっすね。足手纏いにしかならんと思うけど――――チッ!」

(不満も舌打ちも隠そうともしないわね……)

(さ、殺意が、殺意が高すぎる……!)

「あ、ところでこの害獣が逃げようもんなら殺してもいいっすよね?」

「あっ、えっ? その、先生、そういうのはよくないと思うの……ほら、ノマドみたいに邪悪じゃないって言うか、単なる悪戯っ子なわけだし……」

「いや、これだけやらかしてんのにそれで済むわけないでしょ、ケジメつけさせないと。逃げたら殺していいっすよね?」

「………………………………そうね」

(静流さんもう少し頑張って!)

 

 

 小太郎は何とかして害獣駆除を実現させたかったものの、静流に却下されては是も非もない。

 学園の教師生徒の関係以前に、何の任務も抱えていない状態では臨時招集されたも同然。彼女の任務である以上、作戦の決定権も指揮権も全て静流にあり、小太郎の扱いは一兵卒に過ぎない故に出来るのは意見具申まで。

 しかし、諦めてはいない。今こうしている間も任務中の事故ということで不愉快な害獣を抹殺できないかと考えており、取り敢えず方法の一つとして害獣が逃げたことにしてどさまぎで殺す気満々であった。

 

 余りにも高すぎる殺意に、静流はすっと目を逸らして思わずフォローを入れる。

 彼女には害獣に振り回された疲れはあるものの、恨みなど欠片もない。少女そのものの見た目から思わず庇う。

 が、返ってきたのはぐうの音も出ない正論であり、流石の静流もそれ以上庇うのは不可能であった。

 

 こうしていよいよ持って逃げ場を失った害獣であったが、ミーティアは首の皮一枚繋がり、大きく安堵の吐息を漏らした。

 現時点でリリムが殺されることはなくなった。見た所、男は任務や対魔忍の仕事に忠実であり、取った言質以外で殺そうとはしないだろう。

 対魔忍二人に対する所感としては、少なくともこの二人は魔族と手を組む事に躊躇や嫌悪はまるでない。必要な手段を必要な分だけ必要な時に使う、そういう手合いだと判断できる。

 これからが彼女にとっては正に正念場。リリムが馬鹿をやらかさないように監視しつつ、見逃して貰えるように彼等の任務に協力する。上手く立ち回り、任務に多大な貢献をすれば、何らかの報酬やそれに準ずる利益も見込める。

 

 が、それよりもまずお願いしなければならないことがあった。

 

 

「あのぉ、静流さん……お願いできる立場でないことは十分理解していますし、お門違いも甚だしいと思いますけどぉ……二人に、新しい下着を……」

「………………分かったわ」

「あ、下着よかオムツの方がいいと思うよ? 多分、オネショも再発してるしな、ハハ」

 

 

 ミーティアのお願いに、静流は可哀想なものを見る目と共に頷き、小太郎は悪びれもせずに半笑いするのだった。

 

 

 

 

 


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