対魔忍RPG 苦労人爆裂記   作:HK416

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あぁ^~凜子の寝室エロすぎるんじゃぁ^~
でも、出来ればイチャラブがよかった。6種類もいて、イチャラブ0.5、騙されイチャラブ1、凌辱4.5て酷い、酷くない? 運営、バランス考えて!


ゆきかぜ「よってこの作品ではイチャラブアヘトロ調教しか認めません!(イチャラブ過激派」
凜子「いやぁ、私は前半だけで、な、なんならプラトニックな感じだけでも……(メソラシ」
ゆきかぜ「何言ってるんですか、凜子先輩! 対魔忍と言ったらアヘ顔、Lilithと言ったら調教! 花でしょーが目玉でしょーが! 凜子先輩、何をカカトマぶってるんですか! お尻ばっしんばっしん叩かれながらSっ気全快で優しくイジめられるのが大好きなドMじゃないですか!!(暴露」
凜子「や、やめろぉ!!(悲鳴」
若様「えー、一部会長による不適切な発言がありましたが、本編どぞー」
ゆきかぜ「あ、小太兄。私、今度調子乗ったメスガキ分からせプレイがしたい(真顔」
若様「お前もう黙ってろ(辟易」



ぶっちゃけ契約するなら利益しか見てない馬鹿よりも騙そうとしてくる天才の方が遥かに有益

 

 

 

 

 

 

 まえさきは大きく分けていくつかの区画に分かれる。

 闇の住人達が根城とし、違法ではなく脱法行為が横行し、いかがわしい店の立ち並ぶ歓楽地帯。

 住民達が一戸建てを購入、アパート、マンションの一室を借りて住まう住宅地帯。

 昔ながらの商店街、遠方からの観光客も受け入れ、若者の集う複合商業施設が共存する商業地帯。

 そして、誘致された企業が広大な敷地で街の住人を雇い、昼夜問わず稼働し続ける工業地帯。

 静流が四人の前に現れてから一時間後。傭兵達が乱痴気騒ぎに明け暮れる歓楽地帯から脱出していた。

 

 どれだけ傭兵達が駆けずり回る地域だろうが、所詮は烏合の衆。誰かが指揮をするわけではなく、各々が好き勝手に動いていれば包囲網には程遠。

 戦闘能力は勿論の事、夢魔の能力ですら脆弱な力に過ぎないと断じ、繊細で慎重な立ち回り方こそ生き残り、勝利し、利を得る術だと考えているミーティア。

 単独潜入に秀で、そのためのスキルを身に付け、人の心の機微を把握し、操ることが出来る対魔忍“花の静流”。

 母親からの教育でスキルは持っていれば持っているほど役に立つことを学び、自ら過酷な修練を積み、器用貧乏ならぬ器用万能と化した小太郎。

 

 この三人が手を組めば、勢いばかりで包囲の何たるかを理解していない傭兵の集まりを抜けるなど容易い。

 事実として、泣き腫らす害獣二匹という足手纏いがいながら、歓楽地帯を脱出するまでの間、誰一人としてその姿を目撃されることはなかった。

 

 そして今は工業地帯の奥にあるトンネルを進んでいる。

 車だけではなく徒歩や自転車による通勤を想定しているのだろう、トンネルは短い感覚で並ぶ埋め込み式の照明によって夜間であるにも拘らず真昼のように明るかった。

 

 

「この先はクロワダミ製薬の工場か。お前等、本当にそんなところに売りつけられたのか? 出鱈目言ってるんじゃないだろうなぁ……?」

「ちっ、違うよ! 人聞き悪いこと言うなぁ……!」

「ボ、ボクの能力は確かだよ! いる! 絶対いるから!」

「デデーン、リリム、ミナサキ、タイキックー。お前等の能力は知っているがその態度が気に食わねぇ」

「「な、なんで―――――ぎにゃああああああああああああああ!!!」」

「リリムーーーーーーーーーーーー!!!」

「本当にこの子は……容赦ないわね……」

 

 

 そして、五人はリリムとミナサキが先頭をその後に小太郎が続き、更に後方ではミーティアと静流が並んでいる。

 

 害獣二匹は平時ほどではないものの、それなりに意気を取り戻していた。

 二人にとって恐怖の象徴である小太郎のマスクは今や別のもので覆われている。いつぞや事故に見せかけて殺した政治家の自宅に侵入した際に購入した馬のマスクを被っていた。馬鹿馬鹿しくてやっていられないという気持ちの表れである。

 その間抜けさと場違い感でようやく恐怖が薄れてきたのだが、小太郎に容赦はない。二人の首に犬用の首輪を巻き付け、リードで繋いでいた。完全に人間かそれに類する人型魔族への扱いですらない。害獣だと断言しただけの事はあった。

 

 この扱いには仲間想いのミーティアやまともな倫理観を持っている静流は反発しそうなものだが、そういったものは一切ない。

 ミーティアはリリムの馬鹿さ加減を把握しており、下手に逃げようとして殺されるよりはまだマシと割り切っており、静流は静流で二人の厄介さを既に感じ取っていたからだ。

 

 

「でも、クロワダミ、ですか。私もCMで見た事があります。そんなところが危険を冒すなんて……」

「大企業は大企業だけど、最近は売上も株価も落ちてきてるからね。魔界技術に手を染めている企業に追いつかれてきているから、焦って、と言ったところでしょうね」

「だとしてもアホでしょ。新しいテクノロジーを得るためとは言え、こんなアホ二匹から買うか普通。いくら使い捨ての実験動物で他にパイプないからって、粗悪品掴ませる可能性高すぎるだろ。オレなら絶対買わねぇ、関わらねぇ、そうでなくてももっとよく調べる。アホしかいねぇのか、この界隈は」

「「………………」」

 

 

 害獣の扱いにこれ以上憐憫を覚えないように、話題を変えたミーティアと静流であったが、ぐうの音も出ない正論に押し黙らざるを得なかった。

 

 確かに彼の言うようにアホしかいない事件である。

 魔界の生物が高値で取引されると何処からか聞きつけた害獣は、たまさか捕らえた魔界ワスプをクロワダミに売りつけようとした。

 但し、それだけでは売り物にならない。魔獣と言えども野生動物と大差はなく、何らかの手段で調教、或いは操作(コントロール)できなければ生物災害を引き起こしかねないからだ。

 

 其処で、害獣はフリーマーケットで買った炊飯器をコントロール装置に改造して売りつけたそうだ。もう一度言う。フリーマーケットで買った炊飯器をコントロール装置に改造したそうだ。

 

 識者が聞いても顔面ハテナマークだらけになる。恐らく一般人でも同じだろう。これで笑うのは、ふうま宗家の天才技術者である啓治くらいのものである。彼なら再現しかねない。

 どこをどうすれば炊飯器を改造してコントロール装置など出来上がるのか全くもって意味不明だ、当人達も分かっていまい。野生生物のコントロールは難しい。精々が音や匂い、光で遠ざける程度で、その本能を妨げて意のままに行動させるなど不可能に近いのだ。

 どう考えてもそれはコントロール装置として機能したのではなく、たまたま機嫌が良かったか外敵に殺されないために大人くしていた魔界ワスプを見て、巧くいったと勘違いしただけだろう。

 

 害獣二匹は間違いのない馬鹿であるが、これをコントロール装置ごと買ったクロワダミの連中も同レベルの馬鹿である。

 まともな企業なら得体の知れない相手から危険な魔界生物を買おうなどと思わないし、コントロール装置に関しても徹底して調べ、効果が本物であるのか確認する筈である。

 尤も、そこは頭魔族なんぞに関わるアホ企業である。目先の欲望にばかり囚われて、頭が茹だっているとしか思えない行動にも出るなど日常茶飯事。

 実際、そうして倒産した企業は少なくはない。どんな手段を用いても成長しようとする企業よりも、真面目に誠実に客にも同業他社にも接し、安易な気持ちで魔界技術などに飛び付かず、昔ながらの方法と自ら築いたノウハウに誇りを持って取り組む企業が業界で長く息をするもの。

 小太郎が法の内側で知恵を絞り、真面目に生きている者こそ真に賢き者、というのはそういった理屈だ。

 

 敢えて――――と言うよりも、無理にクロワダミの肩を持つのならば、業績低下に伴って焦る経営陣にせっつかれた中管理職や現場がやらかしてしまったと考えられなくもない。

 が、いずれにせよ、同情の余地はあるものの関わった者全てがアホしかいない事態である。小太郎が容赦なくマジレス真拳をかますのも、静流の目が馬鹿馬鹿し過ぎて死んでいくのも、ミーティアが望むと望まざるとに関わらずアホな事態に飛び込んでいかざるを得ない二人に同情するのも無理はなかった。

 

 

「おら、はよ歩け。こんな馬鹿みたいな事件、こっちはこれ以上時間かけたくねーし、関わりたくもねーんだよ」

「うおごご、お尻が、お尻が……!」

「んぎぎ……! い、痛い、痛くて歩けない……!」

「ほう、よく言った。これなら?」

「「ぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!! …………あっ、へぇ」」

「これ以上人前で尊厳ぶっ壊されたくなきゃ早くいけ。オレも小便臭いお前等と関わりたくない。さっさと責任を取るために動くか、今すぐに死んでくれ頼むから」

「はあぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。もう、其処までにしなさい。ほら、君も」

「………………ふふっ」

 

 尻に向けてのタイキックをモロに喰らった二人は顔面から地面に倒れ込んだリリムとミナサキは恨みがましく小太郎を見上げる。

 しかし、小太郎は全く気にせずウマのマスクを取って、その下に隠された怪物のマスクを見せてしまう。

 瞬間、トンネルに響き渡る悲鳴、続く二人の涙に濡れた間抜け面。恐怖にとって尿道という蛇口が破壊された二匹の害獣はトイレを使用して用を足すという尊厳すら奪われていた。

 静流はクソデカ溜め息をついて、二人のフォローに回る。泣きじゃくる二人を立たせると、小太郎に馬のマスクを被り直すように指示を出す。

 

 その隣ではミーティアが口元を震えさせていた。リリムとミナサキへの同情が胸中の八割を占めていたが、残り二割は散々自分に迷惑をかけた二人の情けない姿に昏い愉悦を覚えてしまっている。

 とても仲間想いと言えない有り様であるが、これまでリリムから背負わされてきた苦労と迷惑を考えれば無理もなかった。

 

 

「ほら、二人とも立ちなさい。大丈夫よ、この任務が終わるまで私が守るから。協力してちょうだいね」

「うぇ、怖いよぉ……お股気持ち悪いよぉ……!」

「もうやだよぁ……誰か助けてぇ……ブヒィッ……!」

 

 

 ウマのマスクを渋々被り直した小太郎をしっしっと手で払い、静流は優しく微笑んで、二人の手を掴むと立ち上がらせる。

 そして、肩を抱いて慰める姿は正に教師――――いや、泣きじゃくる二匹が腰に抱き着いているのを見ると保母さんと言ったところか。

 但し、小太郎が離したリードはしっかりと握り、ひっそりと任務が終わったら無関係だからと宣言しておく抜け目の無さであった。

 

 まるっきり飴と鞭、もしくは良い警官と悪い警官と言った趣である。

 小太郎が責めて責めて責め抜いた分だけ、静流が優しく接する。そうすればそうするほど害獣の心理的なハードルは下がっていく。

 事実として、小太郎が何を言っても泣き喚くだけであろうが、静流がフォローするように優しく諭せば一も二もなく頷いて馬車馬の如く働いているではないか。

 打ち合せなしでこの手管。流石に単独潜入する上で必要な知識として心理学にも手を出している才女と人類の誰もが身に付けられるあらゆる技能を高い水準で身に付けた外道。会話も必要とせずに互いの役割と任務遂行に当たって必要な手順を決めたらしい。

 

 後ろで見ているミーティアは二人の仕掛ける誘導に気付てはいるものの、口を挟まない。挟めない。

 自分達の命脈がギリギリのところで保てているのは自覚している。此処で二人の機嫌を損ね、約束から何から反故にするつもりで全てを闇に葬る方向へと舵を切られたら成す術はない。

 相手からの不当な要求は絶対に応じる! だが完全な服従しない! 僅かな隙を探って虎視眈々の構え。リリムとは文字通りに格が違った。決してリリムの様子にもっと愉悦を味わいたい訳ではない。ミーティアは裏表のない素敵な夢魔なのだから。

 

 

「はぁ、めんどくせ。お前も大変だな、あんなのの世話押し付けられて」

(私の境遇分かってくれてる……!)

「だからどうかな。もう一回言ってごらん? “リリムなんていらない”」

「あの、露骨に洗脳しようとするの、止めて頂けませんか……?」

「だぁめかぁ。いや、洗脳の方はおまけなんだけどな。実際、洗脳されちまった方が色々楽だと思うけどな。このままじゃ壊れちゃうよ。普通にお前のこと心配ではある」

(これ本気で言ってくれてる……優しい……!)

 

 

 ウマのマスク越しに向けられる憂虞と気遣いの視線に、ミーティアはぶわわと内心でだけ涙を流した。

 洗脳という手段は兎も角として、小太郎がミーティアを心配しているのは本心である。彼にしてみれば、彼女ほどの有用な人材が、扱い易いからという理由で使い潰されてしまうのは余りにも勿体ない。

 

 ミーティアが現れたことで、小太郎の害獣共を殺す予定に変更はなかったが、優先順位は既に変わっているのだ。

 優先順位の第一は魔界ワスプの殲滅。これは静流が現れたことで差し込まれた急な予定であるが、現時点で対魔忍として最優先すべき事態であることに疑う余地はない。

 優先順位の第二はミーティアの自陣営への引き込み。これが彼にとって最大の目的に変化している。彼女を引き込むことで得られるリターンは果てしなく大きい。何としても心変わりを誘発させるか、そうでなくても己の専属として契約関係を結んでおきたい。だからこそ対話という手段を選択した。

 害獣に関しては最下位だ。ミーティアの出現によって、二匹の生死はどうでもよくなった。今後を考えて殺してもいいし、ミーティアとの関係を良好にするために見逃してもいい。どちらにせよ、自身に被害が及ばないような手筈は整っているのだ。

 

 

「ふーっ、しかし熱いな、脱いじゃお。あ、ところで挨拶がまだだったな。オレ、ふうま 小太郎。よろしくね?」

(あっ、私の好みかも。性格もアレだけど、私は優しくしてくれるし、結構いいなぁ…………………………っ!???!?!?!!?!?!????)

「ん、どうかしたのかなぁ? お話するからオレの目を見ましょうねぇ」

「み、見てません。聞いてません。私は何も見ませんでした。何も聞こえませんでした。だから許してください、命だけは、命だけは勘弁して下さいィ……」

 

 

 ズボリと音を立てて、二つのマスクが脱ぎ捨てられる。

 それを何となく横目で見ていたミーティアは、決して美男とは呼べないものの、切れ長の目とそれなりに整った顔立ちを目にした。

 正直に言えば、小太郎以上の美男など掃いて捨てるほどいるし、見慣れてもいる。夢魔は他種族の異性を魅了する生命体。生存戦略として容姿が優れていくのは必然であり、夢魔全体が美男美女の集まりである。

 だが、好みというものは個々で存在するのは人と変わらない。顔面崩壊レベル醜女、醜男が好きな者もいれば、豚のようにぶくぶくと肥え太ったのが好きな者もいる。

 最近流行りの線の細い優男(イケメン)ではなく、光るものがある訳でもなかったが、確かな男らしさの現れた造形と深い知性と強靭な意思を感じさせる瞳はミーティアとしては非常に高ポイントである。

 

 ただでさえグラついている心が更に傾きかけたが、それも其処まで。彼女は当然の如く戦慄した。

 

 今の今まで正体を隠していた男が、顔も名前も明かす行為が何を意味するのか分からないミーティアではない。

 危険意識が水城夫妻、親子を二重の意味で嵌めようとした阿呆な政治家や阿呆な奴隷商人とは段違いである。

 

 もうダメだぁ、おしまいだぁ、となりながらもせめて希望を繋ごうと顔を見ないように首を横に向け、名前も聞かなかったことにして、貴方の素性は誰にも明かしませんと言外に語る。

 

 

「いいね、ちゃんとしてる。ますます気に入った。本気で安心してくれ。顔も名前も明かしたのは殺すつもりだからじゃないよ。嘘じゃない」

「じゃ、じゃあ、私とリリムの命を保証してくれるん、ですね……?」

「お前の方は何もしなくても確約する。だが、害獣の方は保証しかねるな。宣言通り、逃げたら殺す。割と本気で邪魔だと思ってるからな」

「で、では、先程、提案させて貰ったように私が何かをする、或いは何かを差し出せば、リリムの命も確約して頂けます、か……?」

「ああ、構わない。オレが今一番欲しいのは情報だ。そいつを教えてくれるなら、確約しよう」

「……情報、ですか。私の持っている情報で足りるのならいいですけど……話だけでも聞かせて貰っても……?」

 

 

 情報はあらゆる事柄に共通する重要な要素であるが、明かしたところで痛手にならず、失うことはなくあくまで共有に留まる。

 実質、元手がゼロで命を買えるのなら安いもの。それどころか、情報を小出しにしていけば命だけでなく見返りまで視野に入れられる。

 その上、相手が何の情報を求めているかを知れれば、今後の目的も察することが可能。以後は、関わり合いにならず平穏に稼業に勤しめる。

 

 半ば本気の怯えの演技を見せながら、ミーティアは計算高く立ち回る。

 少なくとも、小太郎が自身を高く評価してくれているのは確定的。でなければ圧倒的な優位にありながら交渉染みた真似はしない。恫喝すればそれで終わるにも関わらず、対等の立場としてテーブルについてきた。

 これは今後の関係性を見据えているからに他ならない。チャンスはやってきた。己とリリムの命を確保しつつも、今回の件がプラスで終わらせられるほどの利益を獲得する絶好の機会。

 

 そのためには、自分を最大の高値で売る必要がある。

 情報源としての有用さ。情報そのものの新鮮さ。雇われ人としての確実さ。

 何であれ構わない。相手が何を求めているのかを見抜き、虚実入り混ぜてでも自らの価値を最大限まで高める腹積もりだ。

 

 

「オレが欲しいのは一つ――――淫魔王についてだ」

「……………………」

 

 

 だが、小太郎はその全てを台無しにする爆弾をぶち込んできた。

 

 彼にしても最大の好機なのだ。夢魔と淫魔、呼び名こそ違うが種族としてはさして違いはない。

 どちらも他者の心や精を食料として生きる生命体。生物学上の違いは存在せず、隔てるの属する派閥と思想の違いだけ。

 

 夢魔と名乗る者は、夢を介して精を絞る事に拘る。夢を操る能力こそ、我々と他を画す存在である証明なのだ、と。

 故に、見せる夢に方向性はない。淫らな夢ばかりではない、誰もが思い描いた理想の自分を見せることもある、幸福だった幼き日々を再現することもある。現実を超越した夢の世界を操る我々こそが超越者に相応しいと言わんばかりに。

 

 淫魔と名乗る者は、夢も現実も関係なく快楽で精を絞る事に拘る。あらゆる快楽を操り手中に収める能力こそ、我々と他を画す存在の証明なのだ、と。

 故に夢だけに拘らず、現実でも快楽を餌とする。ただひたすら淫靡に、猥褻に。精と楽を追求し、老若男女問わずに絡め搾り取る。あらゆる生命体が逃れられぬ甘美な快楽で隷属させる我々こそが超越者に相応しいと言わんばかりに。

 

 駆使する手段と最終的な目的はそれぞれ異なるだろうが、近しい存在であるのは事実。何らかの情報を持っていてもおかしくはない。

 水城夫妻と娘であるゆきかぜすらも狙い、既に自陣営に取り込んだ並行世界の紫に手を出している挙句、日本という国を裏から支配しようとする思惑が見え隠れしている上、弾正とまで手を組んでいる淫魔王。

 個人としても、対魔忍としても、ふうま宗家当主としても、どの小太郎からしても問答無用の絶殺対象。未だせせこましく正体と拠点を隠して立ち回る目障りなゴミに近づく好機を逃す筈もない。

 

 ――――その名を聞いた瞬間、ミーティアの顔からあらゆる感情が消える。

 

 ピタリと足まで止めたのは、動揺そのもの故ではなく、生じた動揺を必死で収めようとしているからだろう。

 感情こそ表情に現れていないが、即座に浮かび上がった大量の汗が彼女の内心と淫魔王の危険性を物語っている。

 

 死ぬ。喋れない。どうしてその名を。仲間に迷惑をかけられない。殺される。

 

 ようやく見えた希望の入り口を閉ざされ、ミーティアの頭の中は感情と思考が混ざり合って方針すら決定できない始末。

 それでも彼女は優秀だった。両手で銛を握り締め、震える吐息を吐き出すと、今まで見ようとしなかった小太郎の真正面から見据えて向き直る。

 その時点で汗も引いており、あらゆる覚悟を決めていた。

 

 

「その情報は渡せません」

「ほう、自分の言ってることが分かっているのか?」

 

 

 自ら顔を見たのは死すらも覚悟しているからだ。

 小太郎が目を細めて、懐から取り出したベレッタの撃鉄を上げても微塵も揺るがない。

 

 

「理解しています。私とリリムの命が拒否の代償だと言うのなら支払うまでです」

「成程、よく分かった。歩きながら話そうか」

 

 

 自分だけならばまだしも、あれだけ必死になって守ろうとしたリリムの命を当人に断わりなく差し出してしまう。

 これまでとはまるで異なる態度の裏にあるのは、情報を渡してしまうことで受ける被害が自分やリリムだけではなく一派の仲間にまで及びかねない事実。

 仲間を危険に晒すくらいならば、いっそ二人で死んだ方がマシだと考えている。彼女の根幹にあるものは何一つ揺らいでいない。

 

 小太郎は拒絶されながらも、逆に気を良くしてベレッタを懐に収めた。

 拒絶の中にも情報を小出しにしてきている。それはつまり、彼女はまだ交渉のテーブルを立っていないことを意味している。

 ミーティアとしても自分の意思決定だけで渡れる危険な橋を渡っている最中。ここで御破算としてしまうには、彼女の決意を無駄にする。余りにも非礼であり、同時に効率も悪い。

 

 彼女が言外に語っていたのは、自らが淫魔王の陣営ではないこと。そして、少なくとも淫魔王とミーティアの属する陣営のトップが対立、ないしは不仲を示している。

 もし仮に淫魔王の陣営であれば情報を与えぬため即座に自害するか、殺しにかかるか、王の周囲を探る者がいる情報を持ち帰るために逃げていた。彼女はその全てから外れた行動を取っている。

 自害の決意と殺害の受け入れは死体が生まれる結果は同じだが、過程が違う。死ぬつもりならば下手に会話を長引かせる必要はない。僅かな会話からでも情報が渡ってしまう可能性があるのならば、即座に自害した方が幾分かマシである。

 それでもなおミーティアが拒絶と共に死へと至る選択をしたのは、淫魔王の情報を伝えること自体が自身ではなく一派にまで及んでしまうと語っているも同然であると同時に、まだ交渉の余地はあるとも語っている。

 

 

「じゃあ、何か妥協点か代案はあるか?」

「そう、ですね…………今、私の持っている情報を渡す事は出来ません。でも、ふうまさんが正式に依頼して下されば、その限りではありません」

「くくっ、いいね。実にちゃんとしてる」

 

 

 淫魔王を殺るのであれば、事は秘密裏に進めねばならない。

 単純な武力、勢力としては淫魔である以上、淫魔王は兎も角として部下は脆弱。それはヨミハラで確認済み。

 陣営が崩壊する可能性があれば、迷わず逃げて再起を図る。自棄に玉砕する理由もなければ、これまで誰にも悟られることなく政界にまで魔の手を伸ばして日本を支配しようとしているやり口はその性質を物語っている。

 一気呵成に攻め立てて、根の根まで叩き、生存と再起の芽を摘まねばならない相手。途中で裏切るような阿呆、怯えて逃げだす臆病者も自陣営に引き入れた時点で淫魔王の生き残りは確定したも同然。

 

 敢えて自らの考えを口にせず、ミーティアへと促したのは、そのための品定め。

 その点、彼女が一言目から発した代案は小太郎の考えていた中でも、最高のものであった。

 

 ミーティアの拒絶の根幹にあったのは自身以上に仲間への被害を考えて。

 此処で命惜しさに持っている情報を渡した場合、淫魔王側が敵対行為と受け取ってしまえば言い訳のしようもない。淫魔王とミーティアの一派はそのまま抗争状態に突入する。

 だが、今持っている情報を渡すのではなく、正式な依頼として改めて調べた分を調べた分だけ渡すのであれば、話は別。何らかの理由で淫魔王にバレたとしても、一派のトップは末端の暴走としてミーティアの首を差し出せば話は其処で終わるのだ。

 その上、依頼である以上は報酬も見込める。慎重で大胆。全体の安全を追求しながらも、個人の利益と評判も見越した一手。

 

 

「そっちが裏切らないという保証は?」

「ありません。でも、裏切りを未然に予防する手段をふうまさんには持っているんじゃありませんか? 一定時間で作用する毒を取らせて解毒剤は自分が握るとか、任意で作動できる爆弾を取り外せないようにして持たせるとか私でも思いつきますし」

「ふむ。じゃあ逆に用済みになったらオレが裏切る、とは思わないのか?」

「思いません。出会ったばかりの私にこんな話を持ち掛けてきている以上、私を評価してくれているか、相当に切羽詰まっているのかどちらかです。用済みになったら殺す、なんて短絡的なすぎるかと。外部に力を借りようとしている以上は対魔忍の戦力、特に諜報関係に関しては不足気味と見るべき。なら、私に依頼をして私の一派とパイプを作って情報収集役として使った方がいい。夢魔相手なら武力で制圧できると考えるでしょうし。後ろから刺すならそれからでも遅くはない。何なら利用するだけ利用して、別の勢力に丸ごと潰させる自分の手を汚さない方法も取れます。ふうまさんならそれくらい平気でやりますよね?」

「いいねいいねぇ、最っ高だねぇ!」

(これ、評価してくれてはいるんだろうけど、私の口にした内容以外で皆殺しにする方法考えてるんだろうなぁ。私も色々と手を切る方法を考えておかなくちゃ)

 

 

 腹を括ったミーティアは、本気と自暴自棄が入り交ざった状態で、自らの想定している小太郎の思考をつらつらと語る。

 その表情に最早怯えはなく、寧ろ微笑みすら湛えていた。その態度に、小太郎は機嫌を悪くするどころか笑みを深めるばかりだ。

 

 取引(ディール)の勝ち筋。それは相手以上の利益を得ることではない。相手にしてやったりと思わせ、偽りの花道を作ってやること。与しやすい相手だと誤認させさえすれば、最終的に多くの利益をもぎ取れる。 

 今回に関してはそのどちらでもない。小太郎も、ミーティアも腹の底では虎視眈々。裏切るつもりは毛頭ないが出し抜く方策を考えている。

 神経を削りながら腹を探る必要のある、そして腹を探ってくる相手。それはつまり、一々言葉にせずとも他者の心中や思惑を看過して行動できる者でもある。これほど心強いものはないだろう。

 

 

「それで、合格点か及第点は頂けますか?」

「合格も及第もあるかよ。もうお前の命は確約しているんだから。オレが知りたかったのは、何処まで任せられるか、だ。これなら全て任せてもいい」

「成程。報酬に関しては?」

「その辺りは正式な依頼を出す段階で決めたい。こっちとしても重要な仕事だ。今この場で揉めて御破算にしたくはないしな。互いに納得のいく形に落とし込みたい。今後もあるかもしれないしなぁ」

「ふっ、ふふ。そうですか、それはそれは。ご利用ありがとうございま~す♡ でもよかった。実を言うと彼の情報に関しては、何も持ってなくて」

「あれまっ。やるねぇ」

 

 

 ミーティアはにっこりと微笑むと、これまでの仕返しとばかりに事実を暴露する。

 呆れたことに、彼女は全くの空手形で小太郎との交渉に挑み、正式な依頼とその報酬をもぎ取ったようだ。

 

 聞いた瞬間に抱いた淫魔王への恐怖は本物だった。

 奴は夢魔だからと言って、慈悲を与えるような輩ではない。僅かでも裏切りに類する行為を見せれば、あらゆる手段で報復に出る。一派のトップからも極力関わりを持たぬように言い含められていた。

 同時に別の恐怖も抱いた。それは現時点で小太郎にとって有益な情報など何一つも持っていなかった事。彼も危ない橋を渡っている。渡せる情報がなければ、何もかもを闇に葬り、全てをなかった事にしかねない。

 

 そこで、状況を利用することにした。

 淫魔王への恐怖で、空手形である恐怖を覆い隠したのである。

 如何に相手の理解が速く、反応から思考を読める小太郎であっても全てを見通せるわけではない。嗅ぎ取った恐怖の臭いが、どういった思考の下に発せられたかまでは推察する他ない。

 僅かな会話や反応から小太郎の性質を読み取ったミーティアが、更に僅かな時間で最善策を講じてのけたのだ。

 

 一瞬、目を丸くした小太郎であったが、どうせ手を組むのなら頭の回転が速いに越したことはない、暴力ではどうにもならない局面を覆せる策謀と智慧の持ち主であるのならなおよい、とブラフだけで難局を乗り切ったミーティアをますますもって気に入ったのか、笑みを更に深める。

 

 

「だが、此方からも一つ」

「……やっぱり、お気付きですよね?」

「勿論、目先のことにばかり気を取られるわけないさ。お前は現時点で情報をくれた訳じゃない。よって、害獣の命の保証はしない」

「まあ、当然ですね。別に、私がリリムを助けるように構わないですよね?」

「ああ、精々頑張れ。じゃあ、よろしく頼むよミーティア」

「今後とも、末長いお付き合いをよろしくお願いしまぁす♡」

 

 

 ミーティアは小太郎の警戒を潜り抜けて契約を結び、小太郎はミーティアにやり込められることはなかった。

 両者のやり取りは一勝一敗と言ったところか。いずれにせよ、互いに裏切るよりも契約を継続し続けるべき存在と認知するには十分すぎる心理戦だった。

 

 ミーティアは腹黒さを隠すことをせず、小太郎もまた悪意を隠そうともせずに笑みを浮かべて固く握手を交わす。

 

 ただ、一点。

 彼女の笑みには僅かな引き攣りがあり、これに小太郎は自身か淫魔王に対する恐怖と判断したのだが、実際には違う。

 まだ言えていない自身の苦手があったからだ。ミーティアにとって、最大の受難はすぐ其処にまで近づいていた。

 

 

 

 

 

 





若様「こっちをまだ品定めしてるだろうけど、仕事意識高い系でこっちが裏切らなきゃ絶対裏切らない頭のいい真面目ちゃん! 腹黒なのもいい! ンン゛ッ! しゅきぃ!!」

ミーティア「裏切れば殺されちゃうだろうけど、報酬でゴネなさそうだし、致命的な失敗なければ寛容そうだし、私のこと無条件で庇ってくれそう! 何よりも私の苦労を分かってくれてる!! ン゛ン゛ッ!! 大しゅきぃ!!」


或る意味で作中誰よりも相思相愛な二人。

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