対魔忍RPG 苦労人爆裂記   作:HK416

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今回のイベントは配布カウーラと亜希か。セーフ! 個人的に股間に響くキャラではない! これならガチャ回さず、薬使わなくて済むぜー!
つーか、今回のイベボス、強い、強くない? オートでやってると気が付くと全滅してるし。バフと状態異常が厄介なので、丑凜子でダメカして、夏静流でリジェネ撒いてバフ解除して貰う。いや、夏静流を正月アサギに変えてダメージUPを狙ってもいいか?

今回は、ミーティアの爆弾が爆発回。まあ、仕方ないね、状況が状況だからね。では本編どぞー!



苦手なものは苦手だからね、しょうがないね(激甘判定)とのこと

 

 

 

 

 

「あったわね」

「おー、ありゃ地中の方に大部分が埋まってるな。縮尺考えたら比較的小型かな」

「………………っ」

 

 

 働き蜂の来た方向へと進んだ小太郎、静流、ミーティアの三名は森の奥で魔界ワスプの巣を発見した。

 

 あったのは木の根元。スズメバチは地中にも巣を作るため、何ら珍しいものではない。

 見た目も人界のそれと変わらないが、魔界ワスプが大きい分だけ巣も大きい。

 地中から顔を出している部分だけでも一軒家程度の大きさがあるが、働きバチですら大型犬レベルの大きさであることを鑑みれば、地中部分は更に4、5倍ほどはあるだろう。。

 

 巣の外面には働き蜂が群がっており、巣の補強を繰り返している。

 樹木の繊維をペースト状になるまで噛み砕き、唾液と共に固める。触覚によって一定間隔になるようハニカム構造の巣盤と厚みが均一な外皮を形成していく。その手際は左官職人と称されるほどに無駄がない。

 

 

「ん? 女王か。分蜂以外で女王が巣から出て来るのは魔界ワスプの特徴だな」

「働き蜂の取ってきた餌を女王が一番に食べ、残りを幼虫に、だったわね。何にせよ、好機ね」

「………………っっ」

 

 

 人界の女王蜂が巣から出ることは特定の場合を除いてほぼない。

 働き蜂が与えられた役割を熟すように、女王蜂も産卵という役割を熟して種の保存に努める。

 名前から勘違いされがちだが、女王蜂に群れを統率するような能力はなく、崇められているわけではない。生物学的には生殖虫と呼ばれるように効率よく繁殖していくためのシステムの一部に過ぎず、人類社会の“女王”とは意味合いがまるで異なる。

 但し、魔界ワスプの女王は別だ。魔界で如何なる進化を遂げたのか、女王は実際に働き蜂を統率し、人間の女王のように振舞うのだ。

 その分、弱点も存在する。女王を討ってさえしまえば統率役のいなくなった働き蜂は活動を停止し、次の女王が生まれるまで無害化するのである。

 

 

「巣に残ってる兵隊の数も少ない。首尾は上々、行きますか」

「ええ、そうしましょう」

 

 

 巣から離れた位置にある木の陰から様子見を終わりにし、一直線に巣へと向かっていく。

 

 ようやく外敵の存在に気付いた魔界ワスプは、巣から飛び上がり、羽音を最大限にまで高めると大顎を鳴らしていた。

 外敵の周囲を飛び回ることなく、女王を中心に巣上へと浮遊したまま動かない。これは警戒行動でも威嚇行動でもない。次の瞬間には仕掛けるための攻撃態勢。

 

 この手の群体において危険なのは数。

 まともな運用されずとも、まともな戦術などなくとも、竜巻の如く押し寄せる物量は如何ともし難い。

 敵よりも多い戦力を用意するのは戦の常道にして正道とされる。強者であるのなら奇を衒った策など最初から必要なく、寡兵にて敵を押し返した者が名将と呼ばれるのは真っ当な理屈を覆したからに他ならない。

 

 だが、本来は竜巻に匹敵する群勢も、今や暴風にまで抑えられている。これならば、三人でも対処は可能だ。

 静流にとって植物や樹木の多い場は、自身の木遁を最大限発揮できる。もうこれだけでお釣りが来る状況だが、其処に小太郎とミーティアがサポートに回れば盤石となる。その上――――

 

 

「ミーティア、あの蟲どもに夢を見せられるな? やってくれ」

「………………」

 

 

 昆虫は夢を見るのか。

 その疑問に、正確な回答を得ることは叶わない。人と昆虫は明確な意思疎通が出来ない以上は仕方のないことだ。

 そも夢を見るために必要な睡眠ですら定義によっては、する生き物としない生き物は変わってくる。これでは睡眠後に見る夢すらも定義によっては変化するのは必然。

 

 だが、そんな道理を越えてこその夢魔。

 彼女の種族が見せる夢は、通常の過程(プロセス)とは異なる。全く夢を見ない脳構造を持つ、或いは精神性を持つ種族でも関係ない。

 夢魔の夢はある種の世界を創造する行為に近い。尤も現実の人界や魔界のそれとは異なり、精神の内に潜む原風景や内面世界のそれに近く、壮大さとは無縁である。

 強度は夢の世界に誘い込まれた対象の気付きによって崩壊してしまうほど脆く、非常に曖昧であやふや。対象の精神力によっては逆に夢の世界の形成を邪魔されて支配権が奪われてしまうほどだ。

 しかし、その気付きを極限させ、どのような精神力の持ち主であれ、支配権を握ったまま誘って甘美な地獄へと叩き落すことこそ夢魔の手腕。

 

 ミーティアほどの手練れであれば、精神だけを夢の世界に引き摺り込み、対象が起きた状態のまま身体の自由を奪う真似すら可能だろう。

 ならば、複雑な精神を持たず本能のみで生きる生物の方が相性が良いのは道理。対象の本能が望むままの夢を見せてやれば、気付きなどあろう筈もなく、支配権を奪われる恐れもない。

 

 不思議だったのは、ミーティアの態度だ。

 夢魔にしてみれば鴨も鴨の相手。複雑怪奇な精神を持つ生き物が生み出す精神エネルギーそのものである“精気”を多く得られる相手ではないが、行動を縛る程度なら造作もないにも関わらず、顔を蒼褪めさせていた。

 既に戦闘態勢に入った静流と小太郎は、彼女の反応に対する不審を完全に思考の外に押し出していたが、事此処に至ってようやく彼女の顔を見た。そして、二人の視線を浴びたミーティアは意を決して震える口唇を開く。

 

 

「あの、お二人にどうしても言えなかったことがありまして……」

「ちょっと、ミーティアちゃん? 今この状況で……」

「後にしてくれ、どうでもいいだろ」

「――――実は私、虫が苦手なんですぅ……」

「「…………なんて???」」

 

 

 唐突なカミングアウトに、静流と小太郎は目が点になりながら、さーっと顔から血の気が引いていく。

 

 よもや、よもやだ。

 小太郎の目から見ても、静流の目から見ても、ミーティアは優秀だった。

 どんな状況でも諦めず最善を模索して行動に移る。慎重でありながらも大胆。相手の警戒心を理解しながらも、恐れを飲み込んで懐に飛び込んでいく勇気もある。

 そんな彼女が、ただの苦手なものの前で木偶になるなど想定などしていなかった。いや、余りにも馬鹿馬鹿しい任務すぎて、さっさと終わらせたかったからこそ想定から外したと言った方が正しいだろう。

 

 

「見てください。凄いでしょう鳥肌。ふふふふ」

「いや、それなら後ろに下がっていて……!」

「無理です。こんなに膝が笑ってます。完全に腰が抜けてます」

「どうして其処まで頑張っちゃったんだ……!」

「す、すみまぜん……折角、雇って頂けそうなので頑張らないと、と……頑張ればイケるかと……でもダメでしたぁ……!」

 

 

 此処に来て、まさかの足手纏い化である。

 これがリリムやミナサキであればむべなるかな。二人に驚きもなかっただろう。

 だが、それ以上責める真似も出来ない。様子のおかしさに懸念を抱いていながら、気に掛けてやらなかった側にも責任がある。

 

 ミーティアとしても、可能な限り早い段階で打ち明けてしまうべきであった。

 苦手なものは苦手。それを責めるような相手ではない、と頭では分かっていた。しかし、彼女の置かれた状況が状況だった。

 己とリリムの命が掛かった分水嶺。そんな場面で生殺与奪を握る相手の不興を買えばどうなるか。首がストンと落ちかねない。

 

 無論、小太郎にとっては最早、そのような相手ではない。

 彼の講じている大戦略にとっては要と成り得る重要な外部戦力。あくまで“淫魔王の抹殺”を目的として雇う予定であって、自らの任務ではない“魔界ワスプの討伐”で如何なる不手際があろうとも予定に変更などありはしない。

 

 それでもこんな喜劇が引き起こされてしまったのは、やはり信頼の問題だろう。

 小太郎がどれだけミーティアを高く評価しようとも、心の奥底から信頼しているのではない。そも、他人を信頼できるような精神構造をしていない。

 そんな彼にミーティアもまた気付いていたのだろう。だからこそ、信頼を得られずとも評価を得ようと、無理に無理を重ねてでもアピールしておきたかった。でなければ、安心できなかったのだ。

 

 

「仕方ないか、ミーティアちゃんは捨ておきましょう! 早く片を付ければ、それだけ助かる可能性も増すわ!」

「お断りしまぁす! オレが背負って戦ったらぁ!!」

「ちょっと、何を言ってるか分かってるの?!」

(うるせぁぁぁぁ! そっちはそれで良くてもこっちは良くないんじゃい!)

(優しい……!)

 

 

 静流は小太郎の事情や今後の戦略を知らず、ミーティアは予定外の有能な協力者であっても失ったところで痛手はない。あっさりと見捨てる方向へと舵を切った。

 此処まで来たのはミーティア自身の決めた事柄であり、責任の所在は彼女にこそある。その責任を肩代わりして魔界ワスプを取り逃し、民間人への被害が拡大するなどあってはならない事態だ。冷酷ですらない対魔忍として当然の選択である。

 

 しかし、小太郎はこんなところで失う訳にはいかない故、正気を疑われるような真似に出る。

 動けなくなってしまったミーティアを背負い、警備兵から奪っておいたショットガン――――ベネリM4を構えた。

 

 これにはさしもの静流も悲鳴を上げる。

 文字通りのお荷物を背負いながら凶悪な魔獣を相手取ろうなど正気の沙汰ではない。手練れの対魔忍でも戦闘能力の低下は免れず、学生に過ぎない身な上に小太郎が戦闘面で優秀であると噂ですら伝わっていない。無謀も良い所である。

 けれど、最早止めようがなかった。魔界ワスプは臨戦態勢、今この瞬間に襲い掛かってこないことすら不思議ですらある。そのような状況下で説得に回るほど静流も敵も呑気ではない。

 

 ミーティアを見捨てた静流であっても、対魔忍として、五車の教師として学生を見捨てるつもりは全くない。

 日本の平和と無辜の民を守ること、教師として学生を導くことはあらゆる手段を許容し、実行する静流にとって数少ない誇り。例え、対魔忍の家系に生まれて良い事よりも悪い事の方が多かったとしても抱いた誇りに変わりはないと胸を張って言える事柄だからだ。

 

 

「あぁ、もう!」

「抜けてきたのはこっちで処理する! サポートするから女王は任せる!」

「ええ、分かってるわよ! しょうのない子達ねぇ!」

「「御迷惑お掛けしまぁぁぁぁすっ!!!」」

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

「「ひぃぃぃぃぃ~~~~~~~~~~~!!」」

 

 

 月明りだけが差し込む森の中を、二匹の害獣が木々の隙間を縫いながら低空飛行で必死に進む。

 

 その背後は頭が痛くなるほどの羽音を立てながら、フェロモンに釣られて追い掛け回している。

 生態にインプットされた本能に従うままの姿は、欲望のまま外敵や餌を追い掛けているというよりも、定められた機能を発揮しているだけの機械のよう。

 

 余裕があれば薄気味悪さすら感じたであろうが、瀬戸際にある害獣にそのような余裕あろう筈もない。

 繁華街での鬼ごっこといい、クロワダミの工場へと辿り着くまでの間に小太郎から加えられた肉体的、精神的な虐待といい、最早限界は近い。

 

 だが、魔界ワスプがそのような事情など考慮する筈もない。

 フェロモンに釣られるまま、対象が動かなくなるまで追い掛け、殺すか餌の肉団子にするまで止まらない。

 

 ただ、奇妙な点があった。

 害獣を追い掛ける群れの中から、一匹、また一匹と離脱するものが現れ始めていた。

 巣と女王の危機を察知した訳では断じてない。何故ならば離脱した方向は巣へでなく、地面へと向けてだったからだ。

 地面へ離脱した働き蜂は、首と胴と腹がそれぞれに泣き別れしており、僅かな出血もなく絶命している。何らかの鋭利な刃によって切断された事だけは間違いない。

 

 第三者が居れば或いは何か分かったかもしれないが、生憎とこの場に居るのは害獣と魔界ワスプの群れのみ。

 害獣は生き残ることだけに必死であり、魔界ワスプは本能に刻まれた反射に支配されてまるで気付いていない。

 

 まるで逃げる害獣を助けるかのような奇妙な現象は一体何なのか。

 その問いに答えられる者はこの場に居らず、また疑問に思う者すら居なかった。

 

 

 

 

 


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