対魔忍RPG 苦労人爆裂記   作:HK416

72 / 81
アサギktkr! あ゛ぁ~~~、引きたいんじゃぁ~~~~~~!!


アサギ「この新しいスーツ、どうかしら?(ドヤ顔&ポージング」
ゆきかぜ「私レベルの年甲斐もない責め責めのハイレグ! いいんじゃ、ないですかねぇ?(ねっとりボイス」
若様「エロ用の装束じゃねぇんだよなぁ。まあ、服もいいけどその髪型もいいと思うよ(無自覚のたらし」
ゆきかぜ「成程、小太兄は髪型を変えてくるのも好き、と(メモメモ」
アサギ「今夜は寝かせないわよ!(誘い受け」


自分の頭の中で会長と名誉顧問が暴走しておられる。

そして、本編だけどぜーんぜん進まなくて笑っちゃった。
無形くんちゃんの説明のみの回です。あと無形くんちゃんの性別は公開しない方向でいこう。くんでもちゃんでもおっさんでもおねえさんでも美味しいポジだからね! ハンジさん方式でいこうと思う! では、どぞー!



苦労人と見えざる刃

 

 

 

 

「こ、小太郎さぁん、無理しないで……」

「無理してる訳じゃない。出血しちゃいるが死にゃあしないさ。早目に此処から出るぞ。それよか、もう大丈夫か? 魔界ワスプは動かなくなったが、そこらにチラホラいるし」

「ブヒィ……!」

「ど、どうした、お前」

(優しい……! それにまだ見捨てられてない! これから頑張れば、報酬もいざという時の助けにもなる……!)

 

 

 女王と討ち、巣を破壊した後、一向は炎が広がっていく実験林の中を進んでいた。

 方向は警備兵を昏倒させた出入口のちょうど対角線上。強化ガラスの壁を破って脱出する腹積もりだ。

 侵入に使用した出入口は、警備隊の隊長がどんなに鈍い人物であれ、昏倒した部下を見れば侵入者の存在に気付いて既に固めている。聡い人物であれば燃え広がる炎から全て手遅れと判断し、クロワダミの上層部に魔獣を使った実験の証拠隠滅を進言し、手の切り時と考えて次の就職先を考えているところだろう。

 突破するのは不可能ではないが、幸いなことに強化ガラス用の装備もあれば、静流もいる。草花ですらアスファルトを破る生命力を見せる、木遁使いであれば樹木を成長させて強化ガラスどころか特殊合金の扉ですら打ち破れる。余計な手間をかける必要はなかった。

 

 小太郎に肩を貸しながら、半泣きのミーティアは手首から先がなくなり止血してもなお出血が続く右腕に視線を落とす。

 どうやら、この傷は自分の責任と思っているらしい。確かに責任の一端は彼女にあると言えなくもない。

 

 尤も、小太郎は戦闘面でミーティアに期待などしていないし、誰にも期待などしない。

 事実と能力、性格に則して出来る仕事を振るのみ。予定外の出来事はあったが、それこそミーティアを測り損ねた自身の責任であり、当然の報いを受けただけの事。

 苦手や無理を申告しなかったことは責められるべきだが、状況が状況だ。口を開き易い環境を提供してやれなかった事実がある以上、やはりこれも己の責任とし、責める様子は一切ない。

 

 その気遣いにミーティアは思わず涙と鼻水を吹き出し、豚のような呻きを上げる。

 無理もない。彼女はこれまでの間、仲間からも気を遣われたことなど殆どない。好き放題に厄介事を投げてくるのに感謝の言葉もなく、自分の頼みなのだからやって当然といった態度の頭魔族の仲間達。

 それに反して、契約上の関係とは言え、失敗を責めないどころか逆に気まで遣ってくれる小太郎。もう既に気持ちは夢魔の仲間よりも、小太郎の側に傾きつつある。今後は仲間の頼みよりも小太郎の頼みを優先しそうな勢いである。しかし、きっちり打算も忘れていない辺り、流石であった。

 

 

「それで、闇堂さん? くん? ちゃん? どれでもいいけど、必要に迫られたとは言え、主人の右手を切り落としておいて相変わらず姿を見せないで、謝罪もなしなのね。それに闇堂家って言えば、確かふうま一門の……」

「放っておいていいよ。近くで護衛してくれてる。アイツは絶対に人前に姿を見せない。見せたとしても変装して誰かも分からんし、姿を隠しても直接会話をしないで全部電話越しだ」

「呆れるくらい徹底してるわね。それを許すなんて、随分と信頼してるのかしら?」

「いや、信頼以前だ。闇堂の連中に裏切りはない。だからこそ頼りになるし、同時に厄介だけど」

 

 

 未だ姿を見せない化外の暗殺者に興味を唆られている、と言うよりも静流は周囲を警戒しながらも小太郎の意識を保つために会話を続ける。

 自身への不甲斐なさや憤りを、姿を見せない暗殺者へとぶつけかけていたが、言葉の上では兎も角として感情として発露をしていない辺り、流石であった。

 ただ、異常なまでの警戒心であったのは事実。いくら姿を見せないとは言え、味方は味方。ミーティアには、静流の警戒は奇異にさえ映っている。

 

 小太郎は静流に気付かれぬよう、ちらりと背後で燃え広がり続ける炎に照らされる樹上の枝へと視線を向けた。

 炎によって生み出された影の中には更に影がおり、此方を見下ろしている。影は驚くように、怯えるようにビクリと身体を震わせると首を垂れて再び影に溶けていく。

 

 アレこそは闇堂 無形。

 小太郎を頂点とするふうま一門どころか、対魔忍においても、彼の隠形術を破れたのはカメラ越し、異能越しの視線にすら気付き、警戒心がそのまま索敵に繋がっている小太郎のみ。

 その事実は、この世に存在するありとあらゆる者への暗殺可能であると示している。姿を見せず、声の届く距離での会話を拒絶する不躾を許されている唯一の部下。

 

 静流の警戒も無理はない。

 それだけの能力を備えていることに加え、あの闇堂家の出身だからだ。

 

 闇堂家は、ふうま一門の異端にして始末屋。

 敵対組織の長を暗殺するのは勿論の事、一門の裏切り者を速やかに粛清してきた生粋の暗殺者。

 勇名を馳せることは決してなく、誰にも気付かれることなく首だけを落として持ち帰るその手管は、対魔忍内部ですら蛇蝎の如く嫌われ、同時に恐れられた。

 特に井河家・甲河家にとって厄介であったのは、闇堂家の忠誠心だ。忍は旗色や潮目が変われば、すぐに裏切る。元より公権力からは遠い存在であり、自らや一族の利益を追求する他ないからだ。

 

 しかし、闇堂家はふうま宗家に仕えてから、ただの一度も裏切り者を輩出していない。

 仕える以前から暗殺を生業としてきた故に、絶対の忠誠と服従を誓うことで主君や仲間に要らぬ警戒を抱かせず、本来は得るのも難しい立場でありながら絶大な信頼を勝ち得たのである。

 腹を切れと言われれば、即座に腹を捌いた上に自ら首を切り落とし、自らの赤子を殺して喰らえと命ぜられれば、何の懊悩も見せずに実行する。その忠誠は最早、心より生ずるものではなく、在り方そのもの。血に刻まれた宿業と言っても過言ではない。

 

 それは、弾正の反乱時にも遺憾なく発揮された。

 

 粛清部隊がふうまの隠れ里にやってくれば森の闇に紛れて指揮官クラスを闇討ちし、一人が二人にでも囲まれれば即座に自爆して数を減らす。

 弾正が癇癪を起しても、何一つ不満を示さず受け入れ、米連に逃げ延びると決めれば、死を厭わずに足止めに終始する。

 反乱が鎮圧された後、捕らえられた闇堂家の者は絶無であった。一部は弾正と共に米連へと逃げ延びたが、その殆どは弾正の情報を与えまいと捕まる前に総てが自害したのである。

 

 井河にしても、甲河にしても、彼等の忠誠も行動も異常であった。

 どう贔屓目に見ても、弾正など彼等が仕えるに値しない当主であったからだ。仕えた所で見返りなどなく、労いの言葉すらないだろうにも拘らずこの始末。

 弾正などよりも遥かに厄介で警戒すべき存在。少なくとも、アサギと共に日本を守ると誓った対魔忍にとっては共通の認識であり、事実を目にしていない若い世代には風化しつつある存在である。

 

 

「でも、無形……殿は、どうして君に? 闇堂家は全て弾正についたと聞いているけれど」

「その辺り、認識に齟齬があるな。まあ、殆ど死んじまってるから無理もない。闇堂の連中はふうま宗家に仕えているわけじゃない。仕える主君を自ら選び、生涯を共にする。だから、無形は弾正よりも先にオレを自分で選んだだけだよ」

「ちょっと待って、それって……!」

「当然、弾正に仕えていない奴等は野に下ってるよ。尤も、全員の居場所も主人も把握してるし、アサギの方に和睦が入って受け入れられてる。幸い、主人の連中は真っ当でまともだ。悪さはしないさ」

 

 

 無形の年齢も性別も分からない静流は僅かに悩み、非礼のないように敬称を選択して疑問を口にした。

 小太郎があっさりと答えたのは予想していなかったものであり、目を丸くする。

 

 それが闇堂の者にとっては、唯一の尊厳であり誇りだったのだろう。

 暗殺を生業とする以上、名声は遠く、仲間内からも信頼など得られる筈もない。金も贅沢も生を彩る装飾に過ぎず、生きる指針を与えてくれるわけではない。

 だからこそ、自ら選んだ主君に己の全てを捧げる。鍛え抜いた技も、授かった命も、歩むべき人生そのものも。主人の幸福こそ我が幸福、主人の死こそ我が終わり、と。

 あらゆる人間性を捨てている筈の忠誠が、唯一残った人間性など皮肉もいい所だ。

 

 弾正を選ばなかった者は、今も日本の何処かで生を謳歌している。

 無形のように徹底して姿を隠している者ばかりではない。正体を隠し、普通の人間のように主の隣に立って支える者もいれば、社員として主人の社長に奉仕している者もいれば、先輩後輩の関係の者もいる。

 闇堂の者が選ぶ主君に基準はない。善人であろうが悪人であろうが、一般人であろうとそうでなかろうと関係ない。ただ、自身の心がこれと決めた相手に仕えるのみ、だ。

 

 だからこそ、小太郎はアサギに対して寝ている虎を起こす真似をしないように言い含めており、アサギもこれに同意した。

 表向き闇堂家は無形を除いて、全て弾正と共に米連へと逃げ延びたことになっているのはそのためだ。

 現在、日本に残った闇堂家の人間が安穏と生活しているのであれば、不安はあれども不満はない。あくまで厄介なのは敵に回った場合のみであり、

 

 

「でも、私は無形殿について、聞いた覚えがないのだけど? あれだけの隠形術なら噂になってもいいと思うけど……」

「そりゃ奴の忍法のせいだな。五車に帰ったら調べてみるといい。ちゃんとデータベースにも登録されてる。一応、オレが命じたからデータは全部本当のことだと思うよ。オレも奴の本当の素顔は知らんけど」

「……えぇ、小太郎さん的に、それはありなんですか?」

「アリもアリ。そういう奴が居ても面白いしな。オレが使う上で必要な事実は把握してる。名前や人相、生年月日に性別なんてどうでもいいさ。重要なのは裏切らないかどうかだ。それに裏切られた時の対策は立ててある」

 

 

 無形は小太郎の前にさえ只の一度も顔を出したことはなく、他のふうま一門でさえ同様である。

 静流もミーティアも、余りの徹底と偏執、小太郎の無頓着ぶりに呆れとも驚きともとれる反応を見せていた。

 

 ただ、本当に驚くべきは、無形に勝る警戒と偏執を持つ小太郎がそんな相手を許容して傍に置いていることの方。

 小太郎も警戒は抱いているが、それ以上に頼りにしている。情報がない自身にとって不利以上に、無形が優秀かつ有能である利があった。同時に、裏切りに対する策を用意して安全を買っている辺りは彼らしい。

 

 

「それに案外可愛い奴だよ。ほら」

 

『若様、私は裏切りなんかしません』

『ねえ、見てますか?』

『若様? 若様???』

『既読スルーやめてくれませんか?』

『若様ぁーーーーーーーー!』

 

「何だか、イメージと違いますね……」

「これは、ネットとかメールだと元気になるタイプね……」

 

 

 取り出したスマホに表示されるLINE通知が並び、次から次へとメッセージが飛んでくる。

 勢い足るや津波の如し。自分の身体や表情、会話を使った表現は苦手でも、電子機器などを介した言葉による表現はその限りではないらしい。

 

 その様子に、静流とミーティアは微妙な表情になった。

 考えていた人格とは余りにも掛け離れたないようだ。手練れの暗殺者であれば、感情などないように振舞うものだと思っていたのにこの有り様。

 年の頃さえ分からない相手であるが、文面を見る限りは思いの外、若いのかもしれない。

 

 その時、三人のすぐ隣に立つ樹木の幹に、スコンと音を立てて何かが突き刺さる

 

 

「ひぇっ……何っ?」

「これは……返信くらいしてあげたら……?」

「こういうとこは面倒なんだよなぁ――――おい、無形。オレはお前が裏切るなんて思っちゃいない。あくまで念のため、オレ自身にも変えられない性質なのは知ってるだろ。お前だけにってわけじゃないんだ。勘弁してくれ」

 

 

 木に刺さったクナイは一枚の紙が縫い留められていた。

 静流がクナイを回収すると同時に紙を小太郎に手渡す。其処にはおどろおどろしい血文字で『絶対に裏切りなんてしません』と書かれている。

 明らかに無形によって書かれたものである。どうやら、無形にとっては――――というよりも、闇堂家の人間には裏切りという単語でさえ琴線に触れてしまうらしい。

 

 小太郎は残った左手で頭を掻き掻き頭上を見上げ、姿の見えない暗殺者に語り掛ける。

 すると、徐々にLINE通知が減ってゆき、ようやく怒涛のメッセージが止まった。不承不承ではあるが、何とか納得して貰えたようだ。

 

 その様子を小太郎以外に気付かれることなく樹上から見下ろしていた無形は、影で覆われながらも明らかな不機嫌さを露わにしていた。尤も、その姿もまた小太郎以外には知られることはないのだが。

 

 無形が正式に小太郎の部下となったのは反乱時、弾正の魔の手から逃げ延び、アサギの下へ転がり込んでからだ。

 しかし、出会い自体はもっと前。尤も、それは出会いと呼べるようなものではなかった。

 

 無形は闇堂家の中でも更に異端にして異形。

 生まれ持った忍法故に親兄弟からも放任され、常に孤独であった。

 だが、無形にとってそれは僥倖。小太郎は照れ屋の恥ずかしがり屋と称したが、無形は臆病者の腰抜けと自認する。

 

 始まりにあったのは訳もない恐怖。

 特に理由があったわけではないにも拘わらず、無形にとってはこの世の全てが恐怖の対象であった。

 

 幼い頃に手を噛まれたから、歳を重ねても犬が恐い。何かの拍子にちょっかいを掛けて手を引っ掛かれたから猫が怖い。というように、大抵の恐怖には理由がある。

 理由がなくとも無知から来る恐怖もある。けれども、無形のそれには特に理由が見当たらない。恐らくは、生まれ持った性質そのものに問題があったのだろう。

 

 自身を照らす電灯の光が怖い。使わねばならない箸が怖い。尖った鉛筆が怖い。聳え立つ木々や山が怖い。蒼く澄み渡り、煌々と光る太陽が怖い。何を考えているか分からない人間が怖い。優しく抱き締めてくれている親兄弟ですら怖い。

 

 理由がないことはとかく厄介である。それはつまり、当人ですらどうしようもなく、改善のしようがないことを示しているからだ。

 いっそ恐怖で壊れてしまうほど弱い方が幸福だったかもしれないが、生憎と無形はそこまで脆弱な精神の持ち主ではなかった。生きている以上は生き抜かねばならない。如何なる状況下であろうとも、死に逃避は出来なかった。

 そうして何時の頃からかふうまの隠れ里の森の中で一人で生活するようになっていた。人や文明から離れれば、必然的に恐怖するものは森の中に存在する者に限られる。恐怖が消えることはないが、減らすことはできる。それが無形の処世術であり、生き方だった。

 

 気配を殺し、息を殺し、森の獣や虫にさえ気取られぬ隠形術はそうして形成されていき、何とか一人の生活に慣れ、親兄弟からすらも存在を忘れ去られた頃――

 

 

『――――――?』

『っっ…………!』

 

 

 ――その全てを台無しにする存在に出会ってしまった。

 

 それは紅や骸佐、凜花と共に森の中で遊んでいた小太郎だった。

 馬鹿な在り得ぬ在ってはならない。そう考えながらも無形と小太郎の視線は絡み合い、自身にとっての最大の天敵と認知しながら、無形は森の奥へと逃げた。

 

 その日の夜は最悪だった。

 夜闇や焚火の炎、獣の息遣い、鳥や虫の鳴き声に怯えるばかりか、名も知らぬ天敵の存在にも怯えねばならなかったからだ。

 

 どうする。どうする。どうする。どうする。

 この恐怖から逃れるためには、自身はどうすればいい。

 恐怖の余り、隠れ潜む大木の虚で一週間も動けなかった無形が痩せ細りながらも出した結論は、恐怖の根源を断つこと。即ち、小太郎の暗殺である。

  

 そうと決まれば、行動は早かった。

 まずは失った体力と身体を取り戻し、対象の情報を調べ上げる。

 その過程で小太郎が弾正の正式な息子であることを知り、その傍らには常に“最強”か、彼女が認めた秘書と執事が控えていることを知り、無形でさえ呆れるほどの訓練を繰り返していることを知った。

 

 周囲には何の問題もない。

 

 ふうま宗家にしてみれば闇堂家の者の手による後継者暗殺など裏切り以外の何ものでもないが、それは弾正を主君とした者に限られる。

 まだ主君を選んでいない無形はその限りではなく、血に刻まれた家訓には反しておらず、闇堂家の者は何一つ咎めも責めはしない。そもそも、無形に関しては忘れ去ってしまっている。

 また正式な息子であるものの、小太郎は弾正から冷遇されている。例え殺したとしても、表向きの犯人捜しはするだろうが、実態は別。下手をしなくとも、弾正は小太郎が死んだことを喜ぶだけだ。

 

 傍に控える“最強”も、端女と呼ばれる秘書も山犬と呼ばれる執事も問題ない。

 “最強”は感情を色として見る邪眼を持っている故に厄介であったが、感情の抑制や鎮静、無とすることなど隠形術の基本中の基本。掻い潜りようなどいくらでもある。

 直感も優れているが、気付かれようともそれよりも早く殺してしまえばいいだけのこと。“最強”とは戦闘が始まってこそ初めて威を発揮する。ならば、戦闘にまで移行しなければいい。

 

 最大の問題は、暗殺の対象であった。

 年端もいかぬ幼子だと言うのに、過酷な訓練によって養われた第六感までも含めた感覚を潜り抜けられなかったのである。

 小太郎にしてみれば、視線を感じる、ような気がする、程度の違和感であったが、無形にとっては足を留めて次の機会に持ち越すには十分な気付きであった。

 

 そうして手を拱いている内に、無形の心境に変化が訪れる。

 恐怖は相変わらずであったが、それ以上の驚きと一方的な共感、そして敬意を抱き始めたのだ。

 

 小太郎の生活を仔細に調べていく内に、その為人(ひととなり)も見えてくる。

 無形が感じ取ったのは、小太郎もまた自身と似た存在であることだ。

 異常極まる偏執的な猜疑心。この世の全てが疑いの対象であり、自身すらも対象から外れない。そんな在り様では、自身と同じくこの世の全てが己を責め苛む拷問器具にも等しい。

 

 にも拘らず、小太郎は尚も笑いながら生きていた。

 時折、“最強”から与えられる試練に悲鳴と絶叫を上げながらも、逃げ出すことはあっても、投げ出すことだけはない。

 それを“最強”が許さなかったという理由もあるが、小太郎自身が与えられる試練に立ち向かう気概を持っていたからに他ならない。

 

 その上、彼の猜疑は己の恐怖よりも範囲が広い。

 

 思い返せば、己の恐怖は目に見える物に向けられてばかり。

 人そのものに恐怖は抱いても、その人物が何を考えているかに恐怖を覚えたことはない。

 目に見えぬ空気に恐怖を抱いたことなどなく、空気の中に何か毒でも混じっていないか恐怖したなどしていない。

 

 目に見えぬものにまで向けられる猜疑は凄まじく、またある意味において或る意味で己よりも辛い生き方だろう。

 そんな自分を恥じることもなく、悔いることもなく受け入れ、折り合いをつけて生きている小太郎は無形にとって尊敬に値し、これと決める主君として敬愛するには申し分なかった。

 

 しかし、長かったのは其処からだ。

 

 今は訓練で忙しいから。

 今は母君を失って辛い時期だから。

 今は五車に移り込んで、面倒な時期だから。

 

 今は。今は。今は。 

 そうこうしている内に、球磨まで迎え入れられて遅れを取る形となる。

 

 相変わらず、無形の胸中にあったのは恐怖だ。

 但し、これまでのものとは異なり、理由ありき恐怖。

 無形は生まれて初めて、人に拒絶される事に恐怖した。理由なき恐怖とはまた異なる赴きは、成長を促すには十分過ぎた。

 理由なき恐怖はただ耐える他ないかもしれないが、理由ありき恐怖には立ち向かい、克服することが出来る。

 

 これまで逃げるばかりだった無形にとっては転機であり、小太郎が何も知らないまま見守るだけでは余りにも寂し過ぎる。

 勝手に決めた主君とは言え、親以上の敬愛を向けている相手。拒絶されても構わない、せめて生を受けて初めて産まれたこの思いを伝えねばならない。そう思い、己には存在しないと考えていた勇気をふり絞り、一本の電話を入れた。

 

 

『もしもし』

『――あっ……あっ……』

『……? お前、もしかして闇堂 無形か?』

『……っ!?』

『当たりみたいだな。上手く喋れないのか知らないから、勝手に喋らせて貰う。以前からずっと気になってたんだ。前々から視線を感じるのに何もしてこない奴がいるってな。名前も素性も勝手に調べさせて貰った』

『…………』

『監視している様子もないし、オレの情報を外に流してるわけでもない。その後で、今回の電話だ。てことは、オレと連む気になったのか?』

 

 

 無形の勇気に返されたのは、思いも寄らぬ無上の歓喜であった。

 

 視線に気づいていた小太郎は、何の手掛かりもない状態から正答に辿り着いていた。

 何も目くら打ちの当てずっぽうだっわけではない。視線のみしか感じ取れないほどの隠形術の使い手など、ふうま一門の中でも限られてくる。

 暗殺者である闇堂家も容疑者の一人として挙がってくるのは必然。その中で、無形は情報があるだけで存在だけが抜け落ちて、死さえ確認されていない。

 まるでびっしりと文字で埋められた書物の中に、何一つ文字の書かれていない白紙のページを見つけたかのような違和感。確証はないが、確信に至るには十分過ぎる。そして、これまでの行動から何を考えているのか、察していた。

 

 自分が何も言わずとも、理解し、認めてくれる相手がいる。仕える者として、これほどの歓びはあるまい。

 こうして、至高の暗殺者は小太郎の部下となった。小太郎は変わらず疑いを抱き、対策も立ててはいるが、無形について知れば知るほどに頼りになる技能と忍法を持つ者だと認めているほどだ。

 

 しかし、不可思議な点が一つある。

 これだけの腕前を持つ者が、小太郎の下に付けばどうなるか。

 アサギは兎も角として、他の長老や当主は決して認めまい。没落した反逆者の当主に、あらゆる手段を行使することに躊躇いがなく裏切りもしない暗殺者など、権力を握る者にとっては不要なまでの懸念を抱くには十分な組み合わせなのだから。

 

 

「随分と簡単に教えてくれるのね」

「別に黙っていたわけじゃない。聞かれた以上は答えるさ。アサギにだってちゃんと説明してるわけだしな」

(どうせすぐに忘れるだろうからな)

 

 

 暗殺者は例え味方であろうとも存在を認知されていない方が何かと都合が良い。

 味方が捕まったとしても、知らなければ無形に関する情報が敵側に漏れる恐れがなく、見えざる刃としての威力を保ち続けられるからだ。

 

 にも拘わらず、小太郎があっさり味方の情報を明かしたことに静流は違和感を覚えていた。

 思いの外、秘密主義じゃないのかしら、と首を捻った。或いは、それほど信頼しているのか、とも考えたが事実は全くの別。

 

 それは無形の忍法にあった。名を念外(ねんはず)しの術と呼ぶ。

 この念とは、仏教で語られる五根の内の一つであり、悟り、解脱に至るための五種の能力と言われている。

 その中で念とは、特定の物事を心に留めておくことであり、かつて経験を明らかに記憶して忘却しない能力を指す。

 

 とどのつまり、念外しの術とは他者の記憶から外れて、忘れ去られる忍法ということだ。

 この忍法は自斎の神遁と同じく殆ど記録が残っていない。但し、前者が術の暴走から情報が散逸したか、危険性から封じられたのに対し、後者はそもそも記録を残そうとしたかすら怪しい。

 無形の場合は常時発動状態にある。どれだけ親しい間柄であれども、一晩寝てしまえば無形に関する情報を完全に忘れ去ってしまう。

 

 これを破る方法は二つ。一つは新たに無形の情報を得ること。

 忘却のメカニズムはまだ明らかになっていない点が多いが、厳密に人の脳には忘却という機能はなく、単に必要な情報を引き出せなくなるだけと言われている。

 それと同じ。無形に関して忘れてしまったとしても、名前一つでも構わず、無形に繋がる情報を僅かにでも得られれば全てを思い出す。

 これを見るに、小太郎は念外しの術は脳から情報を消し去る術と言うよりも、脳のシナプスに何らかのロックを掛けて、情報の引き出しを阻害する術と認識していた。

 

 そしてもう一つは、実現不可能な手段であるが無形を常に意識し続けることだ。

 念外しのロックは実に脆く拙い。無形を常に意識し続けることでそもそもロックを阻害できる、と小太郎自身が証明している。

 尤も、実の兄弟や母親――家族の情ですら無形の忍法の前には無力だった。それこそ一族郎党を皆殺しにされた怨敵に対するものと同レベルで意識し続けなければならない。

 どんな人間でも睡眠からは逃れられない。どうしようもなく脳を休ませねばならないからだ。だが、例え眠ったとしても、意識を失ったとしても、脳の記憶に関する部位を常に稼働させ続けられるとするならば或いは可能かもしれない。

 最早、彼の意識と肉体を操る技能は或る意味で忍法を超越している小太郎か、極限以上の感情を無形に向ける者にしか不可能な芸当・荒業でしかない。

 

 無形以外が持ったとして、様々な悪さが出来ただろう。直接的な害を与えられる訳ではなく、拙く脆い能力であるが同時に凶悪ですらある。自身の起こしたあらゆる出来事を都合よく忘れて貰えるなど、他の人間からすれば悪夢でしかない。

 しかし、無形ほどに使い熟せはしないのも事実。その威力、その凶悪さを最大限に発揮できるのは、無形の存在すら認知されない隠形術、証拠を残さない暗殺術とのシナジーがあってこそ見えざる刃として在り続けられるのだ。

 

 

 

 

 





無形くんちゃんとふうま一門の関係性。


災禍「若様、いいわよね……」
永久「旦那様、いいわよね……」
無形『いい……それはそれとして災禍殿と永久殿の書類仕事やっときました』
二人「「妖精さん! 優しい妖精さん……!」」

災禍、永久とは同担。玄人は多くを語らない。二人から見れば気が付いたら仕事を片付けてくれる妖精さん。


天音「無形、お前も家族なのだから食卓を共にしろ!」
無形『家族扱いはちょっとぉ…………あと、食事はちゃんと取ってます。野生の獣の肉と野草とか虫とか』
天音「えぇい! そのようなバランスの悪そうな食事をしおってからに! もういい、作っておいてやるからちゃんと食べるんだぞ! どけ! 私はお姉ちゃんだぞ!!」
無形『お姉ちゃんじゃないです……おいひぃ!!』

天音は暴君だけど世話焼きのお姉ちゃんと気弱な弟か妹。


悟「無形いるー?」
無形『車の上にいます』
悟「他の連中は?」
無形『罠に嵌って死にました』
悟『あちゃー。まー、しゃーない。こんな仕事だしなー。お前が戻ってきたってことは標的は始末したんだろ。帰ろ帰ろ』
無形『そうしましょう』

悟とはドライ同士の仕事仲間。でも互いの腕は信頼している模様。


球磨「また無形が果物とか持ってきてくれたみたいだクマー! 嬉しいクマー!」
無形(なんだこの熊)

球磨は餌付け済。


雅臣『それでさー。井川がね……』
無形『成程、それは面白いですね!!』
雅臣(この人LINEだと凄い元気だなぁ(ニコニコ)

コミュ力お化けの雅臣とは一番仲が良い。LINE友達。


無形『五車に残った井河の老い耄れ共、何やら企んでいるようですよ』
日影「成程、ありがとうございます。アサギさんと若にも伝えておきますね」
無形『もっと頼ってくれてもいいんですよ?』
日影(何でオレに優しくしてくれるんだこの人……?)

弟属性の日影には、お姉ちゃんかお兄ちゃんぶりたい。何気に天音の影響が出ている。


啓治「無形、ちょっと入手して欲しいものがあるんだが、情報送るから手に入れてくんねーか?」
無形『そう言われると思って、机の上に置いておきました』
啓治「マジか! サンタさんよりもスゲーや! かははー!」

コミュ強の啓治とは二番目くらいに仲が良い。仕事がない時は、啓治と息子の護衛をしてる。


大体、こんな感じ。
姿を見せなくても、若様が認めてるから、と全員無形に肯定的。このふうま一門は仲が良く、働きやすい職場(ガチ)です(なお、苦労は減らない模様)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。