対魔忍RPG 苦労人爆裂記   作:HK416

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いやー、新アサギの回想いいっすねぇ~~~~!
捕縛、身体改造、感度3000倍、オーク。これぞ対魔忍という回想だったよ。凛々しさから一転して下品な立ち絵も実にベネ! これは捗りますよぉ~~~!
リーダースキル、通常スキル、奥義も強いな。流石は最強の対魔忍。感度3000倍を気合いで耐え、日本の平和をほぼ単身の武名と勇名で支えてる人は違うな……!

そして、エレオノール配布で嬉しい! こっちもいいぞいいぞ~!
このダークエルフを出したい。何ならナディアの知り合いとか領の近くとかに設定しちゃうか……!

今回で任務シーンは終了! 次回からは事後処理じゃ! では、どぞー!



やはり害獣……! 害獣は全ての問題の引き金となる……!

 

 

 

 

 

 小太郎が、無形に関する情報を暫くすれば忘れてしまうのを良い事に明かす少し前。旧女王と新女王を討伐する直前。

 

 

「「ひっ、……ぎ……ひぃぃ……っ!」」

 

 

 害獣達は息も絶え絶え、正に必死の表情で森の中を疾走していた。

 もはや飛行する力もないのか、手も髪も振り乱しながら脚を前に進める。

 疲れから手足に、呼吸の繰り返しによって肺に激痛が奔っていたが、二人に止まるという思考だけはない。止まった瞬間に、死が確定するからだ。

 

 疲労感から二十歳は老けたような表情で揃って後ろを振り返れば、感情など感じさせない複眼の群れが変わらずに追いかけてきている。

 

 既に悲鳴を上げる体力すらなく、涙に鼻水、涎で濡れそぼった汚い表情のまま手足だけを動かし続ける。

 

 体力の限界など疾うに越えていた。

 それでも生き汚さだけで無理矢理に肉体を超過駆動させる。

 

 死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない――――

 

 頭の中から欲望やあんな男に関わってしまった後悔すらない。あったのは様々な疑問と諦めへの誘い。

 死ぬのは恐ろしいが、これ以上苦しむ必要があるのか。小太郎達の実力を知らない害獣では女王を倒せるのかなど分からず、何時まで逃げ続ければいいのか分からない。

 そもそも、いま生き延びられたとして、あの恐怖そのものの男が自分達を見逃してなどくれるのか。走り出す直前に逃げていいとは言ったが、逃げれば殺すとも言っていた。既に言質は取られてしまっている。

 

 こんな苦しみが続くくらいならばいっそのこそ――――

 

 一瞬で死ねるとは限らない。生きたまま身体を食い千切られるなど考えたくもない。

 しかし、終わりの見えず、速度も一切落とせない地獄の持久走は、害獣達の自尊心ばかりが肥大した精神を根元からポッキリと折るには十分過ぎた。

 

 どちらからともなく、徐々に速度を落としていく。

 二匹の顔に表情は一切ない。余りにも深い絶望が感情を逆に奪ってしまっていた。

 

 ゆっくり。ゆっくりと、速度を落とすごとに死に近づいている。

 だが、もう手足を動かすのはうんざりだった。呼吸でさえ煩わしい――――そうして、二人はその場にへたり込んだ。

 

 肉体面は勿論の事、精神面における限界を迎えたのであった。

 

 

「「……ひゅー……ひゅー………………?」」

 

 

 しかし、何時まで経っても受け入れた筈の死は訪れない。

 互いに不可思議さを隠せていない表情で顔を見合わせ、恐る恐る振り返った。其処で見たものは――――

 

 

「は……はは……ごほっ……げふっ……」

「や……げひゅー……やった、よぉ……」

 

 

 ――――今までの凶暴さが嘘のように、羽を畳んで地面に居りて動かない魔界ワスプ達の群れ。

 

 疲れ果て、酸素不足で回らなくなった頭でも理解できる。魔界ワスプの女王を、小太郎達が討ち果たしたのだ。

 これで働き蜂も活動を停止する。魔界ワスプの凶暴性と危険性を、害獣の運と生存本能が上回った結果だった。

 

 

「ふ、ふふ……はは……あはははははははははははははははははははっ!!!」

「やったぁ! ボク達はやった! やったんだ! 生き残ってやったぞぉ!!」

 

 

 死が遠退き、生を実感し始めた二人は、これまでの疲れなど忘れたようにとびきりの笑顔を見せる。

 その場で立ち上がり、抱き合いながら飛び跳ねて回る。ただ、やはり何処か元気がなく、一挙手一投足に精細さが欠けており、膝は常に笑っている状態だった。

 

 生きてさえいれば勝ち。さもそう言わんばかりの歓びようであった。

 こればかりは、流石の小太郎も同意するであろう。生きてさえいれば再起の目はある、という考え方は彼の中にも確実に存在している。

 

 

「ふふふ、あのクソ野郎め! 絶対に許さないからなぁ!!」

「ほんとだよ! 絶対にぎゃふんと言わせてやる!!」

 

 

 これまで絶望的な状況下に在り続けた反動か、二匹の害獣は出来もしないことを口走り始めた。

 今、二人は在り得ない状態から生き延びた故に、自分達が世界の中心に立っているかの如く気が大きくなっている。

 

 第三者が見れば、それはやめた方が……、と忠告せずにはいられないだろう。

 当然だ。能力的には勿論の事、二人の心に刻まれたトラウマ及びPTSDは果てしなく深い。

 もう小太郎の前に立っただけで膝が震えて勝手に涙が流れ出し、例の仮面を被れば失禁不可避にも拘わらずこの態度。まるで成長していない。

 小太郎は当然だなと半笑い。静流は在り得ないでしょと驚愕。ミーティアは何も言わずに頭を抱えたに違いない。

 

 

「でも、どうするつもり? またやられちゃうよ……」

「ふふふ。私にいい考えがある!」

 

 

 だが、無策で挑もうとするほど愚かでもないようだ。

 不安げなミナサキを前にして、リリムは薄い胸を張る。その視線の先にあったのは――――

 

 もし、この小賢しい二人をピタリと表す言葉があるとするのなら、“憎まれっ子、世に憚る”以外にはないだろう。

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

「そろそろ辿り着きそうね。ふうまくん、出血は?」

「それなりに。でも、止血は効いてる。眩暈もない」

「良かった。傷の応急処置なんて久し振りだから安心したわ。ミーティアちゃんは?」

「はい、大丈夫です。小太郎さんのことはお任せ下さい!」

 

 

 巣のあった実験林の中心辺りからドームの強化ガラス製の壁に近づきつつあった静流は歩みを止めず、二人の返事に首だけを向けて微笑んだ。

 小太郎は僅かに血が滴る右手首を持ち上げて見せる。声色も顔色にも変化はなく、無理をしている様子はなく、毒による影響は皆無。小康状態と言ったところ。

 ミーティアは額に汗を滲ませながら小太郎に肩を貸してる。体格差もあって、小太郎はまだしも彼女は歩き難いだろうに健気なもの。尤も、健気なだけでなく八割は打算であるにも拘わらず、表に一切出さない辺りが実に優秀であった。

 

 三人の背中を照らすように、遠くでは炎が高々と燃え上がっている。

 火の手の勢いは留まらず、消化の初動が遅れている以上、実験林は全て燃え尽きるだろう。つまり、女王を失って動かなくなった魔界ワスプは全て燃え尽きる。

 後はクロワダミの処遇であるが、政府による介入調査は持ち帰った情報から確定事項。その後、クロワダミが企業として解体されるか、闇に手を染めた部分だけを斬り落として健全化されるだろう。どちらに転ぶかは政府の心持ちと企業が何処まで闇に足を踏み入れているかによる。

 クロワダミ側の悪足掻きとして、政府議員の買収や元々の繋がりによって介入調査に待ったがかかる可能性もあったが、其処を予期しない能天気さは静流には存在しない。アサギには政治方面で強権を揮える山本長官に動いて貰うようプッシュするつもりだった。

 

 自らの任務は問題なく達成。

 以前から気になっていた生徒の実力と智慧を知れた。守る筈の立場でありながら守られてしまう失態は演じたが、任務の功績を渡して手打ち。それで足りずとも生徒の態度を見れば、今後の繋がりも考え、貸しにしておいて貰うのもいいかもしれない。

 ミーティアとは顔見知りになり、闇の世界で単独潜入をしていく上で必要なツテも手に入れられた。対魔忍では知り得ない情報であっても、彼女であれば容易に手に入ることもあろう。

 

 任務続きで疲労が溜まり、至らない点は色々とあったと認めざるを得ないが、静流自身もそれなりに納得のいく仕事ではあった。

 

 

「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

「ど、どうしたんですか、急に?」

「いやもう何て言うかさぁ。予想通りと言えば予想通りの馬鹿っぷり過ぎて、溜め息しか出てこねぇ」

「え? …………いやいやいや、え? なんで……?」

 

 

 後ろを付いてきていた小太郎がクソデカ溜め息を吐くまでは。

 

 何事か、とミーティアも静流も同時に小太郎の顔を見る。

 その顔に刻まれていたのは呆れと諦めをない交ぜにした半笑い。まさに弾正レベルの馬鹿を見つけたような表情である。

 彼の視線が向かっていたのは木々の枝が僅かに開けた上空。下からの炎と上からの月の光に照らされた何かを発見していた。

 

 釣られるようにその光景を見た静流は驚愕から、ミーティアは絶望から目を見開いた。

 

 

「うぎぎぎぎぎ……!」

「お、お、重い……!」

 

 

 其処に居たのは、あろうことか魔界ワスプの一匹を互いに持って空を飛んでいた二匹の害獣であった。

 

 静流とミーティアにしてみれば意味が分からない行動だ。

 魔界ワスプを討伐するために来たにも拘わらず、一匹を持ち出そうとするなどどうしたことか。

 女王ではない働き蜂を持ち出したところで繁殖などしないが、魔界由来の技術を獲得しようと暗躍している企業にしてみれば、一匹であれ咽喉から手が出るほど欲しい検体には違いない。

 その後、其処から得られた新たな知見、発見からどんな事態に発展するか。倫理や常識を捨て去って行われる研究、少なくとも喜劇にはなるまい。多くの人間が悲劇に見舞われる可能性が高い。

 静流はそうした流れを喰いとめるために任務へと赴き、ミーティアは人界側に義理はないが対魔忍側の行動原理を十分に理解してこの場にやってきていた。

 

 だが、あの二匹の害獣にそんなことはなーんも理解していないのである。

 頭にあるのは自分の都合だけ。流石は頭魔族、その筆頭だけの事はあった。

 

 小太郎に対する手前勝手な復讐を名目に、魔界ワスプを別の所に売り払って当面の資金源にする腹積もり。

 復讐すらも単なる建前に過ぎない。そんな心は既に圧し折られているからだ。本音は楽して生きていこうという楽観視と言えばいいのか、兎に角自分本位の考えしかない。

 

 

「リリムーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

「げぇっ!? ミーティアぁ?!」

 

 

 普段は物静かで、相手の追求をのらりくらりと躱す微笑みを絶やさないミーティアであったが、この時ばかりは悪鬼羅刹の如き表情で怒号を飛ばす。

 すると、リリムは面倒な相手に見つかったとばかりの反応を見せる。距離が離れていて見えないが、死ぬほど嫌そうな顔をしていることだろう。

 

 

「何をやってるのリリム!! それを捨てて降りてきなさい!! 今ならまだ間に合うから!! 小太郎さんも怒らないから!! 私が何とかするから!!!」

「嫌だよーん! これだけ離れてれば、そんな馬鹿鬼畜男、怖くないもんねぇ~~~~!」

「そうだそうだー!」

「……っ……っっ…………っっっ!!!!」

 

 

 ミーティアにとっては久方振りの――――いや、人生初のマジギレに、怒りのバロメーターは瞬時にレッドゾーンを振り切った。

 しかし、今までずっと何のかんのと全ての失敗と悪戯を許されてきたせいだろうか、リリムはまともに取り合おうとせず、安全圏と信じた場所で仲間でミーティアを煽る煽る。隣でミナサキも囃し立てる。こうした時の害獣の輝きようと来たらない。

 

 最早、ミーティアは怒りの余りに言葉すら出て来ないらしく、顔を真っ赤にして歯噛みするばかり。

 今すぐにでもリリムのところに飛んで行って、あの馬鹿面に拳を一発叩き込みたいところであったが、生憎と小太郎に肩を貸しているところ。自分の感情が降り切れていても役割を投げ出さないのは流石であるが、傷害、暴行、仲間殺しの汚名ですらリリム相手ならば笑っても許してもらえる程度には頑張っている。何処までも真面目な夢魔だ。

 

 

「へっ! ミーティアの役立たずぅ! 私を助けてくれないし、そんな奴に肩入れするし! 夢魔の恥晒しはそっちの方なんじゃないの~?! じゃあねーー! 一生そうやって馬鹿を見てればいいんだー!!!」

 

 

 ――――瞬間、ミーティアの脳内に溢れ出した存在しない記憶。

 

 

『全く、リリムと来たらしょうがないわね』

『貴方が付いていながら、なんて様なの!?』

『そうだ、全く! この夢魔の恥晒しめ!!』

『リリムは別の者が連れ帰るとして、ミーティアにも仕置きが必要かと! アンブローズ様、御決断を!』

『いや、それは必要ないでしょう……とは言え、他の者に示しが付かないのも事実。残念だけど、暫くは(部下の頭に血が上って何されるか分からないから)謹慎なさい、分かったわね?』

 

 

 下からの突き上げから守り切ってくれない夢魔の頭領。

 親友の筈にも拘わらず、労いも心配すらなく罵倒ばかりを浴びせるその腹心。

 大した実力もなければ功績もなく、仕事振りも木っ端も木っ端の癖に、面倒事ばかり押し付けて、人が失敗すればこれでもかと言わんばかりに責め立ててくる仲間達。

 人が弱っている時には、ここぞとばかり煽りを入れてくる落ちこぼれ(リリム)

 

 無論、ミーティアはこんな事態に陥ったことはない。

 今までは巧くやってきていた。これからも巧くやっていく自信は十分にある。

 今回の件にしたところで、リリムへのフォローを入れつつ自身の価値を貶めないよう、仲間を納得させられるだけの手腕は持っていた。

 

 だが、微笑みの仮面の下に巧妙に隠され、頭領でさえ察せなかった多くの感情が存在しない記憶と共に溢れ出す……!

 

 

(き、切れた……! 私の身体の中で何かが切れた……決定的な何かが……!)

 

 

 それを理解して瞬間、ミーティアの身体からは力が抜け、これまで決して投げ出さなかった役割を手放し、その場に背中から受け身も取らずに地面へと倒れる。

 

 感情とは溜め込むべきではない。吐き出すものだ。

 溜め込んだところで処理など出来ず、溜まり続ける一方。個々人で許容できる総量は異なるが、ミーティアの場合は人よりも遥かに許容量が多かったのが災いした。

 他の夢魔であれば、好き放題にやって感情を吐き出していただろうが、真面目な彼女は人にそんな事を聞かせて良い気分になるわけもないと理解しており、一人の時にすら仲間への裏切りとして決して吐き出さなかった。それが今、どうしようもない限界を、迎えたのであった。

 

 後はもう、流れ出すまま。河川の水を堰き止めて貯蓄するダムが決壊すれば止めようがないように、滂沱の涙、鼻水、激しい鳴き声となって零れ木魂する。

 

 

「うえぇぇぇぇ……もう、もうやだよぅ……やだぁ……リリムの馬鹿ぁ、ミレイユの分からず屋ぁ……やだー! やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだーー! もう帰りたくない! あんなのと一緒に仕事したくない! 誰かー、誰か助けてー! もう、もうムリなんですぅ……うぇぐ、ひぐぅ、うえぇえええええええええええんんんん!!!」

「あっはははははは! 何それみっともなーい! 子供! 子供じゃん!! ぎゃはははははははは!!」

「ぶふっ! 何あれ、おっかしいなーーーー!!」

「ミーティアちゃん……」

「見てられねぇ……」

 

 

 噴出した感情のまま泣きじゃくるミーティア。見た目よりも遥かに大人び、事実として幼さすら残る外見と計算高い内面は釣り合っていないにも関わらず、今は駄々っ子のように地面に倒れたまま手足をばたつかせるばかり。 

 

 その様にリリムとミナサキは嘲り笑う。自分が弱っている時にはとことん弱いが、相手が弱っている時にはとことん強気になるウザい生き物なのだ。

 対し、静流と小太郎は痛ましげに顔を歪め、弱り切ったミーティアを見てやるまい、と目を逸らしていた。

 やたら実感と憐れみが籠っていたのは、自らの至らなさを重々承知しているアサギが対魔忍の頭領になっているからいいものの、別の誰かが頭領になっていた場合の自分を想像してしまったからだろう。

 

 

「もういいッスよね?」

「…………私も今、魂で理解した。あの二人は確かに害獣。駆除で」

「了解。はー、これで清々するな。誰かを殺してもすっきりはしないが、物理的にはさっぱりするのは良い事だ」

「へっへ~~~~ん! おらー! どうした馬鹿鬼畜男~~~~! 悔しかったら此処まで追いでー! お前なんかあのマスクがなければ怖くないんだよー!」

「あっ! 翼ないんだったよねー! 残念でしたぁ~! そのまま其処で指加えてボク達が逃げる様を眺めてろ~~~~!」

 

 

 静流はこれまで見せていた躊躇いや慈悲を何一つ見せず駆除のGOサインを出し、小太郎はノータイムどころかやや食い気味に頷いた。

 それもその筈、今のまま二人を見逃せば静流の苦労は水の泡。今夜の出来事は全て無意味なものとなる。小太郎は元々の予定としてその方針だった。

 

 害獣は対魔忍二人が何の会話をしているかなど聞こえよう筈もないが、思惑は流石に分かっているのだろう。

 空の上という安全圏では手を出せないと思い込んでいるのか。余裕綽々の態度で、ミーティアのみならず二人すらも煽り倒す。こういう時の害獣の輝きようと言ったらない。尤も、害獣の思い描く安全など幼稚で些末。現実に何ら則していない単なる妄想に過ぎないのだが。

 

 うんざりとした表情で、小太郎は片手で銃を構える。その姿に恐怖を覚えることなく、当てられる筈がないとでも言いたげに笑い出す。

 

 

「おら、ポンっとな」

「そんなの当たる訳ないじゃん!!」

「見てから回避余裕だも~~~ん!」

 

 

 小太郎が撃った銃は低速擲弾を放つグレネードランチャー。

 

 確かに、害獣の言う通りではあった。

 グレネードランチャーは標的に弾を直撃させるのが目的の武器ではなく、標的付近に着弾させて爆発、殺傷半径に巻き込むのが本来の使い方である。

 常に動き回っている空を飛ぶ敵に対しては弾速の遅さから直撃は難しく、有効とは言えない。小太郎であれば拳銃でもヘッドショットを当てられる距離ではあるが、奇妙な選択であった

 

 但し、害獣はその点に思い至らない。

 そもそも銃器に関する知識がなく、苦し紛れに放った一発としか考えていないのだろう。つくづく自分に都合の良い考えしか持たず、想定が甘すぎる輩だった。

 

 彼が警備兵の一人から奪い、今は手の中にあるグレネードランチャーの名前はXM25。

 通常のグレネードランチャーと異なる点は、敵に直撃させる必要性がない。

 XM25は内臓されたレーザーレンジファインダーが目標までの距離を測定、その後薬室内に送られている25x40mm低速グレネード弾の信管に起爆位置を自動でインプットし、目標の前後3m以内で爆発する。

 本来は塹壕などに隠れた標的を殺傷する目的で設計されたものの、訓練中の爆発事故や銃本体と弾薬の高価さから一時は開発が中止。

 しかし、建物に隠れる違法難民やギャング、銃器を使用する魔族が急増したことで再び日の目を浴びた珍しい武器である。

 

 XM25に対して多少の知識があれば、そうでなくとも立場と都合の良い妄想に縋らず、骨身に刻まれた小太郎への恐怖を正しく受け止めていれば、重荷でしかない魔界ワスプを捨てて逃げることもできただろうに。

 

 

「「ははははは――――ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!」」

 

 

 擲弾はリリム、ミナサキ、そして魔界ワスプの一匹を殺傷半径に収めた瞬間に爆発した。

 

 高笑いは悲鳴に代わり、それも爆発音の中に消えていく。

 派手な爆発ではなかったが、音はドーム内に響き渡った。異変を察知して、すぐに警備兵達が動き出すであろう。

 

 

「ふぐぅぅ……うえぇぇ……おぇ……!」

「汚い花火――――というほどでもなかったわね。でも、死体の確認が出来ないわよ」

「魔界ワスプの方を狙った。そっちは死んだから十分でしょ。仮に生きてても警備兵に見つかるか、炎に巻かれて焼け死ぬ」

「それもそうね。でも、不安だわ。あの二人なら、生きて逃げ延びそうな気もするのよね……」

「ああ、それも問題ない。仕込みは十分、こっちの迷惑にはならんようにしてある」

「もしかして、無形殿に……?」

「まさか。無形を動かすような相手じゃないし、相手させるのが可哀想だ。別の奴に任せるよ」

「…………?」

 

 

 ミーティアの鳴き声をBGMに、静流と小太郎は僅かな稚気すら見せずに淡々と現状を確認し合う。

 争いとは同じレベルの者同士でしか発生しない。二人にしてみれば、本当に害獣の駆除でしかなかったのだ。

 

 それよりも、今はこの場を離れる方が重要だ。

 どんなに動きの鈍い警備兵も今の爆発で侵入者がまだ残っていることに気付いたはず。炎の勢いが衰えない実験林の中に立ち入ろうとせずとも、ドームの周囲を固めようとする。その前に離脱した方が賢明だった。

 

 

「それよりもこの子、どうしましょう……?」

「このまま放置しとくわけにはいかんでしょ。こっちの都合もある。責任はこっちで持つし、校長にもオレから説明するよ」

「だから他には黙ってろ、ね。分かったわ。でも、自分が怪我人であることを考えなさい。責任は折半、説明も私がするわ。少しは教師として胸を張らせなさい」

「そ。じゃあ、お言葉に甘えて。ほらミーティア、立てるか? 泣いててもいいからもう少しだけ頑張ろうな」

「ぶぇぇ……ひぐっ……ひぐぅっ……ヴぉえ……ぶひぃ……!」

(優しい……!)

(ホント、この子には甘いわねぇ……)

 

 

 こうして、小太郎はミーティアを五車に連れ帰る事になった。

 ナディアやクラクルという前例はあったものの、その時でさえアサギは魔族を五車に迎え入れなければならない現状を下の者にどう説明すべきか頭を悩ませた。

 今回は流石に小言の一つでも飛んできそうなものだが、そのような事は一切なかった。

 

 静流の説明が巧かったわけではなく、小太郎が説得したわけでもなく、涙と鼻水でべちょべちょになったミーティアの姿に何の文句も言えず、憐れみを抱いたからであったとさ。

 

 

 

 

 





リリム「私にいい考えがある!」
若様「オレにいい考えがある」

同じ科白なのに、抱く不安の方向性がこうも違うのは何故なのか……!
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