対魔忍RPG 苦労人爆裂記   作:HK416

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バレンタインは紫水……!
キャラ的にはそこまで魅力を感じないが奥義強い、強くない?(11連三敗中)
SP回復量にもよるけど、奥義パにもスキルパにも使えそうだな。音さくらを超える逸材に成り得るのか!!


ほい、そういうわけでまとめ回! もうちょっとだけ続くんじゃよ! 害獣の末路も含めてな!



“花の静流”と“真面目夢魔”のその後

 

 

 

 

「報告は以上になります」

「御苦労だったわね。クロワダミに関しては既に山本長官へ連絡を入れてある。あの人のことだからもう動いているでしょうね」

「…………最近、こうした企業の暗躍も目立ってきましたね」

「仕方ないわ。リスクを考えなければ魔界の技術や生物は新発見の宝庫。米連ですら欲しがっているもの。業績が悪化している企業にしてみれば、どうあっても手に入れたいでしょうしね」

「少しは周りの迷惑を考えて欲しいんだけど」

「それは全く同感」

 

 

 クロワダミの一件から開けて翌日。五車学園の校長室で報告を終えた静流と報告を受けたアサギは顔を突き合わせて同時に溜め息を付いた。

 今、二人は馴染みの対魔忍装束ではなく、それ以上に馴染んだ教師としてのスーツ姿であった。

 

 溜息も吐こうというものだ。

 魔界技術に手を出す企業、ヤクザといった大手を振って日の下を歩けない輩は年々増加の一途を辿っている。

 長年、不干渉を保ってきた人界と魔界であるが、それ以前から互いの技術や資源を巡って跋扈している勢力は存在していたものの、ギリギリのところで均衡は保てていた。

 それがブラックが率いるノマドによる二つの世界の首脳会談襲撃によって、不干渉という均衡は脆くも崩れ去った。後は坂を転がり落ちるが如く、時代は混沌と凋落の一途を辿っている。

 

 その最前線で戦う静流とアサギ、様々な欲望と弱さを目の当たりにしてきた。

 魔族の反吐が出るような欲望も、人の弱さから生じる矜持を忘れた愚行も。

 悲劇と惨劇を飽きることなく繰り返す世界と命に守る価値はあるのか、と自問自答したのは一度や二度ではない。常に自身の問いかけてしまっていると言っても過言ではない。

 だが、その度に出す答えは同じ。賢愚と正邪には何の関係もない。世界も人々も自ら堕ちていこうとも、己が如何なる末路を辿ろうとも、世界を善くするべく戦わねばならない、とちっぽけな矜持で胸を張る。

 アサギの口にする対魔忍の誇りは、他者よりも優れた智慧や能力に対するものではなく、在り方そのものに対するものであり、静流はそれを正しく認識している理解者の一人。

 

 だからこそ、こうして気軽に愚痴を零せる間柄でもあった。

 静流は明確にアサギ閥に属している訳ではないが、心情も信条も共有する同士。目上であろうが目下であろうが気兼ねなく忌憚のない意見を口にし合う。

 静流はアサギの苦悩や立場の重さを重々承知し、アサギもまた静流の立ち回りや処世術に理解を示している。

 

 

「それで、どうだったかしら?」

「……どう、と言うと?」

「ふうま 小太郎と任務を共にして」

 

 

 唐突で心当たりのない質問に静流は思わず聞き返したが、喜色満面のアサギにああと納得した。

 

 少なくとも静流の目には、これまでアサギが見せてきたふうま 小太郎に対する評価や恩情、寵愛はいくら後見人とは言え、校長や頭領の立場でもあることを考えれば度が過ぎていた。

 小太郎へ向けるそれは完全に身内――さくらや紫、九郎へと向けるものと何ら大差はなく、大した実績もない学生に向けてしまえば余計な軋轢を生みかねないと危惧していたほどだ。

 

 しかし、昨夜の一件で考えを改めた。

 戦闘能力、という点においては確かに周囲に劣っているのは確かであるが、それ以上の能力を持っているのは事実。それだけの寵愛や期待を向けても何ら可笑しくない。

 

 アサギや九郎は勿論の事、静流も待ち望んでいた人材。

 指揮は言うに及ばない。家の当主や組織の長としての力量は目にしていないが、組織や他者、周囲へ配慮した立ち回りからは十分な可能性を感じ取れた。

 

 

「指揮能力は十分。知識を吸収するだけでなく実践・応用できる機転も思考に瞬発力もある。政治や社会の流れや動きも把握してますし、アレなら魑魅魍魎の跋扈する政府や御当主集団に遅れを取ることはないでしょうね。正直、アサギさんよりも色々向いているんじゃないかしら?」

「そうでしょう?」

「ただ、秘密主義が過ぎるのはマイナス。何時か、いざこざや軋轢を生みそうではありますね」

(…………そういえば、あの子が秘密主義だなんて感じたのは何故? マスクで顔を隠して、夢魔の子達の前で名前を明かそうとしなかったから? 何か忘れているような……?)

「否定は出来ないわね。尤も、その辺りは当人も自覚しているでしょうし、だからこそ色々な子で周りを固めているのでしょうね」

 

 

 

 率直に今回の任務協力で覚えた所感を素直に口にする。

 その過程で所感に至った出来事を思い出そうとしたのが、記憶が抜けている。昨日の今日の出来事を忘れるなど在り得ない話。静流は違和感こそ覚えたものの、自身にとって都合の良い形で解釈した。

 

 アサギは非礼ですらある発言をした静流を咎めず、寧ろニッコニコの笑顔である。

 組んだ手の上に顎を乗せ、うんうんと頷いている。誰が見てもご機嫌であると分かる。どうやら自身が貶されるよりも、小太郎が評価される方が嬉しいらしい。

 

 

(これは、そういうことよね……こういう腹芸、出来ない人だと思ってたんだけど)

 

 

 その様子に、静流は逆に困ってしまった。

 この寵愛振りは次期隊長候補と目されている紫以上。これでは言葉にせずとも察せてしまう。周囲の評価は兎も角、アサギ自身は小太郎を次の隊長として考えている、と。

 

 確かに考えは分からなくもない。

 紫の統率力は目を見張るものがある。彼女が一喝すれば、どのような対魔忍であれ、ピシャリと背筋を伸ばして指示に従う。

 反面、作戦立案や腹芸は苦手の一言。生来の生真面目さのせいだろう。何事にも真っ直ぐなのは良い事ではあるが、その分だけ柔軟さに欠けているのは否めない。

 正に典型的な対魔忍だ。そのような様では、政治面や搦手で遅れを取る可能性が極めて高い。

 

 その点、小太郎ならば対魔忍に欠けている部分を埋められる。

 隊長でなくとも、参謀や腹心として取り立てるだけでも、相対しなければ問題を解決できるだろう。

 ただ、反発も凄まじいに違いない。反乱を起こした男の息子など、善からぬ想像を掻き立てるには十分な肩書。権力にしがみ付きたい老人達だけでなく、弾正の反乱を知る者も当然、納得しまい。

 

 恐らくは、独立遊撃部隊を組織したのは、そうした反発を予期してのもの。

 確かな実績と貢献を積ませることで、文句すら出せないようにするつもりなのだろう。奇を衒った策ではないものの、堅実な正道ではある。

 

 そして、アサギは言葉にこそしていないが、言外に貴女はどうする、と問い掛けても来てもいた。

 敢えて己の内心や事情を察せる材料を揃えて並べることで、相手に問うのは腹芸の常套手段。

 腹芸など出来る人物ではなかったのだが、小太郎と共にあったからか、アサギも成長しているようだった。

 

 

「――――まあ、いいわ。これからは組ませる事も多くなるでしょうから、色々と考えて置いてちょうだい」

「…………了解しました。失礼します」

 

 

 返答に窮していた静流を見ると一層笑みを深め、アサギは退室を促す。

 静流はそれ以上何も言う事は出来ず、促されるままに校長室を後にした。

 

 

「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

(…………面倒な事になったわねぇ)

 

 

 部屋を出て、扉を閉めて一呼吸置いた瞬間、静流はクソデカ溜め息を吐いた。

 

 どう考えても面倒な事になっている。

 アサギの問い掛けは、静流への質問と言うよりも恫喝に等しいものだ。

 あれだけ目を掛けている相手についての問い。暗に、小太郎の下に付け、或いは彼の肩を持て、と言っているようなもの。

 アサギの狙いとしては、代替わりまでに小太郎へと人と力を集約するつもりだろう。もし、彼女の引退までに集約が不十分であれば間に紫を挟む手段もある。とどのつまり、集約までは決定事項。

 

 これまで下らない権力闘争をのらりくらりと躱してきていた静流であったが、そうもいかなくなった。

 何せ、頭領直々の恫喝だ。返答を何時までも先延ばししていれば、日和見主義、蝙蝠扱いされかねない。

 尤も、アサギは其処で排除のような短絡的な手段には出ないだろう。五車の外での任務を徐々に増やしていき、権力闘争とは無縁のところに配置と比較的穏やかなところに落ち着かせるに違いない。

 

 

(それはそれで悪くないのだけど、そうなると色々な後ろ盾がねぇ。任務に際して受けられる支援が少なくなって、非常事態には対応が遅くなる。私みたいな単独潜入には死活問題)

 

 

 想定していなかった問題に頭を痛めながらも、静流は職員室へと戻っていく。

 廊下を進めば女子生徒や女性教師が尊敬や羨望の眼差しを向け、男子生徒や男性教師は胸や尻に欲望の眼差しを向けてくる。しかし、静流の頭の中にあるのはアサギの問い掛けだけ。

 普段であれば、女にはにこやかに微笑み返し、男には挑発するような眼差しで逆に牽制するのだが、そのような余裕は一切ない。

 

 何せ、己の進退がかかる選択を迫られている。

 ただ、アサギとしては優しさではあるのも事実。選択を与えられている上に、望む選択ではなかったとしても遠ざけるだけで消そうとも見捨てようともしない。次世代の土台作りをしている最中に、この行いは恩情以外の何ものでもない。

 

 

(ふうま君、か…………悪くないかもしれないわね。年は若いけど、色々と弁えてるし、自分にしかない武器も理解してる)

(災禍さんに、天音さんが脇を固め、ゆきかぜちゃん達を筆頭に次世代の面子も揃ってきている。自分に反抗的というか、意見できる井川君や紫璃ちゃんのような子達も側に置くのに躊躇もない)

(龍造寺君みたいな一般出の子どころか、魔界の踊り子も連れてきちゃうし、人材に関しては粒揃いの上に出身や種族も問わない。外の事なんて気にしてないような顔しておいて、対外的に自分の下に入り易くて働き易い職場アピールしてるのよね)

(その上、ミーティアちゃんみたいな外部戦力にも有能であるか自分にとって有用であれば、あの対応…………正直、魅力的だわ)

 

 

 職員室の自身の机に戻ってきた静流は椅子に座ったものの、仕事に手が付かない。

 やることは山ほどある。次の任務の情報収集だけでなく、自分が受け持つ授業の進捗状況から内容を決めなければならず、生徒一人ひとりの評価を下して、更には対魔忍としての訓練も施していかねばならない。

 

 しかし、仕事など手につく筈もない。

 選択を迫られている以上、決断は早い方が良い。兵は神速を貴ぶと言うが、何事にも共通する事柄でもある。

 情報収集は重要であるが、不透明なところがあるからと二の足を踏んでいれば機を逃す。かと言って、闇雲に進んでも痛い目を見るのは明らか。この辺りの危機管理を見極めて動くのが一流である。

 

 そして、静流の直感では今が動くか動かないかの分水嶺。

 余りに遅きに失すれば、ふうま内部で重要なポジションに付けなくなってしまう。

 一生涯を単独潜入要員として戦うのは構わない。個人で動くのは性に合っているし、そもそも権力闘争などという下らない柵が嫌で、何処の閥にも属していないのだから。

 問題なのはその後。現段階で後進を育てていくポジションにつけなければ、ふうま一門どころか対魔忍という組織自体が積みかねないのだ。

 

 ただ、付こうとしているのは、あのふうま。

 小太郎個人は能力的にも心情的にも下に付くには申し分ない相手であると認めている。もし仮に、弱い部分があるのならば自分が補えばいいだけの話。

 女性関係どころか男性関係すら持っている噂のある人物ではあるが、ミーティアに見せた人心掌握術もある。痴情の縺れであっさり殺されるような不様は晒すまい。

 だが、弾正のやらかしが大きすぎるのである。小太郎個人に非はなくとも、彼の血を引いているというだけで評価は地に落ちるどころか地獄の底からスタートになるのだ。

 

 思いも寄らぬ進退問題に直面し、うんうんと唸る彼女に職員室の教師達は奇異の視線を向けていたが、当人は全く気付いていない。

 

 その時、静流はふと視線を落とした机の上に、見知らぬ封筒があった。

 問題を一時棚上げし、携わっている任務の重要情報かと封筒を開けて中を確認した瞬間、静流はぶちんと何かがキレる音が自分の中で響き渡ったのを自覚し、選択は決まった。

 

 

(うん、決めた、もう決めたわ、決めちゃった。考えてみれば彼の所以上に優良物件なんて他にない訳だし。()()()()()()もなくなるでしょうしねぇ。纏めて後悔させてやるわよ)

 

 

 最後の一押しとなったのは、封筒の中に入っていた見合い写真であった。

 

 静流もそれなりにいい年。まだ二十も前半だが、世間一般では結婚するには適齢期。死ぬ可能性が高い対魔忍では遅い方ですらある。

 彼女の能力を高く評価する家は世話を焼く振りをして、家の後継者と結婚させることで静流を引き入れようとしているのだ。

 そうした見合い話が来る度、丁重にお断りしているのだが、年を重ねるごとに一方的な縁談は増すばかり。酷い時には行かず後家などと揶揄して怒りを煽り、引き摺り込もうとする輩もいる。断ったら断ったらで、何なら儂の妾にならんかと世迷言を口にする狒々爺もいる始末。

 

 もう、面倒だ。本音は『余計なお世話よ! アンタの所の低能男なんて興味関心御座いません! それにアンタみたいな耄碌したエロ爺の妾になるわけないでしょう!? さっさと死になさいよバーカ!!』とビンタと共に言ってやりたい。

 それが出来ればどれだけ気分爽快か。だが悲しいかな、家の力関係で平身低頭するしかないのである。

 

 しかし、ふうまの下に入ればその限りではない。

 無論、ビンタと暴言は論外であるものの、静流自身が馬鹿な相手を尊重した丁重なお断りをする必要はなくなる。

 家臣が結婚するには、当主への報告と承認を得るのは当たり前。余所の家から縁談話が来ても、当人に直接ではなく、まずは当主を通すのが筋。こうした気苦労と腹立たしさは二度と味合わなくて済む。

 

 静流にしてみれば、それだけで十分すぎるほど魅力的な職場。

 加えて、情報収集の重要性や単独潜入の難しさをよくよく理解した小太郎である。

 家や部隊と全く関係のない任務に当たったとしても手厚いサポートを受けられるであろうし、万が一失敗した場合でも救出に動いてくれる可能性も高い。単独潜入の保険としては破格な上に、心理的な負担も軽くなる。選ばない理由などないのだ。

 

 ぐしゃりと豚面の次期当主候補が映った見合い写真を握り潰して黒い笑みで低く笑う静流の姿に、授業の質問に来ていた生徒は即座に踵を返して退室し、教師陣も諫めることすら忘れて距離を置いた。 

 

 後日、静流は正式にふうまの傘下に参入することになるが、それはまた別の話。

 そして、迫り来る苦労と思いも寄らぬ幸福に、悲哀と歓喜の絶叫を上げることにもなるが、更に別の話である。

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

 一方その頃。小太郎宅では――――

 

 

「あー……その、落ち着いた?」

「は、はい……大変お見苦しいところ見せて、申し訳ないですぅ……」

 

 

 畳張りの客間で机を間に挟み、小太郎とミーティアが向かい合っていた。

 昨夜の出来事、小動物の愚行と横暴、そして煽りによって完全に心を壊されてしまったミーティアは一晩経ってようやく本来の己を取り戻せた様子。

 涙や鼻水、涎で汚れた服は今は洗濯中。天音の用意した灰色のスウェットを着ている。裾から覗く白い生足や、手首が隠れる萌え袖、少しだけ除く胸元。流石はふうま宗家執事、シンプルながらも完璧な部屋着コーデである。

 

 泣き喚くミーティアを災禍と天音、永久に任せ、その間に小太郎は桐生の所へ向かって治療を受けた。

 自身の弱さを自覚している小太郎は四肢の欠損すらも当たり前のものと見越しており、いくつかのスペアを作成、保管させてある。

 幸いなことに、無形によって切断された手首の断面は鮮やかの一言であり、スペアと繋ぐに何ら問題はなかった。但し、麻酔無しでの接合手術の選択は桐生をドン引きさせるには十分であった。

 狂気の沙汰をスマホ片手に鼻歌交じりで耐え抜き、家に帰ってきたのは30分ほど前。本来であれば、此処から一、二週間は桐生直々の経過観察とリハビリのために入院するのだが、場合が場合であったためにトンボ返りだ。

 

 現在は机の下で繋がった右手の指を親指から小指までを順番に動かしていた。

 繋げたばかりで既に動かせる桐生の技術力に驚くべきか。動かすたびに奔る激痛や再び傷口が開く恐れを僅かにも表さない小太郎に驚くべきか。

 

 

「別に構わないよ、そういう時もあるから――――で、早速、今後の話なんだが」

「は、はい! 淫魔王についての情報に関する依頼ですね!」

「と思ったんだが……悪いんだが、あの話、見直しを掛けさせて貰いたくてな」

「え…………あ、あの、それはもしかして……私も殺処、分に……?」

 

 

 小太郎の切り出した言葉にミーティアは居住まいを正した。

 日本の文化も調べているのか、和風の部屋に合わせて慣れない正座まで見せている。

 しかし、小太郎が次に紡いだ言葉は、見直しというミーティアにとって予想外の一言。そして、絶望のどん底に叩き落すには十分すぎる威力を秘めていた。

 

 考えてみれば当然。昨夜、アレだけの醜態を晒したのだ。考えを改めるには十分だろう。

 明らかに格下のリリムとミナサキに翻弄された挙句、溜め込んでいた感情を爆発させて泣き喚く。

 小太郎でなくとも今後の付き合いに不安を覚えるだろうし、ミーティアであっても同じ光景を目の当たりにすれば同じ選択をする。

 

 ミーティアの顔から血の気がサーッと引いていく。

 此処は対魔忍の本拠地。そして目の前にいるのは優秀な夢魔であるミーティアも認める夢魔という種そのものの天敵。

 よしんば天敵から逃れられたとしても、並み居る対魔忍をどう切り抜けろというのか。どう考えても逃げられない。詰みである。

 

 

「いや、そうじゃなくてな…………まあ、弱ってるところにこんな提案持ち掛けるなんざ邪推されても仕方ないんだが、ウチ来ない?」

「え………………えっ? それは、どういう……?」

「オレ、家の当主だから。外部協力者じゃなくて、正式にオレの部下にならないかって話。それが嫌なら、預かってる部隊の一員でもいいんだが……」

「…………えっ、えーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!」

 

 

 予想だにしていなかったまさかまさかの逆転サヨナラ満塁ホームランに、ミーティアは驚きの声を上げる。

 あれだけの醜態を見せたにも拘わらずに、この提案。驚きようも無理はない。

 

 現場レベルで魔族と協力することはあっても、基本的に対魔忍は魔族とは敵対関係。

 ふうまがどれほどの家系であるかは分からないが、かなり危険な橋を渡ろうとしていることだけは分かる。

 敵対勢力を自らの家に迎え入れるなど、内患と内紛の火種を自ら抱えるようなもの。どう考えても火傷は負う、下手を打てば焼死は免れない。

 

 しかし、小太郎にしてみれば当然の選択であった。

 能力は申し分なし、人格など諸手を上げて称賛できる。これを逃す手はない。

 だから本心を晒して提案している。リスクに見合う――――否、超えるだけのリターンを期待できると伝え、本気の提案であると示していた。

 正式な部下とするのなら要らぬ邪推は今後の関係性に歪みを生み兼ねない。だからこそ、打算こそあれども虚偽もなく、拒絶されても仕方がないで済ませるつもりであった。

 

 

「……ぉ、おぉ」

「対魔忍を信用できないならオレの部下を護衛に付ける。オレを信用できないなら外部協力者のままでも構わないよ。そういう魔族は五車にもいるし、何ならそいつらと一緒に生活できるように口添えしようか」

「だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーぅっ!!!!!」

「そっかぁ、そこまでかぁ……そこまでだったかぁ。ほんと、頑張ったんだな。よく頑張ったよ、お前」

「ぜ、ぜぜ、ぜび、お゛願゛い゛し゛ま゛ずっ゛! 一゛生゛づい゛でい゛ぎま゛ずぅっ!!!」

 

 

 再び、落ち着いたはずのミーティアの涙腺が崩壊する。

 醜態を晒せるだけ晒しているというのに恩情のみならず、この破格の好待遇。

 今までの職場で涼しい顔で働いていたものの、内心はぶっ壊れる寸前まで追い詰められていたミーティアにとっては一も二もなく飛び付くには十分過ぎた。

 

 何よりも小太郎が示す理解が、決断の要因としては最も大きい。

 この人は私のこと分かってくれてる! という思いだけで、これまでの倍、いや三倍は働けそうですらあった。

 弱り切ったところに甘い誘惑。完全にヤクザの手口なのだが、今回ばかりは小太郎も狙ってやっているわけではなく、ミーティアとしてもあんな職場に帰りたくもない。

 仮にこれから顔を合わせることになる仲間がこれまでの仲間と同質だったとしても、頂点である小太郎が理解を示しているだけで72時間ぶっ通しで働けてしまうだろう。

 人であれ、夢魔であれ、職というものは報酬ややりがいではなく、共に働く仲間との関係性が重要ということだろう。

 

 

「あ、契約と仕事内容、それから報酬の話ですけどぉ」

「うーん、切り替えが速い。速いなぁ……いいよぉ、凄くいいよぉ、そういうのぉ」

「凄く大事な話ですから♡」

 

 

 今の今まで号泣していたというのに、スンと涙も鼻水も引っ込めたミーティアは真面目な話を切り出した。

 その変わりように小太郎は思わずにっこり。一生付いていきますと口にしながら恩は恩、仕事は仕事と割り切る姿に評価は鰻登りで高まっていく。

 

 それはそれ、これはこれ。そうした精神を持っていなければ、やっていけない業界だ。

 恩や情でミスし、足を引っ張られては堪ったものではない。その点、ミーティアは恩や情に理解を示しつつも、自陣営の利益や仕事を完遂してくる確信できる精神性だ。同僚や部下としてこれほど頼もしく、好ましい者はいまい。

 

 

「で、報酬はこんなもんでどうでしょ?」

「ヒェッ……こ、こんなに?」

「ウチの中じゃ安い方だけどな。正直、能力的に替えが利かない連中はもっと高い。その分、危険手当はキッチリ付けるし、成果を毎月査定して昇給する。基本減給はねぇかなぁ、ミスなんて当たり前だし。ウチで言うやらかしは即追放レベルの事くらいだ」

「は、はわわ」

「後は住む場所かー。暫くはオレん家(ここ)で面倒見るけど、それでいい? あ、福利厚生も出来るだけやるから安心してね? 金の管理は自分でやるにしても人界のシステムにはちょっと疎いか。災禍か天音に教えるように言っとくから勉強してくれ」

「はわーーーーーーーーーーーーーー!」

 

 

 目くるめく夢の職場に、ミーティアは軽く逝きかけていた。

 夢魔の職場など基本総てが自己責任。報酬のいくらかを上納する形態であり、ミーティアほどの優秀な夢魔でも自由にできる金は少ない。

 

 小太郎が口を開く度に、これまでとの違いに眩暈すら覚えるほどである。

 しかし、そこは腹黒を自認するミーティア。まだ、安心はしていない。

 

 

(お、落ち着いて、落ち着くのミーティア……! まだ、まだ安心は出来ない。小太郎さんの事だから、いざという時には何処までも冷酷に対処する……! 私は夢魔だから切り捨てられる可能性を捨てちゃダメ……!)

 

 

 自分でもかなり無理をして思い込もうとするほど小太郎へと気持ちは傾いているのだが、安堵はできない。

 いま得られる安心感に胡座をかいて何もしないのは馬鹿のすること、と教訓を得ているミーティアは更なる安全を買うために、一つの決心をしていた。

 

 

(でも私に差し出せるものは少ない。いざという時のために此処は…………そ、そういう関係になっちゃうのが一番、だよね!)

 

 

 小太郎はミーティアを切り捨てるつもりは更々ない。

 本当の手足を切り捨てるのに躊躇のない男ではあるが、どれだけ人を疑おうとも己の血肉や手足に等しい身内を切り捨てるのは常に最後の手段。ギリギリのところまで情けは示す。

 もし、小太郎が身内を切り捨てるとすれば、最低限のライン――――無辜の民を意図して巻き込むような真似をした時だけだろう。

 

 しかし、今の所、小太郎はそのような姿を見せていないし、ミーティアには知りようもない事実。

 彼女が更なる安全を買うために、何らかの手段を講じようとするのは自然な流れだ。

 そして、元手の存在しないミーティアが講じられる手段など限られており、身体を使って何とかするしかない以上、そういう関係――――即ち、男女関係を結ぶのが、最も手早い手段であった。

 

 思考に夢魔として、女としての欲望が漏れ出している感は否めないが、その実、対小太郎への対応としては実に正しいのは彼女が有能だったからなのか。はたまた――――

 

 

(も、問題は……夢なら兎も角、私が現実じゃ初めてってこと…………い、いけるいける! 夢魔の誇りにかけて! 小太郎さんをメロメロにしちゃうんだから……! あっ、いやでも、メロメロになっちゃうのもぉ……♡)

 

 

 ミーティアの思考は、盛大なフラグであったのか。それを知ることになるのは、彼女以外には存在していない。

 

 何はともあれ、真面目夢魔ミーティア、ふうま一門への加入、決定――!

 

 

 

 

 

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