対魔忍RPG 苦労人爆裂記   作:HK416

75 / 81
バレ紫水でない! 五車も控えているしどうしよう!(オメメグルグル
深追いは現金。しかし、性能的に欲しい。相変わらずメインストーリーでも重要な立ち位置だしなぁ。本作を進めるに当たって絡んでくる要素もあるだろうし参ったねこれは。

というわけで、今回はまだ事後回。
そして相変わらず暴走するゆきかぜ会長。アサギといい、天音といい、どうして自分が書くとキャラ崩壊するのか。
では、どぞー!




新たな仲間! そして新たな苦労の気配……!

 

 

 

 魔界にある小さな領地。

 その端には小高い丘があり、豪奢な屋敷がある。屋敷の主はアンブローズという夢魔であり、自ら夢魔の手勢を率いる首領である。

 

 

「……………………」

 

 

 魔界には貴族と呼ばれる支配階級が多く存在する。

 彼等は領地と統治し、魔界の根底にある弱肉強食の理に従って民から搾取を繰り返す。

 無論、民も黙って絞られるばかりではない。領主の寝首を掻こうと反乱の準備を進める者も少なくはない。

 反乱と毎年のように勃発し、その度に鎮圧される。極稀に反乱に成功する場合もあるが、学のない輩が力だけでたまさか成し遂げただけ。大抵は周囲の貴族によって言葉巧みに領地ごと取り込まれてしまい、悪戯に命が消費されるばかりで支配の脱却からは酷く遠い。

 

 この領地も、そうした間隙を狙ってアンブローズが力と知恵によって手に入れたものだ。

 彼は生まれながらの貴族ではない。夢魔の中で特別な血筋というわけではなく、平凡な生まれ。それでもなお持ち前の前向きさと面倒見の良さ、数多の研鑽によって今の立場を手に入れた。

 成り上がりと揶揄する者もいるが、大半は嫉妬によるものであり、残りは生まれた時点で貴族であった者達からのやっかみ。決して正当な評価ではなく、弱肉強食の理屈に添うのであれば、彼がそれに見合うだけの力を持っていただけの事。

 一大勢力などとはとても言えないものの、夢魔独自の勢力を纏め上げ、独立独歩を保てている時点で相応の器量があったのだろう。

 

 何よりも下からの人気は高く、領民には反乱の気配が一切ない。

 常に民の反乱へと気を配らねばならない魔界にしてみれば、ちょっとした異常地帯ですらあった。

 

 自らの小さな領地を見渡せるテラスに、ワインの注がれたグラスを片手に立ったアンブローズは一つ溜め息を吐いた。

 常に己を磨き、強く、美しくなることに余念がなく、虎視眈々と領地の拡大を狙う切れ者には似つかわしくない。恐らく、彼の部下が見れば、何があったのですかと腰を抜かすに違いない。

 

 無論、彼にとて悩みはある。表に出さず、部下に情けない姿を見せていないだけに過ぎない。

 目下、彼のもっとも重い悩みは―――― 

 

 

(ミーティアが定期連絡会に現れなかった。しかも、何の断りもない無断欠席。こんなことは、一度もなかった……)

 

 

 ――――連絡のない部下についてであった。

 

 彼の腹心であるミレイユが、落ちこぼれのリリムを連れ戻すようにミーティアに頼み、人界へと渡ったとは聞いているが、その後は連絡がないとのこと。

 アンブローズの領地には他を圧倒する特産物もなく、名産品もない。故に、人魔を問わずに依頼で夢を見せることで得た金銭や物品を元手に領地経営や交易を行っている。雇われ傭兵ならぬ雇われ夢魔が主な収入源。

 

 こうした事態は珍しくない。

 正直なところ、魔界において夢魔は弱小種族。夢に引き摺り込めねば勝機は無きに等しく、未熟者が帰還できぬまま闇に消えるなどよくある話だ。

 

 しかし、今回ばかりは話が違う。

 アンブローズはミーティアに目をかけていた。或る意味で、腹心であるミレイユ以上に、だ。

 生来の生真面目さはアンブローズには理解し難いものであったが、直向きな努力家という点においては共感する部分があり、また努力を他人に見せようとしない姿勢は若い頃の己の姿と重なった。

 夢魔――――と言うよりも魔族全体の傾向として、油断慢心が過ぎる。その点、ミーティアは己の実力を正しく認識しており、それだけでも目にかけるに値する存在であった。

 ゆくゆくは、ミレイユと同じ地位にまで取り立てて、一派を牽引する存在になって貰おうと考えていた。ただ、そんな考えは一切伝えていなかったのも事実。

 

 

(参ったわねぇ、下手するともうこれ帰って来ないわね。ウチには我の強い困ったちゃんが多いから、素直で優秀なミーティアを色々と便利に使わせて貰っていたけど、限界だったようね…………私も大概愚かね)

 

 

 優秀な部下にかつての己を重ねていたアンブローズにとって、まだ確定していないもののミーティアの離反は予定外の事柄。

 

 ただ、それも無理はない。

 アンブローズは自身でも認識しているが真面目ではない。義に厚く、通すべき筋を認識してこそいるものの、全てを背負い込むような真似はせず、苛立ちや理不尽に出会った時には全てを放り出して適度にガス抜きする癖が身についている。

 対し、ミーティアは真面目過ぎる性格故に、そのような真似は一切出来ていなかった。やらなければならないことに忙殺され、仲間への不満を漏らすことすら裏切りとして戒めていたのだ。

 心の何処かで、似た者同士だから心配ないでしょう、と思い込みがあった。そうした齟齬の果てが、この結果。

 

 何もアンブローズだけに非があるわけではない。ミーティアにも非はある。

 大きすぎる期待から目を曇らせてしまうのは悪しき習性であるが、辛いものを辛いと言えないこともまた悪しき習性である。

 環境如何に関わらず、『嫌だ』の一言を言わなかったばかりに辿り着くところまで辿り着いてしまう事例は少なくない。

 期待にせよ、いじめにせよ同じ事。例え無意味だと思ったとしても言い続けなければならないことはある。でなければ、永遠に相手に気持ちは伝わらないのだ。

 

 しかし、アンブローズは思考の中でさえミーティアを責めることはせず、全ては己の不徳と行動と言葉の全てを顧みる。

 

 

(最悪は離反、そうでなくとも捕縛されている前提で考えるにしても、ミレイユにさえ任せられないわねぇ。仕方ないけれど、私が直接動くしかないようね)

 

 

 アンブローズはふぅと溜息を漏らす。

 まだミーティアがどのような状況に置かれているか定かではなかったが、いずれにせよ部下には任せられない案件である。

 離反にせよ、捕縛にせよ、仲間内からミーティアへの叱責は避けられない。前者も後者も、過ぎた期待から発生した事態だろうに、それではマズい。ただでさえ離れている心が更に離れるからだ。

 どちらの場合でも、必要なのは彼女を慮った優しさとアンブローズの謝罪しかない。それさえ手遅れかもしれないのに夢魔の誇りを説こうが、恥の心を刺激しようとも意味がないのだ。

 

 ただ、アンブローズはそうした心遣いが部下には出来ないと断じていた。

 プライドばかりが無駄に高く、ミレイユもプライドに見合う実力はあるものの何処か間が抜けている。とてもではないが懐柔の仕事など任せれないし、誰も承諾しないだろう。

 

 

(ミレイユは此方側に置いていくとして、名目上は人界側の拠点と他勢力の視察。淫魔王(やつ)の動きも気になるしね。とは言え、私もそういうのが得意なわけではないし目立っちゃうし、外部の情報屋を使ってこつこつやるしかないわね。ミーティア、どういう状況にせよ、無事でいなさい。せめて、お話ぐらいはさせてちょうだい)

 

 

 こうして、一派の首魁にして夢魔の傾奇者は人界へと向かう。

 姿を消したミーティア、そして対魔忍勢力との邂逅は、もう少し先の話――――

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

 その日、五車学園の地下にある独立遊撃部隊の作戦本部には、部隊の面々及びふうま宗家のメンバーが揃っていた。

 

 前回、この面子が一堂に会したのは鬼崎 きらら、獅子神 自斎の入隊希望とアサギによる受理に端を発する面接大会開催決定通知の時。

 今回も難題に晒され、さぞや重苦しい空気に包まれている――――かに思われたが、そのようなことはなかった。寧ろ、和やかな雰囲気ですらある。

 

 幾人かの表情は険しかったものの、殆どの面々は和気藹々。

 執事として立つ時は冷ややかな鉄面皮を崩さない天音も、今は頬を緩めていた。

 どういう訳か、作戦本部の円卓の上には、災禍、天音、永久が腕によりをかけた料理の数々が並んでいるではないか。

 

 

「えー、独立遊撃部隊一次面接終了慰労会と新人歓迎会を始める前に、何か意見のある奴は言いたいこと言っていいぞ」

「はい! はいはーい――!」

 

 

 それぞれが好き放題に口を開いている中、小太郎は手を叩いて注目を集め、今日の趣旨を口にした。

 

 彼の言葉通りであるのなら、確かに目出度い。

 まだ半ばではあるが、千人規模の入隊希望者の一次振るい落としが終わったのだ。皆の雰囲気も納得である。

 その上、新人の歓迎会と来たものだ。慰労会と歓迎会を一緒にしてしまい、新人には少々申し訳ないであろうが二重に目出度いのは事実。

 

 そんな中、元気良く手を挙げたのはきららだった。

 ふんすっ、と気合の入った彼女であったが、周囲の反応は止めておけと言わんばかりに首を振っている。

 

 

「予想しちゃいるが良いぞ。言ってみろ」

「アンタね、魔族を引き入れるなんて何考えてんのよ!」

「鏡見てこいよ」

「……きららぁ、私やお前は半分魔族だぞぉ」

「は、半分だけでしょ! それに半分は対魔忍だから! ノーカン! セーフ! はい論破ー!」

「論破できてねーよ。今更魔族だ何だと気にしてどうすんだ」

「うぐぐっ、うぐぅぅっ」

 

 

 気合十分に意見したきららであったが、小太郎の一言と紅の援護によって敢えなく撃沈――――したかに思われたが、最後の抵抗を見せる。

 子供のような理屈と共に両手を水平に開くが、小太郎は魔も半魔も大差はないと切って捨てられ、大艦巨砲主義(何処をとは言わないが)の下に設計された超巨大(何がとは言わないが)戦艦きらら轟沈す。

 

 何もきららとて子供じみた嫌がらせをしたかった訳ではない。

 今や、彼女が小太郎に向ける信頼は本物であり、向ける心配も掛値のないものだ。寧ろ、好意からの発言だった。

 

 対魔忍内部において、魔族に対する反応はまちまちの人それぞれ。

 露骨に嫌悪感を示す者もいれば、特段の感情を持たない者もいる。だが根本的に敵対しているだけあって、本拠に引き入れること自体を快く思わない者の方が圧倒的に多い。

 

 

(そうなったら立場の弱いふうまは困っちゃうわよね、他の人は何も言ってないみたいだし…………此処は私がしっかりしないと!)

(あぁ~~~~~、きらら先輩が自分から小太兄の女の子になりにいってるぅ~~~~~~~~)

(ゆきかぜ、その顔は……)

(ゆきかぜちゃん、今日もガン決まってるわね……)

 

 

 と、そんな姉さん女房やら内助の功的な心持ちで嫌われ役を買って出たのであった。なお、自分や紅が半分魔族であることは脳内から吹っ飛んでいた模様。

 そんな甲斐甲斐しくも愛らしい姿にゆきかぜは自らの満願成就が近づいているのを確信して涎を垂らしそうな表情で恍惚とし、二凜コンビは可愛い妹分が次元違いの生物になりかけている様にドン引きしていた。

 

 他の皆が何も言わなかったのは、考え付かなかった訳でも言えなかった訳でもない。単に、小太郎がやることだからなぁ、と結論していただけだ。

 やること成すこと計算尽く。敵も味方も掌の上で転がし回す。不測の事態が起きようと、お出しされてる言葉は“こんなこともあろうかと!”か、“この状況、逆に利用できるな!”である。心配のしようがない。

 絶大な信頼と言えば聞こえはいいが、半ば諦めにも似た感情が混じっているのはさもありなん。味方だからいいものの、やりすぎていて苦言を呈したいのだ。

 

 加えて言えば、此処に来てナディアとクラクルを五車に招いた効果が発揮され始めているのも大きい。

 二人とも初めの内は危険と認識されていたものの、近頃になって認識が緩和されてきている。

 

 人界の政治を学び、応用する知識を身に着ける傍ら稲毛屋で働くナディアは御近所のアイドルとして。

 心願寺邸を寝床に五車で勝手気ままに生活するクラクルは子供達の人気者として。

 

 それぞれの位地を獲得してきているからだ。

 若い未婚の男はナディアに熱を上げて稲毛屋に通い詰め、子供の相手をしてくれるとクラクルは主婦層から支持を得ていた。

 そうなってくると周りも対象に興味を持ち、魔族らしからぬ性格に驚き、これまでの認識を改めると好循環を繰り返していく。

 

 ナディアは生まれや立場は魔界の支配階級であるが、性格は純朴で愛嬌がある性格。

 クラクルは野生動物そのものの気質であるが、人の心の機微やルールが分からない訳でもない。

 正直な所この二人、そこいらの対魔忍などよりもまともな人格をしている。ナディアなど、其処に倫理まで追加される。これで多くの人々が認めない筈がないだろう。

 

 この好循環のお陰で、魔族を迎え入れるハードルは下がってきていると言える。後は、ミーティア自身の努力次第である。

 

 

「魔族を味方に引き入れるのは構いませんがね。それこそ今更だ」

「…………――」

 

 

 きららに続いて口を開いたのは、小太郎に当たりの強い日影であった。

 しかし、彼の視線は一瞬、小太郎ではなく何故か永久へと向けられていた。その視線に雅臣は珍しく顔を顰め、咎めるように日影を片肘で突く。

 一体、二人の行動にどんな意味が込められていたのかは定かではないが、永久は眩暈を覚えてしまいそうな優しさと甘さに、寂寞とした苦笑を刻む。

 

 

「問題なのは裏切らない保証がないって事でしょ」

「そうそれ! 私が言いたかったのそれ!」

「うるせぇな……」

「かはは! 嬢ちゃんや日影の言いたいことは分かるが――――いやー、色んな意見が出る、出せるってのはいいもんだ!」

 

 

 日影も魔族を引き入れることへ嫌悪があるわけではない。ただ、言わなければならない事を口にしているだけだ。

 事実、彼の表情や口調に嫌悪の色も響きもなく、種族云々以前に、ミーティア個人への疑いのみが浮かんでいる。

 井河一門からふうま一門へと鞍替えし、権力闘争に巻き込まれ、自身を騙そうとする輩に絡まれてきた日影もまた、小太郎ほどでないにせよ嫌でも他人を疑ってしまう気質。また自らの属する家の一員として、家を守らねばならない使命感もあった。

 

 其処にきららは喜び勇んで飛び乗ってきた。相性が悪い二人であるが、息が合わない訳ではないらしい。

 

 そんな二人の様子に、啓治は笑みを浮かべて職場の良い雰囲気を堪能していた。

 彼の魔族に対する態度は常にフラット。人も魔もそれぞれに利点と欠点があるのを認めた上で、補い合うことも高め合うことも出来ると信じているからだろう。不満も文句もない、と言葉にしないまま周囲に伝えている。

 

 

「問題ない」

「何を根拠にそんな……」

「問題ない」

「日影、もういいでしょ。若が問題ないって言って問題になったことなかったし。それにほら、ウチには裏切りを許さないのがいるだろ?」

 

 

 小太郎が敢えて口にした保証に納得できない日影はなおも追求しようとしていたのだが、悟の言葉に遮られてしまう。

 

 こうした時、小太郎に崇拝に近い感情を持つ災禍も天音も永久も庇おうとはしない。

 小太郎の決定は絶対という前提はあるものの、そもそも自分が何かを口にするまでもなく説き伏せることも納得させることも可能と信じているからだ。寧ろ、小太郎に意見する側の肩を持とうとするのが大半。

 口が達者であらゆる可能性を想定している小太郎を補佐するよりも、周囲の有用な意見を補佐した方がより良い結果を生むと割り切っているのだ。

 

 

「裏切りって……誰です?」

「無形」

『…………あっ!』

 

 

 思い当たる節のなかった日影であったが、悟の名前だけ告げる言葉に彼だけでなく周囲も全てを思い出す。

 悟も小太郎のようにそもそも無形の術中に嵌らないように絶え間なく意識し続けている――わけではなく、今回の招集にたまさか無形からメールが入っていたから覚えていただけであった。

 

 また忘れてしまった、とそれぞれが無用な罪悪感から顔を歪めていたが、確かに無形がいるだけで問題はなくなる。

 無形の気質として、主人たる小太郎を裏切るなど絶対に許しはしない。周囲が裏切られた際のは反応はまず小太郎を守るのに動くのに対し、無形は即座に裏切り者の排除に動くだろう。

 そもそも、否が応にも忘れられてしまう暗殺者がいるならば、暫くの間は監視に付け、逐一行動を報告させるだけで裏切りの芽すら潰せる。

 小太郎は小太郎で策も考えもある。十重二十重に予防線は張ってある。確かに問題はないだろう。

 

 

「…………成程」

「納得したか?」

「ええ、まあ。納得はしてませんが、承知はしました」

「つーかさぁ、その娘、泣いているんだけど…………井河と鬼崎と八津が睨んでるからじゃね? イジめるのやめない?」

「んなぁっ!? 龍造寺先輩、人聞きの悪いことを言うのは辞めて頂きたい!」

「わ、私は悪くないでしょ……ソイツのせいよ、うん多分!」

「オレのせいかよ」

 

 

 ミーティアへの警戒以上に、小太郎への忠告と警告のつもりであったのだが、思わぬ結果にしどろもどろになる。

 雅臣の指摘に紫ときららは狼狽し、日影は悪びれこそしなかったが罪悪感を覚えているようで、悪者扱いされたこと以上に顔を顰めていた。

 

 ミーティアはミーティアで無言のまま涙を流していた。但し、その表情は警戒に対する苦悩に歪んだものではなく、崇高なものを目にしたかのような感動に包まれている。今すぐにも昇天してしまいそうである。

 

 

(皆、言いたいことと言うべきことを言い合ってる……! 我慢しなくていいんだ……! イライラを吐き出してもいいんだ……!)

(これ今まで働き過ぎてて完全におかしくなってんな)

(前の職場で心壊れる寸前までいったのね……人も魔族も変わらないわ)

(((((((((((((((苦労してきたんだぁ……))))))))))))))

 

 

 様々な製造現場で働き、余りに過酷な業務内容にリタイアする人間を見てきた啓治。

 権力欲に塗れた老人や当主や政治家とアサギと共にバチバチに戦り合う過程で見てきた酷使される側の人間を目にしてきた不知火。

 あらゆる経験に勝る二人はミーティアの精神状態を正しく把握しており、裏切りを心配する必要がないことを悟ると同時に同情を抱いてしまう。

 他の面々もミーティアに何があったのかは悟ってこそいないものの、苦労に苦労を重ねてきたことだけは理解できたようだった。

 

 小太郎としては、当然の結果。

 そもそも自分の周囲にいるのは他人の為に戦うことを選択した者達しかいない。

 それが誰か個人であれ、名前のないその他大勢のためであれ、根底にあるのは他者を慮る心。傷ついた者を見れば、気を遣わずにはいられなくなるのは自然な流れ。

 こうなると分かっていたからこそ、特に説明せずに連れてきた上に歓迎会など企画したのである。

 

 

「それで、面接の首尾は?」

「時間はかかったけど、上々じゃないかしら? 能力的なところは兎も角、基本は精神面で優秀な子達を選んだつもりよ。今回は事情が事情だけに人数は最低限でね。リストは送ってあるから後で確認してちょうだい」

「部隊だけじゃなくて、オレの助手も何人か見繕ってるぜ。つっても、こっちは完全に無名の連中だ。家の柵も関係ないとは思うが、念には念を入れて調べんだろ?」

「ああ、全員な。オレはオレで調べるが――――ミーティアにもリハビリがてら手伝って貰うか。夢の中だからこそ見えてくる本性もあるしな」

「ああ、夢魔だからね。でも、いいの隊長? 味方にそんなことをして……」

「相変わらずエゲツねぇことするクマ」

「自斎、安心しろ。アサギに許可は取ってる。そもそも対魔忍は一般人と違って多少精気を吸われても支障はない。暫く療養させるつもりだったが出来るか?」

「はい! 頑張ります!!!!」

「そんなに頑張らなくてもいいんだよ???」

 

(小太郎さんの手伝いをして評価が上がる! その上、精気も吸えて私の能力も上がる! お給料も上がる! 一粒で三度美味しい! 頑張らないわけがない!)

(あぁ゛~~~~~~~~、此処にも女の子が一人~~~~~~! しかもこれもう喰われちゃってるね!)

(娘が! 娘がシャブ決めてるみたいな顔してる!)

 

 

 面接の主体となった不知火と啓治の意見に、小太郎は首を何度も縦に振って頷いた。

 対人経験豊富な大人と若い感性を持つ若手の様々な視点によって選定された人材だ。不安はない。

 其処から小太郎が自身の手足を使って調べ上げ、止めはミーティアによる都合の良い夢の世界へ御案内。この網を抜けられる鼠はいないだろう。

 

 彼の味方にやっていい行為ではないものの、アサギには許可を取ってある。

 大前提として命を奪うレベルの吸精は勿論の事、任務や日常生活に支障を来すレベルも禁止。

 ただ、対魔忍は精力が漲り、血の気が多い。適度に吸精する程度であれば頭に血が上ることもなくなり、逆に良好な結果を生む可能性すらあった。

 故にアサギは秘密裏に許可を下した。対象の反応からミーティアの実力の程を知る事が出来る上、場合によっては夢の中で得た情報から、内部を搔き乱さんとする企みを先んじて潰せる可能性もある。小太郎の唆しもあったが、内部に不穏な炎が燻っている状態では許可をしないわけがなかった。

 

 そして、ミーティアはかつてないほどやる気に満ち溢れていた。瞳の中、背後には真っ赤な炎が宿っており、そのまま燃え上がってしまいそうな勢い。

 何年も地獄(の職場)を見てきた者だ、面構えが違う。地獄の底から理想の職場にやってきた故に、ミーティアのやる気は留まるところを知らない。

 敵と言わずとも恐怖の対象であったであろう対魔忍の下で、どうしてそんなにやる気を? と彼女を疑っていた日影や紫、きららは困惑し、小太郎ですらドン引きしていた。不知火もまた娘のとんでもない変化にドン引き状態であった。

 

 

「んじゃ色々と一区切りついたので、面倒な祝辞や挨拶を抜きにして、乾杯の音頭を取らせて頂きます!」

「いよっ! 待ってましたー!」

「啓治、貴方ね……」

「まあいいじゃない、災禍。こうした催しだもの」

「では―――――見合って見合ってぇ!」

『えっ!?』

「はっけよーい!」

『の、のこったー!!』

 

 

 ガシャーン! 手にしたコップを叩き割る勢いで乾杯する一同。

 この時、小太郎もミーティアも誰も彼もが知らなかった。夢魔一派の首魁が、優秀な部下を連れ戻すべく既に動き出しているなどと……!

 

 

 

 

 




その後の会の様子。


若様「うますぎ警報発令――――!」
雅臣「やべぇ! うますぎ警報だ!」
日影「おい、お前等、料理のことはいいから逃げろ」
きらら「何言ってんのよ、男どもは!」
自斎(日影先輩、意外にノリがいいのね……)


啓治「では、馬のように嘶きま~す!」
悟「ヒヒィ~~~~~~~ン」
災禍「そこは頂きますねだからね。全く、ウチの連中は……(溜め息&笑顔」
永久「でもこういう雰囲気はいいと思うわよ?(ニッコニコ」
天音「むぅ、若様も似たようなことをしている。此処は執事として……ヒヒィ~~~~~~ン(迫真」
二人「「天音はやめなさい!(必死」」


ミーティア「それで、小太郎さんに優しく激しく……(ポッ」
ゆきかぜ「こ、コイツ! 出来る……!(ゴクリ」
凜子「お前は何を言ってるんだ(真顔」
ゆきかぜ「この逸材――――ねぇ、ミーティア、小太兄ハーレム推進委員会の副会長にならない?」
紅「お前は何を言ってるんだ(真顔」
ミーティア「女の子に小太郎さん主体のエロ幸せな夢を見せて引き摺り込むんですね。やります(即断即決」
凜花「貴女も何言ってるの?(真顔」

不知火「娘が……娘が……」
球磨「かーちゃんも色々大変だクマ。取り敢えずご飯食べて元気出すクマ!」
不知火「球磨ちゃん……! …………ところで無形さんは?」
球磨「料理が時々消えてるからどっかにいるクマ。心配ないクマ」
無形『おいひぃ!』

アサギ「私も……!」
さくら「はいお姉ちゃんは仕事しましょうねぇ~~~~~」
アサギ「あぁん」

カオスアンドカオス! ふうま一門と独立遊撃部隊は愉快で自由な職場です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。