というわけで、今回はスルーで。回想もアレみたいだし、性能も五車紅と若不知火さんいるからなぁ。
アサギ「作者はこんなこと言ってるけど、小太郎はどうかしら?(興味津々」
若様「え、オレに振るか普通。別に興味関心ないけど」
アサギ「まあ、そうよね。もし仮に、私がやったら?」
若様「は????? お前がやったらうわキツって思った後に、こんな格好して誘ってくれるなんて嬉しくなっちゃって、フル勃起不可避。その後恥じらう姿を楽しみながら一晩中腰を振り続けますが??????」
アサギ(これは用意しておかないといけないわね!!(使命感)
此処最近ネタ扱いされ続けている汚朧おばさんを二人が知ったらこういうことになる。
そんなこんなで鶴の恩返し編第四話。書いてたら今回で大体王手かかってる状態になった。では、どぞー!
「驚きましたよ。忍法を使えもしないのに、ちゃんと強かったんですね」
「まあ、それなりに。つか穂稀、そういう言い方やめなぁ?」
「えっ? 何がです?」
「(なおちゃん、ダメダメ)」
「これは指導が必要ですね」
「えっ!? なんでぇっ!? いたっ! 痛いよ、二人とも!」
事件関係者と思しき泥遁使いを退けて数分後、一同は浅井家の敷地内に戻ってきていた。
雅臣は小太郎や風紀隊よりも遥かに多い数の泥人形を相手取りながら、全くの無傷。それどころか身体や衣服を一切汚していなかった。
彼がどれほど過酷な鍛錬を積み重ねているかを知り、鍛錬を課した張本人である小太郎は驚いてなどいなかったが、残る面々にはある種の尊敬の眼差しを向けている。
あのなおですら雅臣を認めていたのだが、相変わらず言葉の選び方が
流石の雅臣もこれには見兼ねて苦言を呈す。腹を立てていたのではなく、純粋になおのこれからを案じているから苦言であったのだが、当の本人は自覚などまるでないようで尤も質の悪い態度だった。
いい加減、自身の欠点を自覚して貰いたい親友達は、なおの頭に何度も平手打ちを喰らわせたのだが、折角の苦言も思いやりも指導も全く届いていない様子だった。
小太郎は四人の微笑ましいやり取りを無視して、皮手袋を嵌めると玄関に手を掛ける。
「ありゃ若、流石に用意いいなぁ。刑事ドラマとかで見た。現場の保存とか言うんだっけ?」
「別にお前は気にしなくていいぞ。事件当時の写真は取ってあるし、指紋の採取はとっくに終わってるからな。中も殆ど片付けられちまってるだろ」
玄関の磨り硝子の嵌め込まれた格子戸を開き、そのまま取り外す。
小太郎の肩越しにその様子を眺めていた雅臣は、興味津々と言った感じに覗き込んでいる。
基本、小太郎が雅臣に割り振る任務はバリバリの戦闘、護衛任務や一般人に対する聞き込みが主。前者は類稀な戦闘能力を活かすためであり、後者は他者の警戒心を引き下げるコミュニケーション能力を考慮して。
よって、こうした調査系の任務は携わったことはない。雅臣には何もかも新鮮に映るのだろう。
そして、孤路も同様に興味深げにしげしげと眺めていた。
探偵物が大好きと口にしていたことといい、小太郎を名探偵にしたがるところといい、今回の共同任務を何処か面白がっている節はあったが、表情は真剣そのもの。
小太郎から指摘された通り、自らの生まれ持った魂遁の忍法にも限界や陥穽が潜んでいたことを正しく受け止め、忍法以外の捜査の手法や方法を学ぶつもりらしい。
風紀隊の仕事は遊び半分でできるわけではなく、また被害者に向ける憐憫や殺人鬼に向ける義憤は本物。五車の治安維持、そのためならば後輩に頭を下げることも学ぶことも恥とは思わない。その一点に関して、彼女は貪欲でさえあった。
「(何してるの?)」
「錠を
「へぇ~。でもどうしてそんなん調べんの?」
「事件当初、浅井家の鍵は玄関以外は閉まったままだった。つまり、犯人は堂々と玄関から入って出てったか、はたまた空遁系列の忍法が使えるわけだ」
「状況証拠としてはそうなるね。でもそれが何か関係あるのかい?」
「大有りだろ。骸佐が反乱を起こした最中だ。いくら脆弱でも鍵くらいは掛けてただろうさ。それを鍵を使わずに開けて入ったのか、忍法を使って入ったのか、それとも中から開けさせたのかで犯人を大分絞れる」
小太郎は取り外した格子戸の錠を分解しながら、雅臣達の質問に答え、自身の狙いが何処にあるのかを語る。
もし無理に抉じ開けていたのなら、忍法は直接攻撃にしか使えないような攻撃系か、何らかの条件を満たさねば発動しないタイプであろう。そして、鍵を入手できる立場にない、浅井家とは無関係の者の犯行と予測できる。
逆にそうでなかったのならば、忍法は鍵のかかった錠を無効化できるタイプ。もしくは鍵を手に入れられるか、声を掛ければ中に入れてしまうほど親しい間柄の犯行と予測される。
まだまだ絞り切るには足りないが、現時点で容疑者が五車に住まう人間全てである以上、広大な範囲を僅かにでも狭められることを考えれば、値千金の情報と言えよう。
淡々とした小太郎の語り口調を聞いた各々は、自分では思いつかなかった切り口に感心した吐息を漏らしていた。
「それよか、こっちはオレがやるから中の方を調べてこいよ。この手のタイプの犯人は犯行現場に戻ってくるって言う。何か新しい証拠があるかもしれない。どうせだったら、当時を思い出して現場で
「き、気持ち悪いこと言わないでよ」
「うへぇ……そういう発想に至るのは、ちょっと理解できねーわ」
「(でも手分けした方がいいのは事実。行こう)」
「では私は此処で若様の護衛を」
「今日の所はもう一度襲撃なんてないと思うけどな」
「いえ、万が一が御座いますれば」
「……じゃあ若は佐郷に任せたよ。オレ等は中を調べようぜ。なあ穂稀、こういう時って靴脱いだ方がいいの?」
「普通に入って貰って構いませんよ。周りをべたべた触られるのは困りますけど」
「オッケー。んじゃ、行ってみようか」
格子戸から完全に取り外し、円筒形のルーペ――時計見で錠の中を確認し始めた小太郎に、此処で手伝えることはないと判断するとなおと孤路、後に続いて雅臣は鶴を残して家の中へと上がっていく。
残された小太郎は鶴を気にも留めず、鶴は鶴で護衛の役割を果たすべく周囲を警戒していた。
錠の外にも中にも特殊な工具による真新しい傷はなく、あるのは鍵を差し込む際に生まれる摩耗だけ。
ついでに言えば、泥の後や詰まりもない。これで少なくとも襲撃してきた泥遁使いは、浅井一家殺害事件への直接的な関与している線は極めて薄くなった。
泥遁は小太郎の言うように応用も効き、手数も揃えられる単純だが強力な忍法だ。しかし、どうしようもなく痕跡は残る。事実、庭のあちこちには崩れた泥人形の後が残っており、逃走に使用した際にも痕跡が残っていた。
殺害されたと言えども浅井家は上忍一族。相当な手練れであった。
あの程度の使い手であれば、殺害の際に泥遁を使わざるを得なかったであろうが、その痕跡全てを綺麗に隠滅できるほどの時間的な余裕あったとは考え難い。
「若様、申し訳ありません」
「はん? 何がぁ? もしかして穂稀センパイに関してか? アレはお前が謝ることじゃないし、別に悪意があるわけでもないだろ」
「なおくんの失礼な態度もそうなのですが、私自身が……」
「……? 何もしてないだろ?」
「それが問題なのです」
確認したかったところを調べ終わった小太郎は、今度は逆に錠を組み立てていく。
この家が取り潰されて更地になるか、事故物件として売りに出されるかは知らなかったが、放置してなおに嫌味を言われるのも面倒であったからだ。
鶴は庭と門の方向を警戒して背中を向けたまま意気消沈して話し掛けてきた。
彼女の予定では、この事件解決に対してもっと力になる予定であったのかもしれない。捜査においても、戦闘においても。
しかし、現実はどうだ。足を引っ張ってこそいないものの、何の助けにもなっていない。己に自信があったからこそ不甲斐なさに歯噛みしていた。
だが、小太郎は言葉など掛けず、鶴を見ようとすらしなかった。
鶴に対して不満は特にない。彼女の人柄や境遇を考えれば、この事件そのものに関わるなどとは思っていなかったが、何らかのアクションを掛けてくるのは予想していた。
ただ、彼女のメンタルなど知ったことではない。この関わることさえ面倒な事件を起こした殺人鬼を追い詰めて殺し、さっさと己の仕事に戻るだけだ。
「さてと、事件当時の写真は、と……」
「此方に」
「……ちゃんと役に立つじゃん」
「まあ!」
玄関の引き戸を元に戻した小太郎は、次にすべき行動のため資料を取り出そうとしたが、何時の間にか隣に立っていた鶴がより早く己の鞄の中から浅井一家殺害事件の捜査資料を差し出していた。
僅かばかりに目を丸くした小太郎は、やや控えめな誉め言葉を口にする。
彼がこうして他者を褒めるのは珍しい。家臣や独立遊撃部隊の隊員以外には特に。
小太郎は過大にも過少にも他人を評価はしない。褒めるべき部分がない相手にはひたすら辛辣。であれば、少なくとも鶴が捜査の相方か、従者として不足はないと感じているのは確かであったろう。
鶴がその性質を理解できていたとは思えないが、小太郎の言葉を聞くとパァッと表情が明るくなる。どのような形であれ、恩のある相手に褒められて悪い気はしないのだろう。
先程の落ち込みようは何処へやら。小太郎のタイミングが良かったのか、鶴が恩のある相手にはひたすら単純であったのかは定かではない。
「それでこれから何を……?」
「殺人鬼の情報はまだ少ない。だから奴の足取りを追うのは無理筋。まずは被害者の動きを追う。それが見えれば殺人鬼の動きも自ずと見えてくる」
「成程……」
事件当時、まだ殺人鬼の存在が認知されていない状況であっても、事件現場の写真くらいは残してある。
まず小太郎が取り出したのは、玄関の写真。
玄関にはサンダルが一足。婦人用の靴が一足だけが綺麗に揃えて並べられていた。それ以外の靴はない。
浅井 美織の母親は、既に一線を退いた対魔忍であった。少なくとも骸佐の反乱当初、不用意に家の外に出ていなかったことが伺える。
そして、美織と父親がそれぞれ最後に目撃された時間と位置から、美織が母親の安否を確認するため先に家へと戻り、その後に父親が戻ったであろうことは予測できた。二人の靴がなかったのは、脱がずにそのまま家の中へと上がったからだろう。
いま得ている情報と被害者の人格を考慮した上で、小太郎は二人の影を追うように家へと上がり、その後ろを鶴が追う。
母親が戦えたかどうかは別として、反乱時に家から出なかったのは玄関の様子からほぼ確定している。
夫と娘が帰る家でもあるのだ。現役を退いた状態で無理に戦って危険に晒されるよりも、家で無事を祈りながら家族の帰りを待った方が良い、とでも考えたのだろう。
ならば、母親は何処かに隠れていたと見るべき。それも家族しか知らない隠し部屋か何かに。そして娘と父親は逸早く母親の安否を確認すべく靴も脱がず其処へと向かった。
「此処だな」
「此処とは? 血痕が発見されたのはその部屋ではありませんが」
「いや、隠し部屋が此処にある。廊下の長さと部屋の広さが一致してねえ」
小太郎達が辿り着いたのは玄関から廊下を一直線に進んだ先にあった和室。
障子張りの襖を開いた先には、畳で埋められた部屋の中央に大きめの和机がポツンと置かれているだけ。造りと趣からして客間であろう。
人が住まなくなって手入れがされなくなった部屋は襖を開いた拍子に埃が舞ったが、小太郎は気にせず中に入って掛け軸の掛かった壁を叩く。
音を聞いた瞬間、二人は目を見合わせた。不自然な空洞音を耳にしたからだ。
音から隠し部屋の構造、そして仕掛けの種類を把握した小太郎は壁の四隅を叩く。すると壁自体が中に隠された軸を中心にくるりと反転する。
「どんでん返し……ということは、浅井家の奥様は此処に身を潜めていたということですか」
「十中八九な。それに見ろ」
「髪の毛、ですね。色と長さからして、これは浅井 美織のもの……なら、先に奥様と美織さんが再開して、再び此処へ」
「その後に父親が帰ってきて一網打尽、そんな流れか。浅井の親父はそれなりに腕利きだった。だが室内に争った形跡がなかったところを見るに不意打ちだったろうな」
「…………となると、先ほどの泥使いは」
「殺人鬼じゃなくて協力者で確定だな。泥遁はさっきみたいに敵を待ち構えておくのに向いてる。オレ達に追われて動揺して逃げたのを鑑みるに使い手の実力も大したことはない。その程度の奴の実力じゃ、浅井の親父に不意打ちしかけるなんざ自殺行為だし」
曲がりなりにも対魔忍は忍。
万が一に備え、こうした仕掛けを自身の屋敷に施しておくのは珍しくない。
よって小太郎は勿論の事、鶴にも驚きはない。ただ、鶴が瞠目していたのは小太郎のその場で起こった過去をまるで見てきたかのような手腕。
彼女にはそれが事実であると知る術はない。それでも、話の辻褄はあっている以上、信じざるを得まい。
「殺人鬼は、浅井一家を不意打ちで同時に昏倒させるだけの実力がある、ないし忍法を持っている、ということですか」
「だな。不意打ちでパッと思いつくのは姿を消す忍法か、存在そのものを隠す忍法辺りかねぇ」
「空遁系はどうでしょう?」
「いや、それはないな。アレ、空間を飛び越えようとすると空間歪曲場で周囲に派手な痕跡が残る。これだけ部屋が綺麗なら除外してもいいだろうよ」
「それでも、これで相当範囲を絞れますね。そうでなくとも、殺人鬼が仕掛けてきても対応できます。それで、殺人鬼はその後……」
「家族揃って引き摺って、血痕が発見された部屋で殺したってとこか。問題があるとするのなら――――」
「どうやって、白昼堂々三人もの人間の死体を運んだか」
「それだな。それも殺人鬼の忍法に秘密があるんだろうが、アレだけ派手に血が流れてる以上、姿を消すだけ、存在そのものを隠すだけじゃ、痕跡までは消せない。となると、いくつか可能そうな忍法はある、かな」
「では、それで風紀隊のデーターベースを当たってみましょうか。アレには個々人の忍法も登録されているそうですし」
「いや、意味がない。データベースに登録されている忍法はあくまでも自己申告だ。偽装する手段はいくらでもあるし、最悪忍法を使えないと登録しちまえばいい……此処で分かるのはこれくらいだな。次は血痕の発見現場に行こう」
徐々に輪郭を帯び始めた殺人鬼に鶴は嫌悪と義憤を募らせ、小太郎は真綿で首を絞めるかの如く追い詰めていく。
彼の頭の中には、これまで対魔忍が確認してきた忍法は全て叩き込まれている。
それは五車に所蔵されている書物だけではなく、ふうま一門が蒐集してきた膨大な量の書にも全て目を通している。
その中で、殺人鬼の犯行が可能になる忍法はいくつかある。これだけでも値千金の情報であった。
仮に馬鹿正直に忍法をそのまま申告していなかったとしても、本来の忍法で見た者を騙せるような忍法として登録している。
万が一、己の忍法を人目に晒さなければならなくなった際に、これまでの立場が一気に瓦解しかねず、どうして嘘をと周囲に良からぬ疑いを持たれかねないからだ。
そして、忍法を使えないと申告してはいない。これは小太郎自身に確証はなかったが、確信に近い感覚である。
忍法を持っていること。それは対魔忍の間では一種のステータス。小太郎や雅臣がそうであるように、与えられなかった者への嘲笑と風当たりは厳しい。
殺人鬼の犯行や行動のそこここから感じ取れる詰まらない矜持と絶大な自信。それに反する承認欲求と自身を客観視する冷静さ、ではなく臆病さ。
肥大化した欲望と正常を保とうとする理性。欲求と知性、正と負の感情の合間で揺れる殺人鬼が、自らを“無能です”と宣伝して回ることがなど在り得ない。ただでさえ矜持が悲鳴を上げている者が、自ら嘲笑に晒される真似など出来よう筈もない。
(こりゃ後、二、三日でケリがつくな。しょーもな)
(若様、もしや鶴が何か……)
その呆れは、愚かな殺人鬼に向けられたものだったのか、そんな殺人鬼ですら捕まえられない風紀隊に向けてのものだったのか、或いはその両方か。
いずれにせよ、ただでさえ呆れで満ちていた胸中は、更に呆れで満ちていく。溜め息は止まらず、面倒臭さは増える一方であった。
そんな小太郎の後に続き、鶴は不安げな顔をする。
巻き込んだ彼女にしてみれば、小太郎が一喜一憂するだけで己の行動を顧みる理由になる。
『仇は倍返し、恩は百倍返し』。母の遺した言葉は確かに人として正しかろうが、余計な苦しみを抱かせる呪いであると同時に人をより良く成長させる祝福でもあるようだ。
両者それぞれの想いを抱えながら惨劇の場――――浅井家の居間へと向かう。
其処には先に家へと入っていった三人の姿があった。だが、表情は硬かった。
「来たね。そっちの方はどうだったかな?」
「まー、それなりに。殺人鬼が誰なのか、相当絞れると思いますよ。そっちは何か?」
「あったよ。挑発、のつもりだろうね。馬鹿にしてくれるよ」
「ミサンガ、ね。これまた悪趣味な」
「…………っ!」
「――――――」
なおは新たに発見された証拠品と思しきものを手渡し、小太郎は失笑気味に顔を顰めながら受け取った。
後ろから肩越しにそれを覗き込んだ鶴は小太郎が悪趣味と称した意味を即座に理解して息を呑み、それを見守っていた雅臣は硬い無表情のまま。
一見、小太郎が言うようにただのミサンガに過ぎない。
子供のよくやる願掛けの一種。ミサンガが切れた時に、掛けていた願いが叶うという、誰でも一度はやったことはあるかもしれない、そうでなくとも聞いたくらいはあるだろうお呪い。
それがただの糸で編まれていたのならば、或いは美織の持ち物だとでも思っただろうが、それは在り得ない。何せ、ミサンガは人毛で作られていたからだ。
髪の質感だけからでも凡そ年齢は見当が付く。
ミサンガは色の違いなどから最低でも三人の髪で編まれており、それぞれ中年が二人分と若年が一人分。髪の色や特徴は浅井家の家族と一致しており、被害者の髪を切り取って作られたものと見てほぼ間違いない。
死体の弄びは、一種の禁忌だ。
食人文化というものもあるが、それらは欲望に準じた行為ではなく、死者に対する愛と弔い、役割の引継ぎを意味する歴とした文化。弄びとは決定的に異なる。
だが、このミサンガは悪意と欲望によってのみ作られている。これを弄びと呼ばず何と呼ぶのか。
(挑発、か。自身を捕らえられない風紀隊や対魔忍を嘲笑っている、とパイセン方は思っているようだが、違う。違うな。煽り、という点においては同じだが、意図と目的が違う。だが、今はそれよりも――――)
殺人鬼の性格を掴みつつある小太郎は、怒りを燃やすなおや孤路とは異なる見解に至っていた。
常人には理解できない矜持と欲望のバランスの崩れた殺人鬼が行う行為として、捕まえようとする側を挑発するのは決して珍しいものではない。
有名所ではロンドンを恐怖に陥れたジャック・ザ・リッパー然り、日本でもそうした事件は残っている。
だが、今回のこれは全くの別もの。
単に風紀隊を嘲笑いたいわけではない。これまで必死に正体を隠してきた殺人鬼が持つ天秤が今になって理性の側から欲望の側に傾いたのか。其処には何か明確な理由が必ずあるはずなのだ。
小太郎は凡その検討はつけていたが、語らない。
確証があったわけではなく、悪戯に周囲の不安を煽る必要性がなかったからだ。
それよりも問題であったのは、雅臣の様子だ。
何一つ口を開かず、硬い無表情のまま立っているだけ。表面上は凪いだように感情を露わにしないが、その心中はドス黒い怒りが渦巻いている。
当然だろう。死霊騎士によって家族を、友人を、顔見知りを、故郷の人々を、自らに関係する全ての人々を物言わぬ生きた死体に変えられた挙句、自らの手で動かなくなるまで、原型が分からぬまで殴り続けた雅臣にとって、死体の弄びは最大級の地雷。
穏やかでいられるほど人間性は欠落していない。落ち着いていられるほど怒りと悲しみを忘れていない。いま笑っていられるのが不思議なほど境遇なのだ。
小太郎は見兼ねて薄く笑いながら雅臣の肩を叩く。
余りにも暗い視線と視線が交差する。一切の光が宿っていない瞳を互いに見ると、雅臣は溜め息を吐きながらも力のない笑みを浮かべて元の快活な光を瞳に宿らせた。
雅臣は小太郎が何をやっているのか知っているし、小太郎もまた雅臣の身に危険が及ばない範囲で明かせるものは明かしている。
永久の存在についても。労働力として確保した人型が何であるかも。特定の事実だけを明かし、特定の事実を伏せておき嘘を吐かないままに誤認を齎すような真似すらしていない。
それでもなお雅臣が小太郎に付いてくるのは、初めて会話した時から常に敬意を感じていたからに他ならない。
そもそもからして、雅臣に語ってきかせた事実はただ騙すだけ、ただ部下として使いたいだけならば語る必要など何処にもない。小太郎であれば、如何様にでも操ることは出来た筈。
明かされた事実に嫌悪と義憤、疑問と困惑でぐちゃぐちゃになった頭で小太郎に何故明かしたのか、と問うたことがある。
『あ? だってお前に嘘は吐かないって言ったでしょーが。オレ、ほんとマジにお前のこと尊敬してんだよ。色々と打算はあるし、自分の間抜けさでミスって仲違いしても、お前に殺されんなら文句はねーかなぁー』
『…………お前、誰に殺されたって構わない人間だろ?』
『あー、それもそうだな。言い方が悪かった。文句だの不満だのじゃなくて、安心、が一番近いかなぁ。勿論、抵抗はするけどね?』
『抵抗は兎も角、安心……?』
『そ。お前、普通に生まれて普通に育ってきたじゃん。望んでいない才能があって中身も多少イカれちゃいるが、考え方は至ってまとも。そんな奴が戦うこと選んで、オレを殺しに来る。そりゃきっと人として正しいんだろうよ。そう考えるとなんつーうかなぁ、もう頑張らなくていいかーとか、オレ達はもう必要ねーんだとか思うわけよ。オレみたいな奴には、過ぎたな終わり方だと思わねぇ?』
『………………はぁぁぁぁ~~~~~~~。それ言われちゃ、こっちもその気が失せるわ。いいよ、地獄の底まで付き合うよ。いや、地獄の底まで付き合って貰うかんな。このたらし』
『そりゃまた面倒な。ま、とっくの昔に覚悟は出来てる。元々、人間関係なんてそんなもんだろ?』
屑でも下衆でもないが、どうしようもなく救いようのない外道。
凡そ多くの悪党どもよりも、ともすれば己から全てを奪った死霊騎士よりも遥かに悍ましい人間性。
それでもなお、何時でも己で定めた役割と立場を投げ出せるだろうにも拘わらず、己で定めたからこそ投げ出さずに抱えて生き、最後にはクソッタレと呟きながら笑って死ぬであろう男。
あっけらかんと子供のように笑う小太郎に盛大な溜め息を吐き、負けを認める他なかった。
小太郎が理想とする先、思い描く未来は漠然とした形でしかなかったが、確かに本心であると伝わってきた。胸に生まれたのは小太郎が己に向けているのと同じもの。
狙っていたかは定かではなく、そんなことはどうでもいい。重要なのはそれを自覚した時点で、雅臣は小太郎を殺せなくなったこと。人は尊敬や好意を抱いた相手を殺せないからだ。
「雅臣、ちょっと廊下の写真を撮ってきてくれ」
「なんで廊下? それにオレの携帯でいいの?」
「ああ、構わない。もしかしたら犯人の足跡が見つかるかもしれん。時間が経ってるから警察なんかの方法じゃ無理だが、ウチの技術顧問の超技術に期待だな」
「(……! そんなこと出来るの?)」
「あー、確かに啓治さんなら出来るかも。撮り方に指定ある?」
「出来るだけ細かく。枚数は多く。隅から隅まで」
「でしたら私も手伝いますよ、龍造寺先輩。幸い、携帯は私も持っておりますし、人手は多い方がいいでしょう」
「おっ、あんがと。佐郷がいるなら安心安心。オレ、大雑把だからさー。あっ、あとそれからこの面子でLINEのグループ作らない? その方が連絡が楽になるしさ。考えといてよ」
そう言うと雅臣と鶴は居間を後にする。
相変わらず接しやすくコミュ力高めな雅臣であったが、元々目敏いことに加えて付き合いのあった鶴はその僅かな変化に気付いていた。
彼女は小太郎に目配らせして自らの意図を伝え、小太郎は黙って頷き任せるままにした。
鶴もまた小太郎同様に雅臣を尊敬しているのだろう。それがどのような種類であるかは定かではないが、尊敬する相手の顔が曇っているのは忍びない。僅かばかりでも気が晴れれば、と考えるのが人情だ。
「凄いな、君のところは。確かに足跡が採取できれば殺人鬼にぐっと近づける。他の事件でも同じだ」
「まあ、普通の技術じゃないですけどね。一般には出回ってないし。なかなか馬鹿に出来ないでしょ」
「ああ、嫌というほど思い知ったよ。客観性の高い事実なら誰でも納得させられる。問題は……」
「(私達にノウハウと技術がないこと。正直、何処から手を付けていいか分からない)」
「何ならウチの技術そっちに渡しましょうか? 科学の良い所は再現性だ。知識とノウハウの少なさは技術でカバーしてゆっくり積み重ねればいいし」
「えっ!? そ、それは助かるけど、いいのかい?」
「渡したものを無駄にしないならオレは特に。ウチのも技術を独占したいタイプじゃなくて、広めたいタイプなんで二つ返事でOK貰えると思いますよ」
「……正直ありがたいよ。でも参ったな、君には借りを作ってばかりだ」
「別にどうでも。特に期待してないんで」
「君ねぇ、龍造寺先輩じゃないけど、そういうところどうかと思うなぁ?」
「(なおちゃんも人のこと言えない)」
「何だか今日は鶴ちゃんもコロちゃんもボクに辛辣じゃないかな!?」
「(他人の振り見て我が振り直せって言葉知ってる???)」
「知ってるよぉ!!」
また始まった親友漫才に、小太郎は呆れながらも口は挟まない。必要以上に絡まれるのは面倒だし、仲の良さが発露しているだけに過ぎないからだ。
なおにしても、孤路にしても、やる気と使命感は認めるところ。
無駄な誇りで頑なにならず、時に誇りを引っ込めてでも必要な事柄に手を伸ばそうとする姿勢は助けの手を差し伸べるに値する。
技術面で独立遊撃部隊とふうまを支える啓治にしても、大いに喜ぶだろう。
小太郎が言うように、技術は極々少数のためだけに利用するのではなく、あくまでも技術は世界をより善く発展させるためのものと信じている男。
対魔忍の忍法頼りの手法ややり方に、辿ってきた歴史や積み重ねてきた考え方から理解を示しながらも、欠点や弱点があることを常々危惧していた。前向きに門戸を叩き、己の技術を有効活用するのならば多いに歓迎する事態であり、是非もない。
小太郎としても同様だ。
五車は対魔忍の本拠。その治安を維持する風紀隊が伸びるのならば、大いに結構。
独立遊撃部隊はアサギの無茶振り案件すぐやる課と化しているが、基本的に五車の外での任務を想定してる。面倒な案件に関わる確率が少しでも減るのならば、独占技術を広めるのに不満はなかった。
「で、ミサンガからは読み取りは?」
「(ミサンガの中には、被害者以外の髪の毛も数本混じっていた)」
「ほう、鑑定に回そう。それで他には?」
「(浮かんできたのは、山畔って文字)」
「山畔……山畔、ね」
「何か心当たりでも?」
「まあ、あると言えば。でもなぁ……」
「どういうことかな?」
「いや、確証がないんで。今は明かせないかな。捜査に余計な混乱を生みたくない。明日までに調べときますよ」
「(……! 今の! 今の名探偵っぽい! ホームズみたいな感じ!)」
「この人探偵絡みになると面倒臭せーな」
「孤路ちゃぁん……」
突如として興奮しだした孤路に小太郎は顔を引き攣らせ、なおは頭痛を感じたかのように額に手を当てて肩を落とした。
殺人鬼の所業に本気で怒り、本気で追うつもりなのだが、これでは色々と台無しである。受け取りようによっては面白がっているようにしか思えない。
目を輝かせる孤路を一時無視して、小太郎は自身の記憶を当たっていた。
記憶にヒットはあった。其処から殺人鬼が何をしたかも想定できる。それでも記憶を口にしなかったのは、相変わらずの猜疑心から。記憶に自信がないのではなく、自らの記憶すら疑いの対象であったからに他ならない。
「まあ、それはいいでしょ。それよりもずっと気になってることがある。今日、浅井邸に行くと家族へは?」
「伝えるわけないだろう。警察と同じで風紀隊には守秘義務がある。身内にだって明かさないよ」
「(ふうまくんには明かしちゃったけど、なおちゃんが勝手に。私も家族に言ってない)」
「ボク一人を悪者にするのは止めてよ! コロちゃんも納得してたじゃないか!!」
「(記憶に御座いません。秘書が勝手にやりました)」
「ちょっとぉ!?」
「まー、守秘義務云々に関しては突っ込みどころしかねーけど、それは置いとくとして………となると、まあ良い事か」
初対面からいきなり小太郎にぶちかまして逃げられ、次の日に捜査中の事件について口にしたなおから守秘義務などという言葉が飛び出してくるのはお笑い種。
ついでに言えば、今更自分がやべーことをしてしまっていると思い出してなお一人に責任を押し付けようとする孤路の様子は失笑ものである。
風紀隊の守秘義務など知ったことではない小太郎は、慌てふためく二人の様子を黙殺し、思考作業に没頭する。
二人の言葉が事実であったとして、雅臣と鶴、己自身の境遇を考慮した上で導き出された結論、至極当然のものだった。
「殺人鬼か、その協力者はほぼ間違いなく風紀隊か、学園関係者だ」
「バッ!? 君は何を……!」
「(なおちゃん)」
小太郎の口にした結論に、なおは顔を真っ赤にするほどの驚愕と憤怒を露わにした。
その結論が事実とするならば、あってはならないこと。五車の治安維持を担う風紀隊の中に、将来的に対魔忍そのものを担い、育成する機関の中に殺人鬼などあってはならないからだ。
衝動的な感情に身を任せ、即座に否定の言葉と共に小太郎を罵倒しそうになったなおであったが、孤路に手を掴まれて止められる。
仲間や友人を疑われる怒りはそのままであったが、幾分か冷静さを取り戻したなおは、一度深く呼吸をすると、再び小太郎に向き直った。
「根拠を、聞かせて貰えるかな?」
「何、初歩的なことですよ」
「(ほ、ホームズの名言! ふうまくんは五車のホームズだった?!)」
「コロちゃん、落ち着いて。ふうまくんも狙ってやってるよね? 真面目にやってくれないかな???」
「別に真面目にやろうがどうでもいいでしょ。結果も結論も変わらないんだから」
時と場合を選ばずふざけている小太郎と喰い付き始めた孤路を、今度はなおが真顔で諫める番だった。
二人とて赴くがままにやっているわけではない。冷静さを失い掛けたなおを更に冷静にさせるべく、狙ってやっているのだった。
やり方だけ見れば不謹慎極まりないのだが、狙いは功を奏したらしくなおは冷ややかでさえある視線を送っている。
「さっきの泥遁使い、タイミングが良過ぎるでしょ。ミサンガは何日か前に置いておくにしても、待ち構えておくならこっちの動きを逐一監視しておかなきゃならねぇ」
「確かに、ね。でもそれだけじゃ根拠が薄くないかい? 確かに風紀隊ならボク達の行動を把握している。報告は逐一してるからね。学園関係者なら監視していても周囲に不審に思われないし、ボク達の話を聞いていても不思議じゃない。だけど、それ以外の人達が出来ないわけじゃない」
「でしょうね。ニート紛いの連中は五車にだって居るし、対魔忍なら誰だって五車学園に出入りできる。だが、常に監視できるのは二つだけだ」
「常、に…………そうか! 五車の外での任務における拒否権! 風紀隊なら治安維持を理由に、学園関係者なら授業や成績を理由に! それぞれ任務の割り振りを変えて貰える」
「基本、それ以外には余程特殊な事情が絡まなければ拒否権はない。殺人鬼は慎重だ。自分を探ろうとする輩を見逃したくはないだろうし、特殊な事情で注目も集めたくはない。詰まらない嘘はすぐ襤褸が出る。自然、五車に居られる時間が長くなって、不自然にならない立場に収ろうとする。その上、必要と在れば証拠隠滅に即応できる立場。理想的かつ其処しかない」
「確証はない。状況証拠ばかり、だけど、これは……!」
「(ふうまくんの言う事は筋が通っている。通ってしまっている……)」
語られる推察を否定するなおと、淀みなく反証を提示する小太郎。
ただ、単純に相性の悪さから意見をぶつけ合っているわけではない。なおにせよ、小太郎にせよ、思考作業の一環であり、其処に諍いは存在しない。
あくまでも意見を交わす、小太郎の推察の穴がないのかを確かめ、より推察を補強するため。あくまでも共同作業だ。
其処から導き出されたのは、目も背けたくなる筋の通った理屈。
「舐めやがって……!」
「(でも、どうする? 風紀隊や学園関係者で、監視しているとするなら常に私達の先を行ける。証拠を先に消されたら捕まえようがない)」
「これがあるからいいでしょ。殺人鬼はオレ達を挑発している。なら、それを逆に利用して誘き出す。そうでなかったとしても山畔を調べて誘いに乗るのも有りだ」
「ああ。ああ、ふうまくんの言う通りだ。下衆な殺人鬼は記念品を残す“習性”があるからね。捕まえた後でも、殺した後でも、自宅か拠点を調べればわんさか証拠は出てくるさ」
なおは珍しく悪罵を吐き、凄絶ですらある笑みを浮かべていた。
風紀隊の職務、その意義に誰よりも誇りを持つ彼だからこそ、万が一にも風紀隊内部に殺人鬼が潜んでいるかもしれない事実は許容を越えている。
自己が嘲笑うならばまだいい。自分を間抜けと認めるのは癪だが、上を行かれた以上は仕方がない。何よりも許せないのは、被害者の苦痛、残された者の悲哀を考えず、日常を謳歌している殺人鬼の所業だ。
まだその時ではないのは理解している。だが、時が来れば必ず、死を以て償わせることを誓っていた。
(今日の所はこの辺りだな。日が暮れれば殺人鬼の時間だ、無理をする必要はない。さて、罠を張ったと信じ込んでる阿呆をどう誘き出して罠へかけるか。一番簡単なのは、これだろうな)
なおが浮かべる凄絶な笑みよりも。
殺人鬼が浮かべているであろう他者を見下し、嘲弄する邪な笑みよりも。
小太郎は表面上、無表情を装いながらも胎の底では圧倒的に邪悪で悍ましい笑みを浮かべていた。
その視線が注がれていたのは、他ならぬ死々村 孤路でだった。