続きは数日以内にできると思います。
静かな部屋の中に白いチョークが黒板の上を走る軽快な音が響いている。
ここは朝会中の二年三組の教室。クラス全員が見つめる先で担任教師の手により『三好夏凜』と名前の書かれた黒板の前で静々と佇むのは、昨日突如あの戦場に現れて衝撃の発言をしたあの少女だった。
「こちらは、本日から皆さんと一緒に勉強することになった三好夏凜さんです。三好さんは、ご両親のお仕事の都合でこちらに引っ越してきたのよね。」
「はい。」
皆の注目が集まる中、担任教師の言葉に淡々と答えるその姿はその名の通り凛としていて、只者ではなさそうな彼女の雰囲気はこういったイベント事には目のないはずの中学生達を静まり返らせていた。続く担任の言葉によれば、編入試験もほぼ満点でパスしているらしい。雰囲気だけではなく本当に只者ではないようだ。
「では三好さん。三好さんから皆さんに挨拶を。」
「三好夏凜です。よろしくお願いします。」
素っ気ないとも言えるシンプルな挨拶が終わり、ようやく教室内が騒がしくなり始めた。
クラス皆が好奇心に満ちた視線を向ける中、呆気に取られている表情が三つある。その持ち主はいうまでもなく勇者部所属の三人だ。
(オイオイ・・・。)
(ほぇー・・・。)
(なるほど・・・。)
紘汰は顔を引きつらせ、友奈は単純に驚いて、東郷はどこか得心がいったというように。
兎にも角にも彼らの日常は、また騒がしくなりそうだった。
「転校生の振りなんてメンドクサイ。でもまぁ、私が来たからにはもう安心ね!完全勝利間違い無しよ!」
放課後の部室。
先ほどまでの教室での姿からは打って変わって、昨日のような自信満々といった態度に戻った夏凜は事情説明を含めた改めての顔合わせの為に集まった勇者部の面々の前でそう宣言した。
そんな夏凜の発言に、面白そうに微笑む風とそれどころではない紘汰はさておいて他の面々は未だに困惑の色を隠しきれていない。それぞれ顔を見合わせる中、代表して東郷が口を開いた。
「なぜ今このタイミングで?最初はともかく昨日はもう三回目の戦闘だったんですけど・・・。」
「私だってもっと早く出撃したかったわよ。でも大赦はお役目の完遂を確実にするために二重三重の備えをしているの。戦力を即時投入するよりも更に質を高めることで最強の勇者を完成させたってワケ。まぁそれ以外にも勝手に色々やってるヤツもいるみたいだけど・・・ところでアレは何なの?」
そういって夏凜が水を向けたのは、女子部員達が横並びに座っているさらに後ろ。先ほどから時々苦悶のうめき声が聞こえてきているそこにいるのは、フローリングの床に直接正座させられて『反省中』『大和魂』『七生報国』等と書かれたプラカードを首から下げた紘汰だった。
その“勝手に色々やった結果”である人物の謎の状況に流石の夏凜も困惑を隠しきれない。いや、夏凜自身としてもこの男に言いたいことは山ほどあるわけだがこれは一体・・・
「気にしないでください。」
「いや、でも・・・。」
「気にしないで、続けて。」
まさに取り付く島もないといった東郷の言葉に押し黙らされてしまう夏凜。・・・ちょっと目がコワイだなんて思っていない。見れば他の部員達の表情も若干引きつっている。
「と、とにかく!アンタ達先遣隊の戦闘データをもとに完璧に調整された勇者。それが私。私の勇者システムは対バーテックス用に最新のアップデートが施されているわ。その上・・・」
そこまで言うと夏凜はおもむろに傍に置かれていたモップを手に取った。
そしてそれをそのまま演舞を行うように振り回す。
「アンタらトーシロとは違って、数年間にわたる正式な戦闘訓練を受けているのよ!」
夏凜の手によって制御されたモップは、流れるような動きで空中を舞い踊る。
そこには確かに素人とは一線を画す”技”が込められていた。思わずといった様子で部員たちの中から拍手が巻き起こる。
「なるほど・・・躾甲斐のある子が出てきたわね。」
「なんですって!?」
「け、喧嘩はだめだよぉ!」
そんな中、腕を組んで頷いていた風が片眼をあけながら挑発的な言葉を漏らした。それに反射的に突っかかる夏凜とそれを慌てて宥める樹。後輩達は基本的に素直な子ばかりで大変結構ではあるのだが、たまにはこういう子を相手にするのも張り合いがあっていい。
不敵な笑みを浮かべる風と受ける夏凜との間で視線が交錯し一瞬火花が散るが、樹の必死な声に先に矛を収めたのは夏凜だった。
「フン、まぁいいわ。とにかく大船に乗ったつもりでいなさい。ここからは私がアンタたちを勝利へ導いてあげる。」
話はこれでおしまい。
もうこれ以上話すことはないといった様に夏凜が沈黙した。
勇者部のメンバーたちも各々が今聞いた話を自分の中で噛み砕き、整理しているため部室の中は珍しく静寂な空気が流れている。
その静寂を破って最初に動き出したのは友奈だった。
友奈は椅子から立ち上がり、夏凜の元へと歩き出す。嬉しそうにニコニコと近づいてくる彼女に夏凜は訝し気な視線を向けた。
「・・・何よ。」
「これからよろしくね。夏凜ちゃん。勇者部へようこそ!」
「い、いきなり下の名前!?馴れ馴れしい奴ね・・・別にいいけど・・・。というか何よ勇者部って。部員になるなんて一っ言も言ってないわよ。」
距離感の近さに戸惑いながら、違うの?と首を傾げる友奈の言葉を否定する。
友奈を中心に部員達の中では半ば以上確定事項だったが、夏凜には毛頭そんなつもりはなかった。
「アンタねぇ。私はアンタ達を監視するために来ただけよ。」
「でも監視ってことはずっと一緒にいるってことでしょ?なら入部した方が話が早いんじゃない?」
「うっ・・・。まぁいいわよそれならそういう事で。その方が監視もしやすいのは確かだしね。」
この期に及んでもまだ頑なな態度を取る夏凜に勇者部女子部員たちは苦笑気味だ。彼女たちはこの短い時間でなんとなく夏凜がどういう性格をしているのか徐々につかみかけてきていた。しかし、あんまりと言えばあんまりな言い草に先ほどから黙っていた紘汰がとうとうしびれを切らしてしまった。・・・足のしびれは切れてはいないが。
「あのなぁ。監視監視ってそんな言い方しなくていいだろ。そんなのなくたって俺たちはこれまでみんなで一緒に頑張ってやってきたんだから。」
こうなってくると売り言葉に買い言葉だ。夏凜だって内心少し言いすぎている自覚はあるが、素直になれない性格が邪魔してついつい熱くなってしまう。結果として口をついて出てきたのは謝罪ではなくさらにキツイ言葉だった。
「フン、どーだか。だいたいあんたみたいな勇者ですらない部外者と偶然選ばれただけのトーシロが大きな顔するんじゃないわよ。」
そのままにらみ合う二人に、場の空気が少しずつ悪くなっていく。
人一倍そういう雰囲気に敏感な樹は既に少し涙目で、紘汰と夏凜との間で視線が行き来している。
見かねた風がそろそろ仲裁に入ろうかと思った時、険悪な空気をぶち壊す救いの手は意外なところから差し伸べられた。
「大赦のお役目ってのはねぇ。半端な覚悟じゃ―ってあああああああああああああああああああああああ!!!」
突如悲鳴を上げた夏凜。
その視線の先には―――牛の様な精霊に頭を齧られている大事な相棒の姿が!
「あああああああああアンタ一体何してんのよ!離しなさいよこの腐れチクショー!!!」
絶賛大ピンチの相棒のもとに大慌てで駆け寄った夏凜がその体を掴んで振り回す。
先ほどまでの姿は見る影もなく、もはや完全に取り乱してしまっている。
要救助者である義輝が目を回してしまうほど何度もシェイクした結果、とうとう耐え切れなくなった牛鬼の顎が外れ、遠心力に従ってポーンと飛ばされた。
放物線を描いて飛ぶ牛鬼の行方を皆の視線が追う。
そんな状況にも関わらず割と余裕な表情で勢いのまま流れに身を任せていた牛鬼だったが、着地地点にあるものを視界に収めた瞬間目をギラリと輝かせ口を大きく開いた。
そして―――
「イダダダダダダダダダダダダダ!!!やめろ牛鬼痛いって!!!あああああ立てねぇ足がああああ!!!友奈助けてくれえええええ!!!」
「あぁ!お兄ちゃんが!」
ガブリと噛みついたのは正座の刑を受けている紘汰の頭。
牛鬼の強靭な顎の力と猛烈な足のしびれが同時に紘汰に襲い掛かった!
現場はまさに阿鼻叫喚。慌てて友奈が救出作戦を実行する。
「ごめんね紘汰くん!・・・ほ~ら牛鬼~こっちには大好きなビーフジャーキーがあるよ~こっちの方がおいしいよ~おいでおいで~。」
「ちょっとアンタの精霊どうなってんのよ!」
『外道め!』
「外道じゃないよ牛鬼だよ。ちょっと食いしん坊さんなんだよね・・・よし、いい子いい子。」
大好物のビーフジャーキーにつられて最優先目標を変更した牛鬼がようやく紘汰を開放した。今は友奈に撫でられながら彼女から与えられる大好物に舌鼓を打っている。
一方、牛鬼から解放された紘汰はついでに東郷にもお許しを得た様で、正座を崩してぐったりと横たわっていた。そんな紘汰を甲斐甲斐しく世話しているのは犬吠埼家の最大の良心である末っ子の樹だ。なお、姉の方はそんな弟の姿を見て爆笑していたりする。
「牛鬼に齧られるから、私も皆も精霊を外に出せないの。」
「はぁ!?自分の精霊の手綱ぐらいちゃんと握ってなさいよ!」
「そうしたいのは山々なんだけど・・・この子しまっても勝手に出てきちゃうし・・・。」
「アンタのシステム壊れてんじゃないの!?」
一連の騒動で、先ほどまでの微妙な空気は完全に雲散霧消していた。色んなところに被害は出たが結果オーライということにしておこう。
深呼吸を数回、何とか精神を落ち着けた夏凜がみんなの前で改めて宣言する。
「ともかく!アンタ達はこれから私の監視の元、バーテックス討伐に励むのよ!いいわね!?」
「部長がいるのに?」
「私はね、部長よりも偉いのよ。」
「ややこしいなぁ・・・。」
「ややこしくないわよ!!」
あくまでマイペースな友奈の態度に先ほどから夏凜は翻弄されっぱなしだ。
このまま二人だけでやり取りしていたら永遠に決着がつかないなと判断した部長が、遂に重い腰を上げて助け舟をだした。
「事情は分かったけど、学校にいる限りは上級生の言うことを聞くものよ。事情を隠すのも任務のうち、でしょ?」
「フン。そうね。どうせ残りのバーテックスを倒したらお役御免なんだから、その間ぐらいは付き合ってあげるわよ。」
「全く、ホント強情な子ねぇ。・・・じゃあ早速だけどコレ。」
そういって風が差し出したのはこの部活の行動指針である勇者部五箇条が書かれたメモ。
いきなりそれを渡された夏凜はこの年長者の意図が読めず首を傾げた。
「勇者部五箇条って・・・ナニコレ。アンタ達らしい随分ふわっとした目標ね。で、これがどうしたワケ?」
「勇者部の新入部員にはね。これを屋上で大声で叫ぶという伝統があるのよ。」
「はぁ!?なんで私がそんなこと!!」
悪い顔をした部長の要求に、当然のように反発する夏凜。
もちろん大嘘である。そもそもたった一年前に風が設立した部活に伝統もクソもないのだから。当然そんな横暴は許すまいと部員達から総突っ込みが入った。
「部長。それは部長個人への罰ゲームだったはずですよ。」
「お姉ちゃん・・・アレ本気だったんだ・・・。」
「ははは・・・流石にそれは無茶ですよ風先輩。」
「大人げないぞ姉ちゃん。」
「私だけあんな思いをするのは嫌ぁー!!もっとたくさん巻き込んでやるんだからー!」
遂に駄々をこね始めた部長を総出で宥めにかかる部員達。
夏凜は未だに状況が呑み込めずに目を白黒させていた。
そんな夏凜の元へ他の部員達に風を任せた友奈が笑顔で近づいた。
「改めてよろしく夏凜ちゃん。一緒に頑張ろうね。」
友奈から感じるまっすぐな好意に夏凜は思わず言葉を詰まらせた。
慣れないその感覚はなんだかとてもくすぐったく、でも悪い気分ではない。
「頑張るのは当然でしょ!せいぜい、私の足を引っ張らない事ね!」
一瞬逡巡したのち、結局夏凜の口をついて出てきたのは照れてしまった自分をごまかすようないつものように棘のある言葉だった。
15話ちょとと書いてまだ原作3話の入り口とか・・・完結には一体何話書けば・・・(震え
次回は場所を移し同日のうどん屋スタート。
久々にヤツの登場です。
この人出てくるとめっちゃしゃべる・・・長くなったのもそれが原因です。
15話が分割したのは・・・はっ!全部私のせいだ!ははは!湊くん!私のせいだ!