咲き誇る花々、掴み取る果実   作:MUL

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第38話

“姉ちゃんを頼む”

 

勇者服に身を包み、海岸沿いを全力で駆ける友奈の元へ届いた一通のメッセージ。

その短い一文に込められた紘汰の想いを、友奈はしっかりと受け取っていた。

 

誰よりも仲間と家族を大事にする男の子が、その大事な家族のことを他の誰かに任せると言っている。

きっと、それと同じぐらい大事な『何か』の為に、今彼は頑張っているのだ。

それがどんなことなのかは、今別の場所にいる友奈にはわからない。

でも、離れたところで頑張る友達の存在が、そして自分に向けてくれた信頼が、ともすれば萎えてしまいそうな友奈の心を奮い立たせてくれていた。

向こうのことも気になるのは確かだが、そちらには友奈が同じぐらい信頼を寄せる紘汰が向かってくれている。

ならば友奈が今するべきことは、彼の向けてくれた信頼に応えることだ。

それに、そうじゃなかったとしてもいかなくちゃいけない理由が友奈にはあった。

 

遠くから、激しい剣戟の音が聞こえてくる。

強くぶつかり合う金属同士が発するその音はまるで、それを発生させている当人の悲痛な叫びのようだった。

その発生源を目指して走り続けていた友奈の視界に、夕日を背景に向き合う二つの影が映る。

手に持っていたスマホを格納した友奈は拳を強く握りなおすと、二つの影の元へと向かうため、地面を強く蹴りつけた。

悲しいぶつかり合いを、止めるために。

 

 

 

 

「大赦は全部知っていた!満開の代償も!私たちがどうなるのかも!知ってて全部秘密にして…私たちを生贄にした!!」

 

剣を振るう。

涙と怒りと絶望を全てぶつけるように、ただ剣を振るい続けた。

今の風の心にはそれ以外に何もなく、体はこれから行う復讐を邪魔しようとする目の前の相手を排除するためにだけ動いていた。

例えその剣を向けている相手が大切な仲間の一人だとしても、溢れ出した感情は、そしてその感情に突き動かされた体はもう、風自身にも止めることはできなかった。

 

切掛けは『イオナミュージックの藤原』と名乗る女性からの、一本の電話だった。

内容は樹へ宛てた、ボーカリストオーディション一次審査の合格通知。

本来ならば、驚いた後皆で喜んで、そしてささやかなお祝いをしながら一人だけ秘密にされていたことに拗ねる風を紘汰と樹で必死に宥めて、それで最後は笑い合って―――そんな幸福な未来をもたらしてくれるはずだったその電話は、今このタイミングにおいては最悪の凶報に変わっていた。

電話を取り落とし、整理しきれない頭のまま樹の部屋へと入った風は、そこに放置されていた樹のパソコン、そしてその中にある『オーディション』と書かれた音楽ファイルを開く。

 

そこで風は初めて知ったのだ。

樹の夢。樹の想い。

―――そしてそれが、二度と叶う事は無いということを。

 

それを知ってしまった時、風の心をぎりぎりの所で押しとどめていた最後の堰は粉々に砕け散り、その瞬間、彼女の感情は怒涛の如く溢れ出した。

 

大上段から振り下ろされた大剣を、二刀を頭上で交差させることで受け止める。

そのあまりの重さに、受け止めた夏凜は思わず表情を歪ませた。

いや、夏凜の表情を歪ませる理由は決してそれだけではない。

目の前で涙を流す風、そしてぶつかり合う剣からは彼女の苦しみが痛いほどに伝わってくる。

しかし夏凜には、そんな風に対してどうすればいいのかわからなかった。

『大赦の勇者』としてならば、やるべきことは決まっている。

そもそも夏凜が今ここにいるのは大赦の指示があったからだ。大赦のこと、そして自分の役割を考えるのならば速やかに風を制圧するのが正解だと、夏凜の中の冷静な部分が告げている。

長い期間正式な訓練を受けてきた夏凜と違い、多少の実戦経験は積んでいたとしても風はやはり素人だ。その上風は冷静さを欠いており、怒りに任せた攻撃は一撃の威力は大きくてもはっきり言って隙だらけだった。

風を制圧する。それ自体は勿論可能だ。

しかし、ただの『三好夏凜』の感情はそれを望んではいなかった。

 

「やめなさい風!大赦を潰すなんて…そんなこと…!!」

 

「黙れ!あいつらは私たちを利用したんだ!戦い続けてボロボロになった勇者が前にもいたのに…!全部…知っていたのにぃいいいいいいいいいいい!!!」

 

「く、ぁあ!」

 

掬い上げるような横薙ぎの一撃を受け、夏凜の体が一瞬浮き上がる。防御の上から貫いてきた衝撃に夏凜は苦悶の声をあげた。

勇者としての判断を下せない夏凜の動きもまた、精彩さを欠いていた。

風の斬撃を受け止め続けてきた両腕は徐々にしびれ始めている。

無慈悲に押さえつけることもできずにただひたすらに受け止め続け、でも夏凜にはそれ以上どうすることもできない。

勇者としてではない三好夏凜はこんな時に語る言葉を持ってはいなかった。

 

「なんでこんな目に合わなきゃいけない!なんで樹が声を失わなきゃいけない!なんで夢を諦めなきゃいけない!」

 

「!?しまっ―――」

 

慟哭と共に何度も振り下ろされる斬撃に、とうとう限界を迎えた夏凜の手から刀が弾き飛ばされた。

そして無防備になったその頭上に、再び剣が振り上げられる。

 

「世界を救った代償が、これかぁあああああああああああああああああ!!!!」

 

やられる。

そう思って目を閉じた夏凜の前に―――桜色が飛び込んだ。

 

「ダメです先輩!!」

 

「っ友奈!」

 

桜色の光が、風の大剣を受け止めている。

夏凜の前に割り込んだ友奈は、ありがとうと言うように背後の夏凜を一瞥するとまたすぐに風へと視線を向けた。

友奈のまっすぐな瞳に見つめられ、風の顔に一瞬動揺が浮かぶ。

しかしそれもすぐに怒りに覆いつくされ、風は握った剣に更に力を込めた。

 

「どきなさい!」

 

「嫌です!先輩が人を傷つけるところなんて、見たくありません!」

 

「っ!こんなこと、許せるかぁああああああああ!!!」

 

剣を振るう。友奈が受ける。桜色の光が舞い散った。

精霊の防御が発動し、友奈の刻印に一つ、光がともる。

 

「わかってます!それでもっ!」

 

風の攻撃は止まらない。自分ではもう、止められなかった。

繰り返される攻撃を再び受け止めた友奈の手の甲に、宿る光がまた一つ。

 

「もし後遺症のことを知らされていたとしても、結局私たちは戦ってたはずです!世界を守るためにはそれしかなかった!そこまでしても守りたい大切なものがこの世界にはあるんです!だから誰も悪くない。大赦の人も…風先輩だって!!」

 

「っ!!」

 

今の風を突き動かす激しい感情は怒りだ。

風の大切なものを傷つけた存在に対しての強すぎる怒り。

それを壊すまで風は止まれない。

始めに大赦。そしてその次はきっと―――

 

「それでも!知らされてたら私は皆を巻き込んだりしなかった!そしたら少なくとも皆は…樹は!!どうしたらいいのよ!私が皆を巻き込んで…皆があんなことになったのに私は…私は!!!だから私がっ!!!!」

 

剣と拳とがぶつかり合う。四枚目の花弁が色づいた。

それに気づいた背後の夏凜は思わず息を詰まらせた。

勇者刻印にともるその光は、“力”の蓄積具合を示す指標だ。すべてを知ってしまった今、その光が意味するものは彼女達にとってあまりにも重い。

 

「ダメよ友―――!!」

 

「風先輩!そんなの違う…ダメです!!」

 

「何が―――違うのよ!!」

 

跳躍と共に叩きつける大上段の斬撃。それに友奈は拳を合わせた。

刀身に正面からぶつけられた右のアッパーが、大剣ごと風の体を押し戻す。

初めての反撃を受け、たたらを踏んだ風はその時ようやく気が付いた。

友奈が振りぬいた右の拳。そこに輝く、五枚の花弁に。

 

「友奈…!?そんな…わ、私は…また、私は…!!」

 

「いいんです、風先輩。」

 

「いいわけない!私のせいで、また、あんたは…っ!!」

 

大剣が、風の手から零れ落ちる。木製の床に落ちた剣が、ガラガラと大きな音を立てた。

空いた両手で頭を抱え、いやいやと言うように力なく頭を振る風へと友奈は優しい視線を向ける。

 

「いいんです。だって私は勇者で―――風先輩の仲間だから。私たちのために、そんなにも怒ってくれる風先輩だから、私はこうしたいんです。例え何を失ったとしても、風先輩や皆がいる世界を守るためだったら、私はいつだって自分の意志で戦います。」

 

「友…奈…。」

 

動きを止めた風の体を、小さな腕が後ろから抱きしめた。

振り向かなくてもわかる、慣れ親しんだその感触は風の大切な妹のもの。

言葉を発せない樹は、せめて心は伝わるようにとその両腕に思いを込める。

いつも一人で抱え込んでしまう大好きな姉の苦しみを、少しでも癒してあげられるように。

そしてその想いは。姉を一心に想う妹の気持ちは、妹を想う姉の心に届かないはずはなかった。

 

「い…つき…。う…うぅ…うぁ、あああ…。ごめんね樹…。ごめんね皆…っ。私が…勇者部なんて作らなければ…っ。」

 

後悔と自責の念に押しつぶされ、泣き崩れる風の目の前に、一枚の紙が差し出された。

それは、いつか皆で書いた樹への寄せ書き。

勇者部の五人が樹の為に書いてくれた、樹の大事な宝物。

誰かを想う皆の心が詰まったその宝物の、欠けた最後のピースを埋めるように、樹が自分の素直な気持ちを書き記す。

 

“勇者部の皆に出会わなかったら、きっと歌いたいって夢も持てなかった。勇者部に入って本当に良かったよ。 樹”

 

引っ込み思案で、いつも風と紘汰の背中に隠れているだけだった樹は、勇者部に入ったことで変わった。自分の家族以外に大切な人たちができて…そんな大切な人たちが背中を押してくれたから、樹は今までとは違う自分に変身できた。

そして生まれた“大切”の輪は、今も大きく広がり続け、狭かった樹の世界を広げ続けてくれている。

風が作った風の勇者部は、もう風だけのものではない。

樹がいて、紘汰がいて、友奈がいて、東郷がいて、そして夏凜もいて。

風の勇者部はもう既に、皆の勇者部に―――皆の大切な居場所に変わっているのだ。

 

樹の想いを感じ、さっきまでとは別の涙を流す風の肩に手が置かれた。

向けた視線の先には、微笑みを浮かべる友奈と照れ臭そうにそっぽを向いた夏凜の姿がある。

 

「風先輩、私も同じ気持ちです。だから、勇者部を作らなければなんて、そんな悲しいこと言わないでください。」

 

「わ、私もっ!…その…あぁもう!…そうよ。これでも結構気に入ってんのよこの場所が。」

 

「友奈…夏凜…皆…あぁ…ああああ…うあああああああああ」

 

暖かい皆の想いが、傷ついた風の心に沁み込んでくる。

風は両親がいなくなって以来初めて、幼い子供のように泣きじゃくった。

そんな姉の頭を、樹は大事に抱え込むように抱きしめる。今よりもっと幼いころ、姉が自分にそうしてくれたように。

樹に抱きしめられながら続く風の泣き声は、波の音と混ざり合いながらいつまでも響き続けていた。

 

 

 

 

しばらくして風が落ち着いてきたころ、友奈のスマホに一通の連絡が届いた。

差出人は友奈の予想通り、別の場所にいる紘汰からだった。どうやら向こうも何とか落ち着いたらしい。

詳しい状況はわからないが、紘汰は友奈の親友のことを助けにいってくれていたようだ。

感謝の言葉と共に、これからみんなでそっちへ向かうと返信した友奈は、風の方へと向き直った。

 

「紘汰くんから連絡が来ました。今、東郷さんと一緒にいるみたいです。あっちも色々あったみたいですけど…。」

 

「紘汰が…そう…。」

 

「行きましょう風先輩。私たち、もっと皆で話さなきゃいけないことがたくさんありますから。勇者部五箇条、悩んだら相談。そして、なせば大抵なんとかなる、です。皆一緒ならきっとなんとかなるって、そう思うんです私。」

 

そうだよね、紘汰くん。

視線の先に見えるのは、どこか彼を思い出させるオレンジ色の空。紘汰達がいる方向に向かって、友奈は心の中でそう呟いた。

 

 

 

 

そして時間は友奈達四人が動き出す少し前へと遡る。

 

大きな炸裂音と共に樹木の破片が飛び散り、煙が立ち上った。

自身の武器である狙撃銃のスコープを覗いていた東郷はそこから目を外すと、たった今放った銃弾がもたらした結果を視認してわずかに眉を顰めた。

 

「やはり、そう簡単にはいかないわね。」

 

東郷が今立っているのは四国結界の最外縁。神樹様の結界と外界との境界線。

そこに広がる外壁―――四国を守るその外壁に向けて、東郷は銃を向けていた。

東郷が見つめるその外壁は、東郷の銃弾を受けて大きく抉れている。

しかしそれは、東郷の求める結果にはまだ足りてない。

 

「でも、確かに効いている。それなら、数を―――」

 

「東郷!!!」

 

東郷しかいなかったその場所に、別の声が轟いた。

噴射音を響かせながら現れたのは、いつか見た奇妙な乗り物にまたがったオレンジ色の鎧―――アーマードライダーへと変身した紘汰だった。

 

「紘汰…君…。なんで…。」

 

茫然とする東郷を尻目に、ダンデライナーを乗り捨てた紘汰は彼女の目の前へと着地した。

仮面越しに、二人の視線が交錯する。

正面から見た東郷の顔。そこに浮かんだ絶望と、悲壮な覚悟に仮面の中の紘汰の表情は悲しみに歪む。

しかし、それも一瞬の事。

決意と共に表情を引き締めた紘汰は、強い視線で東郷を見つめると、視線をわずかに逸らした東郷に向けてはっきりと言い放った。

 

「―――そんなの決まってる。東郷。お前を、助けに来た。」

 




何がつらいってこの部分。
書くこと自体に加えて確認の為に見直すのがそれはもうつらくてつらくて…。
書くための気持ち作るのが非常に大変でした。

…だからPSストアでセールしてたPS4版スパイダーマンに逃げてプラチナトロフィー取るまで熱中してしまったことも仕方のないこと。うん、きっとそう。…ゴメンナサイ

さて、次回は紘汰君のターン。
原作で説得に成功しているイメージがあまりない紘汰君は東郷さん相手に一体どうするのか。…どうしよう。
と、言うことでまたしばしお待ちください。
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