こういった始まりでよくある話だけれど、人を助ける為にトラックに轢かれた訳じゃない。神様に好かれる様な事もしてないし、何よりも神様なんて信じてない。何かしらの善行を積んだ訳でもないし、逆に悪行を果たした訳でもない。
人生に満足していなかった、という項目には当てはまるかも知れないけれど、それでも妥協と諦めの上での人生としてはそこそこに満足していた。
異世界に憧れていた。この項目にもチェックが入る。妥協と諦めを基盤にして現実に生きていたのだから、妄想ぐらいしても当然だと思う。それこそ、男の夢のように、美人に囲まれてハーレムしたいだとか、エルフの嫁を貰って怠惰に生きるとか、剣と魔法の世界で勇者に成るだとか。まあ勇者なんて真っ平ゴメンだなぁ、と思うのも俺であったけれど。
一般常識をそこそこに、嗜み程度に……いや、それなりに、人に言えない程度にはサブカルチャーと呼ばれるべきモノに漬け込まれている。それは自覚している。だからこそ、こうした展開を正しく、或いは間違って理解している。納得はしていないけれど。
俺が納得してなくても時間は経過する。どうやらここでもその理屈は通用するらしい。HAHAHA、はぁ……。
転生しました。
王歴163年。俺が生まれて三年の時が過ぎた。果たしてどうして俺なんかが転生したのか、さっぱり分からないまま三年も過ぎてしまった訳である。
フローチャートの様に神様から「世界を救え」などと言われる転生は実に羨ましい。尤も、世界を救え、などと勇者のような役割を与えられるなど他の誰かに譲ってしまいたくも思うけど。
天蓋付きのベッドで目を覚ます事にも随分慣れてしまった。それなりの、というよりも恵まれた生い立ちだ。孤児という訳でもなく、奴隷でもなく、むしろ真逆の貴族だ。
ゲイルディア侯爵。その家系に現在の俺の名前が連なっている。ここ三年間で――いまいち動きの無かった幼少期を省いて二年程――俺は現在いる世界の事を学んだ。それはもう頑張った。
異国からやってきた勇者を王として作られたのが現在のシルベスタ王国である。寝物語として語られるソレを聞いて俺は顔を引き攣らせたモノである。
今となっては戦争らしい戦争は起きていないそうだが、そもそもシルベスタ王国自体がかなりの軍事国家であったらしく爵位もソレに連ねて与えられたらしい。
果たして戦記モノを寝物語として聞いた俺の気持ちをご理解頂けたと思う。
そこからは戦争が怖すぎて、とにかく調べた。結果として現在は安定している事が判明したし、どうやら諸外国とは停戦協定を結んでいるらしい事も判明した。
幸いな事に科学はそれほど進歩しておらず銃もない。ただ、それを悪く言えば医療技術があまり発展していないという事だ。
医療技術が発展しなかった理由もある。魔法だ。傷を治す、体調を整える。そんな効果の魔法があるのならば医療がそれ程発展していない事も納得出来る。
尤も、魔法技術に関してはよくわからない。なんせ歴史ばかり調べていたのだ。どういった原理で魔法という現象が行使されているかなんて知れる訳がない。
ともあれ、そんな世界なのだ。殺伐とはしていないものの、世界的に裕福ではない。前世でもある現代が世界的に裕福かと聞かれれば俺は言葉を迷うしか無いのだが。
かくして前世の知識がどの程度役に立つかは分からない。むしろ前世に役に立つような知識はあるのだろうか……無い気がする。
極々一般的な社畜だったのだ。キーボードを打つ事はあっても、銃を撃つ事は無い。銃は無いけど。
ノックの音が聞こえ、俺は欠伸をしながら声を出す。開かれた扉からメイドが入り、俺に対して軽く頭を下げる。コレにも既に慣れてしまった。
何よりメイドが俺の知っている平均水準よりも整った顔立ちをしているのが素晴らしい。実に、素晴らしい。
そんな可愛い顔のメイドは頭を上げて俺に微笑み朝の挨拶をする。
「おはようございます、ディーナお嬢様」
そして未だに慣れない敬称を付けられるのだ。
ディーナ・ゲイルディア。侯爵令嬢である俺の名前だ。
彫りの深い厳しい顔の偉丈夫がいる。服の上からでも分かる筋肉と蓄えた髭が余計にその男の威圧感を増やしている。灰銀の髪を短く刈り上げた男はまるで鷹の如く鋭い青の瞳を細めつつ頭を抱えつつも口角を歪め笑う。
その男の前には美女がいた。まるで氷をそのまま人にしたような印象の美女。金色の髪を纏め上げ、冷たさを覚えるような美貌に冷徹にも思える笑みを浮かべている。
額縁に収めることが出来たならば『悪』と付けられるであろう二人を見て、俺は何処か諦めたように笑う。
「おはようございます。お父様、お母様」
「おぉお。ディーナ、おはよう」
「おはよう、ディーナ。今日も可愛いわね」
「ありがとうございます」
悪役が似合いそうなこの男女こそ今世の俺の両親である。RPGで言うのならばラスボスの重鎮であろうこの悪の夫婦こそ……我が両親なのだ。
そんな二人と遺伝子レベルで直結な俺がゆるふわ系のタレ目少女である訳がない。隔世遺伝? お祖父様とお祖母様は裏ボスでした。
生まれてお母様を見た時は「これが美女か」と嬉しさのあまり泣いたけれど、お父様を見た瞬間に号泣した俺は悪くない。
「おはよーございます、おとーさま、おかーさま」
「アレクも起きたか」
「あらあら、今日は早起きね」
舌足らずな声を出して挨拶をする灰銀の髪をした少年。俺の実弟、アレクである。
幼さの残る実に愛らしいショタだ。目に入れても痛くない、というのはきっとこういう事を言うのだろう。間違いない。
「おはよう、アレク」
「おはよーございます、おねーさま」
「ちゃんと挨拶が出来て偉いな」
あと可愛いなぁ。と心の中で付け足してアレクの頭を撫でる。何だこの髪……サラサラじゃねぇか。
こんな可愛いショタでも将来はお父様のように悪役顔になってしまうのだろうか……。いや、お母様の血の方が濃い筈だ。
「ディーナはアレクの事が大好きね」
「娘に嫉妬か、イザベラ」
「クラウスの子供の頃もアレク程可愛かったのに」
「……なんだ、今の私は嫌いか?」
「あら、なんなら今から確認します?」
朝食の席で何言ってるんですかね。
ともかくとして、この悪役が似合いすぎる二人は良き夫婦であるし、良き両親である。それが領民にとって良き領主であるかは判断が出来ないし、俺の人物鑑定眼なんて普通なのだから当てになりもしない。
貴族の娘、というのは存外にやることが多い。俺が知的好奇心に負けてアレやコレやと調べているのも主な原因なのだろうけれど。
果たして、転生してしまった俺の役割とは何なのだろうか。特別でもない俺が何かしらの役割を与えられている――と感じてしまうのも因果的だろう。
一度しかない人生……と言っても二度目になる人生だけれど、好き勝手に生きても問題ないかも知れない。それこそ貴族だし、美女とダンディを形にしたような両親の娘だし。鏡で見た俺は美幼女と言って過言ではないのだ。そして俺は未だに男としての嗜好を抱いている。
なるほど、百合ハーレムか。
誰も居ない所で頷いた俺の決意を知るのはそれこそ俺だけなのだ。
可愛い女の子とイチャイチャしたい、と思うのは悪い事なのだろうか。
神様、教えてください。
……あと出来れば転生主人公みたいにチャートを下さい。