悪役令嬢は百合したい   作:猫毛布

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誤字報告ありがとうございます。この場をお借りして、感謝をば。
*19/06/30 タイトルが被っていたので修正しました(白目)


19.悪役令嬢は憤りたい!

 女生徒達はそれほど鋭意的に剣術という物に打ち込んではいない。それこそ魔法という物があるからこそ、必要ではないし、学校には貴族や商人の娘達が通っているのだから、より一層必要ではないのだろう。

 商人家系の娘が何人か自己防衛の為に習うという事もあるけれど、所詮は自己防衛の域は出てはいない。

 

「シッ――」

「っと」

 

 頸を狙った突きがアッサリと流される。月明かりに映える褐色の肌、藍の瞳が俺から離れる事はない。

 剣を合わせる度に鳴り響く甲高い鉄音と地面を擦る音が鼓膜を揺らし、動く度に風が肌へと触れる。左手で握った剣で型通りの綺麗な剣を防ぐ。

 二度程防げば手が僅かに痺れ始め、俺が不格好に防いだ事を咎めてくる。

 俺の手の痺れなど既に把握しているだろうヘリオが嫌らしくも剣を落とさせるように何度も防がせれる程度の速度で攻撃を仕掛けてくる。そのくせ避けるには速すぎる振りだ。

 なぜ負けてしまったんだろう、と考え始めたのはもう数年も昔の事だ。今となっては彼に教わる事の方が多いのが実情であるし、いつから負けるようになったのだろう、と少しだけの悔しさとヘリオも成長しているのだと喜びを感じているのは……いや、オッサン的な思考だ。

 それでも悔しさはある。少なくとも、あるのだ。毎回毎回、こうして剣術の稽古に付き合わせているけれど「今日は絶対に勝つ」という意思はある。負けっぱなしではいられないのが男心という物だ。お嬢様だけれど。

 

 それでも俺の数歩先をいつの間にか歩き始めたヘリオは悠々と俺の剣を受け止めて、アッサリと俺の剣を叩き落とす。

 ガラン、と鳴いて地面に伏した剣に一瞬だけ視線が向き、次の瞬間には切っ先が俺に向けられている。

 

「相手から目を離しちゃダメだぜ、お嬢」

「――はぁ、また負けてしまいましたわ」

 

 溜め息を一つ吐き出せば体が休息を求めるように汗が吹き出てくる。剣を持っていた左手をヒラヒラと振りながら右手で地面に寝た剣を持ち上げる。

 細身の剣を一振りしてから鞘へと収めて、空を向いて深呼吸をする。

 

「さっきの突きはいい線だったぜ」

「簡単に防いだくせによく言いますわ」

「お嬢の事は手に取るようにわかるさ。何回戦ってると思ってるんだ」

「貴方がスクスク育ったから私はわかっていても防御すれば手が痺れるのですけど?」

「そりゃぁスクスク育てたお嬢が悪ィさ」

 

 爽やかに笑いやがって……。

 こっちはお前が筋力つけたせいで防御の選択肢が限られてきてるんだぞ。スクスク育ちやがって……。あの可愛かったヘリオはどこに行った! 今は偉丈夫じゃねぇか!

 ヘリオの太い腕を恨めしくみながら俺の腕を触る。そこそこ筋肉はあるけれど、まだ柔らかさを感じる。

 

「もうちょっと筋肉を付けるか」

「いやお嬢はそのままで良いと思うぞ」

 

 ボソリと呟いた言葉を即座に切り捨てやがったヘリオ。負けっぱなしはシャクなのだ。

 顔がムッとしてたのかヘリオに溜め息を吐き出されたけれど、男として筋肉はもう少し欲しいと思うのは仕方ない事であり、負け続けというのも気に食わない。

 

「魔法を使えばお嬢の方が強いだろ」

「だから剣だけでも勝ちたいんですの」

「俺が手加減したら怒るじゃねぇか」

「当たり前ですわ。手加減したヘリオに勝った所で嬉しくもありませんわ」

「それに俺とお嬢じゃ、剣に捧げてる時間も想いも違うでしょうよ」

「む……」

 

 それは、確かにそうなのだけれど。

 学校にいる時から剣術に打ち込めるヘリオと剣術の授業を別の授業へと当て嵌めている俺とは時間の格差があっても仕方ない。その補填として俺はヘリオとこうして打ち合っているわけであるし。

 けれど、しかし、それでも勝ちたいと思うのも仕方ない事だと思うんだよ。

 俺はヘリオに勝って、ヘリオに憧れを抱いてる女の子達の好意を一心に受けて「キャー! ディーナ様カッコイイー! スゴーイ!」されたいのだ! たとえ女の子皆が俺の事を怖がってても、きっとそうなるんだ!

 そんな想いはバレてない筈だけれど、ヘリオが剣に捧げてる想いはいったいなんだろうか?

 

「で、お嬢。続きは?」

「え、あぁ……そうですわね。流す感じでもう少ししましょうか」

「あいよ」

 

 改めて剣を抜いて、先程よりも緩やかに動く。お互いの動きの確認程度の物であるし、他の事を考えている余裕もある、慣れ親しんだ習慣でもある。

 

「それで、イジメに関しては調べましたの?」

「お嬢が首謀者って所までは」

「笑えない冗談ですわね。本命は?」

「一応。お嬢の責任にしようとしてるのと、お嬢に媚びを売ろうとしてる二組」

「両方共私が絡んでいるのが厄介ですわね」

 

 両方共俺の名前が出てくる癖に俺は全く以て知らないんだぜ……。どうなってんだよ、マジで。ゲイルディアの血が呪われてるって聞いても今なら納得できそうだ。

 矢面に立っているのが俺とは全く関係のないベーレントというのも中々に意味がわからないが、リゲルの一件があるのでそれは仕方ない事で割り切る。イジメに関しては俺が先導して止めるしかないのだけれど、これで消えてくれるのならば俺としては手を汚さずに不穏分子を処理できる。

 けど、まあ、そのベーレントの動きが怪しいくせにベーレント自身は全く無害なんだよなぁ。

 

「お嬢?」

「……前者の調査は続けなさい。後者に関しては私自身が働きかけますわ」

「へいへい」

 

 ベーレントの調査ついでに近くに居れば、後者は手を出してこないだろう。利が無くなる。後者の首謀者にも会わなくていいからリゲルに怪しまれる可能性も薄い。

 彼女本人は無害なのはわかっている。現状の俺の立ち位置的に彼女からは警戒されそうだが、それは我慢してもらおう。完全に裏取りが完了し、安全であるならば、俺からリゲルに橋渡しをして彼女には後宮に入ってもらおう。リゲルは彼女と恋ができるし、俺は愛でる事ができる。完璧な未来予想図では?

 何にしても、彼女が安全かどうかの調査を進めなくてはならない。いや、彼女自身はマジで無害なんだけど、どうにも裏側がきな臭い。何かの意思が働いてるような。杞憂ならばそれで良しである。

 

「あー、それで、そのお嬢。最近、アマリナの奴を構ってますかい?」

「? ええ。会う度に抱きついたりはしていますわ」

「あー、まあ、そりゃぁ、よかった」

「煮えきりませんわね」

 

 剣を下ろしたヘリオをジッと見て言葉を促す。そうすれば、どうにも困ったように額を指で掻きながら、やはり濁した言葉を吐き出される。

 今日も会ったアマリナを思い出してもいつも通りのアマリナであった。可愛い俺のアマリナだった。それは間違いない。髪を切ってもすぐわかるし、微妙な表情の変化だってわかる。確かに近頃忙しくて構ってやれる時間は少なかったけれど……。

 ははーん、アマリナもついにディーナ分が足りなくなってきたな?

 

「――言いなさい、ヘリオ」

 

 と冗談はこれまでにしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝日が昇った。空を見つめながら机を指で叩いて気を逸らす。頭の中に巡る苛立ちをどうにか抑え込んで、抑え込もうとして、天井を見上げて深呼吸を繰り返し、空を見つめ、また頭の中が苛立ちと怒りに満ちていく。

 何故、どうして、アマリナが。と繰り返し浮かび上がり、憤りを無理矢理抑えつける。感情の制御なんて物は魔法使いとして当然の事だとシャリィ先生に教わっていたし、なにより、(ワタクシ)はディーナ・ゲイルディアなのだ。感情的になるなどあってはならない。

 大きく、深呼吸をする。これも何度も繰り返した行為だ。

 頭を抱えた所で、意味はない。それは改善に向かわない。

 

 ノックが部屋の中に響く。今年に入ってすでに二ヶ月も続けられた日課だ。

 

「失礼致しま――、お嬢様、起きてらしたのですね」

「ええ、おはよう。アマリナ」

「おはようございます、お嬢様」

 

 ああ、何故気付かなかったのだろうか。いつからだろうか。気付かなかった俺の不足に怒りを覚える。俺に隠していたアマリナに悲しみを覚える。何故言ってくれなかったのだ、とは口が裂けても言えない。俺が気付けなかった事が全てだ。

 ニッコリと笑っているアマリナを見て、俺は目を細める。あぁ、こんなにわかり易かったというのに、どうして気付けなかったのか。嫌気が差す。

 

「アマリナ」

「はい」

「――脱ぎなさい」

 

 頬杖を突いて、アマリナの全身を見ながら俺は命令を下す。学校の制服に身を包んだアマリナはビクリと肩を揺らして、目を伏せる。

 

「気付いて、らしたのですね」

「私は脱げ、と言っているのよ! アマリナ!」

 

 苛立たしげにアマリナに怒鳴ってしまい、頭を抱えて大きく息を吸い込んで気持ちを落ち着ける。

 どこか諦めたように、アマリナは制服のボタンを外して上着を脱いでいく。褐色の肌も柔らかそうな乳房も空気に晒されたが、俺は眉を寄せる。

 褐色の肌の至る所が青黒く染まり、何かに強く殴打されていた事がわかる。腕にも、腹にも、痣ができ、息を吸い込んでも痛みがあるかもしれない。

 震える手をアマリナへと伸ばして、宙で強く拳を握って机の上に置く。気付けなかった俺に、触れる資格などある訳がない。

 

「……誰が、したの?」

「言えません」

「私のアマリナに! 誰がこんな事をしたかと聞いているのよ!」

 

 感情が抑えきれずに立ち上がり怒鳴り散らしてもアマリナはどこか嬉しそうに、小さく口を開き、一度閉じて、息を吐き出すように言葉を漏らす。

 

「――言えません」

「――ッ、――、……」

 

 何も言わないアマリナに感情が爆発しそうになり、荒い呼吸を繰り返し、熱くなった頭を無理矢理冷ます為に天井を向いて、大きく息を吸い込み、吐き出す。

 

「服を、着なさい。声を荒立てて、ごめんなさい」

「問題ありません、ディーナ様」

 

 問題ない!? 何がだ! 問題しかない!

 沸々と煮だった怒りを奥へと置いて、頭だけを冷静に働かせる。

 服を着ていくアマリナを眺めながら、誰がしたかを考える。アマリナが言えない相手なのだ。そんな人物限られているし、アマリナが抵抗せずに暴力を受け入れる人物も、また限られている。

 そんな事、アマリナがここに来る前からわかっていた事だ。それでも、それでも、と頭の中で否定を繰り返した。

 

「――俺に、不利益だから言えないんだな?」

 

 アマリナは答えない。それが正しいからだろう。

 

「俺と、アイツの関係が拗れるから、言わないんだな?」

 

 アマリナは答えない。きっとそれが正しいのだから。

 だからこそ、余計に頭に血が昇る。何を、どう冷静に考えてもアマリナが正しい行動をしている事は理解している。アマリナは俺の為を考え、自身を犠牲にしているだけだ。だからこそ、アマリナは正しい。

 それでも、それでもだ。

 

「――アレクだな?」

 

 アマリナは答えられない。ただ悲しそうに微笑むだけだ。

 俺とアレクの仲が拗れるのはゲイルディアにとって不利益だろう。俺にとっても肉親であり、唯一の弟である。奴隷の一人を犠牲にして仲を取り持てるならば、それは実に有益だ。ああ、有益だ。

 

 そんな事知ったことか!

 

 俺は椅子から立ち上がって足早に部屋の扉を出る。その俺の手を掴んで止めようとするアマリナの制止など気に留めもしない。

 

「ッ、いけませんディーナ様」

「黙りなさいアマリナ」

「アレク様が悪いのでは――」

「黙れと言ったのよ!」

 

 利益など知ったことか。アレクと俺の将来の関係性など知ったことか!

 俺のアマリナに手を出したのだ。それだけで許される訳がない。許す意味がわからない。

 

 俺を止めようとするアマリナの声も腕を引く力も、次第に弱くなり、俺の後ろを付いて来ている事だけがわかる。ゴウゴウと耳鳴りのように、風が俺の髪を揺らした。

 

 

 いつもの登校風景であるが、俺の目の前は生徒たちが避けるように道を開けてくれていく。ああ、これはいい。アレクの元に行くのが早くなる。

 少し歩けばアレクの姿を見つけ、不意打ちで殺してやろうかとも考えたけれど、ソレをした所で意味はない。

 アレクがコチラを向いたのがわかる。俺の後ろにいるアマリナを見て、バツが悪そうな顔をしているのもわかる。

 

「ごきげんよう、アレク」

「……んだよ」

「何か弁明はあるかしら?」

 

 俺の頭は思った以上に冷静である。ちゃんと表情を作れているし、お嬢様の様に言葉を吐き出す事も出来ている。手元に剣があったならば突きつけていただろうけれど、生憎剣はヘリオが昨晩俺から取り上げるように預かっている。

 

「弁明? 俺が何をしたって言うんだ?」

「アマリナへの暴行。それ以外にも思いたる事があるのかしら?」

「――姉貴、ソイツは所詮奴隷だぜ?」

「ええ、そうね。私の奴隷(モノ)ですわ。だから、貴方の口から謝罪でも聞ければ、水に流しましょう」

「ハッ、なんで俺が謝らなきゃ――」

「アレク、もう一度言いますわ。謝罪なさい。誠心誠意、心を込めて。その頭を地面に付けて、アマリナへ謝罪なさい」

「……っせぇな」

 

 は? お前これでも譲歩してるんだぞ?

 さっさと謝って。そうすれば心の広い俺は許そう。この怒りをどうにか鎮めてアマリナをお前から離して俺付きにして慰める為に抱きしめてやるんだ……。ごめんねアマリナ……たっぷり慰めてやるからなぁ……。

 

「アレク」

「うっせぇって言ってんだよ! 俺よりも弱ぇくせに、いつも上から見下しやがって!」

「……私が弱かろうが、強かろうが、どうでもいいわ。ただ、その畜生並の頭を下げろと、そう言っているの。理解できているかしら?」

「アンタが俺よりも強けりゃいくらでも下げてやるよ! 決闘しろ!」

 

 はぁぁぁぁ? お前決闘まで持ち出すとか正気か?

 やいのやいのと盛り上がる場外を尻目に今更頭が痛くなってきた。感情に任せた結果がこれである。でも謝らせたいし仕方ないね。絶許。




最後の方がクソなのでたぶん加筆修正します。
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