悪役令嬢は百合したい   作:猫毛布

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戦闘を上手く書きたい(書けない

※マジで修正ごめんなさい。ありがとうございます。
一次創作でキャラの名前も覚えられてない作者が居るらしいッスよ(謝罪


23.悪役令嬢は護りたい!

 学校にも実習という物がある。自分達がどれほどの能力を持ち合わせているのかを正確に理解する為に、そして生徒達がどれほど出来るかを証明する為に。それは内々の評価だけではなくて、国の為に功績をあげなくてはいけない。

 魔法であれ、剣術であれ、生き残る能力であれ、それを客観的に実績として残さなくてはいけない。

 

 という建前がある。

 

 実際の所、それは既に形骸化しており、生徒達をある程度分割して、指定された幾つかの地域へと派遣し、国に依頼された問題を解決する事になる。学校の歴史書を紐解けば、初代の王様がその辺りをかなりテキトーに作っていたらしく、実習内容があやふやな物となっていた所を整えた結果のようだ。

 ともあれ、俺たち生徒側は国から学校を通して依頼された内容を選んで、その地へと赴かなければならない。

 

「なるほど。こっちのレスデアの依頼にしよう」

「……一応、理由を聞いてもよろしくて?」

「面白そうだからだが?」

 

 ぶっ飛ばすぞクソ野郎。

 思わず溜め息を吐き出してしまう。お前さー、こっちは護衛対象のリゲル抱えてるんだぞ? もっとすぐ帰れて安全な所にしような……。なんでわざわざ遠方依頼を指名するんだよ。ぶっ飛ばすぞ。

 俺の溜め息に乾いた笑いを漏らすベーレントと相変わらずの光景ではあるけれど頭を抱えるリゲル。

 レーゲンはレーゲンでさも他に理由が? みたいな顔で言いやがる。

 

「討伐目標なんて危険すぎますわ」

「大丈夫だ。リゲルも俺もそこらの魔物に負けないぞ?」

「危険は危険ですわ。ルンブルクで十分ですわ」

「ゲイルディア嬢は怖いのか?」

「危機管理が出来ている、と言ってくださるかしら?」

 

 近場のルンブルクなら事前に俺が出向けて調査もできる。レスデアは遠すぎる。馬で向かっても道中で一泊しなくてはならない。向こうで依頼を達成して、更に一泊して、帰りにも一泊である。俺だけならいいし、レーゲンだけなら勝手に行けとも言えるけれど組んだグループは俺達二人にベーレントとリゲルも含まれているのだ。ヘリオは騎士号を取りに行かせているので実習自体は休みである。今頃王都に向かっているだろう。後は力を見せつけるだけである。

 リゲルがいるお陰で依頼は最初に選べるんだからさっさと帰れる所にしようぜ……。明らかに現代一般市民であるベーレントと王族であるリゲルに野宿とか耐えれるのか? 無理でしょ。

 レーゲン、お前もわかってんだろ……。

 

「なあリゲル。よく考えてくれ」

「ん?」

「お前もここを卒業したらこうやって好き勝手出歩けなくなるんだ。まだ一年あるが、今の内に自由は謳歌しとくべきだろ?」

「確かにそうだな……」

「リゲル様?」

「怒るなよ、ディーナ。お前とアサヒは俺達が守る」

 

 お前が守られる側じゃい!!

 くっそ……どうにか……。ベーレント、お前は野宿とか嫌だよな? 無理だよな?

 

「ベーレントさんはどうかしら? 少なくとも野宿する事になると思いますわよ」

「ちょっと楽しみだよ!」

 

 この頭お花畑が! 遊びじゃねぇんだぞ!

 くそ逃げられない……。レーゲンがめっちゃドヤ顔してやがる……。

 いや、もういい、頭を切り替えよう。リゲルの願いも叶えてやりたいし、護衛方向に思考を動かそう。

 

「ゲイルディア嬢、納得できる理由を思いついたぞ」

「もう諦めましたが、一応聞いておきますわ」

「男はいつだって冒険が好きなんだッ!」

 

 わかる。でも今はやめろ。

 リゲルと握手して意気投合するな。この戦闘狂が……。本心としては冒険と戦いだろコイツ……。

 

「場所はいいですけれど、ベーレントさん。貴女、馬は乗れますの?」

「え゛……」

「……やはり近場にしましょうか」

「待ってくれ、ゲイルディア嬢。リゲルの後ろに乗せればいいだろ?」

「アサヒがそれでいいのならば、そうしよう」

「え、えっと……」

 

 ベーレントがめっちゃ俺の方チラチラ見てくるんですが……。それもわかる……。リゲル関係は怖いもんな俺。大丈夫、笑顔ですよー。

 さて、どうするか。別に疑いがほぼ晴れているから問題では無いのだけれど。俺たち以外に誰も見ないから問題にもならないな。

 

「なら荷物は私達で載せましょうか」

「ベーレント嬢用って申請してもう一頭借りれば載せられるぞ」

「ならそうしましょう。準備は任せてもよろしくて?」

「剣なら任せてくれ」

「……はぁ。私が準備しますわ」

 

 それなりに知識は備えている。それこそ、リゲルの事が無ければ俺は全面的に今回の依頼は賛成なのだ。

 男はいつだって冒険が好きなのだ。ちょっとワクワクしてきた。リゲルの護衛が無ければの話だけれど。

 

 

 

 

 それでもやはり楽しみな事は楽しみであり出発の日になるまでアマリナから「ディーナ様が楽しそうで何よりです」と嫌味を言われてしまった。珍しく笑ったアマリナが可愛かったので良しとしよう。

 事前調査に向かう事が出来なかったのは役割的に問題であるけれど、個人的には喜ばしい事なのかもしれない。気楽、とは言い難いけれどそれでも俺をディーナ・ゲイルディアとしてではなく、ディーナとして扱ってくれる人選なので敬われる事も無いだろう。むしろ俺が敬う側である。

 馬に揺られながらのんびりと空を見上げながら歩く。既に決定した内容であるから急いだ所で意味などなく、食料なども余分に買い揃えたから問題も発生しないだろう。最悪道中で狩ればいい。

 この世界は自然も多いし、街道を離れれば森もあるだろう。向かうに当たって詳しい地理も頭に叩き込んだから、間違いは無い筈だ。

 

 視線を空から、緩やかに後方から追ってくる一頭に向ける。そこにはリゲルが騎乗していて、その後ろにアサヒ・ベーレントが座っている。落ちないようにしっかりとリゲルの腹部に手を回しているから落馬する事はないだろう。

 出発前に口酸っぱく落馬の危険性を説いた甲斐があった。馬も素直な子だし、リゲルも乗馬には慣れているから大丈夫だろう。たぶん。後ろに誰かを乗せるとかしたことあるんだろうか……。

 

「そんなに睨んでやるなよ」

「あら、私が誰を睨んでいますの?」

 

 リゲル達から視線を外して隣に着けたレーゲンへと向ける。睨んでない。決して睨んでなんかない。この目つきは元々なのだ。

 そんな俺の答えに肩を竦めたレーゲンであるが、チラリと二人を見てから改めて俺の方へと視線を合わせる。

 

「あの二人の仲を進めていいのか?」

「……質問の意図がわかりませんわね」

「ゲイルディア嬢は、リゲルの婚約者だろう?」

「ええ。それがあの二人の関係に何か関係あって?」

 

 別にリゲルが俺一人を愛し続ける訳でなし、側室の一人ぐらい特に問題にはならない。王族の血を繁栄させる為にも子は沢山いた方がいいだろうし。それに、俺がリゲルの子供を産む、というのも俺にはいまいち想像できないのだ。

 アサヒとリゲルの子は可愛いだろうし、ソレを愛でる自信はある。魔法式を教えるのもいいかもしれないな。

 そんな妄想(ミライ)を少しだけ見て、現実に戻ってきて苦い顔をしているレーゲンにようやく気付く。

 

「実はベーレントにあげますわ。私は名だけで十分ですわ」

 

 正室の面倒事は俺が全部処理してやろう。黒い部分も、何もかもを、リゲルとアサヒに触れさせないように全て処理してみせよう。

 俺が子を生さなければ相続問題も大丈夫だろうし。名だけの正室だろうと甘い蜜を啜りにくる馬鹿は寄ってくるだろうから、ソレを駆除して二人を安全にも出来る。加えて俺は俺で女の子のハーレムを形成しても違和感ない地位になる訳だし、シャリィ先生を採り上げて魔法式を学問として広める事も可能になるだろう。

 

「……そうか」

「ええ。少し寂しく感じますけれど。それもリゲル様の為ですわ」

 

 あの小さかったリゲルが今はもう男なのである。俺だけの一方的だった約束も、きっと彼は覚えていないだろう。それはそれで構わない。アレは俺が決めた約束なのだから。

 俺が一方的に彼を信じているだけなのだ。相変わらずちょっと危険な所もあるけれど、もっと危なっかしいアサヒが近くにいるからブレーキを踏むのも慣れてくるだろう。

 リゲルが望めば、俺という人間は彼の子を孕む事を受け入れるだろう。かと言って、それが恋愛感情かと問われれば、きっと俺は首を傾げてしまう。恋という熱を持った感情ではない。リゲルにトキメク事は無いし。

 相互的に、信じている。それだけの信頼関係は築けていると思う。たぶん。どうだろう。思いたいなぁ……。

 

「……ちなみに、ベーレント嬢以外がリゲルに近付いたら?」

「は?」

「すまん。何も聞かなかった事にしてくれ」

 

 思わず威圧してしまったけれど、相手が誰かによる。

 今は俺に力が無いから誰が来ようが警戒するしかないけれど、ある程度の情報網を作り上げることが出来たならば事前に確認もできる。ついでに俺の百合ハーレムの候補も探せる。一石二鳥である。

 問題があれば? ハハハ。問題がある人間をリゲルに近づける訳がないだろう?

 

 

 

 

 

 

 道中で一泊野宿をして、太陽が真上に昇る前にようやく到着した村は貴族の俺が見れば寂しいと言っても遜色ない村である。村として見れば普通なのかもしれないし、ちゃんと防壁のように木製の柵が並べられている所を考えればきっと発展している方なのだろう。

 街道の外れではあるけれど、しっかりと若い男が手製であろう槍を持って番として立っているのもその証拠なのだろう。或いは俺が思っているよりも切迫しているか、であるけど。

 

「学校から派遣されて参りました、ディーナ・ゲイルディアですわ。この村を取り仕切る方に会いたいのですが」

「! す、すぐに案内しよう。ついてきてくれ」

 

 王子であるリゲルに面倒そうな交渉事を任せる訳にもいかず、アサヒはこの世界の常識に乏しい。常識を知っている筈のレーゲンは俺に丸投げしてくる。何だこのパーティは……。貴族社会でしか生きられないじゃないか……。

 身分を言えば面倒極まりないし、リゲルも王子としての扱いは受けたくはないだろう。尤も、学校から来ている、と言えば貴族であるのはバレてしまうけれど、学校からは距離のあるレスデアに王族や侯爵令嬢や騎士団長の息子が来るなどとは思わないだろう。俺も思わなかった。

 

「さっさと行きたいんだが?」

「あちらの要望も聞かなければわからないでしょう? 黙っていてくださる?」

 

 丸投げしてきた戦闘狂が何かを言ってきたけれど、周りの村人達にわからないように笑顔を浮かべて叱咤しておく。この戦闘狂、本当に戦う事しか頭に無いのでは? 一応、護衛対象のリゲルとか居るんだぞ? わかってる? わかってなさそう……。

 何にしろ、案内された家屋は他の家よりは大きく、内装は寂しく感じるけれど村の人からすれば豪華の部類であろう。リゲルとアサヒが興味深そうにキョロキョロと見ているのが実に愛らしく見える。リゲルは基本的に見ることの無い生活環境だもんな……。

 

「ようこそいらっしゃいました。ゲイルディア様」

 

 俺達を待たせてやってきたのは痩せた老人であった。足取りはしっかりとしていたけれど、剣を握れるような体ではない。おそらく村長であろう老人は一礼してから俺達に向かい合うように椅子に座った。その後ろに控えるように先程の門番であろう若い男が立っている。

 

「依頼内容の確認なのですが、よろしいかしら?」

「はい。近くの森にゴブリンが出まして、狩りにも行けず、畑を荒らしてきて困っているのです」

「なんだゴブリンか」

「レーゲン、少し黙っていてくださる?」

「へいへい」

 

 ゴブリンと言えど集団になれば面倒な相手になるのだ。個体としては弱い部類ではあるけれど、知性が備われば群として扱わなければならない。森の中、というのも分が悪いだろう。

 俺達はキチンと戦闘に関して学んでいるけれど、村人には辛いだろうし、狩人だけでは手に負えない事もあるだろう。早期に片付けなければ群も増えるだろうし。

 レーゲンの言葉に眉を寄せていた村長であるけれど、お互いにソレを突けば面倒である事は理解しているだろうから無視してほしい。

 

「わかりました。森に詳しい方はいらっしゃいますか?」

「俺がそうだ」

「では、森の全体図があればそれと……ゴブリンが出現した大凡の位置をご存知?」

「地図などは無いが、俺の頭の中に入っている。案内しよう」

「村の安全は大丈夫ですの?」

「それは……」

「口頭で説明できる部分だけでいいですわ。私が覚えます」

 

 村の安全を守るのが最低条件である。案内がある方が良いに決まっているけれど、それで疎かにしては無意味だ。覚えられる部分は覚えておこう。全体図はわからないまでも、ある程度の予測は立てられる筈だ。

 風魔法を森に流せば詳細にわかるけれど、そこまでの魔力が俺には無い。魔力のあるアサヒはそんな器用な事はできないだろうし。

 

「レーゲン達は準備をしていてくださる?」

「あいよ」

「わかった」

「わたしも聞いてた方がいい?」

「……そうですわね。貴女に覚えられるかはわかりませんが」

「むぅ。ちゃんと覚えられるよ」

「期待はしませんわ」

 

 何かあったとしてもアサヒは守られる側に回るだろうし、それで逃げられる可能性も含めて覚えていた方がいいだろう。その()()が無い事が一番なのであるけれど、自然の世界は予測出来ない事の方が多いのだから危険はなるべく少なくした方がいい。

 

 

 

 

 

 何度も言うようだけれど、ゴブリンという魔物は個としては成人男性よりも弱いけれど、群になれば面倒極まりない相手である。人類始原の作戦である『囲んで棒で叩く』をしっかりと統率の取れた行動として実現する。

 繁殖能力も強く、村を一つ潰されればそこから更に群を増やして手が付けられなくなる。頭をパンクさせそうになっているアサヒを尻目に話に聞けば、まだそうなる前の段階であるのはわかったし、俺が思っていたよりも危険度は少ない依頼である事はすぐにわかった。警戒は怠る事はないだろうけど。

 

「まるで散歩だ、な! っと」

「ゴブリンの出る散歩などごめんですわね」

 

 襲ってきたゴブリンをあっさりと斬り伏せたレーゲンの愚痴を返しながら、レーゲンの上から奇襲をしてきたもう一体を風の魔法で吹き飛ばす。こんな時の為に魔力を溜め込んだブレスレットを準備しているのだ。今日は魔力不足で倒れるとか、そういう事はない。そんな無様をリゲルの前で晒せる訳がない。

 そのリゲルも危なげなくゴブリンを処理している。対してややゲッソリとしているアサヒは剣を握りはしているけれど、杖にしている状態でようやく立っている。

 

「三人共、なんでそんなに平気なの?」

「害虫の駆除と変わりませんわよ」

「民に害が及ぶからな」

「つまらんだけだな」

「う、うぅ……」

「……ディーナ、休憩してはダメか?」

「ベーレントさんがそんな状態なら仕方ありませんわね。近くに泉がありますので、そこで休みましょう」

「ごめんね、ディーナさん」

「謝罪はあとで聞きますわ。今は休みなさい」

 

 初めての殺し、というのは心に結構クる物で、俺自身も吐いたりした事を考えれば精神力で無理やり立っているアサヒはまだ強い方なのだろう。

 ゴブリンの駆除も聞いていた限りの住処は潰したし、木の隙間から見える太陽も傾いてきているしそろそろ撤退した方がいいだろう。泉で少し休んだら、村に戻ろう。

 

「なんの音だ?」

「どうしましたの?」

「何か聞こえなかったか?」

 

 俺の耳には全く入らなかった音がレーゲンには聞こえたらしい。相変わらず身体能力はぶっ壊れているな、こいつ……。右手の親指で薬指を弾いて辺りに弱く風を流す。ゴブリン達の血の香りに混ざって、木々の香りと別の匂いがする。魚が饐えたような匂いとようやく聞こえてきた枝を折る音と地面が小さく揺れる感覚。

 巨大な樹木をまるで枝のようにかき分けて姿を見せたのは巨躯であった。緑色の肌と筋肉を固めたような四肢、俺達の数倍はあるであろう巨体の上には潰れた鼻の醜い顔が置かれ、吐き出される息は熱を持っているのか白く染まっている。

 

「オーク……」

 

 吐き出されたレーゲンの言葉でようやく現実へと戻ってきた俺は息を飲み込む。俺とレーゲンの位置がリゲルとアサヒと離れすぎている。そしてリゲル達はオークに近すぎる。

 

「リゲル様!」

 

 咄嗟に叫んだ言葉と駆け出した足はほぼ同時であった。腰に差した剣を引き抜いて、更に一歩踏み込む。アレが攻撃する前に、腕を叩き切る。中指を弾いて空気の塊をオークの直上から打つけ、切っ先をオークの腕へと向け、突き刺す。

 けれど、刃はその筋肉を貫く事すら出来ずに止まり、振られた腕で俺が吹き飛ばされる。

 地面に叩きつけられながら受け身をとって、考える。考える。どうすればいい。どうすればいい。俺の力では剣は通らない。魔力には限りがある。その魔法も通じた様子はない。現状で切れる手札が無い。

 この場にはリゲルとアサヒ、レーゲン。レーゲンでも個人でオークを討伐するのは無理かもしれない。どうすべきだ。どうすれば()()()()()()()()()()……!

 考えろ。考えろ! ディーナ・ゲイルディア!!

 

「――リゲル様! 逃げてください!」

「何をッ!」

「レーゲン! アサヒ! 来た道は覚えてますわね! すぐに村へ戻り、王都に救援を求めなさい!」

「ディーナ! 何をするつもりだ!」

「……約束を果たすだけですわ」

 

 リゲルを裏切らない為に。自分の命を優先して、リゲルを切り捨てない為に。

 大きく、息を吸い込んで、吐き出す。

 

「――行きなさい!」

「リゲル、行くぞ!」

「待て、レーゲン離せ!」

「馬鹿野郎! お前が死ねば全部無駄になるんだぞ!」

 

 レーゲンはわかっている。それでいいのだ。リゲルが生き残ればそれで問題はない。

 叫び声が煩わしかったのかオークがリゲル達の方を向いたけれど、風を刃にした魔法をブツケてこちらへと意識を向ける。コレで怪我もしてないのか。石ぐらいなら砕けるんだけどなぁ。

 気落ちしていても仕方ない。剣をしっかりと構える。死ぬつもりはない。まあ死ぬだろう。

 アマリナとヘリオの奴隷契約は俺が死ねば無効になるし、ゲイルディアとしては王族を守った事で幾らかの報奨があるだろう。アレクも……上手くやるだろう。

 

 よし。何も問題はない。

 

「少しだけ、お付き合いをお願いしますわ」

 

 俺程度の力では時間稼ぎがやっとであろうけど。女の肉体だから幾らか弄ばれるだろう。それで余計に時間も取れる筈だ。エロ同人みたいにならないように、さっさと舌を噛み切って死んでやるけどな。

 

 足に力を入れて、オークへと踏み込む。先程の突きよりも体重を乗せて、横薙ぎに剣を振る。

 皮を引き裂いて、肉を断っている感触の途中で剣が止まる。どれほど力を込めても動きはしない。瞬間的に判断が出来なかった。ありえない、と思ってしまった。

 剣を手放して人差し指を弾き鳴らして風の防壁を張る。二度、三度弾いた瞬間にソレを無視されたように飛ばされる。

 

「カッ、フッ……!」

 

 背中から木に打ち付けられ、何が起こったかを朦朧としながらも把握する。防壁の上から殴り飛ばしやがった。あれでもそこそこ硬度はある筈なのに、ソレを無視して飛ばしやがった。

 地面に落ちた俺の方へと地鳴りを響かせながら近寄るオーク。動け、動け……! どうにか立ち上がり、逃げようと一歩踏み出せば足が縺れて倒れる。

 倒れた足が何かに掴まれ、体中に嫌な音と痛みが響く。

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ゛ァ゛ァ゛!!」

 

 逆さまに見える醜い顔が俺の叫びに嫌らしく嘲笑う。握りつぶされた足は死んだ。逃げ場はない。魔力を暴発させた所でたかが知れている。

 痛みで思考が纏まらない。逃げ道がない。リゲルは逃げられただろうか? アマリナ達は上手くやるだろうか? アレクはゲイルディアの重圧に耐えられるだろうか?

 死ぬ。死んでしまう。

 

 

 

「ディーナさん!」

 

 聞こえる自分の名前と誰かの影。

 俺を掴んでいた腕を斬った誰かのお陰で俺は地面に落ちそうになって、誰かに抱えられる。よく見た黒い髪に、どれほど走ってきたのか切れている息。

 それでも、今は眠い。起きていられない。寒い。まぶたがおもい……。

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