那須隊の番犬   作:遠野雪人

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 めちゃくちゃ苦戦してて時間かかってしまいました、お久しぶりです。

 防衛任務開始です。
 どうでもいいですけど、初めてサブタイに主人公以外の男キャラが出ました。


第22話 当真勇

 

 

 

「ようチビ助、昨日ぶり」

「昨日ぶりです当真先輩、今日は宜しくお願いします。……それはそれとして次チビって言ったら先輩でも容赦しませんよ」

 

 ギロリと睨め付ける。気の早い拳はすでに固められていて、いつ振り上げられるのかと臨戦態勢に入っていた。

 

 その視線も意に介すことなく、からからと笑うのは本日の防衛任務の隊長を務める当真先輩だ。すらりと細身で、見上げるほどの高身長にきちんとセットされたリーゼントが特徴的な伊達男である。

 

「昨日俺に噛みついてきた時の勢いはどこいったよ。なんだ、ビビってんのか?」

「ビビってないです。……まあ、流石に初めてですし緊張くらいしますよ」

「馬鹿、それがビビってるっつーんだよ。予習はしてるんだろ?」

「まあ、一応。どんな流れかくらいは聞いてますよ」

「湧いてきた近界民(ネイバー)仕留めるだけの簡単なお仕事だ。何を不安に思うことがあるんだよ」

「そんな簡単に構えられたら苦労しませんよ……」

 

 誰もが当真先輩みたく心臓に毛が生えているわけではないのだ。小夜子に話を聞いたとはいえ、所詮経験談でしかないのだからいざ実践するとなれば緊張するのも仕方のないことだろう。

 

 そんなもんかね、とまったく理解できない様子で呟く当真先輩。

 少し話しただけだが、確かにこの先輩が緊張しているところも想像つかないな、と思い声をかける。

 

「当真先輩だって最初の頃は緊張したんじゃないですか?」

「いいや? ちっとも」

「よくわかりました。今後当真先輩のことは異星人だと思って接することにします」

「ははっ、さてはお前、俺のこと嫌いだな?」

「わかっていただけて何よりですよ」

 

 かわいくねえ後輩だなあ、と零す当真先輩とメンチを切り合う。

 

 この因縁の発端は昨日の挨拶である。

 香取隊を訪ねた後、同じ初対面であるのに片方を訪ねてもう片方を訪ねないのもどうかと思い、冬島隊を訪ねたのだ。

 その時の最初の一言が、コレである。

 

「おうなんだチビ助、どこから迷い込んだんだ?」

 

 ――最初は、耐えられたのだ。懸念していた香取隊を何事もなく過ごすことができ、気分も上々。ましてこちらはお世話になる側なのだから、いきなりキレるのも失礼だろう、と理性のブレーキがかかったのだ。

 しかし、怒りを抑えながら意図を説明したところ、

 

「あん? ああ、お前か! トリオン能力のバカ高い中坊! いや確かに話には聞いてたが本当に小せえなあ。ちゃんとメシ食ってるか?」

 

 限界であった。チビと言ったこと。小さいと言ったこと。そしてトリオン能力だけならともかく、何故かそれにまったく関係のない体格の話が噂として付随していること。めでたくスリーアウトゲームセットである。

 

 仏の顔も三度までなどと器の大きなことを言えるほど人間ができていなかった犬彦は烈火の如く怒り狂った。

 しかし哀しいかな、まさにその体格差もあり犬彦の怒りは当真先輩に軽くあしらわれてしまったのだけれど、そんな初対面だったものだから犬彦のこの先輩への印象は最悪に近いものとなったのだ。

 

「ちゃんと謝ったじゃねーか。器が小せえ男はモテねえぞ?」

「別に当真先輩に好かれようとは思っていませんのでご心配なく」

「へいへい。まあ別にそれはそれでいいんだけどよ。お前、あっちともそんな感じで揉めたのか?」

 

 ひそりと声を潜めながらの言葉。

 途端、犬彦の顔が苦く歪んだ。

 

「……いや、そんなことはない、はずなんですけど」

「とてもそうは見えないがね。明らかになんかありましたって空気じゃねーか」

 

 2人揃って視線を向けるのは、先を歩く香取先輩である。

 

 オペレーターの染井先輩と別れてから、終始無言で不機嫌そうに歩くその人と、犬彦は未だ一言たりとも言葉を交わすことができていない。明らかに避けられている様子なのだ。

 そのことを重々承知していたので、必然犬彦の声も重いものとなる。

 

「本当に心当たりないんですってば……だって染井先輩はともかく、香取先輩とは昨日顔を合わせてさえいないんですよ? 何かありようがないじゃないですか」

「ふぅん? そりゃおかしな話だな。なら昨日のやりとりでお前さんが下手打ったか、だ」

「染井先輩が俺の悪評を流した、ってことですか? そんな人には見えませんでしたし、下手打った覚えもないはずなんですけど……」

 

 ううむ、と唸り声をあげて犬彦が腕を組む。

 話の途中も、去り際の様子を見ても染井先輩に不機嫌そうな様子は見られなかったはずである。……まあ初対面であることはもとより、染井先輩の表情が薄いこともあって、当たっている自信はこれっぽっちもないのだが。

 

「となるとあとは、単にお前さんが気に食わねえとかだな」

「なんて理不尽!」

「いや、直感ってのは案外馬鹿にできねえもんだぜ。たまにビビッとくることあるだろ。『コイツ絶対ソリ合わねえな』って思うヤツがよ」

「ああ、そういう……」

「なんでそこでこっちを見るのかねえ、このクソ後輩は」

「自分の行いを省みてくださいよ、クソ先輩」

 

 互いに悪態を吐き合って、一息。

 会話をしている気配くらいは感じているはずなのに、相変わらず香取先輩は一向にこちらを向こうとしない。

 

 肩をすくめて当真先輩が言った。

 

「ま、あの様子じゃこっから先が大変だな。頼むから同士討ちだけはしてくれるなよ?」

「……ん? やけに他人事じゃないですか。一緒に行くんですよね?」

 

 この3人に、染井先輩を加えた4人で1つのチームなのである。外へ出ての警戒も、現れた近界民(ネイバー)の撃退も、休憩も一緒に行動するはずだ。ならば当然この先輩も同行するはずなのに、やけに遠くからの物言いに首を傾げた。

 すると、あからさまに呆れた様子で手を振った。

 

「おいおい、馬鹿言ってんなよ。お前、俺のポジションわかってんのか?」

「ポジション?」

狙撃手(スナイパー)だぞ、狙撃手(スナイパー)。遠距離から攻撃する奴が攻撃手(アタッカー)射手(シューター)と肩並べて歩いてどーすんだよ」

「ああ、なるほど。確かにそれはそうですね――って」

 

 そこではた、と。今更その事実に気付いた犬彦は思わず足を止めて顔を強張らせた。

 

 狙撃手(スナイパー)の当真先輩は外から構えるために同行せず。

 オペレーターの染井先輩については論外。

 そもそもが新人である犬彦を、単独で行動させるなどありえない。

 

 ということは、つまり。

 あまりの絶望に気が遠くなりかける犬彦の肩を、頑張れ、と笑いながら当真先輩が1つ叩いた。

 

 

 

「ええと、その。今日は宜しくお願いします」

「……」

 

 無言。無言。無言。ひたすらに無言を貫き通されている。

 

 最初に勇気を振り絞って放った犬彦の一言も敢えなく玉砕し、以降は由緒正しきドット絵のRPGのように後ろについて歩き回っている。心が折れた犬彦はもはや声もかけることなく金魚の糞を徹底していた。

 

 ――何もやってないはずなんだけどなあ。

 

 首を傾げながら、手持ち無沙汰に思案を巡らせる。

 

 思いついたのは、小夜子と何か因縁があるのではないか、ということくらいである。

 小夜子自身はほとんど会話したこともないと言っていたが、あんな姉なので、知らないうちに怒りを買っている可能性もある。

 仮にもしそうだとしたならそれを向けられるのは理不尽でしかないが、よっぽどの怒りであればそういうこともあるのだろう。ただ、それを身内というだけの自分にそこまで向けられるのか、ということについてはやはり疑問符がついたのだけれど。

 

『志岐くん、ちょっといい?』

 

 他に何かあるかなあ、と黙々と考えていると、プライベートチャンネルで通信が入った。

 作戦室のデスクについた染井先輩からのものだ。

 

 急に響いた女性の声に比喩でなく跳ね上がりながらも、おっかなびっくり声を返した。

 

「あっ、はい。大丈夫です」

『たいしたことじゃないんだけど……葉子のことは、あまり気にしないでいいわ。それが難しいってこともよくわかってるけど』

「気に、しないでいい……どういうことですか?」

 

 意図が伝わりづらかったので尋ねると、少し言い淀む間があってから答えが返ってきた。

 

『志岐くんと葉子は、多分根本的に相性が悪いから』

「ああ……それは、その。何となくわかります、はい」

『今日1日でどうこうできるものでもないし、申し訳ないけれど今日だけ我慢して頂戴。居心地は悪いでしょうけど、その時になったらフォローはするわ』

「あ、それはその、大丈夫ですけど。……あの、ってことは別に香取先輩に何かしてしまったとか、そういうことじゃないんですね? あとは、小夜子――姉が何かしたとか」

 

 これだけは聞いておきたくて、矢継ぎ早に尋ねた。

 答えには、やはり1つの間が空いた。

 

『ええ。志岐くんが何かしたわけでもないし、お姉さんと何かあったわけでもないわ』

「そうですか、わかりました」

 

 その答えに、少しだけほっとした。

 知らず知らずのうちに何かしていたとか、怒りを買っていたわけではない。ただ香取先輩が犬彦を拒絶していただけだということ。

 

 ――いや、それはそれでどうなんだろう。

 

 理由もなく、気に入らないという理由だけで、話もしたことない相手に対してこうも攻撃的になれるものなのか。

 それはそれで謎が深まった感じだなあ、と思いながら染井先輩との回線を断つ。

 すると同時に別方向から回線を繋げられた。当真先輩である。

 

『視界良好。右手右足が一緒に出てるぜチビ助』

「出てませんしチビ助言うなクソ先輩!」

 

 即噛みついて、慌てて口を押さえる。

 もっとも、相変わらず前を歩く先輩はそのスタンスを変えることなく貫き通していたけれど。

 

 愉快そうに当真先輩が言った。

 

『お前脊髄反射で噛みつくクセやめたらどうよ。損しかねえぞ?』

「それ、絶対に当真先輩には言われたくないんですけど」

『おっと、ちょっとは調子出てきたか? さっき回線塞がってたがなんか話でもしたか』

「別に……気にしないでくれ、って言われただけです。あとやっぱり俺が何かしたわけじゃないっぽいですよ」

『そうかぁ? そんな感じには見えなかったがな』

「そうやって不安煽るのやめてもらえます? せっかく少し持ち直したんだから、このままキープしておきましょうよ」

『いいことを教えてやろう。良い仕事をする秘訣はほどよい緊張感を保つことにあるんだぜ』

「それ敵じゃなくて味方から与えられてるんですけど、この仕事おかしくないですか?」

 

 犬彦がしたいのは普通の仕事であって、火のついた爆弾をたらい回しするようなゲームでは断じてないのだ。

 そしてその緊張感を保つのも、できることなら短い方がいい。犬彦は周囲を見渡しながら眉をひそめた。

 

「というかですね、こうして警戒と言いつつ見回るのって意味あるんですか? (ゲート)が開く時ってわかるんでしょう?」

 

 現在犬彦が香取先輩と連れ立って歩いているのは、本部の周囲に広がる警戒区域と呼ばれる場所である。

 

 過去に近界民襲撃の被害に遭い、放棄せざるをえなくなった場所。あるいは、(ゲート)を誘導するためにボーダーが買い取った場所。

 そのため昼間にもかかわらず周囲はひっそりと静まり返り、襲撃の被害を物語るボロボロの建物がその悲痛さを煽る。

 

 初任務の犬彦としては、早い話がまさにゴーストタウンという感じでとても不気味だ。別に殊更ホラーに弱いわけではないけれど、好んで歩き回りたくないというのが正直なところだった。

 

『確かに、(ゲート)が開く時には反応があるがな。解析も進んで、今じゃよっぽどのことがなけりゃ見逃すなんてことはないが、万が一ということもある』

「そうなんですか?」

『誘導装置から逸れちまった事例もあるしな。過信は禁物っつーこった』

「まあ、他所の世界の技術ですし納得はできますけど。てことは、こうして歩いている今でもばったり出くわす可能性もあるわけですか?」

『かもな。警戒区域の外だって考えられるぜ』

「思ったよりアバウトだなあ」

 

 ため息をつきながらも、見回りの必要性については納得した。

 そういう事情ならむしろ必須作業と言えよう。

 

 となると、今何気なく歩いているこの場所も決して安全とは言えないわけだ。

 何気なく歩いていた場所が急に地雷原だと宣告された感覚に身体が強張る。

 

 途端に響く笑い声。明らかに見透かされた。

 

『ビビってんじゃねーよ、気楽に行け気楽に』

「び、ビビってないですってば」

『いいか? そんなお前に1ついいことを教えてやる』

「あんま聞きたくないですけど、なんですか?」

『ああ。お前がビビるのは要は近界民(ネイバー)にやられるかもって不安があるわけだろ? 近界民(ネイバー)の方が強かったらどうしようなんて、そんなことばかり考えてるわけだ』

「……まあ、それだけじゃないですけど」

 

 上手くやれるかどうかという不安。

 明らかに前を歩く先輩との連携が難しいだろうこと。

 素直に認めるのは癪だが、考えだすといくつも不安の種は挙げられる。

 

 ハ、と強く笑って当真先輩が言った。

 

『だったら話は早ぇ。安心しろ、これから現れる近界民(ネイバー)より俺達のがよっぽど強ぇよ』

「なんですかその脳筋論。こっちのが強いから大丈夫って、そんなこと」

『そういうことなんだよ。俺達のが強い。だから問題ない。それだけの話だ。ヘマやらかすのが不安だとか、そんなこと考える余裕があるなら終わった後に何奢るかでも考えてな』

「……最低だ、後輩にたかる気満々のクソ先輩がここにいるぞ」

『ははっ、嫌ならうまくやるこったな。レートは3回分の尻拭いで焼肉1回だ』

「いやそのレートクソすぎません!?」

『お、なんだ自信ねえのか? なら仕方ねえな、5回にまけてやろうか?』

「やーりーまーすー! 代わりに3回未満だったらアンタが奢ってくださいよクソ先輩め!」

 

 はっはっは、と勘に触る笑い声を聞いていると、ふと違和感が襲った。

 

 ――何だこれ、匂い?

 

 砂埃と、日に焼けるアスファルト。日陰からひそりと漂うカビ臭さ。寂れた警戒区域では到底しないはずの、薬品にも似た刺すような匂い。

 

 それについて思考を巡らせるより先に、オープンチャンネルで全員に染井先輩から声がかかった。

 

『警告。(ゲート)が開きます』

 

 ピン、と糸が張るような緊張感。自然と表情が強張る。

 

「場所は?」

『そこから北東に100メートルくらい。警報発令します』

 

 初めて香取先輩の声を聞いた。

 短いやり取りの後、表皮を震わせるほどの大音量で警報が響き、機械音声のアナウンスがそれに続いた。

 

(ゲート)発生。(ゲート)発生。近隣の皆様はご注意ください。座標誘導、誤差……』

 

 最初の防衛任務が、始まった。

 

 

 

 

 

 

 




 作中キャラで絶対何人かは初対面で犬彦の逆鱗に触れるのいるよね……当真先輩とか間違いないと思います。


 今回も独自解釈盛り盛りです。
 多分問題ないかと思いますが、

・オープンチャンネル→全員が傍受も発信も可能
・プライベートチャンネル→個人間のみ傍受・発信が可能

 という感じで。流石にこのくらいはできるでしょう、と思います。
 作中でインカムとか使ってる様子がなかったので、この辺もアドリブで。


 警戒区域についても、多分こんな感じかなあ、とふんわりした感じです。
 お金集めてくる唐沢さんとかマジで何者なんだろうという恐怖しかない。


 今回の防衛任務の話ですが、合計1万6000文字ちょいだったので一旦切りました。
 次の話はすでにできてるので、今日明日くらいには更新します。

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