目覚めたらそこはシシ神の森でした 作:もふもふケモノ大臣
ある日目が覚めるとそこは森だった。
「うわー綺麗な森だなー」
違うそうじゃない。
いや、確かにとんでもなく綺麗なんだけど…。
なんか、こう…原始林って感じだ。
人の手が全く入ってない森…
きっと古代は地球上の色んな所にこんな森や林があったのだろう。
苔の生えた超大樹がそころにゴロゴロしている。
あれなんかも現代に残ってたらきっと天然記念物ものだろう。
樹齢千年の屋久杉クラスなんじゃなかろうか。
いや、だからそうじゃない。
大自然に感嘆してる場合じゃないぞ。
ここはどこだよ!
森ってのはわかってるよ!
なんで俺が急にこんな所にいるんだ…。
思い出せ……思い出せ…。
…。
………。
………………。
だめだ。
どうでもいいことばっかスラスラ出てくるのに
大事なことは何も思い出せないよママン!
ママ……あれ?
母の顔が思い出せないぞ?
あれ?
俺の両親って……誰だっけ?
ん?
俺の名前って……。
な、なんとまさか…、
こ、これは……!
「き、きおくそうしつだ!物語ではポピュラーだけど現実ではあんまない奴だ!」
雄大な自然の中で俺は独り叫びしていた。
あぁ、木々の間に俺の声が木霊していく…自然の中だなぁ。
アルファルファでてますねコレは。癒やされる。
…。
……。
アルファ波だろ!
そんなツッコミを挿れてくれるのも誰もいない。
おお…もう…。
これは確定ですね間違いない。
俺は記憶喪失で遭難しているんだ!
そうなんだ!
…。
……。
仕方ない。これは仕方ないぞ…!
思い出せ…まずは…遭難した時は…。
幸いここは超自然豊かでしかも寒くもない。
食べ物になりそうな……。
うん、キノコみたいのもいっぱい木の根元にあるし…。
野生キノコは素人が食ったらほぼ死ねるって誰かが言ってた気もするけど。
まぁこの際しょうがないよな。
腹減ったらなるべく派手じゃないの食ってみよう。
食えるか…?
いや、でも…いざとなったらやるしかない。今は止めておこう!
それよりも問題は水だ。
飲水を確保せねば3日で死ぬってベア・グリルスさんは言っていた気がする。
あぁ、くそ、枝を自由に飛んで行き来してる鳥が羨ましい。
空から見ればあっという間に川とか湖発見できるのに…。
こんなとき人間は不便だ。
大自然の中じゃ、人間なんてちっぽけだよなぁ…空飛びたいなぁ。
…くそー、人間様なめんなよ……水見つけて生き延びちゃるぞ。
えーと…。
…。
……。
水ってどうやって見つけるんだ…。
ベアさんが何て言ってたか思い出せ…。
エド・スタフォードでもいいぞ…。
脳内ベアさんにエドさん…俺のゴーストに語りかけてくれ…。
…。
………。
………………。
ダメだ!奴らが虫食ってるシーンしか思い出せない!
どうしよう…現代日本で生きるもやしっ子な俺には
こんなサバイバルな状況下で的確に生き残るスキルは0だ!
もう死ぬしかないじゃない!
…。
……。
あれ?
俯いて絶望に耽っていた俺の耳にサラサラと何か液体が流れる清らかな音が。
水…ですよね?
水じゃね?これ。
水だこれ!
川だー!
そう思った俺は走った!
いやここまでの独白の間に結構歩いたんだよ。
喉乾いてたんだー!
あ。
なんか俺超速い。
お、おお!
ほんと速いぞ!
俺こんなに速く走れたっけ?
すごいなぁ俺。
大木だらけの森の中、
映画とかゲームの主観視点での高速移動みたいな感じで
ビュンビュン風景が後ろに流れていく。
イヤーハーッ!!ハッハー!!
はやっ!俺はやっ!!
しかも全然疲れない!
森の中すいすいと木の根っこにも躓かず走りまくれる!
ある日突然『おれ…目覚めちまったよ…!』って展開かこれ!
水の音がどんどん近づく。
ああ分かるぞ。
音で分かる。
水の匂いもプンプンする。
五感が覚醒しちゃったよ~これ~、いやー参ったな。
これはもう選ばれし者なのでは?
は~、捨て去ったはずの中二病がビンビンに刺激されますね。
男は何歳になっても中二病だし、仕方ないね。
藪を飛び出てみれば………。
ああ…なんて…綺麗な水なんだ…しゅごい。キラキラしてるし全然濁ってない。
おお、自然の美…こんなのN◯Kのハイビジョン特集でしか見たことない。
おいしそうだ……喉乾いたー!いただきま―――
――身をかがめてグッと首を川に伸ばした俺は衝撃の光景を目にするのであった――
――あれ?
こ、この水面に映る獣は……。
あれ?
この視界って俺の視界…だよな?
ん?は?
俺は口を開けてみる。
水面に映る獣も、大きく裂けた大口を開けた。
口の中には太く尖った、立派な牙が生え揃っていた。
ベロをだしてみる。
水面の獣も長い舌を出した。
笑ってみる。
水面の獣も裂けた口の両端を釣り上げて笑った。
こえーよ。
…。
……。
ま、まさか…この白いもふもふは。
「…俺?」
フーッ、大きく息を吐き、頭の片隅で確信めいた予感を覚悟しながら
一気に視線を自分の手足やら胸元やらに移すと…。
「うわっ、もふもふじゃん」
ええ…(ドン引き)
自分でも引くんだよなぁこの鈍さ。
普通気づくだろ俺…。
でも…だってだって…余りにも体が自然に動いて全く違和感無かったんだよ…。
今思い返すとそれってどうなのよ~って思うけどさ…。
お日様もぽっかぽかで適度に暖かくて
服装の確認とかする必要なかったし…しなかったよねぇ~っ。
服と持ち物の確認は普通する?
そうだよね。まず第一にするよね?
俺、ばかなの?おっちょこちょいなの?あわてんぼうのサンタクロースなの?
うーん(めまい)
だって!
俺、四つん這い移動してるのに目線の高さが人間の目線と一緒なんだもん!
うわぁ、俺デカイ!
デカくて白い獣だ!
なんだ俺!
なんの動物だ!
デカすぎるオオカミか!
デカすぎィ!
間違いないこれはモンスター的な何かに転生したんだ!
うわマジか。
せめてウェアウルフとかがよかったよ!
俺、完全にザ・獣!って感じじゃないか。
えぇ…。
これ、変身とか出来る系?
出来る系でしょー?これー、えーマジで?
出来ないと困るよコレ。大分困るよ。
俺、完全にワンコだからお手手使えないじゃん!
人間としての記憶と経験が全く活かせないじゃん!
どうすっか…。
とりあえず水飲むか。(現実逃避)
「ゴクゴクゴクゴク………………う、うまい」
凄まじくうまい。
こんなうまい水、ボルビッ○だってエビア○だって六甲のおいしい○だって敵わない。
人生で初めて飲んだ水だ。
きっとトニオさんのレストランの水を飲んだ仗助と億泰はこんな水を飲んだに違いない!
そう思わせる凄味がこの水にはある!
あぁ~うまいんじゃ~。
俺は時間も忘れて水を飲みまくったのだった。
喉が潤えば、次の欲求がムクムクと頭をもたげてくるのは当然だ。
性欲…?違うよ食欲だよ。
「腹が減った…」
しこたま水を飲みまくった俺は、木々の隙間から空を見た。
太陽はまだ高い。
(あったけぇ…)
お昼寝なんて良いかもしれない。
すごく昼寝したい。
なんだろうこの感覚。
これも狼になってしまったせいだろうか。
というか俺、順応速度すごいな。
自然と受け入れている。
これはあれか。
人間から狼になったんじゃなくて、
狼の俺が人間の記憶を植え付けられたパターン…?
どっちでもいいか…
「グルルルル…」
あぁ…それにしても腹が減った。
大きな口からは自然と俺の空腹からくる不快そうな唸り声が漏れていた。
お腹の音じゃないよ。
一瞬、デカイ腹の虫が鳴いたのかと思ったけどね、俺も。
鼻を鳴らす。
スンスンと二度三度。
そして俺の鼻に飛び込んでくる獣の臭い。
食べ物の匂いだ。
こう…肉っぽいというか…きっと人間だった時は獣臭いとか生臭いとか血臭いとか…
そういう風に思って「気持ち悪っ」ってなる臭いがなんかもう良い香りに感じれる。
すごくお腹減る。空腹を刺激してくる。
俺様お腹ペコペコ。
気付けば俺はまたまた臭いを辿って走っていた。
やっぱり速い。驚くほど速い。
スイスイ木々を避けて苔むす地面にも脚をとられず走れてとっても爽快だ。
走ってるだけで楽しい気分になれるなんて…
俺ってひょっとして前世は体育会系だったのか…?
いや絶対違う。
浮かんでは消える前世ビジョンがゲームとアニメのことばっかりだし
間違いなく俺はオタクだろう。
数分走って、俺の意識は少し遠のいていた。
別に走りすぎて疲れて意識もうろう状態なわけではない。
お腹減りすぎちゃったの。
何か獣ボディになってから理性消えやすい気がするんですけどぉ?
これもケモノの悲しさか。所詮ケモノか俺は。
「グルルルルル…!」
そしてそんな理性消失お腹ペコペコ状態なケモノな僕の前には――
おっきな鹿みたいな動物がいるのですよ。
とんでもなく綺麗な小さい湖の真ん中…
苔生えまくりの離れ小島みたいなとこにソイツはいた。
はえー角おっきい。
なぁにあれぇ?
角、枝分かれし過ぎィ!
あれ絶対絡まるだろ…なんか樹形図みたいになってるよ…。
しかも顔キモいじゃないですかーやだー。
あの猿顔絶対食べても美味しくないよー。
体は鹿っぽいし顔は猿っぽいし角多すぎるし何だあいつ。
金色の後光まで見えるし。
…でもどっかで見たことあるような。
――この間僅か0.2秒――
まっ、いっか!食べれればいいさ!(ケモノ脳)
そして俺は空腹に負けて眼の前の珍獣の喉元目掛けて飛びかかったのだ。
オレサマ オマエ マルカジリ。
大口開けていざ噛みつかん!としたその瞬間だった。
俺と猿面鹿の目がバッチリ交差する。
うわ、目、でっか。
赤くて横割れした瞳孔。
それに見つめられた時、俺の背筋に冷やりとするものが走って。
一瞬だけ力が抜けた気がした。力だけじゃなくて何かもう全部抜けた気がした。
膀胱とかケツ穴の力まで抜けて脱糞したらどうすんだこのブサイク鹿。
だけど気がしただけで
俺は問題なく猿面鹿の首にがぶりんちょ出来たのであった、まる。
うははー血がしたたるお肉の味ぃーー!
新鮮な肉だーー!
………。
全然味しねぇーー。なんだこの獲物まっず!血の巡り悪いのか。
勝手に少しキレたケモノ脳の俺は、
そのまま猿面鹿の首に噛み付いたままブンブン振って地面に何度も打ち付ける。
こうすればお肉が柔らかくなって美味しくなるかなと思ったが、
そんなのはただの幻想だったようだ。
変わらずちょーマズイ。
しかも血が滴るどころか、噛み付いた首筋からは
ヘンテコな半透明状の綺麗な黄緑っぽいドロドロ液体がぶわっと飛び出てきた。
きったな。
なにこれ!
いや、見た目はちょっと綺麗なんだけど
ネバネバしてドロドロしてるので
ファーストコンタクトでつい汚物かと思っちゃったよ俺。
新手のオサレ下痢うんこが首から吹き出したと思ってごめんねブサイク鹿。
全部オマエがキモくてブサイクな猿面鹿なのがいけないんやで。
この半透明ネバネバおもっくそ口の中入ったんだから
これぐらい悪口言っても許されるだろう。
口いっぱいに広がるドロドロ…あぁ、なんかこれ…こう…不思議な味する…。
思ったよりマズくないわ。肉は旨味成分0なカッスカス系でマズイけど。
はーー…染み渡る。ドロドロ染み渡る。体にすっごい良い気がする。
アンチエイジングできてる気がする。でも喉越しわっる!
ごくんっと喉に絡みつくネバネバを何とか飲み干す。
(普通なら吐き出すとこだけど…なんか飲めてしまった。
それほど不愉快じゃないドロドロというか…、
不思議な味と喉越しだったなあ。癖になるなぁ。もっと飲もうかな)
肉はとんでもなくマズイけどね。
「……奇妙な獲物だ」
首元の肉を噛み千切られ、
デッカイ目を見開いたまま瞳孔全開でぶっ倒れた猿面鹿を見下ろしてると、
不機嫌ボイスが思わず俺のに口から漏れる。
思ったことがつい口に出る俺の畜生ブレイン何とかなりませんかね…。
ただの畜生に話しかけても返事何かあるはず無いのにねー。
(なお自分は喋る畜生であることは棚に上げる模様)
奇妙奇天烈な珍獣を見下ろしていた、その時だ。
俺の目に受け入れがたい光景が飛び込んできた。
「………なんだ?」
イケ犬でカッコいい重低音エコーボイスな今の俺。
バカな思考も口に出すとちょっとカッコよくそれっぽくなっている。
ああ、見たことあるある!脳内セリフチェンジャー機能ね。俺にもついてるんだ!
いやそれよりもちょっと見てよアレ。
猿面鹿の抉られた首の肉が段々と元に戻っているってどゆこと?
白いもふもふ巨獣になってオレツエーな心持ちだった俺の脚が勝手に後ずさる。
とろとろと血のように流れ出ていた淡い緑のネバネバも少しずつ、
その珍獣の首元へ戻っていき…やがて猿面鹿の傷は完全に元通り。
そして何事もなかったようにすっくと立ち上がった。
ヒェ…再生した…。
あいつ普通のケモノじゃないですよ…リジェネ持ちモンスターですよ…。
ひゃーオラとんでもねぇ奴にケンカ売っちまったのかぁ?
うわ…俺のことガン見してるよ…。
しかもなんか薄ら笑いしてません?なに?なんなの?
自分の首噛まれて嬉しいの?サイコパスなの?
俺に傷をつける奴がいるとはな…!的な笑みなの?戦闘民族なの?
やめろォ!その不気味で大きい赤い目で俺のこと見るなァ!
コワイ!
夢に出そう!
猿面鹿の大きな赤いお目々がさらにクワッと見開かれる。
ぼくはおもわずちびりそうになるのだった。
俺の膀胱はその恐怖に耐えきったけどね。
赤い大きい目。
ずっと俺を見つめる大きな目。
なんだか……クラクラしてくる。
さっきもそうだ。
あの目に見つめられた時、体の力が急に抜けて…
凄まじい眠気が襲ってきた気がした。
あの時はすぐにその感覚も消え失せて、
きっと少し疲れが出たせいだと思ったけど。
…そうか…あの目だ。
アイツだ…。
あの珍獣…ポケモンかなんかか!
これ催眠系か!おまえミルホッグの親戚かなんかだろ!
ここはズバリ、ポケモン世界だ!
「っ!?ぐわぁぁぁ!」
その時、俺の体中から突然何かが吹き出した。
これはさっきのドロドロ!?
さっき飲んだドロドロが…どっから出てんのこれ!
毛穴から出てるとかそんな感じじゃないぞ!
なんかオーラとか気みたいな感じでブワッとでて――
―あら…
なんか…
あぁ~
意識がまたもうろうとするんじゃあ~
「はっ!?」
俺はがばっと上半身を起こして布団を跳ね上げた。
いや、跳ね上げる布団…なかったわ…。
夢オチかと思ったけど俺白いもふもふのままだわ…。
嘘言ってごめん…。
のそのそと身を起こして、当たりを見回す。
ここは当然、さっきの原生林の中。
神秘的な小さい湖。
真ん中の苔だらけの小島。
あ~~~~…分かってしまった。
ケモノ的な思考が、今は幾分クリアになって考えと記憶がすっきりしている。
心が落ち着いている。
さっきのポケモンもどきが教えてくれた。
いや…うーん…教えてくれたというか……。
喋りかけてくれたわけじゃないし、心に語りかけたとかそういうんじゃなくて…。
心が直結したというか…命が直結したというか…。
事実を、文字と映像にしてドバンッと精神そのものに焼印するみたいな感じで教えてくれた。
さすが神様だ!
まぁ、はい。あれです。
あいつシシ神だ!
なんでポケモンとかディスカバリーチャンネルとか思い出しておいて
もののけ姫思い出さないんだ俺!
あれか。記憶にセーフティかかってシシ神が解除してくれたのか。
それとも自分で「まっさか~」とか思って鍵かけたか。記憶に。
…冷静になってちょっと今日一日をまとめてみるか。
俺は山犬の一族に今流行りの転生?した。ひょっとして憑依かもだけど知らん。
俺の命は最初から、前世の人間の分と今生の山犬の分の2つあった。
シシ神様は命を吸い取ったが、俺が2つの命を持ってて一瞬では俺を殺しきれなかった。
その結果、俺の魂…というか命は人0.5狼0.5で合わせて1って感じになった。
んでもってシシ神様に、腹減ってとはいえ文字通り噛み付いちゃって…
とにかく…えー、わたくし大変なことをしてしまいました。
シシ神様が内包してる命の奔流ゴクゴクと飲んじゃったわけだな(白目)
シシ神様が不思議パワーでデイダラボッチ成分は取り戻したらしいが、
俺はシシ神様の神様パワーと命の流れの一部を身に取り込んでしまったようだ。
つまり…今や俺こと若き山犬は……
シシ神よりちょっと下くらいの土着神にクラスチェンジしたらしい。
もともと今の時代…というかこの世界…、
まだ俺のような大柄なケモノは神の端くれだったはず。
確かもののけ姫の世界観はそうだった。
それがシシ神パワー食ったからこうなったわけだ。
以上のことをさっきのドロドロぶわっ!事件でシシ神の意識が教えてくれました。
あ。ホントだ。神様パワーすっげ。良く見たら…俺の尻尾しゅごい。
8本あるぅ…。すっごいモフれそう。
九尾の狐ならぬ八尾の狼だ!かっけー!俺カッケー!尾獣も名乗れそう!
でもモフモフすぎて邪魔ー!
他
いざ自分がもふもふ尻尾になると邪魔極まりない。
そういえばモロの尻尾は2本だったような…。
じゃあ俺はモロの4倍強いんだな。(単純計算ケモノ脳)
うーん…。
どうしよう…。
と、とりあえず……。
そうだ…。
毛づくろいをしよう…。
俺はシシ神の泉のほとりにぺたんと座って白い毛をはむはむし始める。
ペロペロペロぺろぺろぺろぺろ…。
「……面倒なことになった…」
どこぞのプロジェクト・ファンタズマなセリフを呟いてしまった。
あぁ、そうだよ…ホント面倒は嫌だ…。
……。
………。
毛づくろいだ。毛づくろいをしよう…8本の尻尾のモフモフは保たねばならない。
これはもうモフモフ属性持ちの義務なんだよ…!
ぺろぺろぺろぺろはむはむはむはむ…。
というか…今って、もののけ姫的にいつの時代…?
モロはどこ…ここ?
いや…「俺がモロだ!」な展開になるとは思わないが…
だって俺チ◯コついてるしな…。
俺がモロだったら尻尾の数がもはや原作ブレイクしてるしな。
現状把握の為にはとりあえずケモノ達だけじゃ話にならないわけで…。
ここはシシ神の森だろうから、ちょっと出てみて人間と話してみたい。
大まかに今がいつの時代かわかればシシ神死亡までの猶予がわかるだろう。
え?なんで
だってその時までシシ神の森にいたら俺にも約束された死が迫り来るじゃない?
石火矢になんか撃たれたくないし。
エボシ御前の襲来がもう目の前に迫ってる時だったら
急いでこの森から逃げないとだからね(ニッコリ
(自分のことだけを考えるケダモノ)
鉄砲伝来してもどんどん東に逃げてきゃ細々生きていけるでしょ…多分。
あれだよ。北へ逃げるよ。
俺は北海道で生きる…然るべき時が来たら…。
北に定住してアイヌの人達に大神教えてオキクルミとシラヌイごっこやるから。
おっ…いいじゃん。妄想したらかなり楽しそうな気がしてきた。
そうだ。東北に大神伝来させちゃおう。
…。
……。
我ながらくだらん妄想ばっかしてんな。
寝よ。
夕日が沈みつつあるのを見て、
俺は明日の俺に全部任せてぐーすかぴーするのだった。
▽▽▽
「み、皆の衆ぅ!や、や、山犬だ!デっけぇ山犬が森の際まで来てる!」
ある日、猟師がそんなことを言いながら大慌てで集落に帰ってきた。
彼は村でも一二を争う凄腕の猟師で、大きな猪を狩ったこともある。
猟師の話を聞いたばあさまがギョッと目ん玉を丸くした。
「おめぇ山犬様が山からでてくるなんてぇ只事じぇねっぞ。
きちんと森に入る前にシシ神様にお祈りしたかぁ?」
「ああ、ああ、したともさ。こんどの狩りだってぜったい獲りすぎちゃいねぇ!
シシ神様の縄張りに、近寄ってすらいねぇ!
山犬様怒らすようなことぁ…オラしてねぇ」
村一番の長寿で知恵者のばあさまがウンウンと頭を捻る。
老婆の経験…彼女が今まで先達に聞いてきた口頭伝承の伝説では、
シシ神の森に住む山犬はシシ神を守護し、
そして時に森の怒りをその身で顕す神の使いだった。
「……じゃあ、おめぇ以外の奴が森さ入ったか?
誰ぞ知っとるかぁ?」
ばあさまが皆の顔を見回すが、誰も首を横に振って知らないと言う。
それはそうだ。村一番のあくたれだってシシ神様の森を汚すようなバカはいない。
シシ神の森は森そのものだけでなく、その周りの土地にまで生命の恵みをもたらす。
この村に住む者達は皆そのことを知っていた。
「な、なぁおばば様よ。オラの見間違いかもしんねぇのだがよ」
あわあわとしている猟師がさらに顔を青くして言い淀み、
一呼吸置いてからようやく言葉を紡いだ。
「山犬の尻尾がすんげぇ数だったんだ。ありゃさぞ名のある犬神様じゃと思う」
ばあさまはまた頭を捻る。
そんなに多尾の神がこの土地にいたとは初耳だった。
彼女が幼い頃に色んな話しをしてくれた村の古老達も
そのような土地神がいるとは一言もいっていない。
「すんげぇ数っておめぇ…何本じゃ?」
「ありゃ…そうだな…ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ、むつ…」
猟師が指を一本一本折って数えていると、今度は別の大声が遠くから聞こえてきた。
だんだんとその声は村に近づいてくる。
「おぉ~い!おお~い!おれだ!
た、たたたた、大変じゃ!!」
血相を変えて村に帰ってきたのは村一番の木こりの男だ。
ばあさまも村人達も嫌な予感を抱いたのは当然だ。
「なんじゃどうした!」
「や、や、やや、山犬様が…こ、こっち来とる!!」
その瞬間、村中が凍りついた。
村の主だった衆は全員ばあさまに泣いてすがった。
「ばあさま…オラ達は何で山の神の怒りさ買っただか」
「どうすりゃいいだババ様」
「こ、こうなりゃよ…もう人身御供をお供えして…お怒りを鎮めてもらうしかねぇ」
「人身御供か……」
「…………そういや、一月前に
「…………」
だが、すがられようが村で最年長かつ知恵袋のばあさまにも
何も良い知恵は浮かんでこない。
それこそ今すぐおせんの所から乳飲み子を引っ掴んで来て
山犬に献上するぐらいしか万が一の打開策は無い。
どれだけ話し合っても話し合っても、結局行き着く答えは人身御供であった。
村人らの目が怪しくどんよりとして来たその時である。
「あっ!ひ、ひぃっ!」
村の中年女が叫んで尻もちをついた。
村の外へ続く小さな獣道のずっと向こうに、
陽の光を浴びて白く艶々と輝く大きな大きな狼の姿があった。
野盗の類なら弓矢と薙刀、鍬に鎌を持ち寄って立ち向かうが…
相手が神の使いの大山犬ならば、これはもう話にならない。
村に直接、狼が来る時点でそれは神威による天罰。
雨風台風地震雷と同じなのだ。受け入れなければならない。
都の人間達ならば今少し違った見方をするかもしれないが、
少なくともシシ神の森に寄り添って生きる彼らは神に挑み追い払おうとは思わない。
青い顔で震えながら、やがて村人達は全員伏して山犬を出迎えるのであった。
▽▽▽
なぁにこれぇ。
第一村人発見と喜び勇んでストーキングして行ったら村人に土下座された。
うわ。
やっぱりこの時代、すっげー昔なんだって確信しました。
皆さんの格好が時代劇だよ。
うーん…でも、思ったより普通の時代劇っぽさ。
もののけ姫の時代は、少なくとも室町時代で戦国よりも前だったはず。
でも服装は結構変わんないんだね。普遍的ジャパニーズ服!
ほへぇー。
着物ってすげー。
「シシ神の森に住まう山犬の主よ……我らが里にお出でになりし事誠に人の誉なれど、
急の来訪にて我ら饗しの用意出来ず、平に、平に…ご容赦のほど」
ノシノシと土下座中の人間達に近づけば、こんなこと言われちゃう。
俺ってすげー。わはは、すっげー偉大な気分。
神様扱い気分いーわー。最高。
「…今すぐに赤子と乙女を用意しますれば…今少しどうぞお待ちを…。
おい、はよぉ連れて込んか…」
はぇ?
今なんかこのばあさん凄いこと言わなかった?
なんか…すごく勘違いされてます?
あっ、やっぱりそう?まぁ村人総土下座という壮観な眺めを見た時から、
ひょっとしたらあんなことやこんなことを思われてるカナー?って思ったけどね。
「……老婆よ。俺に一体何を差し出そうというのか」
山犬らしくちょっとワイルドで偉大そうな感じで聞いてみました。
「へ、へぇ…生まれたての赤子と…村一番の器量良しの未通娘でございますだ。
山犬様のお口に合うと思いますだで」
ほー。ふーん。
童貞の俺にいきなり赤ん坊と処女を物理的に食えと申すか。
いきなりそんな高度過ぎるプレイを要求するとはやりますねぇババア。
「ああ…おっかぁ!」
「すまねぇ…すまねぇなぁ…山犬様をお鎮めして村を守るにゃ…仕方ないんじゃ」
「いいだよ…オラ、村のみんな守れんなら、山犬様のとこ行ってくる。怖かねぇだよ」
「う、うう…」
「おせんも、許せ」
「泣くなおせん…赤子はまた生みゃええでな…」
「見ろ、おせん。もう山犬様が直々にお見えなんじゃ…
神様のお怒りを買ってしもうたら、わしらの一族はみんな祟られちまう」
「わかっとる…わかっとるよ…も、もう一度だけ…この子を抱かせておくれ」
ひょー!
何か…すっごい俺
眼の前でお涙頂戴物語が繰り広げられてるんですけどぉ!
え、なに…俺が今からあの娘達掻っ攫ってくの?
確定事項なの?
待て待て待て待て待て待てぇい。
あいや暫く!
「待て」
一言俺がそう言うと、村人達がキョトンとこっち見てくる。
俺、カニバリズムの趣味ないし。
いや確かに今は山犬だから食人って普通の捕食行為なんだろうけど。
多分、食えちゃうと思うよ。
いや食うね。お腹へってたら。
オゲェッてならずに食える自信あるよ。
今だってあの可愛い女の子と赤ん坊から良い匂いプンプン漂ってくるからな。
でも今お腹へってないし!いらないし!
眼の前であんな迫真のお別れ会開催されたら誰だって食う気なくすわ。
生粋のケモノ神ならかまうこたぁねーよ!って食うのかもだけど、
こちとら元人間の現獣神なんじゃ。
「何か勘違いをさせてしまったようだな」
「山犬様は…荒ぶり山を降りてきたのでは…?」
そうか。
そう受け取られるのか。
やっぱり互いに領土不可侵を守るって大事なんだな。
神様は腰が重くてなんぼ…それぐらいが安心される、と。
テリトリーは大事。オレ ドッグ オボエタ。
「……人間共よ。森を汚さぬ限り俺に贄など送る必要はない。
自然と共に生き、シシ神を恐れ敬え。
お前達が森と共に在る限り、俺はお前達をも守ってやる」
「お…おお…!」
「山犬様…!」
「あ、ありがたやありがたや、まことシシ神様の御使いは寛大じゃ!」
「ああ…まさか山犬様より直々に、これ程温かい御言葉を頂けるなんて」
「ああ!おせん!おせん、良かったのう!俺達の子は助かる!」
「あんた…!ああ…私の子…ぼうや…!」
「う…お、おっかぁ!あだじ…あ゛だじ…!」
「ああ、おしず…えかったのお!えがっだのお!」
…。
……。
ちょっとやめないか。
皆さん泣き止んで?
いつまで俺待ってればいいんだ。もう聞いていいかな。
「…俺が里まで降りてきたのは、お前達…人に聞きたいことがあったからだ」
「は、はい!何でもお聞きくだしゃれ!」
目を輝かした興奮気味の老婆が元気よく返事しすぎて
歯抜けの口がフガフガでサシスセソが変になっとる。
うわぁキラキラお目々から凄い信仰心を感じる。
悪い気分じゃないけど興奮したババアは勘弁。
誰かさっきの可愛い処女ちゃん呼んで!
ババアと交代だ!(憤慨)
「…まぁいい。
今日の日付を――」
俺ははたと口をつぐんだ。
うーん…教えてって懇願して良いのかな?神様の威厳的にそれはOKなのか?
神様先輩がそういう…神様ハウトゥー集とか教えてくれないから困る。
「へ、へぇ、今日の日付を…?」
「うむ…言ってみろ」
わかる。わかるぞ。
ババア…今オマエの脳内には疑問符がぐーるぐる回ってるだろう。
何いってんだこいつって思ってるだろう。
でも教えて下さいプリーズ。
「えー…のう、今日は何日じゃった?」
「ばあさましっかりしとくれよ。
(西暦871年3月25日10時頃)
「おおそうじゃったそうじゃった。ということでごぜえますだ山犬様」
にこにこ笑顔で答えるばあちゃん。
「?????」
ぼくのあたまのなかはハテナマークがぐるぐるしているゾ?
じょーがんとーとせあまり……なに?
なんだって?
ヤヨイとミノコクってのは何となく分かったよ。
ヤヨイって弥生だしょ?4月だろ。知ってるよ(違う)
…。
巳の刻ッてのは、ねーうしとらうーたつみーふんふんふんふんのアレだろ。
ウシノコクマイリって言うくらいだから…。
牛だから…あれは呪いで夜だから…麦わら人形釘で打つんだ…。
牛が夜だから………………ミってどこ……………。
…。
……。
もういいよ。(憤慨)
今は4月20日のお昼ちょっと前なんだろ。
太陽の位置でだいたい分かるからもういらないそんな情報。(ケモノ脳)
「うむ…そうか。人間の暦はそういうことになっておるのだな。
人は面白いことを考える……。
人よ…また面白い話を聞かせてくれ」
「へへぇー、もちろんですだ。いつでもお越しくだせぇ犬神様」
「まことまこと。八つの尾っぽの犬神様ならいつでも歓迎じゃ」
「我らの守り神じゃのう」
「贄もいらんと、我らをお護りくださる」
「村人一同、シシ神様と山犬様を敬い、森と共に生きますだ」
「贄はいらんと思し召しでしたが、せめてこちらをお持ちくだせぇ犬神様」
今の時代がさっぱり分からなかった俺は
気を落としたりプリプリ怒ったりして帰ろうと思ったが、
何かくれるっていうのでニコニコになった。やだ、私って現金。
「ほう何かな」
村人が中腰で小走りに近寄ってきて、
頭も上げずに両手で差し出したる両手には…。
なんだろう…。
穀物っぽい…。
米…ですかね…そしてこっちは…ビーフジャーキーみたいな…。
あと痩せてて小汚い野菜……。
これって…こんな時代のこんな田舎じゃ…山海珍味の御馳走レベルなのでは…?
米がクッソ高級品って聞いたことあるような。
いや分からないけど…室町時代の食事事情詳しくないし。
たしかアシタカとジコ坊はお粥食ってたよな…。
サンは、それこそビーフジャーキーみたいな干し肉をアシタカと食ってた。
…。
くそー!
羨ましいぞコンチクショー!あんな美少女の口移しでお食事ですか!
イケメンがっ!死ねっ!
く…つい思い出したら嫉妬心が……いかんいかん。
あんま嫉妬の炎爆発させるとタタリ神になっちゃうかもしれん。気をつけよう。
それにしても…うむ……。
断るほうが村人の心を蔑ろにする行為かもしれない。
「……お前達の汗水の賜物…心より喜んで贈られよう。
ではな、人の子らよ」
下敷きになってた風呂敷に包んで口に咥える。
メガテンシリーズっぽい捨て台詞を吐いて俺はそのままクールに立ち去るのだった。
チラッと後ろを見ると村人はずっと土下座していた。
この時代の信仰心すげぇ!
でも時代が下るにつれて
うわー引くわーー。
人間の進化速度こぇーわー。
まーでも今はまだ山切り拓いて鉄じゃ!って感じの人間いなかったし、
まだ大丈夫なのかな?(まだ原作開始まで最低でも約500年はある模様)
よーし、今日は久々に米食って寝るぞー!
―その夜。
お米…炊けない……どうやって食べるの…生?生食い?
生米…バリバリ…オレ、カナシイ。
俺は孤独に悲しみながら固い米を噛んで寝た。