目覚めたらそこはシシ神の森でした   作:もふもふケモノ大臣

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モロ・イズ・モースト・ビューティフル・ドッグ byヤツフサ

「ヤツフサぁーー!!」

 

「おお…懐かしいな乙事主――って!ごわーー!?」

 

「本当にヤツフサか!久しぶりだなァ…!百年超えてもオレに会いに来ぬとは薄情な奴め!

 もっと頻繁に鎮西に来い。お前の好きな酒もいつも用意しているのだぞ?」

 

出合い頭に乙事主が大好きタックルという名の殺犬ぶちかましをオレに直撃させて、

オレは全身イタイイタイなのであった。

いきなり過ぎて避けれなかったの。

 

「お、おごご…乙事主…もう少し…手加減覚トカ…ッ!

 オマエ手加減ってことばシッテルカ!?」

 

肺から全部空気抜けてカヒューカヒューしながら睨みつけてやるが、

 

「わははははは!すまぬすまぬ!許せ、なにせ猪突猛進はイノシシの誇りなのだ。

 だがお前ならオレの一撃にも耐えられるだろう?

 いやぁオレと同等の戦士が地上にいるとは嬉しいではないか…。

 どうだ?久々に一戦やるか?」

 

全然悪いと思ってないよこのイノシシ!

4本牙をぶんぶん振り回さないで!こわい!

しかも超ひさしぶりの再開を祝して久々に一戦ってなんなの?

お前は語り合うかわりに拳を交えたいバトル脳の戦闘民族なの?

このバトル脳豚!

せっかく西の方に来たから乙事主のとこ寄ってこーって思ったらこの様だよ。

 

「貴様…旧友だかなんだか知らぬがよくも兄様に…」

 

ほらモロちゃんも怒ってるよ。

(マイスゥイートラブリーエンジェル)を怒らせるとは…乙事主、愚かなやつ!

というかモロちゃんが怒るくらい傍から見たらヤバイタックルだったんだって。

あっ、ヤバイやつだ…ってオレも思ったもん。

普通に会話してると見せかけているけど、

オレ、まだ痛すぎて苦しすぎてペタンと座ってるからね?

今立ち上がったら足プルプルの醜態晒すよ?

 

「んん?ヤツフサよ、なんだこの犬っころは。前に来たお前の兄弟ではないな?」

「我が名はモロ。ヤツフサの………妹だ」

 

え?なに今の間は。

モロちゃん?

ひょっとしてオレの妹って名乗るのが嫌だったの?

うそ…お兄ちゃん、嫌われすぎ?

 

「ほぉ…モロか。よう来たな。ふぅむ」

 

てめぇこらイノシシ。

人の妹をジロジロ見るんじゃないやぃ!

うぷっ、さっきのタックルが胃に来てる…。

だめだ、吐くんじゃない…モロに無様晒すわけにはいかん…。

 

「こいつは驚いたな…大層美しい……」

 

むむっ?

 

「モロよ…お主、齢はいくつだ?」

「答える義理はあるまい」

「ほほぉ、気が強いな。このオレを前にして些かも鼻白むことがない。

 さすがはヤツフサの妹だ。素晴らしい…」

 

むむむ?

 

「どうだ、我が妻にならんか?

 鎮西のイノシシ一族と山陰・山陽の山犬一族がこの婚姻で血族となれば――」

 

むぁーーー!?

 

「やめい、乙事主!何を勝手に言っている…オレの妹に言い寄るな」

 

跳ねるように立ち上がってズザザっと両者の間に割って入るボク。

痛がってるばあいじゃないゾ、これは!

ブロックブロックっ!させねーぞイノシシ!

 

「なんじゃいヤツフサ。

 お前の妹とオレが結ばれればオレは晴れてお前の義弟ということになるのだぞ?

 めでたいではないか!なぜ邪魔をする」

 

お兄ちゃんは許しませんことよ…。

出会って3秒即合体なんて!

 

「オマエラは出会ったばかりだろう。おたがいをよく知りもせず夫婦になってもフコーを生ム」

「そんなものは交合ってからでも幾らでも間に合うだろうが。

 番になった後に互いを理解すれば良い!

 なっ、ヤツフサ!認めろ!そうすればお前とも真の義兄弟になれる!

 この乙事主を弟にできるぞ!いやぁ良いなぁ…義兄上!うむ!」

「あにうえと呼ぶなァ!!?お前みたいにデカくてムサい弟がいてタマルカ!」

「むぅ…?だがオレ以上のオノコはそうはおらんぞ。

 お前の妹とていつかは夫を迎えるのだから、オレでいいではないか。

 何処の馬の骨とも知れぬ獣に言い寄られるよりはオマエも気が楽だろう」

 

う。

うぅ…モロが…いつかはオレを置いて結婚を?

うぅ、そりゃそうだ…妹はいつか結婚してお兄ちゃんより旦那ラブになるんだ…。

はぐっ!

心臓が痛い。痛くなってきた。

あぁ、想像しただけでオレ死ねちゃう。

厳しい顔で乙事主とモロの間に立っていたオレだが、

だんだん耳がしょんぼり垂れてきてしまう…。うぅ…。

所詮、兄には妹の恋路を邪魔する権利はないのか…。

 

…。

 

……。

 

あへあへ(正気度低下)

 

「…まったく!男どもは勝手に話をすすめる!

 当事者を差し置いて私の婚姻云々を話し合うな……」

 

オレの背後から声までもプリティな妹のエンジェルボイスが聞こえてくる。

オレは正気を取り戻した!さすがだぜモロ。

 

…。

 

最近はモロの声質がちょっと低くなってきて威厳が滲み出てるというか…。

どことなくオサそっくりの声になってきたなぁ。

そのハスキーボイスもセクシーで可愛いぜ、モロ。あぁモロ、かわいい!

 

「乙事主よ、鎮西の総大将から言い寄られるのは悪い気はせぬが…、

 生憎と私は貴様と恋仲になる気はない。

 だいたい、山犬はイノシシを喰うのだ。

 我らが夫婦になれば、

 腹を空かせた私がいつかオマエを喰ってしまうぞ…はははは!」

「ふん!抜かしたな、小娘。オレを喰うだと!?

 まったく……本当に気の強い女だ!尚更気に入った!」

 

なにぃ!?

ハッキリとお祈りメールを送られたくせにまだお付き合いを諦めないのか!

ゲェー!化物かコイツ!

(※全員化物です)

図体から見て取れるタフさは心まで及んでいるのかー!?

こういうちょっとくらい鈍くて強引な男のほうがモテるって昔偉い人が言ってた!

はわわ…。

まずいぞ…!

それになんか……乙事主とモロはほっとくといろんなフラグ作りそうでこわい!

オレの遠い記憶というかゴーストというか、何かが囁いている!

おつきあい反対反対!はんた~い!だんこはんた~い!

お兄ちゃんみとめませんことよ!

 

「もう止めたほうがいいのではないか乙事主(震え声)」

「ふふっ!心配は無用ぞヤツフサ。いつかオマエを義兄と呼びたいものだ。

 だが、今日のところは引き下がろうヤツフサの妹よ。

 お?どうやら宴の準備も整うたようだな…ま、飲んでいけ!ヤツフサ!」

 

いつぞやのように大きなイノシシ達がこれまた大きな盃をズリズリと口に咥えて持ってきた。

何気に懐かしい面々だ。覚えてるゾ!

他にも見るからに美味しそうな肉も持ってきてくれている。

おお、乙事主……オマエ…イノシシなのに…

イノシシは雑食だけど主食は木の実とか草とか小さなネズミとかなのに…

こんなデカイ肉をわんさと用意してくれたなんてイノシシの流儀に反するのでは?

やっぱいいヤツだなぁキミ。(単細胞)

…。

ハッ!

いかんいかん…肉を釣りエサに使うとはやるな乙事主…ただの脳筋ではない!

だがだまされんぞ!

…。

…でも、まぁ…礼儀として?

出されたものは食べないと失礼だし?

まっ、多少はね?

 

ぱくり。

 

「っ!おお、コレだコレだ!この酒!ワォーーーンうまいッ!

 肉もウマいゾ!乙事主オマエいいやつ!」(食欲に敗ける駄犬)

「フハハハっ、気にするな。これらはな…オマエのお陰でもあるのだから」

「???なんで?」

「聞いたぞ、お主…海で大暴れしたそうだな?」

「…犬違いデス」

 

ばかな。

意図せずして人間エリミネートしてしまった、

早くもオレの黒歴史認定2号の認定を受けたアレがもう知れ渡っているなんて。

(黒歴史1号は乙事主一族とのイキリトバトル)

 

「いやいや、オマエに相違ない。

 地元の人間共がかつてのオレとオマエの鎮西制覇の伝説を、

 この前の渡来人撃退で大いに思い出したらしくてなァ…

 いつもよりも供え物が山となっていたのだ。

 八尾の神犬と四本牙の大猪といえばこの鎮西の人間では誰もが知る伝説となっていた。

 それを人間共は改めて思い返し、そして思い知ったのであろう!

 わっはっはっはっ!さすがだな、義兄弟!」

 

大笑いしながら乙事主がデカイ牙でオレの肩をばんばん叩いてくる。

懐かしいけど、それ黒歴史なの。ノスタルジーかんじないの。

しかもオレそのときずっと酔っ払ってたから記憶がおぼろげなの。

あと叩くのやめて。いたい。

肩が砕ける。肩に爆弾抱えちゃう。

 

「今回の渡来人の襲来はオレも噂で聞いていたからな…。

 大陸の馬賊共は木々を切り山野を焼き、野原にするを好むと聞いていたからなァ。

 此度の戦は我が一族も大和の人間の味方をしようかとも思っていた所に、

 オマエの大暴れを聞いたのだ。全く口惜しいことをしたぞ!

 何故オレにも声を掛けなかった!

 オレもオマエと大暴れをしたかった!!」

 

ぐわっはっはっはと笑いながら酒を樽ごと砕いてガバガバ飲んでる乙事主さん。

あらやだ豪快。男っぷりがイイじゃない!

…。

うん?

あっ。

モロが見ている!?

ま、まずい!

男のオレが見ても惚れ惚れする飲みっぷりに

モロの純で初心な乙女心がノックアウトされてしまうのでは!?

 

「おい、そこのイノシシ!もっと酒樽をもってコイ!」

「プギィー!」

 

元気よく返事してくれたイノシシがずりずり酒樽を引きずってくる。ありがとう豚!

負けねぇーゾっ乙事主!オレのほうが酒好きだもんね!

オレは負けじと酒樽をまるごと咥えて――

っ!!

あガガッ!顎外れそう!!

ぐぇーーー、外れる……外れない!かっこいいお兄ちゃんは顎はずれない!

砕く!噛み砕く!!

オラァ!樽の木片ごと飲んじゃるぞ!!

どうだモロちゃん!お兄ちゃんの豪快っぷり!!

 

「……はぁ~」

 

見ろ見ろぉ!モロちゃんが熱いため息をつくぐらいオレに見惚れているゾ!!(歓喜)

あぁモロがずーっとオレを見ているよ!

ほら、見ろよ見ろよ。

お兄ちゃんガンガン飲むからなァ~!

 

…。

 

……。

 

………。

 

 

―5時間後―

 

 

「うおぇっぷ!」

「ほら、兄様……しっかりしろ」

 

オレは今、両前足をスーパーマンのように投げ出し、

両後ろ足をウルトラマンのように投げ出し、

顎も地べたにピッタリくっつけてペタンコになって寝ていた。グロッキーだった。

 

「クゥ~ン…モロぉ…兄はダメな奴だ…酒に敗けてしまったァ…オェ」

「過ぎた酒は毒だ。…私が生まれる前の鎮西への旅で学んだのではなかったか、兄様」

 

前足で背中をさすってくれるモロ。本当に天使か。

 

「はぁ~~、モロはかぁいいなァ…」

「な、何を言う」

「…正直な所どうなんら?乙事主みたいな豪快な男がやっぴゃりいいのら?」

 

いかん。ろれつが回らない!

か、かっこよく頼れる兄の威厳が!

 

「…いや、私はもっと……ほんわかした男の方が…よ、良いと思う」

「ふぅーむ…ほんわかかァ~…じゃあこの兄とはまぎゃくだにゃ…。

 うぅ…なにせ…兄は乙事主にも張り合える大酒飲みの豪傑だきゃらナ…うぷ」

「……張り合っていたのか、やはり」

「張り合ってない!張り合ってナイぞ!なぜこのやつふしゃがおっきょとぬしと張り合うのら!

 モロの目線を独り占めされては敵わんと思って張り合ってなどおりゃん!」

 

うぃー…。

まだ酒が脳みそを巡っている。気持ち悪いが、脳みそはポカポカだ。

だが酔っているわけではない。脳みそが温かいだけだ。…ヒック。

 

「…ふ、ふぅん……そうかっ」

 

ぬ?モロめ…頬を染めて笑うとは!

乙事主のことを思い返してるのか!?

 

「うぅ…モロぉ~」

「はいはい…なんだ兄様」

「ゆるさんぞーおっきょとぬしと結婚はゆるさぬぞー」

「ほー、そうか…では……あ、兄様は……このモロに釣り合うオノコは誰と思う?」

「それはもちろんこのやつふしゃよ!

 オレのよめになりぇ!なってくらさい!」(ワンコスタイル土下座)

「そ、そうか…!うむ……そ、そう思うのだな…

 ま、まぁ兄様が…そこまで言うなら、このモロもやぶさかでない。

 確かに山犬一族で血縁ではない優れたオノコは兄様くらいだしなっ!

 し、ししし、仕方あるまいな!

 まぁ酒が入っていてそう言われるのは些か腹立たしくもあるが…!

 酔いが抜けてからまた改めて言ってもらうとして、だ!

 酒席の座興ではすまされぬからな!?いいな兄様!」

「おう!もちろんよォッ!このやつふしゃはモリョと結婚スルぞ!」

「よ、よし!では……酔っている時の口約束だけでは心許ない…。

 こ、このまま…その…夫婦の契りを結んで…だな」

「おぅ!まきゃせろ!兄のえろぱわーをおもいしらせてくれる!」

「うんうん…よ、よく分からぬが、では…あ、あちらの茂みに行こう兄様!」

「おぅ!よし、いきょう!きょうからオレとモリョはめおとでゃー……zzzz」

「起きろ!!」(迫真)

 

ぐわぁ!?なんだ!?モロがいきなりオレに噛み付いてきた!?

え?なんで?あれ?オレ一瞬寝てたな。

というか意識が途切れ途切れで…、あっ、ヤバイ…まだ世界は回っている。

んん?なんかモロが…言っている…。

くぁいい妹の声も何だか遠い…。

あぁ世界が遠いの。

回っているし。

世界はとおくてまわっているんだ!てんどうせつだ!

 

「で…なんだっけ?」

「あちらの茂みに行くのだったな?兄様」

「………しょうだっけ?……そうだったナ。そうだそうだ、行こう」

「うむ、行こう!」

 

オレはフラフラした超千鳥足であちゃらの暗ぁーい鬱蒼とした茂みへ向かっていく。

…?なんであんなとこいくの?

 

「なぁモロ?あんにゃとこで何すりゅんだっけ?」

「………い、行けば分かる。さぁ行こうっ!私が連れてってやる…!ほら行くぞっ」

 

うわー、妹に首根っこ噛まれてずりずりと引きずられるー。

モロもすっかり大きくなって…パワーついたなぁ。

お兄ちゃんうれしいぞー。

えへえへ(重度酔っぱらい)

 

「さ、さぁ…いいか兄様…いや、ヤツフサ…こ、これより…我らは夫婦ぞ」

「うんん?なんだモロ?なにを?

 ぬぉー!?な、なにをするー!?

 きゃぅーん!モロー!?

 アッー!」

 

 

…。

 

……。

 

………。

 

 

超頭痛い。

ガンガンする。

いやー、昨日は飲み過ぎてしまったね。

乙事主が肩をあまりにもバンバン叩いてくるから

お返しに尻尾ビンタした所までは覚えているんだけど…。

 

「ふぁ~~~~あ…どうやら吐き散らかす醜態は避けられたようダナ…。

 う~む、しかし何たる惨状…イノシシ共も皆、眠りこけている」

 

妙に心地良いダルさだけど、何か体がダル重だし何故か藪の中で寝ていたオレは、

首だけモソッと持ち上げて藪から出し辺りを見回す。

するとそこには腹丸出しで寝こける大量の豚!じゃなくてイノシシ!

うーん、ただの酔い潰れたオッサンどもにしか見えないゾ。

本当に神の獣なのかコイツら。

酔っぱらいおっさんズが酔い潰れて全滅してる年末の光景ダロこれ!

グーゴグゴーッグッゴーってイビキの大合唱すごいし。

はぁー、でもね。今オレはそんな下らないことで目くじら立てるほど心狭くないンダ。

なにせ…、

 

ふふっ^^

 

すっごい夢を見たんです。もうムフフでイチャイチャな夢をね。

いやぁ義理とはいえ妹とのあんなことやこんなことな夢を見ちゃうとか、

背徳感も手伝って最高のドリームでしたね。

なんなら二度寝してもう一度あの夢をみたいなー。

あんな淫夢いーいなーみーれたーら………うん?

 

…。

 

二度寝しようと藪の中に首を引っ込めたオレは、

自分のお腹側にくるんと畳んでいた八本の尻尾の中に包まれていたモロの姿を見た。

 

…。

 

あれ?

 

「ん……」

 

もぞもぞと動くモロがオレのもふもふ八尾に包まれて寝ている。

寝ている時にたまに出るあの深呼吸ため息なんなんだろうね。

それをやっているモロのため息呻き声というか、喘ぎ声というか、すごくセクシー。

そう、まるで昨夜のえっちぃ夢のように…。

 

むむ?

 

これは?

 

「モ、モロ?オマエ…いくら兄妹とはいえ、その…

 年頃の嫁入り前のメスがあまりオスと密着して寝ては…」

 

しどろもどろとは正にこのこと!

 

「…んん、ならば問題ないな。昨夜嫁入りした」

 

衝撃の妹の発言。

 

「はぇ?」

 

思わず間抜けな声が出てしまった!兄の威厳が!

 

「…ふふっ…兄様…いや、もう夫なのだし、ヤツフサと呼ばせてもらおうか。

 ヤツフサのせいで私は少し腰が痛い。まだ夫の尻尾に包ませて寝かせてもらう」

 

ニヤリと笑ってからモロちゃんはもぞりもぞりとオレの尻尾に埋もれていった。

 

…。

 

……。

 

はぅあっ!?

 

うおおおおおっ!!?

 

お、オレ…オレ、

またなにかやっちゃいましたか?(白目)

い、いや、オトボケてる場合ではない…ま、まさか、もしや、ひょっとして…。

ああああああ(ガクガクガク)

まさか昨夜の夢は夢ではなかった。そんな可能性が?

 

どうりで!

すごくリアルな夢だと思った!

見たことなかったxxxやxxxとかxxxの感触とか温かくてぎゅうぎゅうで…デヘヘ(スケベ顔)

いやそうじゃない。違うんだ。

 

違うんです。

 

ボクじゃないんです。

 

やめてポリスメン、オレ妹に手を出していない。

 

濡れ衣なんです。

 

ほんとです。

 

あぁっ!どう見てもオレです。妹に手を出しました。本当にありがとうございました。

これにてオレの犬生は終了です。

うわあああああ!!

でも…でも!

ヤバイと思う心以上に嬉しいんデス…!

罪の意識より達成感というか充足感がすごいぞ~~!

あれは夢じゃなかったんだ。

オレは本当にやってしまったんだ。

すごいぞ!妹ルートは本当にあったんだ!

行こう!数々の変態紳士の行った道だ!奴らは牢屋から帰ってきたよ!

 

…。

 

何も問題ないな。

だってオレとモロは血は繋がってないし!

いやぁ、よくよく考えればホント、なーんも問題ないじゃない。

うわへへっ!じゃあもっとひっついてラブラブしてイイんですね?やったー!

モーローちゃーん、イチャイチャしーよーおー。

 

「モロぉ~」

「んぅ?なんだヤツフサ…ふふっ、おいおい…くすぐったいな」

 

モロの首筋にすりすり~。

晴れて天下御免の夫婦になったからにはもう思い切りイチャラブしよう!

こうしてオレはスキンシップに性をだすノダッタ!

性じゃない、精を出すのであった。…やだ、どっちしろヒワイ。

 

 

 

 

 

 

オレは前回の旅同様、

結局また半年くらい鎮西の乙事主の山林でのんびりハネムーンを楽しんだ。

剣を捨てに来ただけのつもりだったのに、なぜだかまた色んな事が起きてしまったが、

まぁやっぱりこの旅の最大の成果はオレとモロが…、

ムフッ。結ばれてしまったことだろう。やったー。

 

帰り際、モロが乙事主にオレとのことを告げ夫婦になったとデッカイ声で宣言してた。

堂々とした男前っぷりを発揮する元義妹で現恋人…いや新妻❤(テヘペロ!)の後ろで

オレがもうテレテレでウヘヘって顔してグニャグニャしてたら乙事主は、

 

「なんだ、そういうことか!いやぁめでたいではないカ!

 羨ましい奴ダ、ヤツフサめ!こんな良いメスの心を射止めるとはナ!

 だが、お前とモロが晴れて結ばれたるは我がイノシシ一族の酒あればこそだ!

 忘れるなよヤツフサ!ワシが仲人のようなものだぞ!

 一生恩にきろ!ワハハハハハ!めでたいめでたい!

 こやつ嬉しそうな顔しおって!それならワシも振られた甲斐があったというものだ!」

 

とまぁ豪傑っぽくスッキリな人柄…いや獣柄でオレ達を祝福してくれた。

ホントにコイツも男前な性格してんな!

乙事主、オレのマジ友達!

今度来る時はシシ神の森の特産物をなにか作り出して持ってくからね!

…。

うーん、シシ神の森といったらやっぱりシシ神だよな。

じゃあシシ神の毛とか…。

尻尾の毛の数本、こっそりぶち抜いてもバレないだろ…今度やってみよ。

 

へへへ…まぁとにかくそんなこんなでオレとモロはラブラブ期に突入したのだよ~。

もうね、なんかね。

あの日から、クール系妹だったモロがクーデレ系妹になって

事あるごとにオレの首にほっぺたスリスリするようになったよ。

幸せ過ぎる。

 

「モロ」

「なんだヤツフサ」

 

意味もなく呼び合ったりしてぇ。えへへ。

モロも照れながら付き合ってくれるんだ。

オレ幸せだワン!

奥さん一生大事にするゾ!

 

「モロぉ~」

「えぇい、引っ付くな…歩き辛いだろう。ふふふ…困った夫だな」

 

あぁぁぁスリスリが止められない。

首勝手にモロへスリスリしてしまう。

すまねぇ妹。お兄ちゃん止められねぇ。

でも許してくれ…さっきまではオマエがオレにスリスリしまくってたんだから。

 

オレ達二匹は海峡を犬泳ぎで越えて、山陰方面の山中をゆっくり通って帰ったので、

シシ神の森(実家)に付いたのは年が明けて少しくらいの頃カナ?

 

帰ってそうそう、出迎えの第一声が

 

「その雰囲気…どうだい!?ヤッたのかい!?」

「兄弟!モロと交尾したか!?」

「とうとうオレ達も本当の兄弟か!ヤツフサ!」

「もちろん、ヤッたのだろうなモロ!ヤツフサを手込めにしたのダロウ!?」

「たっぷり1年近くも二匹だけだったんダ!当然盛っただロウッ!?」

 

この出迎えだよ!

どうなってんだシシ神の森!

頭の中はピンク色かよ!

デリカシーがなァい!

所詮ケモノ脳のオマエ(兄弟)達にデリカシーなぞ求めたオレがバカだったな!?

 

「ふっ、勿論だ兄上共、母様…!私の腹の中には既に子が宿っている」

 

!?

ちょっと!?

お兄ちゃん聞いてないよモロちゃん!?

いや確かに帰宅中もずっと暇さえあれば…えー、そのー、えーと…

その…愛し合ったけどもね?

うんうん、夫婦の特権というか…義務だからね?

まぁそりゃあんだけすれば確かにって感じですガ…。

家族のデリカシーの無さをさらっと流し臆することなく答えちゃうモロちゃん素敵!

精神的にタフになりすぎ!

ちょっと前までテレテレしてる乙女だったのに、なんかもうたくましい!

女は蝶とはこのことか!

変わるねぇ…でもモロの可愛さと美しさは変わらないけど!

 

「夫が間が抜けているからね…私がその分しっかりしないと」

 

うわっ、やだ。

この子たくましい。

かっこいい。

さすモロ!

 

「っっっ!!でかしたぞモロッ!!!さすが私の娘だ!!」

 

きゃわん!?

もうBBA声大きいよ。大きすぎるよ。ビックリしたよ。

長が年甲斐もなくぴょんぴょん跳ねるように喜んでいる。

年考えろよBBA。無理してポックリいったらどうするんだよ。

うわぁなんか大変なことになっちゃったぞ。

山犬一族に囲まれてもみくちゃにされてるぞ。

うおーーモフモフ天国だ!

おぐ、むぉ。

ぼほぅぁ。

 

「ウムウム、よくやったなぁヤツフサ!とうとうモロに手を出しおって!」

「これでオレたちは真の義兄弟ダナ!」

「コイツめ!オレたちの妹にようもヤッてくれたナ!責任を取レ!あっ、取ッタナ…」

「オレたちよりも早く嫁さん見つけて羨マシイ…オレも嫁欲シイ」

 

むへへ、羨ましかろう。

モロは最高に可愛いぜーーッ!

 

 

その日の夕飯は、モロにすっごいゴチソウがふるまわれた。

オレは普通だった。

何この扱いの差。

 

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

 

どうも。新婚のヤツフサです。

()()()!ヤツフサです。

ははっ、もうワタシも結婚しましたからね。

コレを期にちょっと落ち着こうと思いまして。

今日よりこのワタシ、ヤツフサは知的会話を志すのデスヨ?

子供も生マレたコトだし、

アッパッパーなパパだったら子供がホラあれでショウ?

学校の保護者参観とかにパパ来ちゃイヤだー!ってなるでしょう?

ソレは困りますからね。うフフッ。

そうそう、最近はワタシの実家の森で結構な頻度で

あの村の人間を見かけるようになってるんデスよ。

でも森に住む者は特に警戒していないデスヨ…ワタシも含めてナ…。

だってあの人達別に木を切ったり必要以上にケモノを殺すわけじゃないカラね。

必要最低限を殺し狩り、命に感謝し骨、皮、毛、排泄物含め、その全て…、

一片たりとも無駄にしないから見てて気持ち良い狩りっぷりナンダ。

んでな?

あいつら森に入る前にオレ達に聞こえてても聞こえて無くても森に祈って入ってくるンダ。

行儀いいデスゾなァ…。

コダマもあの村の人間見かけると首カタカタしながら追いかけっこしようとシたり、

あの悪口名人ショウジョウ共もあの村の奴らのことはある程度受け入れてルらしいゾです。

でも最近アイツラちょっと変わった面白いコトしたいってオレ達山犬にお願いしに来たノダ。

木の根を傷つけぬようにするし土中に暮らす生き物への迷惑も最低限にスルから、

モグラみたいに地中にいっぱい穴掘りたいってお願いしに来たンダ。

変わった願いダヨナァ。

なんでそんなコトしたいのって聞いたら、いつか森を汚す敵が来た時の為なんだって。

ふーん。

オレは良くわかんなかったから、

オサとモロに相談したらイイよって言うからイイよって人間に言ったげた。

人間はモグラのマネすると敵を倒せるんだなァ。

スゴイ!

 

―知的会話終了のお知らせ―

 

そんな感じで最近ちょっとだけ森の中が賑やかになってるけど相変わらず平和ダゾ。

ふぅ~~~、やっぱ実家ってイイなぁ。落ち着く!

子供も可愛いけど、それ以上にモロが可愛くてツライぜ。

旅を終えてモロと結婚しちゃって子供まで生まれちゃって、

なんか実感わかないままにオレお父さんダゾ!

しかも一匹生まれてもう十年後に第二子妊娠!

そして第二子出産の数年後に第三子妊娠!

その十数年後に第四子…!

あれよあれよという間に、子沢山ルート爆進ナノダ。

しょうがないね。

だってモロとオレはラブラブだからね。

普通のケモノと違ってオレ達神に近い獣は出生率低いってオサは言っていたけど、

ばんばん身籠もるぜ~、オレの奥さんはよ~。

む?

あれれ?

 

「オイ兄弟、ウチの三女は?オマエが抱っこシてくれてるんじゃなかったカ?」

 

のそのそ森を歩いてるデカイ山犬…兄弟に言う。

 

「あぁ、スンちゃんは兄貴が「面倒見ル」って言って奪ワレタ」

「なにぃ!オイ貴様、胸張って「オレが遊んでおいてヤルヨ」って言ってたジャナイカ!」

「オレだって渡したくなかったケド奪われたンダカラ仕方ナイダロウガ!」

「ヌゥ、クソ…じゃあちょっとウシワちゃんを見ててくれ…

 バカ兄貴からスンちゃん取り返してくる」

「ワォーーーン!まかせろ!オレサマ子守得意!ウシワちゃんにはオレ好かれてる!」

 

兄貴に奪われたくせに何いってんだコイツ。

本当に大丈夫か?

ふんとにもー!…もうすぐモロのおっぱいの時間なのに…!

スンちゃんはまだまだおっぱい離れでてきてないンダゾ!

三女と四女は甘えん坊ナノダ!

 

すんすんと鼻を鳴らせばあら不思議。すぐに我が娘スンちゃんの場所が発覚する。

パパ・ノーズは10里先の娘達の匂いまで嗅ぎ分けることが可能!

うぉー、いそげー。

おっぱいの時間に間に合わなくなっても知らんぞーっ!!

モロにどやされるのはオレと兄貴だぞ!

 

「いたっ!おい兄貴!」

「ほらな、ココを噛めば獲物は息が出来なくなって窒息死スルンダ」

「よせぇ!なに物騒なこと教えているンダ!まだ狩りは早い!」

「アッ、ヤツフサか。今な、スンに鹿の殺し方を――」

「まだいらないから!まだその子おっぱいの段階だから!」

「そんなことはない。我ら山犬の一族…獲物の仕留め方は早いウチから学ンダ方がイイ」

「教育方針はモロが決めるンダ。勝手なことヤッテ怒られるのは兄貴ダゾ」

「…」

「…」

「ヨシ、帰ろう」

「ソレガイイ」

 

父と伯父がくっちゃべっているのをキョトンと見ている我が娘スンちゃんマジ天使。

はわぁ~、可愛い。

モロに似て美人になるぞぉー。

オレはスンのやっこくて良く伸びる首の皮を甘噛して娘をモロの下まで輸送する。

後ろから兄貴も付いてくる。

こんな感じで赤ちゃん達の半分はオレとモロと兄弟達が、

そして残りの半分をオサが一手に引き受けて群れ全員で子育て中ダ。

核家族とは真逆だ。

楽っちゃ楽だ。

だけど各々が各々の正しいと思うことを教えようとするので大変っちゃ大変だ。

でも楽しいゾ!

みんなでワチャワチャ育児するのはイイゾ!

 

ちなみに今まで生まれた子はみぃんな女の子ナノダ。

もちろん全員可愛いけど、男の子生まれてくれた方がオレとブラザーズは好都合なのだ。

だって、なんか女性陣のオレたちオスを見る目がたまに凄く冷ややかでね?

あの視線、オレ耐えられない…ぅうっ。

だから兄弟と話し合ったんだ。

もっとオスの勢力を伸ばそうって。

なので今もオレとモロは頑張って子作り中だ。

次は男の子生まれるとイイなぁ~。

 

 

 

 

 

 

 

 

女の子生まれただよ!うわあああああ!可愛いぃぃぃぃ!!

やっぱ可愛いなぁ、何度見ても可愛いなぁ。

やっぱモロそっくりだなぁ。

 

「頑張ったな、モロ!よくヤッタゾ!」

「あぁ、もう出産も手慣れたものだ。任せてくれヤツフサ」

 

ペロペロとモロを労うように毛繕いしてやる。

 

「お前が望む限りどれだけだって私がお前の子を生んでやるさ」

 

やだ、オレの奥さんイケケン…。

メスなのにすごく男前なこと言うんだからっ!

 

「…惚れ直すナァ、モロ…愛しているゾ」

「どうしたんだい急に…ふっ、そんなことわかっているさ。

 …だが、その…すまなかった……また、メスで――」

「何を言う!元気なオレ達の子が授かっただけでオレは嬉しい!

 最高ダゾ!また家族が増えたんダカラナ!

 全てモロのお陰だ!そしてオサと兄弟達っ!オレは最高に幸せ者ナノダ!」

 

モロちゃんマジ天使。

もう男の子とか女の子とかじゃなくて、ぶっちゃけモロとの子作り好きですハイ。

 

「モロぉ~」

「…まったく…どっちが赤ん坊だか知れないね…フフ…よしよしヤツフサ」

 

モロの胸に縋るように抱きつくと、オレの首の背中側を舐めてくれる。

あぁ^~たまらねぇぜ。

モロのベロが俺の背中をつ~っと滑ると毛並みも綺麗になるし

背中のお肉へマッサージ効果もあってもう気が狂う程気持ちええんじゃ。

 

あ~…。

 

ほんと気持ちいい~。

 

そう、そこそこ…あー丁度そこカユイとこ…。

 

はふぁ~…(恍惚)

 

 

…。

 

 

あぁ^~モロの舌使いで昇天する~~。

 

 

 

 

スヤァ…。

 

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

 

おはよう!

 

ぼーっと毎日を過ごしていたらまたすごいトシツキが経った気がする。

ここ数年…、いや数十年…?

たぶん数百年はいってないと思うけど、シシ神の森めちゃくちゃ平和なの。

とくに言うことも無いの。

 

うーん…。

まぁ強いて言うなら森の周りに集まる人間がめちゃめちゃ増えて

何だかソイツらのこと嫌いなチューオーの人間が

武器持っていっぱい攻めてきたコトくらいカナー?(大事件)

 

最初大した数じゃなかったんだよ?森の周りに住んでる人間。

でもソコに少しずつシシ神の森が好きな人間が集まってきたみたいでね。

気付いたら凄い数になってたの。

人間って繁殖力スゲー!

ゴキブリみたい!(スゴイシツレイ)

 

故郷だしシシ神の森が好かれるのはオレもうれしい!

でもきっとシシ神の森ラブな人間が増えたのは

オレの地道な活動のお陰なのだよ…きっとな…。ふふふ…。

 

その活動とは……聞いて驚いてクレ!

 

手品ダ!

 

たまーに人間の里に顔出して(捨て忘れてて結局持ち帰ってしまった)あのボロい剣を

ピカーって光らせたりしての手品がきっと人間にバカウケしたんだナァ!

種も仕掛けもない本当の手品なんだ!

なんか念じると光るんですアノ剣!

スゴイんだよー?

オレが「ひかれー」って思うと光ってくれるの。

オレは山犬だから夜目がきくけど、人間にはコレ懐中電灯代わりになるんじゃないかな!

この剣があれば夜もバッチリよ!

あぁようやくこのボロい剣にも価値がでた!

もうモロにもオサにもゴミ剣とは言わせないゾ!

やっぱり捨てないでヨカッタ…(しみじみ)

 

 

そうやって手品ラブな人間が集ってできたのがシシ神の森の近所の集落なんだ。

『まつろわぬたみのくに』っていう名前の村なんだって。

名前長くない?

マツロワ村とかの方が言いやすいし短いし、なんかゼルダの伝説にでも出てきそうで良くない?

いやいや人間のネーミングセンスに文句言うわけじゃないよーやだなー。

いやそれでそのマツロワ村移住者にね、

遠くからわざわざ来た人もいっぱいいてビックリする!

ずーっと北の方からコッチに移り住んで来た奴ら曰く…

なんでもココラ辺にヤマトチョーテーの支配を寄せ付けないオロチの化身がいて、

ヤマタノオロチを御神体にして昔敗けた借り返すぞコラー!って感じの引っ越し理由らしい。

遠くからご苦労様ダゾ。

 

…。

 

なんか全部「らしい」「らしい」って、オレの情報不確かスギィ!

でもしょうがないンダ…だって全部人間の行商人からフワッと聞いただけの又聞き情報だし!

 

ところでヤマトチョーテーって誰だ?(日に日に馬鹿が深刻化する駄犬)

春風亭ほにゃらら朝系カナ?噺家さん?

そんな腕っぷし強い落語家さんなんだね…ヤマトチョーテーさんは…。

しかも………ヤマタノオロチの化身ってのも誰なんだろう…?

そんな凄い神様レベルがシシ神以外にまだいるとか…しかもこの辺にいるの?

そマ?

昔の日本ってこえぇぇ…余裕で魑魅魍魎が跋扈してるじゃないですかー。

歴史の授業でそんなん聞いてないぞー。

完全にファンタジーじゃないですかーやだー。

オレはシシ神の森に引きこもってモロと幸せに暮らすからな!

そんな物騒なヤツと鉢合わせしたら大変だよ!

 

とまぁ最近はヤマトチョーテーという超強い噺家さんと、

オロチの化身って噂の神が日本をウロウロしてるくらいでシシ神の森は平和なのさ。

ふふふ…どう?

オレって結構色んな事を知ってて頭イイだろう…。

えっうん…ヤマトチョーテーは知らないけど………。

 

…なに、その目。

 

イイよ、わかった。

まだ教えてやるヨ!

 

人間界のホットニュースのストックはまだ持っているのだよ!フフッ。

オレがただのバカではない…

超情報通だということを見せてやろう!(なお、情報を知っているだけで活かせないもよう)

 

シシ神の森周辺に集まってきている人間の部族の名前も知っているンダゾ!

スゴイだろう!

母体になった集落の連中以外に精力的に頑張ってるグループが2つくらいあるんダ!

まずは北からやってきたエミシノアビナガスネってグループ。

やっぱり名前なげぇ!

もう一つがヘーケノオチュードって人達。

こっちは名前がオサレ!

名前からして音楽活動に力入れてるんだと思う。(エチュードと勘違い)

2組ともなんか色々熱心なんだけど、

特にヘーケノオチュードって人達はオレを見る度に

 

「アントク様ーアントク様ー!」

 

ってわらわら寄ってくるから困る。

オレ、ヤツフサだし!アントクって誰よ!

犬違いも甚だしいよ!

 

他にも……ツチグモって奴らも挨拶に来たっしょー。

それに南の方からクマソのなんたら族…?

東の方からはモレヤの一族とか言ってた奴らとか…ヤトノ一族とか…

……あと、あとー…えーと…

とにかく何だかワンサカと来てるんだよ。

スゲーなシシ神の森。

愛されてるゥ!

いや愛されてるのはオレの手品かも!へへっ!

 

普通ならそんなにいっぱい人間が集まってきちゃうと

「いそのー森林伐採しようぜー」とか言うやつが出てくるもんだが、

その人達は「森愛してるぜ!」って人達らしくそんな問題起きないんだよ。

よかったー。

 

…。

 

あっ、そうだ(唐突)

あの人達の事も思い出した。

百ウン十年ぐらい後にコー族って奴も来たんだった。

チューオーで負けたコー族の……なんていったかな。

 

ほら、あの…。

 

首相の孫のデュエリストだか、メンタリストだかみたいな名前の…。

 

…。

 

そう!

DAIGO!

あっ、ちょっと違うな……あー…そうそう。

ゴ・DAIGO・テンノっていう…ロックな名前の人。

 

ゴ・ダイゴテンノ?

 

ゴダ・イゴテンノ?

 

ゴダイ・ゴテンノ?

 

ゴダイゴ・テンノ?

 

いやひょっとしてミドルネームいれるのかも。

 

ゴダ=イ・ゴテンノとか…?

…うーん…。

どこで名前区切るんだ?

ゴダイが名字かな?

宇宙戦艦でビームどーんって撃つアニメの主人公もコダイくんだったよな?

ゴダイくんだな。(確信)

なんでも色んな人にボロクソ言われて涙目になって西に逃げてきた苦労人なんだって。

チューオーって土地は悪口言う人が多いんだなァ…。

やっぱシシ神の森がナンバーワン!

だーれも悪口言わないゾ!

たまにショウジョウ達が人間の悪口言ってるけどね!

え?言ってるやついるじゃないかって?

 

……オレ、山犬 人間ノ言葉 ワカラナイ。

 

でね!そのゴダイくんは最初は南に行こうと思ったらしいけど

西にヤマタノオロチの化身がいるからコッチ来たんだって。(話題逸らし)

また出たよオロチの化身!

怖いなぁソイツ…。

 

お付きのクズの・キマシタケさん?だかクスクス・マスシケって人がそう言ってた。

かわいそうになァ。

ゴダイくんにもモロみたいな素敵な奥さんいれば慰めてもらえるのに。

あっ、モロはダメだよ?オレの奥さんだから。

 

でもゴダイくんはモロじゃなくてオレに会いたいって言い出したんだ。

ウッソだろお前、ホモかよ!

あんな美人犬差し置いて男のオレに会いたがるとか!

オレに会いたいってお手紙が

シシ神の森の端っこに一日も欠かすこと無く毎日届けられてオレは恐怖した。

ヘーケノオチュード達より熱心なんだもん。

 

面倒くさいし人間に会う暇あったらモロとイチャイチャしたいし、

何よりオレのケツの貞操が危ういと思ったので無視してたら、

ある日とうとう牛肉のお供えがあったから

「そこまで言うならしょーがないなー」ってオレも会うことにした。

 

いや、決して…決して食べ物に釣られたわけじゃないから。

ホント、ホント。

 

しかし今思うと牛肉に睡眠薬とかサーッ(迫真)されないでヨカッタ…。

今後は食べ物に釣られないよう気をつけないとな(戒め)

 

会ってみたらオレのケツを狙ってはいないと判明した。

ゴダイくんは無実だったんだ。悪いことしたなァ。

ゴダイくんはハッピーでロックな名前の割には普通のおじさんだった。

ちょっとだけクラウザーさんみたいな人を想像していたので残念だった。

 

そのおじさんは割とどうでもイイんだけど

隣りにいたクスクスさんが話が上手で面白いんだこれが。

あの人きっと頭イイ人だよ。

あんな話し上手なんだから間違いねェ!

でも、

 

「逆臣足利より守りたるこの三種の神器を、

 真の神器の持ち主たる御柱にかしこみお返したてまつりまする。

 神剣そのものたる御身がもとに残りの神器揃いし今…京に居座る逆賊へ天誅を――」

 

とか凄く難しそうな言葉を並べて色々言ってたが、

あっ多分コレ人間の戦争にオレを引っ張り出そうとしてるな!

とオレは鋭くクレバーに見抜いたノダ!

スゴイ!

だからオレは、子供も生まれたばっかりだし

モロとイチャイチャしたいし(ここ重要)でキッパリお断りさせてもらった。

でもこのおじさんはとても頭良さそうだったし口も達者だったのでオレは、

 

「…」

 

口を開かず秘技「チベットスナギツネの顔」を繰り出し、

「ごめん凄く興味ない」という意思を示したノダァ!

分からない時は無言に限るぜ。

でもそしたらものすごーくゴダイおじさんとクスクスおじさんがしょんぼりしてしまったので、

オレはさすがに可哀想になってしまい妥協案を出してあげた。

 

「…シシ神の森の中では誰もが皆同じ。

 森を敬い森の恵みに感謝し…

 日々を素朴な喜びの中で生きるならばオレはお前達を森の同胞と見ナソウ。

 同胞であるならば、お前達を追ってくる敵はオレの敵。オレがオマエ達を守ってやる」

 

フッ…我ながら威厳たっぷりに上手く言い包めたモノヨ…。

よくあるアレだ。

敵がきたら追い払ってやるけどオマエラ勝手に動くなよ!騒動起こすなよ!ってやつよ。

つまりオレなにもやる気ないからねってコトなのさ!

そんな感じで釘刺して住人として受け入れてコノ話終わり!

閉廷!解散!

シシ神の森で平和に嫁とイチャラブ生活してんだから、

オマエあんまオレを巻き込むなよオマエこの野郎!(半ギレ)

最後にはゴダイくんとクスクスくんがちょっと安心してくれたようで、そこは良かった。

 

 

 

 

で、これの後来ちゃったんだ…人間が武器持っていっぱいね…。

何故か怒りMAXな人間達がわんさかシシ神の森のすぐ側まで来て、

「ギテイが奪ったジンギ返せやあやかしもののけ共オラァン!!

 あと下賤な蛮族がココに巣食っているのは知ってるぞ好都合じゃ根切りじゃオリャー!」

的なこと言って森に攻め込もうとしてきて、

すわ!あわやケモノと人間の全面戦争かと思ったその時でした…。

わたしは世にも恐ろしいモノを見たのデス…。

 

なんかねー、アノネ~、

オレ達以上にブチ切れてる人間達が彼らにワ~って襲いかかって、

うわ何あの人間達…コワイって思ってよく見たら

シシ神の森の端っこで暮らしてるマツロワ村の人達だったの。

あの村の人達、殺意MAXで武士絶対殺すマンな感じになっててさ…

まさに武士レ○プ!野獣と化した村民!

もう一方的過ぎて見てるのも可愛そうになっちゃうワンサイドゲームだったワン…。

なんであんな殺意に満ちてたのか知らないけど、

とにかくなんか…むかーし戦争映画で見たようなえげつない戦争の仕方してたよマツロワ村人。

 

武士がワ~って走ってきたら地面がズボッてなって

その下にはうんことか腐った血肉が塗りたくってある尖った木の槍が敷き詰めてあったり。

武士がワ~って走ってきたら草の下とか木陰とかから

トゲトゲついた(汚物付き)木の棒がシュパーンッて飛び出してきて武士の顔面に刺さったり。

武士がワ~って走ってきたら

木の上にいつの間にか登ってて

エルフでレンジャーな感じにクラスチェンジしてたマツロワ村人が毒矢嵐降らせたり。

武士がワ~って走ってきたら

地面に溜まってた落ち葉の中からズザザってマツロワ人が飛び出てきて、

びっくりしてる武士の人の首をぽ~んって切り飛ばしたり。

武士がワ~って走ってきたら狙われてたマツロワ人が木の陰に隠れて、

数秒後に後ろに出てきて鎧の隙間から脇の下抉り切られたり。

 

オレとモロとオサと兄弟達(娘は留守番)は遠くからその戦っぷり見てたんだけど、

兄弟達は感心してたけど正直オレはガクブルだったよ!

あの人達の敵絶対殺すマンっぷり超コワイ。

完全無欠なバトル超人だよ!

もう武士が憎くて憎くてしょうがないッス!殺せて嬉しいッス!って滲み出てるんだもん。

武士かわいそうでした。

当然、敵のリーダーらしき人は涙目になって逃げ出したけど、

帰り道で見事にマツロワ人に首だけにされたらしい。

 

…。

 

な、なんかね。

後で戦闘民族マツロワ人に聞いたんだけど、

シシ神の森の周辺と樹海内の一部の地下に

ズオオオオって広大な洞窟網造ってあったんだって。

それがあの神出鬼没っぷりの理由らしい。

 

…。

 

……。

 

なんか…確かに、前…穴掘りたいって言ってた気が…。

 

はぇ~、こんな風に使うんだったんダ…人間スゲー…。

 

 

 

 

 

 

というね。人間コワイ事件があったの。

最近でシシ神の森に起きたちょっとした事はこんなものかな…。

 

あっ。

 

まだあったあった…すまんすまん。

 

それの後に、マツロワ村の中で酷い喧嘩が一回だけ起きちゃったの。

それもコー族のゴダイくんが原因だったんだよなー。

あいつトラブルメーカーか!

まったくもう!

 

先に住み着いていたエミシとかクマソとかツチグモの人達と超険悪でさ~。

しかもね、なんかいつもは寛大で優しいナガスネの人間達も

コー族にはやたら冷たくて「やろう、ぶっころしてやる」って槍もって追いかける有様よ!

しかも「ヘーケノオチュードのことも実は嫌いだった」とか衝撃のカミングアウトして、

もう全員でバトルロイヤル勃発よ。突如として。

 

バトルロイヤルがホント酷くてうるっさくて、

オマケにシシ神の森の端っこにまたも火が付いて大騒動になっちゃって…

森の動物も大慌てで騒ぎ出すし

コダマも全力で走り回るしショウジョウ共も全力で騒いでクッソうるせぇ!

そんな有様だからようやく寝付いた下のオチビが起きちゃって…

もう大泣きで大変だったんだ。

オレもその時は子守でちょうっと寝不足気味だったのでフラフラと巣を飛び出したら、

 

「…ヤツフサ。たまには私が行こう…

 いつも人間の調停をお前に押し付けてしまっていて申し訳なく思っていたからな。

 今回はまつろわぬ民どもの内輪もめ…大和の人間よりは我々神を敬っているからな…。

 森への付け火も、どうせ失火だろう。

 取りててオマエが出張ることもあるまい。寝ておいで」

 

モロがイケメンなこと言い出した。

もう相変わらずカッコ良すぎ!惚れる!

なのでオレは愛妻のお言葉に甘えてオチビと一緒にグースカ寝たのだった。

 

 

 

 

ちなみにモロが喧嘩仲裁?しに行ってからは

もう二度とマツロワ村の人間は喧嘩しなくなった。

 

…。

 

い、一体どんな仲裁をしたんだ…?

 

未だにオレは何故かそれを聞けないでいるンダ…でもきっと…根気よく話し合ったとか…

そんなんじゃないかな…そうだといいな…うん。そうに違いない。

 

しかしさすがだよなァ…シシ神の森。

人間も動物も色んな奴らが一箇所に暮らし出してて…。

まぁ日本最後の神様の森らしいからね。

アイツがいるお陰だなァ…。

さすがシシ神。

腐っても神。

 

ホント、シシ神目当てに色んなそういうよくわかんない部族が挨拶にくるんだよ。

でもアイツがフリーダムに森を駆け回っているせいで、

会いに来る人間とかに面会するんの主にオレなんだけど。

夜は夜で寝ないで巨人になってどっか歩いていっちゃうから文句言いたくても中々言えねぇ!

まったく…シシ神マジゴッド…。

 

いいなぁ。

いつかオレも変身したいなァ…シュバーって!

変身カッコいいナァ…。

巨人モードとまでは言わないケド…せめてこう…アマ公みたいに隈取しゅぴーんな感じで…。

 

あとオレは一体いつになったら筆しらべ使えるようになるんダロウ。

最近子育てばっかりで練習してなかったからなァ…また再開しようかな!

 

 

 

 

 

 

 

 

でもやっぱりモロと子供がナンバーワン!

子供達のことちゃーんと考えなきゃだワン!

丁度今、オサの洞窟で一族の話し合いの真っ最中なの。

今まではずーっとむずかしい話をモロとオサがしてたから長い長い回想モードしてたけど、

子供らの話題になった途端オレの真面目スイッチ入ったダヨ~。

ホラ、丁度オサがその話題の佳境にはいったぞ!

 

「……というわけでヤツフサとモロの長女・アマ、次女・シラヌイ、三女・スン、四女・ウシワ、

 皆良い齢となった。未だ独身の息子達の嫁に貰えぬか、モロ。少々年齢差はあるが…」

 

うーん…こうして我が娘達の名前を改めて聞いてみると…見事に大神(ゲーム)だな。

オレの趣味丸出し!

でもこの名前モロちゃんも許可してくれたからね!問題ない!

しかし一端の大人山犬(しかもみんな美犬)になってきた娘達だが……

実はね……

なんと後5匹ちっちゃい娘いるんだよ。

連続でみんな女の子だよ。よくがんばってくれた…モロ…!

へへっ、今年こそ男の子生まれるとイイなぁ~。(モロ、現在第10子妊娠中)

 

…。

 

って何ですと?我が娘達を兄弟の嫁に?

可愛い娘達をあんなオッサンどものお嫁さんに!?

(※300歳年下の義妹な犬を嫁にした犬がいるらしい)

いくらなんでもパパ、認めませんよ!

ほらモロも言ってやんなさい!

 

「構いませぬよ、母様。

 兄上達もいつまでも独り身では寂しいでしょうし、

 何より森を出ずに嫁を得れば我が一族は数を増し森を守りやすくなる。

 増えすぎても森の動物達に負担がかかるが…人間が力を増している昨今、

 一族は集い、数を増した方がいいでしょう」

 

許可でたーーーーーっ!!

で、でも本犬達の意思もちょっとはソンチョーして…

 

「あの娘達もにくからず兄上達を想っているようですし」

 

そーなの!?

パパ初耳よ!?

ブラザーズぅ!!!いつのまに娘たちとフラグ構築してやがったァ!!!

ちくしょーめっ!!

あぁ話が勝手に進んでいく!

なんてこった、旦那を差し置いて重要そうな話を進めるタァ!

くっ…しかし、まさかアマちゃん達が兄弟達のこと好きだったなんて…。

うわぁぁパパはどうすればいいんだワン!

ぐわはああああ!

 

…。

 

……。

 

―ヤツフサ、思考停止確認!―

 

モロにお任せしよー。(現かしこさ8(最高値255))

 

「ヤツフサも…それでよいかな?」

「勿論だ、モロ。構ワヌゾ!」(反射的無思考返事)

 

モロとオレの返事を聞いてオサもうんうん頷いて嬉しそうに笑っている。

 

「よかった…また一つ懸念が無くなった。

 森を守るためとはいえ、息子達には嫁探しにも行かせてやれず心苦しく思っていたからね。

 モロとヤツフサが結ばれてくれさえすれば…そう思っていたが、

 お前達が娘をこうも多く生んでくれて我が一族は大助かりだ」

 

オサとモロが真面目に話し合っているけど…

ふと疑問に思ったんだオレ。ちょっと聞いてイイ?

 

「なぁなぁモロ」

「どうした」

「オレ達の娘を兄弟に嫁がせるのは別にいい。

 よくわからん外の山犬よりも良く知ってるし、

 兄弟達なら娘を大切にしてくれるって分かっテテ安心だしナ!

 でも血が濃くなっちゃうけど大丈夫ナノカ?

 キンシンケッコンっての繰り返すとバカが生まれるって聞いたことアルゾ?」

「すでに全員バカだろう」

「そっか!」

 

オレは納得した。

 

「というのは冗談としてだ…ヤツフサの心配はもっともだが、

 私達の娘らはお前の神の血の方が濃そうだから大丈夫だろう。

 伯父、姪の間柄は親子、兄妹程血も濃くないしな…ぎりぎり許容できる。

 一族の衰退には繋がらんだろう。

 それに、我が一族において今最も大事なことはお前の神の血を一族に入れることなのだ。

 その為には娘らを兄上達の妻とするは都合が良いのさ」

 

冗談だったのかよさっきのは!

オレ納得しちゃったじゃない!(←バカ)

何だか、モロがとっても頭良さそうな事を言っているゾ。

さすがモロ!

頭良くてクールでかっこよくておまけに美人で可愛くて妹属性も持っているオレの最高の妻だ!

一生ついていくぞっ。

オレはただモロが言っていることに感心しながらウンウン元気よく首を縦に振るのみだ。

だけどまたまた疑問が湧いてきた。

新しいオチビが生まれておっきくなった時には

もう周りに家族意外のオスがいないんじゃない?

 

「娘らは良い伴侶も見繕えてこれで一安心だが、新しく娘が生まれたらドウスルンダ?

 大きくなった時に周りに適当な独身のオスがいないぞ」

「そうなるな…だが、もともと我ら山犬の一族は長とその子らだけで群れを作る。

 一族の当主とならなかった兄弟姉妹は

 大人になると同時に番と己の群れを求めて外界へ旅立つもの…。

 私達の母様と父の関係を覚えているか?

 父は妻を求めて各地を流離う定住しない流れ狼で、まさにそれをしていた。

 今、我らの世代が特殊なのだヤツフサよ。

 次期首領たるお前が在りながら兄上達がいる今がな。

 もし新しく娘らが生まれ大きくなった時には…

 本来の山犬一族の掟に従い外界へ婿探しへ行かせるしかあるまいな」

 

次期オサがオレっていうけどさ…

じっさいはモロだよね?

モロでいいんじゃない?

オレお飾りの実感スゴくあるんダケド!

まぁそれで一族がうまく回るなら文句一切ないし、

尻尾2本のモロより8本のオレの方が見た目確かに偉そうだしネ!

…。

いや、そんなことより…つまりオチビ達が大きくなったら外に男作ってお嫁にいっちゃうの?

えぇ!?

そんな!

そっちの方が重大事だワン…。

 

「娘出ていっちゃヤダ…」

「おいおい…ヤツフサよ、お前は一体何年後の心配をしているんだ。

 まだ生まれてもいない娘の心配もないだろうに…。

 今の所、娘の数と兄上達の数は同数…嫁の貰い手はいるということ。安心しろ。

 それに必ずしも外界へ行かせると決まったわけでもない。

 もし将来、兄上達と娘らの間に元気なオノコが生まれれば、

 そいつらの成長を待って婿にしても良いじゃないか」

「なるほど!それだったら安心……、

 ん…?でもそしたらまた血が濃くなっちゃうぞ。今度こそ頭ワルイのが生まれて…」

「大丈夫だ。お前の神の血がある」

「えぇ…オレの血にそんな効果あるノカ…?」

 

でぇじょうぶだ、仙豆がある。みたいに言われても…。

別にオレの血、万能薬でも何でも無いと思うんですけど。

本当に大丈夫なの?本当?

 

「大丈夫だ、私を信じろヤツフサ」

「ワン!わかった!」

 

モロが大丈夫って言うから大丈夫だな!

頼りになるぅ!(単純)

 

「…これで話し合い終わったカ?」

「ん?どうです母様、まだ何かありますか?」

「いや、話したいことは今の所もう無い…呼び立ててすまなかったね、お前達。

 もう帰って夫婦水入らずで過ごしておいで。

 ………あぁ、そうだ。孫たちは今日は私の洞窟で預かろう!

 夫婦で過ごしたいだろう?遠慮せず預けなさい」

「…オサが孫と過ごしたいだけでは……?」

 

オレの名推理が光る。

 

「…………何を言う。私はただ若夫婦の子育ての苦労を軽減してやろうとしているだけさ」

「母様、私達はもう十もの子らの親で子育てのイロハも心得ていますが」

「……十?孫は全員で九匹で……。っ!まさか!」

 

オサがギョッというお目々でモロとオレを見る。

はっはっはっはっ!

そのまさかだオサ!

 

「えぇ、お腹の中に十番目のヤヤコがいます」

「なんと…!さ、さすがだモロ!でかしたよ!

 すでにそっち方面でも私を越えたな…!

 あぁ、あぁ、子は何匹いても良い…!また孫が増えるか!賑やかになるねぇ。

 まだまだ私も死ねぬよ…また生きていたい理由ができた!」

 

…………このBBAまだまだ生きる気まんまんじゃん…。

だってこれから先、兄弟達のとこも子供生まれるだろうし…

うわぁベビーラッシュ始まるゾ、コレ…。

オサ1000年いけるのでは?

記録だな、そうなったら。

 

…。

 

そうなるといいなァ。

 

…でも山犬一族増え過ぎたら、餌になってくれる動物死滅しない?

ヤバ気な感じ?

 

……。

 

シシ神のケツ引っ叩いてもっと命生み出せオラァン!すればいいか!(不敬)

 

 

 

 

 

 

 

―あっという間に数年後―

 

 

ウーっわんわんっ!

今日も元気にナワバリの見回りに子守もスルわんっ!(背中に2匹の子犬がライドオン)

 

モロに言われて背中に子犬ちゃん達を括り付けてシシ神の森を闊歩しているオレサマなのだ!

いつも子育てに忙しいモロを少しでも手伝わなきゃな。

今、モロは上の子達への色々な教育に忙しいんだ。

 

え?

 

そうそう、

五女・スサノ、六女・クシナ、七女・ヒミ、八女・ツヅ、九女・ラオの合計5匹は

順調に成長して今じゃモロのお勉強を受けている。

子が大きくなるのはあっという間ダナぁ…。

あんなちっちゃなオチビちゃん達がもうあんなデカイなんて…。

オレも齢を取るわけだ……。

 

…。

 

齢とった?オレ。

 

なんかでも水面に映るオレの姿とか体の軽さとか、正直全然年取った感が無いんだけど?

いつまでも元気一杯なんだが?

自分で言うのもアレだけど、

年取ったらイゲンってもんが出ると思ってたけどイゲンあまり感じないノダガ…?

アイ・アム・アダルトチルドレン?

モロだっていつまでもお肌ツッヤツヤで

お肉も引き締まってて弛んでないし毛並みも綺麗だし…

元気一杯夫婦なんだが?

夫婦そろってウィー・アー・アダルトチルドレン?

 

…。

 

これは…。

 

あれか…!

 

あれなのか……!?

 

 

 

 

いつまでもオレとモロがラブラブだからかぁ!(デレデレ顔)

 

夫婦の夜の営みだってかかしていないし…

今もモロのお腹には12番めの赤ちゃんいるし…ヌッフッフッ。

他人(他犬)を愛しているといつまでも若々しいって説あるしね。

まさにオレとモロだね。

()()にオレとモロだね。フフッ^^

 

 

…。

 

 

なに?その目…ナニカ イイタイコト アルノ?

 

…。

 

じゃあ俺、獲物とって帰るから(棒読み)

 

うーん…スンスン…スンスン…。

 

おっ、あっちから獲物のニオイすんじゃーん。

見てろよ見てろよ~、父ちゃんバッチェ獲物取るかんな。

 

はー!それにしても…今日もポカポカ陽気過ぎるゾ。

シシ神の森は平和だ…平和過ぎる…コダマがアホ面して首ふってるし、

アッチではイノシシが走ってる…ナゴの守の一族だな?

なぁんだ…獲物のニオイってあいつらか…うーん、どうしようかな。

あの程度ならオレ一匹でも楽勝――

ヌッ!ウリ坊!?

…ひぃ、ふぅ、みぃ……

7匹の子持ちかよー。

 

 

…うちの方が子沢山だし!(勝ち誇り)

 

…。

 

どうすっかな~オレもな~。(子持ち同士のシンパシー)

ちぇ、しかたないなー。

まだちっちゃい子供に免じて狩らないでおいてやらぁ。

子供まで狩っちゃいけないのは狩りの鉄則ってそれ一番言われてるから!

決して可哀想とか可愛いなぁとかソンナ陳腐な心じゃないンダカラネ!

本当はオレ冷酷な狩人なんだぞ!ハンターなんだぞ!

オラエラ運がいいなイノシシども。

アバヨ!いい夢見ろよ!

 

しかたねぇ。独身の寂しそうなイノシシでも狙ウカー。

狩られても誰も泣かない独身獣なら許されるダロ。(偏見)

 

…。

 

うーん。

 

結構歩いてきたな。

独身っぽい獲物いないなー。

この季節はみんな奥さんと子供いるなー。

全員リア獣かよー爆発しろよー。

 

も~、歩き続けたらこんなとこまで来ちゃったじゃない。

ナゴの守のテリトリー山ももうすぐ終わり…シシ神の森の際ら辺か。

背中のオチビども熟睡してるなァ…。

 

…。

 

むぐぐ…寝顔見たいのに…丁度見にくい位置に…ふぬぁ!(グキッ)

 

あら~…寝顔くぁいい!でもオレの首がおかしい!

おかしくない?

完全に…寝違えた……!

ん?

おお、首が曲がった先の景色のイイこと…。

ここら辺からの景色は相変わらずイイなぁ。

人界もよく見える。

色んな人間が集まって出来たあの集落もバッチリ見える。

…何て言ったか……マツロイーヌ村…いやなんか違う。…マツロワ村?

そうそう、マツロワ村。

…人間の飯時に出る煙があそこらの森の隙間からニョキニョキ立ち昇ってる…。

村の人口は大分増えたみたい。

でもアイツラ、人口が増えたからって森を切り開くんじゃなくて

うまく森に住んでくれるんでコッチも嬉しい。

コー族が引っ越してきた時のマツロワ村での大喧嘩事件からこっち…

あそこは問題も起こすこと無くシシ神の森と共存できている。

パリピな名前のコー族のおじさんはとっくに寿命で死んじゃったけど、

あの村で新しいお嫁さん見つけて子供が生まれて、その子孫が今もあの村にいるんだよ。

ヨカッタなぁ~おじさん!マツロワ村の人とも仲直りできてたってことだな。

はぁーこういうのイイねぇ。

命が紡がれてるネェ…。

マツロワ村の前身の集落から見てきた身としては感慨深いよね!

なんかシムシティみたいで楽しいです。(どうでもいい記憶だけ覚えている駄犬)

その調子で頼むよ人間ども~。

ずっと森も人間も平和だといいなァ。(フラグ)

 


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