目覚めたらそこはシシ神の森でした   作:もふもふケモノ大臣

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ようやく原作キャラがぽつぽつ増えてきました。満足感ある!

今話も歴史・原作の捏造改変の嵐になってますのでご注意を…(今更ですが)

三連続更新で力使い果たしたので、またモフモフ成分補充しにいってきます。
次回の三連続更新ぐらいで終わらせられる…かも?


赤ん坊拾った、男の子生まれた

「なぁおい聞いたか。なんぞ、将軍様の軍が大負けしたそうじゃ。

 ほら…例の、あのお犬様に喧嘩売っちまったってよ。天罰くらったんだと」

「聞いた聞いた。随分えれぇ大将がわんさか死んだって聞いたぞ」

「おらも聞いた。もう京はヒデェ有様だってよ…まったく将軍様も余計なことしてくれるよなぁ。

 お犬様怒らせて祟りを国中に広げちまったって言うでねぇか!」

「おーい、おぬしら!くっちゃべってねぇで手ぇ動かせぇ」

 

長閑な農村にさえ京の噂は広がっていた。

実態は少々異なるが、将軍方の軍勢がシシ神の森に手を出して、

そして歴史的大敗を喫したという認識は衆目の一致するところだった。

 

実際には、シシ神の森の犬神は手を出していない。

将軍の軍勢を散々に打ち破り、

数万で京を出た軍勢が僅か数百騎にまで減って京に敗走してきたという結果を齎したのは、

西…シシ神の森へ逃げ込んだ宮方と…彼の地に先住していた古代の流浪の民だった。

 

極めて因縁深い確執はあったものの、同じ敗残の身として…、

また神域で生きる者としてまつろわぬ民は宮方を()()()()()受け入れた。

受け入れられた宮方…その中に後世ゲリラ戦術のプロと言われる

稀代の名将・楠木正成がいたことはまつろわぬ民達にとっても良いことだった。

まつろわぬ民達の得意とした戦法と楠木正成の戦術はピタリと符号したし、

また当初は彼らも後醍醐天皇という存在には強い不快を示したが、

楠木正成とは戦の思想も近しいのもあり、ある程度の親交を結びだし知識を交換しあった。

その交流を経て、僅かな期間で正成は、

個としては優れた戦士であるが軍団行動が不得手であった彼らまつろわぬ民達を

ある程度の軍として動けるまでに練兵してしまったのだ。

しかも中国山地を覆う広大なシシ神の森の周囲は、

彼の民らが長年に渡って張り巡らせ続けた土中の〝結界〟があった。

山と谷、鬱蒼とした樹海、そして土中の秘密道という天険にして要害堅固な地。

奇襲戦法に長け軍団として動ける戦士集団である現地民。

そして過去の確執を一時でも拭い去れる、シシ神の森へ迫りくる敵軍という目前の危難。

犬神の神域を汚す大敵を打ち破るために彼らは手を組み、

その結果が将軍方のほぼ全滅というものだった。

 

その後、後醍醐天皇とまつろわぬ民達が内在していた問題が表面化し大いに争ったが、

犬神モロの君が烈火の如く怒り、裁き、そして調停し両者を和解させた事で、

かつての歴史の敗残者達は本格的に一勢力として人々に見なされだした。

歴史の表舞台に古代民族達が帰ってきた瞬間だった。

またそれだけに留まらず西方皇家と合体したことで一気に強い正当性を持ち、

この出来事から後の百ウん十年は『東西朝時代』と後世呼ばれる。

 

愚かにも神に楯突き、挙げ句大方の予想通りに無残に敗北した室町幕府は、

その初めから既に権力の崩壊が始まっていたのだ。

各地の守護大名から侮られ、既に将軍家の命を忠実に守るものなどどこにもおらず、

自転車操業を続けた幕府が100年以上も持っただけでも評価出来ると、

後世の史家にもそこだけは評価されるのだった。

 

幕府が完全崩壊し東西朝時代が終了するのは、

応仁の年に勃発した騒動が直接の原因で『応仁の乱』としてつとに知られる。

一方的に抱き蓄積し続けた西方の神への恐れは、歴代将軍の持病となっていた。

人間が自ら作り出した幻影の祟りに将軍家は苦しみ続け、

そして応仁の年…時の将軍は祟りの解呪にとある凶行を実行し、

それこそが応仁の乱の引き金となった。

 

『時の帝の、三番目の皇女を西方の神への生贄に捧ぐ』

 

恐怖と狂気の体現とも言える宣言は、

守護大名達を始め多くの人々の心を完全に幕府から引き離した。

幕府の言い分としては

「三の皇女は帝の不義密通の子であり、贄にだしても別段、帝の御心は傷まない」

ということだったが、勿論そんなことは帝は言っていない。

将軍か或いはその知恵袋かの独断による凶行なのは明らかだった。

将軍家の凶行を止める為、

そしてあわよくば自らこそが新たな天下人にと望んだ守護大名達が一気に京へ攻め上り出し、

また生贄こそが本当に犬神の祟を鎮めると信じる勢力や…

いやシシ神の森の山犬は神を騙る妖犬であり退治すべしと言う者らも幕府の下へ結集し、

様々な思惑と欲望を持った人々の手によって近畿のそこら中で大きな戦が巻き起こった。

騒動の中枢…千年の都・京は紅蓮の炎に包まれ、

かつての栄華を忍び見ることも出来ぬ程に荒廃した。

 

 

誰が忠義者か野心家かも分からず、

誰がシシ神の森を守ろうとしているのか、

誰が犬神を祟り神として恐れているのかも分からず、

誰が敵か味方かも分からず、人々は壮絶に争い続けた。

 

 

そして、その大乱の中で生贄に選定された帝の娘…

三番目の皇女の行方が分からなくなり、

時の帝は己の無力を呪い、人心の荒廃を憂い、

先祖が作り上げた花の都を失墜させたことを悲しんだ。

もともと信心深く柔和な帝はとうとう病に伏せてその命を堕としたが、

荒れ果て権も財も失っていた朝廷は葬儀もできず、

また騒乱に夢中な幕府も大名も資金の援助を拒み

その遺体は数十日も禁裏に放置されたという。

 

帝が最後まで憂い、そして近侍の者も必死に捜索した三番目の皇女…、

三の姫はとうとう見つからなかった。

何者かが生贄とする為に密かに誘拐したか、

或いは生贄にはさせじと三の姫の命を守るためか、

三の姫は、とうとう見つかることはなかった…。

 

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

 

わおん!

今日もシシ神の森はめっちゃ平和だわん!

 

森はー広くてー苔だらけー♪

コダマはー頭揺れてるよー♪

ショウジョウはーうるせーよー♪

イノシシはー食べるとウマいー!

鹿もー食べるとウマいー!

シシ神とー鹿は似ているケドー食べると味違うー♪

 

どう?

シシ神の森の歌なんだけど。

作詞作曲オレだから問題ないね。

サビの部分はイノシシと鹿のとこダ。

あそこは魂込めて熱く歌うンダ。それがコツかな?

 

あー、日課の見回りも5、600年もやってると慣れたもんよ。

シシ神の森でオレに分からないことなんてもはや無いと言っても過言ではないダロウ!

さすが山犬一族の現当主!

ぜーんぶモロに仕切ってもらってるけど一応オレが当主らしいよ!

モロとオサがそう言ってたから!

 

おっ、気付いた?

 

そう。

 

そうなんだよ。

 

オサまだ生きてんだよ。

 

スゴイよねー。

ご長寿だよねー。

ご長寿早押しクイズ面白かったよねー。

オサ生き続ければあれに出てもらおう。

きっとボケきったオサの素敵な回答が見れルゾ!(なおコイツも600歳のもよう)

 

でもさー、こうしてシシ神の森の端っこの方走ってるとさー。

最近思うんだよ。

 

また周りうるさくね?

なんかしょっちゅう刀がキンキンでドカンドカンって音するんだよ。

いや、シシ神の森は平和なんだけどネ。

 

ふむぅ…。

 

何やら不穏な時代になってきたのかも知れヌナ…オレももっと身を引き締め…、

 

 

 

 

 

あっ、あれギシギシだ!

うわっ、シシ神の森にもあったんだ。

オレ知ってるぞ!

ギシギシの根を食べるとゲリになるんだゾ!

エド・スタッフォードさんが食ってゲリになってた。

みんなもギシギシ見つけたら根っこは食べちゃダメだからな。

オレ、人間とは違って今はもう体すごいジョーブだし大丈夫だろと思って興味あったので

ついパクっと食べたらその後猛烈なゲリピーで危うく死にかけたからな!

あの時のゲリはやばかった。

ほんと濁流ってのはあのことダ。

えっ?

なんで食べたのかって?

エド・スタッフォードの尊い犠牲を無視したのかって?

…。

いや何ていうかさ…。

知的好奇心?

みたいな?

あっ、あれ…オレならいけるかも…アノ人には無理だったけどオレなら…。

そう思ったこと、あるでしょ?

誰もが通る道でしょ?

あったよね?

あったに決まってラァ!

男の子にはな!

食べれるかどうか試したくなる時があるんだ!

 

へへっ。

 

モロに猛烈に怒られたのは言うまでもない(キリッ。

 

…。

 

あれ?

 

なんか真面目な話ししてたよね。

なんだっけ?

えぇーと…。

 

…。

 

……。

 

………。

 

おっ、もうすぐ樹海が途切れる。

 

ここらへん森の端っこだな。

 

完全に端っこまで来たら全力ダッシュで帰るわん!

だっておうちにはモロがいるもんね!

モロに会いたいよォ~。

もう一日だって離れたくない。

奥さんラブなの~。

何時まで経ってもホント可愛くてね…。

今ね…モロ…、

 

 

 

 

 

21匹目のご懐妊よ。(ニンマリ)

 

ごめんなさいねー?

そうなのーまだラブラブなのー。

いやオレもそろそろモロもいい年になってきたし

そろそろ控えようかなって自重しようとうっすら思ったんだけど…

モロの色気に勝てず…

じゃない、

モロが新婚だった時みたいにずっと若々しくて元気なんだもん。

成長してないってわけじゃないよ?

出るとこ出て締まるとこは締まってて…妹時代と違ってそりゃもうナイスバデーになって…

え?

…人間から見たら大して分からない…?

 

ウソでしょ…あんなナイスボディーなのに…?

セクシーさを感じないの?え?感じるやつもいる?

そうだろそうだろ。

そういうヤツ見る目あるよ。

そう、それでな?

まだまだ元気で若々しくて美犬なわけですよオレの奥様。

モロ本犬が

 

「まだまだ産める!」(確信)

 

って言うくらいに元気なの!

いやー、若いッスね、ボクら!(若者言葉)

もうすぐモロ400歳でオレ多分600歳ぐらいなハズなんだけどねぇ…。

 

早く帰って子作りスルぞー!

あっ、今ダメなんだった…。

お腹の子にさわるンダッタ…。

くそう…。

しょんぼりダナ…。

 

はぁ~~(クソデカため息)

 

 

ん?

 

 

おやおや?

 

 

なんか…、

 

森の隅っこに…、

 

捨ててあるぞ?

 

 

オイィ!誰だよここにこんなん捨てたの!

怒るよ!

 

まったくもー誰よー、こんなとこにコンナ籠捨てちゃって!

中身なによ?

 

…。

 

……。

 

………。

 

赤ん坊捨ててあるよ!?

ちょっと!?

奥さん!?

奥さんどこー!?

赤ん坊忘れてるヨー?

いいの?

ねぇ、コレいいの?

赤ん坊生きてるよ?

死んでないよ?

 

あっ。(発見)

 

…なんか…。

親らしき人…すぐ側で…ガリガリにやせて血だらけで倒れてる。

うーん…これはアーメン。(異教徒)

 

…。

 

……。

 

えぇ…。

子供遺して死んじゃったノカ…。

カナシス…。

 

「うぅ…」

 

うおっ!?

い、生きてる!!

まだ生きてるノカ!

 

「オイ、大丈夫か人間!シッカリシロ!」

「う…あ……――っ!!?ひ、ひぃぃぃ祟り神っ!!

 あ、あ゛…っあ゛っ!ど、どうか…こ、この生贄、を…がふっ!

 生贄を…!祟りをぉぉぉぉっ、お、お鎮め、くだざ、いぃ…!」

「ナヌ?た、たたりがみ?オイ、違うぞ。オレは犬神デダナ――」

「さ、さんの…さんの…ひ、め…生贄にぃ…人界を…お助けに……!

 さん…の…ひ!い………いけ…に…え……………ごふっ」

 

あっ…し、死んじゃった…。

うわぁ、鬼気迫るとはこういうこと?

スゴイ形相で祟りとかイケニエとかサンとか言ってたなぁ…このおじさん。

サンって…この子の名前か?

まさか…この赤ん坊が…祟りを鎮めるためのイケニエなの?

この…サンちゃんって赤ん坊が…?

…。

えぇ(ドン引き)

というか祟りってなんのこと?

ここ世界一平和と思われるシシ神の森デスヨ?

おじさん配達先間違ってない…?

完璧に誤配送ダヨ…。

 

…。

 

……。

 

えー?ねぇコレどうする?

ちょっとねぇどうすればイイ?

やだー↓どうすればイイのー↑!?

 

「アゥーーーーーーーーーーーン!!!」

 

困った時の遠吠えダ!

これで同胞から返事が返ってくるぞ…。

さぁ助言カモン…。

 

「ワォーーーーーーーン!!」

「ウォーーーーーーーーーーーーー!」

「アオーーーーーーーーーン!」

 

…。

うむ、返ってきたな…。

いや、わっかんねーナァ…何て言ってんだ?

違うよ!やめて石投げないで!?

いくら山犬同士でも遠吠えだけで細かい会話できるわけないじゃん!?

ちょっとお茶目しただけジャナイカ…。

ホントにもう、まったく…。

人間は冗談が通じないンダカラ…。

 

「…うぅ…ぐす…うっ…うーー!っ!おぎゃー!おぎゃー!おぎゃー!!」

「っ?!」

 

あ、赤ん坊が泣き出した!?

あ、赤ん坊が泣き出した!?

いや同じこと二回言っちゃった!

今までスヤスヤ寝てたのに一体どうしていきなりこんなギャン泣きを…。

 

…。

 

あっ、そうか。

オレがすぐ横で遠吠えしたからだ。(名回答)

なんてお利口なんだオレって…。

というか赤ちゃんに泣く元気あってちょっと安心!

 

「おぎゃー!おぎゃー!あんぎゃー!あんぎゃー!!」

「アァァ…すまぬ、すまぬ…、おおヨシヨシ…

 ほらほら、怖くないゾ…オマエを食べたりするものか。

 イケニエなんかにも出さぬカラ安心シロ!」

 

見せてやる…!

オレの300年に渡る育児力を今見せてやるぞ!

伊達に20匹育ててないぜ!

ふははっ!すぐにこのベイビーは泣き止むぞ!

ベイビーが10分で泣き止むにオマエラの魂を賭ける!グッド!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モロー!この子泣き止まないの!ドウシヨウ!!?」

 

オレはあの赤ん坊を優しく咥えてダッシュで巣に帰ってきていた。

 

「…」

 

洞窟で横になっていたモロがもっそりと頭を持ち上げてオレを見る。

…。

ちょっと気怠げでアンニュイなその表情!

くぁいい!

 

「人間の赤子?一体どうしたと……あぁ、そんなに泣いて…やれやれ、うるさいことだ。

 ほら、それじゃダメだヤツフサ。どれ、私に貸してごらん」

 

オレは赤ん坊を包むすべすべの絹の布を上手いこと咥えて運んできたが、

そんな運び方じゃ人間の赤ん坊がギャーギャー泣くわけだとモロに呆れられてしまった。

だって人間の赤ん坊なんて初めてなんだからしかたないじゃない…。

首が座ってるかどうかはちゃんと考慮して運んできただけオレサマえらいと思うンダ!

 

「…どうやらこの子はお腹が空いているようだな。

 さてどうするか…今は私のお乳も出るには出るが…」

 

あうあう、オレサマどうすればイイんだ。

オレが右往左往していると、

 

「…ヤツフサ。お前、温かい湯を汲んできてくれ」

 

との御命令がくだったぞ!

かしこまり!

命令がなきゃ動けない指示待ち犬が、命令を受けた時の俊敏さと有能さをご堪能あれ!

わんわんお!しゅたたたたたっ!

オレは元気よく走り出し巣の洞窟から飛び出した!

 

「ゆーたーん!」

 

そして直ぐ様オレは洞窟へ引き返した!

 

「モロ!オレの手じゃ火は起こせない!ドウシヨウ!」

「バカだね。この前私と浸かった天然の湯があっただろう?」

「オォ!あれか!ずっと北に行った所だったな!?そういえばあった!汲んでくる!」

「やれやれ…ふふっ」

 

即座に、そして今度こそオレは脱兎の如く駆け出した。

 

走るー走るー!ワンワワン!

 

疾いぞ疾いぞヤツフサ号!

この河を辿って行けば北の温泉ダ!

超ダッシュすれば日が高くなる前に汲んで帰ってこれるダロウ!

なにせオレはあれだからな!超速いからな!

 

あの温泉は大きな湖の側でシシ神の森の北堺ギリギリなんだ。

あそこら辺もいいとこだぞ~!

ちょっと長雨になると河がすぐに洪水起こしてあの辺の人間は大変そうだけど、

でもそんなに人住んでないしね。

まつろわぬたみ村はアノ大きな湖らへんのもっと西側…山の方だからな。

やっぱり河の洪水が嫌だから山らへんを中心の住居にしたみたいよ。

 

温泉に入りたいけど、今はあの赤ん坊の為に急がないとだし!

そもそもオレ一匹じゃつまらないし!

モロと一緒に入るし!

 

いそげーいそげーワンワン~。

もうすぐ見えてくるぞー……

 

 

 

 

 

 

 

――って、ほげぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!(ブッチッパ)

はわわ!危うく脱糞するところだった!

出てないよ!ホントだよ!今の音はガスだけだ!

え!?

いや、ちょっと待って!

なにアレ!

 

この辺はもうシシ神の森ではなくてもともと平原ではあったよ?

でも…

 

あれ…?

 

緑の平原が……?

 

…。

 

……。

 

???

 

wwwww??????Wwwwwwwっw???Wwwwwww

 

土剥き出しの茶色い大地に変わっとるやないかーい。

そしてあの辺りにあった小高い丘には閑散ながらも林が生えたハズですが……、

アレレェ?おかしいぞ~?

丘が禿げ上がって砦みたいもんが建築中で変な色の煙がもうもうで…?

 

うわっ、あの煙クッサ!!

おくっさ!!

飯の煙じゃねぇ!

なんか…毒っぽい!!

なに燃やしたらあんな臭いになるんだヨ。

 

…。

 

も、ものには節度というものがアルでしょ?

80年位前に温泉にモロと来た時はその丘…まだまだ木もいっぱい生えてて、

動物だって鳥だって虫だって…

たった80年で丘を禿げ上がらせちゃって…!

毛根が死滅したらもう生えてくるもんも生えてこないんですよ!?

アデラ○スだってもう取り戻せないンダ…!

そのスピードと規模で伐採と拡張とそのクッサイ毒垂れ流しされたら

100年もすりゃココ荒野になっちゃうヨ!?キャピタルウェイストランドだよ!?

あ、あわわわわ(ガクガクガク)

 

…。

 

明らかにヤリ過ぎだしょォオ"オ"オ"オ"オ"オ"オ!?

まさかほんとに山犬が山から降りて来るとは思ってないってわけか…そうだろゥ…

逮捕してやるぅウウウウウウンスゥー、

う゛う゛にぃ~…コラぁアアアアアア!!

 

「ぎゃあああああ!!!?」

「や、山犬だぁぁあ!!!!」

「南のシシ神の森からわざわざ降りてきやがったのか!!」

「ちくしょう!舟に詰めるだけ鉄鉱石を詰め!山犬にやられたら稼ぎがパーだ!」

「見ろ、やっぱ派手にやり過ぎたんだ!森の民より先に犬神に見つかっちまった!」

 

なにやってだ~~~~~~~~!!なにやってだ~~!

(ここで砦の中に一気にジャンプして移動、煙出す建造物をぶっ潰しながら)

なにやってだ~wwなにやってだあああwwwほげええええええええwwwwww

 

「ああああ!?タタラ場がっ!」

「くそっ!折角建てたタタラ場を!もののけめ!」

「運び出せー!しくじったらアノ連中に何されるか分かんねぇぞ!」

「だから俺ァこんなとこで食い扶持稼ぐのヤメようって言ったんだ!」

「唐傘連はなにやっとる!おら達を守ってくれるんじゃなかったのか!」

 

伐採じゃなくて植林しろ!伐採中止ィ~!毒煙中止ィ~!(尻尾を振り回しながら)

 

「く、くそ…!このままじゃ全部ぶっ壊されちまうぞ!」

「あっ、き、来た!唐傘連だ!」

「た、助けてくれぇ!!」

 

あん?

なんじゃあいつら!

白と赤でなかなか見栄えするいい衣装じゃないの!

 

「愚かな人間共メ…今直ぐに尻尾を巻いてどこにでも逃げ帰るがイイ…。

 オレはこの毒を吐くモノを壊せればソレでよい」

 

脅す意味も込めてイゲンたっぷり怖さたっぷりな重低音でしゃべるぞ、こういう時は!

これで逃げてくれればいいだけど…。

いきなりエリミネートしようとは思わないよボクァね…。

くにへ かえるんだな。おまえらにも かぞくがいるだろう…。

 

「構え!撃てーー!」

 

ファ!?

ちょっ、えっ、なに?

アイエエエ!ナンデ!?吹き矢ナンデ!?

いきなり赤い傘スポッてして口に構えて唐突に吹き矢の嵐!

針の嵐がオレを襲う!

オレはこんなところで死んでしまうというのかーっ!

 

「………」(棒立ち)

 

カスが効かねえんだよ(無敵)

オレのふかふかな毛皮は綺麗なだけじゃないんだなこれが。

防御力もピカイチなんダゾ!

ムッハハハハ!

 

「そんなオモチャでオレを傷つけようなど片腹大激痛ダ!」

 

オレサマ偉大な感じ!オレつぇーな感じ!

 

「吹き矢が皮膚を通らぬぞ!こやつ!」

「…っ!もののけめ!これでは毒矢も意味がない!」

「彼奴めを殺すには大弓が何十と要るぞ!」

「備えが足りぬ!えぇい、退け!退け!!」

 

赤いちゃんちゃんこ着た連中がスサササッて走り去る。

うわ。

素早い。

というか…、

 

なんか…。

 

 

 

 

 

忍者みたいでかっこいい…。(羨望の眼差し)

 

何あいつら。

悪の組織の特殊忍者部隊!な感じでイイ!

すごくイイ!

絶対あいつら「散ッ」シュバッて消えるタイプだろ!

うおおおおおおお。

 

「待て貴様ラ!待テェェェイっ!!!」

 

サインください!

ファンなんです!

ずっと前(数秒前)からファンでした!

 

「追ってくるぞ!疾い!」

「くそ…煙幕の結界を!」

 

紅白忍者が懐からボールを取り出して地面に投げつけるとボフンっとスゴイ煙と…、

くっさ!

またくっさ!

この臭い強烈ぅ!?

鼻が曲がるんじゃーーーー!!

ついでに目にもしみるー!

なにこれ!

臭いし目に染みるし!

うんことおならと胡椒と七味と山椒とタバスコとハバネロとわさび混ぜたみたいな!?

なんてもの作ってくれやがったんだコノ野郎!

今後、香辛料とか食べた時に自然とうんこ連想しちゃうじゃないか!

激烈うんこ玉と名付けてやるゾこの野郎!

 

「おのれィ!激烈うんこ玉トハ卑怯ナリ!!」

「なっ!?ち、ちがう!これは――」

 

紅白忍者の一人がオレのナイスネーミングに不満を持っているようだ。

怒った感じの口調で声を上げたけど…。

 

「ぷっ!」

「げ、激烈うんこ…!」

「ありゃあそんな名前じゃったのか!」

「ぶはははははっ!!」

「唐傘連もなかなか良い道具持っとるのぉ!ぷーくすくす!」

「それも大陸の技術か!?あははは!」

 

おお、遠巻きに見ていた他の人間から好評じゃぞ。

よかったな紅白忍者軍団。

今日からそのボールは激烈うんこ玉だ。

定着させたろ。

 

「激烈うんこ玉なぞせっせとこさえて!

 あまつさえ逃げる時にバフンッ!とうんこ臭を撒き散らす…

 まこと貴様ら紅白人間の激烈うんこ玉は強烈ダ!おお、たまらぬわ」

 

今のはバフンッ!という擬音と馬糞をかけた高度なギャグなのだぞ。

実際ハイセンスな。

 

「――っ!!!」

 

あっ、紅白忍者軍団がぷるぷる震えてる。

 

「ぎゃーはははははっ!」

「わっはっはっはっは!」

「ひー!ひ、ひー!もののけも…なかなか面白ぇ奴なんじゃな!」

「うっくくくく!あ、あの臭い玉…いや激烈うんこ玉か!

 ありゃ唐傘連のうんこで作っとんかな?クスクスクスッ!」

「お、おいあんま笑うな!か、唐傘連に聞こえちまうぞ…!ブフッ!」

 

ふふ…やっぱり古今東西、男達ってのァ…何時まで経ってもウンコが好きなんだな。

オレ、確信したよ。

 

「っっっ!!お、おのれ、もののけ!!こ、この屈辱は忘れんぞ!!」

「ぶははははっ、あっ!?い、いけねぇ!おら達も逃げろ!」

「ひー、命あっての物種じゃ!唐傘連が逃げたぞ!みんな逃げ――ぷふふっ!」

「もののけの鼻が唐傘連の()()()()()()できかねぇうちに逃げるぞ!」

「おお!唐傘連の()()()()()()のおかげじゃな!」

「「「わはははは!」」」

 

丘の砦でギコギコバッタンしていた人間達は一目散に丘を駆け下りて、

何艘かの舟に飛び乗ると全員が北に向かって漕ぎ出してった。

多分、北の方から海通ってどっかに帰るんだな。

 

…。

 

そうだろーなー。

あんな人間達今までこの辺じゃ見たこともなかったし。

それにこんな森の壊し方したらマツロワ村の人間がブチギレる筈だもんね。

アイツラは海上ルートからマツロワのテリトリー避けて、

もちろんシシ神の森も避けて北の沿岸から来るしかない。

じゃないとココに辿り着く前に37564だもん。

 

…あとは北の岸を通っていけば東からもこの辺にはこれるか。

うーん、どっから来た人間かなぁ。

 

…。

 

……。

 

むむむぅ…今なら全員ぶっ飛ばせるけど…

まぁ見逃してやろうではないか…初犯で皆殺し判決はちょっと心苦しいし…。

でも次また来たら○すからねー!

もう戻ってくるんじゃないぞー!

 

「もう来るでナイゾーーーー!!!」

 

バーカバーカ!

まったく…。

 

はぁ…。

 

酷い有様じゃよー…この丘が元に戻るまで、一体何年かかることやら。

自然は壊れるのは一瞬だけど戻るのはスッゴク時間かかるんだゾー?

もー…。

これだから人間はさー。

…とりあえず、この毒吐く建物は…3分で真っ平らにしてくれるわー。

犬神の力みせちゃるぞ~。

そらー!大暴れー!!

 

 

 

 

 

―5分後―

 

 

 

「うむぅ…ちょっと時間足リナカッタ…」

 

でも本当に跡形もなく真っ平らにしてやったゾ!

最初にぶっ壊した一番デッカクて一番煙モクモクだしてた建物…あれにトドメくらわしたら、

めちゃくちゃ熱いのがダラーって出てきてさすがのオレの毛皮もちょっと火傷しちゃった。

でも犬もやればできるもんだ!

わっはっは。

 

…。

 

うーん、でも毒出す建物も他の建物もとりあえずぶっ壊したけど…、

この辺りの自然まで壊れちゃってるんだよなぁ…。

…。

むむっ(閃き)

 

今度、ここにシシ神連れてこよう!

一緒に温泉に行ーこーおー!って誘う作戦でいこう。

ここまで来てこの荒れ地見たらあのゴッドも林と野原再生してくれるかも。

 

はわー、名案だワン!

 

あぁたまにオレは自分のリロンハな所が怖くなっちゃうナー。

 

じゃあ、戻ったらシシ神を誘拐するか。(作戦崩壊)

 

…。

 

……。

 

あっ!

そうそう、大事なことを思い出したぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

暖かいお湯を早く汲んで帰んないと!

赤ちゃんがきっと寒がってるぞー!

ダッシュだオレ!

 

 

 

 

 

 

 

 

はぁ…はぁ…!さすがに疲れた!

でも最速記録樹立ダ!

まだまだ余裕で陽が高い内に往復できた!

いやーオレの身体能力もだんだん化物じみてきましたね。(※八尾の化物です)

 

「モロ…た、ただいま…ゼェゼェ…お湯持ってきたぞ!」

「ほぉ、随分と早い……む?ヤツフサ…お前、一体どうした?妙なニオイがこびりついている」

「あぁ、これはちょっと人間達に毒矢吹かれたり毒煙掛けられてりシテナ!でも全然大丈――」

「―…何?」

 

ヒェ。

なに?

なんか巣の中の温度が下がった気がするんですけどォ…?

モロの顔も怖くなった…。

うぅ…。

コワイ!

 

…。

 

でもやっぱ可愛い!美人!美犬!天使!

クールビューティーとはまさにモロの為にあるような――

 

「すぐに横になれ!どこだ…!どこをやられた!見せよ!

 っ!こ、この爛れた傷は何だっ!!火か!?火傷を負わされたのか!!」

 

キャー!

モロさんのえっちー!

モロがいきなりオレに襲いかかり上にガバっと覆い被さってきた。

あら大胆!

人間の赤ん坊もいるのに!

まだお昼なのに!

 

「わっふふふ!くすぐったい!」

「ジャレ付いているのではないぞ…!ふざけるでない!何をされた!」

 

キャー!

首元も脇も後ろ足の付け根もスンスンペロペロされるー!

火傷ペロペロちょっとしみるー!

…ふぅ(恍惚)

 

「だから大丈夫ダ、モロ!あんな人間共の武器ではオレに致命傷など与えラレヌサ」

「毒も吸ったのだろう!?吐き出せ!ほらっ!」

「ゲフッ、ちょ、待て!叩くナ!」

 

モロがオレの背中に全力の前足テシテシをしてくる!

痛い。結構痛い。

普段のクールビューティーはどこいったの!?

お、落ち着いてちょうだい!

 

「だから大丈がふっ夫だ!お、落ち着…ごふっ、もう叩かないでゲフッ」

「ほ、本当に大丈夫なのだな?」

「ダイジョーブだ。火傷もどんどん治っているしナ!」

「………よかった…兄様…」

「ん?久々にアニと呼ばれタナ…ははは、懐カシイ!」

「う、うるさいね。まったく…心配をかける奴だ!」

「うぅ…ふぇぇ…!おぎゃー!おぎゃー!」

 

あぁ、赤ん坊が泣き出しちゃった!

今まではモロのお腹の天然もふもふ毛布に包まれて暖かグースカしてたのに

モロがすごい勢いで立ち上がってオレのことボスボス叩いてたから当然の結果なのです!

 

「オォ…元気いっぱいダナ!モロは人間の赤子に一体何を食べさせたんダ?」

「私のお乳だ」

「えっ、大丈夫ナノカ?人間に山犬のおっぱいあげちゃって…」

「普通の野良犬や狼ではダメだろう。最悪、赤子が死ぬ危険もある。 

 …だけど、まぁ私も神の端くれだし…それに最近な、感じるのだ」

「何ヲ?」

「……お前に愛され続けて、

 お前の神の血が多分に混じった精を受け続けたからか…私もかなり若々しいままだ。

 力も一向に衰えぬのだ。お前の子をまだまだ産めると確信しているのはその為だよ。

 神力が強まった私の肉体は、種を越えた授乳が出来ると分かるんだ。

 我が血に眠っていた古代の神々の記憶が大丈夫と教えてくれているようだ」

 

へぇー…。

それはつまり……、

 

…。

 

愛し合う二匹はいつまでも若いってことダナ!

はぇ~、スっゴイ…。

モロって若作り上手なんだ…。

…。

でも齢とってもモロは絶対可愛いまんまだよ!

絶対美人のおばあさんになると思う。

ふむ~。

それにしても…、やっぱ夫婦の営みって若々しさを保つのネェ奥様!

メイク・ラブ万歳。やっぱ愛するお方と愛し合う生活ってお肌潤うのね!

恋は犬生の起爆剤なのか!

何歳になってもモロへフォーリンラブはつまりセイブツガク的に大正義と証明された…?

やったぜ。

…。

 

でもさ…。

 

いつまでも私は若いぞって今言ってたけど…

最近声がまたまたちょっと低くなってきたよね?

いやいや素敵な声だよ?

でもオサに似てきたっていうか…。

300年くらい前のオサと瓜二つボイスっていうか…。

超イゲンあるっていうか…。

ナイスでハスキーな美しき声…。

そう、何故かその声を聞いてると金髪ロン毛の太陽光を背にしたオバサマの姿が…。

神々しい…。

 

…。

 

……。

 

………。

 

ハッ!?なんか今、オレまぼろし見てた?

まぁそんなことはどうでもいいんダ。

とにかくモロは可愛い。QED。

モロは泣き出した赤ちゃんをペロペロ舐めてまた温かい自分の体で包んであげている。

オレだっていっぱいベビーシットしてきたベビーシッターだ!手伝えらァ!

まずはお湯を取り出しまして。

あの人間の砦で拾った木桶に注ぎまして。

ざばぁー。

完成しましたので。

 

「モロ、お湯張った」

「よし、洗ってみよう…」

 

モロは大人しくなってきた赤ん坊を器用に咥えてそーっとお湯へ入れてちゃぷちゃぷ洗う。

おー、赤ん坊気持ちよさそ――

 

「むぁ!?」

 

ピューーーっと赤ん坊から弧を描くお水が発射!オレの顔に!

親方!赤ちゃんからおしっこが!

キャー!

 

「ほう、山犬も人間も赤ん坊は一緒だな。

 気持ち良くなって気が抜けると漏らすらしい。はっはっはっはっ」

「ヌー…まさかオレの面体に小便かける人間がいるとはナ」

「大物だな。シシ神の森第二位の現神に……大した子だよ!ふっ」

「オレはそんな大それたモノじゃない。

 デモ掛けられるナラ毒矢よりオシッコのほうがマシだな!ははは!」

 

モロのお腹の中の子が生まれるよりも一足早く、

オレとモロは人間の子育てをすることになってしまったのだ。

どうなるかなー、この子。

いつまで育てるつもりなんだろう、モロは。

 

…。

 

まぁ上の子達もちょっと大きくなって手がかからなくなってきたし!

お腹の子が生まれるまでくらいなら面倒見てやるか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―6ヶ月後―

 

 

 

 

「わああああああ!!」

 

オレはちょっとしたパニックになっていた。

 

「お、男の子ダ!モロ、こいつ男の子ダ!シカモ双子だ!!」

「…やれやれ…生んだばかりで疲れているというのに…騒がしい夫だ。

 まぁ、ようやくのオノコだ。存分に歓び騒ぐがいいさ。ふふふ…」

 

エライコッチャエライコッチャ!

もうすっかり女の子が生まれるのが当たり前な空気だったから油断していた!

ど、どうすればいいんだ?

オトコノコって女の子と同じ扱いでいいの?

まずペロペロしてあげていいの?

 

「ペロペロしてイイ?」

「存分にしてやれ」

「わぅ!ペロペロペロペロペロペロペロペロッ!」

 

妻の許しが出たのでやるよ!心ゆくまでやるよ!

うわーーーー!

これでようやく全お父さんの夢、息子とキャッチボールができる!

やったぜ!今はちょっと離れた洞窟にオレの娘達と独立して結婚生活満喫中の兄弟ドモ!

男勢力がようやく!しかもいっぺんに二匹増えたゾ!

オレはやったぞ!

いや、オレはやってなかった。

そう!全てはモロのおかげ!

はぁ~、モロありがとう。

もうモロなしの犬生は考えられない。モロ・イズ・至高。

あのキリリとした横顔。シュッとした目。長いまつげ。白くてツヤツヤでふかふかの毛。

うぉー、モロぉー、可愛いぜ。

そして男の子ありがとう。オレ、キャッチボールするんだ!

 

「アォーーーーーーーンッ!!オトコ、オトコ!アォーーーーーーーン!!」

 

これはもう家族全員に報告せねばな、とオレは遠吠えしてみた。

するとシシ神の森のどっかから「アォーーーーーーーン」と遠吠えが返ってくる。

む!あの声は長女のアマと結婚した一番上の兄弟!

元気なようでなによりだ。

 

「アォーーーーーーーン」

「ワォーーーーーー」

「ワゥーーーーーーー」

 

兄貴の遠吠えに続いてどんどんシシ神の森のあちゃらこちゃらから遠吠えの返事が返ってくる。

おう、よしよし…皆元気そうでよかったよかった。

よし!これで親戚一同に長男誕生の報告は済んだな。

山犬って便利。(なお、遠吠えだけでは詳細は伝わらんもよう)

 

ん?

 

…。

 

なにか…、

 

ダダダダダッって…走ってくる音が…

 

「ヤツフサ!今の遠吠えは!!モロっ!生まれたんだね!」

 

おわっオサ!来るの速いよ!?

あなた今年で幾つよ!?健脚すぎな!?

見た目的にはそうは見えないけど、もうかなりのお歳ですよね…?

 

「母様…えぇ無事生まれました。元気なオノコです」

「あああ」(ガクガクガク)

 

お、オサっ!痙攣起こしていらっしゃるゾ!?

とうとう死ぬのか妖怪長寿BBAドッグ!死因は嬉死か!?

 

「オサー!?死ぬな!ここまで来たら目指せ1000歳!乗り切ルンダ!」

「誰が死ぬか!ちょっと驚いただけだよ」

「ホッ…」

 

一安心ダ…。よかったよかった。

 

「ホラ、オサ…モロが生んでくれた初の男の子ダ!抱っこしてやってクレ!」

「山犬がどうやって抱っこするんだ…人間に()()()おって…。

 そういえばショウジョウ共が噂しておったぞ?人間の赤ん坊を育てているらしいじゃないか。

 そのせいか?その()()()は…」

「じゃあペロペロしてやってクレ」

「………しょうがないねぇ」(デレデレ顔)

 

…。

こうなっては山犬一族の古老もただの孫バカよのう。

ふふふ…もはやオサ、恐るるに足らず…。

今後は孫のペロペロ権をチラつかせればこの群れはオレサマの思うがままよ…。

そうだなーまず手始めにオチビどもの世話をたっぷりしてもらおうか!

フハハハ。遊びたい盛りのオチビ達と駆け回るのはツラかろう…!

…。

しまった、もうオサやってるよ。しかも日常的に。

クソぅ…タフだなこのBBA…!

 

うん?

 

また音が聞こえる。また走る音だ。

今度のはダダダダダッというか

タタタタタタッてのとパタパパタパタってのとトテテテテテって感じ。

 

「わうわう! ととさま! おとうとうまれたの!」

「おとうと!? おとこのこ!?」

「うまれたのかー! おとうとかー!」

 

十八女ピリカちゃん!十九女サクヤちゃん!そして二十女ミカンちゃんの登場(エントリー)だ!!

 

「おお!生まれたゾ!オマエたちの弟だ!」

「かわいいー!」

「ちっちゃーい!」

「あたし いもうとがほしかったのだ! しまいのなかで あたしだけいもうといない!」

 

ミカンちゃん…そりゃそうだよ!

だってキミ一番下の女の子だし…。

おとうとで我慢してちょーだい?

 

…。

 

あっ、ちがうちがう。いや、うっかり。

いるじゃない、妹!

 

「おいおい、ミカンよ…オマエにも妹はいるぞ!この赤ん坊は女の子ダ」

「むー?あっそうか。このにんげん おんなのこダ!よーし あたし おねえさんだ~」

 

人間の赤ちゃんのほっぺをふわふわの前足でテシテシするミカン。

はぅあ…まじプリティー…。

ちゃんと爪たててないあたり、この娘もいい子やでぇ…。

もうみんなモロ似で可愛くて優しいンダカラ!

パパしあわせ。

 

「おう兄弟!モロ!生マレたノカ!」

「あの遠吠えはソウイウコトか!ヨカッタデハナイカ!」

「オオ!オレたち兄弟で一番早くオトコ生んだな!スゴイぞ、モロ!さすが我らの妹」

 

うわぁ、懐かしのブラザーズ。

オマエラ、いつの間に!

ほめろほめろ!モット我が妻をほめろ!

 

「…ほー、オトコか…本当だ。こいつチンチンついてるゾ」

「ドレドレ…うむ、確かに。ダガ小さいナ。我が足元にも及ばぬワ!」

 

馬鹿なのブラザーズ?

当たり前でしょ?

生後数時間なんだよ!

まだプリティーおちんちんだよ!

 

「なんだ馬鹿息子共…来たのかい。ほら、あまり寄るな。狭いだろう」

「母者!何時までもオレの甥独り占め!ズルい!」

「オレ達も甥、舐メタイ」

「オサ、最近孫バカ。ヤツフサと似テキタ。さっさと引退スルベキ」

「…言うようになったね、若造共…まだまだ私は若い者に負ける気はないよ。

 それに、正式には既に一族の長はヤツフサとモロだ。私は引退している」

 

よして?

人の巣で親子ケンカはよしなさいね?

 

「弟たち、若造。デモ、オレ違う…もうオレも親ダ。一人前ダゾ母者」

 

…。

 

え?

 

い、いまこの兄貴なんつった?

 

「兄貴が親…つまり…兄貴の妻でありオレの長女・アマちゃんが子を生ンダッテコトカ…?」

「ウン」

 

このバカ兄貴ィィィィィィィ!?

えっ、ちょ…なんでそういう大切なコト言わないの!?

なんで今まで黙ってたの!?

 

「なんで今まで黙ッテイタノダ!?」

「忘レテタゾ。そういえばアマが、伝えろって…今伝エタカラナ。一昨日にメスが生マレタ」

 

こぉのやろっ!

やっぱオレたち兄弟だな!お互い忘れっぽくてこまるぜ。はははは。

いやそうじゃないでしょ?

違うでしょ?

モロ!

何か言ってやんなさい!

このバカ、キミの実のお兄さんだぞ!

 

「やれやれ、いつの間にかヤツフサと私にも孫が出来ていたか。

 クァッハッハッハッ!こいつはおかしい!まったく、めでたいことよ…」

 

吹き出して笑ってるー!

やだ、モロったら心広い。(※夫がバカなので鍛えられたようです)

…。

うーん、でも本当にめでたいなぁ。

初息子と初孫をいっぺんに授かっちゃうナンテ…。

盆と正月が一緒に来たようデスネ!

やったなオサ!

アマちゃんの子だからオサの初ひ孫ダゾ!

 

…。

 

 

オサ…?

 

はっ!?

 

し、死んでる…。

幸せそうな顔でピクリとも動かない!

 

「オサー!?今度こそ死ンダノカ!?」

「生きてる!勝手に殺すんじゃないよ!」

 

なんだー。

犬騒がせな婆さんダナー、もー。

 

「ふ、ふふふ…ふはははは…そうか…初ひ孫か…長生きはするものだ…ふふふ…」

 

オサが喜びにあまりケタケタ笑ってる。

コワイ。

そしてオレとモロの愛の巣にいつの間にか兄弟全員集合してる。

超せまい。

あっ、あれに見えるは四番目の兄弟に嫁いだ四女のウシワちゃん。

里帰り、オカエリ!

ウシワちゃんはまだ赤ちゃん生まれない?

あっ、そう。

ヨカッタ…。

知らずに生まれてたとかじゃなくてヨカッタ…。

生まれそうになったら知らせてね?ウシワちゃん。

というか妊娠した段階でシラセテね?ウシワちゃん。

 

「さて、ではヤツフサ。このオノコの名を決めてやってくれ」

 

アッハイ。

そういえばそうだった。

でもどうしよう。

女の子の名前しか考えてなかった。

 

「…そういえば、この人間の赤子…この子もまだ名前が無かったな。

 ついでだ、この子の名前もヤツフサが決めておやり。

 いずれ…この子が人界に帰るとしても、それが何時になるかは分からない。

 その時まで呼び名も無しでは不便だからな」

「ム…そうだった…まさか人間の名付け親にナルトハ思ワナカッタガ…」

 

むーん…名前名前…。

オトコの名前…。

どうしよう。

人間の女の子の名前も考え…、

…。

あっ、

そういえば…。

 

「この赤ん坊…オレに差し出した人間が事切れる寸前…サンノヒメと呼んでいた」

「…なんだ、名があったのか?そういう大事なことはもっと早くお言い、ヤツフサ。

 まったく…兄上と似ているな…そういう所は」

 

えっ、うそだー。

オレあの兄貴程バカじゃないっすよ~!やだなー!

ちょっと忘れっぽい所は似てると思うケドナ!へへっ!

 

「サンノヒメ…は長い。ソウダナ…うむ、ソウダ!この子は、『サン』!

 サンだ!サンとしか思エヌ!

 何故か…この子はサンという名がピッタリな気がスルノダ」

「…サン。あぁ良い名だと思う」

「サン…!」

 

オレとモロが人間の赤ん坊をサンと呼ぶと、この子も「だぁだぁ」と笑ってオレ達に手を伸ばす。

かわいい。

ま、まぁオレとモロが生んだ子ほどじゃないけど…、

人間の赤ん坊も…ちょっとは可愛いジャナイカ…そ、そこは認めてヤロウ…。

 

「…で、サンの弟…この双子の名も頼むよ、ヤツフサ」

「……ウーム、ウーム…サンの弟……むっ!」

「おお、閃いたか?」

「サンときたらニィとイチ!」

「……」

「(∪^ω^) 」ニッコリ

 

完璧ダロ。

だって順番的にはサンの弟になるわけだし。

…。

……。

あっ!

し、しまった。

違う。そうじゃない!

 

「スマヌ…違った!オレは間違ってイタ!」

「おお、そうか。よく自分で気付いてくれた」

「シとゴだな!ウム!」

「……」

 

あれ?

どうしたのモロ。

オレの得意技『チベットスナギツネの顔』をいつの間に習得シタンダ?

うまいうまい!似てるゾ!さすがモロ!

 

「…ヤツフサ、その…初めてのオノコだし、この子達の名は私が考えて良いか?」

「オォ、それはモチロン!ソウダナ!たまにはモロも名付けたいよなァ…当然ノコトダ」

 

結局、この日はサンの名前しか決まらなかった。

まぁしばらく名前無くても困らないか。

サンも半年間名前なかったし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―6ヶ月後―

 

 

 

 

「…やめろ、サン」

 

サンちゃんがオレの毛を引っ掴んでよじよじ登っていくの。

すごい握力ダナァ。

ちょっと前までつかまり立ちしてたと思ったら、

もうオレを登って頭の上にちょこんと座って「うぉーん!」とか言ってる。

遠吠えのマネかな?

かわいいなぁ。

 

「とーたん、とーさん!」

 

…。

狼のオレのこと、完全にお父さんだと思ってるンダなぁ…。

 

…。

 

かわいいなァ。(デレデレ顔)

 

 

 

あっ。

ちなみに息子二匹の名前はタロウダチ、ジロウダチになったよ。

なんかね、シシ神の森のずっと南に剣作りがんばってる人達がいて…、

その人達が神様へのお供え物って言ってがんばって作った剣をオレ達にくれたんだ。

超デケェ剣でさ!

なんか2mぐらいありそうな2本セットの兄弟刀なんだって!

超かっこいい。

デカくて兄弟刀で男の子心くすぐるの。

わかってるじゃないか、人間!

こういうのでいいんだよ!

貰ったのがちょうど名前の悩んだアノ日の数日後だったから、

モロが、

 

「兄弟刀の太郎太刀と次郎太刀か…なるほど。

 これほど勇ましい大太刀ならばこの子らに相応しいかもしれぬ。

 ……それに太郎、次郎はイチとニの意味もある。

 これなら最初のヤツフサの案にも沿うな。

 よし、今日からこの子らはタロウダチとジロウダチだ」

 

って感じで結構あっさり適当気味に決まった。

モロ…あんだけ悩んでたのにこんな理由で決めるとは…。

まぁでもそういうタイミングとかも大事だし、いいんじゃないかな。

なによりモロが決めたことだし!

それにタロー、ジロー…実に犬っぽくてイイ!

呼びやすい!

由緒正しき伝統的ジャパニーズ・ドッグ・ネーム!わんダフル!

それにイチとニって意見もモロがソンチョーしてくれて嬉しい!ワォーン!

 

ちなみに人間がくれた太郎太刀と次郎太刀は、

いつも尻尾に隠してる剣よりもドッシリ安定感あってサイズ的にも咥えやすいので

オレがメインウェポンにすることにしたのだ!

タローとジローが大きくなったらちゃんと譲ることを条件にモロが許可してくれたの!

 

これで…!

 

これで……!

 

本格的に蛇狗剃(ダークソウル)の型が活躍するぞーー!(こういうことは忘れない)

うぉー!

本格的に練習するのが楽しみだなー!

はー、全犬憧れの的…大狼シフさんを目指すんだワン!

 

 

でも今は…

 

「とーたん!わぉーん!」

「…はいはい、遠吠えスルンダナ?ワォーーーーーーン!」

「うぁー!とーたん、すごい!」

 

とりあえず育児が優先ナノ…。

 

「ふふっ、微笑ましいが…ヤツフサよ。もう少し小さく吠えてくれ。

 タロウとジロウが起きてしまうよ」

 

サンに乗り回されているオレを見ながらモロが優しそーに笑ってる。

はぁー、モロ…超美人…。

オレ幸せー。(にっこにこ)

 

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

 

―約1年前…タタラ砦陥落の後…若狭・港近くの廃寺にて―

 

 

 

「何?」

「も、申し訳ありませぬ!」

 

赤みがかって、丸い、潰れたような大きな鼻を持つ背の小さな青年が、

必死に頭を下げる男を鋭く睨みつけた。

両者ともに真っ白い着物を着ており、その上から赤い袖無し羽織りを羽織っている。

頭に巻く赤い頭巾まで同じ。そして肩に背負う赤い唐傘までも同じ。

 

「…おぬし、師匠連があそこへ掛けた金子の量を知っとるか?」

「…」

 

頭を下げている男は顔までも白い布で覆い隠しているが、

それから覗く目の周りは皺深く、彼を叱責する青年よりも明らかに年上だ。

だがその皺深い目には明確な怯えが走っていた。

 

「も、申し訳――」

「あそこの開拓は()()()()()()お方々が熱望しておるものじゃ。

 いくら謝ろうとも済まされるものではない。

 例え相手が、単身で一軍を蹴散らし、タタラ砦も破壊し尽くす()()()()()だとしても、だ。

 …将軍の牙が折れ、東西南北…守護どもは己の懐を肥やすために血を流す。

 だがその牙折れた将軍家に何もかもを奪われた天子様は更に哀れと思わんか?ん?」

 

頭を垂れている男はただ黙って青年の言葉を聞くしかなかった。

 

「己が息女まで将軍家に奪われ、そして姫は戦乱の中で神隠しに合われ…おぉ実に哀れ。

 もはや権威もへったくれもないわな。はっはっはっ…。

 故に、利用できるものは全て利用し、そして我らは怖い怖い神殺しをせにゃならん。

 シシ神の森が一番偉いと、そういう勘違いが世に浸透しつつある。

 そんな勘違いが広まったら困る方々がいる…。

 勘違いは正さねば…。

 わかるかな?ん?」

 

青年はずっと柔らかい薄ら笑いを浮かべているが、目は笑っておらず、

飄々とした態度であるのも、頭を垂れている男が抱く恐怖心をより煽った。

 

「次はない。しっかりな」

「は、ははっ」

 

ずっと頭を下げていた男は力強く返事をすると、

笑う小男を最後まで見ること無く暗闇に姿を消していった。

 

「…いやぁ~、まいったまいった。

 堕ちた権威を神殺しによって取り戻そうなどという乾坤一擲の大博打…

 尊きお方達の考えることは俺にはよぅ分からんわ。…分かりたくもない。

 嫌な仕事を押し付けられたものよ」

 

一人きりになった廃寺で、青年は途方もない大仕事を押し付けてくれた老人達へ毒づく。

腕を組んでどうしたものかと思案を巡らすも、すぐに妙案など出てきはしない。

 

「矢も通じず一匹で砦を平らげる八尾の犬神…いや妖犬か。

 さてどうする……………。

 我らだけでは如何ともし難いが、

 タタラで溶けた鉄で犬神の皮が焼けたというのが本当なら…

 明国が作ったという火竜槍でも使ってみるかの……倭寇に渡りをつけにゃあな。

 やれやれ…時間と金が湯水のように飛んでくわ…。

 俺が生きている内に終わるか?この仕事……いやいや…かなわんなぁ」

 

散々愚痴ると、

赤い羽織を毛布代わりにして己を包み、そのまま丸まった猫のように寝るのだった。

 


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