隔たりを越えて…   作:神座(カムクラ)

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 更新が遅れてすみません。ようやく安定してきたのでゆっくりと進めていきます。これからもよろしくお願いします。


情愛の巻
上巻:とある狩人の物語


 

 ハンターズギルド。花形役者はもちろんハンター。いや、ギルド嬢という者もいるかもしれない。しかし当然花形役者だけでは成り立たない。支えるものがいてこそ──飛行船を手配する者操縦する者、物資を用意する者運ぶ者、狩りの後始末をする者…辿って行けば無数に存在する──成り立つ者だ。これはその内に属している者が過去に経験した数奇で数奇な物語。

 

 

 

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 「よーし…これで最後か。」

 

 タンジアにて、依頼から戻った飛行船の積み荷を下ろす中年の男は最早機械的に荷物を一時待機所へと運ぶ。彼はギルド所属の、いわゆる物資係でハンターへの支給品の準備やその後始末、ギルドに運び込まれる様々な物資の搬入出を行い生計を生計を立てていた。

 

 ハンター顔負け筋骨粒々で所々に傷痕がある彼は重い荷物も軽々運べるので同僚からは重宝されている。それもそのはず、彼は数年前まで周囲で名の知れたハンターだった。

 

 「ようジェーク、夜、飲まないか?」

 

 その日の報酬を受け取った帰り、ハンター時代に戦友だった男に声をかけられ特に断る理由もなかったのでそのまま酒場へ向かい、まずは腹ごしらえをしてから晩酌を始めた。

 

 「久し振りだなぁ、何ヵ月か前に俺の火山の依頼で一緒に飛行船に乗って以来か。」

 

 「あぁ…そんなになるか。単調すぎて日付意識なんてとっくに無くなっちまったよ。」

 

 名物パニーズ酒を飲みながら、何でもない世間話を咲かせる。ハンター業とは関係の無い話だというのに友が纏う防具や武器に目がチラチラと行くのはまだその職業に未練があるからだろう。

 

 「武器、変えたな。」

 

 ラギアクルス亜種で造った。中々のじゃじゃ馬だよこのハンマー。」

 

 「そうか…」

 

 「なんだぁ?血が騒ぐってか?」

 

 「いや…ハンター業をやりたいとはもう思わねぇよ。」

 

 「へぇ意外。元々ハンターランク5でG級寸前だったお前が突然ハンターカード剥奪されたんだから未練の1つや2つあるかと思った。」

 

 ハンターカードの剥奪、すなわちハンターとしての資格を失ったため彼はもう依頼を受けることはできない。基本的に指定地区以外での無許可狩猟を行ったり狩猟武器で殺人を犯した場合などのペナルティとしてそうなるのだが、彼の剥奪理由は公にされていなかったので友人はその後しばらく彼に酒を飲ませてから訊いた。

 

 「そういやお前って何で資格剥奪されたの?」

 

 「大したこたぁねぇよ…」

 

 「大したことなかったら剥奪されねぇーだろ。で?」

 

 「…逃がしたんだよ。竜を。」

 

 「ほぉ?ただ逃がしただけじゃよくあることだと思うけどな。捕獲されて解体待ちだったやつを逃がしたのか?」

 

 「…」

 

 はぁ、と深くため息をついて、彼は語り出した。

 

 「あるとき俺は普通にナルガクルガ討伐の依頼を受けてた。一応上位区分だったがG級スレスレの強い個体だった。んで狩った。帰り、ブラブラしながら集合場所に行こうとしてたらなんか聞いたことがない鳴き声がして向かったんだ。そしたら1匹、2、3mくらいのナルガクルガの幼体が歩いてたんだよ。俺とは逆方向に、つまり回収待ちの、狩ったナルガクルガの方に向かってた。匂いとか辿ってたんだろうな。」

 

 特に火竜の討伐などではよくあることだ。仔竜とて竜なので捕獲は難しく、下手に麻酔を撃つと死んでしまう上に素材は使えないので大抵は無視する。

 

 「普通だったら素通りしただろうが、俺はその仔竜に釘付けになった。見たことのない体色をしていたんだ。紺の毛に、白い毛が混じってるような感じだ。後で雌だと分かった。」

 

 「連れ帰ったのか。」

 

 「苦労したよ……村の依頼だったからとりあえずそのまま村に持ってかえって、できる限り頑丈なオリに入れてギルドからの指示を待った。」

 

 「で?どうだった?」

 

 「ギルドの研究員が大勢来て、ほとんど確認されていない種だって。で、そのナルガクルガだが村で育てろとギルドから指令が来た。俺はその見張り役だと。本拠地でやってくれと言ったんだが麻酔の分量が分からないから運べないし貴族の目について無理矢理買われたりされないように村でやってくれって、費用と報酬も払うって言われて引き受けた。」

 

 

 

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 異変が起きたのは1ヶ月ほど経った頃だった。ナルガクルガが成長しても移し替える必要が無いようにつくった大きなオリを、餌に混ぜた少量の眠り草でボーッとしている間に掃除する。この日もいつも通り掃除していたのだが唐突に足をグイッと引っ張られて心臓が喉から飛び出るほど驚いた。

 

 「お、おいおい…」

 

 正体は分かっているので取り合えず自分の足が無くなっていないことに安堵する。

 

 「お前…いつの間に…」

 

 さすが迅竜、全く気づかなかった、という暢気な考えを慌てて振り払った。一歩間違えば大惨事だ。ナルガクルガはというと驚いたこちらに驚いたようで素早く後ろに後ずさる。そしてこちらの顔をうかがいながら首をカクッと傾げ、恐る恐る近づいて今引っ張ったズボンの匂いをスンスンと嗅いだ後、くちばしの横を付けながらこちらを見上げた。

 

 「な、なんだお前…寂しいのか?」

 

 冷や汗が止まらぬまま思わずそう言うとまた首をかしげられる。一応、親とみられるナルガクルガの毛皮を寝床に敷いてあり、普段はそこでずっと眠っているのだが今日は起きてきたらしい。眠り草が足りないのか、効かなくなってきたのか、そんなことを考えているとふくらはぎをくわえられてまた焦る。

 

 「た…足りないのか?」

 

 あむあむしてからぎゅう、と鳴くナルガクルガにまた思わずそう言って数秒間停止するとゆっくり離れてオリを出る。そして試しにケルビの肉片を入れるとぎゃ、と嬉しげに鳴いて食べ始めた。

 

 その日からナルガクルガは彼が脅威ではないと認識したらしくやたら引っ付くようになった。眠り草の概念を疑うほどに。暴れるようなことはなく、足を甘噛みしたり腕で抱き締めてきたりと甘えん坊全開で彼は始めはかなり戸惑っていた。だが半年も過ぎればそれは日常になり、彼は相変わらずまとわりつくナルガクルガを流れに任せて撫でるのだった。

 

 「へー、白疾風っていうのかお前。随分格好いいな。」

 

 ほぼ村に軟禁されているジェークがギルドから届けられた資料を見ながら呟くとぎゃう、と返事が返ってくる。資料といってもほんの半ページしかないものでジェークはやれやれとため息をついた。

 

 「おう。暇そうだな。なら木材取ってきてくれないか?」

 

 広くは知られていない小さな村。森もいたって穏やかでわざわざハンターが出動する必要もないだろうが、街に出ることを禁じられているジェークは何でも屋のようになっていてしょっちゅうこのようなことを頼まれる。

 

 「へいへい村の雑用係のジェークですよ…」

 

 「なんか言ったか?」

 

 「お安いご用です。」

 

 完全な皮肉でもなく、依頼を受けることもできない彼にとっては調度良い気分転換だった。

 

 「だぁー…考えてみりゃアプトノス連れてきて運んだ方が効率良いじゃん。」

 

 一休みしようとその場に腰を下ろす。が、

 

 「ん…」

 

 聞こえてきた咆哮が村からだと分かるや否や飛び出した。

 

 「畜生火竜なんて聞いてねぇ…!」

 

 全速力で、しかし余力は残しつつ村に向かう。途中、ハッキリとナルガクルガの咆哮も聞こえてジェークは舌打ちした。

 

 「ジェーク!あっちだ!」

 

 避難した村人の指差す方へ走るとボロボロになったナルガクルガとリオレウスが睨み合っていた。リオレウスが火球を吐くとナルガクルガは誰に教わったのか回転して尻尾を振るいこれを掻き消す。小さな体でいっぱしの威嚇をしていたナルガクルガだったがジェークを見ると情けなく鳴いて彼の後ろに隠れるように移動する。元々そのつもりだったのでジェークは愛用の太剣を抜き、リオレウスを撃退して事なきを得た。

 

 「そういやお前、オリと鎖は?」

 

 傷の応急処置をしてやっている時に気がついた。首輪はついているが鎖は途中から切れ、当たり前のように外に出ているナルガクルガはいたって大人しく手当てされている。見ればオリは無惨に破壊されており、それもどうみても火竜の攻撃ではなさそうな跡だったのでジェークは身震いする。

 

 「いつの間にそんな力が…その気になればいつでも出れたってことかよ…」

 

 このナルガクルガがどれだけ自分になついていたか今更実感した。ちなみにナルガクルガ自身はオリを寝床くらいにしか思っておらず、この村は里親ジェークの縄張りだと認識しており普段からその中にいる村人には特に敵意は持たずに侵入者である火竜をなんとか追い払おうとしたのだ。餌に混ぜた眠り草とは一体…

 

 そして村の信用も得てしまったナルガクルガはオリに閉じ込められることなくただし鎖に繋がれた状態で飼われ、よく子供たちに見物されていた。

 

 「なんだどうした。」

 

 ある日村の犬が酷く怯えて主の少年に顔を埋めていたのでジェークが声をかける。話を聞けば犬に木の枝を投げたら近くでフンスフンスと息をしているナルガクルガが木っ端微塵にしたらしい。

 

 「…やれと?」

 

 たまたま近くに落ちていた別の枝とジェークを見たので彼がそれを拾うと目が紅く光る。全力で木の枝を投げたが地面に落ちる前に跡形も無くなり、ゆっくり振り返ったナルガクルガの目線にジェークは思わず身震いした。

 

 

 

 ◯◯◯

 

 

 

 朝起きて一番に飛びかかられるのは日常。ナルガクルガの機嫌が良いときは数分間舐めると頬擦りを繰り返す。起きるのが遅いと咆哮で強引に起こされるのは最早嫁だとよく茶化された。

 

 そしてこの日も餌やりを終えてギルドからの手紙を開く。ナルガクルガの世話をしはじめて2年、以前の倍くらいの大きさになったナルガクルガの育成を終了し、観察、研究対象としてギルド本拠地に送られることになった。当然その後は解体処分である。

 

 「お前と居られるのもう終わりだ。」

 

 ギルド員到着予定日にポフポフと撫でながら話しかけるとナルガクルガは首を傾ける。はぁ、と深くため息をついてしばらくその体勢のままでいた。ジェークは唐突に立ち上がり一旦自宅に戻ると太剣を取りだし背負ってナルガクルガの元へ戻る。そしてナルガクルガの首輪を外して太剣を抜き目の前に叩きつけた。ナルガクルガはビクリと後退しジェークを見る。それでもジェークは大袈裟に叫びながら太剣を振り回し威嚇を続けるとナルガクルガはその場から、村から走り去っていった。

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 「そらご丁寧に外したらバレるわ。」

 

 「隠すつもりなんて無かったよ…」

 

 燻しモス肉を頬張り酒で流し込む。

 

 「ふーん…噂には聞いてたけど、まさか本当だったとはな。」

 

 「噂?」

 

 友人はそれには答えずごそごそとポーチをあさる。そして1枚の羊皮紙を取り出した。

 

 ───特殊依頼───

 

 「ギルドからのご指名、白疾風ナルガクルガの捕獲依頼だ。もしかしたら前に逃げた個体かも知れないって、それで噂程度だが情報が入ってた。お前、付き添いに来るか?」

 

 ジェークは言葉を失った。どこかのハンターに狩られてしまうかもしれないということは何となく覚悟していた。しかしまさか親友がその命を受けるとは思ってもいなかった。

 

 

 「やぁ、やっぱり来てたか。」

 

 「クルル…」

 

 「いつ会っても不思議にゃニャルガクルガだにゃー」

 

 

 そしてまさかまた人間と関係を持っているとは夢にも見なかった。

 

 

 

        上巻、終。

 

        下巻、「朧月(おぼろづき)の物語」へ続く。

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