隔たりを越えて…   作:神座(カムクラ)

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 13歳、最年少G級ハンター、キルトの夢のような物語。
 
 


下巻:朧月の物語

 

 

 

 

 「ラルグあっち!!」

 

 

 「ニャッ!!」

 

 

 孤島、狩猟許可エリア1にて、1人の少年と1匹のメラルーが大量の毒煙玉と毒弾を手に走り回っていた。彼らの住むモガ村は海の上に存在しており農作物はそこそこ貴重品。それらが採れる唯一の農場が甲虫、飛甲虫の大量発生による被害を受けたため、現在掃討中である。

 

 

 「よーし、そろそろ片付けようか。」

 

  

 毒煙玉、毒弾の残りも少なくなり、辺りは死骸の方が多くなってきたので切り上げることにした。

 

 

 「おうおう悪いな。最年少G級最初の依頼が虫退治じゃさぞ気乗りしなかっただろう?」

 

 

 死骸の詰まった袋を村長の息子に渡すとやや気まずそうに笑うが少年はそんなことない、と首を振る。

 

 

 「やることは変わりませんから。また湧いてたら言ってください。」

 

 

 たまたま聞こえたのか、それとも彼を迎えに来たのか白髪で初老の男が側に来てキルトの肩を叩く。

 

 

 「おまえさんもいい男になったじゃないかキルト。」

 

 

 「村長。」

 

  

 「うんむ、こりゃあ奪い合いになるぞ?さっさとおまえさんから決めとかないと面倒になりそうだ。女の争いは怖いからなぁ?」

 

 

 カッハハハ、と自分で言って豪快に笑う村長に少年キリトはたじろく。

 

 

 「…僕まだ13ですけど。」

 

 

 「十分十分、わしは14で成人の義をして、妻をめとった。成人の義などお前さんにかかりゃ朝飯前だ。」

 

 

 モガの村の成人の義は一人でマンボウか古代鮫を狩ることで、確かに朝飯前である。余談だが別に必須ではない。というのも生活上、全員が漁に参加するわけでもなく、人によっては森に狩りに行く者やキリトのようにギルドの命に従って大型の獲物を狙うハンターになる者もいるため儀式の必要性が薄いのだ。

 

 

 「………考えておきます。」

 

 

 苦笑いしながらその場をやり過ごし、オトモメラルーのラルグと共に家へ戻った。

 

 

 「ニャ!良いサシミウオとマグロニャ!」

 

 

 貰った麻袋の中身を見て嬉しげに尻尾と耳を立てるメラルーの姿にキリトは思わず笑みを溢す。痩せ細り、タンジアの酒場に取り残されていた彼を連れて早2年。確かにドジが多く困らされることも多かったが今では頼れる相棒であり、幼くして両親を海に奪われた彼にとっては唯一の家族だった。

 

 

 「ん、師匠から手紙がきてる。」

 

 

 13歳でG級ハンター。それだけで十分な異端児だが、彼の師がギルドナイトだということがそれを更に際立たせている。というのも彼の師は彼の並外れた才能を見込んでギルドナイトにしようとしていたのが、キルト自身がモガのハンターになることを望んだので今のような結果になった。

 

 

 「何てニャ?」

 

 

 「ん、単純にG級おめでとうって。」

 

 

 ざっと手紙を読んでからそれをしまい、夕食を済ませて今日使った武具の手入れを終わらせてからベッドに入る。G級ハンターになっても暮らしが変わることはない。無用な殺しを避け、自然と共に生きる。もっと言えばこの村の役に立てるだけで十分だった。

 

 そんな変わらぬ暮らしも、ある日を境に一変する。

 

 

 「撃退相手は……ナルガクルガ希少種?」

 

 

 タンジアに呼び出されるまま行ってみると、ギルドマスター直々に依頼書を渡される。

 

 

 「そう、月迅竜と謳われる幻の個体だ。ギルドとしてはぜひとも捕獲したいところだがあちらが許さんのでね。」

 

 

 「あちら?」

 

 

 「その月迅竜は塔、と呼ばれる地に住み着いた。その塔周辺に住む民からの依頼は初めてではないが…簡単に言うとこちらの常識が通用しない連中だ。まぁ用心することだ。」

 

 

 「あの…僕、ナルガクルガ苦手なんですけど……」

 

 

 ギルドマスターは首をコックリかしげる。

 

 

 「そうだったかの?」

 

 

 「すごく時間がかかります。」

 

 

 キルトはまだ13歳。力では他のハンターに到底及ばず、大型モンスター相手にまともに闘ってはかすり傷程度しか与えられない。彼の使用武器はライトボウガンと太刀。相手によって変えるが、気配を消して気づかれない内にギリギリまで目標に近づき睡眠弾や拡散弾などの特殊な弾で攻め、時には閃光玉で目眩ましをしている間に猛攻したりあらかじめ設置した罠にうまく誘導して拘束、一気に畳み掛ける等、真っ向からの至近戦を極力避ける戦法をとっている。

 

 そしてこの戦法は相手を翻弄しつつジリジリと削る、もしくは不意の一撃必殺を狙うナルガクルガの戦法と似ているため相性が悪い。お互いがお互いの動きの読み合いになるため戦闘が長期化するのだ。

 

 

 「それは初耳だった。だが失敗したことはないだろう?」

 

 

 「そうですけど……」

 

 

 「正直、撃退依頼は中々受けてもらえなくてな。それに相手は中々の強者らしい。自分達でどうにかしてくれというのが本音だが、報酬は良いぞ。こちらでは中々手に入らないものがチラホラあるぞい。それとおヌシがいない間モガにはこちらから別のハンターを派遣しておく。安心して行ってこい。」

  

 

 何となく、G級であるのにあまり港に姿を見せないための無言の圧力も感じたキルトはため息をつく。

 

 

 「分かりました。やってみます。」

 

 

 こうしてキルトは2週間の長旅の末、原始的な深い森に囲われた平たい切り株のような広大な土地、「塔」に着く。一人でナルガクルガ希少種に挑むのは無謀にも思えるが、ギルドは1ヶ月ほど前に偶然遭遇したラージャン相手に無傷で勝利しそれがきっかけでG級に昇格した彼を信頼しているのである。

  

 飛行船から降りて依頼主がいるであろう里へラルグと共に向かうと、出迎えた竜人族は困惑した。

 

 

 「狩人なら先程訪れたが…お前はその仲間か?」

 

 

 「え…?僕とこいつだけのはずですが……何人くらい来たのですか?」

 

 

 「9人だ。」

 

 

 「すぐに案内してください…!」

 

 

 困惑したままの竜人族を急かし、ナルガクルガ希少種がいるという場所に向かうため岩山の中の空洞を進む。

 

 ハンターズギルドは普通、4人を上限とした少人数で狩りを行う。例外はあるがそれを超えるのは違反であり、9人は多すぎる。そもそもギルドマスターから直接依頼されたキルトに他のメンバーについて何も知らされていない上に、ギルド公式の飛行船に乗っていないので明らかな"密猟者"である。

 

 薄暗い洞窟を抜けると、闘いの音が聞こえてくる。自分にとって対ナルガクルガはボウガンよりも太刀が向いていると判断したキルトは背負っていたラージャンから作られた太刀、大鬼薙刀【羅刹】を構えてその方向に向かった。

 

 

 「おい!!」

 

 

 結論から言えば、手遅れだった。他はやられたのか、3人のハンターらしき人物にナルガクルガ希少種は追い詰められていた。キルトが叫ぶと3人は一斉に振り向く。

 

 

 「お前達、正規の依頼受けてないだろ!」

 

 

 声の主がキルトだと分かると男達はナルガクルガに向き直った。

 

 

 「邪魔すんなガキ!」

 

 

 そしてもはや虫の息となっているナルガクルガにとどめを刺そうとハンマーらしき武器を振りかざすが、その男の背中に衝撃が走る。キルトが投げナイフを投げたのだ。ナイフは防具を貫くことはできなかったが気を引くには十分だった。

 

 

 「てめぇ…!」

 

 

 「ラルグは下がってて。」

 

 

 ハンターが人間に武器を向けるのはもちろん重罪。が、この場合は別である。キルトは大鬼薙刀でランス使いのように男へ突っ込むと穂先で手元を攻撃してハンマーを弾き、更に薙刀を回転させると柄で頭を殴る。

 

 

 「この野郎!」

 

 

 キルトの背後から別の男がブラキディオスの素材で作られたと思われる大剣を降り下ろすがキルトは難無く避けてちょうど後ろに向いていた穂先を頭部と胴部の防具の隙間に突きつけた。

 

 

 「動くな!こいつの首が飛ぶぞ。」

 

 

 腕の立つ狩人に違いなかったが、それは竜相手の話。ただでさえ対モンスター用の装備で、しかもギルドナイトから対人戦闘の訓練を受けていたキルトには敵わない。

 

 

 「どこでこの依頼を───」

 

 

 キルトが言いかけた時、後は死を待つのみとなっていたはずのナルガクルガ希少種が最後の力でキルトが抑えていた男を除く二人を葬った。キルトは素早く男から離れて閃光玉を取り出すと地面に叩きつけた。

 

 竜と人が目を眩ましている間にキルトは男の頭防具を外して薙刀の柄で後頭部を殴り気絶させる。そして警戒しながらナルガクルガ希少種に近づいた。

 

 

 「これは…もう手遅れだね……」

 

 

 致命傷となりうる傷がいくつもある。やはり素材を不正入手するためなのか急所を的確に狙われていた。

 

 

 「さてどうしようか…」

 

 

 キルトはため息をついて周りを見渡す。取り合えず、不本意だが密猟者達を保護する必要がある。麓の里に協力を求めるしかあるまい。

 

 とにかくこの後は苦しむだけのナルガクルガ希少種を早く死なせてやろうと麻痺投げナイフを手に取ったとき、ナルガクルガ希少種から黒っぽい塊がキルトに向かって飛んできて、キルトはその勢いに倒されつつ反射的に受け止めた。

 

 

 「ぎゃううう!!」

 

 

 鳴き声を聞いてすぐにそれを放して離れる。

 

 

 「子供がいたニャんて…」

 

 

 どうやら今の今まで親に張り付いていたようで、その状態でこの9人を相手にしていたと考えると本来はかなりの戦闘力を持っていたのだと理解する。

 

 

 「自然に放すわけにもいかないし…ギルドに渡したらそれはそれで…」

 

 

 取り合えず先程の竜人族に事情を話し、ナルガクルガの最期を看とり、麓の里に協力してもらって密猟者達を拘束、そしてナルガクルガ希少種の幼体を保護した。

 

 

 「お主、こやつを育ててみないか。」

 

 

 帰り際、唐突に竜人族にそう言われ、キルトは怪訝そうな顔をする。 

 

 

 「僕が?」

 

 

 確かに放って置けない気もするが、ここに住んでいるんだし、あなた達の方が適任じゃないか。というニュアンスを読み取ったのか、竜人族は言葉を続ける。

 

 

 「あの月迅竜が子供を連れていたとは知らなかった。そしてあの不届き者達を入れてしまったのも我々の過ち。その我々にあの子を育てる資格はない。だがお前は母親を看とり、あの者達を捕らえた。あの子もお前になら従うだろう。」

 

 

 正直どういう理屈なのかキルトには分からなかった。あれを過ちというならそれを犯した彼らが育てるべきではとも思ったが、どう言っても説得は無理と思わせる目で見られてキルトは考え込む。彼はこういう頼みに弱かった。加えて、幻のナルガクルガを育てるということに興味がないわけではない。

 

 

 「まぁ…ギルドが許可してくれれば……」

 

 

 どうせ無理だろうけど、というニュアンスを込めていったキルトだったが竜人族は満足げに頷いた。

 

 そしてその竜人族と捕縛した密猟者と共に2週間かけてタンジアに戻る。

 

 

 「報酬一杯だったニャ!」

 

 

 「まぁ4人も密猟者を差し出せばこんくらいだろうね。」

 

 

 残りの5人はナルガクルガ希少種との戦闘で死亡した。

 

 

 「そういえば、ナルガクルガ希少種は雷属性に強いらしいニャ。」

 

 

 「…あぁ。もし僕とまともにやりあってたら、僕が負けてたかもね。」

 

 

 その日の内にキルトは呼び出され、何故か疲れきった顔をしているギルドマスターに例のナルガクルガの世話を許可された。隣の竜人族が大いに満足したような顔をしていたのを少し気にしながらすぐに塔へと向かったのだった。

 

 

 「こ、これは?」

 

 

 塔に着き、例の里に入ると大きめの、しかしとても軽い包みを渡される。

 

 

 「まぁ開けたまえ。君の分もあるぞ。」

 

 

 ラルグも同じような包みを渡され、彼らは顔を見合わせてから言われた通り結び目をほどいて中身を露にする。

 

 

 「これは……」

 

 

 入っていたのは防具一式。淡い銀白色を帯びた、月光と呼ばれる一式だった。

 

 

 「あの母親から作った。サイズはいくらか変えられるようになっている。武器もあるぞ。刃翼の損傷が激しくて少し短くなってしまったがな。」

 

 

 同じく不思議な輝きを持つ太刀を渡された。

 

 

 「名付けて七星刀【天権】。」

 

 

 持ってみて、その軽さに驚いた。まるで紙で作られたオモチャの剣のようだった。鞘を払い、その鋭さに再び驚いた。

 

 

 「決して鈍らず、あらゆるものを断ち切るだろう。さぁ、それらを着けてくるのだ。」

 

 

 言われるがまま装備を変えてみる。

 

 

 「軽いな。」

 

 

 まるで防具が体の一部になってしまったかのような感覚。不思議な力も湧いてきた。

 

 

 「なんだかすごく強くなった気がするニャァ。」

 

 

 そして竜人族に案内され、仔竜と再開した。

 

 

 「や、やぁ。」

 

 

 幼いナルガクルガはキルトをジッと見つめ、しばらく防具の匂いを嗅ぐと頬擦りした。やはり母親が恋しいのだろうか。

 

 

 「食べられずに済みそうニャね。」

 

 

 「そうだね…」

 

 

 適当に頭を撫でてやると、耳の後ろを撫でてほしいのか自分からそこを擦り付けてきた。その愛らしさに思わずわらってしまったのだった。

 

 

 数週間後、それまでどこかよそよそしかった仔ナルガは、キルトやラルグが餌の肉を磨り潰していたり書物を読んでいる間にじゃれて邪魔をしてくるほどなつくようになっていた。

 

 

 「あーー…また……」

 

 

 ギルドへの報告書を書いている途中、仔ナルガがインク瓶を倒して大惨事。とはいえ報告書の全てが台無しになった時の経験を踏まえて書き終えた部分は予め少し離れた場所に避難させてある。

 

 

 「こらぁ…駄目だって。」

 

 

 一応怒られていることは理解しているらしく、キャッキャと嬉しそうに鳴きながら一目散に逃げていった。

 

 

 「はぁぁ…萎えた。」

 

 

 溢れたインクを片付けるとおもむろに元気ドリンコを取り出して飲み干す。そこへ竜人族と一緒に住んでいる、アイルーの祖先とも言われている獣人族テトルーから色々なことを教わっていたラルグが帰ってきた。

 

 

 「どうした──あー、またやられたニャね。」

 

 

 「気分転換に狩りでも行ってこようかな…ちょうどあいつ用の生肉が切れてたよね。」

 

 

 別に言えばもらえるが、キルトはライトボウガン大神ヶ島【神在月】を背負って森へ出た。太刀使わなかったのは警戒心の強い草食獣との追いかけっこをしないためである。

 

 30分ほど歩くとケルビを見つけたので、頭に一発撃ち込み仕留めた。

 

 その帰り道、ケルビを引きずって里に戻ろうとしていると異様な気配を感じて立ち止まる。通常弾を30発しか持ってきていないのでボウガンを降ろし一緒に背負っていた月迅竜の太刀を構える。聞いたことのある電流が流れる特徴的な音、周囲の雷光虫が一方向に飛んでいったことから近づいてくる敵をすぐに判別することができた。が、木々の間から姿を表した、アプトノスをくわえた雷狼竜ジンオウガの体色が蒼白だったのは予想外だった。

 

 

 「うわ……」

 

 

 既に超帯電状態。蒼雷を纏い金色のたてがみをなびかせる雷狼竜に思わず後ずさる。側にいるだけでヒリヒリするくらいの雷エネルギーが実力を物語っている。ジンオウガはアプトノスを置いて更に一歩踏み出した。

 

 

 「これ、死んだんじゃね?」

 

 

 思わずそう口に出してしまう程の威圧感。

 

 

 「グフゥ……」

  

 

 「え?」

 

 

 確かに、明らかに、そのジンオウガは笑った。そしてアプトノスをくわえ直し、見せびらかすように"跳んで"いった。

 

 

 「すっごい脚力…」

 

 

 10mはゆうに越える高さの木々を、無駄に余裕を持って見えないところまで跳んでいったジンオウガ。しばらくその方向に釘付けになり、大きくため息をついてまた歩き出した。

 

 

 「成る程、お主、極の一族に会ったのか。」

 

 

 「極の一族?」

 

 

 「ここはある偉大な御方が住まう地。それを守っているのが極の一族。会ったなら分かると思うが人間の常識を逸脱する竜だ。」

 

 

 「…言葉が分かるとか?」

 

 

 「左様。」

 

 

 「まじかい…」

 

 

 「ニャー!ボクも見てみたかったのニャ。」

 

 

 「雷狼竜は口の形状が我々と大きく違う。故に分かっても話せん。犬と同じよ。」

 

 

 なるほど大層ご立派な犬である。

 

 

 「しかしまぁ、やはりお前は数奇な運命を持っておるな。ここに留めて正解だったわ。」

 

 

 竜人族は独り満足げに笑って立ち去った。

 

 

 「今更だけどね。」

 

 

 残されたラルグとキルトは仔ナルガに餌をやるべくオリヘ向かった。

 

 それからまた数日後、肉調達のためラルグと森へ出ているとまたあのジンオウガが現れた。

 

 

 「これが極なのニャ……」

 

 

 「ひ、久しぶり…」

 

 

 ジンオウガは短く吠えて、飛びかかってきた。

 

 

 「くっ…!」

 

 

 雷が掠め、防具越しにピリッとした痛みが走る。雷耐性はあるはずの防具でこれだ。直撃したらひとたまりもない。ジンオウガは追撃せずにこちらをジッと見つめる。キルトは太刀を構えた───

 

 

 「つ…つかれた……」

 

 

 「ニヤァァ…」

  

 

 「みぎゅう?」

 

 

 ジンオウガに散々遊ばれ、ろくに攻撃を当てることができず疲弊したキルトとラルグ。借りている家のベッドに倒れ込むとオリにいた仔ナルガがどうしたのかと言いたげに鳴いた。

 

 

 「あぁ…ごめん今ご飯あげるね…」

 

 

 「ゴハン!」

 

 

 あまりに唐突だったのでキルトは飛び上がった。聞けばオウムと同じく人間と舌の形状が似ているため、不可能ではないという。今まで人間になついたナルガクルガなんていないだろうから知られてなかったんだろうとこれまた嬉しげに説明された。

 

 

 キルトの常識が崩れ始めた頃、ついにそれを打ち砕く出来事が起きる。それは喋る純白ナルガの登場だった。喋っていたのはキルトの知らない言葉で、恐らくこの地の言語だろう。竜人族達に通訳してもらったところによれば、暇潰しにこの仔ナルガの面倒を見てくれるらしい。育てて欲しいというのが本音だが、そこまで暇ではないと一蹴された。

 

 

 「はぁ…」

 

 

 「ニャァ………」

 

 

 ベッドに仰向けに寝ながら仔ナルガの甘え責めに応える。

 

 

 「ニャんでボクらまで……」

 

 

 親も強くなければ、というこじつけによりこてんぱにやられたキルトとラルグ。仔ナルガをオリ入れるのも忘れ、そのまま眠ってしまった。翌朝、仔ナルガの咆哮で危うく心臓発作を起こすところだった。

 

 郷に入れば郷に従え。非現実的過ぎる日々は日常へと変わる。気づけば軽々抱きあげられた仔ナルガはキルトの身長とと同じくらいの体高となった。やんちゃぶりは相変わらずだが力加減も覚え、かなり落ち着いて迅竜らしい風格も出始めた。

 

 

 「もうそろそろ、かもしれんな。」

 

 

 「そうですね。」

 

 

 「早いニャあ。」

 

 

 空を滑空する仔ナルガをしみじみと見上げる一行。成長したのはあのナルガクルガだけではない。

 

 はじめは極ジンオウガ、極ナルガクルガ相手に何も出来なかったキルトも、勝てずとも幾らか渡り合えるようになってきていた。無論相手もまだまだ本気は出していないが、それでも他とは一線も百線も違う彼らとの鍛練のお陰でキルトの体力、瞬発力、咄嗟の判断力などあらゆる面で同じG級ハンターを凌駕。モガ村からの緊急召集により一時戻って襲来していたガノトトスの群れとそれを追ってきたラギアクルス亜種をあっという間に蹴散らし、その後装備にちなんで"朧月"という専用の称号まで与えらることになった。

 

 そしてナルガクルガの世話をし始めて2年と半年。まだ成体ではないがそろそろ親離れの時期ということで、モガの村専属ハンターとして復帰することになる。

 

 

 「グルルル……」

 

 

 「元気でね……」

 

 

 「またニャ…」

 

 

 額を合わせ、最後に頬をわしゃわしゃと撫でてやれば顔を押し付けてくる。どうやら別れと理解しているようだった。ラルグの顔もベロンと舐めて、ナルガクルガの方から踵を返し、今のねぐらとしている場所へ戻っていった。

 

 

 「行こうか。」

 

 

 「ニャ…」

 

 

 うる目だったラルグは、飛行船に乗ってそれが宙に浮いたときに響いてきた立派な咆哮を聞いてボロ泣きしたそうな。

 

 

 普通なら死んでもしない体験。モガに戻るとようやく夢から覚めたような、そんな気がした一人と一匹。

 

 そう遠くない内に、まさかもう一度夢を見ることになるとは思ってもいなかった。

 

 

          「決別の物語」へつづく。    




 
 
 次回はようやく物語が進みます。何ヵ月かかるか分かりませんが、気長にお待ちいただければ幸いです。

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