我、魔法科高校ニテ教鞭ヲ執ル   作:HBata

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大尉か無慙をイメージしてくれたら分かりやすいでしょう。


第十二話

 

『全校生徒の皆さん! 僕たちは、学内に蔓延する差別意識の撤廃のために集まった有志同盟です!』

 

 

 1-Aでの魔法理論の基礎の授業を終えて、教員として教壇に立っていた一途が教室から出ようとした又は、授業を終えて生徒たちの意識が緩んだ絶好のタイミングでスピーカーから声が響く。

 

 しかし事前の音量調節がうまくいっていなかった為かスピーカーから発せられた音は離れていても耳に響くほどの大音量で気が緩んでいた生徒たちは咄嗟に耳を手で覆ったり、間に合わずに顔を盛大に歪める者が学年問わずに多数のクラスで続出した。

 

 ドアに手を掛けていた一途はスピーカーに近く耳を抑えることもせずに大音量をモロに食らったのだが、スカサハの薫陶を受けている身として、たかが大音量程度などで身を強張らせ手を離すことなどできないのは痛みと経験によって呆れる程に味わっているためだ。

 

 目の前の脅威から目をそらして手を緩めてしまえば、その瞬間に朱槍が首元や心臓に突きつけられているので大きな音ごときで手を緩める事などとてもでは無いができる筈もない。しかしそんなスパルタ修行を経験していない魔法師の卵達に語ったとしても冗談半分にしかならない事は一途が一番分かっていた。人は、自分が知らず理解できないものは正しく認識できないのだから。

 

 

「何が差別よ!」

 

「うるさいぞ! こんな事に時間を使わせるな!」

 

 

 いや差別あるだろ、と心の中で思わずツッコミを入れてしまった一途だがこの放送は放送室の無断使用だろうとあたりをつけ、とりあえず放送室を無断使用している連中の話を聞いてみるべきだと判断し扉を開けて教室から出た。頭の中に第一高校の見取り図を思い浮かべ、学内に響く感情のこめられた声を聞きながら放送室に向けて歩いていく。

 

 慌ただしくなる校内の雰囲気を目敏く感じ取りながらも迷う事なく一途は目的地の放送室前にたどり着き、扉を開けようとドアノブに手を掛けたが施錠されているのか開かない。

 

 ノブに手を掛け何度か前後してみるが一向に開く様子がないために内側から施錠されているのは確実であり、そうなれば放送室を使用している者達は鍵を手にしているの筈と自然と思い至った一途は随分と手の込んだ行動だと感心しながら鍵を求めて引き返すことにした。

 

 

「求道先生? どうして此処に居るのですか?」

 

「あぁ……渡辺風紀委員長ですか。恐らくは放送室の不正使用ですが、此処まで行動を起こす者が居るのですから話を聞こうと思いまして」

 

「なるほど。他の風紀委員から連絡が来たのですが放送室のキーとマスターキーを無断で使用しているようです……教員側では何か連絡がありましたか?」

 

 

 風紀委員同士の迅速な行動力に一途は感心しつつも摩利の質問に答えるべく携帯端末を取り出し、何か連絡がないか確認してみるがそこにあったメッセージの内容は要約すると静観であった。

 

 近年は生徒の自主性の尊重と成長を考えて、生徒会を筆頭とした自治を推奨・実践しているが此処まで行動を起こした生徒に対しても教員が何もせず、黙って静観というのは如何なものかと一途は携帯端末の画面を半眼で見つめてしまった。教員側の見解を摩利へとぼかしながら伝えた一途は次第に生徒会役員や風紀委員が集まり始めていることに気付き、これ以上の干渉は無理と判断し顛末を見届けるべく遠目から見ることにした。

 

 

「求道先生。何故此方に」

 

「いらぬお節介という奴だ少年。渡辺風紀委員長の話だとマスターキーを無断使用して立てこもっているらしい」

 

「はぁ、それだけの行動力があっても犯罪行為をとれば心象が悪くなる事くらいわかる筈だと思うんですが……魔法科高校の生徒といえどまだまだ子供という事ですか」

 

「そう言うな少年。惑わされるのは大人も子供も同様だ」

 

 

 風紀委員の一員である達也が呼び出しに従って放送室前に着き一途の姿に気づき話しかけてきた為、一途は何故此処にいるのかという訳を話し、そして二人しか分からない言葉を交わす。

 

 二人の会話が聞こえている者もいたが最後の内容が理解できるのは一途と達也だけで、二人にとってはそれだけで十分であった。

 

 

「さて、七草真由美がどうするのか……見物ではあるか」

 

 

 放送室前に集まった生徒会役員や風紀委員、部活連メンバーの前で各組織のトップや補佐が現状を説明する中、一途は何も口出しせずに黙ってそれを見守っていた。委員会の者達のまばらな視線が一途に向けられたが一途は努めて無視をした。服部刑部から敵愾心の視線が向けられたが一途はそれさえも無視をする。重要なのは放送室を無断使用してまで行動を起こした者達の考えと思いなのだから。

 

 強行突入か、穏便な交渉か。風紀委員会側と生徒会側で意見が分かれしばらくの間膠着気味であったが達也の機転のきいた動きによって放送室を無断使用している連中を外におびき出すことに成功した。身の安全を保障するのは連絡が取れた二科生の壬生と言う女生徒だけ、と言う見事な方便によって誘い出された連中は風紀委員の迅速な働きによって確保される。呆気なさすぎる程の終わりに一途は肩透かしを食らったとこの場は彼らに任せ、後は傍観しようと背を向けた時にその悲鳴のよう嘆きによって背を向けた意識を再び戻すことになった。

 

 

「私たちを騙したの!?」

 

 

 壬生の叫び声の場合、達也の手腕を言っているのだろう。しかしペーペーの半人前ながら魔術という、魔法とは違う視点に立つことができる一途は壬生の目を見てその言葉を口にする真の相手は違うだろうと言いたくはあった。だが達也が彼女を騙したのも真実ではある。そもそも達也の現状は、彼の真の力を知れば、いや、達也の核心から溢れた片鱗でさえも騙していたのかと言いたくなる程魔法師として革命を起こせる程だ。

 

 一途から見て、壬生の瞳には自身が正しいという確信にも似た思いが秘められているのが分かる。思春期特有の自身が正しいという、自身への不安から自身の考えを信じる思い上がりの類ではない。揺れていない、ブレていない。だからこそおかしいと一途は感じれた。正しいと、自身を絶対に信じられる人間はそうそういないのだから。一途自身、かつては自分の狂気に惑っていた時があったのだから。

 

 言わなくていい。この場は彼らに任せればいい。それが最善である。

 

 遅れて登場したが、裏で教員と交渉していた生徒会長七草真由美の登場によって場は終息に向かいつつある。教員という立場に収まっている自分が口を出し、いたずらに場をかき乱す必要はない。

 

 

「馬鹿かお前。騙されているに決まっているだろう」

「え?」

 

 

 一途は口を出してしまった。スカサハから原初のルーンが施された眼鏡を外し、スカサハから隠せと言われていた人を見透かす鋭い視線を壬生に向けてしまっていた。呆けたような声が壬生の口から出て、一途の顔を、目を見て恐怖に顔が歪んだが一途にとってはどうでも良い事である。

 

 

「まさかとは思うまいが自分が正しいと本当に思っているのか? 何を見て、何を信じてそう思う」

「う、ぁ……」

「何を躊躇う。自分が正しいと、信じているからこそ行動に移したのだろうが。言ってみせろよ。なぁ? 俺が教員だからと言って躊躇う必要などどこにもないぞ。お前の考えを言ってみせろ」

「ひっ……!?」

 

 

 一途は壬生に尋ねた。しかし未だ返答はない。

 

 

「求道先生」

「邪魔をするな司波深雪。俺は今、彼女と話をしている」

「いえ、彼女の様子をよく見てください」

 

 

 一途は壬生と視線を合わせ続けたが待てど待てどもうんともすんとも言わない。一途としては壬生口から確かな思いと考えが口に出されるまで待つつもりであったが、今まで放送室の連中を捕縛する際にも影に徹していた深雪が一途の右手を取り口を挟んだことに苛立ちを感じながらも壬生の様子をよく観察し、なぜ深雪が制してきたのかと彼も気づくことができた。

 

 

「怯えています。それも……いえ、壬生先輩だけではありませんがどうかお控えください求道先生。貴方のお力は世人には毒です」

「……それは師匠にも言われたな。では、邪魔者は去るとしよう」

「それがよろしいかと。お疲れ様でした求道先生」

 

 

 一途はその場に背を向け去ることにした。どうにも加減が難しいと思いながら。

 

 

 

 

 

「ほう? 一部の学徒による反乱と」

「いや、師匠。反乱ってほど大げさなものじゃありませんから。抗議デモ程度で終わりと思いますよ。魔法科高校の生徒を一般的と区分していいのか分かりませんが……あの生徒たちを見る限りデモさえ満足にできるかどうか」

「そうか。ならば儂が特に言及することもないな」

 

 

 本革のソファーに並んで腰を下ろすスカサハと一途。スカサハは紅茶の入ったカップを煽りながら一途の会話に時折相槌を挟むも、その視線は一途の体の向こう側ただ一点に向けられていた。一途の右手が紅茶の入ったカップに伸びる間もじっとその右手を見つめて離さないスカサハ。

 

 

「どうしました師匠?」

「いや……お主が気にする事でもない」

「そうですか」

 

 

 カップに入った紅茶を啜る音が静かな部屋で鳴った。その時、スカサハの視線が一途の右手ではなく左胸に向けられる。ワイシャツとインナーを着た一途の左胸が微かに光を帯びた。そこに宿るものはスカサハが刻んだルーンの文字群。意味は親愛、支配、そして死。

 


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