ちょっと雑め。
滑らかなプリンが舌の上でとろける。
ジャックの体をくり抜いて作ったパンプキンプリン。
「メアリー、祭りの日は幼子のフルコースを頼むわ。今年はヴラドを招く予定なの」
目玉のムニエルに、柔らかいお肉のロースト。デザートにはあまぁい血のムース。
想像しただけで涎が溢れそうになる。
「かしこまりました、アグネス様」
スプーンを置いて、真っ白なナフキンで口を拭う。
側にいたメアリーに椅子を引かせ、立ち上がった。
コツ、コツ、と。真っ赤なヒールで音を立てて外に向かう。
扉の横に立て掛けていた箒を呼び寄せ、腰掛けた。
「材料の調達はお前に任せるわ。散歩は1人でするから付いてこなくて結構よ」
ふわりと宙に浮くと、そのまま館を飛び出た。
お祭りまでまだ数日ある。
それまで少しつまみ食いをしよう。
「あら? まだ起きているイケナイ子供がいるようね」
ぺろりと口紅を舐めとった。
灯のついた部屋を、窓から覗き込む。
部屋の主人は机に向かって読書をしているようだった。
夜で彩った指先を少年に向ける。
読書をしていた少年は、ふらりと立ち上がると私を部屋に招き入れた。
「あら、どうもありがとう」
少年の頬に口付けると、部屋の全てのドアを閉めて、鍵をかけた。
それから、防音もしておこう。
そうして少年にかけた催眠を解く。
「え、誰ですか? どうして」
「しー。静かにして? お姉さんと楽しいことをしましょう」
大きく開いた口から覗く柔らかそうな舌に、喉を上下させる。
「いえ、あの、誰、でしょうか」
「そうね。まずは自己紹介をしないと」
普段はメアリーの名前を借りているけど、気まぐれに本名を名乗ってみたくなった。
「私はアグネスよ。あなたは?」
「僕はハインリヒ、と申します。その、どうして僕の部屋に?」
「あなたが招き入れてくれたのよ?」
そう言うと、金髪の少年は戸惑ったように私を見つめた。
「すみません。僕は先程まで読書をしていたと、思うのですが」
その言葉に笑顔を深めて返事をする。
「……、もしかしてあなたは」
少年、ハインリヒの口を塞ぐように、言葉を紡いだ。
「何を読んでいたの?」
机の上に置かれた本に手を伸ばす。
「聖書です。……貴女は触らないほうがいい」
伸ばした手を掴んで引き止められた。
「あら、心配をしてくれているの?」
「え、えぇ。 その美しい手が焼け爛れるのは見たくありません」
少し困ったような、悩むような表情をした白い肌の少年に、なんとも言えない感情が湧いた。
「私は平気よ。それより、いいの? 私が何か、わかっていながら捕まえなくて」
「僕は、僕は貴女ほど美しい女性を見たことがありません。……貴女は、僕を食べに来たのですか?」
そうだ。私はこの子を食べに来たのだ。
「そうよ。でも、食べる気が失せたわ」
「それでは、もう帰ってしまうのですか?」
「……もう少しいてもいいわよ。貴女が私の退屈を凌いでくれるなら、ね」
「僕が貴女の退屈を凌げるなら、貴女は明日も、明後日も、ここに来てくれますか?」
「そうね。気が向いたらくるわ」
私はどこかむず痒い感情に首を傾げながら、知らぬ間にそんな返事をしていた。
その日から、私は毎日少年の元に通った。
ただ、少年の目に宿る熱を一身に浴びながら、少年の語る大して面白味もない話を楽しげに聞いていた。
そうして、祭りの前日がやってきた。
「メアリー。捕まえてきてほしい人間がいるの」
浴室で私の体をを擦りあげるメアリーに声をかける。
「最近通われている家の次男でしょうか」
「えぇ、そうよ」
「捕まえて何をなさるのですか?」
「何って、決まっているでしょう?」
おかしな問いかけに思わずメアリーに向き合った。
「あぁ、いえ。申し訳ありません」
随分と驚いた表情を見て、眉間に皺を寄せる。
「私の勘違いでございます。大したことではございません」
「そう? ならいいのだけど」
すぐに頭を下げた有能な召使いを見て、息を吐きながら磨かれ抜いた美しい肌に視線を戻した。
あぁ、私はなんて美しいのかしら。
祭りの当日。古くからの友人であるヴラドを館に招待した。
振る舞った料理はメアリーの捕らえた幼子のフルコース。と、それから——、私が料理した少年。
幼子の柔らかな肉に舌鼓を打ち、少年の身体の甘さに頬を緩めた。
しかし、一体なんなのだろう。
どこか、胸が苦しくてたまらない。
きっと、美味しくて食べ過ぎてしまったのだろうな。